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<クリスマス・聖なる夜の物語2004>


心に映る人


 粉雪が風に舞い、穏やかな時間が流れ出す。
 触れる手の温もりが心地よくて。
 浮かぶ小さな笑み。
 何時だって側にいたいと思いながらも、自分たちは互いに個々の存在で一人の人間ではないからそれは出来なくて。
 だから触れる温もりをそっと感じて。

 今あるこの時間を大切にしたい。
 かけがえのない想いと共に。

 そして大切なものは今この手に‥‥





「おや? いらっしゃいませ」
 エドガーは一瞬不思議そうな表情を見せたが、すぐに笑顔になると軽やかな音を立てて喫茶店『夢紡樹』にやってきた人物を迎え入れる。
 クリスマスというのにこの人物が一人で訪れるのは珍しいとエドガーは内心思っていた。しかしエドガー個人としては大歓迎だ。味の分かるお客様ほど嬉しいものはないし、楽しい話も聞いているだけで楽しかった。
 店中の視線が一気に戸口に立つセレスティ・カーニンガムへと集まる。
 ただそこにいるだけで人々の心を捕らえてしまう容貌と雰囲気は流石だった。
 しかしそれを気にした様子も見せずにセレスティは、いらっしゃいませ、と近寄ってきたリリィの導くままに歩を進める。
 店内に再びざわめきが戻った。
「こんにちは。今日も忙しそうですね」
 あちこちから聞こえる賑やかな声。
 楽しげなクリスマスの雰囲気が店内には満ちている。
「えぇ、クリスマスだというのに皆さん来てくださって。今年も賑やかなクリスマスです」
 どうぞ、とセレスティの前にグラスを置きながらエドガーは微笑む。
「それではその一員に私もなれた‥‥、ということですね」
 にこりと微笑むセレスティの笑顔がエドガーに向けられた。普通の人ならばそれだけで美しいセレスティに心を奪われてしまいそうだったが、セレスティと同じように長い年月を生きてきたエドガーには効かなかったようだ。
 そしてもう二人ほどそれに惑わされない人物がいた。
 そのうちの一人はセレスティの気配を感じて湖から出てきた漣玉だ。
「こんな日にここへやってくるとは‥‥其方も暇じゃのぅ」
 ころころと笑って当たり前のように漣玉はセレスティの向かいに座った。
「漣玉嬢もお暇でしたか?」
「其方と語らう位にはな」
 相変わらずじゃ、と漣玉は楽しそうに笑う。するとその笑い声に反応するように、グラスの中の水が揺らめいた。
 漣玉はセレスティの事が同じ水を扱える者ということで親近感を持って接している。なんとなく気が合うような気がしているようだった。

「いらっしゃいませ。ご挨拶が遅くなりました」
 恭しくセレスティのテーブルまでやってきて一礼するのは店主の貘だ。惑わされない最後の一人。
 店中のテーブルを回り挨拶をしては、クリスマスプレゼントと称した「夢の卵」を配り歩いていたようだった。
「お一つ如何ですか?」
 ニッコリと微笑んだ貘がセレスティに卵を差し出すが、一度貰っていた事もありそれを辞退するセレスティ。
「今日はティータイムを楽しみに来たので」
「そうでしたか。それではゆっくりとお楽しみください」
 気を悪くした様子もなく、貘は次のお客を求めて店内を歩き始めた。
 その後ろ姿を眺めながら漣玉が呆れたように笑う。
「あやつも相変わらずじゃの。そんなに夢の卵が余るのなら食べてしまえばいいものを」
「貘は悪夢の方が好きですから。幸せな夢はお裾分けしたいそうですよ」
 笑顔が好きだそうです、とエドガーが口を挟むとセレスティが微笑む。
「笑顔とは本当に良いものですね」
「なんじゃ、其方も誰かの笑顔で幸せになることがあるのか?」
「えぇ。最近は特にそう思う事が多くなりました」
 口にエドガーの持ってきたケーキを優雅に運びながらセレスティは告げる。
「大切な者がいるのであればそうであろうな」
 含みのある笑顔を浮かべた漣玉にセレスティは小さく頷いた。
「大切に思う人は大勢いますが、特別と、言い切れることが出来るようになったのは、長い年月を生きてきて、初めてです」
「ほう、それはまた」
「大切に大切にしておきたい思い。でも、その大切な思いは今もずっと、これからもずっと大切で有り続けて、変わらず不変のままでいると確かな思いがあって」
 そう話すセレスティは外の景色を眺めながら遠くに居る人物を脳裏に描いているのか、とても穏やかな表情だ。
 その表情を見つめ漣玉は、羨ましいのぅ、と溜息を吐く。
 それは憧れにも嫉妬にも似て。
 自分が持っていないものを手に入れている人物への妬みがほんの少し混じっている。
「普段の私をどう思いますか?」
 そんな問いかけをしたセレスティに漣玉は答える。
「そうじゃな。‥‥自分の敵だと思った者には容赦ない制裁を下し、どんな時でも的確な判断をいつもし続けるような感じを受けるな」
 その答えにセレスティは笑った。
「やはりそのようなイメージですか。普段の自分からは想像も付かないでしょうけれど、大切な恋人の前だけは甘い自分をさらけ出すことが出来るんですよ」
 其方がか?、と驚いた表情を見せる漣玉。
 セレスティがたった一人の恋人の前で愛を囁き、甘い表情を見せる所など漣玉には想像出来なかった。
 留まることのない水の流れのように、心とは移ろいやすいもの。
 そして形を変えてはその場から消え去ってしまうようなもの。
 形を変え、長い時を生き続けてきたその代表と言えるような人物が、ただ一人の人物のために心を留めることなど出来はしないと思っていた。
 しかし自分の恋人の事を話すセレスティの表情を見ていればそれが嘘ではない事が分かる。

