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サンタさんになりませんか?
怪しげな調度品や骨董品、そして呪われたアイテムなどで埋め尽くされていることで有名な『アンティークショップ・レン』。その薄暗い店内でチャイナドレスに身を包んだ女性がその辺の棚にあるものを適当に見繕っては大きな袋に放りこんでいた。棚に残されたものと袋に入れられるものとの違い……それは単純に『必要か不必要か』なのだろうが、素人目に見てもその区別はつかないだろう。高級そうな指輪をぽいと袋に入れるのかと思えば、いかにも怪しい象の置き物には一切手をつけない。キラキラ光る金色の皿を入れるかと思えば、ヒビの入った安っぽいコーヒー皿は残す。何を基準に袋に入れているのかは本人にしかわからない。
店の主人は蓮。彼女が今、年末の大掃除をしているのかと思うかもしれないが実は違う。店の真ん中に鎮座している袋の色は黒ではなく白。しかも素材は布である。ゴミ袋にしてはたいそうなものだ。そう、彼女はクリスマスプレゼントの準備をしているのだ。中に入れているのは、彼女にとって今はもう不必要となった商品たちである。蓮は毎年この時期になるとこうやって在庫処分をしていた。袋の中に入ったものは自らがサンタの扮装をして、適当に配って歩く。孤児院や老人ホーム、こんな趣向の偏ったプレゼントでもちゃんと箱に入れてラッピングすればもらってくれる人間はいくらでもいる。それを開いて中を見て微笑む人間はいくらでもいるのだ。彼女はとあるクリスマスソングを歌いながら店中を動き回っている。
在庫処分を始めて一時間くらい経っただろうか。いったん作業を止め、蓮はいっぱいになった袋の中を覗いた。そしてその細い手でプレゼント候補をかき分けて確かめる……が、しばらくすると彼女は困った顔をしながら人差し指で頭をぽりぽりと掻いた。
「困った。今年は中身の偏りが激しいね……それになぜか重量感あふれるものばかりだし。どうしたものか。」
頭にあった指を今度はあごに持ってくると、彼女はう〜んと考え始めた。その声はわずかに店内に響く。奇妙な形をした壷の中や古ぼけたタンスの隙間がほんの少し震える。それはまるで彼女のことを心配しているかのようだ。静かに時は過ぎていく。
それからほどなくして彼女は名案を思いついたらしく、勢いよくぽんと手を打った。
「よし、中身は誰かに頼めばいい。あたしと同じように少しでもいいから持ち寄ってもらえばいいんだよ。ついでにサンタもやらせようじゃない。今年は大勢でやれば重い荷物もひとりで運ぶ必要もないし、そいつらからの提案で配る先も増えるだろう。そうだ、そうしようね。」
蓮はさっそくカウンターに引っ込み、真っ白な紙をひっぱり出して名案を文字にし始めた。
そして翌日、それは店の入口と中に一枚ずつ貼られた。誰にでも目のつくところにそれはあった。
『夢と希望を与えるサンタたち募集中!』
その言葉に誘われたのか、クリスマスイブになるとさっそく主旨にピッタリな少年が顔を出した。彼の名はマリオン・バーガンディ。彼はどこから見ても小柄な少年だったが、実は人間よりも長い時間を生きている存在である。現在はある財閥が所有する美術品の管理をしているらしい。そんなマリオンはゆっくりと入口の扉を開いて中に入る。しかしそのつぶらな瞳はカウンターの向こうにいる蓮の無視し、目の前に置かれた大きな白い袋に釘付けになっていた。
「蓮さ〜ん、今日はお手伝いに来ましたよ。」
「おやおや、マリオンかい。連絡も一番なら、店に来るのも一番だねぇ。でもえらく早くに来たね、いったいどうし……」
「ごそごそ。」
「……挨拶も適当なら、話を聞くのも適当かい?」
蓮がせっかく子どもたちのために用意したプレゼント袋にマリオンは遠慮なく手を突っ込み、その中身をひとつずつ丁寧に取り出して嬉しそうに物色し始めるではないか。しかも出したものは袋に戻さず、とりあえず床にきれいに並べていく。そしてプレゼントがある程度並ぶと、店のど真ん中で横になり肘を突いてまじまじとそれらを観察し始めた。
「いいなぁ〜、いいなぁ〜。これが子どもたちのプレゼントですかぁ。この仏像様なんて、すごくいい味出てるんですけどね!」
「お前な。本当に……ぶつぞう?」
「あ、これ私が用意したプレゼントです。全部確認した後で中に入れて下さい。」
