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<PCシナリオノベル(シングル)>


不思議と貴方と散歩道

 カツン……カツン……
 ホテルの廊下を杖を突く規則正しい音が響いて居る。その音を響かせている人物は、銀髪の何処か神秘的な美しさを漂わせた男性だ。流れる様な銀の髪、端整な顔立ちに青い瞳が一目で日本人でない事を教えてくれる。服装も何処か優雅さを漂わせる一品ばかりで、往来にも出ればその容姿は多くの人の目を奪う事だろう。
 エレベーターホールまでやって来て、エレベーターのボタンを押し待つ事暫し、静かにエレベーターの扉が開き、男性は再び杖を突き中に入ると一階のボタンを押す。
「ふぅ……やはり車椅子の方が良かったでしょうか?」
 誰に問う訳でもなく、一人呟き苦笑い。男性の足は、一般の人に比べればかなり弱いらしく、普段は車椅子での生活である事は、今の科白で分かろうと言う物だ。
 チーン!
 男性を乗せたエレベーターが一階へと到着した事を知らせ、静かにその扉を開く。男性は再び杖を突き、フロントを抜け表を目指した。
「お出掛けですか?カーニンガム様」
 フロントに居た女性が何処か心配気に訪ねて来たのを、男性は笑顔で見やる。
「ええ、少し出掛けようかと……ああ、どうせ呼ぶなら、セレスティと呼んで頂けますか?その方が慣れていますから」
 その答えに、フロントの女性も柔らかな笑みを見せた。
「畏まりました、セレスティ様。御気を付けて……」
「はい、行って来ます」
 静かに頭を下げた女性に再度柔らかな笑みを見せ、セレスティ・カーニンガムは杖を突きながら表通りへと姿を消した……

 夕暮れにもなれば、気温は徐々に下がり始める。今日も今日とて例に漏れず、徐々に下がり始めた気温にセレスティは少しだけ身震いをする。
「何時もながら冷え込むのが早いですね。もう少し厚着の方が良かったでしょうか?」
 自問し自らの服を確認するが、それ程薄いと言う訳でもないのを確認し、少し苦笑い。ちょっとしたパーティに相応しい格好をと思って出て来たのだからと、自分を納得させ再び前を向き歩を進める。
 カツン……カツン……
 ザッ……ザッ……
「何でしょうね?ずっと尾けてらっしゃいますけど……」
 ホテルを出てからずっと、セレスティの後を尾ける気配と足音がある。往来の雑踏の中にあって、これ程はっきり分かる尾けられ方も珍しいと思いながら、セレスティはクスリと笑みを漏らす。目の前に丁度良さそうな路地に入る道があるので、セレスティは徐に其方に曲がる。当然気配も曲がって来て……立ち止まる。
「何か御用ですか?」
 柔らかな笑みを浮かべたセレスティが、その人物を見て言う。ぼさぼさの髪に、子供独特の丸顔、見開かれた目は黒、セレスティの身長の半分程の体を紺色のコートに身を包んだ、少女であった。
「何か御用ですか?」
 今一度問うセレスティに、少女は驚いた表情を無理に抑え答える。
「……なっ何でもないであります。……偶然であります」
 視線を外し、余所余所しい態度の少女に邪気が無いのを感じ取っていたセレスティは、微笑むとぽふりとその手を少女の頭に乗せた。
「そうですか。でも、一人は危険ですよ?この辺りは、最近物騒ですから」
 此処最近、この周囲ではセレスティの言う様に五件もの殺人事件が起きていた。被害者に共通項は無く、警察の捜査も難航していると報道は囃し立てている。だが、何よりセレスティ自身がその事件に無関係では無いと言うのが少女に掛けた言葉の真実であろう。
 『異能者狩り』――警察では絶対に辿り着けない答えに、逸早く退魔の組織は気付いていた。特別な能力を持つ者達には、注意を促すと共に協力が要請されていたのだ。セレスティもまたそんな中の一人……
「一人では危険ですので、私が送りましょうか?」
 微笑むセレスティに少女は首を振る。気恥ずかしがっている様では有るが、妙な落ち着きを見せるのを感じ、ひょっとしたらとセレスティは思う。
「もしかして、キミもそうなのですか?」
 そんなセレスティの質問に、キョトンとした表情の少女……セレスティは苦笑いを浮かべ「ですよね」と呟くと、少女に乗せていた手を離す。
「では、私は行きます。気を付けて下さいね?」
 微笑と共に言うと、踵を返しセレスティは杖を突きながら歩き出した。
 カツン……カツン……
 ザッ……ザッ……
 やはり尾けて来ている。余り気にしない様にしても、此処まで分かり易いと気になろうと言うもの。長距離移動するのは、足の事も有り辛いので休み休み歩いているのだが、セレスティが足を止めれば少女も足を止めるとあからさまなのだ。気に掛けつつ歩くのはと思い、セレスティは足を止めた。
「お嬢さん?私と一緒に行きますか?」
 振り返り様、少し苦笑いを湛えたセレスティの申し出に、少女は再び驚いた様できょとんとしているたが、漸くその言葉を理解したか静かに一つ頷いた……

