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<あけましておめでとうパーティノベル・2005>


藤井さん家のお正月

「ふわ〜」
 風も無いのにさわさわ揺れる緑の髪と、大きな銀色の瞳がいつもよりも見開かれて、窓ガラス越しにじーと庭を、そこから見える空を眺めている。
「あらあら、蘭ちゃん。そんな所にいると冷えちゃうわよ?」
 背後からそう言う声も聞こえてはいないようで。暗くなった空からゆらゆらと舞い降りてくる白いものがふわりと庭に音も無く降り立つ様子が楽しいらしい。
 ――ここは、藤井家。いつもなら末娘の所で居候している藤井蘭は、年始だからと言う事で本家、フラワーショップを経営する夫婦の元へと一緒に連れて来てもらっていたのだった。
「――あら、雪ねぇ。この時間からだと、積もるかもしれないわね」
 お正月をのんびりと過ごしている藤井家の母、藤井せりなが蘭の目線に降り、少年が夢中で見ているものが何であるか気づいたようだった。
「つもるの?」
 その言葉にようやくせりなの存在に気づいた蘭が、くるっと振り返って笑顔の母に聞く。うんうん、と頷いたせりなは、
「蘭ちゃんがいい子で眠れば、きっとね。だからもう寝ましょう?冷えちゃうわよ。こっちのお部屋はぽかぽかよー」
「うん、分かった」
 廊下に座り込んで庭を眺めていたせいで、すっかり冷えてしまった身体を起こし、部屋に入る前にもう一度外を眺めた。期待に満ちた目で。

