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<東京怪談・PCゲームノベル>


超能力心霊部 セカンド・ドリーマー



 そういえば。
(あの3人、どうしてるだろうか……?)
 諏訪海月はそう思って、起き上がる。妙に気になってしまった。あの、ファーストフード店で出会った3人が。
(……行ってみるか)
 丁度、たいした用事もないしと海月は出かける準備をする。そして、館をあとにした。



 二階へあがると、彼らが居る定位置に少し視線を遣る。
(……いる)
 前に会った時と同じように、二階の隅の窓際に陣取っていた。
 海月は近づき、声をかける。
「よお」
 だが、すぐに気づいた。一人足りないのだ。
 一番小さくて、元気の良かった娘の姿がない。
 ゆっくりと顔をあげた薬師寺正太郎が「あ」と、すがるような目で見て呟く。
「す、諏訪、さん……」
「もう一人の朱理って子はどうしたんだ?」
 正太郎の向かい側の、一ノ瀬奈々子がびくっとして顔をあげる。彼女の反応に、何かマズいことでも訊いたかと海月は怪訝そうにした。
「朱理は……」
 奈々子は言いかけて、すぐに唇を噛み締めた。海月はますます不審そうにして正太郎を見遣る。
 正太郎は一枚の写真を取り出した。そこで海月はハッとする。正太郎は念写の能力の持ち主。望む、望まないに関わらず、そこには怪奇現象をとらえてしまうことがあるのだ。
「朱理さんが、実は眠ったまま起きなくなってしまったんです」
「起きない? 昏睡状態ってことか?」
「単なる寝すぎだと思ってたんですけど……もう三日も眠ったままなんです」
「…………」
 あの元気の代名詞のような娘が突然そんな状態に陥るなど、考えつかない。
 海月は正太郎から写真を受け取る。
「その写真について、つい4日前に話してたんです。何かあるって奈々子さんは警戒してたんですけど、朱理さん……笑って大丈夫だって言ってて……」
「……この写真、強いものを感じる……」
 海月は眉間に皺を寄せ、それから写真を観察した。
 無防備に眠る朱理と、そのすぐそばにいる冷たい目の幼い少女。それを写したものだ。
「……コイツに眠らされてるのかもな」
「やっぱり、諏訪さんもそう思いますか?」
 奈々子がじっと見てくるので、海月は頷いてみせた。
 写真の強い波動は、この幼い少女のものだと告げている。自分にはそれがわかる。
「朱理は……少し、霊感があるんだろ? この前、気づいたんだがな……」
 小さく言う海月の言葉に奈々子は泣きそうな表情になった。それは肯定を示す動作にほかならない。
 海月は正太郎の横に腰掛けると、口を開く。
「憑かれている可能性が高い……朱理を救出しよう」
 奈々子と正太郎は顔を見合わせ、深く頷いた。



 朱理の自宅へ向かいながら、三人は相談を進めた。
「では、諏訪さんに全面的に頼ってしまいますけど……よろしいですか?」
「……ああ」
「あ、あの」
 奈々子が少しだけ俯き、それからチラチラと海月を見上げる。
「ありがとうございます……。諏訪さんがいなかったら……」
「気にするな。困った時はお互い様。知らない仲でもないしな……」
 ほっ、と安堵する奈々子を見遣り、前回の時より態度がかなり柔和になっていることに気づく。それほど、朱理の容態が気になって仕方なかったのだろう。
「よろしくお願いします」
 ぺこりと頭をさげられ、海月は困ったように無言になる。
「……任せろ」
 それしか言えなかった。
 正太郎は持っていた写真から目を離して、マンションを指差した。
「あそこが朱理さんのマンションです、諏訪さん!」



