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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


お正月を写そう?



<-- prologue -->

 草間興信所は夜も眠らない。ゆえに正月も眠ることはない。
 何故なら正月だからといって餅を食ったりかるたを取ったり凧をあげたり着飾ったりするのにかまけて仕事を休むなどという軟弱な行為はハードボイルド探偵を自称する所長のポリシーに反するからである。
 ゆえに草間興信所は正月も眠らない。その、筈だったのだが。

 二〇〇五年元旦。草間興信所の入り口には「本日休業」と書かれた大きな紙がはり付けられていた。
 というのも大晦日の夜からこの日にかけて、年末年始記念という名目でいつもたむろしている連中がここぞとばかりに続々来訪、飲む食う歌う躍る好き放題した挙句事務所スペースを占領してぐーすか寝てしまったものだから、とてもではないが依頼人など迎えられる状況ではなくなってしまったのである。
 ちなみに。そのぐーすか眠り班には当然所長の草間・武彦も含まれている。

 草間・零は表の休業案内を貼り終えると事務所内に戻り、足の踏み場を何とか探り当てながらも兄のデスクまで到達、そして目的の物――インスタントカメラを手に取った。
 お正月はこれを使って写真を撮るものなのだ。年末のテレビ番組で頻繁に流されていたコマーシャルにより、彼女は完全にそう刷り込まれてしまっていたのである。

 そんなわけで早速ぐーすか眠り班に向かってカメラを構えてみる。小さな覗き窓から目に飛び込んでくるのは兄のアホ面。零がふふりと笑いながらシャッターに指を伸ばした、その瞬間。

 見知らぬ少女が、兄の姿を隠すように目の前でポーズを取ってきた。

 何だ。これでは兄が撮れないではないか。
 零は少しむっとしつつも身体をずらして兄の姿が視界に入るように位置取ると、再びカメラを構えた。
 しかし覗き窓から見えるのは、ピースサインをしながらこちらへと笑顔を向ける少女の姿。

 むむっ。じゃあこれならどうだ。
 零は天井へとカメラを向けてみた。ところが彼女は笑顔でそれについてくる。

 もう。折角お正月を写そうとしているのに! どうしてこの子は邪魔をするのだろう。
「ねえ、早く撮ってよ!」
 空中で満面の笑顔を浮かべながらそう催促する少女は、零にとってはただの障害物でしかなかった。



<-- scene 1 -->

 今年の元旦は、どうやら晴れ着に身を包むことはできないらしい。

 シュライン・エマの昨年の大晦日は格闘であった。
 タダ飯&どんちゃん騒ぎを目的にここぞとばかりに興信所にやってきた常連たちには配給を与えなければならない。その上で、少しでも御節やオードブルの残りを確保して翌日に回さなければならない。また、興信所の営業に差し障りのない程度に事務所内を保てるよう注意を張り巡らせなければならない。
 そして何よりも、酔っ払うと何を仕出かすかわからない所長。彼が無茶をしでかさないように――いや、無茶くらいならまだ許せるが、客人の中には一応女性もいる。もし彼女らの前で裸踊りをやらかしたりあまつさえ彼女らを口説こうとでもしてくれた日には自分こそ何を仕出かすかわからない。それゆえ彼はもちろん自分もそうならないようにと、多方面に向けて細心の注意を払わなければならない。それを格闘と言わずして何を格闘と言うのか。
 どんちゃん騒ぎの連中が、酒が入りすぎて意識も足元も覚束なかったのであろう、年越しそばを食った後はすぐに各々適当な場所を陣取って眠りに入ってくれたからまだ良かった。もしその勢いで初詣なんぞに行かれてしまっていたら、きっと自分も徹夜で元日を迎える羽目になっていたに違いない。

 そして元旦。なんとか住居スペースで普段着ではあるものの着替えもでき、布団の中で比較的まともな仮眠を取ることができたシュラインは、昨日確保に成功した料理の残りや冷蔵庫内に隠して置いていた食材を用いて軽い朝食を作っていた。しかし、事務所スペースで眠りこけているうちの何人が朝食をとるのやら。シュラインは、台所と事務所を区切る暖簾を片手で上げると、事務所スペースを覗き見た。