*****

「明けましておめでとうございまーす♪」
「明けましておめでとう」
「随分積もったわねぇ。外真っ白よ」
「いらっしゃい。新年明けましておめでとう、今年も宜しくね。――まあまあ、随分と大勢来た事。今雑煮を作っていた所だけど、足らなさそうね」
 明けて、2日。
 どっと押し寄せるように口々に挨拶をしながら、にこにこ顔で現れる人々を出迎えたせりなが嬉しそうに困った声を上げると言う器用な事をしてのけ、
「4人分くらいは多めに見ていたけれど、全然足らないわね。それじゃあお節に煮物も出して…」
 ずらりと並んだ顔を1人1人見つつそう言うと、
「あら楽しみ。お手伝いさせてもらっていいですか?あ、それとこれ…たいしたものじゃないですけれど」
 すっきりとした和装で髪を結い上げ、綺麗に包んだお菓子の箱をせりなに手渡しながら、台所が気になるらしいせりなへと声をかけるシュライン・エマに、せりなが嬉しそうに頷いた。
「あっ、俺も御土産ー。いとこの兄ちゃんから強奪してきた烏骨鶏のかすていらでーす。みなさんでたべてくださいっ」
 その様子を見ていた三春風太が自分の手に持つ菓子箱を思い出して、ちょっと周囲を見ながらせりなへ渡し、
「ところで蘭は?」
 とちょっと首を傾げる。
「あの子ならさっき起きたところよ。今は庭に出てると思うわ」
 シュラインがちょっと失礼して、と奥に消えるのを宜しくね、と言いつつ、今度はここからでは見えない中庭へ目を向けた。
「それじゃ、ボクも蘭のとこに行ってくるね」
 いそいそと嬉しそうに庭へと回る風太。
「俺も蘭の所に行ってくる」
 賑やかなのが嬉しいのか、子供らしい顔一杯に笑みを浮かべている草摩色が、ぺこっとせりなへ頭を下げると風太の後に付いて行った。
「本当、賑やかね。あら、そう言えば他の人は?」
 福袋だろうか。表にでかでかと赤地で『福』の字が描かれた紙袋を手に、武田小夜子がお邪魔します、と中に上がりながら訊ねると、
「ああ、皆初詣に出てるのよ。娘達は他の友達と、旦那は私が頼んでね。破魔矢とお店に置く厄除けと商売繁盛の御守を買いに行ってもらっているわ」
 有名な、だがその分遠い場所にある大きな神社の名を上げてえりなが言い。
「待っていれば夕方には戻るんじゃないかしら。…変な寄り道さえしなければね」
 にっこりと、最後の台詞にやや力を込めながら言う、その目線の先には、玄関先に立てかけられた大きなハリセンがひとつ。
「きっと夕方までには戻ってきますよ」
 せりなの視線を追いかけていたシオン・レ・ハイが、僅かに苦笑いを浮かべつつ言って玄関から上がって行く。
「それもそうね。新年早々追いかけっこもどうかと思うし」
「あの、私もお手伝いして良いでしょうか?」
 きょときょとと辺りを見回し、奥へ行ったシュラインを除き、料理の手伝いを申し出る者がいない事が気になったらしい村雨花梨がそおっと手を上げると、
「お手伝いは大歓迎よ、どうぞ。あ、予備のエプロンは居間にある箪笥の上から2段目に入ってるから、彼女の分も持って行ってくれるかしら?」
「はい、分かりました」
 とんとんと小刻みな包丁の音を耳にしつつこくっと頷いた花梨が、居間の場所を聞いてとことこと上がって行く。
「んーじゃ俺は庭で雪だるまでも作ろうかな」
 羽織袴の純和装といったいでたちの夏野影踏が、その足で上がらずに庭へと移動して行く。玄関の扉を開けた途端、蘭と風太、それに色の3人がはしゃぎまわっている声が耳に届いた。
「おー、元気なこと。さて、それじゃ邪魔しに行くかねー」
「庭に降りるのに靴を忘れてました。サンダルでは濡れてしまいますしね」
 影踏が外に消えて少しすると、入れ替わりにシオンが戻って来て靴を取り、まっすぐ上がったものかそれとも庭に回ろうか決めかねている様子の諏訪海月に、
「どうでしょう、一緒に行きませんか。何だか凄い事になってましてねー、大作を製作中らしいのです」
「大作?」
「ええ。ま、来て見れば分かりますよ」
 ちょいちょいと手招きされ、
「分かった。どっちから行けばいい?」
 海月が目でちらちらと家の中と玄関に目を向けると、
「中からですね。庭側は人間がバリケード作ってますので」
 何だか物騒な事を言いつつ、自分の靴をひょいと持ち上げてシオンがにこりと笑った。
「あらまあ、すっかり静かになった事。それじゃあ私は台所に下がってるから、何かあったらすぐ呼んでちょうだい」
「ああ」
「了解しました」
 とんとんと軽い足取りで2人が庭へ向かうのを軽く息を付きながら見送ったあと、ふん、と一瞬胸を張り、
「さあ――始めますか」
 いただきものは後で切り分けないとね、と呟きつつ、せりなはお正月らしい追加料理を考えながら台所へと消えて行った。

