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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>
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女王様ゲーム
●オープニング【0】
「面白い物が手に入ったんだよ」
アンティークショップ・レンの店主・碧摩蓮はそう言って、何やら上部に丸い穴の空いた木箱を取り出した。穴は片手が十分に入る大きさだ。
「ちょい待ち」
レンはさらにそう言い、木箱の中から楕円の形をしたガラス玉を2つ取り出してこちらへ見せた。
どちらも色や形、手触りは同じなガラス玉。大きさも長い部分が単4型乾電池くらいだろうか。だが、その中身は違っていた。
どちらもガラス玉の中にはチェスの駒が入っているのだが、1つはポーン、もう1つにはクイーンが入っている。よく見ればポーンにはローマ数字が刻まれている。
「ポーンに刻まれてる数字は1つ1つ異なるんだよ。手間かけてるねえ」
くすりと笑うレン。で……これがどうしたというのだろう。
「何でもさ、この中から1人ずつそのガラス玉を取り出して、クイーンを取った者が他の者を数字で指定して命令することが出来るらしくてね。ちょっと試してくれないかい?」
……すみません、それって『王様ゲーム』って言いませんか?
「『Who is a queen?』ってかけ声を使うそうさ。『Who is a mistress?』じゃないよ」
……やっぱり『王様ゲーム』じゃないか。いや、この場合は『女王様ゲーム』か?
「ただ。女王様の命令は、『普通の人間』では抗うことが出来ないって話だよ。たぶん言霊と化すんだろうねえ」
……うわ、最悪だ。でも、あなたも参加するんですよね、レンさん?
「ああ、あたしはこれから買い付けで出かけるんだ。その間に頼むよ」
……逃げやがった!!
で――どうします? 参加しますか?
●集いし者たち【1】
「……話し中だわ」
携帯電話から聞こえてくる通話中の音を聞き、シュライン・エマは小さな溜息を吐いた。かけた先は草間興信所、言うまでもなく草間武彦や草間零に連絡するためである。
連絡する理由は至極簡単だ。今回の、このような事態に2人が巻き込まれぬよう警告するつもりだったのだ。何せ以前、ここレンでは紅いカプリ・ドレス絡みで被害を被ったのだから……草間が。
シュラインは一旦電話を切ると、改めて店内を見回した。いつの間にやら、自分を含め8人の姿がここにはあった。たまたま居合わせ巻き込まれた者や、話を聞き付けてわざわざやってきた者など、その立場は様々であるが。
「ン……完了ネ」
そう言い、これまた携帯電話を切ったのは含み笑い混じりのジュジュ・ミュージーである。シュラインが草間興信所へ電話するより先にどこかへ電話していたようだったが、特に何か会話する訳でもなく電話を切っていた。
「女王様ゲームなんてすっごーい! 那織もちょーやりたーい! ねぇっ、真名神さんもそう思うでしょー? 思うわよねーっ♪」
と、可愛らしくはしゃぎながら言っているのは由比那織である。それも真名神慶悟の腕をつかみ、同意を求めるように。
その同意を求められた慶悟はというと、那織につかまれているのと反対側の手に持った缶ビールを1口飲んでから、息を吐き出すようにこうつぶやいた。
「そういえば……昔飲み屋でやらされたことがある」
どうやら『王様ゲーム』経験者らしい、慶悟は。けれども那織の質問に答えている訳ではないことからして、内心この場から離れたい気持ちもあるのかもしれない。残念ながら慶悟の顔色から分かるのは、もう若干飲んできているらしいことくらいだが。
「何だか面白そうだね。女王様ゲームかぁ……」
これから起こることがさも楽しみといった様子なのは金髪の小柄な少年、瀬川蓮である。「もう命令は考えてあるから」
くす……と笑みを浮かべつぶやく蓮。どんな命令なのか、楽しみでもあり恐くもあり。
「あ、可愛いわね、これ」
「クイーンを取ったら女王様気分になって、言葉遣いも女王様になるのでしょうか……?」
「『女王様とお呼び!』とか? 何にしても面白そうね、これ」
