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<あけましておめでとうパーティノベル・2005>


迷宮庭園

「鬼ごっこ?」
「はい」
 楽しそうに微笑む庭師を見て、セレスティは優雅に足を組んだかと思うと指もしっかり組み合わせ、
「聞きましょうか。貴方が思いついたのなら楽しそうですから」
 と、庭師――モーリスへ話の続きを促した。
「はい。今回、庭園の形を少しばかり変えまして」
「庭園の形を?」
「はい、今までも庭の形は邪魔な方を追い出すため常に迷宮仕様を保っていましたが……新年ですし…新年用に変更したところも多々あります」
 庭を熟知してらっしゃる方でも、これなら楽しめるのではないでしょうか?
「そうですね……」とセレスティは組んだ指を緩めなおして微笑みを浮かべた。
「楽しそうですのでやりましょうか。集める面々は決まっているのですか?」
「勿論。皆さん二つ返事でしたよ」

 実を言うとこれには若干嘘がある。
 一名は凄く、凄く参加を渋ったのだ。
 だがしかし、「セレスティ様のご希望でも?」と言うと、あっさりと、嫌にあっさりと参加する!とまで言って。
(全くマリオンはセレスティ様と言う言葉を出さない限り首を縦に振らないんですから……)
 もう一名は、元々自分に慣れてる友人だったので問題はなかったのだが、本当にどうして、あの子は!!
 ……気分をスッキリさせたくて時間は大雑把な指定にしたのだが、まあ…そのくらいのお茶目さは許される範囲だろう、多分。

「嬉しい事ですね、それは。ああ、モーリス、猫さんはお呼びしましたか?」
「一応、お逢いしたいかと思って声はかけておきましたよ。"考えておく"だそうです」
「猫さんらしいですね」
「ええ」
「そして、日時は何時でしょうか?」
 セレスティの言葉にモーリスは、晴れやかな笑みで、
「明日です」
 キッパリハッキリ、淀む事無く迷いのない言葉で、そう、答えた。
 がくりと椅子から倒れそうな我が身を支えセレスティは「やられた!」とも思ったが……ある意味クリスマスの仕返しなのかもしれないと思うと嬉しくもあり。
「では明日……誰が来るのか楽しみにしておりますよ」
「はい。頑張って鬼にならないよう隠れて下さい」
「そうですね……反則技もありでしたら」
 くす。
 聞こえるか聞こえないか解らないような笑い声の中、セレスティは、此処からは見る事の出来ない、庭を思った。
 庭師が作り出した迷宮はどのようになっているのだろう?




 そして、当日。
 まだまだ寒い冬、陽がどれほど射そうとも暖かさには遠く、冷たい空気が容赦なく防御できない顔へ、当たる。
 こう言う時は温かなダッフルコートも、手袋も、もしかしたら役に立たないものなのかもしれない。
 お気に入りの薄青のダッフルコートを抱くようにマリオンは、近くに居るふわふわとした可愛らしい――ゆたんぽへと愚痴をもらす。
 今日だと聞いていたし時間は「お昼頃」と言われた筈だ――随分広範囲な時間の指定だが、取り敢えずは正午で間違いはないだろうと思って来れば居るのはゆたんぽだけで。
 ゆたんぽにしても来る時間は特に指定されなかったというし……