*****

「ゆーきだーるま♪お目目はみかんー。鼻と口はどうしようかなー」
 一面に降り積もった真っ白い雪に興奮してずっと庭で遊び続けている蘭が、よいしょっと風太と海月に手伝ってもらって頭を胴体の上に乗せた後、居間からみかんを奪取してぐりぐりと雪の顔に押し付ける。
「昔は炭で顔を作ったんですよねー。目が炭団で鼻と口が木炭。みかんの目も明るい色で悪くないですが」
「すみ?すみ…あー!」
 ぽん、と手を叩いた蘭が、雪まみれの身体のまま家の中へと飛び込んで行った。
「よおし、雪だるまは後顔だけだから、隣にかまくら作ろーっと。えーと…色も手伝ってよ。かまくらはいっぱい雪を積んで固めないといけないから大変なんだ」
「ああ、分かった」
「むむむ。駄目ですよ、雪だるまにうさぎの耳が付いてないじゃないですか」
「…付けないよな?」
「付けないと思う」
「バニースノーマン?可愛いんだか可愛くないんだか」
 すぐ側にいる風太、色、海月の3人から口々に突っ込みを入れられながらも、
「うう、付けたいんですよ」
 ぺたぺたと頭の上に2本の角を付けて行く。
「…てっぺん尖がってるぞ?」
「あ。…後で丸くしますから大丈夫ですよ」
 海月の尤もな指摘に一瞬自分の作っているものは何だろうと思い至ったのか、ぴたと動きを止めたものの半ばむきになりつつ耳?を製作していく。
「おー、寒い寒い」
 そこから玄関に至る道には、まるでかけっこでもしているかのような雪うさぎがじわじわと同類を増やし続けていた。創造主はそこでしゃがんでさくさくと雪を集めては目と耳を付けている影踏。目は庭にある南天の実で、耳は同じく南天の葉。つぶらな瞳が無邪気に空を眺め、または仲間と会話するように顔を合わせ、――そして玄関からの道はうさぎを壊さずに庭に移動するのが無理な程まっしろなうさぎ達で埋まっていた。
「何だか叙情的ですね」
 雪だるまに角を付けたままの状態で、活き活きとした雪うさぎ達をせっせと作っている影踏へと声をかけると、
「基本だろ基本。子供の時に塀の上にぎっしり作って怒られた事もあったっけな。…雪うさぎってさ、目は南天が基本だけど、耳が葉か雪かで意見が分かれる所だよな。俺は葉の方が色鮮やかで好きだけど」
「そりゃ怒られるだろ。――玄関からバリケード張られたって言ってたけど、確かにこれじゃ足の踏み場がねえわな」
 ちょっと呆れたような海月が、すぐ近くの雪をさくっとすくって自分でも仔兎を1匹作り、そっとその側に置いてみる。
「雪の思い出か…俺も庭に作ったこともあった。家の中にまで持ち込んだりしてな」
「おお、同士。冷凍庫に保存したり?」
「そうそう」
 ふっと小さく笑う海月、わかるわかると大きく頷く影踏。
「あったよー!」
 その背後…縁側からまた外に飛び出して来た蘭が、両手に炭を一本ずつ握り締めて嬉しそうに声を上げた。
「何をしてるのかと思えば。寒くないの?」
 その後ろから付いて来た小夜子が呆れた表情で皆を見回し、
「匂い取り用の炭だったらしいけど、勢い込んで来るから何事かと思ったわ」
 恐らく居間で炬燵にあたっていた小夜子の元へ、雪まみれの蘭が走り込んで来たのだろうと想像が付いた皆が、ふっと顔を綻ばせた。
 ――うさぎ雪だるまは見事に完成した。オレンジ色の大きな丸い目と、鼻筋が通り、きりっと口元を結んだ…うさ耳付きの形で。
「よおし、この勢いでかまくら作っちゃおう」
「おー」
 雪を集めて固めながら、年少3人組とシオンがわいわいとかまくらを形作って行く。
「塩水は使わなくても大丈夫かな」
 結構な数の雪うさぎを作り、真赤な手を冷たい冷たいと言いながら懐に入れていた影踏が言い、
「大丈夫じゃないの?しっかり固めればね。――それにしても奇妙な雪だるまね」
「耳のせいだよ。それが無ければふつーだろ?」
 がしがしと今度はかまくらの中を削り始めながら、風太が言い。ふう、と小夜子が息を付いて、
「それもそうね。まあいいわ、作るのに飽きたら中にいらっしゃい。来る途中で福袋を買って来たのだけれど、中身でいらない物があったら欲しい人にあげるわ」
 あっさりそう言ってまた室内へと下がって行く。
「そうだな。俺も一旦上がらせてもらうよ、寒さが身体に染みてきた」
 指先だけでなく、鼻先まで赤くなった影踏が若い連中には叶わないなと笑いながら縁側の中へ入って行く。
「…私も若い連中の仲間でしょうかね」
「さあ?でもおじさん若いよ、一緒になって雪だるまやかまくら作ってくれてるんだし」
「おじさん…」
 シオンが色の言葉にちょっぴりショックを受けながらも、若いと言う言葉にそれなりに元気を取り戻した。

