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初詣と初夢を 〜幻影学園版〜
年越し後のどことなく浮き足立った雰囲気の神社に、新年の初詣へ姉達と一緒に来た蒲公英。
周りの沢山の人達は浮き足立った様子で、それぞれ楽しそうに過ごしていた。
今年は例年より参拝客が少な目だからと安心していたのがいけなかった様である。
ほんの僅かな間だというのに目を離した途端に姉達とはぐれてしまったのだ。
晴れ着では走って捜す事も出来ないし、呼びかけようにも大きな声を出す事も出来ない。
このまま会えなかったらと思うと非道く不安だった。
思い出して取りだした携帯電話は人が多くて通話不可能の状態。
どこかで人が呼び出せるような場所があるかも知れないと思いつつも、蒲公英にはその肝心な場所が解らない。
誰かに聞けば良かったのかも知れない、でも周りは知らない人だらけで声をかける事も出来なかった。
「どうしよう………」
体が冷えてきてぞくりと体を震わせる。
このままここにいたら間違いなく風邪を引いてしまいそうだ。
「くしゅんっ」
小さくくしゃみをして、冷たくなった手に息をかけて暖める。
何か暖まれる所をと思って顔を上げると目に入ってきたのは、甘酒を配っている巫女さんの姿。
柔らかい光と甘い香り。
飲んだら少しは寒さもしのげる筈だ。
「あの……すみません」
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます……」
笑顔で快く渡してくれた巫女さんにお礼を言い、紙コップを受け取ってから歩く人の邪魔をしないように道の端に移動する。
熱くてヤケドしてしまいそうな甘酒をゆっくりと冷ましてから、少しずつ口を付け始めた。
「……あれ?」
一口飲んで何かおかしいと気付く。
よく見れば紙コップの中身はきれいな透明で………違う、これは御神酒だ。
甘酒だとばかり思っていた、渡した巫女さんもそう思っていたのかも知れない。
御神酒だったらしいと気付いても時既に遅し。
普段飲んだ事がないお酒である上に、度数が高く目の前が回り始めて足下がフワフワとしてきた。
「………んっ」
お酒を飲んだのだと気付いてしまったら、急にまぶたが重くなってくる。
こんな所で寝たらいけないと解っているのに体が動かない。
ウトウトとし始めてしまった蒲公英の肩にそっと暖かいものかかけられ、ふわりと持ち上げられる。
「………?」
「こんな所で寝たら風邪を引いてしまうからね」
優しい声と寄りかかった場所から聞こえる心臓の音はとても優しくて、蒲公英はそのまま目蓋を降ろした。
偶々ここを通りかかったから事なきを得たのである。
そうでなかったら彼女はどうなっていた事かと……モーリスは新年早々運がいい事だと口元に笑みを浮かべた。
初詣として普段滅多にしない事を……紋付き袴を着たり、人混みに巻き込まれに来たりしたのは自分でも疑問だったのだが……ここに来たのは幸運だったらしい。
こんなに素敵な落とし物を拾えたのだから、飲み慣れないアルコールに酔ってしまったのだろう事は明らかだった。
力を使えば直ぐに治せるのだがそれでは面白くない。
晴れ着姿はとても可愛らしい。
頬にかかる髪をかき上げて撫でながら、起こさないようにそっと撫でる。
「暖かい所に移動しようか、ずいぶん冷えてしまったからね」
冷えた体を温めるという名目で抱え上げ、髪にキスを落とした。
歩き出す前にやるべき事が一つある。
「連絡は取っておきませんとね」
蒲公英の携帯をチェックし、この人混みの中でも電波が届きやすいように少し細工してから留守番電話に連絡を入れておく。
「どうも、モーリスです。蒲公英さんは私がお預かりしていますから安心してください」
聞く人にとってはどう考えても安全じゃないどころか、危険その物だと言われる事間違いないだろう伝言だった。
それを解った上で、モーリスは蒲公英を連れてゆっくりと休ませる事が出来る場所へと向かう。
場所はそう、近くのホテルへと。
「今日もよく寝てますね」
寝ぼけている蒲公英はとても従順でされるがままなのだ。
今日はどんな楽しい事になるのだろうか?