すでに袋の中身はマリオンの私物と化していた。蓮は注意してもしょうがないと諦め、仕方なしにマリオンが差し出した紙袋の中身を確認する。それはかなり大きめの卓上カレンダーのようだった。しかしカレンダーという割には日付の場所がバラバラ。日付も24日までしかなく、しかも12月分しか用意されていない。一見謎の物体に見えるが、そこはさすが蓮。すぐに何かを見極めた。
「これはアドヴェントカレンダーか。」
このカレンダーはドイツで使われているもので、子どもたちが朝起きてその日の番号をめくるという仕掛けがある。12月1日から順に開いていき、クリスマスイブの24日まで楽しむことができるものなのだ。その日の扉を開くと中におもちゃやお菓子が入っており、子どもたちは近づいてくるクリスマスに思いを募らせるという夢のあるカレンダーである。もちろんマリオンが持ってきたものはひとつも扉が開かれていない。
「えへへ、実はうっかりしてて今年使うの忘れちゃったんですよ〜。別に使わなくても飾っておけるものなんですけど、来年もまた使えるものですからプレゼントとして持ってきました。でも、蓮さんの用意したこれ、本当に子どもたちにあげちゃうんですか〜?」
「お前……さっきから問題発言はなはだしいぞ?」
「だって私、骨董品大好きなんですもん。これ下さい、これ。プレゼントひとつ持ってきたんですから、物々交換でいいでしょ?」
「どうせひとつに絞るのにもっと時間かけるんじゃないのかい? 勝手にしなよ、でもひとつだけだよ。」
「ありがとうございます〜! じゃあまず中身を全部並べて、そこから欲しくないものを袋の中に入れていけば時間の節約にも……」
「ったく、子どもには聞かせられないセリフだねぇ……」
結局、マリオンはプレゼントの中身を全部物色することになった。マリオンの顔は実に嬉しそうだ。自分のお気に入りを探そうと袋の中に手を突っ込んではそっと骨董品を床に置く。そんな地味な作業を蓮が溜め息混じりに見ていると、いいタイミングで大きな車の影が入口の前で止まった。お客か、それとも助っ人かと思って顔を上げると、そんな予想をはるかに越える姿をした女性が店に入ってくるではないか。すでにサンタの服を着用しているはいいが、マントの下はほとんどビキニ状態で赤いハイヒールブーツのせいでさらにいやらしさが増している。もちろんそれを着ているのは女性だ。彼女を両脇を黒服にサングラス、サンタの帽子と白ヒゲをしたヤクザ2人が固め、散らからないクラッカーを景気づけとばかりに店内で軽快に鳴らす。
『パン、パパパン!』
「メリークリスマスですヨ〜〜〜! ハッピーハッピー!」
「なんだ、ジュジュだったのかい。ちょうどいい、今すごく退屈してたんだよ。まぁ、こっちに来な。」
「あ、通りにくくてごめんなさい……でもぶつからないようにして下さいね。これも子どもさんたちへのプレゼントですから。」
「オオゥ。オーケー、オーケー!」
蓮はもうひとりの助っ人であるジュジュ・ミュージーをカウンターの中に招き入れる。彼女は店主の期待に応えるべく、大きな袋を持ってきた。マリオンの忠告を守ってそろりそろりと足を出し、なんとか無事に荷物を降ろす。ジュジュは一安心したらしくひとつ大きな溜め息をつくと、ささっとカウンターの中に回って袋に手を入れた。
「ヤッパリ、クリスマスは楽しくなきゃネ〜! ミーは子どもの頃、クリスマスをエンジョイする余裕なかったデス。バット、今のチルドレンにはそんな思いさせられないヨ!」
「やっと主旨の理解してる奴が来て安心だよ……まったく。」
「別に私は本来の目的を忘れたわけじゃないですよ〜。ちゃんと目星をつけたらお手伝いしますってば。自分でサンタさんの衣装も持ってきましたし。」
マリオンは一度外に出したものを袋の中に丁寧に戻し始めた。お目に叶わなかったものはさっさと片付け、欲しいものを順調に絞っている様子。ジュジュは木造のテーブルに自分が用意したプレゼントを並べていた。サンタクロースになる意気込みは十分だったが、果たして中身が伴っているかどうか……
「これ、モノホンの拳銃。足がついたから処分しなくちゃイケナイ奴ネ。」
「………少しでもあんたを信じたあたしがバカだったよ。」
「ア、もち実弾も入ってるヨ!」
蓮は近くにあったサンタの衣装用に準備した手袋を無言でつけると、問題の拳銃をさっと奪ってその銃口をジュジュに向けた!
