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<あけましておめでとうパーティノベル・2005>


かぐやとハッピー双六ニューイヤー

◆思い出のあの装置で?!
 それはまだ年が改まって数分も経っていない時の事だった。勿論、営業時間に盆暮れの注釈のない『ルナティックイリュージョン』では、ごく普通に営業が行われている。遅い月の出であったので、営業したばかりであり東の空に欠け始めた月が掛かっているだろう。
「え? あの装置? そりゃあまだありますけどね」
 天薙・撫子の問いに吉村・佑輔は怪訝そうにしながらも肯定した。先月不調をきたしたメインコンピュータ修復の為、佑輔が設置したその装置は公には出来ない様なシロモノであった。『人間を睡眠状態にしてコンピュータにアクセスさせ、そこで色々活動出来ちゃったりする装置』なんて、どのように他人に伝えてもアヤしいと思われるだろう。勿論、安全性も保証されてはいない。そんな装置だが、既に使用者が複数いた。ここにいる撫子はその1人だ。
「それはよろしゅうございますわ。お願いです。是非わたくしにそれを使わせて頂けないでしょうか?」
「え? あれをまた‥‥ですか? 何故?」
 佑輔は目を見開いた。世にも珍しい生き物でも見るかのような表情で撫子を見つめた。撫子は真っ直ぐに佑輔を見つめ返す。その態度は真摯で真面目だ。佑輔は溜め息をついた。
「あのですね、わかってなかったかもしれませんけどね、あの装置を使うのは凄く危険な事なんですよ。どうしても必要だったから使っちゃいましたけどね、極力使いたくないっていうのが俺の本音なんですよ」
 佑輔が使用者を心配して言ってくれているのはよくわかった。普段ならば他人の気持ちには特に気を配る撫子であったが、今は退けない。
「わたくし、我が儘で申し上げているわけではございません。またあのような事態に陥る事がないようにするには、僭越とは思いますが、時折かぐや様をお訪ねして楽しんで頂く事が大事だと思うのです」
 撫子は胸元に抱く風呂敷包みを解き、佑輔に見せた。黒塗りの上品なお重であった。
「人間でも季節事の行事は生活の彩りとなります。かぐや様にも是非それを感じて、楽しんで頂きたいのです」
「‥‥わかりました」
 佑輔は目を閉じてうなづいた。
「えっと‥‥次に閉園するのは10時ぐらいだから‥‥正午からでもいいですか?」
「勿論ですわ。あ、まだ新年のご挨拶をしておりませんでしたわね、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します」
「こ、こちらこそ、よろしく」
 淑やかに礼をする撫子に、ややぎこちなく佑輔も挨拶を返した。

