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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


■Very great Christmas!■

 今日のシオン・レ・ハイは、いつもより格段にビシッと決めていた。
 なにしろ、今日は約束を果たす大事な日なのだから。
 世の中は、クリスマス。いつもなら乗り遅れそうな彼だが、今日は違った。公園で待ち合わせなのである。
「お昼には、まだちょっと早いですが、待たせるのは可哀想ですし───出かけましょう」
 といっても、彼の寝床はここ、公園である。着替えのために入ったトイレから出るだけで済んだ。
<おい、お前>
 その時である。一つにくくった黒い長髪を、くんくんと引っ張られたのは。
 振り向くと、掌にすっぽり入りそうな大きさの妖精がいた。背中に小さな羽根をつけ、全身を緑色の葉っぱでピーターパンの衣装のように包んでいる。
「私ですか?」
<そうだ。今から出かけるんだろう、オレも連れてけ>
「ええと、失礼ですが……あなたはどちら様ですか?」
<名乗るほどの者じゃない>
 人に頼むのに、ずいぶん横柄な物言いである。だが、シオンが困った顔をしたのは、そのせいではない。なにしろ人が好すぎる気さくな美中年なのである。
「すみませんが、今日は約束の日なので───」
 と言っているところへ、待ち合わせの相手が「シーオーンーちゃん」と手を振って駆けてくるのを見て、「はーい」と顔を思いっきりほころばせこちらも手を振って返事をした。
 そう、この可愛らしい少女、キウィ・シラトのために何でも好きなものを買ってあげると約束し、朝昼晩と働いて何十万というお金を貯めたのだ。
「さあ、キウィさん。お出かけの前に、一つ目のプレゼントです」
「もう、買ってあったの?」
 驚くキウィの目がぱちくりしている。シオンは微笑み、白いふわふわのファーの可愛いバッグを手渡した。
「これです。手触りも素敵でしょう!」
「わあ、ありがとう!」
 受け取り、しばらくバッグの触り心地を楽しむ、キウィ。実はそのバッグはとても可愛くて可愛すぎてシオンが衝動買いしてしまったものなのだが、彼女のために買ったことには変わりはない。
「いこ、早くしないとお店しまっちゃう!」
 と、手を取るキウィと、
「そんなに急がなくても、お店はまだ夜まで開いていますよ」
 と、それでも走るキウィに足の速さを合わせてあげるシオンの姿が、公園から遠ざかっていく。



 街の商店街は盛り上がっていた。
 クリスマス特有の和やかな雰囲気も伴い、人々を陽気にさせていく。
「シオンちゃん、あのデパートがいい!」
 キウィの指差すデパートは、都内でも指折りのブランドだ。入り慣れていないシオンは、ちょっと緊張しながら入った。
 どこから見ても、仲のいい親子に見えるのだろう。
 キウィがあれやこれやと欲しがるものを、すっかり父親の顔になって次々に買っていくシオンを見て、家族連れや恋人たちが微笑ましげに通り過ぎていく。
 陶器でできた美しい道化師のオルゴール、「小さな森シリーズ」の一式(もちろん各種家つき)、踊るサンタ人形。
 どれも高いものばかりでシオンの財布の中身は、減っていくばかりだったのだが、それでも彼はキウィの喜ぶ顔や楽しそうな顔を見る度に幸せな気分になるのだった。
 洋服売り場まで来て試着室に入ったキウィを待っている時、
<おい>
 とまた、公園で聞いた声がした。
 そういえば、今までどうしていたのだろうと、すっかり忘れていた。
 妖精はシオンの背広の内ポケットに入っていたらしい。そこから顔を出し、見上げている。
「何故ついてくるんです? 私達についてきて、何か得なことでも?」
 尋ねると、妖精は、子供のように泣き始めた。それはもうその小さな身体のどこから出るのだという、大声で。
 慌てたシオンだが、周囲の人間は気付いたふうでもなく、普通に通り過ぎていく。
<オレは、とある人の守護天使なんだ。でも、今朝の突風ではぐれてしまった。誰の守護天使かは言えないが、オレのカンじゃ、お前についていけばその人の元に帰れると思うんだ>
 しゃくり上げながら言う妖精もとい守護天使は、シオンにうったえた。
「このこも、つれてこう、シオンちゃん」
「!」
 驚いて顔を上げると、試着室からいつの間にか出てきたキウィが、しゃがみこんで守護天使を見つめながら、言った。
「キウィさんにも、見えるんですか?」
「うん」
<本当に純粋な子供か、子供のような心を忘れていない大人に、オレの姿は見える>
 そして、<邪魔はしない>とシオンの内ポケットに、また潜り込んだ。
「守護天使さんにも、色々と事情があるんですね。どんな人か分かれば、せめて探し出してさしあげることもできるのですが───」
「そうだね。でも、これでいいんじゃないかな? いつもどおりのキウィたちで」
 ね、と笑って見上げてくるキウィの手には、可愛らしい、とてもキウィに似合いそうな服が何着か握られている。
 シオンは、
「そうですね」
 と微笑み返し、その服の束をレジに持っていくと、全てブランドものと分かり、財布の残りの金額は大丈夫かとキウィに気取られないよう、数えたのだった。



