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<東京怪談ノベル(シングル)>


『天使の音色』


 雪、は冷たいだけではないのですよ?
 一握りの雪はとても冷たい物だけど、でもそれでかまくらを作れば、それはとても温かな雪の家へと変わる。
 そんな事をこの小さな妖精は知っているのでしょうか?
 セレスティ・カーニンガムはリンスター財閥科学研究所特製の小さなサイズの炬燵の中で丸くなっているスノードロップの花の妖精を見ながら小首を傾げた。
「今年はどうやら雪はまだまだ降らないみたいでしねー」
「そうですね。暖冬らしいです。スキー場とかは困ってるようですね」
「むむ。大変でしね」
「ええ」
「でもわたしは理解できないでし。夏は暑いから海や山に行って、涼しくなろうとするのに、どうして冬は寒いのにわざわざまた寒い場所に行くんでしかね?」
 ほら、やっぱり。
 セレスティはくすっと笑った。
「そうですね。確かにおかしいかもしれませんね。でもウインタースポーツというのは楽しいものなのですよ?」
「そうなんでしか?」
「ええ」
 頷くセレスティの美貌に浮かぶ表情はどこか悪戯めいた表情だ。とても楽しそうな。
 そして彼は右手の人差し指立てて、唇を囁かせる。
「例えば雪は綺麗です。とても」
 そう囁くセレスティの声に導かれるように部屋の中の水蒸気を含む空気は冷却されて、凝固し、雪の結晶のまま降ってくる、妖精の前に。
「でしぃー」
 妖精は両の手の平を落ちてくる雪の結晶の下に差し出した。
 小さな小さな六角形は妖精の小さな手の平の上に落ちると、数秒でとても冷たい水へと変化してしまった。
「でし。冷たいでし」
 両手を振る妖精にセレスティはくすくすと笑いながらハンカチを取り出し、それで妖精の手をふいてやった。
「でも綺麗でしょう、雪の結晶は?」
「はいでし。でも冷たいでし」
 こくりと頷く妖精にセレスティはまた愉快そうに笑った。
「わたしと雪は関係深いんでしが、でもやっぱりわたしは冷たいのは苦手でし」
「おや、関係深い?」
 セレスティは口元に手をやりながらふむと頷く。
「なるほど。あなたもスノードロップの花と雪の優しい伝説を知っていらっしゃるのですね」
「はいでし。教えてもらったんでし♪」
 スノードロップの花の妖精は嬉しそうに頷いた。いつもお手伝いをしている樹木のお医者さんに教えてもらったそうだ。
 雪は綺麗だけど、冷たい。だから苦手。
「だったら温かかったらどうですか? 雪が」
「雪が、温かかったらでしか?」
「はい」
 穏やかに微笑むセレスティにからかっているような素振りは無い。
 だからスノードロップの花の妖精は小首を傾げた。
「温かいんでしか、雪が?」
「はい」
 くすくすと笑いながらセレスティは暖炉の火を消すと、指をぱちんと鳴らした。
 すると部屋の高い場所にある天井から雪がしんしんと降り出したのだ。途切れる事無く。
「うわぁ、雪でしぃ」
 妖精は体を丸めながら急いで炬燵に入ろうとするが、セレスティが炬燵を摘み上げてしまう。
「うう、セレスティさん」
 震える妖精にセレスティはおどけたように肩を竦めると、積もった雪を手で掴んでころころとそれを丸めた。二つ。
 そしてそれを積み上げて、
「ほら、スノーマンの出来上がりです♪」
 と、妖精ににこりと微笑んだ。
「うわぁ、雪だるまでし♪」
 体を寒そうに丸めていた癖にセレスティが作った雪だるまを見た途端に妖精はその場で飛び跳ねた。
 セレスティはくすくすと笑いながら何個も雪だるまを作り上げていく。
「ほら、キミも雪だるまを作ってください。どっちが多く作れるか競争です」
 ウインクするセレスティに妖精は両拳を握った。
「わかったでし♪ 負けないでしよ」
 そして雪だるま作りの競争だ。
 セレスティは手の平で団子を丸めるように雪を丸めて、それを積み上げて雪だるまを作るし、
 妖精は子どもがやるように小さな雪の玉から大きな雪の玉に育て上げて、それを二つ作ると積み上げて、雪だるまを作る。
 だけど妖精が雪だるまを一個作る間にセレスティは何個も作っている。
 妖精は自分が作っている雪の玉とセレスティが作る雪の玉とを見比べて頬を膨らませた。
「なんか不公平でし」
「不公平?」
「はいでし。だって体の大きさが違うでし」
 いじけた妖精にセレスティはぺろりと舌を出した。
「バレましたか」
「でし」
 くすくすと笑うセレスティは今度は雪うさぎを作った。
「わぁー、かわいいでし。雪のうさぎさんでし」
「ええ。作り方はね、こうやって作るんですよ」
 セレスティは妖精にそっと雪うさぎの作り方を教えてやる。
 妖精はきゃっきゃっと喜びながら何体も雪うさぎを作り上げて、雪が積もったセレスティの部屋はあっという間に雪うさぎだらけとなった。
「でし♪ でし♪ でし♪」
 セレスティは温かなココアを飲みながら妖精に小首を傾げる。
「すっかりともう雪とはお友達のようですね」
「およ。わたしは雪とはお友達でしよ♪ 寒いのが苦手なだけで、し……うぅ、寒いでし」
