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<東京怪談・PCゲームノベル>


Track 09 featuring ウラ・フレンツヒェン

 まぁまぁまぁなんて素敵な事でしょう。少女がそう思ったのは草間興信所でお茶を出された後の事。とは言ってもその時のお茶は御馳走なんて洒落た物では無く間に合わせも良いところでぎりぎり色が出るか出ないか程度の出涸らしのお茶。こんな物飲めると思う? と少女はその場で湯呑みの中身をどばーっと流してしまい興信所の身内の零が反応。勿体無い事なさらないで下さい! と少女――ウラ・フレンツヒェンをぴしりと叱り付けた――そのまた後の事。何よお前とウラも売り言葉に買い言葉、ヒステリー的に反応し掛けるが…そう言えばお前人間じゃないって話よね、と我に帰り、勿体無いなんて思う機能も備わってるのね。確か霊鬼兵と言ったかしら? でもまるで人間。どんな原理・術式を使ってそんな風に動いているのかしら。人間の造った人間なんて凄く素敵。…なぁんて脱線してきらきらと瞳を輝かせウラは零を見つめていたりして、零の方でも面食らい、応接間の床にお茶をぶちまけられた事に関する反応を忘れている――と、零の素性に関してもまたウラにとっては素敵な事ではあったのだが、ウラがもっと興味を抱いた素敵な事はまた更に後で来る。
 …草間興信所では零を霊鬼兵扱いはしておらず所長・武彦の義理の妹扱いになっている。普通なら武彦は零が霊鬼兵扱いされた時点で怒るのだが、今日のこの場合、ウラがその辺りを追求して来てもあまり怒る気にもなれない。と言うか彼女に対しては怒っても無駄なところがある。そもそも彼女の場合悪気も何も無く本当にただ好奇心の赴くままに口を開いたり行動している節がある。良きに付け悪しきに付け素直極まりない訳で、そこからしてもあまり怒る気になれない。零も零でウラの追求を特に気にも留めていない模様なのがまた武彦が怒らない理由のひとつになっているか。そしてゴスロリ系の衣装に身を包んだ見た目通りのおしゃまな姿。それは魔術師の見習い、と色々侮ってはまずい素性のリトル・レディとは言え、それでもやっぱりおこさまな訳である。
 更に言うなら今この場に居る興信所の身内以外の面子がまたこのリトル・レディと同年代のおこさま揃い。となるとひとり大人な武彦が先に癇癪起こしては示しが付かないとも言える。ピンクの髪が目立つ魔法使い見習いのティース・ベルハイムと、見るからに病弱そうな怪奇好き中学生の双葉時生。どちらも当初はウラの態度に面食らってはいたが、そろそろ慣れたのか殆ど放って置いて零の煎れたお茶を御相伴に預りつつ平然と世間話を続けている。初めはティース辺りがウラの態度を見、静かに注意をしていたのだが…当然ながら(…)ウラは聞いてはいなかった。
 そもそも何故草間興信所に十四歳のおこさまばかりが集まっているのか。…それは誰にもわからない。はっきり言って特に意味は無い。偶然の産物だろう。但し、偶然と言っても怪奇系に造詣ある面子と言う事には変わりは無い。怪奇探偵の名の返上を望む興信所所長としてはそれだけでも頭の痛い事である。が、そんな方々がこの興信所に集まる事は老若男女問わず多かったりする。…だからやっぱり偶然で済ませて良い事である。所長が幾ら嫌がろうと、彼らの倍以上の年齢だろうと別に構う事では無い。
 今は、成り行きで始まった話が重要。…そう、ちょっとした変な話が今この場では話題に上っていた。揃った面子のせいもあるが、いつもの如く何となく始まった怪奇話。その最中、双葉時生がそう言えばゴーストネットで見たんですが、と切り出した話がウラの耳に留まった。金属化の話。最近、あちらこちらで問答無用で金属化された場所が出来ている、と噂になっている。ああそれは僕も聞いた事があります。それって誰かが錬金術か何かの実験をした結果だったりするんでしょうかと真面目に考え込みながら話すティース・ベルハイム。一方のウラは、あらそんなのは簡単に出来る事じゃない? と、さくっと言い返し、ティースの目を瞬かせる原因になっていた。
 あたしならそんな事簡単に出来るわよと得意げにフフンと笑い、くるりとその場でターンして、まだ持っていた空の湯呑みをこれ見よがしに掲げて見せる。と、その湯呑みがウラの指先が触れているそこからみしりぱきりと妙な音を立てつつ金色になっていく。その様を見、ぽろりと武彦の唇から落ちる短くなった煙草。…皆が見ている前でウラの持つその湯呑みが黄金製になっていた。どおかしら? と、にっこり笑顔でウラはその金にしてしまった湯呑みをテーブルに置く。改めてそれを見、まさかウラさんがこの噂の元じゃないですよねと訊く双葉。あら心外ねあたしは最近この力を使ったのは今だけよ、とすまして見せるリトル・レディ。ひっそりと鷹の目のよう鋭い視線でその湯呑みを見る興信所所長。明らかに狙っている。…それで良いのか貧乏探偵。
 金属化のその噂、いったい誰がやっているのかしら、面白そうね。素敵。やっている人に会ってみたいわ。とウラは笑い出す。クヒクヒと喉が引き攣るような音。何の音かとその場に居た面子は驚くが、その音の源がウラの喉――つまり笑い声だと知り、安堵したら良いのか気味悪がったら良いのか複雑な思いにかられていたりした。…このウラ・フレンツヒェン、何やらエキセントリックなリトル・レディである。
 ともあれ、そんな訳で草間興信所で話題に上った、最近、あちらこちら所構わず金属化している場所がある…と言う怪奇現象らしき噂に関して、ウラは非常に興味を持った訳である。
 …とっても素敵な事、として。