「もっとマトモなもん出しなよ! ほら、他にもあるんだろっ!」
「ノーッ! 蓮サン、ミーはユーを尊敬してるのにィィ!」
「ほら、早く出せっ! どうせろくなもんないんだろ?!」
「蓮さん、このタイミングで警察が来たらどうするつもりなんだろう……よいしょっと。」
マリオンの心配をよそにどんどんヒートアップする蓮。ジュジュはさっきよりもペースを速めながらプレゼントと称した証拠隠滅品を並べていく。
「これ最近売れなくナッタ合成麻薬。あと『エンコ』した組員の小指のホルマリン漬けが3つダネ……」
「夢がないねぇ、夢が……っ!!」
「ノーーーッ、あとは使用済みの注射器とビニール袋、テディベアのぬいぐるみにミーのパンティ。偽造パスポートに……ってユー、ユーやめてヨ! ガンファイアーだけはやめてネ!」
親指にすさまじい力を込めてゆっくりと撃鉄を起こす蓮。彼女の目は鉄砲玉の組員よりもイッていた。わずかに開いた口からは荒い息が出ている……が、ジュジュの話を頭の中で反復しているうちに自然と銃口が下がった。
「バカなもんばっかり持ってきてからに……テディベア、テディ、テディベア?」
「オウ! これ、ミーが部屋に飾ってたものデス!」
「あ、そりゃマトモだねぇ。とりあえずそれでも入れとこうか。他は別のルートで処理するんだよ。あたしゃ、警察のご厄介になるのはゴメンだよ。」
「じゃあ、このガンもこっちで処理するデス。後は部下に持たせとくネ。ホラホラ、さっさと持っていくヨ!」
ジュジュはさっきまで自分に向けられていた銃を蓮の手元からさっと奪い、役に立たないガラクタと共に袋の中に片付けた。そしてそれを手下のヤクザに持って行かせ、なんとか蓮の怒りを解こうと奮闘する。
その間、マリオンは最後に残ったふたつの骨董品を並べて悩んでいた。ひとつは形がいいが見様によってはいかにもな雰囲気満点の花瓶で、もうひとつはあまりお目にかからない柄の入った大きめの絵皿。彼はカウンター向こうでの騒動の最中も何も語らずじーっと考えていたが、最終的には絵皿を選んだ。最後の最後まで悩み抜いた末の決断だった。ところが彼は泣く泣く諦めたはずの花瓶を袋に戻そうとはしない。どちらもカウンターの上に並べると、マリオンはあることを蓮にお願いした。
「蓮さ〜ん、私は絵皿を頂きますね。でもこっちはいつも災難まみれの草間さんに差し上げたいのでラッピングしてプレゼントしてきてもいいですか?」
「手短に済ませてくれるのならね。もうひとりが来たら出発するよ?」
「大丈夫ですよ。空間を繋げたらすぐですから。じゃあサンタさんの衣装に着替えますね……いそいそ。」
「オーッ、ユーもサンタスタイルを持ってきたデスか?」
「だって既製の物じゃ、私には大きすぎてサイズが合わないんですよ〜。」
マリオンがそういうだけあって、彼の準備したものはその小さな身体にピッタリだ。仕上げにとんがり帽子をかぶるとちっちゃなサンタクロースに変身。あとは前もって準備して置いたラッピングセットを広げ、怪しげな花瓶を適当に包み始めた。
「そんなものまで用意してたんだねぇ。」
「でも、蓮さんのプレゼントはどれもサイズが大きすぎて入らないものばかりですよ〜。」
「そりゃ悪いことしたね。でも、ジュジュのぬいぐるみは入りそうだねぇ。」
「でしたら、ジュジュさんにラッピングしてもらったらいかがですか? まだセットはいくつかありますし。」
「イエス! やってみるデ〜ス!」
さすがマリオン、骨董品が好きだというだけあってその梱包は完璧だった。最後にクリスマスっぽく着飾ったビニールの中に花瓶を収めると、持ってきたかばんから同じようなラッピングセットをいくつか取り出してジュジュに手渡す。彼女はさっそく中身を取り出してぬいぐるみを包み始めた。それを見た後でマリオンはプレゼントを小脇に抱え、店の奥にある扉へ向かう。そして自分の能力を使って草間興信所への空間の扉を開くのだった。
「それじゃ、すぐに戻りますから。行く時になったら電話で連絡してください。」