「……私はね、最初、嫌だといったんですよ?」
「でもマリオンさんは来たにゃ? 今更、うだうだ言うとモーリスお兄さんが怒りゅのね?」
 そんな事、言っちゃ駄目にゃ?
 と、小首を傾げられるとマリオンも何も言えない。
 くりくりの瞳。
 ふわふわとした体。
 風にそよぐ髭でさえ何とも愛らしい外見の、猫。
 そう、それこそが猫神であるゆたんぽの外見なのだ――ああ、今すぐ抱きしめて暖を取りたいなあ――等とマリオンが考えていることを、ゆたんぽは知らない。
「だって、セレスティ様の名前を出されたら……って、本当に何時まで待たせるんですが、あの万年スーツ姿の方は!!」
 ひやり、と冷たい空気が流れたような気がした。
 振り向いちゃいけない、振り向いちゃ……が、ゆたんぽは無邪気に振り返ると、
「モーリスお兄さん、こんにちはにゃ♪」
 嬉しそうに尻尾をゆらゆら揺らしながら近づいていって。
 マリオンはと言うと……力なく項垂れ、がくりと地面へ、手をついた。
 が、見ないようにしようと思っていても靴が見え、更に今日のスーツの色まで解ってしまうと、恐怖以外の何者でもないかもしれない。
 確かに言った自分も悪い。
 悪 い の だ が!!
 誰を恨めばいいのやら、マリオンは手をついた場所へと話し掛けるように、呟く。
「貴方と言う人は……どうして、こうも最悪の場面で出てくるんですか……」
「最悪とは随分人聞きの悪い……私にとっては最高のタイミングでしたがね――マリオン?」
「はい?」
「君の本音が聞けて凄く嬉しかったですよ。…誰が万年スーツ男ですか、誰が」
「貴方ですよ!」と反論するべく顔をあげる。
 すると。
 気付かぬ内に近くに来ていたモーリスに頬を引っ張られ、強く抓られ。
 見えない所から、ゆたんぽが「苛めちゃ駄目にゃ!」と叫んでいるようだが、その言葉にも止まる事無く、にっこりと凍りつくような微笑をモーリスは浮かべていた。
 ……ゆたんぽには見えなくて正解だったかも知れない。
「あだだだだだ……ひ、人の頬を勝手に伸ばすなんて…ッ!!」
「断りを入れたら貴方は逃げるでしょう? ……本当にマリオンは遊び甲斐があって♪」
「私は貴方の玩具じゃないですよ〜!! うぅ……セレスティ様はまだなんですか?」
「来ていらっしゃいますよ? さっきから笑いを堪えていらっしゃるようですが……」
「……は?」
「マリオンさん、セレスティのお兄さん、此処に居るにょよ?」
 モーリスがマリオンの目の前から退くと確かに其処には見慣れた姿があって。
 しかも、本当に笑いを堪えてるような顔をしているではないか!!
「ゑゑゑゑゑ!?!? ひ、酷い……私の頬が引っ張られるのも見てたんですね……」
「しっかりと♪ まあ、そんなに落ち込まずに……そろそろ始めましょうか」
「ふに? 鬼は誰がやるのか決まってるにゃ?」
 きょとん。
 瞳をくりくり動かすゆたんぽにモーリスが、答える。
「まずは私が鬼です。ゆたんぽも私に捕まえて欲しいと言っていたでしょう?」
「はいにゃ♪ 嬉しいですにゃ〜♪」と、ゆたんぽが喜べば、逆に暗雲立ち込める人物も居て。
 ぶつぶつと、ぴったりだ……とは言わずとも繰り返し言うマリオンがそうだ。
「モーリスさんが、鬼……」
「そうですよ、頑張らないとマリオンも捕まってしまいますから気をつけないとね」
「はい! セレスティ様、私、頑張りますね!」
「その意気です♪」

 さてさて。
 どうにかこうにか始まった鬼ごっこ。
 どの様な光景が見られるものなのやら―――?




 まずは一斉に、鬼にならぬよう3人が庭園の中へと逃げ込む。
 いつも見ている庭ではあるが「若干手を加えた」とモーリスが言っていた様に覚えていた場所が違うものになっていたり樹を植え替えられて居たりと様々な変化があって。

「モーリスも本当に頑張りましたねえ……」
 これは、かなり労力が行ったのではないだろうか。
 無論、モーリスが優秀な執事であり庭師である事はセレスティ自身良く知っている。
 だが。
(此処まで頑張ってくれなくても、きっと私は楽しむと思うのですよ)
 こうして、身体を動かすことでさえ久しぶりで。
 それゆえに嬉しさも相まって更に楽しくなるだろうに。
(まあ、そんなところもモーリスの愛すべきところですよね……)
 うんうん頷き、セレスティは行き止まりの場所に当たらないよう歩く。
 所々で、声が聞こえるからマリオンもゆたんぽも見つけにくい場所を探して頑張っているようだ。
「無事に良い隠れ場所が見つかるよう祈ってますよ」
 聞こえては居ないだろうけれど。
 気持ちくらいは届くだろうか?

