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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


★White Christmas★


◇オープニング

 その日、草間興信所を訪れていたのは大人しめの女子高生だった。
 小さくて可愛らしいその女の子は名前を“棗”と言った。
 柊 棗(ひいらぎ なつめ)・・。都内の女子高に通う高校三年生だった。

 「だから・・お願いします!草間さん!!ここでクリスマスパーティーを開いてください!!」
 棗が今にも泣き出しそうな表情で草間に深々と頭を下げる。
 草間武彦は、頭をかくと棗の顔をマジマジと見つめた。
 涙目になり、顔を真っ赤にして頭を下げられると・・どうも悪い事をしているような気になってくる。
 「悪いけど、もう一度最初から話してくれないか?」
 草間が視線だけで椅子に座るように促す。
 棗はそれにコクリと頷くと、素直に腰を下ろした。
 「私・・・好きな人がいるんです。私と同じ三年生で・・。電車で一目ぼれして・・でも、もう来年は会えなくなっちゃうから・・。」
 卒業してしまえば、同じ電車ではなくなってしまう。
 相手の進路先はおろか、名前すらも知らないのだと言う。
 「だから、告白したいんです。クリスマスに・・。」
 棗の話は良く分かる。一目ぼれの相手に告白をしたい。しかも、特別な日に・・。
 だからクリスマスパーティーを開く・・まぁ、それも分からないでもない。
 けれど・・
 「なんでウチなんだ・・?」
 そう、ごく自然な疑問だ。
 何故そのお願いの相手がうち・・“草間興信所”でなければならないのか・・?
 ここは興信所だ・・そして草間は探偵だ・・。
 「だって・・私・・名前も知らないんだもの・・。」
 棗の視線が戸惑うように揺れる。
 つまりは、その人の名前を調べ、パーティーに誘う。そこまでするためには・・ココしかないという事だ。
 「・・・零、ツリーはあったか?」
 「ありました・・と思いますけど・・。」
 「そうか、じゃぁ飾り付けをしてくれ。俺は、こう言う事に協力してくれそうな人に電話でもかけるから・・。」
 草間はそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。
 「あ・・ありがとうございます!!」
 深々と頭を下げる棗の表情は、晴れやかだった。
 草間はその頭を軽く叩くと、少しだけ笑った。

 “友達と来たなら”引き受けはしなかっただろう・・しかし、棗は一人でこの興信所に足を運んでいたのだ。
 それほど“本気”と言う事。
 それではせいぜい楽しいパーティーでも企画するか・・。 
 草間はそう思うと、電話を取り上げた。
 「あぁ・・もしもし・・・。」

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 草間はシュラインエマと水上水晶を交互に見比べると、隣に座っている棗に紹介した。
 「初めまして・・。柊棗と申します。それで・・あの・・。今回の依頼なんですが・・。」
 「えぇ。武彦さんから聞いているわ。好きな人に、告白をしたいのよね?」
 「はい・・。」
 「そんで、クリスマスパーティーやるんでしょ?!クリスマスは、キラキラで、フワフワだって飼い主さんが言ってたの!」
 水晶が無邪気に両手を広げて笑う。
 「えっと・・。飼い主さん・・?」
 棗が困惑の表情を見せる。
 「あぁっと、お父さんの事よ、そう、お父さんの事・・。」
 シュラインが慌ててフォローする。
 確かに・・外見年齢15歳の少年がいきなり“飼い主さん”発言は非常に危ない。
 草間興信所に出入りする者ならいざ知らず、棗は普通の高校生だ。仔うさぎが人に化けているとは言えない。
 「うぅん?飼い主さんは“オトーサン”なの??」
 水晶がクリクリとした赤い瞳を不思議そうに丸くしてシュラインを見つめる。
 「そうよー、水晶君。飼い主さんはお父さんなのよ〜。」
 「ふぅ〜ん。オトーサンかぁ〜。」
 水晶は数度“オトーサン”と呟くと、キャッキャと笑った。
 「それで棗ちゃん。その男の子が何時の電車に乗るのかとか、どこの学校の子かとかは分かるの?」
 「はい・・。毎朝乗る電車は7:50の電車です。高校は・・。」
 棗は思い出すように視線を宙に彷徨わせた。
 「少し青めのブレザー・・。北斗枝高校か、湊波男子高校だと思います。」
 どちらも有名な進学校だ。
 「それで、その彼の特徴を言える範囲で良いから言ってみてくれるかな?」
 「はい。えっと・・。」
 棗が思い出している間に、シュラインはテーブルの上にあったメモを一枚ちぎるとポケットから万年筆を取り出した。
 「髪は少し短めの黒い髪で、身長は180pくらい・・キリっとした顔立ちで、目は二重で、色は白い方で・・体つきは細いです。」
 シュラインは棗が言った言葉を殴り書きした。とは言っても、十分綺麗な字ではあったが・・。
 「それじゃぁ明日、学校あるわよね?一緒に同じ電車に乗りましょう。それで、棗ちゃんは学校。私達は彼を尾行するわ。」
 「はいっ!よろしくお願いします!」
 棗は勢い良く立ち上がると、深々と頭を下げた。
 「明日は早起きだねっ!」
 水晶がウキウキした声でニッコリと笑った。