「草間のところだね。長話せずに帰ってくるんだよ。」
彼は笑顔で頷くと、そのまま扉を閉じた。それとは入れ違いに、また店の玄関が騒がしくなる。どうやらジュジュの連れてきたヤクザが悲鳴を上げているようだ。「なんじゃこりゃあ〜」とか「うわぁ〜」とか、実に情けない声が店内にもわずかに響く。梱包を終えて袋を息でふーっと広げようとしていたジュジュは思わず息を飲んだ……
「アクシデントですカ?!」
ジュジュはわずかに殺気を放つが、それも一瞬のこと。店の扉が音を立てて開くと、ある女性がひょっこり顔を出した。ふたりはじっくりを女性を見る。しかしその顔よりも足元にある鉄枷の方に、そして反対の手に持っている大きなソファー2つにどうしても目が行ってしまう。どうやらヤクザの悲鳴はこれが原因のようだ。彼女はソファーが店の中に入らないことを知ると、玄関をふさがないようにそれを脇に置いて自分だけ中に入った。
「なんだい、また大きなプレゼントを持ってきたもんだねぇ。龍堂家にはお宝がたんまりあるってことかい?」
「冗談言うなよ。あたしんちはただでさえエンゲル係数が高いんだ。そんなものがあるならこんな日に仕事なんかしないよ。」
龍堂 玲於奈はニカっと笑うと、蓮もそれにつられて微笑んだ。しかし笑えないのはジュジュだ。さっきのソファーはヤクザの組事務所でもよく見るが、とてもひとりでは運べる代物ではない。いったいどうやって運んだのだろうか……彼女は部下の悲鳴を含めていろいろと考えを巡らせた。
「ユー、もしかして……今のソファーはひとりで運んだデスかぁ?」
「ああ。外の奴らにはビックリされたけどな。」
「アンビリーバボー! あんなヘビーなのノーサンキュー?!」
「外の黒服とほとんど同じ反応だな。ところで、そこに置いてあるのがプレゼント袋?」
「骨董品が多くて重いんだよ。でも、あんたなら問題ないね。」
さっきまでマリオンがひとつずつ運んでいたものをひとまとめにしたプレゼント袋に手をかける玲於奈。その時ジュジュは彼女の左手には鉄枷がないことに気づいた。彼女の予想はそのまま現実となり、目の前の出来事として実際に起こった。そう、彼女の能力は『怪力』なのだ。
「なんだい、これ。ちゃんちゃら軽いじゃないか。あたしひとりでも十分持てるよ。もっと重いのかと思ってた。」
「オー……ノゥ……」
「だって実際にあたしが持ってきた奴の方が重いんだよ。しかもかさばるしさ。」
「何を持ってきたんだい?」
「商店街の福引で当たった応接セット3組だよ。テーブルとソファ5個のセット。うちも探偵事務所やってるからあっても損じゃないんだけど、さすがに3組はちょっとね……それで持ってきたんだ。」
持ってきた……ジュジュはどうすれば持ってこれるのかをジェスチャーで考え始めた。おそらく鉄枷を外した左手だけに怪力が宿っているだろうから、片手で持ってきたはず。こう? それともこう? そんな感じでポーズを取るジュジュ。しかし周囲から見るとえらく珍妙な姿だったらしく、すぐに本人からツッコミが入った。
「……あんたに運んできた経緯を説明するつもりはないけどさ、そんな正月番組に出てくる芸人がやる演芸みたいなポーズしたら普通に歩けないだろ?」
「やっぱりデスか。ウーーーン。」
「ただいま帰りました。いや、零さんは喜んでくれてよかったよかった。」
ジュジュの発想力が袋小路に迷い込んだ頃、草間興信所からマリオンが帰ってきた。どうやら同じ場所に空間を繋げたようで、店の奥からそそくさと出てくるではないか。それを見ていた玲於奈は『零』と聞いて首を傾げた。どうやら彼の能力に関して考えているようだ。低い唸り声を上げながら考え込んでいるふたりを気遣って、マリオンは蓮と話をし始めた。
「もう皆さん、お揃いでしょうか。」
「いいタイミングだったね。そろそろ電話しようかと思ってたところだよ。」
「そうですか。あの花瓶は草間さんが留守だったので、代わりに零さんにお渡ししておきました。さっそく草間さんの机の上に置いて花を飾るとおっしゃってましたね。」