ゲームの開始を待ちわびている者たちが居る一方で、クイーンやポーンのガラス玉をしげしげと手の上に載せて眺めている者たちも居た。大和鮎にシオン・レ・ハイ、それから村上涼の3人である。
細かい細工ではあるが、木箱やガラス玉に銘が記されている訳でもなく、誰が何のためにこれを作ったのかはこれだけではよく分からない。
「ゲーム自体はある意味えげつないけど、それも楽しいわよね。無茶な命令でも逆らえないのが肝だし」
ああ、ここにもどうやら『王様ゲーム』経験者が居た模様。
「そっか……逆らえないのよね……。ふ」
何ですか、涼さん。その最後の意味深な含み笑いは。
「ええと……命令出来るのは、このクイーンを引いた方だけなんですよね?」
クイーンのガラス玉を指でつまみ、シオンが鮎と涼に確認する。
「そうそう。だからそれを引かないと、いつまで経っても命令出来ないのよね」
うんうんと頷く鮎。それに対し、涼が胸を張ってこう言った。
「大丈夫! 絶対引いてみせるからっ!」
おお、何と自信に満ちあふれた言葉だろうか。けれども、まだ続きの言葉があった。
「……私職運ないけど」
どこか遠くを見つめる涼。あ、自分で言って何か悲しくなってるし。
「…………」
「…………」
シオンと鮎が無言で涼の肩をぽむと叩いた。
「ちょっとそこ、哀れむような目で見ない!」
おっと復活しましたね、涼さん。
「いいのよっ、他の運はいいんだから! 職運なんて、職運なんて……!」
わなわなと肩を震わせ、こぶしをぎゅっと握り締める涼。と、少しして急にこぶしへの力が抜け、にへら……っと笑みを浮かべた。
「ああ……そうね。そういうことも出来るのよね」
涼は何か1人納得した様子。さて、何を思ったのかはこの段階では分からない。シオンと鮎がきょとんとした表情を涼に向けていた。
そんな会話がされている間に、シュラインがまた草間興信所へ電話をかけていた。今度は通話中の音でなく、呼び出し音が聞こえてきた。
「もしもし、ああ零ちゃん? 武彦さんはそこに居るかしら。え、居ない? さっき急に出かけていったの? 何にも言わず?」
おや、電話は無事に繋がったようだが、どうやら草間は外出してしまったらしい。
「そう……なら仕方ないけど。武彦さんにも伝えておいて。これからしばらく電話には出ないこと、それとレンには来ないこと。その方が無難だから。何故って? ああ、それはね、実は……」
シュラインが電話の向こうの零に事情を説明しようとした時だった。レンの扉が開いて、とっても見覚えのある男が飛び込んできたのは。
「武彦さんっ!?」
ぎょっとするシュライン。そう、何故か草間がレンに姿を現したのである。
現れた草間は皆に目もくれず、すたすたとメモ帳の置いてある所へ向かった。そしておもむろにペンを取ると、さらさらとメモ帳に何か書き出した。
やがて書き終えてペンを置くと、その途端にはっとしたように周囲を見回した。
「ここは……レンか? ちょっと待て、さっきまで俺は事務所で電話を受けて……」
戸惑いを見せる草間。まさか無意識にここまでやってきたというのだろうか?
「フンフン……私こと草間武彦は女王様ゲームに参加します……参加者1人追加ネ」
にんまりと笑ってジュジュがメモに記された文章を読む。文面はどう考えても誓約書だ。それを聞いて、さらに戸惑う草間。
「おい、何だその女王様ゲームって!?」
「……ああもう……」
額に手を当て、シュラインは苦虫を潰したような表情を見せた。こういう状況を確かこう言ったはずである――『飛んで火に入る夏の虫』と。冬でも火に飛び込んでくるらしい。
ともあれ自分で誓約書を記してしまった以上、逃げられない。草間もまた、『女王様ゲーム』に参加することとなってしまったのだった。
「でもさ、こういうゲームはしらふでするもんじゃないわよね」
いよいよゲームを始めようとなった前、鮎が唐突にそう言い出した。そして、足元に置いてあった袋の中からワインを1本取り出して皆に見せた。
「じゃーん!」
「わぁ、何だか高そうなワインー☆ どうしたんですかぁ、それー?」
那織が尋ねると、鮎はふふっと笑ってから答えた。
「取引先から、そこが貰ったお歳暮のワイン貰ってきちゃったのよねぇ。これは赤だけど、他にも白でしょ、ロゼでしょ、スパークリングでしょ……あっ、もちろんグラスもあるから!」
何とも用意のよろしいことで、鮎さん。で、1杯いくらで売るんですか?