 草間・零が、カメラを手にきわめて挙動不審な動きをしている。

 一体何事か。シュラインが事務所スペースへと踏み込もうとすると、興信所のドアがキイ、と音を立てて開いた。そちらへと顔を向ける。するとそこにはドアを開けて中へと入ってくる、ひと目見ただけで上質のものとわかるコートに身を包んだ二人の男性の姿があった。二人とも、馴染み深い顔である。シュラインの顔が綻んだ。
「あけましておめでとうございます、女史殿」
 後から入ってきた金髪の男性、モーリス・ラジアルが恭しく一礼する。それに続き、彼の前に居る長い銀髪の男性、セレスティ・カーニンガムが優雅な微笑みを浮かべながらシュラインに礼をして、ぐーすか班に占領され尽くしているソファの中に辛うじて一箇所だけ空いていた場所へと腰掛けた。
「旧年中はたいへん御世話になりました。今年もまた遊びに来ますので、宜しくお願いしますね」
 セレスティがにこりと微笑む。するとモーリスは少し頷いてみせると、こんなことを言った。
「そう。何せ主人は我儘ですから、今年も遊びに来たと称して勝手にこちらの出来事に首を突っ込んではご面倒をおかけすること間違いなしです。私はそんなことでは申し訳無いと思いますから、主人を諌めてはいるのですがね。まあ主人には寝耳に水でして。ということで女史殿、厄介ごとを押し付けるようで申し訳ありませんが、今年もうちの我儘な主人をどうぞ宜しくお願い致します」
 そしてまた、シュラインに向けて恭しく一礼する。シュラインはモーリスの台詞で新年の挨拶をするタイミングをすっかり逃してしまい、何と言っていいやら躊躇してしまった。
 そうしているうちに、セレスティがモーリスに向けて口を開いた。
「モーリス。私がいつ我儘なんて子供じみたことを言いましたか」
「本日の朝、早速」
「教会のミサに行く約束は前からしていたではありませんか」
「違います。これですよ」
 モーリスは、手に持っていた簡素なデザインのワインバッグを数本顎で指してみせると、シュラインへと向き直った。
「屋敷のカーヴに数本入っておりましてね、寄り道各所へのちょっとした手土産にと持ってきたのですよ。草間さんはワインの味などまるでご存知ない方ですから、私は『あの方にならばワンカップで結構です』と反対したのですがね」
 モーリスは微妙な顔をしている。一方、彼の台詞を聞いたシュラインも何となく微妙な気分になった。
「しかし主人がどうしてもこれを持って行くと言ってきかなかったものですから。まあいつものように私が折れて、結局こうして荷物持ちまでやらされて。美味しいワインは味のわからぬ男の腹に消えるわけです。悲しいものですよ全く」
 そこまで言うとモーリスは、シュラインの方を向いて肩を竦めてみせた。
「ね、我儘でしょう、うちの主人は」
 モーリスのその言葉にシュラインがセレスティの顔を見ると、彼は「仕方ないですね」といった表情で苦笑していた。
 それにつられて、シュラインも苦笑してしまう。
「そうね。じゃあ我儘ついでに、うちの我儘でお子様な所長のことも宜しくお願いしますね、お二方」
 シュラインが苦笑気味なのはそのままに言った台詞は、セレスティとモーリスを笑わせた。



<-- scene 2 -->

「ところで。先程から可愛いお嬢さん方が睨みあっているようですが」
 モーリス・ラジアルが視点を事務所スペースの奥へと移した。そこにはパントマイムを連想させるような挙動不審な動きをしている零と、そしてもう一人――明らかに霊体とわかる、透けた体の少女の姿があった。
 二人の動きは極めて珍奇なものであった。零が動くと、少女は零と同じ方向へと移動する。そしてピースサインをしたり、変なポーズをしたりする。零がそれを視界に入れないようにとまた動くと、少女もまた動く。堂堂巡りである。
「ああ。そうなのよ。零ちゃんったら新年早々何やってるのかしらって気になってたんだけど……お相手さんがいたのね……」
 シュライン・エマはモーリスから受け取っていたワインバッグを抱えつつ、そっとため息をついた。
 何せ新年早々の怪奇事件である。所長が居合わせたらさぞかし不機嫌になっていたに違いないからだ。

 というか。シュラインとしてはいっそ「怪奇ノ類 禁止!」の張り紙など破り捨て、代わりに「怪奇事件はこちらにオマカセ(はぁと) 世界有数の有能な退魔士たちがあっという間に事件解決『草間退魔士紹介所』 #可愛いお嬢さんが貴方をお出迎え致します』くらいの誇大広告でも貼ってやれば、この赤貧事務所も一気に繁盛するのではないかと思うことさえある。そのくらい、この興信所と怪奇事件の縁は深いものなのだ。
 まあ、事務所の財政状況なんかより、彼のポリシーを尊重してあげたいという気持ちのほうが自分にとっては大事なことだから、そんなことは決して言わないのだけれど。

「零さん、どうかなさいましたか?」
 セレスティ・カーニンガムが柔らかな口調で訊くと、零は興信所に客人が来ていたことにようやく気付いたらしく、カメラを降ろしてそちらを向き、ぺこりとお辞儀をした。
「あのう。お正月を写したいんですけど。邪魔されちゃうんです」
「邪魔?」
 零以外の三人の視線が、一様にもう一人の少女へと集まる。年の頃は十三、四くらいだろうか。少しつりあがった眉と大きな瞳が特徴の、活発そうな顔立ちの美少女であった。彼女は宙をふらふら彷徨うように移動しながら、時折ポーズを取りつつ「早く撮ってってばぁ!」と零に催促するような台詞を吐いている。
「お正月を写したいのに、あの子がカメラの前に来ちゃうから、撮れないんです」
 零はぷんすかしている。そんな零にシュラインが尋ねた。
「ねえ零ちゃん、お正月を写したいって、何を撮りたいの?」
「お兄さんの寝正月姿です」
 零はそう言いながら、ぐーすか班のほうを指差した。そこでは相変わらずアホ面の草間・武彦が大いびきをかいて爆睡している。
「あれは確かに……撮り甲斐のある顔してるわね……」
 シュラインはまた微妙な表情をした。確かに自分の彼に対する想いは、彼のそんな酷い顔を見たところで変わるものではない。それは確かなのだが。ただ、そんな面を好んで見ていたいかと問われれば、その答えは、否。
 そんなわけでシュラインとしては、以前武彦がアホ面のまま石化してしまったときのように彼の顔に何かかけて隠してやりたかったのだが、お正月を写したいという零の気持ちも尊重したいので、とりあえずそのままにしておくことにした。撮り終わってから隠してやればよいだろう。

