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<東京怪談・PCゲームノベル>


激走! 開運招福初夢レース2005!

〜 スターティンググリッド 〜

 気がつくと、真っ白な部屋にいた。
 床も、壁も、天井も白一色で、ドアはおろか、窓すらもない。

(そういえば、以前にもこんな事がありましたね)

 思い出したのは、ちょうど一年前、つまり去年の正月のこと。
 初夢としてみた夢の中で、なにやらとんでもないレースに参加させられた記憶がある。

 その時も、スタートはこんな真っ白な部屋の中だったはずだ。

(確か、新春恒例とか言ってたような気もしますし、やはりこれはあの夢なのでしょうか)
 そう考えはじめた時、突然、どこからともなく声が響いてきた。
「お待たせいたしました! ただいまより、新春恒例・開運招福初夢レースを開催いたします!!」

(どうやら、そのようですね)
 新春恒例と言っていたことと、去年の「あの夢」であること。
 二重の意味で、そう思わずにはいられなかった。
「ルールは簡単。誰よりも早く富士山の山頂にたどり着くことができれば優勝です。
 そこに到達するまでのルート、手段等は全て自由。ライバルへの妨害もOKとします」
 レースのルールはもちろん、この説明の文句も、どうやら去年と全く同じのようだ。

「それでは、いよいよスタートとなります。
 今から十秒後に周囲の壁が消滅いたしますので、参加者の皆様はそれを合図にスタートして下さい」
 その言葉を最後に、声は沈黙し……それからぴったり十秒後、予告通りに、周囲の壁が突然消え去った。
 かわりに、視界に飛び込んできたのは、ローラースケートやスポーツカー、モーターボートに小型飛行機などの様々な乗り物(?)と、馬、カバ、ラクダや巨大カタツムリなどの動物、そして乱雑に置かれた妨害用と思しき様々な物体。
 そして遠くに目をやると、明らかにヤバそうなジャングルやら、七色に輝く湖やら、さかさまに浮かんでいる浮遊城などの不思議ゾーンの向こう側に、銭湯の壁にでも描かれているような、ド派手な「富士山」がそびえ立っていたのであった……。

「それにしても、参加者の選定基準は何なのでしょうね」
 何とはなしに、綾和泉匡乃(あやいずみ・きょうの)はそう考えてみた。
 去年まではこのレースの存在すら知らなかったのに、去年、今年と二年連続の参加である。
 一昨年の間に何らかの条件を満たした、ということなのかも知れないが、あまり思い当たる節はない。
(まあ、考えたところでわかるものでもなさそうですね)
 とりあえずそう結論づけて、匡乃は「これからどうするか」の方に頭を切り換えた。

 前回は空路だったから、今回は陸路がいいかもしれない。
 そう速くなくてもいいから、何か、のんびりと行けそうなものがいいだろう。

 改めて辺りを見回してみると、ふわふわと浮かんでいる絨毯が目に入った。
 しかも、上にはちゃんとテーブルと椅子が用意されており、テーブルの上には小型テレビやティーセットまでついている。

(これがよさそうですね)
 匡乃が椅子に腰を下ろすと、空飛ぶ絨毯は人がジョギングするくらいの速さでゆっくり進み始めた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 迷いの巨石群 〜

『……沈黙したままの羊たちの間を華麗にすり抜け、須藤光孝選手が2003年の初夢レースを制したのです!』

 小型テレビからは、これまでのレースのハイライト映像が流れ続けている。
 しかし、匡乃の注意は、もはやそちらに向けられてはいなかった。

 絨毯の飛ぶに任せてたどり着いたのは、何とも奇妙な場所だった。
 無数の巨石の隙間に、無数の巨大な石像が乱雑に並べられている。
 その上、その石像のテーマがこれっぽっちも一貫しておらず、「雪だるまの石像」の隣に「オート三輪の石像」、「イソギンチャクの石像」の向かいに「数年前にブレイクしたものの、今ではすっかり見なくなったお笑い芸人の石像」などが置かれている様は、すでにシュールを通り越して単なる混沌に近い。

「どれもこれも、よくできているものですね」
 半ば感心し、半ば呆れながら、石像を見上げる匡乃。
 これはこれで、現実世界ではとうていお目にかかれない貴重な光景と言えなくもなかった。