 とは言えその噂、別に切羽詰まった事件と言う訳では無く単に『変』な事、ちょっとした都市伝説レベルの事件である。危ない事はたぶん無い。いや、あってもこのリトル・レディは気にしないか。
 特に公で『事件』と扱われない理由は金属化したその物が初めから元々金属製で、何者かが密かに作成し許可を取らずにゲリラ的にあちらこちらに置いている現代アートもしくはオブジェか何かなんだろうと問答無用で思われてしまっている訳で。その金属化した物が元々は非金属だった証拠は取り敢えず何処からも出されていないらしい。そうは言ってもそんな素っ頓狂な事をする奴など…居ないと言い切れないのも昨今の困った話ではあるが、非金属だった状況を見た者は一応存在しているらしいのでやはり何者かが非金属を金属化させていると見ていいらしい。…とは言えやっぱりこのリトル・レディの興味はそちらには無いか。困るか困らないか、事件か事件で無いかは興味対象外。ただ、自分は手で触れるだけで物質を金属に変える事が出来る。ならばこの噂の元になっているだろう輩はいったいどんな方法で非金属を金属に変えているのか。ウラの興味はそちらだけ。結局、金属化したと言うその場所を、第一の情報提供者である双葉時生経由で位置確認をし、その足で直に出向く事にした。
 …公の事件でも何でも無い以上、封鎖されている訳でも何でも無い。見る気なら好き程見て回れる。
 ただ、確かに変だった。
 まずウラ・フレンツヒェンが顔を出したそこは植え込みの一部が金属化していた。とは言え公共の場では無く個人所有の家の庭での事。ついでに家主に声など掛けて訊いてみたら、苦情では無く結構格好いいわよね、と許容の言葉が来た。あら、と少々意外に思うがウラとしても意見は家主と同じだったので素直に意気投合しちょっと話し込む。確かに、葉が落ちたその銀の枝葉は綺麗な形に造型されていた。…現代アートと思われるのも然り。が、家主曰く元々そこにあったのは間違い無く生の木だったとは言っていた。
 次。向かったのはとある雑居ビル。その空きフロア。起き忘れられた事務机やダンボール箱、雑誌の類が放置されたそのままと言った風情でまるごと金属化されていた。金。ウラは雑誌を拾ってじーっと確かめる。有り触れた週刊誌。少なくともそう見える細かさで色々と描かれてはいた。初めっから彫金や熔接でそれを作るのは難しかろう。雑誌が唐突に金属になった、そう考えた方が自然な感じだ。…と、なると自分の力と似たような力なのかしらとウラは少し考え込む。もしそうなら会ってみたいわ。ああ早く。
 …金属と化した場所や物体、その後を辿るだけでは『犯人』は見付からないかもしれない。だったらどうしたらいいかしら。思い再びウラは草間興信所にとんぼ返りし、そこの面子を巻き込んで改めて調査開始。彼女の行動こそ問答無用。再び双葉時生からもっと詳しい情報を引き出し――新たに調べ引き出させ、興信所所長に付近の地図を出させ、ティースと共に事が起きた場所へとマークを書き入れる。今まで起きたと思しき日時、場所、そしてここが重要、次に来る場所の予測。情報さえ揃えばそこはインスピレーションが一番大事、さあ何処にくるかしら、何処に来るの、お前たちも一緒に考えなさい! とティースや時生のみならず武彦や零にまでウラは口角泡を飛ばしながら叱咤。暫くしてさすがにそろそろウラを諌める事を本気で諦めたのか――と言うか先程の黄金の湯呑みの礼(…)とでも思ったか、武彦がぼそりと口を開いた。金属化が起きた場所の共通点、時間帯、重ね合わせて思い付いた場所を告げる。あ、言えてますね、と同意するティース。一方のウラはさすが怪奇探偵頼れるわ。と、てけてけ歩み寄りお礼なのか武彦のその頬に軽くキス。見ていた零、一時停止。けれどそれも気にせずウラは舞うように武彦から離れると、そのまま興信所のドアを押す。間違ってたらぶっ殺すわよとにこやかに捨て台詞を残し、軽やかな足取りで再びそこから出ていった。
 …嵐が去った興信所からは誰からとも無く溜息が漏れている。



