コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


激走! 開運招福初夢レース2005!

〜 スターティンググリッド 〜

 気がつくと、真っ白な部屋にいた。
 床も、壁も、天井も白一色で、ドアはおろか、窓すらもない。

(ここ、どこ? あたし、どうしてこんなところにいるの?)

 納得のいく答えを求めて、懸命に記憶をたどる。
 その結果、導き出された答えは一つだった。

(これ、ひょっとして、夢?)

 自分の記憶は、ちょうど眠りについたところで途切れている。
 だとすれば、これはきっと夢に違いない。
 眠っている間に何者かにここへ運び込まれた、ということもありえなくはないが、それよりは、これが夢である可能性の方が高いだろう。

 それにしても、なんとつまらない夢だろう。
 何もない、だだっ広い真っ白な部屋に、自分ひとりぼっち。
 しかも、ただの夢ならともかく、これが2005年の初夢だとは。
 
(目が覚めるまで、待つしかないのかな)
 そう考えはじめた時、突然、どこからともなく声が響いてきた。
「お待たせいたしました! ただいまより、新春恒例・開運招福初夢レースを開催いたします!!」

(『新春恒例・初夢レース』……?)
 新春恒例と言われても、そんなレースは聞いたこともない。
 不思議に思っている間にも、声はさらにこう続けた。
「ルールは簡単。誰よりも早く富士山の山頂にたどり着くことができれば優勝です。
 そこに到達するまでのルート、手段等は全て自由。ライバルへの妨害もOKとします」

(面白そうじゃない)
 聞いているうちに、次第とそんな気持ちが強くなってくる。
 なんでもありの夢の中で、なんでもありのレース大会。
 考えようによっては、こんなに面白いことはない。

 それに、どうせ全ては夢の中の出来事なのだ。
 負けたところで、失うものがあるわけでもない。
 もちろん、勝ったところで何が手に入るわけでもないのかもしれないが、楽しい夢が見られれば、それだけでもよしとすべきだろう。

「それでは、いよいよスタートとなります。
 今から十秒後に周囲の壁が消滅いたしますので、参加者の皆様はそれを合図にスタートして下さい」
 その言葉を最後に、声は沈黙し……それからぴったり十秒後、予告通りに、周囲の壁が突然消え去った。
 かわりに、視界に飛び込んできたのは、ローラースケートやスポーツカー、モーターボートに小型飛行機などの様々な乗り物(?)と、馬、カバ、ラクダや巨大カタツムリなどの動物、そして乱雑に置かれた妨害用と思しき様々な物体。

 想像を絶する事態に、なかば呆然としつつ遠くを見つめると……明らかにヤバそうなジャングルやら、七色に輝く湖やら、さかさまに浮かんでいる浮遊城などの不思議ゾーンの向こう側に、銭湯の壁にでも描かれているような、ド派手な「富士山」がそびえ立っていたのであった……。

(なるほど。冗談抜きで「なんでもあり」みたいね)
 辺りをもう一度見回して、平代真子(たいら・よまこ)はそう結論づけた。
 参加者の数は、ざっと見た限りでは約二十人。
 その二十人が、我に返ったものから順に、思い思いの乗り物に乗ってスタートを切ろうとしている。
 代真子はその様子を見て、ふとあることに思い至った。

 ここには、速そうな乗り物はいくらでもあるが、そういったものを操縦するのはなかなか難しい。
 けれども、誰かが乗ったのにうまく便乗できれば、労せずして上位入賞が狙えるのではないだろうか。
 もちろん、その運転している人間が事故を起こす可能性はなくもないが、その時はさっさと見限って別の相手に便乗すればいいだけのことだ。
 ちょうど、目の前にはおあつらえ向きのフックつきロープと、頑丈そうな板のようなものまである。

(これでいきましょ。楽勝、楽勝)
 そう決めると、代真子はさっそく「一番速そうな乗り物」を探し始めた。
 補助輪つきの一輪車だの、角のついた巨大タカアシガニだの、そういった妙なものに乗る連中はさくっと無視して、速そうな乗り物を選んだ相手だけをチェックしていく。
 その結果、一番速そうだったのは、ある青年の選んだ真っ赤な四輪駆動車だった。

(これに決ーめた、っと)
 さっそく、その車のリアバンパー辺りを狙ってロープを投げる。
 すると、フックは運良くリアスキッドバーにしっかりと引っかかった。
 こうなれば、あとは車が動くのを待つだけである。

