コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


賭けの後にはケーキを一つ


 ■某幽霊マンション

 暮れも押し迫る時期。
 チャイムを鳴らし、ドアが開くのを待つ。
 インターホンでの応答で最初に出てきたのはリリィだった。
「いらっしゃい、少し待っててください。今開けますね」
 ドアが開き、出てきたリリィにお重に入ったおせちを渡す。
「リリィくん、羽澄からのお裾分けだそうだ」
「ありがとうございます、りょうはおせち作ってなかったから嬉しい」
 確かに作るようには見えないから、予想は正しかったと言う事だろう。
「あっ、先輩」
 奥の部屋から出てきたりょうが戒那を見て声をかける。
「仕事の調子はどうだ?」
「………ま、あ、ぼちぼち。先月色々あったし」
「珍しいわよね」
「本当のようだな、早くあげたと聞いたからな用事をすませに来た」
 もう暫くすれば色々と忙しくなる頃だから、その前に済ませてしまいたい。
 これから数時間程度の余裕があって、多少の気晴らしが出来る時間はあると解っていても確認を取る。
「今開いてるか?」
「ん、まあ一応……」
 ちらちらと時計を気にしているが仕事という訳ではなく、遊びにでも行くつもりだったのだろう。
 ここに戒那が来なかったなら、逃げてどこに行っていたか解らない。
 だったら少しばかり外に連れ出して、それからキッチリと仕事をさせるようにすれば問題は無いだろう。
「盛岬、賭は覚えているな?」
「へ? って、ああ!」
 間の抜けた声を出すりょう、どうやら賭の事は覚えていたらしい。
「賭け?」
 事情を知らないリリィに、改めて事情を説明する。
「少し前だったな、胡弓堂で賭をしたんだ。盛岬が弄られキャラだったかどうか」
「あ、私もちょっと聞いた。結果はわかりきってるのに」
「うわーー、決めつけられてるっ!」
 もちろん賭の話しをしていた時も、リリィの予想の通り結果がかなり一方的で賭になっていなかったのも事実だ。
 もちろん戒那が賭けているのも弄られキャラである。
「ほ、ほかにっ、他にはいるかも知れないだろ」
「なら確かめにいくか」
「は?」
 最初からそのつもりだったのだ。
「事実を確かめたいんだろう」
「ええと……し、仕事が」
 結果の予想は付いているか口ごもるりょう。
「さっき大丈夫だと言ってたのに?」
「……家の用事が」
「それなら私がやっておくし、ナハトと一緒にお留守番してるから大丈夫よ」
「ワンッ」
 こうなれば逃げ場はない。
「さて、どこからまわろうか?」
 いぢわるな表情で笑いかける戒那にりょうが抵抗出来る訳無いのもまた……お約束な事だった。
 かくして、わかりきった結果の答えに色々な所へとおもむく事になった訳である。
 現在弄られキャラである方に二票。
 一票だけ、ナハトはノーコメントであった。


 ■興信所

 最初にここの名前を挙げたのは、ここでならきっとという思惑あっての事だったのだろう。
「えーと……」
「あっただろ、なんかおっきな事件とかがあった時とか!?」
 悩み始めた草間にりょうが突っかかるその横では、答えが出るまでの間にこちらはのんびりとお茶の時間だ。
「どうぞ」
「ありがとう、零くん」
 そそがれたばかりのお茶を飲みながら、事の成り行きを眺める。
「普段はなぁ………」
「事件の時とか」
「その時は真面目でしたよね」
「だろっ!」
 肯定したような零にりょうがパッと表情を明るくさせるが、良く聞けば直ぐに違うと解った。
「その時は?」
「………」
 事件の時には真面目なのは解ってはいる。
 だが構われていない訳でもないだろう。
「その事件の最中とか後とかにもいまいち決まってないだろ、それによくオチとか付いてる辺りはなぁ……」
「オチとかいうな!」
「毎回入院したり、屋上から落ちても生きてるのはリアルオチだっ。しかも落ちた理由は自分の不注意だろう?」
「あ、あれは幸な事故だっ!!!」
 ギリギリと草間の頬をつねりだしたりように当然のように押し返そうとし始める草間。
「ほんひょうのこひょだろう!」
 言葉を訳するのなら『本当の事だろう』であるつまり弄りキャラで一票と取っても良さそうだ。
「ここでも弄られキャラで決まりそうだな」
「うっ!」
 つねったりしているからには、草間が真面目だったという訳が無く。
「こ、ここでもってまだ一人にしか聞いてないし、先輩」
「ん、それもそうだな。零くんはどう思う?」
「………」
 何も言わずに只ニッコリと微笑むだけだった。
「コメント無しっ!?」
「無理にとは言わないが」
 悩んでいる状況ならノーコメントと言うことになるのだが……。
「ええと、楽しそうですね」
「ちょっ! えーー!!?」
「あっ、ごめんなさい」
「謝られたっ!!」
 ショックを受けるりょうに、オロオロとする零。
「これが事実だ、盛岬」
 ショックを受ける肩をポンと叩いてみても、まだ納得出来た様子はない。
「仕方ないな、次へいくか」
「は、次?」
「アトラス編集部にでも行こうか、草間くん、零くん邪魔したな」
「いや」
「また来てくださいね」
 手を振って見送られながら寮を引っ張って出ていく。
「思ったよりも時間がかかったな、聞けそうな顔ぶれが揃ってると良いが」
「そこはさらに無理だって先輩っ!」
 拒否するりょうを連れ、戒那はサクサクと次の場所へと向かった。


