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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


□■□■ 君死にたもう数え歌<後編> ■□■□



「数え歌の噂って言うんで、色々集めてみたんです。ネットで検索したら、すぐに出て来たんですよ? 本当です――」

 影沼ヒミコの言葉を思い出しながら、彼らは走っていた。雫の家にはもう連絡を入れたが、在宅しては居ないとのこと。ならば、いつものようにゴーストネットにいるのか。だがそこでも今日は来ていないとの返事を出された。

 どこだ、何処に居る。
 もしも彼女があの歌を歌ってしまったとすれば、また無差別に、周囲の人間が死ぬ。
 彼女もまた、呪いの犠牲者になってしまう。

 どこだ、何処に居る。
 探し回る。学校は休日だから締まっていた。
 どこだ、何処に――

 メールが入る。衛星通信で辿らせた雫の携帯電話の位置から、場所が特定されたらしい。近くの公園、なんでこんな時に限ってそんな微妙な場所にいるんだ、自殺志願かお前は。

「わ、私の所為で雫ちゃんが――そ、そんなの嫌ですッ助けて、助けて下さいっ!!」

■□■□■

「ったくもぉおぉ!!」

 タンデムシートにヒミコを乗せながらバイクを転がし、神崎こずえは毒づいていた。フルフェイスのヘルメットからはみ出す髪が鬱陶しい、そんな些細な苛立ちがいつもの何倍にも感じられる。赤信号に引っ掛かった日には世界を滅ぼしたい気分にすらなった。カモン、ノストラダムス。だが人生はそう都合良く行かないものだ、面倒臭い――アクセルを握り込む、ぎゅぅっとしがみ付いていたヒミコの身体が一瞬離れ、もう一度強く抱き締められた。

「で、でもこずえさん、何で私の時はすぐに見付かったんでしょう!? なんだか都合が良すぎますよ、こんなのって!」
「それはあたしが訊きたいわよ! 相手が単独犯か複数犯か知らないけれど、短期間で一気に書き込みしている可能性が高いか――それともこれから一気に噂を拡大するつもりなのか! でも、だとしたら死者は爆発的に増えるわ!」
「そ、そんなに殺して、どうするんです!?」
「それもあたしが訊きたい、ッ掴まっててね影沼さん!!」
「わ、わひやぁあぁぁッ!!」

 公園の車止めの間をギリギリですり抜ける。遊んでいた子供達が一斉に彼女達を見てその動作を止めたが、そんなものは気にしていられない。近所でも巨大なそこでは、雫の姿を見つけるのも一苦労である――なんといっても彼女は小柄だから、子供に迷彩効果を施されてしまうのだ。
 だが、こちらはバイクで乗り付けている。スリットのドレスなんて目立つ格好もしているのだから、向こうからは見付けやすいはずだ。こずえは思いっきりクラクションを鳴らす、タンデムのヒミコがひゃあぁっと身体を竦ませる。警察が駆けつけない内に、この場から遠ざからなければ――

「ちょ、ちょっと二人とも、何やってんのっ!?」
「し、雫ちゃん!」
「瀬名さん!!」
「こら、君たち何を――」
「うっさいわね、構ってらんないのよッ! 瀬名さん、あたしの首にしっかり掴まっててね!?」
「う、うっひゃぁあ!?」

 やってきた警察官の声にこずえは雫の首根っこを捕まえ、自分の膝の上に乗せた。小柄な雫ならここでも充分のスペースだ。アクセルを吹かす、車止めの間をすり抜ける。彼女達は、一気に公園から遠ざかった。

■□■□■

「ッもう! すっごくすっごく心配したんだからね、瀬名さんッ!!」

 ゴーストネットの前、駐車スペース。
 バイクを降りたこずえは、雫に向かって思わず声を張り上げていた。

 当の雫も身体を竦ませてこずえを見上げている。反論の余地はない、そもそも依頼を受ける際、こずえは『けっして首を突っ込まないこと』と約束させていたのだ。人死にが出ている以上、こういった事件に慣れてはいてもなんの能力も無い雫が深入りするのは避けたいことだった――が、彼女はヒミコまでも巻き込んでしまっている。
 とにかく早いところ片付けなければ――だが、現在のところ手掛かりは皆無も同然である。こずえを溜息を吐き、雫とヒミコを交互に見た。

