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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


Grand-guignol −第二夜−

【0.行動開始】

 先日の人形回収を頼んだ者たちの話を総合して、碧摩・蓮はため息をついた。
 壊れてしまうと、惜しい、伝説のアンティーク『月蝕人形・オペラ』。
 蓮はその残骸を前に、一際大きなため息を吐いた。
「宮田の家へ行くべきかねぇ」
 蓮の祈りも虚しく、翌日テレビのニュースに大々しく乗ってしまった「宮田喜一」の名前。
 人道上の問題か映像には報道規制がかかり、事件があったであろう場所の正確な位置はつかめなかったが、知らないわけではない。
 ため息を付きつつも、付けっぱなしのテレビにニュースではもう直ぐ今世紀最大のイベントとして月蝕を取り上げている。

 どうして、宮田の家に『月蝕人形』があったのか。
 月蝕の夜に人形達は何をしたいのか。

 正直、今の蓮には謎ばかりであった。唯一つ、当面の謎を解き明かす道として、フェリオ・フランベリーニの子孫の捜索と、宮田家の謎。
 フェリオ・フランベリーニの子孫は、一応探偵と名を背負っている草間に頼んだし、こっちは宮田の謎を解くべきだろう。
 蓮は立ち上がると、店の中をぐるりと見回す。
 カランと店の扉のベルの音がして、蓮は顔を綻ばせると、
「ああ、いい所に来たね」
 と、早口にまくし立て、壊れた人形が入った小さな箱と、宮田の家の住所を押し付けた。

【1.真実の切れ端】

 目の前でピシャリと閉まったアンティークショップ・レンの扉を前にして頭をかく御守殿・黒酒。隣を向けば、同じように蓮に早口にまくし立てられ巻き込まれた、自分よりも幾分か年上のサングラスを掛けた青年。
 正直こんな(と言っては失礼だが)いかがわしい店に足を運ぶようには到底見えないなどと思ってしまった。青年はため息をつきつつも黒酒の方を見る。
「まぁ、同じお願いされた者どうした。俺は幾島・壮司。あんたは?」
「ん〜―?あぁ、ボクは御守殿・黒酒。宮田喜一ってさぁ、今朝のニュースでやってた無差別殺傷事件の、あの『宮田』だったりするわけぇ?」
「そういえば、そうだったな」
 この手の上の人形の残骸を見下ろして、壮司は昨夜の事を思い出す。
 東京の片隅の界隈で起こった夜の通り魔。重傷者は出たものの、幸い死者はでなかったが道路に流れ出た血の量の清掃に困るほどだったと言われている。
 直接宮田の家へ行く前に、宮田家自体を調べる必要があるだろう。旨い具合に人手は自分と、隣の壮司が居る。それなりの情報は集まるだろう。
「あんたはどれだけ動ける?」
 壮司は視線を黒酒に向け問いかけると、壮司が受け取った人形の残骸が入った箱を見つめていた顔を上げて、今度はあさっての方向へ視線を泳がせると、
「それなりにはねぇ。キミよりは広い情報網持ってる自信はあるよぉ」
 確かに人は見かけによらない。
 壮司には壮司の情報収集方法があるのだろう。黒酒も行きつけの情報屋や裏社会に通じる情報網などいろいろと伝はある。
「宮田の家にいく場合は警戒した方が言いと思うからな。一応宮田の家を調べて、夕方またここで」
「なぁんで、キミの言う事聞かなきゃいけない?」
 口を尖らせる黒酒に、壮司は薄く笑うと、
「いろいろ、あったんだよ」
 当事者だったことで知ってしまった情報を黒酒にかいつまんで説明する。
 黒酒は相槌をつきながらその話をノートにメモって、壮司の腕の中の箱を指差す。
「そ・れ、ボクが預かってもOK?」
「構わないぞ。この残骸から解る分はもう頭に入ってるからな」
 自分の頭をトントンと指差し壮司は不適に笑うと、箱を黒酒に渡した。