 朱理の叔母が居たので、すんなり家へは入れた。入れ違いのように叔母は「買い物に行くから留守をお願いね」と言って出て行ってしまう。
 残された三人は朱理の眠る和室の戸を開いた。
 布団を敷いて、朱理は呑気な顔で眠っている。あまりにも平和そうな顔に奈々子がムッとしたのがわかった。
 びりっとした空気を感じて、海月は一歩後退する。正太郎は無意識にキョロキョロし、青ざめた。
「……」
 海月は朱理に近づくや、すぐに屈んで彼女の額に手を置く。
<邪魔するな!>
 脳裏に響いた声に思わず海月は手を離した。
(今の声は……?)
 朱理の声ではない。それよりも随分幼かった。
 あの写真に写っていた幼女だ。そうに違いない。
「諏訪さん……?」
 様子を見守っている二人に「静かに」という合図を送り、海月はもう一度額に手を置く。朱理の額はひんやりとしていた。
(……おまえが、朱理を眠らせている者だな?)
<……なに、おまえ。邪魔しに来たの?>
(朱理を解放しろ……。取り憑く相手を間違っていないか……?)
 無邪気で元気な朱理には、付け入られる隙などないように思う。
 だが、声の主は小さく笑った。
<なんにも知らないんだ。この子の闇は気持ちいいよ。いい気持ちになるの。だからずっと一緒。ずっと夢の中>
 夢?
 刹那、周囲が歪み、海月は見知らぬ場所に立っていた。
 見るからに田舎で、道もそれほど舗装されていない。村、と呼ばれるような場所だ。
 何かを見ている朱理の姿を発見し、海月は怪訝そうに近づく。
「……朱理、か?」
 なにを見て……?
 彼女は普段の様子とは違って、真面目な表情でじっと何かを見ている。視線を追った海月は、そこにランドセルを背負って泣いている小学生の朱理の姿を見た。
(あれは……?)
<あれが彼女の闇。彼女の陰。憎しみ、怒り、後悔の姿>
 海月は佇む朱理に声をかける。
「奈々子と、正太郎が心配していた。おまえが帰るのを、待ってる……」
「だれ?」
 冷たい視線だけ海月に向ける朱理は、やはりいつもの彼女を微塵も感じさせない。
「諏訪海月だ。この前、会っただろ……」
「スワ……?」
 記憶を探る朱理の手を、何かが引っ張る。着物を着た幼女……あの写真の娘だ。
「だ〜め。これ以上は干渉させてあげない。アカリはわたしとずっと一緒なの。ずっと、この悪夢にわたしと居るの」
「悪夢……? おまえ……夢魔か?」
「正解。だけど、サービスはここまで。さあ戻って。おまえは邪魔だってわかったでしょ?」
「なにが邪魔だ……! 朱理を悪夢に捕らえて何をする気だ」
「この子の闇は燻ってる炎みたい。ずっと胸の内に抱えてるの。でも、誰に言う気もないのが気に入ったのよ」
「誰にだって、言えないことはあるだろ……」
 海月の言葉に幼女はクスクス笑う。朱理と手を繋ぎ、その手をしっかりと握っていた。朱理は再び、幼い朱理へと視線を向けている。
「言えないんじゃないの。言わないのよ。言う気がないの。気にしてないのよ。
 不思議な人間。無防備な心の持ち主のくせに、闇が濃いの。健全な人間とは言い難いわ」
「おまえの都合で朱理を閉じ込めるのは……どうにもな」
 海月は夢魔の少女を睨みつける。
「あら。この子は抵抗すらしなかったわ。夢から抜け出そうともしてない。ここが居心地いいからよ!
 外部から干渉されるのは気に食わないの。さあ、戻ってちょうだい。この子は二度と目覚めない」
「…………本当は」
 海月の視線から鋭さが消えたのを、夢魔は不審そうにする。
「本当は、おまえが一人で寂しいだけじゃ……」
 言葉に目を見開き、夢魔が力をぶつけてきたのがわかる。ハッとした海月は、元の部屋で、朱理の額に手を置いた状態のままで居た。
 小さく息を吸い込み、海月は一枚のヒトガタを取り出す。
「封じて、滅することも可能だ。夢魔、おとなしく朱理から出て行け」
「邪魔をするなって言ってるでしょう!」
 朱理が目を開き、海月を睨みつける。だがそれは、あの夢魔の少女が朱理の体を使って起こした行動だ。
「朱理を返してください!」
「そうだ、朱理さんを解放しろ!」
