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因幡恵美がスーパー三下に殺されてから
因幡恵美が、
スーパー三下に、
殺されてから。
世界の何が変わったのだろう、今日も雀は朝に鳴き、鴉が夕焼けを知らせてる。青い空に青い雨、狐の嫁入りだ、ああ、そんな、それさえ日常。
因幡恵美は殺されたのだけど、
それが随分と悲しい人も、たくさん居たのだけど。
畳の上で血溜まりになっていた。そこは、仏壇のある部屋。彼女と生きた彼女達に手を合わせる場所だった。
そういえばその人達も、S三下に殺されたんだっけ。
、
座敷童の居る家は栄え、
座敷童の消えた家は、没落する。
伝承通りと言えるのだろうか、この仕打ちが。けど確かにもうあやかし荘は存在しない、あるのは、無駄にでかい建物、何処か寂れてしまった建物、住居人もたくさん減って、もしここに地震が起きたら、いいえ、嵐如きで、こんな不思議な館も、
殺されそうな――
スーパー三下が、
因幡恵美を、
殺してから。
この異界の日々は、それと、三下は、何を思っているのか。
青い空に青い雨、狐の嫁入り。
◇◆◇
日向・龍也/男/27歳/
苗字、日向。名は、龍也。性別はX型とY型をそれぞれ有する事により、男性としての発育。二十七年の月日を重ねれば。納税の義務、納税の義務、納税の義務その他。日本国においては様々な法律が発生する。その他の代表、罪。二十七の彼は檻の中へ行くのが自然。ただし彼の場合、そんな風になる事の方が不自然と思われる。
その生き方によって。その力、によって、
法的な罰を受けるには、遠く存在する。
だから、彼が横に、男の足が転がっていても、
頭の中で響く光景に、右目を震わせて。
◇◆◇
「あああんたが、かッ、待ち兼ねたぞ!」
そう言って男はズカズカと歩いて、サングラスをかけた龍也の背後にどかりと腰を下ろす。と言っても、アスファルトの地面に尻を付けた訳じゃなく、バイクのシート、即ち日向龍也はこの男の前に、バイクを乗り付けてきたという事だ。それも、迎えに。
男と龍也はそういう間柄なのか。否、男の台詞から解るとおり二人はお互い初見である。それに日向龍也は今、人を避けるように暮らしている。ならば何故この男は、「早く出してくれ、夜が明けぬ内に出なければ」こう、急かしているのだろうか。
それが彼の、仕事だからだ。
「港までだ、頼んだぞ運び屋」
運び屋。
単車の心臓に音が巡る、空気が振動に合わせて爆発するような音。その狂乱の中で、「全くなんて最良の日だッ! 聞いてくれるか運び屋、これから私が行く所はな、私の人生の墓場、だがそれは終の棲家、至上の楽園ッ!!」
それと引き換えにするのはここにあると言って、男は自分の頭をとんとんと指で叩き、
「核兵器と霊兵器の素敵なダンスだっ、さぁ、行くぞ」
人間の愚かに、さらに愚かな物を掛け算したような言葉が出て来ても、龍也は反応せず、鉄の馬を駆け始めさせた。
仕事だからというより興味が無いのである。だから、日向龍也はエンジンを。性に合わないのか、忘れたのか、ヘルメットは被っていない、だから、
――青い空に浮かぶ雲より降る雨に濡れる
白髪。
◇◆◇
染めた訳にはあらず、こうなのだ。
少なくとも三年前は、黒髪だったのだけど。
サングラスの奥の右目も金色じゃなくて、そして、
左腕も。
◇◆◇
人間を運ぶ時には大抵、追っ手が雀の一団のように追って来る物だ。それから安全に壊れ物を運ぶ事こそ日向龍也の本領。なのだけど、
狐の嫁入りなんて奇異な日の所為か、奇異な事に何も無かった、のである。そしてバイクは人の目も無い、港の倉庫郡へ何万回転もする車輪を踏み入れて。まるで迷路のような道を行く、ああ、目的の船が見えてくる。そこが仕事の終わりだ。
積荷を下ろせば、渡せば、最早彼の責任の外だ。脳から設計図が漏れて用済みになった彼が、ゴミ箱に捨てられても知らぬ事。こうして、
奇異に今日の仕事は単調に恙無く決着する、所に、
もう一つの奇異、
単車にまたがり駆け抜けていた龍也、四角いカーブを曲がる時、
何かが、金色の目で、見えた。
「うおッ!?」
男が声を出したのは単純な訳である。バイクが突然急停止し、男の身体の中を縦で揺さぶる衝撃が起こったのだ。同時、腰が浮いたせいで彼は転げ落ちた。「うあッ!」と、二度目の声を出して身体を硬い床に打ち付ける。
「いた、いて、いた、……な、なんなんだこら! 急に止まる、お前」
バイクの前に猫が飛び出したか? いいえ。まさか赤信号を守った? いいえ。
停止する理由が見当たらない光景に、男は酷く憤慨した。まさかここから歩けというのか、最後まで達成するのが仕事という物、
サングラスが、落ちる。
だけど、サングラスが落ちただけでは、左右違う目の色を隠す為にそれがかけられていた事には、男は気づかない。何故なら男は龍也の背中しか見えないから。顔を見れるはずが無い。
だが――バイクにまたがりながら、身をうずめる彼が、何をしているかは、
右目を抑えている姿は、「お前」
腹が立った男が、文句を言おうとした時に――
「ア、アア、ア」
「何うなって」
ア、、ア、ア、ア、ア、ア、、アアアァ、ッァァッ!!