「零さん。まずは一枚、私を写していただけませんか?」
 セレスティが唐突にそんなことを言った。彼の顔には思わず目が眩んでしまいそうなほどの満面の笑みが浮かべられている。
「お兄さんの寝顔も素敵ですが、私の笑顔もなかなかだと思いますよ?」
 にこにこ、と花開くように微笑むセレスティ。
 言われた零はというと、微妙な寝顔の兄と絶妙な微笑みの美人をきょろきょろと交互に見比べている。迷っているらしい彼女に、今度はモーリスが話し掛けた。
「お願いします、零さん。主人の我儘な頼みをどうか訊いていただけませんか」
 そして両手を合わせ、困ったような顔をしながら頭を下げる。あれは完全に演技だ、とシュラインは思った。きっと下げられていて見えない端正な顔には、人の悪い笑みが浮かべられているに違いない。
 零は少しばかり考え込んでいたが、やがて「じゃあ」と言って、セレスティに向けてカメラを構えた。
 すると。あの少女がするりと零とセレスティの間に割って入ってきた。
「ああ、また邪魔をして!」
 零がカメラを降ろし、少女を睨みつける。セレスティは眩しい笑みをいつもの微笑みに戻すと、ふーむと唸った。
「被写体が草間さんだから邪魔をしている、というわけではないのですね」
 呟きながら、自らの前に浮かんだ少女をじっと見つめている。少女は「早く撮ってー!」と地団太を踏むように両足を動かし、両腕をぶんぶん振っていた。
「全く困ったお嬢さんで」
 姿勢を戻したモーリスが肩をすくめ、軽く両手をあげてみせる。お手上げ、ということらしいが、彼のことだ。きっとまだいくつもの策を残しているに違いない。そしてそれを出してしまわないのは彼の気紛れ故に違いない。



<-- scene 3 -->

 シュライン・エマは悔しがる草間・零を慰めるように頭を撫でつつ、彼女に問い掛けた。
「ねえ零ちゃん。そのカメラはどこから持ってきたの?」
「お兄さんの机の上です」
「ちょっと見せてもらっていいかしら」
 そう言うと、零はこくりと頷いてシュラインにカメラを渡した。零が持っていたカメラは、ある意味この興信所に相応しい、相当年季の入ったポラロイドカメラであった。こんなものが興信所にあっただろうか。
「大掃除していたら、お兄さんの机の引出しの、奥の奥の奥から見つかったんです」
 零が「大手柄でした」とにっこり微笑む。
「折角カメラが見つかったんですから、じゃあテレビでやってたみたいにお正月を写さなきゃって思って」
「ふふ。なるほどね」
 年末の間頻繁に放映されていたテレビコマーシャルを思い出し、シュラインはくすくす笑った。
「だからって被写体にあんな状態の武彦さんを選ぶことはないと思うけれど」
「いいえ。記念すべき一枚目ですから、やっぱり所長のお兄さんからと思って」
 シュラインが何気なく言った台詞に、零は首を横に振り、気合いの篭った口調でそう返してきた。どうやら彼女は、余程草間・武彦の寝顔(しかもアホ面)を撮りたいと見える……。

「しかしそのカメラ、ちゃんと動くものでしょうかね」
 ふいに、暫く黙っていたモーリス・ラジアルが口を挟んできた。成る程。言われてみると、この化石だらけの興信所にあって何の違和感もないポラロイドカメラである。しかも引き出しの相当奥から引っ張り出されてきたらしい。壊れていても何もおかしくないであろう。
「零さん、まずはゼロ枚目ということにして、試し撮りをしてみてはいかがですか?」
 セレスティ・カーニンガムがそう言いながら、そわそわと宙に浮いたままの少女を指で示した。どうやら「あの子を撮ってみてください」ということらしい。
「ええっ。あの子ですか」
 零が少しばかり顔を顰めた。邪魔され続けたのを根に持っているらしい。そんな彼女をなだめるようにモーリスが言葉を続ける。
「だって零さん。記念すべき一枚目なのですよ? 万が一失敗してしまったら台無しではありませんか。ですからまずは、あの子で妥協して試し撮りしてみるんです。あくまでも試し撮りですから、勿論それは一枚目としてはカウントされません。もしその試し撮りが上手くいったならば、改めて一枚目としてお兄さんを写せば良いのですよ」
 澱みのない流れるような口調。ひらたく言えばそれは騙し文句であったが、素直な零はうんうん頷き、すんなりと吸収し、それを受け入れることにしたらしい。
 零はシュラインからカメラを戻してもらすと、少女に向けて構えた。
「え、え? やったあ! ついにあたしを撮ってくれるんだね! ねえねえ、可愛く撮ってね!」
 少女はようやく自分が被写体に選ばれたことにえらくご満悦である。
 一方の零は試し撮りさえ上手くいけばいよいよお正月を写せる、とこれまたご満悦であった。
「じゃあ、撮りまあす。はい、ボーズ!」
「ボーズ?」
 零の珍妙な合図に少女は一瞬戸惑いを見せたが、すぐさま自らの髪をまとめて坊主っぽい雰囲気だけは作ることに成功したようであった。
 そしてついに、シャッターの切られる音が鳴った。しかし同時に光る筈のフラッシュは動作しなかった。というより、その化石カメラにはフラッシュ機能が搭載されていなかったのである。眩しいのが苦手なセレスティは目を瞑って身構えていたのだが、それは全くの取り越し苦労に終わってしまった。
 何となくバツが悪くなったのか、誰にも見られていなかったにもかかわらず、セレスティは一人照れたように微笑んだ。



