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炎を纏いし紅蓮の魔女
オープニング
「私はヒトゴロシなんだ」
赤い髪が特徴的な少女はポツリと呟いた。
その言葉に驚き、目を少しだけ見開いて草間武彦はその少女を見た。
「人殺し…とは?」
「あんたは生まれ変わりってモンを信じるかい?」
少女が脈絡のない話をしてきて、草間武彦は怪訝そうな表情を見せた。
「あたしは…300年前に火あぶりにされた魔女の生まれ変わりなんだよ…」
少女の言葉に今度は大きく目を見開いた。
たまに前世の記憶を持ったまま生まれてしまう人間が存在する事は知っていた。
「あたしは前世で何百という人を焼き殺したんだ」
「だけど、今のキミには関係がない事じゃないのか?」
「あたしの中には…もう一人の…血を好む残酷なあたしがいる。
そいつに乗っ取られてしまう…おねがいだよ。あたしが人殺しをする前にあたしを殺してくれ」
少女は草間武彦に頭を下げながら小さく呟いた。
その言葉に草間武彦は困ったような表情をして、頭を掻いた。
魔女としての記憶を持ったまま生まれてきた少女、桐生 渚は
自分が魔女として覚醒してしまう前に自分を殺してくれと依頼してきた。
そして―…この少女の依頼にアナタはどう答えますか?
視点⇒ベル・アッシュ
草間興信所に来ていた赤い髪をした貧相なガキ、それが桐生 渚を見た第一印象だった。
話を聞けばその女は300年前に処刑された魔女の生まれ変わりだという。しかもその事を理由に死を望んでいると草間武彦は説明してきた。
「まぁ…死にたいって奴は勝手に死ねばイイんだけど。どうせ魂を捨てるなら契約してくれない?」
ベルがそう言うと渚は驚く様子もなく「…別にいいですよ」と短く言葉を返してきた。
大体、この渚という女の前世が本当に魔女だったのかも怪しいものだ。
魔女裁判というもの自体が貧困と疑心暗鬼に巻く時代に娯楽も碌にない人間がやってた気に食わない隣人を血祭りに上げるショーイベントだったけど、本当にベル達のような者と契約した人間も過去にはいた。
だから渚の言葉を全て否定する事はできなかった。
だが――…。
「まぁ焼かれて死んだってんなら魔女も今更でしゃばる事もないわよねぇ?」
ベルは渚を見ながら小さく溜め息混じりに言葉を漏らした。
そして…渚の前に立ちながら面白そうに笑う。
「あたし、最近暇で仕方ないのよね。だから…これから暇つぶしをするわ」
「…暇つぶし…?」
渚は眉を顰めてベルを見上げる。
「そう、暇つぶし。今から私が呼び出す煉獄の炎―ゲヘナの炎は【罪深き者】を囚え焼き殺す。この意味解る?」
ベルが渚と視線を合わせるようにソファに腰掛けながら問いかける。そのベルの問いに渚は首を横に振る。
「…アンタが自分は悪くないって思うか、罪は前世の者だけのものだって思うか、生きたいって思うか、くたばりたいって思うかは自由。火はその意思に反応してアンタを、もしくは前世である魔女をこんがりと焼く。人生で二度も焼かれる方は堪らないだろうけどねぇ」
ベルはさも愉快だと言わんばかりに高笑いをする。その笑いに渚は少なからずの恐怖を覚えた。
自分自身の魔女の姿はほとんど覚えていないけれど、多分こんな感じなのかもしれない。ベルにはどこか恐怖を感じるものがあるのは確かだと渚は考えていた。
「…構わないわ。元々ここには死ぬつもりで来たんだし…焼かれようが凍らされようが怖くはないわ!」
渚は震える手を押さえ、恐怖心を払うように声を荒げた。
「そ、覚悟だけはいいわね。じゃあ…行くわよ。煉獄の炎!!」
ベルがそう叫ぶと同時に炎が姿を現して渚の身体を包んでいた。
「うあああああぁっっ!!!」
渚は炎が自分の身体を包むのを感じて、大きく叫んだ。それと同時に違和感にも気がついた。
(熱いっ!何故私が二回も焼かれなければならないのだ!愚劣な人間め!私の野望をまたもや邪魔立てするというのか!この娘の意識さえなければ、私は表舞台に立てるというのに!)
自分の中の魔女が騒いでいるのが分かる。
「…い、やだ…」
渚が小さく呟いた言葉をベルは聞き逃す事はなかった。
「なぁに?」
「いや…しにたく、ないっ!私は…桐生 渚のままでいたいのよぉっ!!」
渚がそう叫ぶと同時に炎はバシュンという音をたてて消え去った。
「……消えた…?」
渚は自分の身体を見てみるが、火傷も何も見当たらなかった。
「おめでとう、あんたの生きたいっていう意志が魔女を消滅させたんだわ」
腕を組み、クックッと笑いながらベルは渚に話しかける。
「…私が…魔女を?じゃあ…」
「えぇ、あんたの中にもう魔女と呼ばれたモノは存在しない。煉獄の炎で焼かれて死んだのだから」
まぁ、逆もありえたわけだけど?と言うと渚は肩を震わせた。
「私は…死ななくてもいいの?生きていてもいいの…?」
「しつこいわねぇ、だから人間って嫌いなのよ」
人間、その言葉に渚は目を見開いて「貴女は一体…誰なの?」と小さく問いかけてきた。
ベルはその問いに「さぁ…?」と答える。
「…あ、でも私の魂は貴女にあげる約束だったわね…」
渚は喜んでいた顔を一瞬にして曇らせて下を俯きながら呟いた。
「あぁ、それならいらないわ。言ったでしょ?暇つぶしだって。人間の剥き出しの意志ってのを見たかっただけだから」
いいものが見れたわ、そう言ってベルは草間興信所を後にした。
草間興信所を出る前に聞こえたのは「ありがとう」と何度も涙交じりの声で呟く渚の声だった。
きっと、あの渚という女が死んで、また生まれ変わっても魔女の罪に苦しむ事はないのだろう。
大体生まれ変わる事自体が前世の罪を償って生まれてくるモンでしょう?
人間って本当に愚かよねぇ。そんなものにも気がつかないなんて。
今の自分で犯した罪じゃないんだからムシしておけばいいのに。
「…だけど…」
それが分からないから人間って奴はいつまでも馬鹿で愚かなんでしょうけど。
草間興信所を見上げながらベルはクッと小さく笑みを漏らした。
この混沌たる世の中。
魂なんてあり溢れている。
あんなことで魂を頂いたら、同族たちから馬鹿にされるでしょう?
ただ、それだけのことよ。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
2119/ベル・アッシュ/女性/999歳/タダの行商人(自称)
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■ ライター通信 ■
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ベル・アッシュ様>
お久しぶりです^^
今回「炎を纏いし紅蓮の魔女」を執筆させていただきました瀬皇緋澄です。
「炎を纏いし紅蓮の魔女」はいかがだったでしょうか?
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
個人的にベル・アッシュというキャラはとても好みなのです^^
いつも書いていて楽しいんですよね^^
また、お会いできる機会がありましたらよろしくおねがいします^^
―瀬皇緋澄
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