 ほどなく車のエンジンが掛かり、赤い四輪駆動車が加速を始めた。
 その後ろに、代真子は水上スキーの要領でしっかりとついていく。
(この戦法で、二位以上は間違いなしね)
 見事に策が当たり、ほくそ笑む代真子。
 そんな彼女の存在には全く気づくことなく、車は正面にあるジャングルへと向かうのであった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 鷹と茄子と狂ったジャングル 〜

(やっぱり、もう少し考えた方がよかったかも)
 代真子は、早くも自分の選んだ移動手段を後悔し始めていた。

 最も速そうな乗り物にロープを引っかけ、水上スキーのように後ろをついて行く。
 当初は非常にいいアイディアだと思っていたのだが、ここにきていくつか欠点が見つかり始めたのである。

 まず、水上、それもボートの真後ろを走るのとは異なり、地上はとんでもなくでこぼこしているということ。
 特に、ジャングルの中を、四駆で強引に突っ切られたのでは後ろにいる代真子はたまったものではない。
 木に突っ込んだりという致命的な事態だけは何とか回避できていたが、こうしょっちゅう飛び跳ねていたのではとても足がもちそうもなかった。

 そして、もう一つは、ロープの強度を確認していなかったということ。
 当然、でこぼこ道を高速で引っ張っていくということは、それだけロープにかかる負担も増す。
 自分か、ロープか、その両方かが絶えず揺れているからよくわからないが、なんとなくロープが弱ってきているのは気のせいだろうか?

(これで、本当にゴールまでつけるのよね?)
 代真子が、つい弱気になった、ちょうどその時。
 突然、ロープがぶつりと切れた。
 やばいと思う間もなく、バランスを崩して盛大にひっくり返る。
 そのまま、何度かの衝撃を伴って、世界がぐるぐる回り――。





 気がつくと、代真子は仰向けに倒れていた。
 ものすごい勢いであちこちをぶっつけたにも関わらず、少なくとも骨が折れるような事態にはなっていないらしい。
(あぁ、夢の中でよかった)
 心底そう感じて、代真子は一つ大きく息をついた。

 と。
 彼女の上を、大きな鳥が飛んでいった。

 鷹だ。
 それも、相当大きい。鷹の王様か何かかも知れない。

「つかまえなくっちゃ!」
 代真子はすぐに起きあがると、大急ぎで鷹の後を追った。





 鷹は、とある大きな木の枝にとまった。
 どこかで、そう、某電機メーカーのCMか何かで見たことのあるような木である。
(お正月で、富士山と来たら、やっぱり鷹と茄子よね)
 代真子は木陰からその様子を伺って……そこで、あることに気がついた。

 なんと、鷹の上に人が乗っていたのである。
(何だ、先客がいたんだ)
 そのことを少し残念に思いつつも、代真子は木の上の人物に向かって叫んだ。
「ねぇ、そこの人! その鷹どこで見つけたの!?」
 その問いに、鷹に乗っていた女性――シュライン・エマは不思議そうにこう答える。
「どこって、スタートのところだけど?」
 言われてみれば、スタート地点には「乗用に使えそうな動物」の姿も多数あった。
 カニやらバッタやらツチノコやらまでいたのだから、乗用の鷹の一羽や二羽、いても不思議ではない。
「ああっ! その手があったのね!」
 頭を抱える代真子。
 スタートまで戻ればまだ残っているかも知れないが、さすがにここから戻るというのは厳しい。
 少し悩んで、代真子は「とりあえず、今の時点では鷹はあきらめる」という決断をした。

 ともあれ、鷹がダメなら、茄子だけでもおさえておくべきであろう。
「……じゃ、どこかに茄子のありそうな場所ってない?」
 まずは、目の前にいるシュラインにそう尋ねてみる。

 それに対するシュラインの返事は、予想だにしなかったものだった。
「茄子なら、この木がそうだけど」
 彼女の表情を見る限り、冗談とはとても思えない。
 しかし、この木はどう見ても茄子の木とは思えないし、そもそも茄子がこんな巨木になるなどという話は聞いたことがなかった。
「まあ、すぐには信じられないとは思うけど、本当にそうなのよ。
 ここまで上がってこられれば、わかると思うんだけど」
 それを聞いて、代真子はこの大木を登ってみる決意を固めた。
「じゃ、今から行くから」
 そう言うが早いか、木を登り始める代真子。
 持ち前の運動神経のおかげで、シュラインのいる枝までたどり着くのにさほどの時間はかからなかった。