 ◆恋の手助け

 翌朝、シュラインと棗、そして水晶は朝7:50の電車に乗るべくホームに集合していた。
 一応不審に思われてはいけないため、棗からは数歩離れた位置で待機する。
 「オネーチャン、電車まだコネーノカヨォ。」
 「後もう少しで来るわよ。」
 水晶とシュラインが本格派の演技をかます。
 役柄は姉と弟だ。水晶の精神年齢を考えれば母と子供で十分通じるが・・なにぶん水晶の外見年齢は15歳だ。いくらなんでも無理がありすぎる。
 とは言え・・水晶が普段のしゃべりのまま話せば不審がられてしまう。なので一応前もって台本を読んでおいたのだが・・。
 水晶は凄く言い難そうだ・・。
 「アー、腹ヘッタァー。」
 「我慢しなさい。」
 ・・なんだか、頑張っている感じの不良のような話方になってしまっている。
 対してシュラインも、段々母親色が強くなっていく・・。
 その光景を、棗が苦笑いを浮かべながら見つめている。
 7:50
 電車は一分の狂いも無くホームに滑り込んできた。
 なるべく棗から離れないよう、それでいて近すぎないような位置を取る。
 シュラインの右手にはしっかりと水晶の手が握られている。
 ここで人並みにもまれてしまっては敵わない・・。
 『シュラインさん、あの人です。彼です!』
 乗って直ぐに、棗が小声で呼びかけた。その視線の先には、一人の男子高校生の姿がある。
 棗の言っていた通りの外見の男の子。結構カッコ良い。
 棗の頬がパっと朱に染まる。
 ・・なんだか初々しくて可愛らしい。
 『シュラインさん、棗さん熱でもあるの??』
 『大丈夫、病気は病気でも具合が悪いわけじゃないから。』
 シュラインは微笑むと、水晶の手をぎゅっと握った。