 おもむろに妖精は両手で己が身を抱きしめてがたがたと震え出した。
「寒いでし」
 顔をくしゃっとさせる妖精にセレスティはほんの一瞬、目を見開くと、その後に体をくの字に曲げてくすくすと笑った。
「それは悪い事をしましたね。てっきりもう寒さに慣れたのかと」
 くすくすと笑うセレスティは温かな湯気を上らせるココアを飲み干すと、まだ湯気をあげるマグカップを雪に覆われたテーブルの上に置いて、服の袖を捲し上げた。
「さてと、ではかまくらを作りましょうか?」
「かまくら? 良い国作ろう、鎌倉幕府でしか?」
「いいえ、違います。そのかまくらじゃなくって、って、キミは時折、妙に変な知識を持っていますね」
 関心したような笑みを浮かべながらセレスティは頷くと、指をぱちんと鳴らした。すると部屋に降り積もっていた雪がぐぐぅっと寄り集まって高くなって人型を成す。それはセレスティそっくりの雪人形となって、そしてその雪人形は部屋の中にかまくらを作っていくのだ。
 セレスティと妖精もぺたぺたと雪を固めるのに一役買った。
 そして、
「完成です」
「はいでし♪」
 かまくらは完成した。
 セレスティと妖精はそのかまくらの中でまったりと時間を過ごす。
 かまくらの中に火鉢を置いて、その火鉢でおもちを焼くのだ。
 ぷぅーっと膨らんだおもちに妖精が喜んだ。
「熱いですから気をつけてくださいね」
 海苔を巻いて、お醤油をつけて妖精に渡す。
 はぐはぐと熱そうに食べる彼女に微笑んで、セレスティもおもちを口に入れた。
「炬燵でアイスクリームやみかんも美味しいでしけど、かまくらでおもちも美味しいでしねー」
「ええ、そうですね。でも、食べながら喋るとおもちを喉に詰まらせますよ」
 と忠告してる傍から喉を詰まらせた妖精にまたセレスティはくすくすと笑った。
「ほら、だから気をつけてくださいと言ったのに」
 セレスティは笑いながら彼女の背中を摩ってやった。
「ふぅぃー、苦しかったでし」
 胸を摩る妖精にセレスティはお茶を渡した。
「それにしても不思議でしね。どうして雪の家が寒くないでしかね?」
「空気の流れが遮断されているからですよ」
「なるほどでし」
 腕組みしながらこくこくと頷く妖精。小さな手はおもちを次々に口の中に放り込んでいきます。
 まるで底なしのようにおもちやみかんを口の中に放り込んでいく妖精にセレスティはくすくすと笑った。
「あんまり食べ過ぎると、飛べなくなっちゃいますよ?」
 意地悪く言ってやると、妖精は「でし」と顔をくしゃっとさせる。
 セレスティはくすくすとおかしそうに笑った。
「では、食後の運動と行きますか?」
「でしでし」
 こくこくと頷いていた妖精は小首を傾げる。
「それでどんな運動をするんでしか?」
「雪合戦です」
「雪合戦でしか!」
「ええ。お互いに陣地を決めて、旗を雪玉で倒した方の勝ちですよ」
「はいでし」
 と、手をあげて嬉しそうな声を出した妖精だが、しかしすぐにむむ、と眉根を寄せた。
「セレスティさんの一球でわたしはアウトでし。雪玉の大きさが違うでしよ」
「おや、ばれましたか」
 悪戯っぽく舌を出したセレスティに妖精はぷぅーと頬を膨らませた。
 そしてセレスティはわずかに首を傾げながらにこりと微笑む。
「では、踊ってもらえますか?」
 そう言われた妖精はにぱぁーと微笑んで、頷く。
「はいでし!」
 そして窓の方を指差した。
「セレスティさん、あそこに氷柱を出してくださいでし♪」
「氷柱ですか?」
「はいでし♪」
 そしてセレスティが言われた通りに氷柱を作ると、その氷柱を妖精は木琴のように棒で叩いて、叩きながら空中でひらひらと踊る。
 それはとても綺麗で、そして軽やかな澄んだ楽しい音楽だった。
 そしてその音楽に相応しいかわいらしい踊り。
 セレスティはにこにことそれを眺めていたのだが、その彼がふと眉根を寄せた。
 妖精の後ろに何かがいる。それは?
「雪の妖精? いえ、あれは天使。しかしどうして天使が?」
 妖精の音楽と踊りが天使を呼び寄せた?
「そういえば今日はクリスマスイブですからね」
 セレスティがそう納得すると、天使は氷柱を妖精がするように棒で叩くが、しかし奏でられた音色は、妖精が奏でる音色とは違っていた。
 天使は小首を傾げる。
 そういえば前にセレスティは聞いた事があった。天使は声を失っていて、だから天使は想った事をベルや楽器などの音で伝えるのだそうだ。
 聖夜に響く天使のベルの音色はだから幸せに満ちているのだと。
 でもどうやらあの天使は、
「自分の楽器を無くしているようですね。だから彼女が奏でる音色につられてやってきた。でしたら」
 セレスティはにこりと微笑む。
「私がキミに楽器を作って差し上げましょう」
 言った瞬間、天使の前に氷のベルが現れる。
 天使がセレスティを見た。小首を傾げる。
 その天使にセレスティは頷いた。
「それはキミのベルですよ」
 そう言うと、天使はにこりと微笑み、そしてその氷のベルを手に取る。
 そうして天使は奏でた。ベルを。
 その音色は声となって、セレスティの心に伝わる。