【2.宮田邸】

 夕方、お互いが拾った情報を確認しあいながら宮田の家へ着いた時、予想はしていたもののその騒がしさに眉をひそめた。
 やはりこの前事件のせいか、今だ日にちも立ってない宮田邸の周りにはマスコミが押しかけごったがえしている。
 予想よりも古く大きな家に見入っていると、
「もう、帰ってください!!お話しすることなんてありません!」
 年のころ16歳くらいの眼鏡の少年が2階のベランダから叫ぶ声に二人は顔を上げた。
「あ〜れが、宮田陽一だねぇ」
 宮田の家族構成は死んだ喜一を除けば、現在、妻・長女・長男の3人となる。
 黒酒が口にした陽一は、宮田家の長男である。
 マスコミの間を縫うようにすり抜けてインターホンを押す。それと同時に、持ち前のデーモン『ピンキー・ファージ』を建物に同化させる。
 簡単に出るとは思っていないが、とりあえずの礼儀だ。
(マスコミが邪魔だな…)
 壮司は玄関の前で後ろを振り返り、少しサングラスをずらすとマスコミをぐるりと一瞥する。
 玄関から背を抜けている壮司をよそに、黒酒はしつこく何度もインターホンを押すと、怒ったような先ほどの陽一らしい声が返ってきた。
「すいません、生前の喜一さんに大変お世話になり、お線香を上げさせて頂けないでしょうか?」
 普段ののっぺりとした口調をがらりと変えて、インターホンの向こうに向けて丁寧に答える黒酒。
[ また後日にしてもらえないでしょうか ]
 声にはまだ幾分か怒気が残っていたが、遠く女性の声がすると、ゆっくりと玄関の扉が開いた。
「わざわざありがとうございます……」
 疲れきったような女性が玄関の扉を本当に薄く開ける。
 そうとうマスコミによって疲弊させられてきたのだろう。喜一の妻にしては年老いた感が否めなかった。
「大丈夫ですよ。マスコミは動きませんから」
 壮司はサングラスをかけなおして振り返ると、女性に向けてにっこりと微笑む。
「キミ何したの?」
「動きを制限させてもらった」
 女性に聞こえないように黒酒の質問に答えた壮司の指先からは、眼に見る事が出来ない霊子の糸が伸びていた。
 女性―妻の紀子は不安げに少しだけ外を見て、二人を家の中へ招きいれ、リビングに通す。
「ごめんなさいね…遺体がまだ、帰って来なくて…。あの人がそんな事件を…起こす、なんて……」
 くっと口を押さえた紀子を娘の真紀が支える。
 宮田喜一という男は、こんな大きな家があるものの、それは先代・先々代から築き上げたもので、彼自身はしがないサラリーマンでしかなかく、会社の地位も部長というそれなりに責任のある立場で、黒い噂や側面などは一切なかった。
 この場所に最初に家を建てたのも先々代が戦後直ぐらしく、それ以前の記録は漁る事ができなかった。結論からすれば問題があるのは、混濁する戦前の記録の方となる。
「あんた達は、お父さんとどういう関係だったの?」
 母親を支えリビングを後にした姉の背を見つめ、二人に口を開いた陽一。
「喜一さんが、とある店に持ち込んだ人形があるんだが、それ関係でちょっと、な」
「人形?」
「こ〜れ」
 首をかしげた陽一に黒酒は脇から箱を取り出す。
「喜一さんの遺品になるかと思ってねぇ。もとあった場所に返してあげたいと思ったわ〜け」
 黒酒には同化させた『ピンキー・ファージ』の力を使って家の中に何か残っていないか調べさせているため、わざわざ陽一が教えてくれなくても差しさわりがない。だが、嘘をついていたら直ぐにわかる。