<-- scene 4 -->

 さて、あとは写真である。このカメラはポラロイドなので、間もなく専用のフィルムが前面より吐き出されるはずで――出てきた! あとは数分置いておけば完全に見られる状態になるだろう。
「零ちゃん、あと一息ね」
 シュライン・エマが草間・零に声をかけると、零はフィルムを見ながらわくわくした様子で頷いた。また、一方の少女のほうも「撮れたの、撮れたの? あたし早く見たあい!」とこれまたわくわくしている。
 しかし。
 ポラロイドから出てきたフィルムはいつまで経っても真っ黒のまま。先程写した風景のかけらもなかった。
「ええっ、撮れてないの!? そんなぁ。折角髪型までバッチリ決めたのにぃ。もう、カメラさんしっかりしてよぉ〜」
 少女が駄々をこねる。その言葉に「カメラマンの腕が悪い」というニュアンスが含まれているのに気付き、零はまたしても眉を顰めた。大体あの髪型のどこに自信があってそんなにバッチリ決めたと言えるのか。
「被写体が悪いからこんな写真になっちゃったんです」
 そして反撃。こうなったら零は頑固で引き下がらない。このままではじき少女ふたりの口論が始まるのは時間の問題である。シュラインは慌てて彼女らの仲裁に入った。

「まあまあ。きっとこのカメラ、どこか壊れていたんだわ。だから仕方なかったのよ。ね、零ちゃん。あとでお参り行くときにでも、新しいカメラ買ってきましょ。そしたらお正月もちゃんと写せるから、ね?」
「でもわたし、お兄さんの煙草代しか持っていないんです」
「あら。そんなの使い込んじゃえばいいわよ。私が零ちゃんにプレゼントしてもいいし……あ。そうだ」
 シュラインはそう言うと、ハンドバッグから小さな鍵束を取り出し、デスクの右上にある鍵のついた引出しを開けた。中にはなんと、色とりどりのポチ袋の山が。シュラインはそこから「零ちゃんへ」と書いてあるひとつを取り出し、零に渡した。
「すっかり渡すの忘れてたけど、これ、私からのお年玉。何か好きなものでも買ってちょうだい」
「え、でも、わたしなんかが貰ってしまっていいんですか?」
「勿論よ。私と零ちゃんの仲じゃない、ね?」
「ふふっ。ありがとうございます。ではいただきますね」
 零はぺこりと一礼すると、シュラインから可愛い桜色のポチ袋を受け取った。シュラインの表情も優しくなった――が、あることを思い出して一気に引き締まった。シュラインは零の目をじっと見ながら、思い出したことを言った。
「あのね零ちゃん。もし武彦さんが『俺が預かっておくから』とか『ちゃんと貯金しておくから』とか『一日だけ貸してくれ』とか、わけわからないことばかり言ってそのお年玉奪おうとしたら、絶対に拒否してね。渡しちゃダメよ。いい?」
「わかりました。絶対にお兄さんには渡しません!」
 シュラインのアドバイスに、零が両手に握りこぶしを作り、真剣な顔をしながらうんうん頷いた。
 一方のシュラインは、零のそんな様子を見て心底安堵していた。
 というのも昨年の元旦、自分が零に渡した筈のお年玉を、零が純真なのをいいことに武彦がうまいこと彼女を言いくるめて自分の懐におさめてしまったのである。そのときばかりはなかなか落ちないシュラインの雷も大きく炸裂したのだが、それがどんな惨状を呼び起こしたかについては皆様の想像にお任せしたい。

 モーリスは、そんな彼女らのやりとりを横目で見ながら、突然現れたというその少女について考えていた。
 インスタントカメラは草間の机の奥深くから発掘されたものであるらしい。それがどういう経緯でこの興信所に流れ着いたのかを知る者はいない。ゆえにあの少女がカメラに囚われた存在であるのか、カメラに憑いた霊なのか、それともただの写りたがりな霊であるのかを判別することは難しい。
 自分の『力』によって、壊れたカメラを最適化――あるべき姿へと戻すことは可能だ。その場合、少女が囚われていたものであったなら解放されるであろうし、憑いたものであったなら最適化と共に消え去ることであろう。
 しかし少女の様子から察するに、そのどちらでもなく、どうもただの写りたがり、である気がしてならない。カメラに囚われたにせよ、憑いてしまったにせよ、何らかの枷を持つ存在であるならば、あんなにあっけらかんとした様子で「撮って」を連呼するとは思えないからだ。
 モーリスは、テーブルに置かれていた件のカメラを誰にも気付かれないように手にとると、そっと触れ、彼の持つ『力』をそこに送り込んだ。
 『ハルモニアマイスター』――それは調律と調和を掌る能力。その力はありとあらゆる事象を本来有るべき姿、最適な姿へと戻す。中和と言えば判りやすいだろうか。
 よってその力が送り込まれた以上、あのカメラに纏わる全ての事象があるべき姿に戻されることになる。カメラの壊れていた部分は元に戻る。そして、もしカメラに何かが憑くなり囚われるなりしていたなら、それは有らざる形。よってそれらも解放されることになる。解放の形は様々であっても、である。
 やがてカメラに纏わる全ての事象の最適化が終了した。その結果としてわかったのは、やはり少女はただの写りたがりの霊だということであった。だって彼女は相変わらず宙に浮いてふらふら彷徨っているのだから。ゆえにこのインスタントカメラが原因で彼女がここにいるわけではない、ということになる。
 こうなれば、今度はどうやって彼女に成仏してもらうか、ということが問題になってくるのだが。