 昔、神様がこの世にあるすべてのモノに言いました。
「皆に色をあげるよ」
 と。
 皆は喜び、神様に思い思いの色を付けてもらうべく神様の所へと行きました。
 そして最後に雪の番。しかしもう神様のパレットには色は無く、ですから雪は色の無いまま。
 そんな雪にスノードロップの花は白、という色を分けてあげたのです。


 そしてあなたはあたしにベルをくれた。
 ありがとう、セレスティさん。
 聖夜の夜に、どうかあなたに喜びが来ますように。



 天使はくるくると踊りながらベルを鳴らして、そして天へと帰っていきました。



「およ、どうしたんでしか、セレスティさん?」
 小首を傾げる妖精。
 どうやら彼女には天使は見えなかったよう。
 セレスティは穏やかに微笑みながら顔を横に振る。
「いいえ、何でもありませんよ。さあ、もう少し私に踊りを見せてくれませんか?」
「はいでし♪」
 そしてセレスティはかまくらの中から虚空を踊る妖精を楽しそうに眺めていた。
 天使の祝福はセレスティに。



 ― fin ―



 ++ライターより++


 こんにちは、セレスティ・カーニンガムさま。
 いつもありがとうございます。
 このたび担当させていただいたライターの草摩一護です。


 今回はご依頼本当にありがとうございました。
 あのプレイングからどうしてこのタイトルに? と、驚きになられましたでしょうか?^^
 季節ネタをいただいたプレイングに絡め合わせて書かせていただきました。
 天使は声を失っている、というのは実はこのシチュを書くちょっと前に知った事なのです。
 ですからそのお話をさっそく使ってみました。^^


 でも雪遊びは本当に楽しそうです。^^
 小学校の時は雪が降ると、授業は雪遊びの時間に変わって、本当に嬉しかったです。
 今年は暖冬のようですから、どうなんでしょうかね? 雪は降るのかな。


 それでは今回はこの辺で失礼させていただきますね。
 本当にご依頼ありがとうございました。
 失礼します。