 けれども、そんな景色がかれこれ二十分以上も延々と続いていると、さすがにそろそろ飽きてくる。

「それにしても、どこまで続くのでしょうね」
 見るともなしに、前方に目をやってみる。
 と、向こうから、ポニーに乗った少女がやってくるのが目に入った。

 忘れるはずもない。
 昨年もこのレースに参加し、なんだかんだで結果的に優勝を勝ち取った弓槻蒲公英(ゆづき・たんぽぽ)である。

「蒲公英さんじゃないですか。
 あなたも、去年に引き続いての参加なんですね」
 匡乃が声をかけると、蒲公英は少し驚いたような顔をした後、軽く頭を下げて挨拶を返してきた。

 ともあれ、今一番気になるのは、彼女が「真っ正面から」現れた、ということである。
「それはそうと、どうして向こうから戻ってきたんですか?」
 匡乃がそう尋ねてみると、蒲公英は不思議そうに首をかしげた。
「わたくしは、ついさっきスタートしたばかりですが」

 これは、ますますもっておかしい。
「では、私の方が戻っていたのでしょうか? そんなはずは……」
 そんなはずはない、はずだ。
 そう言いかけて、匡乃は視界の片隅に見覚えのある石像があることに気がついた。
「よく見れば、あの石像はさっきも見たような気がします。
 ひょっとすると、私は知らないうちに迷っていたのでしょうか?」

 自分は、確かにまっすぐ進んでいたはずだ。
 だが、何を根拠として「まっすぐ進んでいた」と言い切れるのか?
 まっすぐ進んでいたから? 巨石群の中を?

 ……石像を、目印にして?

(まさか)
 匡乃の意志をくみ取って、絨毯がゆっくりと上昇を開始する。
 三メートル、五メートル、十メートル、二十メートル。
 上昇していくに連れて、徐々に、この巨石群の全体像が見えてくる。

 全てが見渡せる高さまで上って、匡乃は自分の心配が当たっていたことを確信した。
 石像はもちろん、巨石が、そしておそらくはその間の地面までもが、中にいるものにはわからない程度の速さで動き続けているのである。
 しかも、その動きは一見不規則のようでいて、確実に迷った者を中央へ中央へと押し流すようにできている。
 これでは、どれだけ歩いても出られるはずがない。

「参りましたね。どうやら、我々はとんでもなく厄介な場所に迷い込んでしまったようです」 
 地上に戻ると、匡乃は上で見たことをそのまま蒲公英に教えた。
「幸い、空中までは影響がないようですから、飛べば出られるとは思うのですが」
 その言葉に、蒲公英の表情が曇る。
 どうやら、ポニーでここから脱出することの困難さに気がついたらしい。
 もちろん、ここを出るまで匡乃の絨毯に同乗するという方法もあるが、その場合もやはりポニーが問題になってくる。
 蒲公英一人だけならともかく、ポニーまで一緒に乗せていけるだけの余裕はさすがになかった。

「どうします、蒲公英さん」
 歩いて脱出できる可能性に賭けるか。
 いったんポニーを残して脱出するか。
 いずれにしても、彼女にとっては辛い決断だろう。

 しばらく考えた後、蒲公英は静かに口を開いた。
「匡乃様……わたくしは、やっぱりアーベントさんと一緒に行きます」
 恐らく、最初から答えは決まっていたのだろう。
 ならば、これ以上匡乃がしてやれることはない。
「そうですか。では、私はお先に行かせていただきます」
 それだけ言って、匡乃は再び絨毯を上昇させ始めた。

 と、その時。
 不意に、蒲公英の乗っているポニーが一声いななくと、相変わらずゆったりとしたペースでこちらに近づいてきた。

 こちらへ……つまり、上空へ、である。

「アーベントさん……いつの間にか、飛べるようになったんですね」
 ポニーの首に抱きつきながら、満面の笑みを浮かべる蒲公英。
 これには、匡乃もただただ苦笑するより他なかった。
(向こうが「何でもあり」なら、こっちも「何でもあり」ということですか)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 茄子牛の不思議な生態 〜

 ジャングルを抜けて、シュライン・エマは川の方へと向かっていた。

「それにしても、ひどい目にあったわ」
 ジャングルでの出来事を思い出すと、その言葉が自然と口をついて出た。

 そもそもの発端は、昨年のゴールキーパーを務めていたあのゴリラに、バナナでも探して差し入れようか、というシュラインの思いつきだった。
 ジャングルの中を探し回った結果、どうにかこうにかバナナは見つかった。
 ただ、そのバナナが全長数メートルもある獰猛な肉食果実(?)だったのは、さすがに計算外だった。
 あげく、「一房が地面に転がってただのでっかいバナナのふりをし、拾いに来たところを一斉に包囲して急襲する」などというずる賢さまで備えていたのだからたまったものではない。
 もし、あの時あのゴリラがバナナ狩りに来ていなければ、今頃シュラインは鷹もろともあのバナナに食べられていただろう。