「モーリス。また可愛らしいお嬢さんがこちらに向かっているようですよ。お出迎えして差し上げなさい」
 ふいにセレスティが口を開いた。彼はもの見えぬ瞳を鋭敏な感覚でもって補っている。その中のうちのひとつである『耳』が、新たな訪問者の足音を拾ったのであろう。
「少々――いえ、かなり難儀な『力』をお持ちのお嬢さんのようですが、貴方の『力』は彼女への大きな助力となることでしょう。モーリス、宜しくお願いしますよ」
「畏まりました」
 モーリスはセレスティに深々と礼をし、それから興信所の扉へと歩を進めた。もうここからでも、少女の靴が鉄階段を鳴らす音は聞き取れる。そしてその『難儀な力』とやらも、感じ取れる。
 やがて少女の足音が止まった。モーリスは扉の前に立つと、すぐには扉を開けずに外の気配を探っていたが、その少女の放つ『気』が急激に強まったのを感じ、すぐさまドアを開けた。



<-- scene 5 -->

 ササキビ・クミノは正月早々ひと仕事を終え、興信所に立ち寄るところであった。
 前述の『仕事』の内容は、新年を祝う街の賑わった雰囲気とは対極の――いや、無縁であってほしいようなものであったが、今の自分は『仕事』の内容を判断し選択する権利を持っている。その選択の結果として今回の仕事を請け負い遂行しただけにすぎない。
 自分はもう『あの頃』とは違うのだ。何を今更考えることがあろうか。
 クミノは鉄階段の錆びた手すりに手をかけると、手に映る錆の臭いなどまるで気にしない様子で階段を登りはじめた。

 鉄階段を金属音を響かせ登っている間クミノの脳裏に映し出されていたのは、この興信所の主である草間・武彦の姿であった。ハードボイルドを自称しているがことごとく言動がずれていてさっぱりなりきれていない探偵。あの男はきっと、マルボロをくゆらせていればハードボイルドになると思い込んでいるに違いない。
 もしそれをずびしっと指摘してやったなら。彼は咥えていた煙草をぽとりと落として絶句するだろうか。それとも「そんなことはない」とそっぽを向くだろうか。後述した選択肢のほうがまだハードボイルドを自称する者として救いがあるとは思うが、残念ながら彼の反応は前述のそれであろう。何なら誰かと賭けてもいい。絶対に勝つ自信はある。だって彼はハードボイルドとは縁遠い男なのだから。
 そう。それも今更考えたところで仕方の無い、何も変わらない事実なのだ。

 どうにも今日の自分はどうにも思考が散漫になっている気がする。『仕事』のことといいあの探偵のことといい、考えても無駄なものたちに無意識のうちに思考を奪われるなんて。元旦などただの去り行く一日のうちに過ぎないと思っていたが、正月という時期は思った以上に人のこころに影響を与えるものなのだろうか。
 らしくない、とクミノは思い、苦笑した。

 踊り場まで登りきるとまずドアノブに手をかけたが、クミノはそれを捻るのを一瞬躊躇した。
 中から、能力を持たない人間の気配がしたからだ。それも複数人。クミノの顔が不安感で歪む。
 その不安感を呼び起こしたのは、クミノがその身に持ってしまった『障壁』という能力であった。彼女がそれを持つことについて、小さなクミノの意思などはかけらほども関与する余地など許されなかった。
 そしてクミノは、強力な『力』を得た。
 その強力な力の一つである『障壁』は、特に一般人にとっては限りない脅威となる。能力者と違い弱い存在の彼らは『障壁』内に約一日居るだけでその命を失うのだから。だからクミノは一般人との接触を避けて生きざるを得なかった。弱い彼らは自分と居ると死んでしまうから。たとえ『障壁』の致死能力が時間制であり、約一日という長い時間を必要とするものであっても、である。『障壁』にはどんな可能性が潜んでいてもおかしくない。万が一、が起こってからでは遅いのだ。もしそうなったら、弱い彼らは死んでしまうから。
 自分は殺し屋なんかになりたくない。なりたくなかった。いや、自分は殺し屋などではない。
 ――では何故、クミノはここへ来た?
 弱い者共が居る場所とわかっていて、それなのにここを訪れようとしたのは何故だ? 殺し屋になりたくないんだったら、ずっと自分の安息の場所に篭っていれば良いだけの話なのにそれをしなかったのは何故だ? 弱い彼らは死んでしまうかもしれないのに。もしそうなったら結局自分は殺し屋だ。
 違う。殺したいわけじゃない! 自分は殺し屋なんかになりたくない! 自分は殺し屋なんかじゃない! 
 
 断じて!!!