「まぁ、これは元手がかかってないからただでいいわよ。ささ、グラスを持って」
おお太っ腹、ただならいくら飲んでも大丈夫。鮎が皆にグラスを配り始めた。
「ただなんですか……」
しみじみと嬉しそうにつぶやくシオン。
「ええ、いいわよぉ……ゲームを楽しくするためだし」
シオンのつぶやきに鮎が答えた。……含み笑いがあったのがちと気になるけれども。
グラスも行き渡り、ワインも注がれ(まあ蓮は子供だから対象外となってしまったが)、少し酒が入った所でようやくゲームの準備が始まった。蓮が木箱の中にガラス玉を入れようとする。
「9人居るからクイーンを合わせて9個だね」
「違ウ……10個……」
何気なく個数を確認した蓮だったが、低めな少女の声で異義があった。声のした方を見ると、いつ来たのか戸隠ソネ子が立っていた。誰も気付かぬうちに、である。
「……ソネ子……女王様……くす」
口の端を歪ませ、ぼそっとつぶやくソネ子。総勢10人の『女王様ゲーム』は、こうして始まったのだった。
●第1の命令(命令なのか?)【3】
「「「Who is a queen?」」」
そんな決まり文句とともに1回目のゲームが始まった。一斉に皆、自らの手の中にあるガラス玉を確認した。
「あ、僕が女王様だね」
にこっと笑って、クイーンのガラス玉を皆に見せたのは蓮であった。
「じゃあさ、2番の人。2番の人にナースのコスプレして、近くのコンビニまで僕の飲み物を買ってきてもらうよ!」
おっと、初っ端からなかなかの命令である。今の段階でコスプレが飛び出すと、この先どうなるか非常に楽しみだ。
さて、命令を受けた2番のポーンを手にしていたのはというと――。
「やーんっ、那織なのぉーっ? 少ぉし恥ずかしいかもぉ……。でも飲み物を買うだけでいいのよねー?」
『いいのよねー?』の部分にちと力がこもっていたような気がしないでもないが、那織が蓮に確認をした。
「飲み物はオレンジジュース、笑顔は絶やしちゃダメだよ? 誰かに話しかけられてもにこやかに対応してあげてね!」
細かい指示をする蓮。要するに『これは普通のことですよ、何か?』といった態度で臨めという意味であろう。
「変なことだったら那織嫌だったけどぉ……そのくらいだったら……エヘ♪」
小首傾げ、ぺろっと舌を出す那織。そして何故か用意されていたピンクのナース服を受け取り、一旦店の奥で着替えに入る。やがて着替えを終えた那織は、いつも持っているファンシーなぬいぐるみを小脇に抱えて戻ってきた。
「那織変じゃないかなぁー?」
と尋ねるが、まるで違和感は感じられない。元々ゴスロリ系な格好をしている那織である、それがナース服に変わっても別に似合わないということはない訳で。
「せっかくですから写真を1枚」
カメラを手に、シオンが那織に言った。ポーズを取る那織の姿を、シオンがカメラに納める。
「それじゃあ、行ってきまぁーす☆」
店を出て、コンビニへ向かう那織。那織が出ていってから、草間がぽつりつぶやいた。
「命令……か?」
そう言いたくなる気持ちも分からないではない。一応命令になるのだろうが……あまり面白みはない。
結局、那織はごく普通にコンビニで買い物を済ませて戻ってきたのであった。
●用意万端【4】
「「「Who is a queen?」」」
那織がオレンジジュースを蓮に渡して、すぐに2回戦突入。続いて女王様となったのは……。
「やった! 女王様〜!」
高らかにこぶしを突き上げたのは鮎だった。
「なぁんにしようかしら……」
思案する鮎。そして、足元の袋からがさごそと何やら取り出そうとした。
「えっと、じゃあ、1番の人にここにある服を着てもらっちゃおうかなー」
と言って鮎がおもむろに取り出したのは、何とチャイナドレスであった。
「これねー、今度から会社で中国雑貨も取り扱うことになったのよ」
誰かに聞かれる前に、自分から説明する鮎。先程のワインといいこれといい、いいタイミングでくるものだ、全く。
「で、誰? 1番は」
「はいっ、私っ」
しゅたっと手を上げたのは涼であった。
「こういう命令だったら、別にどうってこともないわよね」
そう言ったかと思うと、さっさと鮎の手からチャイナドレスを奪って、裏表しげしげと見始めた。
「大丈夫、絶対似合うから。品質も問題なしよ」
ほんの少し、つまらさなそうに鮎が言った。まあ、女性がチャイナドレスを着るのは当たり前過ぎるし……気持ちは理解出来なくもない。
「んじゃ、着替えてきまーす」