「で、これのどこに」
 茄子があるの、と言おうとする代真子に、シュラインは大きな濃い紫色の実を手渡した。
 なるほど、色だけ見れば茄子のようでもあるが、茄子にしては形もずいぶん丸っこいし、大きさもやや大きい。
 何より、手触りが、茄子にしては余りにも固かった。
「これ……茄子なの?」
「説明すると長くなるけど、茄子、というよりEggplantね。
 名前の通り、摘んでからしばらくすると孵るから気をつけて」
 親切に疑問に答えてくれるシュラインだが、その答えがますます代真子の疑問を増幅させる。
「孵る、って……何が?」
「茄子、あるいは、茄子の牛が。ここから先は、説明するより見た方が早いわ」
 どうやら、これ以上聞いても理解することは限りなく難しそうだ。
 代真子はシュラインに礼を言って木を降りると、茄子(?)を片手に再び歩き始めた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 ここらでちょいと一休み 〜

 巨石群のあるエリアをぬけた後、弓槻蒲公英(ゆづき・たんぽぽ)は相変わらずゴミ拾いなどをしながら、ゆったりとしたペースで山道を進んでいた。
 とうの昔に先頭集団はここを通過してしまったらしく、誰かが来る様子はない。
「静かですね」
 聞こえてくるのは、風の音と、アーベントの足音だけ。
 騒々しいのも問題だが、ここまで静かだと、さすがに少し寂しくもある。

 と、前方に、なにやら小屋のようなものが見えてきた。
「行ってみましょうか?」
 その声に、アーベントも少しだけ足を速めた。





 蒲公英たちがたどり着いたのは、なんと休憩所だった。
 小屋の周りにはたくさんのテーブルや椅子が並べられており、真ん中の「中継ポイント」と書かれた小屋では、係員とおぼしき男が暇そうに空を見上げていた。
 椅子がいくつか動いているところを見ると、すでに誰かがここを利用してはいるらしい。
 けれども、その「誰か」もとうの昔に立ち去り、それ以来誰も来ていない、というところだろうか。
「……ここで、一休みしていきましょうか」
 アーベントにそう声をかけて、蒲公英はその背中から降り、小屋の方に向かった。

 小屋の脇には、動物用の水飲み場が用意されていた。
 嬉しそうに水を飲み始めるアーベント。
 蒲公英がその様子を眺めていると、係員が彼女に気づいて声をかけてきた。
「お嬢ちゃんも座って一休みしたらどうだい」
 だが、蒲公英はアーベントの側を離れる気はなかった。
「いえ……わたくしは、そんなに疲れていませんから」
 アーベントの陰に隠れるようにしながらそう告げると、係員はわずかに苦笑して、それから横に置いてあったゴミ袋に目をとめた。
「こいつは感心だ。これは、責任もってこっちの方で処理しておくよ」
 それだけ言うと、彼はゴミ袋を回収して小屋へ戻っていった。





「あたし、ついてなーい!」
 不意に聞こえてきたその声に、蒲公英は休憩所のテーブルの方に目をやった。
 見ると、高校生くらいの女性――代真子が、疲れた様子で椅子に腰掛けている。
 ここまでにだいぶひどい目にあったらしく、あちこちに怪我をしていた。

 その様子を見かねて、蒲公英は彼女のところに駆け寄った。
「……あの……」
 意を決して、声をかけてみる。
「ん? なに?」
「ひどい怪我……手当てしないと」
 蒲公英のその言葉に、代真子は一瞬きょとんとした表情を浮かべた後、笑ってこう答えた。
「このくらい大丈夫、と言いたいところだけど、せっかくだしお願いしようかな」

 傷口を水で洗い、消毒して、必要なところには絆創膏を貼る。
 それだけの応急処置だったが、何もしないよりはいくぶんマシだろう。
「ありがと。おかげですっかり痛くなくなったよ」
 代真子に感謝されて、蒲公英は少し照れながら微笑んだ。

 と、そこへ、先ほどの係員がうどんの入ったお椀と、牛乳を持ってきた。
「はいよ、お待たせ」
 どうやら、代真子が注文したものらしい。
 彼はそれをテーブルの上に置くと、今度は蒲公英の方を向いて、小さなバスケットを差し出した。
「これ、持ってきな」
 受け取って中を見てみると、小さな瓶に入った紅茶と小さなカップ、そして数枚のクッキーが入っている。
「ゴミ拾いのお礼だよ。途中で食べな」
「……ありがとうございます」
 彼に一言お礼を言って、蒲公英はアーベントのところへと戻る。

「あ、もう出発するの? すぐに追いつくからね!」
 そんな代真子の声が、後ろから聞こえてきた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 鳥人間コロシアム 〜

(今年も、景気よく人が飛んできてるわね)
 勢いよく吹っ飛んできた人を回避して、シュラインは大きなため息をついた。

 このレースは、ゴール前にたどり着いてからが本番なのだ。
 去年は申年だけにゴリラだったが、今年は酉年だから巨大なニワトリでもいるのだろう。
 そんなことを考えながら、シュラインは富士山の山頂へと向かった。