 棗が電車を降りてから3駅先・・湊波男子高校の最寄り駅で男の子は降りた。
 シュラインと水晶が後を追う。
 気がつかれない様に、それでいて離れすぎないように・・。微妙な間合いを取る。
 男の子はゆっくりとした歩調で湊波男子高校の方に向かって歩いていく。
 「お〜い!涼(りょう)っ!なぁ〜にタラタラ歩いてんだよっ!」
 視界の右端から突如現れた同じ制服の高校生が男の子の背中を叩く。
 ・・どうやら、名前は“涼”と言うらしい。
 「うっせーなぁ。別に遅刻じゃないんだから良いじゃん。」
 「なんかお前ペンギンみたいだったんだもん。」
 「それ、絶対良い表現じゃないだろう・・。」
 楽しそうに話す男の子の頬に、うっすら笑窪が見える。
 「ねぇねぇ、シュラインさん。棗さんはお兄さんになにをあげるんだろうね?」
 水晶が、シュラインの袖をクイクイと引きながらきく。
 そう言えば・・何をあげるのだろうか・・。
 クリスマスパーティーを開く以上、何かプレゼントを用意しているはずなのだが・・。
 「セーターかなぁ?」
 「違うでしょう。サイズが分からないわ・・。」
 「それじゃぁ、マフラーか手袋かなぁ?」
 それが妥当なセンかも知れない。
 マフラーか手袋か・・。
 「水晶君は、クリスマスに誰かに何かあげるの?」
 「僕はねぇ・・。う〜ん・・。」
 水晶は首をひねると、考え込んだ。
 その仕草があまりに可愛くて、シュラインは小さく微笑んだ。
 「そうだ!僕ねぇ、みんなにキラキラをあげるのっ!」
 「・・キラキラ?」
 「そうなのっ!みんなが幸せになれるキラキラなんだよっ。」
 水晶はそう言うと、瞳を輝かせた。
 みんなが幸せになれるキラキラ・・。
 なんて素敵なプレゼントなのだろうか。
 「シュラインさんはなにかあげるの?」
 「そうね・・私は・・。」
 シュラインが考え込んでいるうちに、湊波高校の正門前に着いた。
 涼と友達がそのなかに吸い込まれていく。
 今日の尾行はこれでお仕舞いだ。
 とりあえず分かった事を棗と草間に報告しなくては・・。
 「そうだなぁ。私も水晶君と同じ、キラキラかな?」
 「そっかぁ、一緒だね!」
 水晶はそう言うと、嬉しそうにシュラインの手を握った。



 「と・・そういう事なんだけど・・。」
 シュラインは目の前に座っている棗に今日分かった事を伝える。
 棗はやや興奮気味の面持ちで話を聞くと、ぱっと顔を輝かせた。
 「ありがとう御座います!」
 そして、恥ずかしそうに小さく“涼君”と呟いた。
 「それで、明日はクリスマスイブ・・。棗ちゃん、誘うなら明日しかないわよ?」
 「そうですね・・。でも、私・・涼君と面識なんてないし・・。」
 「なんなら、私達が当日連れてきましょうか?」
 「でも・・。」
 棗は困ったように視線を右へ左へうろうろと彷徨わせた後で、決意したように大きく頷いた。
 「私から、言います。」
 シュラインは棗の頭をそっと撫ぜた。
 水晶も、パチパチと手を叩いて笑っている。
 「あの、でもお願いがあるんですけど・・。」
 「なぁに?」
 「明日、涼君を公園か何処かに呼び出してもらえませんか?その・・道で声かける勇気が・・。」
 棗のその言葉に、水晶がソファーからピョコンと飛び降りた。
 テケテケと棗の側まで来ると、満面の笑みで言った。
 「それじゃぁ、僕が誘ってくるの!」
 「水晶君が・・?」
 「うん、きっと、お兄さんを幸せな気持ちに出来たら来てくれるよねっ?」
 幸せな気持ちに出来たら・・。
 「僕ね、お月様にお願いするの。棗さんとお兄さんが仲良く出来ますようにって。だからね、きっと棗さんとお兄さんは仲良くなるのっ。」
 水晶の言葉に、棗がポロリと涙をこぼした。
 「棗ちゃん・・。」
 シュラインが、棗の涙を受け止める。
 「棗さん!どうかしたの?どこか痛いの?」
 水晶が心配そうな顔で棗を覗き込み、その頭を撫ぜる。
 「なんでもないの・・。ありがとう、水晶君・・。」 
 棗はそう言うと、水晶の頭をポンポンと叩いた。
 「それじゃぁ棗ちゃん、手紙を書いたらどうかしら?パーティーに誘うのは自分の口から言った方が良いと思うけど、呼び出すのは手紙でのが良いんじゃない?」
 「そうですね、それで・・。」
 シュラインの提案に棗は頷くと、水晶の瞳を覗き込んだ。
 「水晶君、届けてくれるかな・・?」
 水晶がパアっと顔を輝かせてコクコクと頷く。
 「きっと来てくれるよね!だって、棗さんの気持ちがいっぱい詰まった手紙だもん!」
 

