コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


あけまして…おめでとう?


○オープニング

 いろいろなことがあった2004年。そんな今年ももうすぐ終わり、2005年が始まる。
 それは誰にとっても平等にそうなわけで、ここライブスタジオク・メルも当然そうである。

「初日の出を見にいこう♪」
 明るく切り出したのは里緒だった。
「お、そりゃいいな」
「本当ですね」
「楽しそうだっちゃ〜♪」
「……」
 それに反対するものは一人としておらず、すぐに決まった。

「で、何処に行くんですか?」
「ん?富士山」
 綾人の問いに、里緒がさも当然のように答える。
「…ちゃんと、移動手段の算段とかはついてるんですよね?」
「…あ、忘れてた。というわけで、綾人クンよろしくー☆」
 その言葉に、綾人の顔が引き攣った。





* * *

「…それじゃ、運転はお願いしますね。全く、なんでボクがこんな車の手配まで…」
 結局、綾人がワゴンを二台手配した。こんな適当な女の下で働かされる綾人合掌…。
「あはは、ごめんごめん。それじゃいってみよー☆」
 まぁなんだかんだと不安なことが続いたが、二台の車は富士山へと走り出した。



「…で」
 車から降りてきたアスカが開口一番、青筋をひくつかせる。
「なんで富士山じゃなくてその下の樹海にきてんだよおめぇはー!!」
 一行の目の前には、ただ森が広がっていた…。
「あ、あはは…道、確認しなかったのがまずかった…」
「…あの、里緒さん…確認しなかったんですか?」
 最後はぼそぼそと言ったはずなのに、唯奈は聞き逃さなかった。
「あ、いや、そんな訳ないでしょ!これは…そう、樹海の中を探検して、各々で富士山を目指そうっていう趣向なわけよ!」
「滅茶苦茶言うなー!!」
 鬱蒼とした森の中に、アスカの叫び声だけが響いた。

「んでも〜この面子なら幽霊くらいどうってことないっぺ?」
「てめぇも楽しそうに笑ってんじゃねー!!」
 あ、洪陽の顔に二代目虎仮面並のアスカのエルボーが刺さった。





○ここからどうしましょう?

「…にしてもさぁ。深夜の樹海って本気で怖いな…」
「…なんかさ、森自体が呻き声上げてるように聞こえるのはあたしだけか?」
 それが、火宮ケンジの開口一番の言葉だった。アスカも鬱蒼と茂る森を見つめながら呟く。別段幽霊が怖いわけではないが、その雰囲気が怖いのだ。なんというか、まさにうらみのオーラというか、得も知れないものが漂っているというか。
「あ、お兄ちゃんの後ろに誰か立ってるのー」
「えぇ、どこに!?」
「えへへーどっかいっちゃったのー」
 藤井・蘭がにっこりと指を刺すと、不意打ちを喰らったケンジは本気であせる。その隣で、アスカと唯奈と里緒が一緒に驚いていたりする。

「とりあえずさーちゃっちゃと進もうぜ?幾ら夜っても、登山のことも考えたら日の出までそう時間があるわけじゃねぇしよ」
「そ、それもそうだよね…とほほ、普通の初詣にしておけばよかった」
 後悔先に立たず。桜木愛華は彼氏の藤宮蓮の隣でこの言葉の意味を噛み締めていた。
 初めて蓮と過ごす新年、どうせだから楽しいほうがいいだろうとク・メルにやってきたのが完全に仇となった。愛華は全くダメなのだ、怖いものが。
 しかし、蓮は別にそう言う風に思っていなかったりする。愛華の怖がる様子をにやにやと見ているのは、本来の悪戯気質のせいか、それとも彼氏としての特権か。

「……」
 グラハルト・シュナイダーは頭をポリポリとかいた。何故自分がいながら、こんなところへこさせてしまったのか、言葉にはしないがちょっと後悔していたりする。
 まぁ昨晩仕事のせいでまともに寝れていなかったことを考えれば、車の中、アスカの隣で熟睡していた彼を責められる人物はいないだろう。っていうか里緒が全部悪いし。

「ま、まーそれじゃ行きましょうかー」
「ちょっと待ってください!」
 とりあえず進もうとした里緒を、懐に兎の顔をひょっこりと出したおっさんが呼び止めた。こんな妖しいおっさんは一人しかいない、シオン・レ・ハイその人だった。
「シオンクン、どうしたの?」
「実は、少しお願いがありまして」
「お願い?」
 里緒は首をかしげた、今から死地(違う)へと赴こうというこのとき、一体どんなお願いがあるというのか?
「里緒さんの荷物をお持ちしますので…兎耳を生やしてください!」
『ピシッ!!』
 瞬間、全員凍りついた。
「兎ちゃんとお揃いです!」
 シオンだけはいたって真剣な表情だった。