*****

「あ…いいお味」
「でしょう?この辺りの加減が難しいのよね。本の分量とはほんのちょっぴり違うだけなのに」
 関東風の雑煮は、もうほとんどが出来上がっていた。味見をしたシュラインがんーっと難しそうな顔をする。
「こちらの煮物も良い感じですよ」
「そう?それなら今度は冷蔵庫に伊達巻が入ってるからそれを切ってもらえる?」
「はーい」
「後はそうね…そろそろお餅を焼きましょうか。やっていてもらえると助かるわ。その間に私は取り皿とお箸を用意しておくから。祝い箸をセットで買っておいて良かったわー」
「それじゃあお餅は私が。――あら?このやかんは?」
「ああ、それね。庭で遊んでる子たちに、柚湯でも作ろうと思ったのよ。貴女達も後でどう?」
「喜んで♪」
 かちゃかちゃとお皿やグラスを取り出してぱたぱたと居間へ運んで行くせりなを見送る2人。
「お手伝いが出来て良かったですね。全部せりなさん1人では大変でしょうから」
「本当ね。それに、せりなさんってお料理上手でしょう?こういう味を教えてもらえるといいわね」
「私も覚えたいです。これ、分かります?せりなさん、伊達巻自家製みたいですよ」
 荒い竹の巻き簀とラップに包まれた、茶色い面と見事な黄金色を見せる伊達巻に花梨が目を丸くし、餅の状態を確認しつつもシュラインもそれを見にすすっと寄ってきた。
「流石ね」
「ですねー」
「あら、どうしたの?」
 切り口を綺麗に切っていると、今度はお重を向こうに運ぼうとせりなが戻って来て、てきぱきとお重の中にお節を詰めなおして行く。
「伊達巻まで手作りされているんですか?」
 餅の見張りに戻ったシュラインをちらと見ながら、せりなへ訊ねる花梨に、くすっと笑ったせりなが、
「手作りと言う程じゃないわよ。すり身から作ったわけでも無いし。自分の好きな味付けに出来るから作ってるだけ。だってほら、美味しい伊達巻は高いじゃない?それに、美味しくても甘味が強いのよね、あれは」
 良かったら後で作り方を教えるわ、そう言うせりなに2人がほぼ同時に「お願いします」と頭を下げた。
「もう少しで出来そうね。遊んでるあの子達を呼んで、柚湯先に飲ませちゃおうかしら。何だか寒がっている人もいるし」
「あ、それじゃあそれは私が運びます。せりなさん、他の準備で忙しいんでしょう?」
「そうねー…それじゃお願い。あ、ハチミツはそこの棚にあるし、湯飲みはそっちね」
「分かりました」
 切り分けも終えてちょっと手が空いた花梨が、しゅんしゅんと蒸気を上げるやかんを火から降ろし、人数分の湯のみ――自分達3人の分はちょっと間を空けておいて、残りの湯呑みに絞りたての柚とハチミツ、そしてお湯を注いで行く。
「ああ、いい香り」
「私達はもっと手が空いてからにしましょうね。シュラインさんもまだお餅が焼け終わってないですし」
 ことこととお盆に乗せ、台所を出る花梨。――間もなく、わあっ、という歓声が台所にまで届いてシュラインとせりながくすっと目を見合わせて笑った。