 次の日、水晶は棗が一字一字に願いを込めて書いた手紙を胸に、湊波高校の正門近くで待機していた。
 その姿を視界の端にとどめると、水晶はたっと地面を蹴って近づいた。
 「お兄さん、これ・・。」
 水晶が手紙を差し出す。
 涼が困ったように首を傾ける。
 このシチュエーション・・。告白とでも思っているのかもしれない。
 「お姉さんが、渡してくださいって。」
 水晶が思い出したように付け加えると、涼の顔が納得顔になる。すっと、水晶の手から手紙を受け取るとニッコリと微笑んだ。
 「お姉さんに、ありがとうって言っておいてくれるかな?」
 「うん?わかったぁ。」
 水晶が手を振り、涼がそれに手を振り返す。
 物陰から見ていたシュラインはほっと息を吐き出すと、走ってきた水晶の頭を撫ぜた。
 「頑張ったわね。」
 「うん、きっとお兄さん来てくれるよね?だって、棗さんの気持ちがいっぱい詰まってるもん!」
 ニコニコと笑う邪気のない顔に癒される。
 それにしても・・涼はきっと“お姉さん”を水晶のお姉さんだと勘違いしている・・。
 まぁ、それも明日になれば解決する。
 シュラインは心の中で棗の健闘を祈ると、水晶と共に草間興信所へと引き返していった・・。


 ◇恋の蕾

 クリスマス当日・・。
 シュラインと水晶は草間興信所の前の道でばったりと会った。
 シュラインのてには大きな荷物が沢山。水晶の手には、小さな鈴が握られていた。
 「さぁ、棗ちゃん達が来る前に料理を用意しないとね。」
 「手伝います。」
 シュラインの言葉に、零が立ち上がる。
 「武彦さんと水晶君はお部屋の飾り付けをお願い。」
 「ツリーはそこですから。」
 零が部屋の片隅を指差す。
 まだ何も飾り付けられていないツリーはなんだか淋しかった。
 「それじゃぁ、僕と草間さんでツリーを飾りつけるねっ。」
 「えぇ、お願い。こっちは美味しい料理を作るからね。」
 シュラインと水晶は顔を見合わせて小さく笑うと、各々の持ち場に着いた。
 シュラインは持ってきた材料を広げると、零と分担をして作業を始めた。
 シュラインがケーキを、零がチキンを担当する。
 まず、スポンジを作ってその上にタップリの生クリームをぬる。
 今回のケーキのイメージは雪。
 大きな丸いケーキの上に、小さなブッシュドノエルを数個飾り付け、その上に粉砂糖をいっぱい振りかける。
 砂糖菓子のサンタクロースとトナカイ、それから小さな家も飾りつける。
 その周りにはイチゴ・・。
 出来た・・。
 思いのほか可愛らしく出来たケーキに、シュラインはニッコリと微笑む。
 「シュラインさん、こっちも出来上がりました。」
 零が、チキンを持ってやってきた。
 美味しそうな匂いが漂う・・。
 「そろそろ棗さん達が来られるかと・・。」
 零がそう言った時、丁度草間興信所の扉が開いた。
 かおぞ覗かせているのは、棗と涼だ。
 来たのだ・・・。
 シュラインと水晶は思わず顔を見合わせると、ニッコリと微笑んだ。
 「それでは、パーティーと行きますか。」
 草間が、ツリーの先端に大きな黄色い星を飾りつけた。
 キラキラと輝くツリーは美しかった・・。


 テーブルの上に、さっき作ったばかりのケーキとチキンを置く。その横にはシャンパン。
 「・・・シャンパン?」
 「違うわよ、シャンメリーよ。ほら、武彦さんも飲む?」
 シュラインが武彦のグラスに淡い桃色のシャンメリーを注ぎ込む。
 「はい、水晶君にはイチゴミルク。」
 「わぁい、ありがとうー!」
 水晶がコクリとイチゴミルクを飲むと、嬉しそうにキャッキャとはしゃぐ。
 零とシュラインは何かと料理を運び、草間と水晶が黙々とそれを食べる。
 ・・そして・・。
 少しぎこちないながらも会話を楽しむ棗と涼の姿・・・。
 「シュラインさん、外見てください。」
 「あ・・雪・・。」
 窓の外にはチラチラと白いものが降ってきている。
 「ホワイトクリスマスね・・。」
 「あっ、雪だ〜!!」
 水晶も窓に走り寄ってきて、嬉しそうに外を眺めている。
 「どおりで寒いと思った・・。」
 草間はそう言うと、ブルリと一つだけ身震いをした。
 窓の外を見つめる草間興信所の中は、何故か温かかった・・。
 「涼さん・・。ちょっと良いですか・・?」
 棗がそっと囁くように涼に声をかけた。
 涼が立ち上がり、草間興信所の扉から外へと出て行く・・。
 その後姿を、誰も目で追わなかった・・・。