「おや、可愛いお嬢さん、いらっしゃい」
 ふいにかけられた声に、クミノははっと顔を上げた。目の前に居たのは不揃いな金髪を首の後ろで結わえた優男。その男がドアを開けた体勢のままこちらを見ている。つい激情してしまって、彼が扉を開けたのに気付かなかった。
 明らかな失態。クミノはそう思い無言且つ無表情で佇んでいた。大体「可愛いお嬢さん」という言い方が癪に障る。クミノがそうして彼を無視していると、彼は微苦笑のあと、クミノの目を覗き込むとこんなことを言ってきた。
「まあ正月ですからね。何かおかしくても不思議ではないと思いますが」
 まるで、自分の心を読んだかのような発言。クミノが驚きのあまりつい目を見開いて彼を凝視していると、優男はクスリと微笑んで、ドアの中を指した。
「とにかく。そこに立ちどおしでは寒いでしょう。中にお入りなさい」
「しかし私は」
「大丈夫ですよ」
 優男はクミノの言葉を遮ると、両掌を無造作に上方へと向け、しなやかな指を空へと解放するかのようにそっと伸ばした。その指先から青白い光が――『力』が、放たれる。
「!?」
 クミノは驚愕のあまり目を見開いた。
 ――『障壁』が、消失した?
 違う。自分に纏わりついている『障壁』の感覚は相変わらずだ。ただ、辺りに広がる忌々しい気が消えている。
「我々の周辺の大気を『あるべき姿』へと中和しました。これで何も心配要りませんよ。私の傍にいる限りはね」
 優男は微笑むと、エスコートするかのような仕草でクミノの手を取った。その手に引かれるまま、クミノは興信所の中へと足を踏み入れることとなった。



<-- scene 6 -->

 この東京の街は移ろいやすい。
 
 つい先日までは赤い妙ちくりんな衣装を着た白い髭のおじさんが大きな白い袋を抱えながら街を闊歩しており、針葉樹をきらきらとしたもので飾った華やかなモチーフが行く先々に置いてあった。また、お菓子屋なるお店やケーキ屋なるお店で列ができているのも見た。街を歩く恋人たちは一様に寒さなどまるで感じないというような幸せそうな顔をしていた。おもちゃ屋の店先に並ぶおもちゃをじっと見つめている子どもも見た。その子は少し寂しそうな顔をしていた。辺りに流れる音楽はいつも同じ曲ばかりで、自分も少しなら口ずさむことができるようになった。街中すべてが浮かれてしまったような、そんな雰囲気だった。

 それが一気に街中から消えたかと思うと、今度は様々な家やお店の前に、藁で作られた地味な飾りが据え付けられるようになった。二段からなる白い置き物の上にみかんがちょこんと乗せられたものもよく見かける。みかんといえば、藁で作った飾りにもみかんがくっついていた気がする。とするとこれは、オミカン祭りなのだろうか。

 そうしているうちに今度は街中に大きな鐘の音が何度も何度も鳴り響いて。真夜中なんてお構いなしでこの国の民族衣装である『キモノ』に身を包み、ぞろぞろとそれぞれの家から出てきては、どこかへ向かう人の群れ。彼らもまた、先の赤い白髭おじさんのときに見かけた人々と同じくらいに浮かれた雰囲気をしていた。彼らが集まるのは赤いゲートが目を引く催事場のような場所で、訪れた人々は皆、催事場の奥にある箱に小銭を投げ入れている。たまに紙幣を投げ込んでいる者までいる。何だろう。古いお金を処分する場所なのだろうか。

 そんなことを、ファルス・ティレイラはつらつらと考えていた。
 彼女が居るのは、空中。
 本来なら、竜の翼や角、尾が目立つこの姿で長時間居るのは好ましくないので早いところどこかへ行きたいのだが、あいにくそういうわけにもいかなかった。目的地がわからない以上、考えなしに動いては却って自分の首をしめる結果になるだろうから。
 そう。彼女は目的地がわからなくなってしまった――つまり、迷子になったのである。

 彼女の目的地は『草間興信所』。雑居ビルの二階に事務所を構える何でも屋である。
 というのも、彼女がよく立ち寄るマンションの住人たちに「悪いけど、これ元旦に草間まで配達してくれないかな?」と、書簡らしきものを数枚渡されてしまったからである。バイト代としてお菓子をいただいたので「いいですよ!」とすぐ了承した。それにあの興信所ならば自分も何度か行ったことがあるから、迷うこともない。その、筈だったのだ。

 しかし。あの鐘の音と、キレイな民族衣装姿のの人々がぞろぞろとどこかを目指していることに興味を持ってしまい、ふらふらとその後をついていってしまったのが誤算であった。元々東京の地理――というかこの世界自体に詳しくないファルスは、どのような道を辿れば興信所まで行くことができるのかがわからなくなってしまったのである。

 というわけで、とりあえず高いところから見てみようと、翼をはためかせ、空中を飛んでみた。
 しかし興信所のビルに何か目印などあっただろうか……と、思い出そうと試みてみたものの、全く出てこなかった。といってもあのビルは、本当にただの寂れた雑居ビルでしかないのだから思い出せなくても仕方なかろう。
「困ったなぁ」
 ファルスがううんと項垂れた、そのとき。
「あっ!」
 彼女の頭に名案が浮かんだ――というか、全く忘れていたことを思い出した。自分が空間移動能力を持っているということを。それにより、瞬時に望む場所へ転移することができるということを。
「あはは。街だけじゃなくて、私のあたまも浮かれちゃってたみたい」
 ファルスは一人照れ笑いしながら頭を小突くと、目の前に広がる何もない空間へと無造作に手をかざした。瞬間、何もなかった筈のそこに渦が形成される。ファルスはにこりと微笑むと、どこへ続くのか、何を呑みこむのかわからないその中に、躊躇わずに飛び込んだ。
 ファルスの姿が消えるとともに、そこはまた何もない空間へと戻っていく。



