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<東京怪談・PCゲームノベル>


IF 〜石像〜


 終わりなき命。
 見届け、見続けられる定め。
 終わりなき終わりの始まりは、あまりにも唐突だった。


 気付けばいつもよりも遠くまで泳いで来てしまったようである。
 水も心地よい温度だったし、流れも緩やかで泳ぎやすかったからついつい気を抜いて位置確認を怠ってしまったのだ
 ここは何処だろう、水が温かく泳いできた方向を考えると南海の辺りだろう。
 今から泳いで夕飯に間に合うだろうか?
「そろそろ戻らないと……」
 水の流れを少しばかり操作すれば、まだ十分間に合うはずだった。
 一気に泳いでしまおうと考え、少しだけ休憩してから泳いできた海流を戻る事にするる。
 なのに。
 出会ってしまったのである。
 みなもが最後に会話らしきものを交わす原因となった相手との遭遇したのは、腰掛けて休んでいた洞窟の入り口付近での事。
「………?」
 人の気配に振り返るみなもにニコリともしない女性。
「こんにちは……あの、えっと」
「………」
 喋っているのは外国語らしく意味を理解する事が出来ない。
 まるで呪文のような言葉の羅列。
 実際にそれは呪文だったのかも知れない。
 怒ったような口調で詰め寄られ、みなもはただただ固まる。
 いや、違う。
 例えではなく、実際に固まっているのだ。
 どうやら彼女はメデューサ出会ったようで、徐々に固まっていき動かせなくなる体。
 全身が灰色の冷たい石に変わっていく。
 体の表面から、広がっていく石。
 痛みを感じない恐怖。
「……―――」
 言葉にならない悲鳴を上げて、みなもは海中へと落とされ沈んでいった。


 どれぐらい海中を漂った事だろう。
 体は石になってしまったのに、意識と感覚だけはしっかりと残っているのだ。
 前だけを見る事しか出来ないみなもの前を沢山の魚たちが泳いでいく。
 助けを求める事すら出来ない。
 誰にも気付いて貰えない孤独ともどかしさ、このままずっと話せずに時を過ごすのだろうか? 
 考えるだけで気がおかしくなりそうなのにこの体は何もする事が出来ないのだ。
 助けを呼びたいのに声も出ない。
 泣きたいのに涙一つこぼれない。
 永遠にこのままなのかと思い始めた頃、石の体を周りを泳いでいた魚と一緒に何かが引っ張っていく。
 どれぐらいかぶりに見た空は真っ青で、見える光景から解ったのはみなもが拾われたのが漁船だったと言う事だった。
 がやがやと賑やかな言葉は解らないけれど、弾んでいる声から何かを喜んでいると言う事だけは解る。
 久しぶりに人に出会えた事に嬉しく思っていたのもつかの間。
 ペタペタと体を触られ、何かを話している漁師の人達。
 悪い予感……彼らはきっと、出来のよい石像を見つけたのだと思ったのかも知れないのだ。
 当たり前と言えば当たり前の事だろう。
 その予感は不幸にも的中。
 体をきれいに洗われた後、見知らぬ街の広場に飾られる事になった。
 少しでもいいから水を操る事が出来たらいいのに、この姿はそれすらも扱えないのだ。
 

 噴水の上に飾られ、水がすぐ側にあるというのになんてもどかしい。
 太陽のある場所に来たというのに、高い場所だから見えるのは町並みや景色だけ。
 水音も、人の言葉も直ぐそばにあるというのに何も出来ない。
 何度も夜と昼を繰り返した。
 誰か、誰か一人でもいい、気付いてはくれないだろうか?
 望むのはそんな奇蹟のような事と、家族の事。
 今頃どうしているだろうか?
 心配して捜してくれたりしているだろうか?
 もう何時も何か起きても、目を覚ませば家にいられる。
 それは、甘い事なのだろうか?
 考える事は、不安で、とても怖い。
 考えるしか出来ないみなもの足下で、何か話し声が聞こえた。
 通りすがりの町の人ではなく、別の誰か。
 体が傾けられ、その正体を知る。
 身なりのいい紳士のような人。
 小切手に何かを書き込み渡すのを見て、みなもはこの人に買い取られたのだと知った。
 助けではない。
 では次はどうなってしまうのだろうか?
 どこかへと運ばれながら、諦めにも似た気持ちがみなもの心を占めていった。