 それから夕食をと、予約を取っておいたレストランに入り、シオンはここでもデパートより緊張し、危うくフォークを落としてしまうところだった。
「だいじょぶだよシオンちゃん、そんなにきんちょーしなくても、キウィがついてるから♪」
 このお肉おいしい、と満面に無邪気の笑みをたたえて、キウィ。
「あ、本当だ。おいしいですね、このステーキ。どこのお店が一番おいしく七面鳥のお肉を料理するのか調査してきた甲斐がありました」
 七面鳥なんて、実際一生のうちでこれが初めてなんじゃないだろうかと自分でも疑問に思いつつ、シオンも料理を頬張る。
 シオンもキウィにあわせて、子供向けのシャンパンを頼んだ。
 デザートの凝った模様のクリスマスケーキを前に、乾杯する。
 ここでも、レストランのお客達からシオンとキウィは暖かな視線を浴びていた。
「とってもおいしかった! ね、イルミネーションみにいこ」
 会計を済ませる間にも、キウィはまだまだはしゃいでシオンの服の袖を引っ張る。実際子供の体力はすごいものだとシオンは実感していたが、彼女の笑顔を見れば、そんなものも吹き飛んだ。
 夜になり、イルミネーションの中を人々が歩いていく。
 そこへ、かすかなヴァイオリンの音色が聞こえてきた。
「だいどうげいにんさんかな?」
 いってみよう、と走るキウィを、シオンは「待ってください」と、たくさんの荷物を持ちながら慌てて追いかける。しかし、こんなに寒い中、ヴァイオリン弾きとは───さぞ指もかじかんでいることだろうに。
 普段の自分を思い知っているから、そんなことにもシオンは気が回る。
 街角を曲がると、美しい青と白の電飾のクリスマスツリーの下に、ヴァイオリンケースを置き、それにお金を入れてもらうようにして、蝶ネクタイの老人が弱々しくヴァイオリンを弾いていた。
 シオンは思わず財布を覗いたが、キウィのためにと使ってきたため殆ど───ぶっちゃけて言えば5円しか残っていなかった。
 しかし、そんなことをキウィに気取られてはならない。シオンはこの日のためにこれも取って置きの自分のコートを脱いで、演奏の邪魔をしないよう、老人に着せてやった。
「おじいちゃん、おじいちゃんのヴァイオリンの音色、とってもあったかいです」
 キウィが、にこにこと老人を見上げる。
 ふと、老人は演奏をやめ、微笑んで、一粒の涙を零した。
 ───途端。
<有り難う、有り難う。やっと我が主の元に来ることができた>
 シオンの内ポケットから、今まで気配すらひそめていた、あの守護天使が老人の右肩に乗った。
 パアッと白い光が一瞬放たれ、シオンはキウィを抱きしめ目を閉じた。
<さあ唄おう我が主よ、オレと主がひとつならば主は本当の姿に戻ることができる。折りしも今日はクリスマス!>
 わあ、とキウィが感動の声を上げたので、シオンも目を開けた。
 そこには、普通の人間より一回りも二回りも大きな、柊の葉で出来た冠を頭に頂いた、さっきの老人が見事な緑色のふわふわした葉で出来た服を纏い立っていた。
 道往く人々には、やはり見えないらしい。時折小さな子供が立ち止まってこちらを指差し、親に何か言っているが、「馬鹿を言うんじゃありません」と叱られ、去っていく程度だ。
「あ……あなたは?」
 シオンが呆然と尋ねると、老人は先刻よりつやつやと血色のいい顔色で豪快に笑った。
「私はクリスマスの精。生前はヴァイオリン弾きだったが、クリスマスの日に神に迎えられ、生前の善い行いと心とを認められ、一生の友であった犬を守護天使としてくれた。クリスマスに私の姿が見えた人間には、私の宴に参加する権利が与えられる。さあ共に唄おう、ああしかしそちらのお嬢さんは少し疲れたようだね。ではまた次に出逢ったら是非、宴に来てくれたまえ。今夜疲れが取れたあとでも、来年でも、再来年でも、クリスマスに私はいつもいる!」