店の奥へ引っ込み、着替えを行う涼。戻ってきた時には、すっかり身体はチャイナドレスに包まれていた。
「うん、ぴったり!」
サイズもちょうどよかったようで、鮎の言ったようにそのチャイナドレスは涼に似合っていた。
「すみません、一緒に撮ってもらえますか?」
シオンはカメラを慶悟に渡すと、自らはそそくさと涼の前に向かって身を屈めた。ツーショットに納まるつもりらしい。
「……1つ1つ記録に残すのか。ご苦労なことだな」
などと言いながら、シャッターを押す慶悟。ちゃんと2人とも全身が入るように、カメラを縦に持ち替えていた。
「面白そうですし、せっかくですからね」
カメラを慶悟から返してもらい、シオンが笑顔でそう答えた。今の所はコスプレ写真集となっているが、果たしてこの先はどうなってゆくのだろう。
「いいなぁー……那織もそっちがよかったかもぉー?」
羨ましそうな素振りを見せる那織。ちなみにまだナース服姿である。帰ってきてすぐに2回戦に入ったのだから当たり前なのだが。
「色気が足らないな」
草間が余計な一言をつぶやいた。次の瞬間――。
ごす。
「武彦さんっ!?」
鈍い音の後で床と仲良くなった草間に、慌ててシュラインが駆け寄った。涼が金属バットで、草間の後頭部を軽く突いたのだった。
「口ハ……災いのモト……」
くすくすとソネ子が笑っていると、涼が叫んだ。
「うるさいっ! 殴るわよ、おっさん!」
いや、もうあなた殴ってますから……残念!
●熱くとろけるような【5】
「「「Who is a queen?」」」
さあ3回戦。酒も進み、3人目の女王様となったのは……。
「はぁーいっ☆ 那織が女王様ーっ♪」
嬉々として那織が叫んだ。待ってましたとばかりの様子である。
「ええっとねぇ……ぜーったい2と4の2人に熱烈なキスをしてもらうの♪ ほんのちょっと『ちゅ☆』なんて許さないんだからー♪」
……何だか一気に命令がグレードアップしたような気がします。それも、あっち方面に。
「誰と誰? 僕は8番だし」
興味津々といった様子で蓮が言い、皆の顔を見回した。
「5番だ」
「私7番だけど?」
「ミーは3番ネ」
「9番でした」
「……1番だ……」
「あたし6番よ」
慶悟が、涼が、ジュジュが、シオンが、草間が、鮎が口々に自分の番号を言った。
「そうすると……」
蓮の視線が、残る2人の間を行き来した。
「2番……」
シュラインが自分の番号をようやく申告した。となると、4番はもう決まりである。
「4……シ……死……」
ソネ子がくすりと笑ってつぶやいた。つまりシュラインとソネ子が、熱烈なキスをしなければならないのであった。
「セクハラ的よねえ……これって」
困った表情を浮かべるシュライン。そして、ダメ元で抵抗を試みた。
「今の命令はなし!」
シュラインの口から那織の声が飛び出した。那織の声を真似たのである。しかし――。
「……女王様の命令……逆らうモノは……絞首刑……」
ソネ子の非常に長い黒髪が、シュラインの首筋へすすっと伸びて絡まろうとした。
「わわっ!?」
「……女王のメイレイ……ゼッタイ服従……」
ソネ子はくすくす笑うと、そのままシュラインの身体に絡ませた髪で自らの方へ引き寄せて――。
「あ」
「わあ……一気に……?」
「やーん、すっごーいっ☆ 激しーいっ☆」
唖然とする草間、どきどきわくわくと成り行きを見守る鮎、とっても喜んでいる那織と三者三様の反応を示す。どのような状況かは、推して知るべし。
「……これもまた陰陽の導きか」
ふうと溜息を吐き、グラスのワインを飲み干す慶悟。その隣では、シオンが2度3度とシャッターを切っていた。
「『恋愛は突然に』って言うしー、ここから愛が芽生えるかもだし♪ そしたら那織キューピットだよね♪ 愛があれば性別なんて気にならないよね☆」
非常に嬉しそうに那織が言う。いやいや、芽生えたらまたややこしいことになりますし。
「はうぅ……」
やがてソネ子から解放されたシュラインは、へなへなとその場にしゃがみ込んでしまったのであった……。
●More Deep【7A】
「「「Who is a queen?」」」
ついに4回戦。ますます酒が入ってゆく中、次にクイーンを手にしたのはジュジュであった。
「ヘイ! ミーがクイーン!!」
皆にクイーンのガラス玉を見せつけるジュジュ。間違いなくクイーンのガラス玉である。
「6番、ミーにディープキスするネ!」
迷うことなく、ジュジュがそう宣言をする。先程から流れはそっち系に傾いてしまったようである。
