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<東京怪談・PCゲームノベル>


いきなり呪術大戦!?

「わかりました。では至急支度をして伺いますね」
 そう言って、亜真知は受話器を置いた。

 電話の相手は、自称「天才美少女呪術師」の黒須宵子。
 亜真知とは昨年のクリスマスパーティーで一度会っただけなのだが、その時にすっかり気に入られたらしく、あれからちょくちょく電話やメールをやりとりしている。

 だが、今回の電話はいつもと少し様子が違った。
 普段はどちらかといえばのんびりした話し方をする宵子が、やや慌てたような感じで、いきなり用件から切り出してきたのである。
「もし今手が空いてたら、私のところへ来てほしいんだけど、いい?」

 これは、きっと何か厄介なことが起こっているに違いない。
 そう考えて、亜真知は大急ぎで宵子のところへ向かった。





 亜真知が宵子の家にたどり着いた時には、宵子はすでに出かける支度を済ませていた。
「亜真知さん! よかった、来てくれて」
 亜真知の姿を見て、宵子が安心したような表情を浮かべる。
 その様子から自分の予感が当たっていたことを悟って、亜真知は挨拶がてらこう質問した。
「お久しぶりです、宵子様。
 それで、わたくしにご用というのはなんでしょうか?」
 しかし、宵子はそれには答えず、亜真知の手を取ってこう言った。
「その話は車の中で、ってことでいい?
 大至急、というほどじゃないけど、急ぎといえば急ぎの話だから」

 ちなみに、その「車」の所有者兼運転手が金山武満であったことは言うまでもない。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 車が動き出してから、亜真知は改めてこう尋ねてみた。
「それにしても、宵子様が助けを必要とされるなんて、一体何があったのですか?」
 その問いに、宵子は少し考えてからこう答え始める。
「この間、ストーカーの被害に遭っているという女の人に依頼されて、相手の男に呪いをかけたの」
 ストーカー被害を警察でも探偵でもなく呪術師に相談するというのも相当奇妙な話ではあるが、まあ、その女性が呪術やらなにやらに強い関心を抱いていたり、なんとかして相手を痛い目に遭わせてやりたいと思っていたとすれば、全く考えられない話ではない。

「どんな呪いを?」
「その女性に近づこうとすると、災難が次々に降りかかる呪い。
 ただ、それだけだと『なぜ災難に遭うのか』が理解できないだろうから、匿名で呪いをかけたことは知らせたんだけど」
 呪いの内容は、まあ無難といえば無難なところではあるが、ストーカーというのはとんでもなく執念深い場合がほとんどである。
 その執念をくじけるだけの災難となると、大事故になりかねないのは気のせいだろうか?

 そんなことを考えていると、宵子はあっさりとこう続けた。
「もちろん最初は信じてなかったみたいだったけど、蜂に刺されたり、犬にかまれたり、怖いお兄さんに恐喝されたりしているうちに、冗談でないことには気づいたみたい」
 ここまでくると、もはやツッコミどころが多すぎてツッコミきれない。
 なんにせよ、相手の男にしてみれば、ここで気づいたのは懸命な判断だったと言うべきだろう。
 このまま続けていれば、恐らく次辺りで交通事故にでもあっていただろうから。 

「でも、それで懲りてくれるどころか、逆に腹を立ててしまった上に、呪術の有用性にも気づいてしまったらしくて。
 今度は、向こうも呪術師を雇って、彼女に嫌がらせをしかけてきたのよ」
 宵子のその言葉で、ようやく彼女が亜真知を呼んだ理由がおぼろげながらわかってきた。
 どうやら、ストーカー事件が呪術合戦に発展してしまったらしい。
「雇う方も雇う方だけど、雇われる方も雇われる方よね。
 こういうモラルのない呪術師の存在が、呪術師全体の社会的イメージを大きく損なっているのがわからないのかしら」
「全くです」
 憤る宵子に、運転席から武満が相づちを打つ。
 とはいえ、呪術師の社会的イメージなどもともと決してよくはない、どころか正直に言ってしまえばかなり悪い部類に入るし、その主な原因も、どちらかといえば呪術そのものが持つ負のイメージにあるような気もする。