 Christmas Carol(クリスマスを祝って)!!

 守護天使と共にそう天に向けて笑い声を上げながら、彼は空へと昇っていった。その端から、雪が降ってくる。
 はしゃいで雪を小さな掌に乗せてみたり、吹いてみたりするキウィも、クリスマスの精が言ったとおり、さすがに少し疲れているようだった。寒そうにもしていたので、シオンは最後のプレゼントを取り出した。
「キウィさん、これを」
 ふわりと、キウィの首を暖かな何かがやわらかく包み込む。
「かわいいうさぎさんのマークのマフラー! シオンちゃんが作ったの?」
 目を輝かせるキウィを抱き上げながら、シオンは「はい」と微笑む。二人の顔を、クリスマスツリーの青と白の電飾が照らして、これ以上に暖かな絆はないだろうという情景を自然と作り上げていた。
 この青いマフラーはシオンの得意な編み物、しかも大奮発して高級カシミアで編んだのだ。
「あったかくなったら、キウィ、ねむくなりましたぁ……」
 うとうと、と、シオンの胸にことんと頭を預けるキウィ。
 いつの間にか、シオンのコートが元通り、彼の肩にかけられていたのでそれをしっかりと羽織り、キウィを落ちないよう改めて抱き上げながら、
「本当になんて素敵なクリスマスだったでしょう。来年も、素敵な思い出でいっぱいにしましょうね」
 シオンのそんな幸せいっぱいの言葉が聞こえたかどうか。
 キウィは既に、幸せそうな笑みを可愛らしい口元に浮かべつつ、眠っていたのだった。




《END》
**********************ライターより**********************
こんにちは、いつも有り難うございますv 今回「Very great Christmas!」を書かせて頂きました、ライターの東圭真喜愛です。タイトルの意味は、「なんて素敵なクリスマス(でしょう)!」とでも取って頂ければと思います。
クリスマスのお話ということで、ただのショッピングでは淡々としてしまうかなと思いまして、わたしの大好きな作品、「クリスマスキャロル」から連想したネタを絡ませて頂きました。
人間には守護天使が二人いる、という一部では有名なお話も別としてあるのですが、それも絡めてみたり。右側の守護天使はその人間を善に導き、左側の天使は悪に導く、というものですが、このクリスマスの精になった老人については、生前(?)ちょうどクリスマスに寒さで亡くなってしまったわけですが、行いがよく心も「暖かかった」ので念願のクリスマスの精になったのでした。
シオンさんとキウィさんは、どちらも「本当の純真さ」を心に持った方達だなといつも思っていましたので、こんなお話でもいいかなと思いました。それと今回、前回のクリスマス企画でお渡しできなかったアイテム「蛍雪」をお渡ししますので、またお暇な時にでもご確認くださいませ。
ともあれ、ライターとしてはとても楽しんで、書かせて頂きました。本当に有難うございます。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。これからも魂を込めて書いていこうと思いますので、宜しくお願い致します<(_ _)>
それでは☆

【執筆者:東圭真喜愛】
2005/01/05 Makito Touko