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<クリスマス・聖なる夜の物語2004>


聖夜の裏舞台?

『クリスマス臨時店員募集』

おや、いらっしゃいませ。
今日は何の御用で……え?表の張り紙を見たって?
ああ、臨時店員募集の張り紙ですか。
実はクリスマスに向けて色々しているんですが、どうも私一人では手が足りず…
そこで、当店…Cafe Sephirothに臨時で店員を募集しようと思いまして。
この時期は色々と忙しいですからね、本当に猫の手も借りたい状態なんです。
まぁ店員と言っても特別な事をするわけじゃありません、私の手伝いを色々として貰うだけです。具体的に言えば掃除や皿洗い、簡単な下拵えや飾り付けなどなど…
まぁ、そんなに難しい事じゃありませんよ。誰でも出来ます。
アルバイトとかと言うよりは、本当に手伝いと言った感じですね。
ただし、物凄く忙しくなると思いますが…
年齢、性別、職業、能力、経歴その他は一切問いません、必要なのはやる気だけです。
どうです?貴方もうちで働いてみませんか?

 そこは白い小さな空間。
全体的に無機質な印象を受けるが、配置されたテーブルや観葉植物などの色が暖かな彩りを加えている。
 空間の名前は『Cafe Sephiroth』
小さな路地の傍らに建つ、あまり目立たないけれど何処か人を惹き付けるような矛盾した感覚を抱かせる喫茶店。
 そんな喫茶店の奥、Staff Onlyと書かれた扉の向こうに彼らはいた。
その部屋の中央、テーブルを挟んでソファーに座っている。
 一人は眼鏡をかけた柔らかな雰囲気を持つ細目の男性――神代・樹。
樹は紙を手にそれをまじまじと眺める。
「へぇ…モデルさんですか…」
 紙には証明写真が貼られ、その左側にはラルス・ローザインと書いてある。
樹が顔を上げた先に、証明写真と同じ顔の男性がいた。
ラルス・ローザインは光を受けて鮮やかに輝く銀髪を持つ、眉目秀麗で冷静な印象の男性だった。
「ええ、これでも結構忙しい身なんですよ」
 そう言って微笑むラルスは外見の冷静な印象とは裏腹に、人懐っこく暖かな雰囲気を纏っている。
「そうなんですか、色々大変でしょうねぇ…それで更にうちのバイトともなると休む暇もないのでは?」
「忙しい事に変わりはありませんが、大丈夫ですよ。休む暇程度ならありますし、カフェの仕事もちゃんとこなしますから」
「それなら、問題はありませんね」
 樹が眼鏡の奥の瞳を更に細めて笑う。
この二人、見た目はまったく違うのに口調と雰囲気がどこか似ている。
「では本格的な仕事は明日からと言う事で…何か質問はありますか?」
「そうだなぁ……サンタの衣装とか、無いんですか?」

 クリスマス・イブ。
粉雪が舞い降りる聖夜を、人々は思い思いに過ごして行く。
恋人と過ごす者、家族と過ごす者、友人達と過ごす者……
 そして、働いて過ごす者。
「いらっしゃいませ、何名様ですか?」
 クリスマス用にと飾り付けられた色とりどりの店内では、赤と白の服――所謂サンタ服を身に纏ったラルスが世話しなく動き回っていた。
先日のサンタ服はないのか、という質問に対して樹は「残念ながらありませんね」と答えていた。
が、当日になってサンタ服が用意されていた。しかも手作り。
 ともあれ、ラルスは最初の言葉通りきっちりと働いていた。
モデルの仕事で休む暇もほとんどないはずだが、疲れたような表情も見せず、終始笑顔で接客に当たっている。
「御注文が決まりましたら、お呼び下さいね」
 団体の女性客のテーブルにお冷を運び、そう言って微笑むラルス。
一瞬そのテーブルの周囲だけ時間が止まったかのようになり、
更に一瞬の後、テーブルの女性達は色めき立ち、その一帯だけ騒がしくなる。
というよりも、女性の多いテーブルに彼が行く度に騒がしくなっている。
 さすがモデルと言うべきか、一部では握手して下さいなどと言ってる女性もいる。
ある意味では集客効果になっているのかもしれない。
 男性客は恨みがましい視線で見ていたが。