「ふ、不吉なことするな。まさかあんたが使用方法を勧めたわけじゃないだろうね?」
「まさかー、そんな間違った使い方はオススメしませんよー。さ、そろそろ行きましょうよ。クリスマスが終わっちゃいます〜。」
最後のマリオンのセリフがちょっと棒読みくさい。すごく怪しい。蓮はそう思いながらも話を元に戻した。彼の言う通り、早くしないと子どもも大人もみんな眠ってしまう時間になってしまう。
「じゃあそろそろ行こうかねぇ。荷物は玲於奈に持ってもらうとして……」
「あー、私もせっかくサンタさんの服に着替えたんで、軽いものを小さな袋に入れて持たせて下さい。」
「いいよ。でもどれが軽いのかわかんないから、あんたで選んでくれ。」
「オウ、重さの感覚もアバウトなのネ。ところで蓮サン、今日はミーが用意したワゴンでゴーよ。ちゃんとクリスマス仕様ヨ!」
「ならソファーを積んで行こうかね。しかし今回は困ったねぇ、このプレゼントはどこに行けば喜ばれるものか……」
「そんなことになるだろうと思ってね、ちゃんと考えてきたんだ〜。へへへ。」
玲於奈はそういうと、自分の考えた作戦を自慢げに語り出した。蓮もみんなもそれを聞いて納得し、まずはそこに向けて車を走らせることになった。
ジュジュが用意したサンタとトナカイの絵がついたスモークガラスの高級ワゴン車は、プレゼントとサンタたちを乗せてとある河川敷にやってきた。するとそこには探偵であり掃除屋である玲於奈の協力者がどぶろくで乾杯しながらささやかなパーティーをしているではないか。そう、彼らはここに住んでいる皆さんなのだ。彼女は普段から彼らの情報に頼っているところもあり、その恩返しがしたくてここにやってきた。彼らなら生活必需品や骨董品もそれなりに工夫して価値のあるものとして使ってくれるだろう。
「玲於奈ちゃん、クリスマスおめでとう。おっと、おめでとうはおかしいのかの?」
「ったく、盆暮れ正月しか知らないのにパーティーなんかするからそうなるんだよ。ほら、今日はみんなにプレゼントだ。」
「ほほ、そりゃありがたい。しかしこの年になってそんなもんをもらうとは思わなかったのぉ。」
そういうとおじさんたちは嬉しそうに玲於奈やジュジュ、マリオンからプレゼントをもらう。さすがにソファーを一組ドンと置いていくと運ぶのが面倒だろうから、それだけはちゃんと玲於奈が居住スペースまで運んでいった。たまに鉄枷につけられたリボンが風に揺れる……冷たい感じのする鉄球もこうやって見ると暖かみを帯びたように見えるのだから不思議なものだ。
なぜかおじさんたちの中には骨董の目利きができる人間が混ざっており、マリオンはそのおじさんとしばし話をしていた。プレゼントとして受け取った花瓶に金銭的な価値がないことを見抜いた上で、「これは立ち姿が非常にいいね〜」と満足げに語る男にマリオンは敬意をはらった。そして戻ってきた玲於奈にそのことを話しかける。
「まさか花瓶ひとつでこんなに実のある話ができるとは思いませんでした。」
「ああ、あの人ね。ったくみんなが心配するから、ちょっとは会社に顔を出せって言ってるんだけどさ。」
「玲於奈さん、あの方のお住まいは確かここでしたよ……ね?」
「あーあーあー! なんでもないなんでもない! ゴメンゴメン、ここ! お住まいはここだったな、マリオンごめん!」
急に話をはぐらかした玲於奈の言葉を素直に受け取ってきょとんとするマリオン。相手が一応でも納得したような表情をしたので、彼女もほっと一安心。危うくおじさんの素性を全部バラすところだった。玲於奈は胸に手を当てて深呼吸しながら息を整える。
そんな中、ジュジュはセクハラされまくりだった。いつもならこんなことする命知らずどもには「ぶっ殺す」を連発するところだが、今日は夢のあるクリスマス。そこは愛嬌で乗りきることにした。
「オーゥ、モーレツぅ♪」
「若いってのはええのぉ。なんでもできてなぁ。」
「わしらが若い頃はこんなファッションはなかったでの!」