 カツン……ザッ……カツン……ザッ……
 並んだ足音が雑踏に混じる。傍から見れば、ちょっと変わった取り合わせなのだろうが、当の本人達はまるで気にしては居ない。並んで歩きながら、セレスティは少女に色々聞いたが、それらは全て徒労に終わった。
 まず名前……
「……Sであります」
 次に住所……
「……無いであります」
 御両親の有無……
「……居ないであります」
 全ての質問は端的に返ってきた挙句、まるで要領を得ない物であった為、セレスティは少女――Sについて聞く事は止めた。
「異能者狩り……と言う物を知っていますか?どうやら最近の事件はそれに関係している様なのですが」
 唐突に切り出したセレスティの言葉に、Sはピクリと反応する。「やはり……」そう呟くとセレスティは懐から数枚の写真を取り出し、Sに渡す。
「それらは、現場の写真の様です。死体には刀傷、死後はミイラ化と変わっています。キミはこの現場を見た事は?」
 その質問に、フルフルと首を振るS。
「そうですか……ああ、後目撃証言だと何から何まで真っ白な男だったそうなのですけど……こちらも知りませんよね?」
 コクリと頷くS。ふぅとセレスティは溜息を吐くと写真を受け取ろうと手を差し出し、Sもまた写真を渡そうと手を伸ばしたその時。
 ザワリ……
 明らかな敵意と呼べる気配が二人を包み、雑踏の中二人は足を止め緊張にその表情を染める。全身の毛が総毛立ち、背中を嫌な汗が伝って行くのをセレスティは感じた。
「……分かりますか?」
 コクリとSは頷く。その頬には一筋汗が伝っているのが見て取れた。
 気配は未だ場所は変えず、此方を伺っている様に感じる。ならばと、セレスティは再び歩を進め出し、Sもまたそれに着いて行く。
「此処でやるのは得策ではありません。迷惑にならない場所に行き、其処でやりましょう。キミは、隠れて置いて下さい」
 一瞬戸惑った様な表情に成るSだが、ゆっくりと静かに頷いた……

 雑踏を離れた公園……誰も居らず、うらぶれた感じが漂う場所で、セレスティが居た。敵意はずっと傍にある。ねっとりと絡み付く様なその気配に、嫌な汗が止まらない。
『この気配は……危険ですね』
 敵意自体が強大な事もあるが、それ以上にその気配が自分より遥かに優れた能力の持ち主である事を本能的に悟らせる。正に、獲物を狙う狩人と言う所かとセレスティは感じていた。
『来ます!』
 チリッと気配が弾けた!咄嗟にその場を離れるべく、力一杯地を蹴る!
 トス!!
 妙に乾いた音を立て、先程までセレスティが居た場所に一本の刀が突き刺さる。刀身が紫色で禍々しいまでの気を放つ代物……そして、その横には全身真っ白な男が立っていた。
 不自由な足で良く避けれた物だと冷や汗を拭いながら目の前の男を見据え立ち上がる。
「御用件は、私の命でしょうか?」
 睨みつけ言うセレスティの言葉に、男は口の端だけを笑みに変え刀を抜き取ると、チャリっとセレスティに向ける。
 ジュォ!!!
 セレスティの左肩辺りから音がした……音がした方を見やれば、其処には穴が穿たれていた。驚愕と共に、激痛が走り抜ける。
「くぅぅぅ!?いっ一体何が!?」
 左肩を押さえ相手を見やれば、口の端の笑みをそのまま再び刀を構えている。
『いけない!?』
 セレスティは能力を開放する!土中の水分が急速に自分の足に絡み、瞬時にその場を離れさせる!
 ヒュォ!!
 移動した刹那、空を切る音が聞こえて来る。そう、音だけが聞こえて来た。
『みっ見えない!?一体何をしていると言うのですか!?』
 激痛に耐えながら相手を見据え、必死に焦りを押し留め様とするが理解不能な攻撃に気が動転するのが自分で分かる。見据えた相手は薄く張り付いたかの様な笑みのままでセレスティを見据えている。その笑みが不気味さを更に増している様に感じ、セレスティは歯を噛み締める。
『負けては駄目です!恐怖に負ければ一瞬で――』
 そう思った瞬間、再びチャリと音がした!
『くっ!?』
 何かが来る気配があるが、回避するには時間が無さ過ぎる事をセレスティは本能的に感じ焦りに表情を歪め、思わず目を閉じる!
 ギィン!!!!
 甲高い音が辺りに木霊した。
 恐る恐る眼を開いて自分の体に穴が開いてない事を確認し、セレスティは安堵し溜息を吐く。その時視界に入ったのは、少女――Sだった……