◆そして楽しい(?)パーティ
 白いドレスに小さな金の冠姿。まったくもっていつもと同じ姿をしたプリンセスかぐやは生あくびをしながら来訪者達を出迎えた。多分、ここはかぐやの私室という設定なのだろう。
「やっと営業時間が終わったところなのにぃ。一体どうしたのですかぁ〜?」
「‥‥」
「あの! お願いします! 握手してください」
 撫子が何かを言うより先に、シオン・レ・ハイが前に進み出て上体を折り、両手を差し出した。なんとなく動きが堅い。緊張でもしているのだろうか。
「握手ですかぁ〜。いいですけど、別にぃ〜」
 かぐやは星のついた杖を左手に持ち替え、小さくて白い手をシオンに差し出した。ウサギであって本当のウサギではない、土を駆けた事もないだろう手がシオンの両手に包まれる。
「うわ〜なんか、うっわ〜〜感激しちゃいますね。立って歩いてお話もするウサギさんですよ。わぁ〜」
 シオンは満面の笑みを浮かべ、隣に立つセレスティ・カーニンガムとシュライン・エマに同意を求める。なんとなく言動が子供っぽくなっているのは気のせいだろうか。
「明けましておめでとうございます。今日は新年を祝うパーティをしませんか?」
 きゃ〜きゃ〜言っているシオンを無視し、撫子はかぐやに新年の挨拶をし用件を伝えた。
「あらぁ。そういう事なら大歓迎ですわぁ。さ、皆さんどうぞ中に入ってくださ〜い。そうなのね、だから皆さん服装がちょっと違うんですねぇ〜」
 かぐやは4人を招き入れながら、しげしげとその服装を見る。普段から和装の撫子であったが、今日は新年と言う事で華やか晴れ着姿だった。蘇枋から深緋にグラデーションする地色に鮮やかな扇面が描かれている。シュラインは濃い桔梗色に大輪の白い牡丹を描いた粋で洒落た和服姿だった。結い上げた髪に白玉のかんざしが刺してある。
「新年会だっていうから、お節料理とフォーチュンクッキーを作ってきたわ。持ち込めるかちょっと心配したけど、なんとかなったみたいよね」
 シュラインは左手で後れ毛をかきあげた。そういう様子はなんとも妖艶で色っぽい。
「民族衣装はその国の人が最も美しいのだと聞きましたが、こういう機会は滅多にないので私も服装を改めてみました」
 セレスティは普段よく身につけるソフトスーツではなく、上質そうな紬のアンサンブルを着用していた。足には足袋に草履までちゃんと履いている。そして白いバラの花束をかぐやに手渡した。その所作はあくまで優雅で洗練されている。
「えーお似合いですよぉ。えっと、そこの人も‥‥」
 かぐやはセレスティににっこり微笑み、おざなりにシオンにも声を掛ける。
「え? ほんと? 私もですか? やった、やりましたよ、撫子さん」
 シオンは嬉しそうに撫子に報告する。
「すみません‥‥かぐや様。シオン様の衣装は作務衣って言いまして、実は新年のパーティには不向きな衣装なのです」
 撫子はうつむき気味に、心苦しそうにそう告げる。
「じゃあなんでシオンはアレを着ているの?」
「だって、こっちのが動きやすいし微妙に貧乏臭くていいじゃないですか。これでも一応和装なんだし、私にはこれが似合いです」
 満面の笑みでサムズアップをするシオン。そうしていると、陶芸家に弟子入りした妖しい外国人風である意味似合っていなくもない。
「は〜い。こっちは準備出来たわよ」
「こたつですか。風情があっていいですね」
 どこからともなく出現していたこたつのテーブルにシュラインは持参してきた料理を並べていた。セレスティはすでにこたつにあたり、雪をかぶった松をの見える窓を背にしてニコニコしている。見事なぐらい、シオンの決めポーズは鮮やかにスルーされている。
「行きましょう、かぐや様」
「は〜い」
 撫子が手を差し出すとかぐやはポンと音を立てると煙りと共に変身した。甘いピンク色の振り袖だった。王冠の代わりに大名の姫君の様なキラキラが頭を飾る。
「これでパーティ衣装も完璧ですぅ〜」
「あ、待ってください。私にも撫子さんとシュラインさんのお料理を〜」
 シオンはあわてて皆のいる方へと走った。