*****

「お代わりー」
「俺もお代わりー」
「ちょっと、目の前に箸を突き出さないでよ。お行儀の悪い」
「雑煮のスープはまだたっぷりあるけど、この分だとお餅が足らなくなっちゃうわ。そこのコンロで追加分を焼きましょう」
「雑煮って言えばオレんちは合わせ味噌で丸餅だったなー、けど東京の雑煮も好きだぞ。餅余ってたら善哉作ろう」
「ぜんざいも好き。でもぞうにも好き…お餅足らない?足らなくなっちゃう?」
「大丈夫よ、いーっぱい買ってあるから。伸し餅を一緒に切ったでしょ?」
「うん、いっぱい切ったよ。じゃあ僕もおかわりー」
 総勢10人が居間にいて、それぞれ箸を伸ばし、舌鼓を打ち、話に興じている様はなかなか壮絶なものだった。鍋から出る湯気だけでなく、人の身体から出る熱気もあるのだろう、室内のガラスが曇って結露している。
「あっ、そう言えばせっかく作ったかまくらの中で、皆さんで雑煮を食べようと思っていたんでした」
 熱心に作っていたせいでお腹も空いたか、いくつか箸を付けて夢中で食べていたシオンがはっと我に返る。
「せっかくだけど、ちょっとそれは無理じゃない?あのかまくらなら、子供でもせいぜい2人か3人よ」
 それでも庭にでんと作られたかまくらは結構な大きさだった。…確かに10人もの人間が入るかまくらなら、それはすでにかまくらではなくエスキモーの住居のようになってしまっているだろう。
「…残念です」
 しゅん、としたシオンに、
「入るだけならいくらでも入れるんだし、後で入ればいいじゃないか」
 静かに雑煮を味わっていた海月がぼそりと呟いた。
「流石にこれだけの人数がいると、減りも早いわ。――ああそうそう、後でシュラインさんの持って来たお菓子も出しましょうね。御人形入りのケーキだったかしら」
「ガレット・デ・ロアね。ええ、そう、フォーチュンクッキーみたいなものかしら。人数分に分けて、その中から人形が出て来た人がその日の王様になれるっていうお菓子よ。海外じゃ小学校でもこのお菓子が出て、手作りの王冠を被って帰宅する子供もいるんですって」
「占い入りケーキね、お正月らしいかも」
 食後のお茶を啜りながら小夜子が言い、
「そうだわ。せっかくだから、私もお正月らしくご飯が済んだら占いでもしてあげようかしら。今年1年の運勢を見てあげる。誰からやる?」
「あーい」
「駄目でしょう蘭、ちゃんと飲み込んでから話しなさい」
 もぐ、と口を動かしながら目を輝かせた蘭をせりながたしなめ、ごっくんと飲み込んでからこくりと頷いた蘭がすぐさま立ち上がって小夜子の元へと行く。
「そうね」
 じろじろじろと蘭を真剣な表情で見つつ、どう言う訳かほんの少し表情を和らげて、
「良い事は無さそうね。病気や怪我に見舞われる事もありそうよ。気をつけなさい」
 きっぱりと言い切る。
「…ないの?」
 途端しゅんとなった蘭に、「残念ながら無いわね。私の占いではそうなっているわ」とにべもない言葉を告げて、
「次は?」
 とあっさり他へ首を回す。
「新年早々縁起でもないなー。なんだかおみくじ引きに行って大凶当てた時みたいだ」
 よいしょと風太が身体の位置を変え、
「おねーさん、ボクは?ボクはどう?」
 よしよしと言うように蘭の頭をくしゃりと撫で、それから小夜子に向き直る。
「……スポーツで不幸な事が起こりそうよ。何かしら、試合に出られなくなるとかそんな感じで。他はそうねえ。平凡かそれ以下の生活が待っていると思って間違いないわ」
「おおー。すごーい、本当にそれが当たったら悲しいよー」
「…何だか嬉しそうに見えるよ」
 蘭がまだしょんぼりとしながら風太に不思議そうに訊ねると、にかっと笑った風太が、
「だってさ、そこまで言われる事って滅多にないんだもん。面白いって思わない?」
「んー…僕はいい占いの方がすきー」
「でもあたるもあたらないも半々って言うよ?ここで言われて落ち込むより、そうならないようにすればいいだけの事だよー」
 それより、少し休んだら雪合戦しない?と言われ、途端ぱぁっと明るい顔になる蘭。
「それはその通りよ。暗い顔をしていたら、貧乏神が仲良くなってしまうわ」
 自分で不幸な占い結果を出した割りにはしれっとした顔で小夜子が言い、そして他の皆に向き直って、
「他は?」
 と、相変わらず表情の読みにくい顔で訊ねた。