「結局、差し入れどころか、助けられちゃったわね」
 結果だけ見れば何とも情けない結果に終わってしまったが、彼の様子を見る限り、シュラインたちがなぜあんなところにいたのかは、どうやら察してくれたらしい。
 それだけが、せめてもの救いであった。





 そんなことを考えているうちに、シュラインたちは目指す川辺へと到着した。
 川の向こう岸にある花畑や、川の水面に顔を出しているカバのようでもワニのようでもある生き物などは去年と同じようだったが、こちら側にはいつの間にか木が植えられ、川沿いに並木道ができている。
 さらにその奥では、なにやら巨大な建物の工事が急ピッチで行われているようだった。

「やっぱり、一年経つと変わるものね」
 そんな感想を口にしながら、シュラインは並木道の横の空き地に鷹を着陸させた。
 鷹が羽を休めている間、辺りを歩きながら、足下に目をこらす。

 そこへ、空飛ぶ絨毯に乗った匡乃が通りかかった。
「何を探しているんですか?」
 その何の気なしの問いかけに、シュラインもなんでもないことのようにこう答える。
「去年、この辺りで別れた茄子の牛が、どこかにいないかなぁと思って」
 だが、その内容は、決して匡乃にとって「なんでもないこと」ではなかったらしい。
「茄子の牛ですか。面白そうですね」
 興味津々と言った様子の匡乃に、シュラインは去年あったことをかいつまんで話してみることにした。





「なるほど、そんなことがあったんですか」
 シュラインの話を聞いて、匡乃は納得したように頷いた。
「私も特に急いでいるわけではありませんし、一緒に探しましょうか」
 その申し出自体は嬉しいのだが、それを受けるためには、どうしても話しておかなければならないことがある。
「それなんだけど、実は今あの子たちがどんな姿をしているか、私にもよくわからないのよ」

 そう。
 シュラインが知っているのは茄子が木になるところから茄子牛が孵るところまでであって、その後の過程、つまり茄子牛がどのように成長するかについては何も知らないのである。
「あのままの姿で大きくなっているかもしれないし、もともとは木になっていたわけだから、育つと木になるような気もするし」
 現実世界の生き物ならある程度は他の生物から類推することもできるが、夢世界の生き物にもそれが適用できるかは非常に怪しいし、そもそも現実世界に「木になった卵からふ化する動物」などいない。

 つまるところ、姿のわからない相手を探しているのであって、見つかる可能性は限りなく低いのだ。

「まあ、鳥と一緒なら、刷り込みも子供の頃だけでしょうし。
 あの子たちはあの子たちで、どこかで元気にやってるんじゃないかしら」
 自らを納得させるようにそう口にすると、シュラインは出発の準備を始めた。

 その時だった。
「シュラインさん、あれを見て下さい」
 不意に、匡乃が驚いたような声を上げる。

 振り返ってみると、いつの間にか、並木に満開の花が咲いていた。
 桜のような、しかし、鮮やかな紫色をした花が。

「思い出したんじゃないでしょうか。シュラインさんのことを」

 アメリカネムノキのような木からもいできた茄子。
 そこから孵った茄子牛が、はたして桜の木に育つものだろうか。

 けれども、そんな常識的な疑問はもはや無意味だった。
 夢の中で、現実世界の常識が全く通用しないのはすでに身にしみてわかっていたし、何よりシュライン自身がこの並木こそ「彼ら」であると確信していたのだから。

「よかった……元気そうで」
 そう呟いて、シュラインは「茄子の花」を眺め続けた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 鳥人間コロシアム 〜

(今年も、景気よく人が飛んできてるわね)
 勢いよく吹っ飛んできた人を回避して、シュラインは大きなため息をついた。

 このレースは、ゴール前にたどり着いてからが本番なのだ。
 去年は申年だけにゴリラだったが、今年は酉年だから巨大なニワトリでもいるのだろう。
 そんなことを考えながら、シュラインは富士山の山頂へと向かった。





 が。
 そこで待っていたのは、シュラインの想像を遙かに超えた出来事だった。
 富士山の山頂のはずなのに、そこにあったのは、大きな大きなカルデラ湖。
 湖面にはいくつもの船が浮かび、その真ん中に、ぽつんと小さな島のようなものがある。

