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<東京怪談・PCゲームノベル>


バイトと写真と冷蔵庫


 ある日のアトラス。
 次の号の特集の会議の最中で、内容はほぼ決まりかけては居たのだが……どうにも詰めが甘くて最後の決め手がない。
「何かいい案無いの?」
「在ったら苦労しません」
「もう時間がないですよ編集長〜」
 誰しも煮詰まってきた……そんな時だった。
「あの、バイトで来た守崎ですけど」
 会議室のドアをノックし、扉を開いた啓斗に視線が集まる。
 一瞬、開けたドアを閉めて帰ってしまおうかとも思った。
 疲れているためだろう。
 テンションはひたすら低いのに、目だけがギラギラとしているのである。
 まるで……そうだ、これではまるで数日かんなにも餌を与えていない猛獣の檻の中に放り込まれたかのような心境だった。
 僅かに帰りたいと思うも、それは一瞬の事。
 これはバイトだ、仕事なのだ。
 そんな事出来るはず無い。
「あ、の……」
「よく来てくれたわね、啓斗君」
 決意を固めた啓斗に、碇編集長以下編集部の面々がニッと笑みを浮かべた。
 本気で帰りたい……。
 言葉には出さす、心の中だけでそう呟いた。



 真相はこうだ。
 何時も通り締めきりに追われ徐々に煮えたぎってきた頭の編集部の面々、会議の途中誰かがこんな事を言いだした。
 写真関係者の中から取るのどうです?
 誰も止めはしなかった。
 編集部の一部や、その関係者も立派に変わっていると誰しもが気付いているからである。
 最も知り合いを取材するのではなく、ただ写真のモデルに使うだけと言う企画なのだが。
「そう言う訳で吸血鬼役は夜倉木君に決まった訳なんだけどね」
「俺はまだ許可してませんが」
「決まったのよ」
「嫌です」
「まあそんな訳で快く決まった訳なんだけど」
 意志の疎通が上手くいっていないようだった。
「一緒に写る相手が三下君じゃ嫌だって言ってて」
「言語道断です。それ以前に写真も承諾した記憶はないんですが」
「ちょっとぐらい譲歩して頂戴、仕事なのよ。ビジネス!」
「………だから写真は苦手だと」
「頑張ってね、夜倉木君。苦手は克服して頂戴」
 意志疎通というレベルではなく、サーカスの猛獣使いでも見ているような気分になってくる。
 頭を抱えている夜倉木が珍しいと思ったのもつかの間。
「そんな訳で彼の相手役、啓斗君に頼みたいの。一緒に写るだけで良いから」
『は?』
 二人の声がピタリと重なった。
「え、そんな、俺……バイトで来ただけで」
「これもバイトの内よ。それとも今から変わりに女の子見つけてくる? そっちの方が危ないと思わない」
「いや、それはまあ……確かに」
「危ないって一体俺を何だと」
 悩み始めた啓斗に、顔をしかめつつ否定しようとする夜倉木にかけられる声の数々。
「和風吸血鬼」
「女たらし」
「………」
「見つかって良かったわ。これで安心ね」
「ええっ!?」
 慌てて断ろうとするも……結局は押し通されて、困る事になるという結果はわかりきった事だった。
 何一つ口が挟めない間に撮影が決まり……あっという間に写真を撮り終え。
「何で女装なんだ……!?」
 白いブラウスにヒラヒラとしたスカート。
 今までに何度か女装はした事はあるのだから構いはしない、問題は………。
「あんた本当に吸血鬼何じゃないか?」
「違いますよ」
 無意味に似合っているマントやらは、誰かにさしずめ和風吸血鬼だとか言われていた辺りは啓斗も同意したくなった。
「………」
 沈黙している夜倉木に不機嫌なのだからだと気付いて声をかける。
「さっき写真嫌いだって言ってたけど……」
「仕事柄……必然的にそうなるんですよ。あまり記録に残すのは好きじゃないんです」
「……そっか」
 今回の事も仕事で強制されなければ残せなかった写真だったのかも知れない。
「今回は、特別なんですよ」
「……特別?」
「はい」
 出来上がった写真の見本を眺め、ほんの少し……本当に少しだけ不機嫌さから浮上したように、出来上がったばかりの写真を啓斗に見せる。
「まあ、悪くはなかったですから」
「………そうか」
「そうですよ」
「ん……」
 そう言うものなのかも知れない。
 撮影中は本当にごたごたしていた記憶しかなかったとしても、一枚の写真に収まってしまえば……よく撮れているような気がしてきた。
 前後の事も、全部思い出せる。
 それが写真と言うものなのだから。
「そうかも知れないな」
 小さく啓斗は呟いた。



