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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


■妄想具現化通販ガム■

「妄想したものがなんでもそのままそっくりに実体化する風船ガム……?」
 瀬名雫は、退屈凌ぎにネットサーフィンをしていて、その通販サイトを見つけた。
 なんでも、その「オマケつき風船ガム」はこのサイトで今、一番の売れ行きらしい。
 通販をして「体験」した者のコメントも載っている。
『具現化したものは、気をつけないと風船ガムを膨らませたみたいに割れちゃうけど、そうでなきゃすっごく画期的だぜ! 俺なんか自分のダミー作って授業サボッちまったし』
『彼氏を嫉妬させるために架空のカッコいい人ガムで作って、デート見せ付けたら彼氏焦っちゃって、プロポーズにまで漕ぎつけられたわ♪』
 その他、食材にもちゃんと具現化して、店の「品物のメニュー」などに使われたりしているらしい。
 ただし、想像したものに忠実なため、想像力が貧困な者が風船ガムにして作ると、そのまま具現化され、見るも無残なものが出来上がったりするらしい。
「おっもしろそー♪ 友達にもしらせてあげよーっと♪」
 雫は自分の分も通販を申し込む前に、知人友人にこの通販のことを報せるメールを打ち始めた。



■風船ガムは切なさの味■

 雫から「妄想具現化風船ガム」についてのメールを受け取ったジュジュ・ミュージーは、早速そこに書いてあったURLにアクセスしてみた。
 至って普通の通販サイトで、怪しげな雰囲気もこれといってない。
 検索も一応してみたが、そのガムについての詐欺の噂等もなかったし、値段も30枚入りで1個250円とお手頃価格である。
 問題は、何に使うか、だ。
 ジュジュはちょっとだけ考え込み、すぐに閃いてカートの中にどんどん「妄想具現化風船ガム」を入れていく。失敗する時のことも考えて、大量購入しようというのだ。その数、30個。
 値段にして7500円、あまり高くはないが───ガムの枚数にして900枚。
 失敗して作り直し続けても、果たして彼女の肺活量が勝つかどうか、そっちのほうが寧ろ心配なのだが、それだけ「失敗したくないもの」を彼女は作ろうとしていた。



 それから三日が過ぎた。
 ジュジュは徹夜もなんのその、必死に「それ」を作り続けて、ようやく残り2枚といった時に成功した。
「できたヨ〜!」
 朝日がまぶしいのは、きっと徹夜明けのせいだけではないだろう。
 はしゃぐジュジュの前には、草間興信所の主である、草間武彦「らしい」人間が立っていた。
 「らしい」、というのには理由がある。
 なにしろ、本物の武彦より美形でスタイルがいい。
 これは多分にジュジュの願望が入っているからなので、仕方がないだろう。
「よし、武彦! ミーとデートだヨ!」
 そのジュジュの言葉に、ガム武彦人形はにっこりと微笑み、頷いたのだった。



 念願の武彦との初デートだ。
 ジュジュはウキウキして武彦の腕を組み、堂々と街中を歩く。
 まずは喫茶店である。
「いらっしゃいませ」
 ちりんちりん、と扉に取り付けられてある鈴の音も迎え入れる店員の声も、いつもと違う気がするのは、ジュジュの心が浮き立っているせいだろう。
 早速席につき、メニューを見る。
「ミーはホットレモンティーとミルクレープにするヨ。武彦は?」
「そうだな、じゃあコーヒーと抹茶ムース」
 ジュジュは急いでウェイトレスを呼び、オーダーする。すぐにメニューが運ばれてきたがその間、ジュジュばかりが楽しそうに話していた。
「武彦、楽しくナイノ?」
 聞くと、武彦は微笑を浮かべ、
「そんなことない」
 と言う。
 普通にコーヒーを飲んでもいるし、抹茶ムースを食べてもいる。なのに、会話だけが味気がない。
 段々とジュジュも食べる手つきが遅くなり、この空しさはなんだろう、と思いつつも、
「ヨシ、次は映画行こうネ!」
 と、半ば無理に笑顔を作り、支払いを終えて喫茶店を出た。
 映画は今流行の刑事ものの映画にした。
 武彦に好みを聞いても「どれでもいい」というので、武彦は探偵だし刑事ものでいいだろうと判断したのだ。
 流行っているのなら、映画も面白いだろうとも思った。
 席は、休日だというのに結構混んでいる。
 それでもいい席をなんとか二人分取ることができて、ポップコーンを片手にジュジュは武彦と隣合わせで座った。
(これでいいムードになれば……)
 喫茶店での空しさも消えるかもしれない。
 映画館の中も、見ればカップルが多い。これはいいチャンスかもしれない。
 やがて映画が始まり、内容も確かに面白いものだった。カップルたちはこぞって「あ、危ない」だの「あれじゃ殺されちゃうな」だの言い合ったり、中には暗がりをいいことにキスをしている者もいる。
 だが隣の武彦は、黙々とポップコーンを機械的に食べながらジュースを飲み、まるで事務的な目つきで映画のスクリーンを見つめている。
「武彦」
 ジュジュは武彦の首に両手を回してみた。武彦が、こちらを向く。また微笑んで、目を閉じ、顔を近づけてきた。
 もう少しで唇が重なる、という時、ジュジュは、ふいと顔を離し、手首を取って映画館から出た。
(こんなの武彦じゃナイ)
 偽者とキスなんかしても本望じゃない。何よりも本物の武彦はそんな言動はしない。
 所詮はガム人形、本物ではないのだ。
 そのまま一緒に、駐車場に停めておいた真っ赤なスポーツカーに乗り込み、草間興信所へと向かう。この空しさを埋めるには、本物の武彦を直接デートに誘う以外にないように思えた。