 大きな都市にある博物館。
 そこが次のみなもの置かれた場所だった。
 人は近くなったけれど、空は見えなくなってずいぶんと立つ。
 ここに来て色々な人をる事ができた。
 でもそれは同時人々の目に晒されると言う事で、沢山の人達は博物館にみなもの姿を見るために訪れている。
 こんなに側にいるのに、誰もみなもが人だと気付いてくれないのだ。
 ほんの少し声が出せれば、僅かでも水を扱える事が出来たら助けを呼ぶ事が出来るのに。
 そんな事ばかりを考えていたみなもは不意に沢山の視線が気になりだした。
 切っ掛けは……久しぶりに、本当に久しぶりに聞き慣れた言葉を聞きに来た事。
 日本語だったのだ。
 何人かの日本人の旅行客。
 みなもを見ながら考え込み始めた後一言。
「これ水着みたい」
「あー、本当」
 一瞬で顔が赤くなるような錯覚を覚え……もちろん石像だから実際に赤くなった訳ではなく、そう思っただけの事。
 今さら自分がどんな格好をしていたかを思い出した。
 水着を着て、足は部分的に人魚の姿をしている石像のみなもをどんな目で見ているのだろう。
 ひっきりなしに訪れる人々はどんな目で見ているのだろうか?
 一度気になりだした視線は今までのように気付かない様にするなんて、みなもに出来るはずがなかった。
 沢山の視線は体中をじろじろと遠慮なく見ていて、談笑しながら色々な事を話している。
 長くこうしていると、解らなくてもいいような事まで理解出来るようになってきた。
 感想は同じようなものばかりだから、何度も聞いていれば解ってくる。
 体のラインがどうこう、何かが凄くいい……こんな事を言われていると解るのなら、知らないままの方がずっと良かった。
 どうしてこんなに近くにいるのに誰も気付いてくれないのだろう。
 近くて遠い距離にいる人達は、相変わらずみなもを見に来ていた。
 興味や好奇心。
 特に嫌だったのが男の人の中には女の人を見るような目で見ている事である。
 この時が一番恥ずかしくて、何度晒されても慣れない。
 早くこの瞬間が終わってしまわないだろうかと思い始めたみなもに救いがあるとすれば、それは一人の少年に他ならなかった。
 特に熱心にみなもをの所に来ては、閉館間際まで来ているような少年だった。
 子供だったのが少年になるのを見届ける。
「…………」
 楽しそうだったり。
「―――っ!」
 泣くのを堪えているようだったり。
「………!」
 時には怒っていたりする。
 何を話しているのかは解らなかったけれど、どう思っているかは解るようになっていた。
 少年から大人の人へと成長していくその様子を見るのは、微笑ましくも羨ましくあった。
 なのに……羨ましいと思ってしまったからかも知れない。
 ある日を境に、少年はピタリと来なくなってしまったのだ。
 どうしたのだろう?
 もう飽きてしまったのだろうか?
 それとも事故や病気?
 何も解らない。
 動く事はおろか、誰かに尋ねる事すら出来ないのだから。
 再び興味や好奇の目に晒される日々が続いた。


 どれほどの時間が立ったのか解らない。
 だんだん来る人が少なくなり始めたある日。
 あの少年は閉館した後の博物館にやってきたのだ。
 肩に銃をかけ、軍服姿で慣れた様子で敬礼をした後一言も口を開く事はせずに立ち去っていく。
 生きていて良かった。
 でも、これから何が起こるのだろう。
 外が騒がしくなってきた。
 爆発する音。
 何かが壊れる音。
 治まらない地響き。
 博物館には誰も来なくなり、ずっと暗いままだったから何も解らない。
 外で何が起きているのか?
 これからどうなってしまうのか?

 外が見たい。

 願いが叶えられたのは、すぐ後の事。
 博物館の天上が破壊され、みなもが目にした光景はすべてが破壊された跡。
 大きな戦争があったのか……誰も居ない滅びた街で、これからどうなってしまうのだろう。
 答えは返ってこなかった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1252/海原・みなも/女性/13/中学生】

 →石像になってしまったら

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■         ライター通信          ■
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※注 パラレル設定です。
   本編とは関係ありません。
   くれぐれもこのノベルでイメージを固めたり
   こういう事があったんだなんて思わないようお願いします。

かなり好きにやってしまったような気がします。
気に入っていただけたら幸いです。
発注ありがとうございました。