その叫びは鼠なら殺せそうな大きさと響き。それは声だけじゃない、彼の心臓が、人間じゃない心臓がその限界を超えようとするくらい鼓動する音も伴った、響き。そしてまたそれによる声、
あらゆる爆発物が一纏めに弾けたが如き声に、腰が抜けた男の前で、遂に龍也は右に身体を落とす。バイクが横倒しになる。傷が付く、けれど、けれど、
日向龍也はこの時、叫びであった。晒された金色の目を右手で覆う為じゃない、疼くのだ、まるで焼けた石をねじ込まれたみたいだ! 焔、焔、焼ける、熱い、嗚呼、
脳が、熱を持つ。
声帯がブチギレそうになる程に、声が出る、声が出る、
全ては金色の目で見た、三年前とは違う色の目で見た、あれは、そう、あれは。
誰だ、あれは、
俺は、あれを、
あれを、
知って――
日向龍也の、
日向龍也の髪の色が白いのは、過去に、精神的な衝撃を受けた事による。
そしてその衝撃は、髪の色と同時に、記憶も失わせて。
記憶の名前が、
、
聞こえた。
ギルフォード、
◇◆◇
ギルフォードと自分が叫んでいるんだ。
機械仕掛けの手の血を舐める、さっき右目に入った姿の前で。
左腕と右目を失った自分が。
◇◆◇
「おいッ!」
「……ッ! あ、アア、あ」
「や、やっと、気づいたか!」冷や汗を垂らしながらもその男は、怒声を送り続けていた。男にとって、この運び屋の有様は契約に反する。「何してんだあんた、とっとと、俺を」
しかし、
「うる、さい、黙れ」
「ッ! 何、」
を、と、男が言う前に、
――男は右足だけを残して消えた
ただし、それは、今起きてる事とは、違う。それは、金色の目で、
失った右目の代わりに、友からもらった、《数秒後の未来をみつめる目》の映像。
何故、男はそう消えるのか。
失った左腕の代わりに、手に入れた左腕は、悪魔の物である。
◇◆◇
それは全てを食らう左腕である。
がぞり、と、まるで空間ごと飲み込む、龍也の左腕。
◇◆◇
その腕は、相手の能力すら食うのだけど、あらゆる事象を食えるのだけど、
今はこの目の疼きに耐えられない、なんだ、あれは、自分の知らない何か。知らない、何か?
記憶を失った事など、龍也には存在しない――
、
それは、本人がそう思っているだけである。
だけど、薄々気づいていた。実際、龍也は失っていた。あの日の右目だけじゃない、あの日の左腕だけじゃない。
もっともっと大切な物――
大切な人が、居た。
――それが欠けた日々に、彼の心は穴が開き
人を拒絶し孤独に生きてきたのは、そう、してきたのは、全部、
「ギルフォード」
昔の自分が叫ぶ名前を、今この場所で叫ぶ。すると、憎悪が起こり始めた。心の穴が、その感情で埋まり始めた。「ギルフォード」
記憶の一部が戻った、それがどういう事か解らず、さっき見えた物を、さっき見えた方向を、彼は、左右違う両目で睨み、
今はもう、その見えた物が無い。だけど叫ぶ、ギルフォードと、そして、
――彼は右手に剣を握る。
あらゆる剣を、神話の武器すらこの手に創り出すその力によって、
今、握られし剣、
それは闇よりも黒く有り、無機質な大剣。
単車という足ですら、己の速度より劣ると、彼の感情が選択したのか、その人間が扱うんは余りに大きな刃を下げて、日向龍也は走り出す。追うのはギルフォード、追う理由は右目の疼き。
――殺しあう異界の日向龍也
その理由、失った人が居た事に、彼はまだ気付かない。
◇◆ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ◆◇
2953/日向・龍也/男/27/何でも屋:魔術師
◇◆ ライター通信 ◆◇
初めまして、ご参加おおきにでございます。
今回はほぼプレイング通りに進めさせていただきました、ので、ギルフォードを追った後の事は執筆していません; どう動くのだろうかと興味があったのですが、プレ内容を見る限り日向龍也がどう生きるか、みたいな事と見受けられましたので。
それでは短文ですがこれにて失礼いたします。またよろしければ。
[異界更新]
日向龍也、(三年前?)過去に大切な人をギルフォードに殺され、同時に左腕と右目を奪われるが、左腕に全てを食らう悪魔のを、右目に友から授かった数秒後が見えるのを。過去の事件のショックで白髪、同時にその事件《だけ》の記憶を失い、心に穴が開いたような日々を命を含めた運び屋を仕事にして生きてたが、ギルと遭遇した事により一部の記憶が戻り、能力により黒き大剣を創り出し、それを手に奴を追う。
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