「喜一さんが言うに、おじいさんの開かずの部屋にあったものらしいんだけど。その部屋、案内してもらえないか?」
 二人の言葉に陽一は疑いのまなざしを浮かべつつも、彼自身も真実を手に入れていないせいだろう、不機嫌を前面に押し出してしぶしぶ案内してくれた。
「ところでキミは『月蝕人形』って知ってるぅ?」
 2階への階段を上がり長い廊下を歩きながら、何気なく問いかけてみる。
「なんですかそれ?あたらしいゲームかなにかですか?」
「んじゃ、なんでもな〜いよ」
 嘘か本当かまでの真偽は別にして、いかにも現代人らしい答えが返ってきた事に、無駄にほっとする。
 喜一はあんな最後を迎えたが、家族はいたって普通だ。それが尚更気の毒でならない。
「ここです」
 案内をするだけで、陽一はドアノブに手を掛けることはしない。二人をドアの前に行くよう進めて、さりげなく後ろに下がった。
 そんな陽一の行動に壮司は怪訝そうに眉を寄せつつ扉を開ける。元・開かずの間に足を踏みいえると、冷たい空気に一瞬ぶるっと身体が震えた。
 月蝕人形・オペラの残骸を部屋の床の上に置く。
 壮司はサングラスを外すと、部屋中をゆっくりと見回す。
 そんな壮司を黒酒は横目で見ながら、自分も宮田邸に忍ばせたデーモンの動向を何時もよりも細かく分析する。
 何分たっただろうか?
「壮司さ〜ん?」
 動きの止まった壮司を訝しげに覗きこむ黒酒。壮司はハッと自分を思い出したようにサングラスを掛け直した。
 壮司が言っていた事象・物質の解析が出来る『神の左眼』で見たこの部屋の過去に集中していたのだろう。
 リビングに戻っていた紀子と真紀に挨拶をして宮田邸から出ると、二人は屋敷の裏手に回る。
 壮司はマスコミを拘束していた糸を解き、塀にもたれ掛かる。
「黒酒は何か手は打ったのか?」
 その横で黒酒は屋敷の裏手を見つめ、その神経質そうな顔が歪む。
「入れない部屋があったなぁ」
 インターホンを押した時点で『ピンキー・ファージ』が建物全てを同化しているはずである。だが、一箇所だけ同化できない場所がある。
 デーモンの感覚について建物の中を歩く。
「「おいたをする悪い子がいるね」」
 確認するように廊下を移動していたデーモンの瞳が止まる。古いが故に広い廊下に、シンメトリーの様な光景が広がる。それが同じ角度で同じように経っている二人の人だと気付く。
 貼り付けたような笑みを浮かべ、瞬きの無いガラスの瞳が鈍く輝く。
「「あなたはマスターの邪魔をする人?それとも協力者?」」
 二つの口が二つの音で同じことを発する。
 探査を止めたデーモンを通じてその声は黒酒に届く。情報屋を使って調べたこの家の情報に、妻と二人の子供以外の記録は無い。
 先ほど訪れた際に会った妻の紀子、娘の真紀、息子の陽一の3人だけのはずだ。
ならば今、まるで家の中に溶け込み同化しているはずの『ピンキー・ファージ』を見えているかのように言葉を発しているこの二人は何だ。
 魔力によって攻撃されなければ傷つく事も死ぬ事もないが、手の内が相手にばれてしまう事は好ましくない。
 デーモンの動きを止め、二人が居なくなるのを待つ。
「メロディー、シンフォニー?」
 少年とも少女とも着かない声が、二人が行く手を阻んだ家の奥から響く。シンメトリーの二人は顔を見合わせると、
「「ただいま参ります。マスター」」
 抑揚の無い声でやはり二人同時に答え、くるりと背を向ける。
「お帰り下さい」
「邪魔をする人は全力を持って排除します」
 口元だけを吊り上げて微笑むと、シンメトリーの二人は家の奥へと消えていった。