 ともあれ、今問題なのは、そんなことよりも相手の呪術師の方だ。
「その相手は、それほど手強い相手なのですか?」
 宵子が助けを必要とするくらいだから、恐らく彼女を上回る実力を持った相手なのだろう。
 亜真知はそう考えたのだが、宵子は苦笑しながらこう答えただけだった。
「そう手強いというわけじゃないけど、ちょっとやりづらい相手なの」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 三人がやってきたのは、最近よくあるワンルームマンションの一つだった。
「女性の部屋ですし、金山さんはここで待っていて下さい」
 武満を下に残し、亜真知と宵子は目標の部屋へと向かった。

 目標の部屋は、少なくとも外から見る限りでは何の変哲もない部屋だった。
「ここですか?」
「ええ」
 宵子が、事前に受け取っていたらしい合い鍵で扉を開く。
 その奥に見えてきたのは――目を覆いたくなるような惨状であった。

 割れた花瓶、倒れた椅子、脚の折れたテーブルに、ボロボロになった衣服。
 部屋の中はまるで竜巻でも起こったかのように散らかっており、そのうえ得体の知れない何かで床一面がひどく汚れている。

「これは……一体?」
 唖然とする亜真知に、宵子は小声でこう耳打ちした。
「蝿やネズミやゴキブリの大群が、突然なだれ込んできたんだって」

 それで、全て納得がいった。
 相手の雇った呪術師は、害虫などを使役するタイプの術の使い手だったのである。
 直接相手に呪いをかけたり、相手からきた呪いを跳ね返したりする術がメインの宵子にとっては、確かにやりづらい相手であろう。

「それにしても、一体どこに行ったのかしら……?」
 首をかしげる宵子に、亜真知はこう尋ねてみた。
「狙われているという方は、今どこにいらっしゃるのですか?」
「今は、多分仕事に行ってるんだと思うけど……まさか!?」
 宵子の顔色が変わる。
 被害女性の仕事が何かはわからないが、仕事場への害虫軍団の乱入は、食品関係等ならもちろんのこと、それ以外の仕事でも容易に大混乱を起こしうるだろう。
「その可能性は高いと思います」
 問題の呪術師が「この部屋」を標的にしたのなら、害虫は今でもこの部屋に止まっていた可能性が高い。
 そして、その害虫がこの部屋に見あたらない以上……呪いの標的は、「被害者本人」にほぼ間違いなかった。

「急ぎましょう! このままだと大惨事になりかねません!!」
 二人は大急ぎで階段を下りると、武満の車に飛び乗った。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 それから十数分後。
 宵子の指示に従ってたどり着いたのは、なんと近くにある某女子高だった。
「ここ、ですか?」
「ええ。ここで先生をしてる、って」
 怪訝そうな顔をする武満にそう答えると、宵子は大慌てで車を降りた。
 当然、亜真知もその後に続く。
 さらに、武満もついてきたいような素振りを見せたが、さすがにこれは宵子が制止した。
「金山さんはここで待っていて下さい!」
「あ、わかりました。お気をつけて!」
 宵子の言葉に逆らえるはずもなく、おとなしく車に戻る武満。
 亜真知はそんな彼を若干不憫に思いながらも、宵子の後に続いて女子高の敷地内へと入っていった。





 そう広くはない校舎に、何とか体育ができるくらいの広さのグラウンド。
 学校としては決して規模が大きい方ではないが、その中からたった一人の先生を捜すとなると、これでも十分すぎるくらいに広い。
「それにしても、その方はこの学校のどこにいらっしゃるのでしょう?」
 宵子が何か知っているのではないか、と思って聞いてはみたが、今度は宵子も首を横に振るのみだった。
「とりあえずここまで来てはみたけど、実は私もそこまでは聞いてないの」