 ■アトラス編集部

 声はほぼ揃っていた。
「弄られキャラでしょう」
 考える間もなく。
 心の準備をする暇すらなく。
 一致団結した答えである。
 尋ねた戒那にとっても、まさかここまできれいに声を揃えて答えを返されるとはと思える程度に即答だった。
「圧倒的だったな」
「そりゃそうでしょう、改めて確かめるまでもなくそうですよね」
「書いてる話自体もそれをネタにしてるから、こういう事になっても仕方ないわよね」
 書類を見たりキーを叩していた夜倉木や碇の二人以外も当然だと言い、周りの煮詰まりつつある編集部の面々も頷いたり同意したりしている。
「決まったな、盛岬」
「こ、ここが一番こう言う所だと解ってたけど……っ!」
 がっくりとうなだれるりょうにクスクスと笑いをこぼす一同。
 確かに人数で言えば圧倒的ではある物の、悪意あっての事じゃないのは感じる事が出来る。
「ほら、盛岬」
「……?」
 顔を上げるように戒那が促し、近くにあった醤油せんべいをポンと手渡す。
「好きだったろ」
「………そりゃもう」
 袋を開けて食べ始めるりょうに、周りが同じように声をかけつつポッキーやらチョコやらを渡し始める。
「ほら、これも」
「新商品だってさ」
 律儀に、包装紙をむいて。
「………」
 渡し始めたのを見て大体何をしようとしているかに気付く、どうなるか解っていないのは本人だけだった。
 ビリビリっと包装紙を破いてから目の前に置かれていく菓子類が山になりかけた所で、ようやくおかしいと気付いたらしい。
「……お」
「大人気だな、盛岬」
 ポンと戒那が肩を叩く。
 喋れにくかったのは口にクッキーを詰め込んでいたからで、動きが止めなかったのも両手に色々と持っているからである。
 袋がない状態で渡されては、この場で食べきらなければならないと言う事だ。
「………」
 手だけではなく、目の前にも置かれた菓子類。
 このままでは食べきれないし、手でもって歩く事も出来ない。
「誰か……入れ物」
「無いな」
「パックはないわね、紙に包むのは? ここに前の号のチュパカプラ特集の頁があるけど」
「……やめとく」
「なら頑張って食べるんだな、盛岬。早くしないと増えそうだ」
「は? あああっ!!!」
 菓子類は現在進行形で増えているのである。
 もう食べれるか、とりょうが暴れ出すまでに経過した時間は7分32秒程後の事だった。


 ■その後

 色々な人に聞いてみたが……やはり結果は似たり寄ったりである。
「差は開いていく一方だな」
「うーん……あ、携帯」
 呻いていたりょうが、携帯の着メロに気付き電源を入れた。
「もしもし……って、だーーーー!」
 出た瞬間に叫んで電源を切る。
「どうした?」
「親父だっ、どこからか嗅ぎつけたらしい!」
 何を言われたかは大体予想出来た。
 一連の出来事を何処かで知って、わざわざ電話をかけてきたらしい。
 マメな事だと思いながら、弄られキャラであった方にまた一票追加しておく。
「次はそろそろ」
「まだっ!?」
 グッタリとしてるのを見ながら言った戒耶にりょうが勢い良く顔を上げる。
「いいのか、いかなくて」
「………え?」
「編集部で沢山食べていたみたいだからな、好きなケーキをと思ったんだがやめておくか?」
「たっ、たべるっ、まだ余裕っ!」
 必死な様子に小さく笑みをこぼしてからリクエストを聞く。
「何がいい?」
 ちゃんと『俺はいじられキャラで終わる方にお前が好きなケーキ1ホール』言ったのだ。
「……前いった店で上手いとこがあったんだ」
「ならそこにしよう」
 賭は、戒那の勝ちである。


 ケーキを買ったその帰り。
「帰ったら仕事の続きだな、いい気晴らしになっただろ?」
 ぐっと言葉に詰まってから。
「……ケーキ食べてからで」
「早くしないと夜倉木が来るぞ」
「来そうだよなぁ……」
 どうするかを考えながら、タバコを吸い出したりょうの方を振り返る。
「賭の事だが……」
「……先輩?」
「来年もこのまんまのお前でいた方が俺は嬉しいな」
 人の心が、行動が、感情が色々な面を会わせて形作られている事は解っている。
 とても単純に見えて、一部から見たのでは決して解らないような深い、危うげな面も持ち合わせているのだ。
「それって……」
 驚いたのか、考え込んでいたのか……そのどちらともいえるし、それ以外だったのかも知れない。
「盛岬、火を付け忘れてる」
「あっ………」
 意識が余所にいっている間だ、まっさらなタバコをくわえていただけの状態だった事を指摘され慌てて火を付けた。
「そろそろ時間だな」
 歩き出した戒那にりょうが声をかける。
「さっきのって……?」
「そのままの意味だ。あまり深く考えなくてもいい、苦手だろう」
「ごもっとも」
 今までのように、笑っている事が出来たらいい。




□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0121/羽柴・戒那/女別/35歳/大学助教授】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

発注ありがとうございました。
楽しんでいただけたら幸いです。

書いていて思ったのが、
りょうとっての先輩の影響力はやはり大きいなと言うことでした。
最後の一言にドキリとしましたとも。
ポイントの付き方が流石だと。
これからにかなりの影響を出る事間違い無しです。