「あの」
 そんな凍りついた彼らを氷解させたのは、一人の女性の声だった。
「道に迷ってしまったようで…ここが何処だか分かられますか?」
「えっと…実は、私たちも迷っちゃったんだけどぉ…」
「あら…それは困りましたわ…」
 女性はあくまで上品に、困ったように見えない仕草で困っていた。

「あ、わたくし鹿沼・デルフェスと申します、以後お見知りおきを」
 彼女は、店の年末最後の仕事で曰く付きの骨董品の買い付けに出張した帰りに年を富士山で越そうと思い、ここにやってきたのだという。
「…もしかして、今富士山にくるつもりで迷うのが流行ってる?」
「バカヤロ」
「いでぇ!?」
 ケンジのくだらない呟きに、アスカのコブシが容赦なくとんだ。
「まぁ旅は道連れ世はなんたら〜っていうし、どうせだからデルフェスクンも一緒に行こう!」
「そうですわね、これも何かの縁ですし、わたくしも富士山で初日の出を見たいので樹海探索に同行しますわ」



 そんなこんなで、樹海には全く相応しくない賑やかな一行が歩き出した頃、樹海の中で一人の男が何かをしていた。
「なぜ私がこんな事をしなければならないのです。こんな事は一般の警察にやらせればいいものを…」
 ブツブツグチグチと、愚痴ばかりが静かな樹海の中に響く。男は樹海の中、何かを探していた。
「あーもうやってられません」
 男は遂に音を上げた。やる気なさそうに、そこら辺にある適当な木にもたれかかる。
 男の名は立花正義。以前唯奈にぶん投げられて気を失うという醜態を晒した男である。
 何故彼がこんなところに来ているかというと、何時までも実績のあげられない正義を上層部が放って置くはずもなく、樹海に住む能力者探索と言う胡散臭い任務を命じらてしまったからである、しかも一人で。ある意味自業自得なのだが、なんとも悲惨だ。

「…ん?」
 そんな彼の耳に、なにやら賑やかな話し声が入ってきた。こんなところに一体誰が?彼は気配を消して、静かに声の主へと近づいていく。
「うぅ…怖いです…」
「姉さん怖がりすぎだよ」
 賑やかな中で、一際怖がっている唯奈、そしてその姉に付き添うように歩く綾人が見えた。
『あの女は…!』
 その姿を見た瞬間、あの日の記憶がよみがえる。きっちり気絶する瞬間に見えたような気がした星まで思い出せる辺り、かなりその恨みは根深いようだ。完全自業自得なのに。
『フッフッフッ、この私にも運が向いてきたようですねぇ。この前の借りを返すチャンスがこうも早く来るとは』
 また碌でもないことを考えて、正義は行動を開始した…行く末がなんとなく予測できるあたりがまた悲しい…。





○樹海に迷って…



 さて、こんな状況で黙っていない人間が一人いる。
「……」
 そいつは、今までまともに発言していなかった。
 ビビっていたのか?たじろいていたのか?
 いいや違う、ただ単に、虎視眈々と皆を驚かせる機会をうかがっていたのだ。男の名は…、
「にゃは☆」
 道上洪陽―――。

「…怖いなぁ…」
 既にその目は、怯える獲物をロックオン☆
「そんなに怖がるなってーの」
 隣には彼氏、しかし彼にはわかった。彼氏からは同じ匂いがしてくることを…!

 チョイ、チョイ。
 蓮にだけ見えるように、洪陽は小さく手招きした。
「…ん?」
 それに蓮もすぐさま気付く。愛華とつないだ手は離さずに、耳だけ洪陽に傾けた。
『…どう彼氏、これから驚かしエンジョイしない?』
 なんだその勧誘文句は!とツッコまれそうなものだが、その一言で蓮もニヤリと笑う。
 それが二人の合図、言葉は要らなかった。怖がる愛華たちと先頭グループが離れだしたのを見て、洪陽がささっと樹海の中に身を隠し、蓮はそれが見えないように動く。

 ガサガサガサッ!!