 ◆クリスマスプレゼント

 少しだけ赤い顔をした棗と涼が帰ってきたのはそれから少し後の事だった。
 何事も無かったかのように迎え入れる興信所の面々に、棗が小さくお礼を言う。
 そう・・きっと上手く行ったのだ。
 シュラインと水晶は小さくパチリと手を合わせると、ニッコリと微笑んだ。
 「さぁ、それじゃぁ頑張った棗ちゃんにプレゼント。」
 シュラインはそう言うと、背後から同じ包みを二つ取り出した。
 「え・・これ・・?」
 「涼君と同じ色のマフラーよ。良かったら貰って?」
 「あ・・ありがとうございます・・。」
 棗が二つ受け取ると、片方を涼の方に差し出した。涼もシュラインにペコリと頭を下げる。
 「あ・・でも、私何も用意して無くって・・。」
 「いいのよ。私があげたかっただけだし。それに・・もう貰ってるわ。」
 シュラインは微笑むと、チラリと興信所の中を見渡した。
 ソファーに座ってその様子を眺めている草間を、視界の端にとどめる。
 「あのねあのね、棗さんと涼さんに僕からもプレゼントがあるのっ!」
 水晶はそう言うと、パタパタと窓際に走って行った。
 もう外は暗くなっている。それでも、白い雪がしんしんと降り町に粉砂糖を振りかける。
 「僕からのプレゼントはコレなのっ!」
 「えっ・・?」
 「あ・・。」
 棗と涼が口々に小さな感嘆を漏らす。
 窓の外・・白い雪に混じって、キラキラと光り輝く金色の粉が降って来ている・・。
 「これ・・。」
 「お月様の光だよ。キラキラ光って綺麗なのっ!」
 しんしんと降り積もる雪・・それに便乗して、月の光もキラキラと降る。 
 なんて綺麗な光景・・。なんて幻想的で・・。
 「凄い綺麗・・。」
 棗の瞳がキラキラと光り輝く。その頬が、朱に染まる。
 「水晶君って・・。」
 「僕はね、ウサギなの。でもね、飼い主さんのおかげでこうやって遊んでいられるの!」
 棗の瞳が丸くなる。けれどそれも直ぐに笑顔へと変わる・・。
 「そっか。きっとそうなんだろうね。水晶君、ありがとう・・。」
 「どういたしましてなのっ。」
 窓の外は雪月。
 夜の闇を照らす・・雪月・・。


 棗と涼が帰った後で、シュラインと水晶は後片付けをしていた。
 零あセコセコと働き、草間がゆっくりとツリーの飾り付けを解いていく。
 「なんだか、あっという間だね・・。」
 「だから、凄く綺麗で素敵なんじゃない・・?」
 もう外は普通の雪が舞っている。
 しかし幻のような雪月は、心の中でずっと舞っている。
 「そうだっ、もうそろそろ帰らないと飼い主さんが心配しちゃう。」
 水晶が、時計を見つめながらそう小さく叫んだ。
 「それじゃあ、俺が送るか・・。」
 草間が、ツリーを片していた手を止めると立ち上がった。
 「シュラインさん、これ僕からのプレゼントなの!」
 水晶はそう言うと、小さな箱をシュラインに差し出した。
 「ありがとう・・。何かしら?」
 「開けてみてっ!」
 シュラインが、スルスルと箱を開ける。そこには七色に輝く小さな星があった。
 「綺麗・・。ありがとう・・。」
 「どういたしましてなのっ。」
 「そうだわ、私もこれ・・。」
 シュラインが水晶に袋を手渡す。
 水晶はラッピングのリボンを解くと、中の物をそっと出した。
 「わぁ・・。マフラーなのっ・・。端っこに小さい星もあるの!」
 水晶が瞳を輝かせながらマフラーを取り出す。
 色は瞳と同じ赤だ。
 「ありがとうなのっ!大事にするの!」
 「どういたしまして・・。」
 「ほら、行くぞ。」
 「はーいなの、それじゃぁシュラインさん、零さん、またなの!」
 「またね・・。」
 水晶が大きく手を振る。それに、シュラインと零も小さく手を振り返す・・。