 そうして、場所は変わり、ゆたんぽがひたすら楽しそうに迷宮を駆けている。
 追いかけて欲しい人が鬼なので本当に嬉しいのだろう、鼻をひくひくさせつつも、尻尾はリズミカルに揺れていて。
「ちゃんと追いかけて来てくれる……にゃよね?」
 振り返ると金色の髪が見えて、うん、と頷く。
 さて、何処まで逃げようか?
 垣根を越えて、生い茂る草花を楽しみながらゆたんぽは考える。
 上手い隠れ場所よりもまず、それを考える事が何より、大事なのだ。

「…私はね、あんまり疲れる事が得意ではないのですー!!」
 叫びながらも、ある目当ての場所へ駆けて行くのはマリオンだ。
 何時、モーリスが追ってくるか何処からやってくるかも解らないのだからいち早く目当ての場所に逃げる必要がある。
 のんびりゆっくり、と言うよりも本当に気が向く時――もっぱら、それは美術品と向き合う時などに限定されるのだが――でないと頑張れない性質の持ち主なのだ。
 熱血はごめんだし、御節介もご勘弁。
 自分に出来る事は自分でする……気が向いた時だけは。
 だから。
 だから、どうか。
(寒い場所じゃなくて暖かい場所に居させてください……)
 と、マリオンはサンルームへと逃げ込んだ。
 …ある意味反則なのだが、其処はそれ。
 来たら此処も庭園なのです!と主張すればいいのです〜!!と言い訳もきちんと用意してあるのだった。
 ……流石である。

 そんな3人を追いかけるモーリスはと言えば。
 自分の前を横切った黒い影に「おや」と足を止めていた。
 どうやら「気が向いた」らしい……主の所に行くのだろうし、主は見つけたとしても捕まえないと心に決めている。
 走る方向は、ひたすら、ゆたんぽの方へ。
 ぴょんぴょん楽しそうに動く尻尾を探し、ゆっくり確実に追いかける。




「モーリスお兄さん、こっちなのにゃ〜♪」

 ゆたんぽは声を出し、振り返る。
 此処で捕まるのも良いかと思ったのだが……どう言う訳か、モーリスの表情が「しまった!」と言う顔に変わった。

「良いですか……其処から一歩も動いてはいけません!」
「うにゃ?」

 何を言っているか理解できぬまま、ゆたんぽは、一歩分、後ろへ下がってしまい。
 ぐにゃり――そんな奇妙な音を立て地面が、緩やかに崩れた。
 迷宮の庭園内に仕掛けたトラップの一つで、踏むと、池が出現するのだが……まさか、ゆたんぽがこの仕掛けにかかるとは!
 軽く舌打ちし、モーリスはゆたんぽを助けるべく手を伸ばす。
 が。

「うにゃう! はぶっ! ぶくぶく………たしゅけてぇ!」

 泳げない所為もあってかパニックに陥ってしまって、伸ばした手には気付きそうも無い。
 濡れるのも構わずに、池へ入るとモーリスはその身体を抱き上げた。
 ぴたりと、ゆたんぽの動きが止まる。

「だから言ったでしょう、動くな、と」
「ごめんなしゃいにゃ……えへへ、でもちゃんと捕まえて貰えたにゅ♪」
「そうですね。まるで追いかけっこの様な鬼ごっこでしたが……」

 っしゅ!!
 くしゃみを一つ、仲良く同時にすると、モーリスは胸ポケットから携帯を取り出した。
 短縮番号を押すとすぐに出るのは主の柔らかな声。

『はい?』
「すいません、鬼ごっこは一旦中止です」
『何か、ありましたか?』
「ええ、ちょっと……私とゆたんぽがトラップに引っかかりまして、池に」
『風邪をひいては元も子もありませんね……解りました、部屋に温かいお茶を用意させましょう。モーリスもゆたんぽと一緒に早くいらっしゃい』
「はい」

 通話を切ると腕の中で丸まっているゆたんぽに「お茶を用意してくれるそうだよ」と言うと、真っ直ぐに屋敷の方へと向かう。
 マリオンへは、きっと主の方が連絡を取ってくれる事だろう。
 その話を聞いて、さぞかし驚くだろうが、まあ、そういうのもたまには良いだろう。




「何か……あったようだね?」
「ええ、モーリスから……少しばかりのハプニングがあったようですね」
 まあ、こちらにもハプニングがありましたが――微笑い、セレスティは傍らに居る猫を見た。
 おや、と笑いを含んだ声が返ってくる。
「気が向いたら、とモーリスさんも言っていたのでね」
「ええ、気が向かれたと言う事が何より嬉しいですよ」
 さて、では行きましょうか。
 黒猫の姿のままの猫を抱き上げるとセレスティは屋敷へと向かう。
 その際に屋敷の召使たちに携帯でお茶の用意を頼むのも忘れずに。

 人数分のお茶と、濡れてしまったゆたんぽを包むタオルと、そうして甘いお菓子。
 寒い中、屋敷へと戻ってくるのだし自分へも、そして皆にも最後の物は特に必要だろう。

(ゆたんぽも風邪をひかないと良いのですが……)