「ひぃ」
 樹海の中から何かが動く音、同時に一行の中から小さな悲鳴が上がる。
「な、何かいるの…っていやぁ何か今光ったぁ!!」
「だだ、大丈夫です愛華さん、こここここういうときはきっと気のせいなんですからぁあうぅ」
 怖がる愛華を必死に唯奈が元気付けようとするが、茂みの中で何かが光ったのが見えて一気に声が震え上がる。
「…あ、あれ、蓮、くん…?」
 愛華はあまりの恐怖に、その手を握ってくれていたぬくもりを確認しようとして、それがないことに気付く。隣に蓮はいなかった。
「あ、綾人まで…み、皆さん何処に行かれたんですか…?」
 ゆっくりと周りを見渡すが、既に周りには誰もいなかった。
 愛華と唯奈、二人っきり。この広くて暗い樹海の中、お互いの呼吸だけがやたらと大きく聞こえる。
 もう一度周りを見渡すが、あるのは鬱蒼と茂った森、そして闇だけ。怖いものがダメな二人にとっては地獄のような環境。
「あ、あの…す、進みませんか?た、多分皆少し先に行ってるんですよ」
「そ、そうです、ね…」
 どちらからともなく手を握り、二人は歩き始めた。



「…あれ、愛華ちゃんに蓮君がいない」
「洪陽に唯奈と綾人もいないぜー」
 割と怖いものが平気な先行グループは、あまり気にすることなく森の中を進んでいたので、何時の間にか五人を置いてけぼりにしていた。
「…大丈夫なのか?」
「ま、まぁ綾人に蓮もいるから大丈夫じゃないか?」
 グラハルトの呟きに、ケンジは、いや皆不安を隠すことが出来ない。
『だって一緒にいるの洪陽だし…!』
 その考えだけは、皆共通していた。



 その頃、頼みの綱の綾人は。
「ングググ!?」
 蓮に捕まっていた。
「プハァ…!な、何するんでグッ!?」
 やっとのことで離してもらい、蓮に何でこんなことをするのかと説明してもらおうとした瞬間、また口を塞がれた。
「まー面白いもんみれるんだから静かにしとけって」
 その口を抑えながら、蓮は意地悪そうに静かに笑った。

「だ…誰かいませんかぁ…?」
「…うぅ…」
 愛華が呼びかけても、勿論返事は一切ない。あるのは、森が風に揺れるカサカサという乾いた音だけ。唯奈は完全にへっぴり腰である。
 二人とも恐怖に顔を引き攣らせ、ゆっくりゆっくりと歩いていく。

 ガサガサガサ。

「ひぅ…」
 森の中から聞こえる何かが動く音に、二人はまたビクッと震え上がる。

 ガサガサガサガサ。

 その音は確実に二人に近づいてくる。
「あ、あの…に、逃げたほうがいいんじゃ…」
「で、ですよね…そ、それじゃあ…」
 恐怖に染まった顔のまま二人は頷きあい、そして走り出した――――。





* * *



 愛華たちがなにやら大変なことになっているそのとき、先行グループは。
「…さっき来たよな、ここ」
「しかも里緒さんたちいないし…」
「…迷ったか」
「困りましたわ…」

「…あら、アスカたちは?」
「知らないのー」
「何時の間にかはぐれたようですねぇ」
「……」
 なんか二手に分かれて迷ってた。



* * *



「…しょうがない。俺たちだけで行くか」
「だな、しょうがねぇし」
「里緒さんたちだから心配ないだろ」
「…いいのでしょうか?」
 さっさと歩き出したケンジたちに、デルフェスは思わず少し苦笑を浮かべた。

『……』
 先頭を歩くのは、ケンジとグラハルト。二人の間に言葉はない。
 二人はお互いのことを微妙に意識し…いや、多分ケンジだけが意識しているんのだろうが。原因は勿論アスカ。
 お互いがアスカのことを少なからず思っていることを知っているため、自然と二人の間には会話がなくなる。その原因のアスカは。
「アスカ様はどのような音楽を?わたくしはもっぱらクラシックですが…」
「んー割と色々かなぁ。お袋もミュージシャンだからよ、ガキん頃から色んなやつ聞いてきたから。
 クラシックも好きだぜ、色々。アルカンジェロとか。まぁ一番好きなのはラフマニノフだけどな」
 のんきにデルフェスと音楽談義で盛り上がっていたりする。
『…アルカンジェロって何だ?ラフマ…ラフメイカーだったら分かるんだけど』
 ケンジは単に分からないから話に入れないっぽいが。というか、一応ミュージシャンの端くれとして、これはどうだろう?