 ――それから何となくぽろぽろと皆が占ってもらったのだが、良い結果が小夜子の口から出る事は無く。ここまで徹底していると言うのも珍しいと、ちょっと不思議な思いになりながらも占いは済んだ。
「後は皆の心がけ次第ね」
 ずー、とお茶を啜ってふーと息を吐く。
「心がけって言われてもな」
 客の入りが悪い、客と激しいトラブルになる可能性があるとまで言われた海月が渋い顔をしつつ、気をつけるのか、俺?と自問する。
「私よりいいじゃないですかー。私なんか更に今年は借金を背負うとか言われてるんですよ?」
 シオンが困りましたねー、と本気なのかどうなのか分かり難い声で言えば、
「次から次へとふられるとか言われた俺はどうなんの」
 小夜子がいらないと言った福袋の中の、見るからに男物のセーターをもらい、寒さしのぎに羽織の中に着てぬくぬくしている影踏が顎近くまでセーターに顔を埋めてぶつぶつぼやく。
「――人徳?」
「こらそこ妙な突っ込み入れない」
 ぽそりと呟いた小夜子に、影踏がぴしりと懐の中で温めている手をそっと出して突っ込んだ。
「良かった、お餅も余ってるわ」
 これでおやつに善哉とさっきのお菓子も出しましょうね、そう言いながらご主人の浮気に注意と言われたせりながほんの少しだけこめかみをひくつかせていた。

*****

「とおー」
「おお、やるなー」
 蘭と風太が手に持つ雪玉が飛び交う脇では、蘭が引っ張り出してきた羽子板をシオンと影踏が真剣に向かい合いながら羽根を打ち合っている。縁側からそれを眺める小夜子の手には、たっぷり墨を含ませた筆。
「鶏冠は色なら南天だけど、形は葉の方が良いのよねー…どうしようかしら」
「うさぎと同じように、目に南天を使って、鶏冠と喉に葉っぱを刺してみたらどうですか」
 蘭達が昼前に作った雪だるまの脇では、シュラインと花梨が雪うさぎならぬ雪鶏の製作に勤しんでいる。
 その奥では、色が山ほど庭にいる雪うさぎの側で見事な雪像を作り上げ、ついでにと海月がその足元に礼拝しているかのように雪うさぎの配置換えを始めた。
「雪のアートね。いつもの庭とは随分違うわ」
 後片付けを終え、おやつの準備も済ませたせりなが庭に降りて来て、出来上がりを目を細めて見やっている。
「ああっ、ママさんはっけーん。えーいっ」
 ぽこっ。
 その後頭部に、蘭が嬉々として放った雪玉が当たり、そして弾けた。
「………」
「おっ。おねーさんも混ざったの?それじゃ遠慮なく――」
 ぱこ、ぽこっ。
 風太が連続で投げた玉も、狙い過たずせりなの肩とエプロンを付けた胸に当たった。その後、風太は足に付けていたミニスキーでさあーっとかまくらの裏へと逃げ込んでいく。
「お、おい…」
 目に墨で丸を描かれた影踏と、あごひげが生えたシオンがぴたりと動きを止める。庭に出ていた他の者も、黙って立ち尽くしているせりなの様子に動きを止めて、心配そうに見やり――。
「うふふふ。坊や達、いきなり雪玉とは卑怯じゃないのかしら?」
 きらんっ、とせりなの目が光ると、
 ――しゃきーん!
 いつの間にか片手にはハリセン、そしてもう片方の手には片手でぎゅっと握り締めただけの雪玉。
「さあ覚悟なさい、雪まみれになりたくなければ家の中に入る事ね!」
 千本ノックの要領で――片手でせっせと雪玉を作りながら、自分に雪玉を当ててくれた子供達、そしてその周辺にいる大人達へとぱしぱし雪玉を当て始めた。これには羽根突き組も雪の作品製作組も慌てて立ち上がり、防御しながら家の中に飛び込む者は飛び込み――だが、ほとんどの者はその場に残って、何かに取り付かれたかのようにきゅっと手で雪玉を握っては誰彼構わず投げつけるバトルロイヤルが開始された。
「………お茶でもどう?」
「戴くよ。というかあれじゃ冷えるな…俺が善哉作るか」
 ちゃっかり戻っていたのは、小夜子と影踏の2人だけ。
 庭の8人の中で一番良く動いていたのは、何故か最年長のせりなだった。