 が。
 そこで待っていたのは、シュラインの想像を遙かに超えた出来事だった。
 富士山の山頂のはずなのに、そこにあったのは、大きな大きなカルデラ湖。
 湖面にはいくつもの船が浮かび、その真ん中に、ぽつんと小さな島のようなものがある。

 島には、「ゴール」と書かれた旗が。
 そして、その周囲を囲む船には、「マッスル」と大書された旗が掲げられていた。
(これは、どう解釈したらいいのかしら)
 予想外の事態に、シュラインはいったん湖岸に降りて様子を見ることにする。

 そこへ、ちょうど他の選手がやってきた。
 暴走族仕様のバイクで、爆音をとどろかせながら一気に湖面を突っ切ろうとする。

 と、次の瞬間。
 そのバイクめがけて、船に備えつけられていた大砲が火を噴いた。
「危ない!」
 ここが夢の中であることも忘れて、シュラインは思わず顔を覆った。

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!!」
 その声に、おそるおそるシュラインは目を開き、あまりのことにその場で硬直した。

 バイクはなぜか湖面に倒れたまま浮かんでおり、その横では、バイクに乗っていた選手が、なんと鍛え上げられた肉体とニワトリの頭部を持つ鳥人間(?)によって、見事に腕を極められていたのである。

「ギブアップ? ギブアップ?」
 そう確認しながら、なおも技をかけ続ける鳥人間。
 たまらずに犠牲者が水面をタップすると、彼(?)はようやく技を解き、それからおもむろに犠牲者の両足を掴んで、その場でぐるぐる回り始めた。
 そして、十二分に勢いがついたところで、ジャイアントスイングの要領でぶん投げる。

「まぁた来いやぁあ!!」
 スタート地点近くまで飛んだであろう犠牲者に向かって、鳥人間はハンマー投げの選手のようにそう吠えたのであった。


 


「シュラインさん」
 後ろから名前を呼ばれて、シュラインはふと我に返った。
 振り返ってみると、ポニーに乗った蒲公英と、空飛ぶ絨毯に乗った綾和泉匡乃(あやいずみ・きょうの)の姿があった。
 さらにやや後方には、バネつきシューズを履いた代真子の姿も見える。

「今の、見ましたよね」
 匡乃のその言葉に、シュラインは肩をすくめてみせた。
「今年も正面突破は無理よね、はっきり言って」
「新年早々、初夢で腕を折られたくはありませんし」
「わたくしも……今回は、ちょっと怖いです……」
 蒲公英と匡乃も、その点についてはやはり同じ考えのようである。

 しかし、代真子だけは違った。
「無理だろうとなんだろうと、ここまで来たら行くしかないでしょ」
 その口調には、ひとかけらの迷いすらない。
「どうしてもというなら止めませんが、どうなっても知りませんよ」
 止めてもムダだと感じてか、匡乃が呆れたように言う。
「ま、なんとかなるわよ、多分」
 不敵に笑って、代真子が最初の一歩を踏み出……そうとした、ちょうどその時。
 轟音とともに、上空からなにやら巨大な物体がこちらに向かって近づいてきた。
「なによ、いきなりっ!」
 出鼻をくじかれて、代真子が恨めしそうに空を見上げる。
 だが、その表情が驚きに変わるのに、さほどの時間はかからなかった。

 雲をかきわけ、一同の前に姿を現したのは……巨大な宇宙船、もしくは戦艦だったのだ。
「あんなのあり!?」
「なんでもあり、じゃないですか」
 そんなことを話している間にも、宇宙船はゴールを目指してどんどん高度を下げてくる。
 その巨大な船体に向かって、鳥人間たちは一斉に大砲を発射した。
 十数人の鳥人間たちが、一斉に宇宙船に特攻をかける。
 しかし、宇宙船の分厚い装甲と強力なバリアの前では、その攻撃は余りにも無力だった。
 あっさりとはじき返され、湖面に墜落する鳥人間たち。

 それでも、彼らの闘志が衰えることはなかった。
 今まで出番を待っていた鳥人間たちが我先にと大砲のところへ向かい、準備ができたものから次々と宇宙船に向かっていく。

 宇宙船はそんな彼らの必死の攻撃を嘲笑うかのように降下を続け、鳥人間たちの船をはじき飛ばして、ゴールの小島に横づけした。
 その場に居合わせた全員が呆気にとられて見つめる中で、船体の中程にあるハッチが開き、そこから一人の選手が姿を現す。
 彼を止められる者は、もはや誰もいなかった。