<-- scene 7 -->

 ササキビ・クミノは事務所スペースに足を踏み入れるのを躊躇した。大体、至るところに人がごろごろと転がっていて歩きようがない。そのまま引き返してしまおうかとも思ったほどだ。
 しかしあの優男――モーリス・ラジアルと名乗った――が実に器用に自分をいざなってくれるものだから、結局事務所の奥のほうまで入ってしまっていた。
「あ、クミノさん。お久しぶりです」
 草間・零がクミノの姿に気付き、ぺこりと頭を下げた。クミノもそれに応える。それから辺りの惨状をくるりと見回し、やがてあまり見たくないものを発見した。草間・武彦だ。見たくない、というのは武彦だから見たくないというわけではなく、彼の状態があまりにも厳しい状態だったからである。寝相は悪いわ、大口開けて大いびきを響かせまくるわ――しかも時折止まる……そのうち完全に呼吸が停止してしまう日が来るのではないかと思うと多少心配だ――、その挙句に半目である。これはきっつい。クミノは目を逸らした。

 目を逸らすと、今度はまた別なものが視界に飛び込んできた。空中に自分と同じくらいの年頃の少女が浮いていて、何やら喚き散らしている。それをこの興信所の女将と巨大財閥の総帥が宥めている、という状況だ。
「あれは何」
 クミノがモーリスに訊くと、彼は即答した。
「可愛いお嬢さんの霊、に見えますが」
 飄々とした口調。クミノは無言で懐――勿論仕込んであるのは愛銃だ――に手をやると、ぎろりとモーリスを睨みつけた。モーリスがそんなクミノを見て苦笑する。
「冗談ですよ。まあ、可愛いお嬢さん、というところを引っ込めるつもりはありませんがね」
「それはどうでもいいけど。あれは何なの」
 クミノの苛々が頂点に達しては困ると思ったのか、モーリスは一部始終を話しだした。
 少女の幽霊が写真を撮ろうとすると邪魔をするということ。その少女はどうやら写真に写されたがりらしいということ。そのせいで零が「お正月を写そうと思っていたのにできなくて」困っていること。零はお正月を写すと称して兄の寝顔(アホ面)を写したいらしいということ。
 そして今少女が騒いでいるのは。
「まあまあ。落ち着いてくださいお嬢さん」
「このカメラで撮るのは無理だけど、どうしてもって言うならコンビニでカメラ買ってくるから。ね?」
「えええあたし待てなーい!」
「すぐよ、すぐだから。コンビニすごく近いのよ。三分もかからないと思うから」
「三分もあったらカップラーメン一丁あがりじゃない!」
「カップラーメンですか。あれはたまに食べるとなかなか美味しいものですね」
「えっ、セレスティさんカップラーメンなんて食べたことあるんですか」
「ありますよ、もう何年前になるかわかりませんが」
「ずるーい! あたしもカップラーメン食べたいよお」
 話題が何か間違ったほうに向かっているようだがとにかく。
 今少女が騒いでいるのは、写真を撮るのに使う予定だったポラロイドカメラが使えず――モーリスがこっそり直したので稼動はするものの、運悪く先程の一枚でフィルムが終わってしまったらしい――それを不服に思ってのことらしい、ということ。
「まあ色々ありましてね。それでご機嫌斜めなのですよ」
 モーリスが苦笑すると、クミノはさも不機嫌そうに一言呟いた。
「気にいらない」
 そしてつかつかと、少女の前へと歩いて行く。

「そこのあなた」
 クミノがずびしっと少女を指差すと、少女はきょとんとした顔をして「あたし?」と自分を指差した。彼女を宥める役に回っていた女将と総帥のコンビも、突然の乱入者に驚いている様子である。
「あたしに何か用?」
「何か用、じゃない。あなたは自分が何を言っているのかわかっているの?」
「どういうこと?」
 少女が首を傾げる。クミノはそれには答えず、
「あなたがどんな経緯でそんな姿になったのか私は知らないけど」
 そう前置きすると、彼女にまた別な質問を投げかけた。

「ねえ。あなたは生前、どんなときに写真を撮ったの?」
 少女は顎に人差し指を当て、少しの間考え込んでいたが、やがてぽつりぽつりと話しはじめた。
「んーと、友達とどこか行ったときとか、キレイな景色みたときとか……あっ。あと、面白いモノ見つけたときとか!」
 少女の表情がぱっと明るくなる。その「面白いモノ」とやらを思い出したのかもしれない。彼女は自分が撮ったことのあるモチーフをあれやこれやと語りだした。とても楽しそうな顔をして。ときには笑い声をあげて。
「とにかく、何か『これは絶対残しておかなきゃ!』って思ったものを撮ってたなあ」
 懐かしいなあ、と続ける少女の視線は、少し遠くへと向けられている。
 クミノは少女の思い出話にところどころ相槌を打ちながらずっと耳を傾けていたが、一区切りついたところでおもむろに口を開いた。
「あなたが今話してくれた様々な出来事は、私には何の感慨も呼び起こさなかったけれど」
 独り言のように、クミノは言葉を紡ぎ続ける。
「でも、あなたにとっては大切な記憶。大切な想い出の欠片。つまり、写真を撮るということは、その欠片を具現化するということに他ならない。わかる?」
 クミノが上目遣いに少女を見つめると、少女はこくりと頷いた。
「わかっているなら、どうしてあなたは――え?」
 クミノが驚きのあまり言葉を失う。
 何故なら、目の前に突然、見知らぬ少女の姿が出現したからだ。