「ありがとう御座いました」
 微笑んでそう言うラルスの視線の先、カフェを出て行く最後の客の姿があった。
ガラス扉を隔てた向こう、舞い散る粉雪の中で寒そうに身を寄せ合っている。
それほど大きくない一つの傘に二人で入る姿は、窮屈そうでありながらもどこか幸せそうで。
「……」
 遠くを眺めるような眼差しでそれを眺める。
表情一つ変えずに、言葉一つなく。
 だがそれも一瞬、すぐにその場を後にしようと身を翻し
「おい」
 そこに少女が居た。
17、8歳程度の黒いワンピースを纏った、冷徹な雰囲気を持つ少女。
いつの間に現われたのか、物音を立てるどころか気配すらなかった。
「えっと…いらっしゃいませ?」
 客かな、と思ったラルスはとりあえず接客してみる事にした。
「そんな辛気臭い顔で接客するな」
「…そんな顔、してたかな?」
 何となく自分の頬を撫でて表情を確かめてみる。
何となく、見透かされているような気分だった。
「表情に出てなくても、それぐらいわかるわよ」
 確かに、少女の言葉にも一理あると思う。
感情を表すのは、何も表情だけではない。
「まぁそんな事はどうでもいいから、ついてきなさい」
「…君は誰なんだい?」
「私の名は瑠衣」
 中途半端に噛みあっていない会話だった。
双方向的に見えて、実に一方的な会話。
「ついてきなさいって…何かボクに用事かな?」
「いいから、黙ってついてくればいいのよ」
 何となくこれ以上の質問は無意味かな、と思いラルスは大人しくついて行く事にした。
ふと横を見ると、カウンターの上に茶色の猫が座っていた。
何となく猫はやれやれ、といった感じの表情をしたようにラルスには見えた。ドンマイ、とも言われた気がする。
「そんな所に立ってないで、早く来なさい」
「ん?ああ、今すぐ行きますよ」
 瑠衣に視線を投げ、再びカウンターを見ると既に猫の姿はなかった。
 首を傾げながらも、瑠衣の元まで足早に歩いていく。
店の奥へと進んだ先、あるのはStaff Onlyと書かれた扉。
瑠衣は何の躊躇いもなくその扉を開け、中に入っていく。
(もしかしてここの従業員かな?でも店長一人でやってるって聞いたけど…)
 そんなラルスの疑問を他所に、瑠衣は我が者顔で従業員用の休憩室に入っていく。
ラルスも思った事を口には出さず、黙ってそのあとをついて中に入る。
「おや、やっと来ましたか」
 中に入ると樹がテーブルに様々な料理を運んでいる所だった。
テーブルの上に載った料理は、どれもメニューにはない物である。
 樹の言葉に応じる事なく、瑠衣は足早に進みソファーに座る。
「えっと…これは何ですか?ボクに何か用事があったのでは?」
 いまいち現状を把握できず、ラルスはその場に立ったまま樹に率直な疑問を投げる。
キッチンから更に料理を手にして出てきた樹は、何の事?というような表情をした
「あ、まさか何も言わずにつれて来られましたか?」
「ええ、黙ってついて来いと言われて」
「ああ、それは何とも…」
 料理を並べながら苦笑する。
「瑠衣、ちゃんと用件を言わないと駄目じゃないですか」
「別にいいじゃない、来ればわかる事なんだから」
「それもそうですけどね…」
 再び苦笑して、乾いた笑いを樹が漏らす。
しかし未だにラルスには現状の把握が出来ていなかった。
「で、結局ボクが呼び出されたのは…?」
「ああ、すいません。いえ、従業員一同でクリスマスパーティーでもしようかと思いまして。この後用事とかなければ、ご一緒にどうかと」
「なるほど、そういう事でしたか。ボクで良ければ御一緒させて頂きますよ」
 ニコリと、いつものペースを取り戻したかのようにラルスは微笑む。
「って、この子も従業員なんですか?」
 色々と把握できた所で、もう一つの疑問を投げかける。
ラルスはホールとキッチンをずっと往復していたが、瑠衣の姿は一度も見かけていない。
「ああ、瑠衣は……居候、といった所ですね」
 何か含みがある言い方だったが、ラルスはあまり深くは聞かなかった。
瑠衣を見ると、既に料理を食べ始めていた。しかも普通に食べているように見えるのに、料理が消費される速度は異様に早い。
「ん?見てないで早く座りなさいよ。そういえば樹、あの馬鹿猫はどうしたの?」
 ラルスの視線に気付きながらも、食べる手は止めずに着席を促す瑠衣。
「さぁ、何処行ったんでしょうか?」
「猫って、さっきカウンターに…」
 ラルスが瑠衣の言葉で思い出した、茶色の猫。
その事を言おうとした直後、後ろの扉が乱暴に開かれた。
「誰が馬鹿猫だ、誰が」
 ラルスが振り向くと、そこには茶髪の青年がいた。
「おまえはさっきの…確か臨時店員だったか」
「君は…えっと」
 さっき、と言われたから会った事があるのだろうけど、彼に会った記憶はラルスにはなかった。
さっき会ったのと言えば、カウンターに座った茶色の…
「いちいち反応するんじゃないの、さっさと座りなさいよ」
 と、後ろから聞こえた瑠衣の言葉に思考が中断される。
それに反応して、青年はラルスの脇を抜けてソファーに座る。
「お前がいちいち言うからだろうが…ってお前食いすぎだっ、俺のも残せ!」
「遅れたあなたが悪いんでしょうが」
「二人とも、ラルスさんを置いてけぼりにしてますよ…すいませんね、彼は凪って言うんです。彼もまぁ、居候みたいなもので」
 二人をたしなめて苦笑しつつ、説明する。
相変わらず含みのある言い方だったが、ラルスもあまり気にはしなかった。
食べ物で争う二人を他所に、落ち着いた様子で席を勧めてくるのでラルスもソファーに座り込む。
それを見届けた後で、樹もソファーに座る。
「えっと…ラルスさん、お疲れ様でした。お陰で何事もなく、今日も終わりました」
「いえ、ボクはホールだけでしたから。それに結構楽しんで働かせていただきましたしね」
 お互いに微笑を浮かべ話す。
何処と無く、この二人は似ているような感じだ。
「こちらが給金の方になりますので…」
 茶色い封筒を受け取る、中には紙幣が何枚かと小銭が少し…
「ん?何かお金以外の紙のような物が…」
 触ってみると、紙幣の間に挟むように、紙幣とは違う厚みの物が入っているようだった。明細ともまた違う。
「ああ、それは…帰ってから見て下さい」
 微笑を深くして言う樹。
まぁ給料袋を目の前で開けるのも失礼だろう、と思ったラルスはそれを一旦しまった。
「そんなのはどうでもいいから、早く始めないの?」
「腹減った…早くしようぜ…」
 横合いから文句が入る。
しかし、瑠衣は相変わらず料理を食べ、凪はそれを妨害し続けている。
既に始めるも何もなかった。
「ふぅ…まったく、せっかくの聖夜なんですからもっと雰囲気を大事にしなさい」
 微笑を苦笑に変え、樹がやれやれと首を振る。
そんな三人を見て、ラルスも苦笑してしまった。
「まぁまぁ、あまり待たせるのもなんですから、始めましょうか?」
 苦笑しつつ、グラスを掲げるラルス。
さっきカップルを見て感じた寂しさも、今はまったく感じない。
「なかなか物分りが良いわね」
「そうそう、それがいい」
「ふぅ、それもそうですね」
 口々に言い、グラスを掲げる三人。
たまにはこんな聖夜も、悪くないなとラルスは思う。
「えっと…ボク達が出会えた聖夜を祝して…メリークリスマス!」
「「「メリークリスマス!」」」