 奈々子と正太郎が、海月を支援するように言い放つ。朱理は二人にも鋭い視線を向けた。そして何かを言おうとするが……声が出なかった。
 慌てて喉に手を遣るものの、声は微塵も出ない。
 海月は穏やかに言う。
「朱理、同情してるんだろ……? おまえは、最初に俺と会った時も無条件に信用してた……。そいつをあっさり受け入れたのも、おまえだからこそだってのはわかる。
 でも……奈々子も、正太郎もおまえをずっと心配してた。友達に心配をかけたくは……ないんじゃないのか……?」
 瞬間、朱理の体から夢魔が弾き出された。驚いて悲鳴をあげる正太郎は、真横の奈々子に思わず抱きつく。
 拒絶された夢魔が、悔しそうに歯噛みした。
 肉体の自由を取り戻した朱理は、海月に笑顔を向ける。
「ありがとね、諏訪さん」
「……たいしたことはしてないがな」
「そんなことないよ。夢の中であたいに話しかけたでしょ? 名前名乗ってさ。あれで、ずっと諏訪って誰だろうって考えてたから……だからだよ」
 あんな些細な行動で、彼女を助けたことに海月は驚く。
 海月は夢魔を見遣る。このままだと、また朱理に取り憑く可能性があったが……。
(なんか……見かけがああだっていうのもあるが、少し憎めないところがあるな)
「諏訪さん」
「ん?」
「あのさ、そこの夢魔、逃がしてやってくれないかな?」
「……おまえ、こいつのせいで困ってたんじゃないのか?」
「いやあ、寝てただけだし、久々によく寝たからいいよ。ね?」
 そう言われては、と海月は嘆息した。
「わかった。夢魔、また悪さをしたら次はないからな……」
 夢魔の少女は奇妙な表情を浮かべるものの、すぐさま「べーっ」と舌を出すや壁をすり抜けて出て行ってしまった。
 呆然としている正太郎と奈々子の前で、やれやれと海月は肩をコキコキと鳴らす。
「とりあえず解決か。……おまえも、少しは反省しろ」
 人差し指で朱理の額を押すと、彼女は「たはは」と笑う。反省しているようには見えない。
(朱理か……こいつも、何か抱えてるんだな)
 だがそれは、今は自分だけの胸の中に隠しておこう。夢魔も言っていたではないか。朱理には言う気がないのだと。
「いいじゃん。また何かあったら、諏訪さんが助けてくれるんでしょ?」
「……確かに俺は万屋だけどな」
「よろしく諏訪さん!」
「…………」
 だから、なんでこんなに無条件に信じてるんだ?
 渋い表情を浮かべていた海月だったが、ついつい小さく吹き出してしまう。
(こんなに頼られてたら……まあ、仕方ねえな)



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【3604/諏訪・海月(すわ・かげつ)/男/20/ハッカー&万屋、トランスのメンバー】

NPC
【高見沢・朱理(たかみざわ・あかり)/女/16/高校生】
【一ノ瀬・奈々子(いちのせ・ななこ)/女/16/高校生】
【薬師寺・正太郎(やくしじ・しょうたろう)/男/16/高校生】

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■         ライター通信          ■
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 またもご依頼ありがとうございます。ライターのともやいずみです。
 ちょっぴりシリアス混じりなお話になりましたが、さすがに頼れるお兄さん・諏訪様! 今回も頼れる人として活躍させていただきました。
 前回よりも、三人と親密度があがってしまいました……ますます諏訪さんが三人のお兄さん化していってます……。なんだか三人のNPCが諏訪さんに群がっているような気もしないでも……。
 クリスマスは残念でした……今度の時はこちらこそよろしくお願いします! お待ちしておりますので!

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!
 楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。