「…危ないぞ」
 話に夢中のアスカの前に木の折れた枝が迫り、咄嗟にグラハルトがそれを払う。彼の手には、何時の間にか大振りのナイフが握られていた。
「ははっ、悪ぃ…って」
「気をつけろ」
 アスカは礼を言おうとして、また足元の枝に躓き倒れそうになるが、それをグラハルトが受け止める。自然、抱き止めるような形になった。
「……」
 ケンジはそれを言葉もなく見ていた。

「……」
 それからしばらく、また会話のない時間が続いた。グラハルトは元々あまり喋らないし、先ほどのことが全く面白くないケンジは半ば拗ねるような感じで歩いていた。そして、当のアスカは全くそれに気付く様子はない。三人の様子を見て、デルフェスは少し苦笑を浮かべた。
 そんな時、アスカの歩みが止まる。
「あれ…」
「どうかなされましたか?」
「いや…なんか、声聞こえねぇ?」
 キョロキョロと周りを見渡すアスカ。デルフェスが聞くと、相変わらず周りを見渡しながら答えた。
「声…ですか?」
「俺は聞こえないけど…」
「…俺も聞こえなかったな」
 デルフェスたちには何も聞こえなかったようだが、それでもアスカは何かを探すように周りを見渡す。
「…ここって樹海だよな。ってーことは…」
「…可能性大、だな」
「…さっさと先に進んだほうがいいかもしれませんわね」
 三人は頷きあう。アスカは未だに周りを見ていた。
「…そういうわけで」
「行きましょうか」
「だな」
 もう一度三人は頷きあい、そしてケンジがアスカの手をとって走り出した。
「お、おい!声が聞こえるんだって!」
「ここは樹海なの、そういうのはヤバイの!」
 そして、四人の姿はあっという間に樹海の奥へと消えていった。
『…シクシクシク』
 その後ろで、本当に悲しそうに女の子が泣いていた。多分、無視されたことが悲しいのだろう。
「そんなわけねぇだろ!!」
「ケンジ様、一体誰にツッコミを?」
「…いや、なんとなく」
 そして、彼らはさらに奥へと迷い込んでいくのだった。



* * *



 一方の里緒たちだが、本当に和気藹々と進んでいた。中でも上機嫌な人物が二人、シオンと欄だった。
「〜〜〜〜♪」
 二人ともスキップしそうなくらい上機嫌だった。
「何でそんなに二人とも機嫌がいいわけ?」
 振り向いた二人は、やはりこれでもかというくらいに笑顔だった。
「えへへ、大好きなAzureの人たちと一緒にお出かけできたからなのー♪」
 欄は、以前自分の持ち主とAzureのライブにきており、その頃からのファンなのだという。
「でも幻滅しちゃったんじゃない、メンバーがあんなんで」
「ううん、皆面白くていい人ばっかりなのー♪」
 洪陽をいい人と言えるあたり、かなり大らかだ、っていうか神様みたいだ!
「……」
 その言葉を聞いて、微妙に玲も頬を染めていたり。

「で、シオンクンは?」
「実は子供の頃に過酷な環境に置き去りにされたり、無人島で何ヶ月も1人で生き延びた経験があるので、何だかこの樹海は懐かしい感じがしまして」
 ハハハハと思いっきり笑顔でそんなことを言い放つ。その言葉を聞いた三人は思った。
『どういう子供時代だよ!!』
 そんな三人とは関係なしに、貧乏人シオンは今日もおなかが空いていた。既に持ってきた食料はない。
「おなかが空きましたねぇ…」
 胸元からピョコンと顔を出す兎を撫でながら呟く。そして、その目は岩に生える苔へと向けられていた。
「いやぁ、小さな頃はこういうものもよく食べたものです」
「「「!!」」」
 しみじみと言いながら、シオンはその苔を食べ始めた!
「皆さんもどうです?美味しいですよ?」
「…いや、いいわ」
 モシャモシャと食べながら勧めるが、当然誰も食べるはずもなく。

 そんな悪食シオンを連れながら、四人は意外にもスムーズに富士山への道を歩んでいた。全ては、蘭がいるおかげである。
「うんうん…分かったの、ありがとうなの♪富士山はこっちなのー」
 蘭が行くべき道を指差す。植物と心を通わせることが出来る彼の存在は、ここでは何よりも心強い。
「蘭クン偉い偉い♪」
「えへへなの♪」
「……」
 里緒と玲の二人に撫でられ、何処までも上機嫌の蘭だった。