 かくなる上は、校内のコンピュータシステムか、警備システムにでも侵入するしかないか。

 亜真知がそんなことを考え始めた時、突然校舎の中の方から悲鳴が聞こえてきた。
 それも、一人のものではなく、大勢のものである。
「亜真知さん、今のは」
「間違いなさそうですわね」
 二人は互いに顔を見合わせて頷くと、悲鳴の聞こえた方へと走り出した。

 校舎内に入り、二階まで階段を駆け上がる。
 廊下に出ると、そこにはすでに大勢の野次馬生徒の姿があった。
 その間をどうにかこうにかすり抜けて、集団の先頭に出る。
 そこで二人が見たものは、想像以上に恐ろしい光景だった。

 教室の床一面を埋め尽くすゴキブリとネズミの群れに、飛び回る無数の蝿の群れ。
 そして、その奥に取り残されている、被害者とおぼしき女性と数人の生徒の姿。

「宵子さん!」
 宵子の姿を見つけて、被害者が助けを求めるように叫ぶ。
 それを聞いて、宵子は亜真知にこう言った。
「亜真知さん! 少しの間、相手の動きを止められる?」
「任せて下さい」
 そう答えるやいなや、亜真知は素早く結界を展開し、ネズミとゴキブリの群れを閉じこめた。
 その結界を徐々に狭めて、少なくともネズミとゴキブリに関しては完全に避難ルートから取り除く。
「今のうちに!」
 亜真知が指示を出すと、被害者たちが一斉に教室の外へと脱出した。
 結界に閉じこめられていなかった蝿の群れがそれを追いかけようとしたが、これも亜真知が教室の入り口で食い止める。
 これで、教室内に残っているのはもはや害虫だけとなった。
「駆除してしまいますか?」
 亜真知の問いに、宵子が首を縦に振る。
 それを確認して、亜真知が結界を一気に縮小させると、結界は中にいた害虫ごと消えてなくなった。

 かくして、今回の騒動は一応の解決を見た。
「亜真知さんが結界を張っている間に、相手の居場所を逆探知しておきました。
 あとは私の方でたっぷり懲らしめておきますから、もう大丈夫です」
 宵子のその言葉に、被害女性とその生徒たちはほっと胸をなで下ろしたのであった。





 二人が校門の前に戻ってみると、武満の姿はなく、車も見あたらなくなっていた。
「きっと、何か用事があったのかもね。突然呼びつけて悪いことしちゃったかな」
 宵子は軽く苦笑すると、亜真知の方を向いてこう尋ねた。
「亜真知さんは、まだ時間大丈夫?」
「ええ」
 頷く亜真知に、宵子は嬉しそうにこう続ける。
「じゃ、うちに寄っていってくれる? 久しぶりにいろいろお話もしたいし」
 もちろん、亜真知にその誘いを断る理由などなかった。
「喜んでそうさせていただきます」

 その後、二人は宵子の家に戻り、亜真知お手製のケーキを食べながら、再会を祝った。





 ちなみに。
 いつの間にか姿を消していた武満が、「女子高の前でうろうろしている挙動不審人物」として警察に連行されていたことを二人が知ったのは、それから数日後のことである……。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 1593 / 榊船・亜真知 / 女性 / 999 / 超高位次元知的生命体・・・神さま!?

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■         ライター通信          ■
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 お久しぶりです、撓場秀武です。
 この度は私のゲームノベルにご参加下さいましてありがとうございました。
 ノベルの方、大変遅くなってしまって申し訳ございませんでした。

 急ぎかつ大がかりな仕事とのことでしたが、宵子の性格を考えると大がかりでもこのくらいだろうな、ということで、こんな事件にしてみましたが、いかがでしたでしょうか?

 ともあれ、もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。