そんなジュジュの耳に、草間のつぶやきが聞こえてきた。
「8番か……違うな」
「ワッツ? 8番?」
ジュジュが驚きの視線を草間に向けた。すると、おずおずと手を上げた者が居た――シュラインだ。
「6番……」
何ということか、シュラインは2連続でキスするはめになってしまったのである。
「何でこうなるのぉ……」
とっても遠くを見つめるシュライン。抗う気力も失せてしまったかのようである。
「ノウ! 今のキャンセル、命令キャンセルデス!!」
慌てて命令をキャンセルしようとしたジュジュであったが、その身体にソネ子の髪が絡み付いた。
「メイレイ……ゼッタイ……」
女王様であろうとも、1度口にした命令は絶対であるとソネ子は考えたのであろう。ぐいぐいとジュジュの身体をシュラインの方へと引っ張っていった。そうして――。
「やったーっ!」
「さっきより濃厚だよね……」
「きゃぁっ☆ これで三角関係成立っ?」
グラスを手にしたまま激しく拍手する涼、じーっと2人の様子を観察している蓮、さっきよりさらに嬉しそうな那織と、これまた三者三様の反応。
ちなみに……ジュジュとシュラインがどういう状況か説明すると何か違った方向性になりかねないので、各自思うように想像してもらいたい。
「まあ……今は飲むしかないだろう」
「……ああ」
慶悟からグラスにワインを注がれると、草間は一息にそれを飲み干した。思いやる者と思いやられる者、その2人の心中推して知るべし。
「ああ、絵になりますね〜」
そんな草間の姿もカメラへと納めるシオン。ジュジュとシュラインの決定的瞬間も、しっかりフィルムに残していた。
「これはミリオン狙えます!」
ぐっとこぶしを握り、シオンが力説する。……ひょっとして酔って壊れてきてますね、あなた?
「うんうん、いい具合……まだまだ大丈夫っ」
ワインの入ったグラスを傾け、1人満足げに頷く鮎。今までの所、自分に火の粉が飛んでこないのだから気楽なものである。
「あうぅ……こうなったらとことん飲むしかないわ……」
解放後、シュラインはそう言い自らの不運を流すかのように、ワインを口に運んだのだった。
●そして、顛末【8】
その後も『女王様ゲーム』は続けられた。簡単にその後の出来事を説明してみよう。
慶悟が女王様となった回には、ソネ子と草間による漫才が行われることとなった。けれども、シュールなんだかどっちらけなんだかよく分からない異次元漫才が繰り広げられ、慶悟は途中で漫才の打ち切りを指示することとなってしまった。正直、酒が旨くはならなかった。
シオンが女王様となった回では、草間がシオンの肩揉みをすることとなった。意外なことに、草間の肩揉みは結構上手であった。『お客さん、凝ってますねー』などと軽口を挟んだくらいだから、そう嫌な命令ではなかったのだろう。……まあその前の漫才と比べたら、雲泥の差であるだろうけれども。
ちなみに、女王様となったからといってシオンの口調がそれになることはなかった。閑話休題。
ソネ子が女王様となった回では、涼とそれまで当たっていなかった鮎が対象となった。命令は、互いに一番不味そうだと思う材料で料理を作り、『あーん』して食べさせ合うというもの。そして各々料理し、食べさせ合った結果はというと……一口で両者ダブルノックアウト。ソネ子、非常にご満悦でした。
なお、レシピについては2人の名誉を守るのとさらなる被害者を出さぬために、さっくりと割愛させていただくことにする。
涼が女王様となった回では、何と条件のいい就職を斡旋するように命令を出した(この時に草間がまた余計な一言をつぶやいて、涼に卒倒させられたのは激しく余談である)。その相手はジュジュ。ジュジュは少し思案してから口を開いた。
「条件いい仕事、いーっぱいアリマスヨ? タダ……」
と言い、手錠をかけられる仕草を見せる。ちょっと待て。どーゆー仕事だ、どーゆー。
「ガッポリ稼げマスネ☆」
「うーん……」
ちょっと待て。そっちも真剣に悩むんじゃないっ。
「ただいま……っと」
そのうちに、外出していた(逃げていたともいう)レンが戻ってきた。そして皆の顔を見回して、ニヤリと笑みを浮かべる。
「ふんふん。その様子じゃ、だいぶやられたようだねえ。後でじっくり話を聞かせてもらおうかね」
すると、すかさずシュラインがこう言った。
「話を聞くより、実際に体験した方がいいんじゃないですか?」
「へ? そりゃ……っと」
言葉の意味を尋ねようとしたレンに、ガラス玉が飛んできた。反射的に受け取るレン。それは1番のポーンのガラス玉であった。