「では参りましょう!」
 気合一発、シオンが前へと進み始めた。何故か仰向けになって這いながら…。
「…シオンクン、何やってるの?」
 里緒が聞くと、
「見ての通り匍匐前進です!」
 いや、仰向けの時点で違うじゃん。そんなツッコミを心の中で入れる里緒と玲。
「さぁレッツゴーです!」
 しかし、シオンは関係なしに進み始める。
「こうなの?」
「そうです!さぁ生きていれば〜たぶん〜いいことありますよ〜♪」
 何故か一緒にリバース匍匐前進で進み始めた蘭と一緒に、シオンは上機嫌に歌を歌いながら進んでいく。
「…あ…」
 そんなとき、玲はなにやらキノコの食べかすのようなものを見つけた。
「…もしかして…これ食べて…?」
「貧乏でも〜心は錦〜♪」
 妙にハイなシオンを見ながら、やっぱり拾い食いは危ないなぁとのほほんと思う玲だった。





○登れ、富士山!



「あぅぅ…」
「あ、あの愛華さん…ここは、何処なんでしょう…?」
「わ、分かりません…」
 愛華と唯奈は、見事なまでに迷っていた。恐怖のあまり走りすぎて、自分たちが本当に何処にいるのか分からなくなってしまった。
 周りを見回してみても、勿論誰もいるはずもなく、恐怖だけが募っていく。
 ちなみに、蓮たちは。
『くくっ…怖がってるぜ』
『…意外に性格悪いんですね、蓮さん』
『ばーか、彼女の色んな顔見てみたいだろ?』
 すぐ近くに潜んでいたりする。

「れ、蓮くーん…」
「あ、綾人ー…」
 二人が呼びかけても、何処からも返事はない。だって、怖がるのを見たくて隠れてるし。
 びくびくと体を震わせながら歩く二人、そのとき。

 ガサガサガサ…。

「…な、何かいる…?」
「は、早く行きましょう愛華さんッ!」
 何かが動く物音に、また二人は逃げ出した。

「ハッハッハッハッ…」
 走る、ただひたすらに森の中を走る。
「こ、ここまでくれば…」
 ひたすら走り、二人は大きな木の前で止まった。荒れた息を整えるように大きく息を吐き出す。
「も、もういないみたいですね」
 と、二人が振り向いたとき、

「何が、いないって?」

 顔の見えない、大きな人影が一つ――――。

「「イヤァアァァァァァァァァァッ!?」」
 恐怖と緊張がピークに達していた二人は、すぐさまその場を走り出した。

「…ありま、逃げちったい☆」
「洪陽さんよーちょっとやりすぎじゃねぇか?その前髪とか」
「俺っちは元々こうだべやー♪」
「いや、二人とも追いかけようよ…」
 のほほんと会話する二人に、思わずツッコミを入れてしまう綾人だった。



 で、逃げた二人だが、さらに森の奥へと迷い込んでいた。
「お、追いかけてきてない…?」
 愛華が周りを見渡すと、特に何かがいる気配はしなかった。森の中に動くものもなく、とりあえずホッと胸をなでおろす。
「さ、さっきのはなんだったんだろう…?」
「きっと、この森で亡くなられたお方かと…」
 いや、洪陽なんですが。しかし、怯えきった二人にそんなことは分かるはずもなく。

 そんな二人を、いや、唯奈を森の中から見つめる影一つ。
『ふふふ…今日はきっちりとお返しをさせていただきますよ』
 正義だった。彼も、蓮たちとは別に唯奈を追ってきていた。
 何故か、その手には鉈がもたれていた。無骨な刃が鈍く光る。
『では行きますか…』
 やはり何故か持っていたホッケーマスクを被り、31日なフライデーを気取って正義は歩き出した。

 愛華たちは再び歩き始めた。やはりびくびくと体を震わせながら。
 鬱蒼と茂る森の中をしばらく歩いていくと、少しひらいた場所へと出た。
「す、少し休みましょうか…」
「そうですね…」
 あまりの恐怖に全力疾走を重ねてきた二人には、かなり疲労がたまっていた。座れそうなところを見つけて、腰を下ろす。
「はぁ…とんだ年越しになっちゃった…」
「そうです……っ」
 言いかけて、唯奈は息を呑んだ。
「あっ、あぁ…」
「唯奈さん、どうし…」
 一点を見つめる唯奈に、愛華は声をかけ、すぐに同じように言葉がとまった。
 二人の視線の先には、蹲る一人の男。
「…見たな…」
 固まって動けない二人の前で、男が振り向く。
「…やっ…」
「見たからには死ね…!」
 その顔にはホッケーマスク、そしてその手には鈍く光る大振りの鉈。
「やぁぁぁぁぁ!!」
 二人の絶叫が、森の中へと木霊した――――