 ――そして、夢中で過ごした雪合戦の後。
「う、わ、わわわわわ」
「わ、し、しがみつかないで逃げるんだ、ほらっ」
「きゃーーーー、ママさあああん〜〜」
 かまくらの上と裏に陣取って、タッグを組んで戦っていた蘭、風太、色の3人がぐったりと疲れた大人を置いて、かまくらの上で勝利のダンスを踊っていた時、
 ぼこ。
 柔らかな雪だったせいか、それとも固める力が足りなかったせいか、単にかまくらの屋根でどかどか足踏みをしたせいか…多分最後の理由で、かまくらは崩壊した。
「大丈夫っ!?」
 雪まみれの大人達が、更に真っ白に埋まった3人を掘り起こし、無事を確認してほーっと息を付いた途端誰かがくしゃみをし。
「善哉できたぞー」
 実に良いタイミングで影踏が庭の皆へ声をかけ、小夜子が用意したらしい炬燵の中で温めたのか、ほかほかのタオルがその足元に積んであった。

「あらー」
 嬉しそうな声は、居間に戻った皆の中から上がった。
「可愛い人形ね。それじゃお母さんが王様なのね」
 いいなー、と言う声を異口同音に上げたのは子供達。
「ふふーん。不意を付いて雪玉を当てるような人には当たらないわよ」
 ちょっと得意げなせりなが、後でお家の良い場所に飾っておきましょうね、と大事そうに陶器の人形をポケットに仕舞い、甘く作られた善哉を実に美味しそうにゆっくりと啜る。
「随分はしゃいじゃったわ。年甲斐もなくねえ」
「あら、でも楽しかったわ。あんたも一緒に混ざれば良かったのに」
「雪は冷たいから遠慮しておくわ」
 少し乱れた着物と髪をきちんと直したシュラインに言われた小夜子がゆるりと首を振る。
「でもせっかく作ったかまくらもったいなかったねー」
「うんうん。上でおどったからかなぁ」
「多分ね」
 わいわい感想を言いつつ、冷えた身体を温める一同。子供も大人も、それなりに楽しい一日を過ごせたようだった。
 そして――時間はたちまち過ぎ去り。
 この家の家族が戻って来るのと入れ替わりに、それぞれの家路に付く。

 何故だか、皆せりなに「私が年長だから」と言うよく分からない理由でお年玉を貰って。
 子供達は他の大人にもお年玉を貰って大喜びだったが、せりなと2つしか違わないシオンなどは駅で別れるまでポチ袋を不思議そうに、そして何とも言えない表情で眺めていた。


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┏┫■■■■■■■■■登場人物表■■■■■■■■■┣┓
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┗━┛★あけましておめでとうPCパーティノベル★┗━┛

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【2163/藤井・蘭    /男性/ 1/藤井家の居候           】

【0086/シュライン・エマ/女性/26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1868/村雨・花梨   /女性/21/保育士              】
【2164/三春・風太   /男性/17/高校生              】
【2309/夏野・影踏   /男性/22/栄養士              】
【2675/草摩・色    /男性/15/中学生              】
【2716/武田・小夜子  /女性/21/大学生・占い師          】
【3332/藤井・せりな  /女性/45/主婦               】
【3356/シオン・レ・ハイ/男性/42/びんぼーにん(食住)+α     】
【3604/諏訪・海月   /男性/20/ハッカー&万屋、トランスのメンバー】


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■         ライター通信          ■
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長々とお待たせいたしました。新年のパーティノベルをお届けします。
新年らしく和気あいあいとした雰囲気になるよう、そして皆様のプレイングに添うよう書かせていただきましたが、いかがでしたでしょうか。楽しんでいただければ幸いです。

丁度タイムリーと言いましょうか、ここ何日か全国的に大雪だそうで…この集まった皆のように雪ではしゃいでいる人も多いような気がします。交通機関は大変なようですが。

尚、主宰PCのみトップに置き、他の方は番号順に並べてありますのでご了承下さい。

それでは、皆様にとって今年が良い1年でありますよう、お祈りいたします。
今年も宜しくお願いいたします。
間垣久実