 Sはセレスティの前に立ち、一本の刀を構えていた。白く淡い気を放つ霊刀……それを肩の辺りで天に翳す様に構えている。示現流トンボの構えである。
 真っ直ぐに見詰めた先の相手は、変わらぬ笑みを浮かべ刀を構えていた。
 ザッ!!
 Sが動く!真っ直ぐに相手目掛け踏み込むと、刀を振り下ろす!その挙動、正に一瞬!
 ギィン!!
 刀が刀を受ける甲高い音……その凄まじいまでの一撃を相手は確かに受けていたが、その表情が初めて驚愕に彩られている。
 キィン!
 Sの刀を弾き、相手は間合いを広げる為後方に飛び退くが、Sがそれをさせじと再び間合いを詰める為に踏み込む!
 ゴゥ!!!!!
 間合いを広げながら、空いた手より迸った焔がSに襲い掛かるが、Sは刀を一閃させただけでそれを切り裂き間合いへと!
 ギャリン!!
 再び刀と刀が打ち合う音が木霊する。無表情のSに対して、敵はその表情を真剣な物へと変えていた。
「すっ凄い……あの子は一体何なんですか?」
 セレスティが呆然と見守る中、攻防は続いていた。切り結び、法術を用い、互いに一歩も譲らず時間だけが経過して行く。互いに傷もあるが、痛覚が無いのかまるで意に介した風も無くただ戦い続けている。時折思い出したかの様に、セレスティに攻撃が向く事もあったが、Sがそれをさせない。敵も目の前の少女を先に倒さねばと切り替えたのか、Sに集中して行く。攻防は暫く続くに思われたが――
「はぁ……はぁ……」
 Sの息が上がり始めている。少女と大人……その体力の差は歴然であり、それを見逃す程敵は甘くない。
 ギィン!!
 Sの刀を敵が跳ね上げる!その勢いに体勢が崩れるS!その機を逃す敵ではない、刀を水平に構え一気に貫きに掛かる!
 ゾブュ!!!!
 肉を貫く音が響いた……それは、真っ白な体から突き出た水の槍……
「させませんよ!」
 肩の痛みに耐えながらセレスティが放った一撃は、Sに集中していた敵をいとも容易く捕らえその体を貫いていた。同時に、Sが刀を振り下ろした!
 ザシュッ!!
 宙に白い腕が舞う……苦痛に顔を歪めながらギリッと歯軋りし、敵は背を向け駆け出すが、その動きが止まる。
「其処までだ!観念して貰おう!」
 ドサリ……
 切り飛ばされた腕が地面に落ち、乾いた音を立てる。公園の周囲は、退魔組織のメンバーが既に包囲していた。歯噛みし刀を構える敵は、吼えながらその中に突撃を掛ける!が――一斉に放たれた法術や特殊な力が、その身を尽く捕らえ白い体に傷を付け続けた。
 ドサ……
 攻撃が止み、ボロボロになった敵はそのまま倒れ伏し動く事は無くなった……

 事の顛末を見届け、退魔組織のメンバーの治療法術の治療を受けているセレスティの元に、Sが駆けて来る。
「……大丈夫でありますか?」
 ほんの少しだけ、心配気に見詰める少女の頭にセレスティは手を乗せ撫でる。
「ええ、大丈夫ですよ?ああ、そうだ。これからちょっとしたパーティがあるのですが、一緒に行きますか?」
 一瞬きょとんとした表情を見せたSだったが、ゆっくりと静かに頷いた。
「それは良かった。最も、服を変えている余裕は無いですよ?」
 苦笑いを浮かべ互いの服を見ればボロボロ……とてもパーティと言う形ではないが其処は勘弁して貰おうとセレスティは内心呟く。
 やはりきょとんとしたSがセレスティを不思議そうに見詰めていた……