「おい、今の!」
「ちょっ、本気でヤバいんじゃ!?」
「ちゃっちゃと行くべー☆」
 その悲鳴を聞いて、男衆も走り出した。

「や…」
「な、なんでこんな…」
 愛華と唯奈はその場を全く動けずにいた。あまりに恐怖に、短い悲鳴と涙しか出てこない。その様子を見て、正義は少し内心あせっていた。
『むぅ…これではただの変態ではないですか』
 実際その通りです正義さん。そんな彼の前で、二人は恐怖のあまりお互いの身を抱き合う。
『…中々美しい光景ですね』
 何考えてやがる。

「愛華ー!」
 と、そんなとき、男衆がやってきた。
「てめぇ…何しやがった!!」
「姉さんに何をしたー!!」
「へっ?」
 いきなりのことで、間抜けな声を出して振り向いた正義の顔面に、蓮と綾人のコブシがめり込む。悲鳴すら上げることが出来ず、正義はそのまま森の中へと吹っ飛んでいった。



* * *



「こ、この道で本当にあってのかな!?」
「知るか」
「道があるほうに行くしかねぇだろ!」
「そうですわね」
 ケンジたち四人は、ひたすら走っていた。途中で聞こえてきた泣き声が、あまりにヤバそうで嫌な予感がしたからだ。
 で、逃げられると追いたくなるのが人間の心理と言うもの。それは、どうやら幽霊であっても同じであるらしい。…まぁ元が人間だと考えれば当然か?
 要するに、四人は追われていた、幽霊たちに。

 それに最初に気付いたのはデルフェスだった。
 走りながら、何か異様な気配が後ろから漂ってくることに彼女は気付いた。
「…あの、皆様」
「な、何?」
 デルフェスの呼び止めに、皆走りをやめる。
「何か…異様な気配を感じません?」
「異様な…気配?」
 それを聞いて、グラハルトが少し周りを見渡す。
「…確かに」
「うわ、これって…」
「なーんかヤバい気がするのはあたしだけか?」
 異様な気配は一つだけではなかった。何処から漂ってくるのかは分からないが、確かに複数のものを感じる。
「…一気に駆け抜けたほうがよさそうだな、やっぱ」
「それには同意する」
「ですわね」
「じゃあ…ってなんかきたー!?」
 走り出そうとしたところで、アスカが思わず叫ぶ。四人の後ろから、大量の幽霊の群れがやってきた!
『オォォォォ…』
 やたらと恨めしそうな声をあげているが、何故かその全部が笑顔を浮かべているから余計に不気味だ。
「なんだこりゃ、ホラー映画でもこんなのないぞー!?」
 こうして、四人と幽霊たちの場違いな鬼ごっこが始まった。

「皆様こちらへ!」
 幽霊たちとの距離は一向に離れない、それどころか少しずつ近づいてきている。それを見たデルフェスは、皆を呼び寄せた。
「どうした?」
「考えがありますわ、これから少し皆様に術をかけます、少しの間ですから我慢してくださいまし」
「えっ、それって」
 有無を言わさず、デルフェスは三人に術をかけた。途端に三人が石へと変化していく。
「な、何だこれ…」
 程なくして、声も途切れた。デルフェスは換石の術で、三人を石へと変化させた。
「これで、霊はとり憑くことが出来ませんわ」
 デルフェスはにっこりと微笑む。元々ミスリルゴーレムの彼女には、幽霊たちはとり憑くことができない。程なくして、幽霊たちは諦めたように飛び去っていった。

「…あら、幽霊たちは?」
「いないみたいだな」
 石化を解かれ、背伸びをしながらケンジが周りを見渡した。特に何かの気配はしない。
「しっかし、石になるなんて中々出来る体験じゃねぇよな」
「そうですわね」
 二人して笑うアスカとデルフェス。確かに、石になることは多分一生かけてもないだろう。
「…笑っているところ悪いが、またここにいると危ないだろう…さっさと行くぞ」
「あ、そうだな」
 そして、また四人は走り出した。