 島には、「ゴール」と書かれた旗が。
 そして、その周囲を囲む船には、「マッスル」と大書された旗が掲げられていた。
(これは、どう解釈したらいいのかしら)
 予想外の事態に、シュラインはいったん湖岸に降りて様子を見ることにする。

 そこへ、ちょうど他の選手がやってきた。
 暴走族仕様のバイクで、爆音をとどろかせながら一気に湖面を突っ切ろうとする。

 と、次の瞬間。
 そのバイクめがけて、船に備えつけられていた大砲が火を噴いた。
「危ない!」
 ここが夢の中であることも忘れて、シュラインは思わず顔を覆った。

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!!」
 その声に、おそるおそるシュラインは目を開き、あまりのことにその場で硬直した。

 バイクはなぜか湖面に倒れたまま浮かんでおり、その横では、バイクに乗っていた選手が、なんと鍛え上げられた肉体とニワトリの頭部を持つ鳥人間(?)によって、見事に腕を極められていたのである。

「ギブアップ? ギブアップ?」
 そう確認しながら、なおも技をかけ続ける鳥人間。
 たまらずに犠牲者が水面をタップすると、彼(?)はようやく技を解き、それからおもむろに犠牲者の両足を掴んで、その場でぐるぐる回り始めた。
 そして、十二分に勢いがついたところで、ジャイアントスイングの要領でぶん投げる。

「まぁた来いやぁあ!!」
 スタート地点近くまで飛んだであろう犠牲者に向かって、鳥人間はハンマー投げの選手のようにそう吠えたのであった。


 


「シュラインさん」
 後ろから名前を呼ばれて、シュラインはふと我に返った。
 振り返ってみると、ポニーに乗った蒲公英と、空飛ぶ絨毯に乗った匡乃の姿があった。
 さらにやや後方には、バネつきシューズを履いた平代真子(たいら・よまこ)の姿も見える。

「今の、見ましたよね」
 匡乃のその言葉に、シュラインは肩をすくめてみせた。
「今年も正面突破は無理よね、はっきり言って」
「新年早々、初夢で腕を折られたくはありませんし」
「わたくしも……今回は、ちょっと怖いです……」
 蒲公英と匡乃も、その点についてはやはり同じ考えのようである。

 しかし、代真子だけは違った。
「無理だろうとなんだろうと、ここまで来たら行くしかないでしょ」
 その口調には、ひとかけらの迷いすらない。
「どうしてもというなら止めませんが、どうなっても知りませんよ」
 止めてもムダだと感じてか、匡乃が呆れたように言う。
「ま、なんとかなるわよ、多分」
 不敵に笑って、代真子が最初の一歩を踏み出……そうとした、ちょうどその時。
 轟音とともに、上空からなにやら巨大な物体がこちらに向かって近づいてきた。
「なによ、いきなりっ!」
 出鼻をくじかれて、代真子が恨めしそうに空を見上げる。
 だが、その表情が驚きに変わるのに、さほどの時間はかからなかった。

 雲をかきわけ、一同の前に姿を現したのは……巨大な宇宙船、もしくは戦艦だったのだ。
「あんなのあり!?」
「なんでもあり、じゃないですか」
 そんなことを話している間にも、宇宙船はゴールを目指してどんどん高度を下げてくる。
 その巨大な船体に向かって、鳥人間たちは一斉に大砲を発射した。
 十数人の鳥人間たちが、一斉に宇宙船に特攻をかける。
 しかし、宇宙船の分厚い装甲と強力なバリアの前では、その攻撃は余りにも無力だった。
 あっさりとはじき返され、湖面に墜落する鳥人間たち。

 それでも、彼らの闘志が衰えることはなかった。
 今まで出番を待っていた鳥人間たちが我先にと大砲のところへ向かい、準備ができたものから次々と宇宙船に向かっていく。

 宇宙船はそんな彼らの必死の攻撃を嘲笑うかのように降下を続け、鳥人間たちの船をはじき飛ばして、ゴールの小島に横づけした。
 その場に居合わせた全員が呆気にとられて見つめる中で、船体の中程にあるハッチが開き、そこから一人の選手が姿を現す。
 彼を止められる者は、もはや誰もいなかった。