◆お正月の遊戯といえば
 杯ごとから始めてお節をいただき、お雑煮を食べてお腹も一杯になった。
「では双六をいたしましょう」
 簡単にテーブルの上を片づけると、撫子はそう言った。
「すごろく? ってなぁに?」
「日本の盤ゲームよ。サイコロを振って出た目だけ前へ進む。早くゴールした者が勝ち」
 ごく簡潔にシュラインがかぐやに説明をする。
「それぞれの目に止まったら、そこに書いてある事をしなくてはならない‥‥なんてルールもありましたね」
 セレスティは撫子の持ってきた双六を指さす。一マス目は『歌を歌う』であったし、その次は『1回休み』と書いてあった。
「わかったですわぁ〜それならこうすればいいです〜」
 かぐやが杖を振るう。双六は突如大きくなり、ルートは螺旋を描き立体的に空へと続く。部屋は真っ白でふわふわの雲の中の様になっていて、皆は大きく『スタート』と書かれたサークルの中にいた。
「サイコロをドウゾ」
 ルナティックイリュージョンのお掃除ロボットと同じ型のロボットが、ちまちまとやってきてサイコロを差し出す。
「ではわたくしから参ります」
 撫子はロボットからサイコロを受け取り、左手で袖口を押さえつつ投げた。
「5デス」
 ロボットが叫ぶ。いつの間にか撫子の背には小さな白い羽根が生えていて、それがパタパタを羽ばたき撫子の身体は物理法則を裏切ってふわりと浮かんだ。
「え? あら? きゃあぁ」
 低く浮かぶとマスを5個進んでふわりと着地する。
「オドリをオドレ、デス」
 撫子が着地したマスに書いてある文字をロボットが読み上げる。
「踊りならお得意じゃないですか、撫子さん」
 シオンが早くも拍手をする。困っていても仕方がない。撫子はすぐに演目を決めた。
「では‥‥『鷺娘』のさわりを」
 撫子が言うと衣装は赤からぱぁっと白に変わった。舞台衣装に似ているが、細かいところが少し違う。絹で出来ているような、そうではないような不思議な手触りの布で出来た衣装をまとっていた。
「これはどうしたのですか?」
 本当に不思議に思ってかぐやに尋ねる。
「うーんとね、撫子の記憶にあるものを再現しているだけなのですぅ。再現する能力には『経験』ってものが大事だからぁ、シュラインや、セレスティ、シオンが見ている衣装はまたちょっと違う筈なのぉ」
 スタート地点に座ったままかぐやがのんびりと答える。
「私からは袖がひらひらして翼みたいに見えるわよ」
 シュラインは和服のままで腕組みをして、見えたままを撫子に伝えた。白い衣装には地紋が羽根のように浮き出て見える。
「私には鳥の羽で出来た装飾品が見えます。髪にも胸元にも手首にも‥‥とても美しいですよ、撫子さん。良く似合っておいでだ」
 セレスティは華奢な白い椅子に座っていた。繊細な骨組みが曲線を描き、抱き留めるようにセレスティを支えている。
「えー、頭に鳥のかぶり物をしてて、それから‥‥」
「もう良いです。踊ります」
 シオンの言葉を遮って撫子は宣言した。どこに地方がいるというのか楽の音が聞こえてくる。ここでは不思議なんて、なんでもない事なのだろう。撫子は腹をくくって踊りに専念した。
 シュラインは6を出してトップに出た。
「1回休みデス」
「あら? 残念ね」
 緋毛氈を敷いた茶席に正座をする。赤くて大きな和傘が差しかけてあった。
「お茶をドウゾ」
 カラクリ人形の様に別のロボットが茶を乗せた盆を持って近寄ってきた。隣には春らしいピンク色のお茶菓子までついている。
「なんか面白いわね。次の人、早くサイコロを投げてよ」
 半身をひねってスタート地点を振り返る。ちょうどセレスティが椅子から立ち上がり、サイコロを受け取るところだった。片手で投げるとそれは緩やかな放物線を描きピタリと止まる。
「3デス。隠し芸を披露デス」
「隠し芸ですか」
 やっぱりパタパタと背に生えた翼に運ばれて着地した地点でセレスティは首をひねった。こういう席ではどこまでが『隠し芸』の範疇に入るのだろう。
「‥‥では水芸を」
 途端にセレスティはかみしもを着けた若衆姿になっていた。自分の髪型が『まげ』なのは多分初めてのことだろう。帯にたばさんでいた扇を開くとその真ん中から小さな水流が吹き出してくる。柄杓、杯、果ては太刀からも水が小さな噴水となる。
「みずげい、みずげい」
 なんだかよくわからないが、かぐやには受けている様だ。足をバタバタさせながら楽しそうに笑っている。楽しいならまぁいいだろう。セレスティは笑って優雅に礼をした。
「よし! じゃあ私の番ですね」
 サイコロを手にシオンは気合いを入れる。色々と去年流行ったポーズやかけ声をして気合いを入れ、それからおもむろにサイコロを投げる。
−ズボ−
 奇妙な音を立ててサイコロはふわふわした雲の様な床を突き抜けた。一瞬穴が開いた床はすぐに廻りのふわふわが集まって修復される。けれどサイコロは戻ってこない。
「えーもしかしてOBですか?」
「ゴルフじゃないのよ」
 シュラインが緋毛氈に座ったままツッコミを入れる。シオンは軽くうなづき困った様に肩を落とした。そしてサイコロが消えていった床を見つめる。その時、もの凄い勢いでサイコロが返ってきた。まるでバウンドして威力を増したテニスかスカッシュのボールの様な速度だ。それは綺麗にシオンの顔にヒットした。
「‥‥」
 無言でシオンは仰向けに倒れた。