 …で。
「やっぱりこうなるんかーい!!」
「俺たち何か悪いことしたかー!?」
「…ふぅ」
「これもまた楽しいのかもしれませんが…」
 結局、四人はまた追われていた。



* * *



「おお、富士山だー!」
 残りのメンバーがドタバタやっているころ、里緒たちは無事に富士山のふもとへと辿り着いていた。
「えへへ、ちゃんとついたなの♪」
「蘭君凄いですね」
 シオンたちに撫でられて、蘭はずっと上機嫌だ。まぁ彼らが無事に辿り着けたのも、蘭の力のおかげであるわけで、彼が褒め称えられるのは当然のことである。

 ちなみに、シオンはずっとリバース匍匐前進で進んできた。蘭は途中で疲れて普通に歩いていたり。
「新年いいことありますよ〜♪」
 いや、多分ずっと貧乏なままだと思います、はい。



「ほら…もう泣き止めって…」
「凄く、凄く怖かったんだからぁ…」
「…あ、里緒さんたちだ」
「あ…御姉様ー!!」
 そんな彼らに、愛華たちが合流した。
「…愛華ちゃんと唯奈ちゃん、どうしたの?」
「ははっ、ちっとな」
 泣きじゃくる愛華たちを見て聞いた里緒に、蓮は苦笑を返すことしか出来なかった。

「まぁなんにしても、無事に合流できたねぇ…って、あれ、ケンちゃんたちは?」
 皆集まり、ほのぼのしているところで里緒が気付く。
「いや、こっちにゃいなかったけど…お姉さんたち一緒じゃなかったの?」
「こっちにはいませんねぇ」
「途中から逸れちゃったのー」
 何処に行ったんだか…と皆心配し始めたところに、何か走る音が聞こえてきた。
「…ん?何か走ってくるぜ」
 一番最初に気付いたのは蓮だった。足音が大きくなってくるにつれ、皆もそれに気付く。
 足音がするのは、森の中からだった。
 そして、程なくしてケンジたちの姿が森の中から現れた。
「あ、ケンちゃー…」
「早く逃げろー!!」
「はい?」
 声をかけた瞬間、ケンジの口から飛び出した言葉に一同目を丸くする。
「いいから逃げろ」
 妙に静かなグラハルトの声が緊張感をもたらす。
「とりあえず逃げろー!」
「…皆様、本当にお逃げくださいませ」
 アスカとデルフェスもそのまま駆け抜けていく。何事かと思った瞬間、その後ろから何やら呻き声が聞こえてきた。
『オオオォォォォ!!』
 何事かと森の中へと目を向ければ、そこからは大量の幽霊の群れが!
「れ、蓮君何あれぇぇぇ!!」
「と、とりあえず逃げろ!」 
「もういやです〜!!」
「幽霊さん一杯なのー」
「おお、なにやら楽しそうですね!」
「楽しくないよー!」
 そして、また始まった一行と幽霊たちの鬼ごっこ。

「な、なんなんですかこれはー!」
 その頃、別のところでは吹っ飛ばされた正義がやっぱり幽霊たちに追われていた。

 こうして、一向は一気に富士山を駆け上がっていった。幽霊に追われるあまり、誰一人として止まることなくあの山を登っていったのは凄まじいの一言に尽きる。普通は途中でバテてしまうと思うのだが、まぁ皆尋常ではなかったということで。
「まぁ無事に登れたからそれでいいのー♪」
「体力なんてどうにでもなるものです!」
 いや、普通ならないから。



* * *



 なんだかんだで一気に富士山を上った一行だったが、富士山の上はまだまだ暗かった。
「まだ暗いなぁ…」
「ホント…あっ!」
 愛華が少し溜息を漏らしたそのとき、雲を割るようにして太陽が昇り始めた。
『おー…』
 雲を染めながら上がっていく太陽に、思わず一同から感嘆の声が上がる。雲の上から見る初日の出は、これ以上ないくらいに美しく感動的だった。

「よかったぁ、ちゃんと見れて…蓮君、今年もよろしくね」
「ん、よろしくな」
 去年と大きく関係が変わっていたり、
「今年もいい年になりますように!」
「きっとなるのー♪」
「新年早々ドタバタしましたから、今年はきっと色々大変ですわね」
「くっ…今年こそは…!」
 特に変わらず、新しい年に思いを馳せたり、
「…今年もよろしくな」
「ははっ、こっちこそな」
「む…アスカさん、今年もよろしく」
「おう、ケンジもな」
 微妙に変わってたり変わってなかったりで大変だったり、まぁ各人色々とありまして。

 とりあえず、新年の挨拶を。

『明けまして、おめでとうございます』



「…あれ、正義さん何時の間に?」
「いや、ははっ、偶然ですねぇ…」
 何時の間にか合流してるあたりが、正義らしいというかなんというか。



「それじゃ、みんなで記念写真を撮るのー♪」
「皆さん並んでくださーい」
 蘭とシオンは、バッグの中から自前のカメラを取り出し皆を促した。皆が並び、二人も近くにいた人にカメラを渡しその中に加わった。
「それじゃ、お願いしますなのー♪」
「はい、チーズ」

 パシャリ!