「取り敢えず今後の方針を考えたいんだけど――何か、手掛かりってある、かなぁ?」
「あ。えっと、集めた歌の資料、使えますか?」
「……一応、見とく」

 ヒミコの鞄から出て来たコピー用紙の束を受け取り、こずえは口元を小さく押さえる。風が吹いてドレスのスリットを広げるのが気になり、バイクに腰掛けた。
 資料はすべて、どこかのオカルトサイトの掲示板のコピーのようである。系列としてはゴーストネットと同じようなものか――書き込んだ人間の名前は、全てが違う。同じなのは雫が最初に見付けたあの『一』、そしてヒミコが見つけた『九』……『イズミ』だけらしい。
 他の名前にも注目してみるが、これといった特徴は見られない。『ヤシロ』『ハチ』『ハタ』『ワカ』……共通項と言えば、全員の名前がカタカナであることぐらいだろうか。だが、別段web上では珍しいことでもない。やはり、特記事項は見られない。
 だが、しかし――――

「……なんか、どっかで」
「こずえさん?」
「ああ、うん、なんでもないんだけどね」

 何かが、引っ掛かる。
 何か。
 何だか、判らないが。

「取り敢えず、この相手にレスほ付けてみようと思うわ。興味のある素振りを見せれば、もしかしたら餌だと思って喰らいついてくれるかもだしね」

 言って彼女は二人と連れ立ち、ネット喫茶に足を踏み入れる。
 何が、引っ掛かったのか。
 何が――記憶のどこかを刺激したのか。

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Re:この歌判りませんか? by このみ

何かの数え歌ですか?手まり歌とかかなあ。
土地に染み付いたわらべ歌とかって面白そうですよね。興味あります。
メアド残したので、良ければどこで聞いたものか教えてくれませんか?
探すのお手伝いしますので。

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 一応保護という名目で雫とヒミコを部屋に引っ張り込んで三日目、そしてレスを付けて三日目の朝。念のためにメールチェックをしたこずえは、前の二日同様にメールボックスが空であることを予期してブラウザを立ち上げたが、その予想に反してそこには一通のメッセージがあった。だが待ち焦がれていたものではなく、見慣れたアカウントは退魔師のネットワーク端末からのものと知れる。
 湧き上がってくる欠伸を飲み込み、メールを確認する。画面サイズを最大にすれば、貼り付けられた資料の文字列がディスプレイを埋め尽くす。

「井澄村の昔話――と」

 村で聞いた昔話。六人部が治した流行り病。
 六人部と言うのは、昔に村社会に置いて異人とされた者達の総称である。現代で言う所の『外人さん』というのに近いが、勿論海外からの来訪者ではない。村、という一つの社会が確立されていた頃には、違う村からの来訪者というだけで――異人と言う条件は、満たされていたのだ。
 そして各地の伝承で、彼らは大概何かしらの異能を保持している。医術であったり、または妖術であったり。つまりは、一所に留まることの出来ない外法師である可能性が高いのだ。
 ちなみに外法師というのは、けっして無法無頼の徒ではない。単に自己流の呪術を扱う者か、生まれつきの特殊能力を自在に扱える程度に慣れた人間の事を言う。

 こずえは、ぼんやりとしていた頭をゆっくりと覚醒させていく。

「――瀬名さん、影沼さん、起きて」
「ん、にぃ?」
「は、はへぇ?」

 一つのベッドで折り重なるように眠っていた二人が、同時に寝惚け眼を開ける。苦笑しながら、こずえは二人のはだけたパジャマを眺めた。

「ちょっと、謎が解けた気分かも、なのよね」

■□■□■

「この村の昔話でね、あるのよ。大人だけが死んでいく病を、六人部――異人が治して、神社を建てて疫神を鎮めたっていうの。疫神を倒した、って言った方が良いのかな? だからここの神社の奉る神は八幡神で、名前は、八幡宮――井澄若宮八幡宮」

 長い階段を上りながら、少し息を切らしつつこずえは言葉を繋ぐ。雫とヒミコはまだ切っ掛けが判らず、ただその話を聞いていた。足元はまだしっかりしているようだが、雫は石段の高さと自身の身体のリーチが合わないのか、度々転びかけている。非常に危険そうで、こずえはその手を取った。あうー、と脚を進める二人を気遣いながら、彼女はゆっくりと脚を進めて行く。

「大人だけが掛かる、それが、『呪い』だとしたらって仮定してみたのよね。結構すんなりと繋がると思わない? 子供が歌うわらべ歌、聞くのは大人、子供は死なない、大人が死ぬ。本人は死なず、その周囲に害が及ぶ。今回の事件と、まあ――強引だけど、結び付かないわけじゃない」
「で、でも……それはこじつけだと、思いますよ? 第一、歌が呪いを持っていたとしても、今まではずっと鎮まっていたわけじゃないですか。それに、今回の出所は掲示板ですし」
「うん、そーなんだけどね。事実歌自体もこの村では失われていた――ネットワークで、文字化けしているほうの記事を書いた人を訊ねてもらったんだけどね。昔母親が子守唄代わりに歌っていたもので、いつも断片的に欠けてたんだって。それで、残りの歌詞を書いた。だけどあの通りそれは文字化けになった―― 一箇所に言葉を集めてはおけない、だけど、個別なら、解放されている」