◆お後はよろしいよう‥‥ですか?
 ご〜んという鈍い音がした。すぐに佑輔はアクセス装置に駆け寄り蓋を開く。その半分温水が入った筒の中でシオンは上半身を起こしていた。右手が額をさすっている。
「何があったんですか?」
 佑輔は少し早口にシオンに尋ねた。トラブル発生だろうかと目線をめぐらすが、他の装置にはまだ帰還の兆しはない。前回はこんなに唐突ではなくゆっくりと戻ってきたのだ。
「いえ、双六で負傷しちゃって‥‥面目ないです。それに‥‥あ!」
 シオンは空いている左手を腹にあてる。
「え? どこか具合でも悪いんですか?」
「‥‥お腹空いているですよ。中であんなに食べたのに、やっぱりこっちじゃお腹減ってるんですね。あんなにあんなに食べたのに」
「‥‥元気そうですね」
 しょんぼりしているシオンを装置の中に残し、佑輔は立ち上がった。

 倒れると同時に消えてしまったシオンを抜かし、その後も双六は続けられた。けれどなかなかゴールは見えてこない。
「あのね、もうそろそろ戻った方がいいかもなのぉ。あんまり長い間こっちにいると良くないかもなのぉ」
 どこか寂しそうに赤い目が撫子、シュライン、セレスティを順番に見る。
「そう。あなたがそう言うのなら、従った方が良いみたいね」
 トップを独走していたシュラインはすぐにうなづいた。様々に変化した衣装は普段よく着るタイプの服になっていた。
「楽しかったですよ、かぐやさん。あなたも楽しんで頂けたなら私も嬉しいのですが‥‥」
 やや明るめの紺系色無地のスーツ姿となったセレスティは、いつもより明るい頬の色をしてそう言った。
「楽しかったですよぉ。こんなところまで来てくれて、本当に嬉しいのですぅ。ありがとうですぅ」
「‥‥よかった。では、また機会がございましたらお邪魔いたしますわね」
「うん。また双六で遊びたいですぅ」
 普段使いの和装になった撫子の言葉にかぐやは何度も大きく首を縦に振る。そして目に見える情景は少しずつ白くなり、やがて真っ白になった。

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┏┫■■■■■■■■■登場人物表■■■■■■■■■┣┓
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┗━┛★あけましておめでとうPCパーティノベル★┗━┛゜
【0328/天薙・撫子/女性/踊りました】
【0086/シュライン・エマ/女性/喫茶しました】
【1883/セレスティ・カーニンガム/男性/水芸しました】
【3356 /シオン・レ・ハイ/男性/気絶しました】
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■         ライター通信          ■
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 お待たせ致しました。パーティノベルをお届けいたします。なにぶん、お正月らしい遊びをここ数年したことがなく、懐かしい思いで書かせて頂きました。また、機会がありましたら、かぐやと遊んでやってくださいませ。お願いします。