 こうして、写真とともに新しい一年が始まった。





 後日談。

 数日後、富士山へと登ったメンバー全員に二枚の写真が送られてきた。
「お、あんときの写真じゃ…げっ」
「…蓮君…これって…」
「…なんだこりゃ…」
「……」
「また凄い写真になりましたわねぇ」
「なんでこんな…」
「面白いのー♪」
「これはまた珍しいものですね…売ればお金になるでしょうか?」

 写真には、富士山に登った14人以外に大量の幽霊が笑顔で写っていましたとさ☆





<END>



□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【2155/桜木・愛華(さくらぎ・あいか)/女性/17歳/高校生・ウェイトレス】
【2163/藤井・蘭(ふじい・らん)/男性/1歳/藤井家の居候】
【2181/鹿沼・デルフェス(かぬま・でるふぇす)/女性/463歳/アンティークショップ・レンの店員】
【2359/藤宮・蓮(ふじみや・れん)/男性/17歳/高校生】
【3356/シオン・レ・ハイ(しおん・れ・はい)/男性/42歳/びんぼーにん(食住)+α】
【3462/火宮・ケンジ(ひのみや・けんじ)/男性/20歳/大学生】
【3786/立花・正義(たちばな・せいぎ)/男性/25歳/警察庁特殊能力特別対策情報局局長】
【3913/グラハルト・シュナイダー(ぐらはると・しゅないだー)/男性/29歳/反逆者】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 こんにちはもしくはこんばんは、相変わらずのへっぽこライターEEEです。
 今回は長引く風邪のために一日遅れてしまい本当にすいません!(土下座
 風邪は本当に辛いです…皆さんもお気をつけを。

 今回は記念写真を皆さんに送ります、呪われそうな一品ですがどうぞ(いらない

>桜木・愛華様、藤宮・蓮様
 何時もお世話になっております♪
 今回はお二人が付き合うことになってからということであんな感じに。きっと蓮さんは好きな人ほどついつい何かしちゃうタイプなんだろうなぁと(笑
 愛華さん頑張ってくださいね。

>藤井・蘭様
 初めまして、今回のご参加ありがとうございました♪
 『なのー』という口癖が可愛くて可愛くて…(笑
 皆が無事に富士山に辿り着けたのは、ほとんど蘭さんのおかげだと思います、よく頑張りました!(何

>鹿沼・デルフェス様
 初めまして、今回のご参加ありがとうございました♪
 暴走しがちなメンバーの中での良心お疲れ様でした(笑
 ミスリルゴーレムの能力は色々と楽しそうで、今回も色々と役に立ちました。こういう人が一人はほしいなぁ…。

>シオン・レ・ハイ様
 何時もお世話になっております♪
 今回は兎ちゃんと一緒の参加ということで、ずっとリバース匍匐前進をしていたような…(をい
 拾い食いは程々にしておきましょう…と言っても、シオンさんですからこれからもやるんでしょうね(笑

>火宮・ケンジ様
 何時もお世話になっております♪
 もうグラハルトさんとの愛の決闘はとどまることをしらず…楽しかったです(何
 っていうか、何時になったらこれ決着がつくんでしょうねぇ…?(知らん

>立花・正義様
 二回目の参加ありがとうございます♪
 すっかりやられ役が板についてしまったような今日この頃ですね!(をい
 にしても、あのホッケーマスクと鉈は一体何処から…?やっぱり、あそこにあったんでしょうか?(怖すぎ

>グラハルト・シュナイダー様
 何時もお世話になっております♪
 最近はどんどんアスカとの距離も近づいてきて、ケンジさんとの三角関係が楽しいことに(ぇぇ
 次なる戦いの舞台はバレンタイン…?(何



 それでは、何時もどおり長くなってきたのでこのあたりで。次はバレンタインでしょうか…?機会があれば、またよろしくお願いします。