 石段が終わる、古ぼけた無人の神社が目の前に現れる。
 こずえは石畳を外れ、森に入った。
 踏み均された小径が続く中を三人で歩く。雫は疲れからふらふらとしていたが、ヒミコはどこか不安げな表情を浮かべていた。封印されていても、その霊感が伝えるのだろう――この場所に、何かが、満ちて居る事を。

「数え歌を作ったのが誰なのかはしれない。多分、悪意のある外法師だったんじゃないのかな――『死』のカウントダウンみたいな感じにさ。『死』を集めて、その力で、何かをしようとしていたのかもしれない。今は目的なんてもう分からないけれど」
「ただ、判っているのは、その呪いが現在一人歩きして――人の命を奪ったということ、ですね」
「そ。その通り」

 やがて巨大な樹に辿り着く。
 大人が三人掛かってやっと幹を囲めるかという、巨木。それは御神木になっているのだろう、注連縄が張られていた。だがその御幣は全て黒く染まり、穢れきっている――何よりも、注連縄自体が切れ掛かっている。

「『ヤシロ』『ハチ』『ハタ』『ワカ』、そして『イズミ』。数え歌をばらしたのと同じように、それもまた、ばらされたピースなのよね。社、八、幡、若、井澄。……この神社を、示している」
「――ばらされた言葉で、せめて歌が一箇所に集まることを防いでいた」
「そういうこと、だろうね」

 スカートのスリットに手を入れ、こずえは愛用の銃を取り出した。
 弾丸は、裏に梵字の書かれているものを選ぶ。他にも様々な呪弾がストックしてあるが、今回はこれでいけるだろう。ざわりと森の木々が風もないのに蠢く、雫がごくりと唾を飲む音が響いた。ヒミコが庇うように彼女に寄り添う。そして――

 突然、その枝は伸びてきた。

 硬質の気配などまるで見せず、触手のように蠢くそれをこずえはかわす。飛び退いた雫はヒミコに手を引かれて場から遠ざかった。丁度良い、これなら、動き回れる。何本も伸びてきた枝をごろごろと転がって避けながら、彼女は、目を眇めた。
 どの一点を狙えばそれが滅ぶかを見極めなければならない、弾丸の無駄遣いはなるべくしたくないのだし。片手で側転をしながら茂みに入り、また走り込む。何処か。注連縄の近辺を注意深く観察すれば、枝の動きが活性化する直前の一瞬にギラリと光る点が見えた。

――――あそこ。

「ッと、ぉ!?」

 脚を捕らえられる、宙吊りにされる。トリガーに指を引っ掛けていなければ銃を取り落としてしまっていたかもしれない、だが、今なら。
 ニヤリ、こずえは笑う。
 銃声が――山に、木魂した。

■□■□■

「はい、これが最後の謎解きねっ」

 御神木の更に向こう、裏側。
 ヒミコと雫にそれを見せ、こずえは擦過傷の付いてしまった手首や足首を撫でながら説明をする。

「山も実は結構削られててね。裏に市役所と図書館があったってわけ。で、伸びた御神木の枝が電話線を伝って、ネットワークに侵入した……ってこと。やれやれ、悪霊ってのも進化するもんよねー、IT時代ここに極まれりって感じだわ」
「つまり、書き込みをしてたのは、歌自身だった――って、ことですか?」
「さすがに、それは――」
「うん、中々の反則だと思う。ネットワークのデータベースに新しい一ページを刻めた気分よ、あたし」

 ぷるぷる、雫の肩が震える。
 そして、絶叫した。

「木に負けるなんて思いっきり悔しいじゃない〜〜〜〜〜ッ!!」

 ネットワークジャンキーのプライドを傷付けられたらしい雫は、以後妙にスキルを磨くようになったとか。



■□■□■ 参加PC一覧 ■□■□■

3206 / 神崎こずえ / 十六歳 / 女性 /  退魔師

■□■□■ ライター戯言 ■□■□■

 後編までお付き合い頂きありがとうございました、ライターの哉色です。今回は謎解きと複線回収と言うことで、こんな感じになりました。何やら女の子三人で画面は華やかなはずなのに、文章だと色気がまったく感じられなくて寂しい限りです……(苦笑) 納品が少々遅れてしまい申し訳ございませんでした; その分少しでもお楽しみ頂けて居れば幸いと思います。それでは失礼致しました。