「私がアクティブな事が出来ないのが、ほんのたまに心苦しくなりますが、大切な人は気にはしておられないと知っていますので」
「なんかそういうのすごいねー」
 動き回りながらも話を聞いていたリリィが、ひょい、とセレスティに近づいて告げる。
「だって、お互いの事が分かってるって事でしょ? リリィ、羨ましいなぁそういうの。貘ともそんな関係になりたーい」
 胸の前で両手を組んだリリィにセレスティは小さく言葉を贈る。
「嫌われていないのですから機会はあるはずですよ」
 その言葉にリリィは笑みを浮かべて飛び上がる。
「本当? そうかな? リリィ、頑張っちゃおう!」
 よーし、と気合いを入れてその場を立ち去るリリィを見送るセレスティと漣玉。
「其方‥‥楽しいか? 妾とあの小娘を争わせて」
「いいえ。ちっとも。それに‥‥‥」
 気に入ってはいるようですが本気ではないでしょう?、と漣玉に無敵な笑みを贈るセレスティ。
 それに苦笑した漣玉は、其方の勝ちじゃ、と両手をあげた。
「それにしても其方の口から恋人だのなんだのという言葉が聞けるとは思わなんだ。お熱いことじゃのぅ。そんな幸せな惚気話を聞いていると部屋の中もどんどん暑くなってくるわ」
 扇子で仰ぐマネをしてみせながら呟く漣玉の言葉にセレスティは真顔で告げる。
「そんなに意外な事なのでしょうか」
 しれっとすっとぼけてみせたセレスティに漣玉は苦笑するしかない。
「あぁ、意外じゃ。意外すぎてなんだか違う人物を前にしているようじゃ」
 はぁ、と大きな溜息を吐く漣玉。しかしその瞳は笑っている。
「永遠の恋人ですから。大切なあの人は」
 今までで一番の笑みを見せたセレスティは、恥ずかしがる事もなく平然とそのような言葉を口にし呆気にとられた漣玉を黙らせてしまった。
「まぁ、自分と他の方の価値観は違うのでしょうから比較する事は出来ないですし。たまたまそれが私なりの表現方法だっただけです」
「よくもまぁ‥‥そんなにもすらすらと恥ずかしい言葉が出てくる事だな」
 妾はもう其方の話だけで腹一杯じゃ、と漣玉は珍しくエドガーに助けを求め視線を投げかけた。
「でもセレスティさんはまだまだお話し足りないようですよ。今日はクリスマスです。作ったケーキはたくさんありますし、楽しい話をしていってください」
 はい、と頷くセレスティに対し、エドガーにとどめを刺された形になった漣玉はほんの少しだけ引きつった表情を浮かべる。
 自分と同じ価値観をセレスティが持っていると思っていた漣玉は、セレスティにそうではなかったと思い知らされてただ単に悔しかっただけなのだが逃げる事も出来ず、そのままセレスティの惚気話を聞かせられる事になった。
 しかし聞いているうちに、今度はそれはそれで楽しくなってきたのか逆に漣玉がセレスティから話を聞き出そうとする始末だ。

「私の話ばかりではつまらなくはないですか?」
「いや、そんな事はないぞ。妾は他人の話を聞くのが好きじゃ。どちらかというと聞き上手じゃ」
 先ほどまではもう惚気話は聞きたくないと言っていた漣玉だったが、新たな楽しみを覚えてしまったようだ。
「そうですか、それなら良いのですが」
 セレスティは穏やかに微笑んで、話の続きを紡ぎ始めた。




 思い浮かべるのは自分の掌の上に重ねてくる大切な人の掌
 それがとても心地よくて暖かくて心の中がほっとする
 自分の中に広がる想いが掌から相手に伝わって優しい気持ちになる
 降り積もる雪が溶けて水になり心の中に染み込んでいく
 形を変えても尚側にいられるように
 何時までも寄り添っていられるように
 心の中で何度もそのことを思いながら大切な人への微笑みにそれを変えた

 大切なものは今この手の中にある






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★   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ★
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

●1883/セレスティ・カーニンガム/男性/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い


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■         ライター通信          ■
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今更ではございますが、明けましておめでとうございます。(遅すぎです、私)
そしてお手元に届くのが大変遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
昨年は色々とセレスティさんのお話しを紡ぐ事が出来てとても幸せでした。
どうやって毎度セレスティさんの魅力を引き出そうか、描写しようかと考えるのが楽しくてなりません。
また今年も機会がありましたら『夢紡樹』の面々と関わってやってくださいませ。
ありがとうございました。
今年もセレスティさんにとって素敵な年になりますよう、お祈り申し上げます。