ふと見ると、シュラインが木箱を抱えている。
「1番の人、皆へねぎらいのお茶入れてもらえます?」
シュラインはにっこり笑って、クイーンのガラス玉をレンに見せつけた。
「!!」
やられたという表情を見せるレン。しかし『女王様ゲーム』の前に抗うことも失敗し……レンは皆のためにお茶の準備をすることになったのである。
「頭いいよね。咄嗟に木箱にクイーンとポーン1つだけ入れて、自分がクイーン取っちゃうんだから」
蓮がくすくすと笑ってシュラインに言った。この『女王様ゲーム』の原理からすれば、木箱からクイーンとポーンを取り出した者が居れば成立する。木箱を振ることによって、飛び出したポーンをレンに握らせたのは作戦勝ちといえるだろう。
「強制力という点ではソネ子さんですけど、機転という点ではシュラインさんでしょうねえ、女王様の中では最強は」
お茶の準備へ向かうレンの後ろ姿を撮りながら、シオンがしみじみと言った。どうも勝手に、最強の女王様が誰か決定戦を繰り広げていた模様である。が、その結果はあながち間違っていないのかもしれない。
「ただ酒を飲んでいただけのような気もするが……これもまた陰陽の導き、か。結局、命令されなかったのは……?」
そうつぶやき、慶悟は蓮とシオンに視線を向けた。慶悟を含め、この3人が最後まで命令を受けなかったのだった。今回の流れからしたら、命令を受けなかったのは幸運だったのかもしれない。
かくして、今回の『女王様ゲーム』の幕は閉じた。その各種場面は、シオンのカメラにしっかりと納められている。
一説には、後日ネガごと高額買い取りの打診があったともいうが――さていかに?
【女王様ゲーム 了】
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【 整理番号 / PC名(読み)
/ 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
/ 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】
【 0381 / 村上・涼(むらかみ・りょう)
/ 女 / 22 / 学生 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
/ 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0585 / ジュジュ・ミュージー(ジュジュ・ミュージー)
/ 女 / 21 / デーモン使いの何でも屋(特に暗殺) 】
【 0645 / 戸隠・ソネ子(とがくし・そねこ)
/ 女 / 15 / 見た目は都内の女子高生 】
【 1790 / 瀬川・蓮(せがわ・れん)
/ 男 / 13 / ストリートキッド(デビルサモナー) 】
【 3356 / シオン・レ・ハイ(しおん・れ・はい)
/ 男 / 42 / びんぼーにん(食住)+α 】
【 3580 / 大和・鮎(やまと・あゆ)
/ 女 / 21 / OL 】
【 3967 / 由比・那織(ゆい・なおり)
/ 美少女? / 20 / 喫茶店アルバイト 】
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■ ライター通信 ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全9場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせさせてしまい申し訳ありませんでした。ここに『女王様ゲーム』の模様をお届けいたします。
・今回、誰がどれを引いているのかというパターンを10以上ランダムに作成しまして、そこからランダムにパターンを取り出すという作業を全てにおいて行いました。ですので、プレイングによる影響を除いては、高原が結果に手を加えるということはありませんでした。
・シュライン・エマさん、88度目のご参加ありがとうございます。草間に警告しようとしたのは正しい判断でした。しかし、残念ながら遅れを取ってしまいました。今回、一番の被害者でしょうか?
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。
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