「ゴール!!」
 どこからともなくあのアナウンスの声が響き、小島に降り立った勝利者が満面の笑みをたたえて現実世界に帰って行く。

 ふと周りに目をやると、ゴールを守っていたはずの鳥人間軍団は見事に全滅していた。
 そのことに気づいた数人が、我先にとゴールへ向かって突進する。
 それを見て、必死で立ち上がろうとする鳥人間。
 けれども、その受けたダメージは余りにも大きく、彼は立ち上がることすらできずに膝から崩れ落ちた。

 と。
 突然、蒲公英の乗っているポニーがゴールとは別の方向に向かって走り出した。
「蒲公英ちゃん!?」
 目指しているのは、ゴールではなく、あの傷ついた鳥人間のところ。
 おそらく、傷ついた彼らの手当をしようというのだろう。
「蒲公英ちゃん、手伝うわ」
 シュラインは彼女の背中に向かってそう叫んで、あちこちに散らばっている鳥人間たちを回収に向かった。





 鳥人間たちの回収は、思った以上にスムーズに進んだ。
 鳥人間たちがすっかり意気消沈してしまっていたこともあったが、それ以上に大きかったのが、代真子が途中から回収を手伝ってくれたことである。
「あたしも、あの子にはさっき助けてもらったからね」
 そう言って笑う彼女の腕には、確かにジャングルであった時にはなかった絆創膏が貼られていた。

 そして、手当ての方も、それに負けず劣らずはかどっていた。
 その一番の理由は、治癒能力を持つ匡乃が重傷患者を治療していたことである。
「放っておくと、彼女はまたあの能力を使いかねませんからね」
 蒲公英が相手の傷を自分に移し替える能力を持っていることを、匡乃は去年のレースの際に目撃している。
「さすがに、見捨てておけませんよ」
 せっせと鳥人間に包帯を巻いている蒲公英を横目で見ながら、匡乃は軽く苦笑した。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 そして 〜

 一通りの手当てが終わる頃には、すでに代真子たち以外の選手は全員ゴールしてしまっていた。

 もはや、こうなってしまった以上、多少の順位の差に意味はない。
「この際だし、全員いっしょにゴールしましょうか」
 シュラインの提案に、全員が笑顔で頷いた。

 鳥人間たちが最敬礼で見送る中、四人が同時にゴールの小島に足を踏み入れる。
 すると、それを待っていたかのように、あのアナウンスの声が聞こえてきた。
「本日は、当レースに御参加下さいまして、誠にありがとうございました。
 残念ながら、結果としては最下位タイの十六位ということになってしまいましたが……」
 そこで一度言葉を切ってから、力強くこう続ける。
「皆さんを、今回のMVPとして特別表彰いたします!」
 それと同時に、鳥人間たちから力強い拍手が送られた。
「本年が皆様にとって良い年となりますように……」
 その声を最後に、景色がゆっくりと薄れ、拍手の音が遠くなっていく。

 そして……代真子は、夢から覚めた。





 目を覚ました後で、変わったことが一つだけあった。
 机の上に、まるっこい茄子型の小物入れが置かれていたのである。
(そう言えば、あの茄子、最後まで孵らなかったなあ)
 そんなことを考えながら、ふたを開けてみる。
 と、突然、中から何か紫色のものが飛び出した……ような気がした。
(まさか、ひょっとして!?)
 そう思って、代真子は室内をくまなく探してみたが、結局その「何か」を見つけることはできなかった。

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 4241 /  平・代真子   / 女性 / 17 / 高校生
 0086 / シュライン・エマ / 女性 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
 1537 /  綾和泉・匡乃  / 男性 / 27 / 予備校講師
 1992 /  弓槻・蒲公英  / 女性 /  7 / 小学生

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 撓場秀武です。
 この度は私のゲームノベルにご参加下さいましてありがとうございました。
 また、ノベルの方、大変遅くなってしまって申し訳ございませんでした。

 さて、今回が二回目となるこのレース。
 前回とは違って、勝ちを狙っているプレイングが一つもなかったのが個人的には驚きでした。
 そこで、こういう終わり方にしてみたのですが、いかがでしたでしょうか?

・このノベルの構成について
 このノベルは全部で五つのパートで構成されております。
 このうち、四つ目のパート以外は複数パターンがありますので、もしよろしければ他の方のノベルにも目を通してみていただけると幸いです。

・個別通信(平代真子様)
 今回はご参加ありがとうございました。
 プレイングの内容はだいたい反映できたかな、と自負しているのですが、代真子さんの描写はこんな感じでよろしかったでしょうか?
 もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。