 ◇プロローグ

 急に静かになってしまった興信所の中で、シュラインと草間はシャンパンを飲んでいた。
 外はまだ雪が降っている・・。
 「でも、良かったわ。棗ちゃん達が上手く行って。」
 「見た限りでは・・最初から両思いだったみたいだけどな。」
 「卒業か・・。高校生は大変ね・・。」
 「そうか?」
 「せっかく好きになった人がいても、進路が分かれてしまえば滅多に会えなくなるじゃない。」
 「そうか・・。」
 「私は、本業がコレで本当に良かったと思うわ。」
 シュラインは少しだけ言葉を切ると、柔らかく微笑んだ。
 「武彦さんが何処に行っても、ついて行けるものね・・。」
 「・・え・・?」
 シュラインはしばらくグラスの中の見つめた。
 アルコールがグラスの中で舞い、弾ける。
 「なぁんてね。」
 悪戯っぽい笑みを覗かせる。草間は大きなため息をつくと、頭をかいた。
 シュラインは心の中でそっと呟いた。
 『本気だけどね・・。』
 「そうだ、武彦さん。これ、今年のプレゼント。」
 「んぁ・・?あぁ、ありがとう。」
 綺麗にラッピングされた袋を、草間に渡す。
 中身は膝掛けだ。シュラインの手作りの・・。
 シュラインは膝掛けをしている草間を思い浮かべると、少しだけ微笑んだ。
 「お兄さん、電話が・・。」
 「あぁ、今行く。」
 零の声に、草間は立ち上がった。
 「それじゃぁ、これ、ありがとうな。」
 「どういたしまして。」
 シュラインは今度はまた違うプレゼントを手に持つと、零に手渡した。
 「メリークリスマス。はい、これよかったら使って?」
 「うわぁ・・。ありがとうございます・・!」
 「キルトベッドカバーなんだけど・・。」
 零がゴソゴソとプレゼントを開ける。
 これもシュラインの手作りだった。零はニッコリと笑うと頭を下げた。
 「大切に使わせていただきます!」
 「なぁ、このカメラ・・フィルムが後一枚だけ余ってるんだけど・・。」
 電話を終えた草間が使い捨てカメラを片手に戻ってきた。
 「それじゃぁ撮りましょうか。」
 「どうせだったら窓の側で撮りませんか??」
 「・・雪なんか写るのか?」
 「気分ですよ!気分!」
 「そうね・・。窓の所で撮りましょう。」
 シュラインと零が並ぶ。その隣に、草間も立つ・・。

 3・・2・・1・・カシャっ。


      〈END〉


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 ■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

  0086/シュライン エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
  
   1799/水上 水晶/男性/1歳/水上巧(TK1501)の飼いウサギ

  *受注順になっております。

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 ■         ライター通信          ■
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 この度はご参加ありがとう御座いました。
 ライターの宮瀬です。
 White Christmasと言う事で、雪を登場させました。
 全体的に柔らかい雰囲気にしようとしたのですが・・如何でしょうか??


 シュライン エマ様

 何時もありがとう御座います。
 今回は率先して行動していただきましたが・・如何でしょうか。
 最後には草間さんとの良い雰囲気も作り上げました!少し大人な風にしたかったのですが・・。
 お気に召されれば嬉しく思います。

 それでは、またどこかでお逢いしました時はよろしくお願いいたします。