 幾分か弱まった粉雪の中を、ラルスは一人歩いて行く。
あのあと僅かな時間ながら騒いだ後、店を後にして家路についていた。
「なかなか、楽しかったかなぁ…」
 ふと立ち止まり思い出す。
慌しく騒がしく、暖かく和やかなCafe Sephirothの雰囲気を。
去り際に樹がまた来てくださいね、と言っていた。
ラルスはそれに機会があればと答えた。
 そんな事を考えて空を見上げていると、給料袋の事を思い出した。
帰ってから開けて欲しいと言った言葉、もう開けても大丈夫かな?と思いながらも手は既に給料袋を取りだしていた。
給料袋を開けると、幾枚かの紙幣、少しの小銭、そして
「メッセージカードと…ネックレス?」
 簡素な白の厚紙にちょっとした装飾が施されたカードと細い銀のネックレスがそこに入っていた。
銀のネックレスには、銀の板が付けられている。
板には見た事のないような記号が彫り込まれている。記号はYの真ん中の棒を長くして二つの棒の真ん中から突き出たような記号。
メッセージカードには簡素な文章。
『アルバイトの方、お疲れ様でした。記念というかクリスマスプレゼントと言うか、守護のルーンを刻んだネックレスを贈らせて頂きました。 神代樹』
 それを見て、普通給料袋に入れるかな?とラルスは思った。
まぁ驚かせるつもりだったんだろうな、とも思い、気にせずカードを袋にしまう。
 手の中のネックレスを首にかけると、ラルスは粉雪の中再び歩き出した。
「また、行ってもいいかもねぇ…」
 そう一言だけ白い息の中で呟いて、ゆっくりと歩いていった。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ★
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【3498 / ラルス・ローザイン / 男性 / 21歳 / モデル】

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■         ライター通信          ■
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えー…とりあえずごめんなさい(汗)
そして、発注してくださり有難う御座いました(深々)
自分、始めての受注だったのですが…
凄まじく遅筆&内容意味不明申し訳ございません。
発注文の通りに書いたつもりではございますが…あまり上手くいかなかったようで…
とりあえず謝るしかないです、ごめんなさい(汗)
中途半端にギャグだったりほのぼのだったり…そもそも働いてる描写が少ないですね(汗)
次回からは精進しようと思います、はい。
ともあれ、発注真に有難う御座いました。
こんな自分ですが、また気が向いたら発注してくださればと思います。
その時までに腕を磨いてきますので!
では、縁があったら、またお会いしましょう(礼)