 戻って来たら、膝の上に乗せるとしましょうか――…何だか楽しくなってしまい、笑いが零れてしまう。
「楽しそうだ」と言う猫に「ええ、とても」とセレスティは答える。
 とても。
 何か、してあげようと考える事が――凄く、楽しい。





 セレスティと猫が屋敷に入ってから、ややあって、マリオンがひょっこり顔を出し、
「あれ? お茶会になったんですか?」
「はい。マリオンには、もう少ししたらお知らせしようと思ってたんですが……鬼が濡れてしまったらしくて」
「はあ……?」
 セレスティの言葉に首を傾げつつも椅子へと座る。
 何故か黒猫が一つの椅子を使っているのが不思議だったけれど、ゆたんぽのような存在なのだろうと深くは考えず、紅茶へと口をつけた。
 サンルームでのんびりしていた身体にも紅茶の温かみはどこか優しくマリオンの身体を癒してゆく。
「この後も鬼ごっこは継続ですか?」
「さて……中止と言っていましたが、どうなる事やら。この後もやるとしたら全てのトラップを解除しないといけないでしょうね」
「ゑ?」
 一体何の事ですか? ――そう、問いかけようとした時に扉が開いたかと思うと濡れたモーリスとゆたんぽが姿を現した。
「遅くなってしまいましたね」
「随分と酷く濡れたものですね……ゆたんぽは此処で預かりますから、まずは着替えてらっしゃい」
「はい」
 ゆたんぽを受け取るとタオルでそっと包み、水滴をふき取っていく。
 自然、膝の上に乗せたような形になるが、ゆたんぽは瞳を三日月形にしたまま、にこにこ笑っている。
「ゆたんぽも随分、濡れましたね……寒かったでしょう」
「大丈夫ですにょ。久しぶりにセレスティさんの膝に乗れて嬉しいですにゃ」
「おやおや……」
「何だか凄くずるいです〜!! 良いなあ……」
 私も猫になれるのならなってみたい、とマリオンが思ったかどうかは解らないが、穏やかな時間が出来上がりつつ、あった。
 黒猫の姿を保ったままの猫も、ただ、楽しそうに瞳を細めるばかり。

 着替えを終えたモーリスが戻って来たら、益々、穏やかな時間が流れるだろうその時を思いながらセレスティは口元に浮かぶ微笑を、一層深いものへ変えていった。





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【1883 / セレスティ・カーニンガム / 男性 / 725 / 財閥総帥・占い師・水霊使い】
【2318 / モーリス・ラジアル / 男性 / 527 / ガードナー・医師・調和者】
【4164 / マリオン・バーガンディ / 男性 / 275 / 元キュレーター・研究者・研究所所長】
【4175 / 綿毛・ゆたんぽ(わたげ・ゆたんぽ) / 男性 / 200 / 猫神】

&NPC/猫

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■         ライター通信          ■
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こんにちは、いつもお世話になっておりますライターの秋月 奏です。
今回はこちらのノベルを書かせて頂き本当に有難うございました!!
セレスティさん、モーリスさん、マリオンさんはクリスマスノベルから
続いてのご発注、本当に嬉しく思います。
少しでも楽しんでいただけてるといいのですが(^^)

>セレスティさん

今回、猫はセレスティさんの方へと逢いに行かせて頂きました。
黒猫姿のままなのは、彼曰く「動きやすいから」だそうですが……
猫の事、覚えていてくださって本当に有難うございます

>モーリスさん

今回も前回に続き何気に苦労させてるようで本当に本当に申し訳なく(><)
ですが、何となく「頼りになる」イメージが私の中にありまして……
色々な準備等も含めまして、本当にお疲れ様でした♪

>マリオンさん

マリオンさんは二度目ましてですね(^^)
こう言う感じでいいのでしょうか…と思いつつ、モーリスさんに苛め……
もとい、可愛がられているマリオンさんと言うのは凄くイメージが浮かびやすく。
サンルームで、きっと穏やかな時間を過ごされてた事でしょうね。

>ゆたんぽさん

初めまして(^^)
言葉遣いなどはこのような感じでよかったでしょうか…ちょっと不安ですが(><)
可愛らしい外見のゆたんぽさんに私も触ってみたい!と叫びました〈笑)


それでは今回はこの辺にて。
また何処かでお逢い出来る事を祈りつつ……