「ゴール!!」
 どこからともなくあのアナウンスの声が響き、小島に降り立った勝利者が満面の笑みをたたえて現実世界に帰って行く。

 ふと周りに目をやると、ゴールを守っていたはずの鳥人間軍団は見事に全滅していた。
 そのことに気づいた数人が、我先にとゴールへ向かって突進する。
 それを見て、必死で立ち上がろうとする鳥人間。
 けれども、その受けたダメージは余りにも大きく、彼は立ち上がることすらできずに膝から崩れ落ちた。

 と。
 突然、蒲公英の乗っているポニーがゴールとは別の方向に向かって走り出した。
「蒲公英ちゃん!?」
 目指しているのは、ゴールではなく、あの傷ついた鳥人間のところ。
 おそらく、傷ついた彼らの手当をしようというのだろう。
「蒲公英ちゃん、手伝うわ」
 シュラインは彼女の背中に向かってそう叫んで、あちこちに散らばっている鳥人間たちを回収に向かった。





 鳥人間たちの回収は、思った以上にスムーズに進んだ。
 鳥人間たちがすっかり意気消沈してしまっていたこともあったが、それ以上に大きかったのが、代真子が途中から回収を手伝ってくれたことである。
「あたしも、あの子にはさっき助けてもらったからね」
 そう言って笑う彼女の腕には、確かにジャングルであった時にはなかった絆創膏が貼られていた。

 そして、手当ての方も、それに負けず劣らずはかどっていた。
 その一番の理由は、治癒能力を持つ匡乃が重傷患者を治療していたことである。
「放っておくと、彼女はまたあの能力を使いかねませんからね」
 蒲公英が相手の傷を自分に移し替える能力を持っていることを、匡乃は去年のレースの際に目撃している。
「さすがに、見捨てておけませんよ」
 せっせと鳥人間に包帯を巻いている蒲公英を横目で見ながら、匡乃は軽く苦笑した。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 そして 〜

 一通りの手当てが終わる頃には、すでに匡乃たち以外の選手は全員ゴールしてしまっていた。

 もはや、こうなってしまった以上、多少の順位の差に意味はない。
「この際だし、全員いっしょにゴールしましょうか」
 シュラインの提案に、全員が笑顔で頷いた。

 鳥人間たちが最敬礼で見送る中、四人が同時にゴールの小島に足を踏み入れる。
 すると、それを待っていたかのように、あのアナウンスの声が聞こえてきた。
「本日は、当レースに御参加下さいまして、誠にありがとうございました。
 残念ながら、結果としては最下位タイの十六位ということになってしまいましたが……」
 そこで一度言葉を切ってから、力強くこう続ける。
「皆さんを、今回のMVPとして特別表彰いたします!」
 それと同時に、鳥人間たちから力強い拍手が送られた。
「本年が皆様にとって良い年となりますように……」
 その声を最後に、景色がゆっくりと薄れ、拍手の音が遠くなっていく。

 そして……匡乃は、夢から覚めた。





 目を覚ました後で、変わったことが一つだけあった。
 机の上に、ミニチュアの石像が置かれていたのである。
 間違いなく、匡乃が迷っている時に見た、そして迷っていることに気づくきっかけとなった、あの石像だった。
(なるほど、今年はこうきましたか)
 匡乃は一度小さく頷くと、この「オオグチホヤの石像」をどこに置くべきか考え始めた。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 4241 /  平・代真子   / 女性 / 17 / 高校生
 0086 / シュライン・エマ / 女性 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
 1537 /  綾和泉・匡乃  / 男性 / 27 / 予備校講師
 1992 /  弓槻・蒲公英  / 女性 /  7 / 小学生

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■         ライター通信          ■
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 撓場秀武です。
 この度は私のゲームノベルにご参加下さいましてありがとうございました。
 また、ノベルの方、大変遅くなってしまって申し訳ございませんでした。

 さて、今回が二回目となるこのレース。
 前回とは違って、勝ちを狙っているプレイングが一つもなかったのが個人的には驚きでした。
 そこで、こういう終わり方にしてみたのですが、いかがでしたでしょうか?

・このノベルの構成について
 このノベルは全部で五つのパートで構成されております。
 このうち、四つ目のパート以外は複数パターンがありますので、もしよろしければ他の方のノベルにも目を通してみていただけると幸いです。

・個別通信(綾和泉匡乃様)
 昨年に引き続いてのご参加ありがとうございました。
 今年は陸路とのことでしたので、陸路ならではの障害(?)を配置してみましたが、いかがでしたでしょうか?
 もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。