【3.宮田とフランベリーニ】

 宮田の古い家で黒酒が出会った謎の二人と、壮司が事象さえも視る事ができる『神の左眼』で視た過去。
 黒酒は壮司があの部屋で見た、フェリオの特徴や部屋を一瞬で暗くした事を聞き、あの家が出来たであろう年代に合わないと思いつつも、自分がデーモンを通じて聞いた性別の分からない声はもしかしたら同じかもしれない思ってしまった。
 その後、壮司と黒酒はお互いが掛け合う言葉を見つけられないままアンティークショップ・レンへと帰る。
 レンでは店主の蓮が、椅子の上に足を組んで一心に何かの書類を読んでいた。
 二人が帰ってきた事に顔を上げると、書類を近くの机の上に置いて、結果を求めた。二人はお互いが仕入れた情報と、今日宮田の家で起きた事を蓮に逐一話す。
「やっぱり、宮田の家にはオペラ以外は無かったかようだね」
「どういう事です?」
 首を傾げる壮司と黒酒に、蓮は先ほど読んでいた書類を渡す。書類を手から離れると、蓮は何時ものキセルに火を入れた。
 覗きこむように読み進めたそれは、草間興信所に頼んだ調査依頼の結果だった。
 そこに写っている二人に、言葉をなくす。
「その写真に写っているのは、フェリオ・フランベリーニの曾孫のオフェーリア・フランベリーニと」
 蓮は一度そこで言葉を切り、壮司は蓮に向けて顔を上げる。
「月蝕人形トラゴイディア」
 曾孫という事は、宮田の家で視た記憶の中のフェリオの外見が少し若すぎるような感を感じつつも、とりあえずのつじつまが合う。
 横から書類を受け取って、トラゴイディアと呼ばれた人形の写真を見た瞬間、黒酒の顔が不機嫌に歪む。
「似てるなぁ」
「確かに、このオフェーリアとオペラはそっくりだ」
「違う、そっちじゃなくって」
 黒酒は二人に見えるように書類を裏表ひっくり返すと、トントンと写真のトラゴイディアを指差した。
「このトラゴイディア。宮田陽一に似てるって思わな〜い?」
「トラゴイディアとフェリオは同じ顔だが、陽一は似てるか?」
 記憶の中のフェリオに出会っている壮司ではあったが、あの明らかに日本人の宮田陽一にこの月蝕人形が似ているとは思えない。
「眼鏡取ってもう少ぉし年とれば、そっくりだと思うけど」
 また自分の方に書類を裏返し、先を読み進む黒酒だったがカンカンとキセルの灰を捨てる音に顔を上げた。
「それで、黒酒が見たその二人…怪しいね」
「もしこの報告書どおりにフェリオが生きているとしたら、宮田の家に巧みに隠れて新しい月蝕人形を作った可能性はあるな」
「これってもう一度宮田の家に行った方がいいって事かい?」
「まぁ、そうなるな」
 蓮はふぅっと長いため息をついて頬杖をつきながら、遠くを見る様に窓へと視線を移動して、口をきつくかみ締めた。





――――――月蝕はもう直ぐ。





【幕間】

 白い指が、そっと開かずの扉だった部屋の中央にある人形の残骸に触れる。
「おかえり…オペラ…」
 愛しいものを手に取るように優しく抱き寄せる。
「君の頭さえ残っていればどうにでもなる」
 閉じられた硝子の瞳にそっと触れ口付けた。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【3950 / 幾島・壮司 (いくしま・そうし) / 男性 / 21歳 / 浪人生兼観定屋】
【0596 / 御守殿・黒酒 (ごしゅでん・くろき) / 男性 / 18歳 / デーモン使いの何でも屋(探査と暗殺)】


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■         ライター通信          ■
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 Grand-guignol −第二夜−にご参加ありがとうございますライターの紺碧です。初のご参加ありがとうございました。
 フェリオ氏の面影・幻影を追いかける第二夜でございましたが、ご不明な部分はもう一方のお話しを読んでいただければと思います。謎をちりばめただけのお話しになってしまいましたが、幾つの複線がばれたかとビクビクしております。あまり抑揚の無い説明のような話しになってしまいましたが、第三夜はどたばたする予定であります。
 それでは、また黒酒様に会えることを祈りつつ…