手際よく借りたホテルの一室によく眠っている蒲公英を連れ、大きめのベッドへと横にならせる。
「もうこれで風邪を引く心配はないですよ」
「……んっ」
身じろぎする蒲公英に、もうそろそろ解き物へと手を伸ばす。
「着物……着たままでは苦しいですからね」
帯を解こうと触れかけていた手がピタリと止まった。
「………」
「………」
パチリと開かれた蒲公英の手がモーリスを潤んだ目で見つめている。
否定ではなく、熱のこもった何かを欲しがるような瞳。
「先輩……」
「起こしてしまいましたか?」
触れる所を捜すように寝そべったまま、蒲公英の手が空中をかく。
寝ぼけているのだろうかと行き場のない蒲公英の手を取ると握り返される掌。
普段とは違う様子におや、とは思いつつも止める事はせずにどうするのかを見守り始める。
「………んっ」
ゆっくりと体を起こした蒲公英の隣に座ったモーリスの目の前で、しゅるっと乾いた音を立てて帯を解いていく。
「脱いで見せてくれるんですか?」
「くるし……」
「なるほどそう言う事ですか、手伝いますか?」
「………」
フルフルと首を横に振られ、手を出すのは最小限に抑える事にする。
何もしなくとも目の前で解かれていく着物。
寝ぼけている事や酔っている事、後は帯紐位置が解きにくい場所にあったりして手間取った時にはモーリスが手ほかして脱がしていく。
着物と言うのはほとんど露出なんて物はないだけに、こうして脱ぐのを見たり脱がせたりするのはとても楽しい事だった。
「ここの紐は前に回してから解くと簡単ですからね」
「………」
聞きように………もとい、もうどう解釈しても危険な言葉にも素直に頷く蒲公英。
「解らない事があったら言って下さいね」
「はい……先輩」
トロンとした目でモーリスを見つめ、可愛らしい事だと髪を撫でて頬にキスをする。
それだけの事で蒲公英の柔らかい頬は、鮮やかな朱色へと染まっていった。
「とても綺麗ですよ」
「せんぱい……」
舌っ足らずな口調でモーリスに応え、頬に触れた手に蒲公英は自らの手を重ねる。
華奢で繊細な少女の手だった。
「さあ、次の紐が最後の一本ですよ」
小さく頷き、帯紐を解き完全に前をはだけさせる。
「折角ですから、このままで」
「……さむ、いです」
胸元にかけられた手は、モーリスを欲しいと言われているかのようだった。
「今、暖めてあげますからね」
肩を抱き寄せ、着物をはだけさせた部分から手を差し入れたモーリスに、くたりともたれ掛かってくる。
「………?」
なにかおかしいと気づき顔をのぞき込めば、蒲公英は気持ちよさそうに熟睡していた。
「………」
こうも完全に眠っていては続ける事も出来ない。
「………惜しいですね」
苦笑しながら着物を脱がせてベットに寝かせ、傍で髪を撫でつつ見守る事にする。
今できるのは、精々それぐらいだったのだ。
程なくして酔いを醒ました蒲公英の髪を撫で、耳元に囁きかける。
「おはようございます」
「………え?」
「朝まで起きないかと思ってましたよ」
首筋から肩にかけて手が撫でていくのを感じたが、どうしてなのかが寝ぼけた今の蒲公英の思考では理解できない。
「あ……せんぱ、い?」
「チェックアウトの時間まではまだ時間がありますからね……今日はゆっくりと出来ますよ」
額にキスを落とされてから、蒲公英が寝ているすぐ側に腰掛けると小さくベットが軋む音が耳に届いた。
「さっきの続きを始めましょうか……」
覆い被さるように顔をのぞき込んだモーリスの体が、少しずつ近づいてくる。
首筋に触れる柔らかくて暖かい感触。
「……ぁ」
何時着物を脱いだのかも解らないままに、小さくたじろいだ体を抱き寄せられた。
「さっきのように、手を置いてはくれないんですか?」
「さっき?」
さっきとは何時の事だろうと首を傾げる蒲公英に、モーリスが手を取り自らの胸辺りに手を置かせる。
素肌に感張る布の肌触りに大きく心臓が跳ねながらも、蒲公英は言われた通りに手をそわせた。
「こう……ですか?」
「いい子ですね」
「んっ」
背中を撫でる大きな掌に、肌がぞわりと泡立つのを感じ触れたいてた服をしっかりと掴む。
「相変わらず良い反応で嬉しいですよ」
耳元で囁かれ、肌の上を滑り降りて行く掌。
「…………あっ」
感じるのはシーツの肌触りと、掌が与える暖かい手の動き。
モーリスの声に、思考は甘くとろけていった。
目を開く。
心臓がドキドキしていた。
「……えっと」
何か夢を見ていた……そう、夢である。
寝転がったままジッと掌を見つめてみた。
「………」
どんな夢を見ていたのかは思い出せなかったがちいさな子供の手である事に、どうしてだかほっとする。
今朝もシャワーを浴びた方が良いだろうかと……蒲公英はギュウッと枕を抱き締めた。
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