 しかし興信所の主、武彦はちょうど依頼を手一杯抱えていて、
「悪いな、今忙しいんだ」
 と、機嫌が少し悪そうだった。少々疲れているようにも見えた。
「武彦、仕事が忙しいならこの武彦ガム人形で店番させればイイ」
 スポーツカーの中の武彦ガム人形を指差す、ジュジュ。その中の自分の「ガム人形」を見て、がっくりと武彦は項垂れた。
「あのなあ……そういう問題じゃなくてな……」
 と、その時。

『い〜しや〜きいも〜』
 
 折りよくというかなんというか。
 石焼芋屋がのろのろと通り過ぎていく。拡声器で何度も「石焼芋〜」と言っている。疲れて苛々しているのならそこで引っ込むかキレるか、人間はどちらかなのだろうが、武彦は全く違う行動を取った。
 無言で扉を開け、事務所を出てジュジュの赤いスポーツカーに乗り込んだのだ。
「ヤッタネ」
 無論、これはジュジュの仕業である。
 ここに来る最中、どうやって武彦を引っ張り出そうかと考えていた彼女は、ちょうど石焼芋屋が通るのを見て、予め、既に石焼芋屋のおっちゃんにデーモンを憑依させており、拡声器によって『テレホン・セックス』で武彦を憑依したのだ。
 ジュジュは興信所に武彦ガム人形を押し込み、赤いスポーツカーに再び乗り込み、走らせた。



 冬は日が落ちるのが早い。
 まだ18:00だというのに、このホテルからの夜景は素晴らしいものだった。
 豪華ホテルのレストランに、予約を取ったジュジュはそこで、憑依をといてデーモンを解除させた。
 武彦は目を何度もぱちくりさせ、辺りを見渡すと、相手がジュジュということもあり素早く事情を飲み込み、はあっとため息をついた。
「お前、やることが過激なんだよ」
「ゴメンネ。でもどうしても、これ渡したかったンダ」
 そこで゛ジュジュが、なにやらスポーツカーの中から持ってきていた少し小さめの細長い紙の包みを取り出そうとした時。
 銃声が聞こえ、ジュジュと武彦は反射的に身を伏せた。レストランの店員やお客達が悲鳴を上げる。
「ジュジュ・ミュージー! どこにいる! さっきここに入ったって仲間から聞いたぞ、出て来い!」
 ご指名のようである。
「知り合いか?」
 武彦が疲れ果てたという風に目を細めて尋ねると、ジュジュは、
「最近受けた暗殺の依頼で、異常に逆ギレした依頼者ダヨ。あんなは依頼者として最低だけど、執念深すぎるネ」
 と、せっかくの武彦との素敵なディナーがおしゃかになったことにがっくりする。空しさはまだ、埋まりそうにない。
 武彦は彼女を見つめていたが、やがて立ち上がり、こげ茶色のスーツを着たつるっぱげの男に言った。
「野暮な真似はよせよ、『そっちの世界』には『そっちの世界』なりの流儀ってもんがあるだろう。一度依頼したならどんな結果にせよ、逆ギレは最低限の『そっちの世界のマナー』違反だと思うが?」
「うるせえ、殺されたいのか!」
 武彦の目が、すうっと細くなった。
「悪いが今俺は機嫌が悪くてな。お前が俺の連れをつけてきてたなんてことはお見通しなんだよ。仲間はもうお前達を包囲してるぜ、特別に能力者達から選りすぐりの者ばっかりな。ほら、後ろ見てみろよ」
 まさか、と男はちょっとだけ首を動かして後ろを向く。その隙に武彦はフォークを取り上げ、銃弾の代わりとばかりに男の手の甲にヒットさせた。男は痛みに悲鳴を上げ、銃を取り落とす。
「あ、兄貴ィ、こいつ確か怪奇探偵って噂の草間武彦ですよ」
 部下の一人が知っていたらしく、ひそひそと、手の甲を反対側の手で抑えている男に耳打ちすると、男は舌打ちした。
「畜生、覚えてろ!」
 定番の台詞を言い、部下と共に去っていく。
 武彦は肩をすくめ、
「こんなハッタリに簡単に騙されるようじゃ、あのハゲタコはやってけないな。ジュジュ、お前に傷つける前に自分で身の破滅を招くさ。でもな」
 こちらも立ち上がったジュジュに視線を向ける。
「職業だから仕方がないかもしれんが、女があんまり危険なことすんなよ?」
 ジュジュの胸が、いっぱいになりそうだった。
 空しさなんてなくなっていた。
 幾らジュジュの片想いだとしても、無愛想な性格でも、これが「本物の武彦」。そして武彦の本音は、偽者の武彦の愛の言葉よりも何倍も嬉しかった。
「これ……渡そうと思っテ」
 ジュジュは言いながら、さっき取り出し損ねた細長い紙の包みを取り出す。綺麗に包装されたそれを、武彦は受け取った。
「なんだ? これ」
「新年のプレゼント」
 武彦が開けてみると、それは高価な腕時計だった。武彦は微笑み、「ありがとうな」と言った。
「俺がつけるには勿体無いが、せっかくのプレゼントだ。有難くもらうよ。それと」
 落ち着きを取り戻した店員が運んできた料理を見て、つけたす。
「息抜きに連れ出してくれて、サンキュ」
 もう、その言葉だけで充分だと思った。
 そしてその後、ジュジュと武彦は楽しく、時には笑いながらディナーを楽しんだのだった。