 ウラが来た場所は本日定休日らしいとある店舗。半分下ろされているシャッターを勝手に潜り中を見渡した。輸入雑貨らしい品揃えが見て取れる。勿論家宅不法侵入。けれどウラは気にしない。中に入る。武彦によれば『犯人』が次に来るだろう場所はこの近隣の店の何処か。中でも今日定休日になっている店舗があれば怪しいんじゃないかと言う話。だからこそ待ち伏せてやるわと思い来た。異国情緒漂う調度品、お土産品らしい物。アクセサリの類。ウラの趣味とはまた違うが目にも鮮やかな物が多い。と、ウラがそうやって見渡しているその後ろ、ククク、と変に裏返った『男』の笑い声が聞こえた。あら誰かしらとウラが堂々と振り返ると、この店の店員とは到底思えない、やさぐれた不健康そうな印象のスーツ姿の男が立っていた。…背に翼らしき物が、頭に牛の角らしきものが見えたのは気のせいだったか。そう思った次の瞬間には翼や角は完全に見えなくなっていた。
 その『男』は、お嬢ちゃんが俺の後付け回してる奴か、とウラに向け楽しそうに問う。あらお前がやってたの? と恐れげもなくウラは返答。どうやって? 非金属を金属にしているんでしょう? どうやってやっているのかあたしに見せて。どうせ今もそれをやりに来たんでしょう? ああ、それともお前はあたしに何か用があってここに来たのかしら? どちらにしろ同じ事だわ。お前がやったのなら早く見せなさい! 材料ならばここにはたくさんあるわ! と、きらきらと好奇心に目を輝かせながら『男』を見る。そんな姿を見て、ぶ、と『男』は噴き出した。何やらこちらも心底楽しそうである。わかったわかった、と笑い過ぎて涙目になりながらその『男』は手近なところの時計を手に取った。ぱきりぱきりと音を立てつつ、見る見る内に金色になっていく。ウラと同じ、触れるだけ。『男』はその時計を元あったところに置き直すと、その置いた位置から何かが広がるように、やはり時計同様金色の輝きを発し始めた。これで満足でしょうかお姫様? 芝居がかった言い方でそう告げ、ついでに礼まで取ってみせる。あらお前やっぱりあたしと同じ事が出来るのね生意気だわ。そう言いながらウラも対抗するように手近な椅子の背を掴む。その触れた位置からぱきりぱきりと音を立て同様の黄金色に染まっていく――ウラの手が染めている。
 ウラのその行為を見、『男』は、おお、やるねえと言いつつやはり笑っている。お前さっきから何がおかしいのよとすましながら高圧的にウラ。けれど褒められているのは満更でも無さそう。とは言え、誰でも彼でも敵に回しかねないその態度は色々とまずいだろうと普通なら思うだろうがウラは別にそう思わない。…そもそもお前誰? あたしはウラ。ウラ・フレンツヒェンよと当人としては御機嫌のまま『男』に名乗る。と、『男』は別に怒りもせずあっさり頷いた。…我が名はザガン。人の世でそなたのような同郷の魂に会えるとは思わなんだ、人に喚ばれ人に憑いたか、面白い面白い、精々達者で暮らせ、と、こちらもやけに上機嫌なまま、唐突に、ふい、と姿を消した。消える寸前見せたのは茶色の両翼を持った雄牛の如き姿。その姿と『ザガン』の名からウラはふと、とある『悪魔』を思い出す。二十世紀最大の魔人がとある古い記録を取り纏め編纂した書物に記されている封じられた七十二の英霊のひとり、有翼王。…水をワインに。金属を貨幣に。愚者を賢者に。錬金術の優れた使い手。今のが『それそのもの』かどうかは不明だが、連想させる姿と力ではある。
 …そなたのような同郷の魂。いったい何の話か。何だか面白い『悪魔』ね、今の、とウラはクヒッと喉を震わせる。それはあたしが何者なのかと言う事? 決まっているわあたしはあたし、ウラ・フレンツヒェン。そう、世界はあたしを中心に回っているのよ。
 誰にも文句は言わせないわ。誰にも、ね。