「ええ時代になったもんじゃ、久しぶりに目の保養ができたわい。」
思わぬプレゼントにおじさんたちも大喜び。ジュジュもそう言われるとさすがに悪い気はしない。投げキッスなどの大サービスをしながら、上機嫌でプレゼントを配った。しかし、ここだけですべてを済ませられない。まだプレゼントは車の中にも余っている。蓮は次の目的地を決めようと再び全員を呼んだ。
「まだ配れるねぇ。今度はどこに行くんだい?」
「フゥーン、まだ残ってマスね。」
「実はあたし、まだ行きたいところがあるんだ。絶対に喜ばれる場所だから、ぜひ行きたい。ということで、ここはぜひマリオンに協力してほしい。」
「え、私ですか?」
玲於奈に指名されたマリオンは何のことかわからず自分を指差す。右手をその小さな肩に置き、彼女は自分のやりたいことをみんなに説明した。
「実は……全世界とは言わないから、日本中を回りたいんだ。この際だから本格的にサンタさん気分を満喫したい。マリオンだったらできるんだろ。そういう能力を持ってるのは店でわかってたさ。だからお願いしてるんだ。」
「オー、このまま日本中を回るデスね! ベリーエキサイティングね!」
「な、いいだろ?」
ちょっと子どもみたいな思いを玲於奈はみんなにぶつけた。その間マリオンが困った顔をして考えていると、ジュジュが軽いノリで声をかける。
「かわいい、小さな、強いサンタが日本を回るのデ〜ス!」
「ま、今日くらいは……いいですよね。」
「よっし、決まった! 蓮、さっさと乗って乗って!」
「ったく、いい年した大人が子ども使って。まったくしょうがないねぇ……マリオン、後で店の中の商品ひとつ上げるよ。クリスマスプレゼントだ。」
「やったー! じゃ、行きましょうか!」
「いきなり元気になったじゃないか。現金だねぇ。でもその意気だよ。」
みんなを乗せた車は目の前に現れたゲートをくぐり日本のどこかへと向かう。少しでも長くサンタがしたい。きっとそんな気持ちがみんなの心にあるのだろう。だからこそ、扉は開いた。車中ではみんなで賑やかなクリスマスソングを歌っていた。そして車は光の中へと導かれ、その場から消えた……彼らのクリスマスはまだ終わらない。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ★
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0585/ジュジュ・ミュージー /女性/ 21歳/デーモン使いの何でも屋
4164/マリオン・バーガンディ/男性/275歳/元キュレーター・研究者・研究所所長
0669/龍堂・玲於奈 /女性/ 26歳/探偵
(※登場人物の各種紹介は、受注の順番に掲載させて頂いております。)
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■ ライター通信 ■
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いつもありがとうございます、市川 智彦です。クリスマスの雰囲気が漂ってきますか?
今回は「聖なる夜の物語」にふさわしいサンタクロースのお話を書いてみました。
プレゼントがヘンテコでも、みんなの気持ちがあれば素敵になれる。そう信じて書きました。
玲於奈さんはお久しぶりです。いっぱい夢のある提案をして下さって本当に感謝してます!
しかし片手でソファー3組を持ってくるなんて……いったいどうやって運んだんでしょう?
その辺はジュジュも考えてますけど、皆さんも考えて欲しいですね(笑)。不思議だなぁ。
今回は本当にありがとうございました。クリスマス気分を満喫していただけたら幸いです!
また別の依頼やシチュノベなどでお会いしましょう! 次回もよろしくお願いします!
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