 後日、草間興信所のペン立てに、輪っかのように飾られた腕時計を見つけて質問してくる常連達に、武彦は言ったのだという。
「優しい不器用な、大切な仲間からのプレゼントなんだ。こうしてると、興信所の一部に加わったみたいでいいだろ?」

 そして武彦ガム人形は、今も弾かれて消えることなく、時折町内を歩いては「草間武彦には双子の兄弟がいたのか」と新たな噂を呼んでいる、ということである。
 

 ───皆さんが、今一番心の底からほしいものって……なんですか……?



《完》
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0585/ジュジュ・ミュージー (ジュジュ・ミュージー)/女性/21歳/デーモン使いの何でも屋(特に暗殺)
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■         ライター通信          ■
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こんにちは、東圭真喜愛(とうこ まきと)です。
今回、ライターとしてこの物語を書かせていただきました。去年の7月20日まで約一年ほど、身体の不調や父の死去等で仕事を休ませて頂いていたのですが、これからは、身体と相談しながら、確実に、そしていいものを作っていくよう心がけていこうと思っています。覚えていて下さった方々からは、暖かいお迎えのお言葉、本当に嬉しく思いますv また、HPもOMC用のものがリンクされましたので、ご参照くださればと思います(大したものはありませんが;)。

さて今回ですが、シチュノベ風味のNPCつき、そして参加者様によって内容もオチもプレイング次第で全て変わる、という、東圭にとっては珍しい「完全個別作品」になりました。完全個別のため+500円とさせて頂きましたが、皆様が満足して頂けたかとても心配です; なにしろ、完全個別ものは苦手中の苦手で(シチュノベはまた別で書いていてとても楽しいのですが)、まともに試みたのが今回初めてでしたので……。

■ジュジュ・ミュージー様:いつもご参加、有り難うございますv 今回はプレイング全てを引用させて頂きまして、ちょっとそれに色をつけた感じとなりましたが、お気に召しましたでしょうか。新年のプレゼントは何にしようかと考えたのですが、定番の高級腕時計とさせて頂きました。途中、ジュジュさんの背景にあります「暗殺業」に関した人物も出してみましたが、如何でしたでしょうか。

「夢」と「命」、そして「愛情」はわたしの全ての作品のテーマと言っても過言ではありません。今回は主に「夢」というか、ひとときの「和み」を書いてみましたが、それを入れ込むことが出来てとても嬉しいです。ありがとうございます。その後、いつまで武彦ガム人形が町内を彷徨っているかは定かではありませんが(笑)。また余裕がある時にでも、需要がありそうでしたらこのネタ、サンプルUPさせて頂こうかなとも思っております。

なにはともあれ、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
これからも魂を込めて頑張って書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します<(_ _)>

それでは☆
2005/02/06 Makito Touko