【了】

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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 ■整理番号/PC名
 性別/年齢/職業

■PC
 ■3427/ウラ・フレンツヒェン
 女/14歳/魔術師見習にして助手

■NPC
 □草間・武彦/草間興信所所長、探偵
 □草間・零/草間興信所探偵助手で探偵の義妹、素性は霊鬼兵
 □ティース・ベルハイム/草間興信所の客人その一
 ■双葉・時生/草間興信所の客人その二

 ■ザガン/ソロモン72柱のひとり。錬金術に優れ、ただの金属をお金に変えたり出来る。取り敢えず手当たり次第金属化の犯人。何故出て何の目的で行動していたかは謎(え)

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          ライター通信
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 このたびは初の発注有難う御座いました。
 漸くのお渡しです。
 今回、どーも激しく改行が少ない上、「」で括る会話のまったく無いノベルになってしまいました(汗)
 ノリとしては問答無用のジェットコースター風です(どんなノリだか)

 隠し能力絡みで、と言う事でしたが、何故か真っ先に思い浮かんでしまったのが今回意図不明のアーティスト(…?)と化しているこのザガン(仮名)でして…まぁ私が今まで生きて来た中で見た某小説の影響である事は確かなんですが(汗)。とにかく、PC様と何やら張り合う相手(?)として出ております。ザガンの「同郷〜」発言もそちらに絡む形として出させて頂きました(こちらの記載事項は絡まなくても良かった事なのかもしれませんが)
 また、草間興信所の方でもPC様は派手に人々を振り回しまくっておりますが…もし、しそうに無い行動を取っていたら申し訳ありません(汗)。何故か密かに零とも対決してます…。

 如何だったでしょうか?
 結果はこんな風になりましたが、少なくとも対価分は楽しんで頂ければ幸いで御座います。
 では、また機会がありましたらその時は…。

 ※…もしこの「Extra Track」以外の当方の依頼系(調査依頼・ゲームノベル等)に御参加下さる事があったなら、この「Extra Track」内での人間関係や設定は引き摺らないでやって下さい。
 これは結構切実な事なので(汗)どうぞ宜しくお願い致します。
 それと、タイトル内にある数字は、こちらで「Extra Track」に発注頂いた順番で振っているだけの通し番号のようなものですので特にお気になさらず。09とあるからと言って続きものではありません。それぞれ単品は単品です。

 深海残月 拝