 数日後。
 あの写真がおもっいっきりつかわれている事に正直うんざりしつつも、再びアトラス編集部に呼ばれて来ていた。
 郵送すると言われたのだが……直接取りに行くからいいといったのである。
 友人知人ならばはっきりこの二人が誰か解るだろ……そんな写真。
 かなり、恥ずかしい。
 ここ数日編集部のでは、やたら違和感のない夜倉木が吸血鬼だの何だのと言われる回数が増えたそうである。
 実際にそうなのではないかとか……本気か冗談で言っているのか解らないような噂まで立っていた。
 前は啓斗も本当に人かどうか怪しんでいた……訂正、考えてみれば今も現在進行形で怪しい。
 色々な事があって考えている暇がなかっただけなのだ。
「……夜倉木って人間だよな?」
「またそんな事を大真面目に」
「聞いてみたかっただけで……」
「そうだったらどうするんです?」
 サラリと告げられた言葉に、動きを止める。
「………え?」
 もしそうなら……やはり血とか吸うのだろうか?
 例えば吸血鬼とかだったりしたら、蝙蝠みたいな羽根とかが背中からばさっと映えてきたとしても……違和感がない。
「………」
「黙りですか?」
「いや……」
 考えるのはよそう。
 これ以上悩む事が増えたら頭がパンクしてしまいそうだ。
「飲み物もらってもいいか?」
「どうぞ、冷蔵庫に入ってますから」
「………ん」
 一瞬夜倉木の気配や編集部一同の視線が不自然だった気がするのは気のせいだったのだろうか?
 妙にざわめいたようなそうでないような……疑問に思いつつも冷蔵庫のドアを開け中から飲み物を取り出そうと伸ばしかけた手が止まる。
「………」
 何故。
 一体何故冷蔵庫に輸血パックが。
「……ええっ!?」
 開いたドアを勢い良く締め、夜倉木の方へ振り返った。
「………」
「何かありました?」
「あっ、た……」
 思わず首筋を手で押さえた啓斗。
 つい最近、写真を撮る時にほんのちょっと首筋を舐められたような。
 まさかあの時?
 いや大丈夫だ、何ともない。
 首筋に噛まれた跡なんて物は残って居なかった。
 ほっと安心すれば次に頭に浮かんだのはたった一つ。
 輸血パックが夜倉木ので、夜倉木の物だとすれば本当に吸血鬼だと言う事になる訳で……?
「………くっ」
「―――――っ!?」
 ククッと笑いを堪えた夜倉木に、ハッと息を飲みもう一度冷蔵庫を開けて中をみる。
 手に取ったパックをちゃんとよく見れば、中に入ってるのは只のトマトジュース。
 決して人の血なんかではない事だけは確かだった。
「下らないネタ好きよね、夜倉木君」
「……ネタ?」
「僕や他の人も騙してるんですよ〜」
 吸血鬼だなんだと言われ始めてから、こうやって仕込んでいたというのか。
 何処に売ってるか解らない輸血パックの袋を手に入れて、中身をトマトジュースに詰め替えていたのだろうか?
 なんて、くだらない事を。
「あ、あんたなに考えてるんだ?」
「ちょっとした遊びですよ、面白かったでしょう」
「どこが!?」
 投げつけた輸血パックをあっさりと受け止めながら、小刻みに肩を振るわせて笑っている夜倉木に啓斗はむうとうめいて。
「何時か絶対に、追い越してやるからな」
「何をですか?」
「………」
 勢いで言い放った言葉でしかない、だから何をどうするかなんてはっきりと決めた訳ではないのだが……とにかく何でも良かったのだ。
「な、なんだって良い。覚悟してろよ夜倉木っ!」
「どうなるか……楽しみにしてますよ」
 宣言通り見返せるのは……ずっと先なのか、はたまたそう遠くない日なのかは啓斗の行動次第である。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0554/守崎・啓斗/男性/17歳/高校生(忍)】

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■         ライター通信          ■
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依頼ありがとうございました。

こういう事になりましたが、楽しんでいただけたかドキドキです。
夜倉木が以外にああ言ったくだらないネタが好きだったりするのは家系です。
はい、無駄に細かい事にも手を抜きません。

発注ありがとうこざいました。