<-- scene 8 -->

 空間転移は成功したらしい。
 ファルス・ティレイラは今、目的地であった草間興信所の応接間に浮かんでいる。
 しかし。周りの人間たちの視線がやたら痛いのが気になった。その場にいる人間の半分以上は床やソファに転がり眠っているが、起きている数人が一様に自分を見ているのだ。それはもう、じいっと。特に目の前にいる小柄な女の子なんて、瞳が零れ落ちるのではないかというほどに目を見開いている。
「あのう。私、どこか変ですか?」
 ファルスは独り言のようにそう呟くと、手櫛で髪を整えたり、スカートの裾を確認したりと身なりを整えはじめた。自分としては別に普通の格好をしているつもりだが、もしかするとこの世界の人間たちにとっては何かしらおかしいのかもしれないと思ったからだ。それとも草間興信所だと思ったここは、実は違う場所だったりするのだろうか。
「ファルスちゃん……よね?」
 ふいに自分の名前を呼ばれ、声の主へと振り向く。すると綺麗な黒髪に理知的な蒼い瞳が印象的な女性の姿があった。この顔には見覚えがある、とファルスは思った。名前はたしか。
「ええっと……シュラインさん!」
 そう。シュライン・エマという、興信所の主の面倒を見ている女性だった筈だ。
「良かった! やっぱりここ、草間興信所だったんですねっ。私、転移先間違っちゃったかと思いました」
 ファルスは心底安堵しながらそう言った。それから、おもむろに肩から下げていたバッグに手を突っ込む。取り出だしたるは、美味しいお菓子と引き換えに請け負った書簡の山。
「これ、お届けものでーす」
 そしてにこりと微笑みながら、それをシュラインへと差し出した。

「今日はまた、随分と可愛い女の子が釣れる日で」
 モーリス・ラジアルは突然現れた少女――翼や角の形状からするに竜族と思われる――とシュラインのやりとりを見ながら、ぽつりとそんな台詞を漏らしていた。するとすかさず鋭い視線が飛んできた。ササキビ・クミノである。
「そこ。釣れるとか言わない」
 そして突っ込まれる。つい先程まで激しい驚きの色を帯びていた彼女の表情は、無愛想なそれに戻っていた。
「……もう少し見ていたかった気もしますが」
「何を?」
「いえ、こちらの話です」
 モーリスは手で遮る仕草をして話を打ち切った。
「それより。あなたの話が途中だったようですが」
「ああ、それはもういい……気付いたみたいだから、あの子」
 そう言ったクミノの視線の先には、悲痛な表情をした、あの少女の姿があった。

「……ごめんなさいっ!」
 少女の口から飛び出た突然の謝罪の言葉に、その場にいた全員が彼女へと注目した。
「あたしったら、自分が写真に写りたい写りたいってそればっかりで、全然他の人の気持ちなんて考えてなくて……ごめんなさいっ!」
 少女はそう言うと、深々と頭を下げた。
「なかなか素直なお嬢さんじゃないですか」
 モーリスが感心したという風に呟くと、それにシュラインが笑顔で同意する。
「ちゃんと自分の非を認めて謝ることができるなんて立派なものだわ。ね、零ちゃん」
 それから今回の被害者である草間・零へと顔を向け「許してあげて」とウィンクすると、零は笑顔で頷いた。
「もちろんです。わたしの気持ちをわかってもらえて嬉しいです」
 零が握手を求めるように、右手を少女へと差し出した。
「ありがとう!」
 少女も右手を伸ばす。そしてふたつの手が重なった。少女が霊体であるがゆえに触れ合うことはなかったが、その手と手はしっかりと繋がれているように見えた。



<-- scene 9 -->

 その少女は、二宮・早紀と名乗った。

「あたし、女優になるのが夢だったんです」
 少女は語る。叶わなかった夢のことを。
「元々人に注目されるのとか、目立つのとか好きで――たぶんそれがあったから、カメラを見た途端、写りたくて写りたくてしょうがなくなって、あんなんなっちゃったんだと思う――それにあたし、自分で言うのもどうかなって思うんですけど、見た目だって悪くないって思ってたし。だから絶対その夢は叶うって、思ってました」
 少女は笑う。夢見ていたあの頃を。
「テレビとか雑誌とかでいろんな芸能人見るたびに、あたしもそのうちこんなふうにデビューするんだって思って、信じて疑わなくて。自分の部屋で鏡見ながら演技の練習したり、歩き方の練習したり、笑顔や泣き顔の練習したりして。あとサイン書く練習もしたなあ……今思うとバカみたいだけど、でも楽しかったです。とっても」
 少女は思う。自らを取り巻く人々のことを。自分自身のことを。
「それに人生だってうまくいってて。家族には恵まれてたと思うし、友達だってそれなりにたくさんできて。憧れの先輩なんかもいて。あ、違うクラスの男の子から告白されたこともあったんですよ。まあ断っちゃったんですけど。どうせ死んじゃうんだったら付き合ってみれば良かったかな……って、酷いですよねあたし。その子の気持ち踏みにじるようなこと言って。死んでこんな姿になってもさっきみたいに自己中なのは変わんなかったし。こんなだから神様に見放されちゃったのかな……」
 そして少女は嘆く。その身に降りかかった運命を。
「でももしそうなら、神様だって酷いよ? だってあたしよりも悪いことしてる人もいっぱいいるのに。あたしよりもっと性格悪くて自己中な人なんていくらでもいると思うのに。それなのにどうしてあたしが選ばれなきゃいけないの? どうしてあたしだけが死ななきゃいけなかったの? 夢もあって、ハンパだったかもしれないけど一応努力だってして。あたしはあたしなりに頑張ってたのに。それなのにどうして死ななきゃいけなかったのかな?」
 少女は誰にともなく問いかけた。その問いに答えなど無いことをわかっているのに。
 彼らを困らせたいわけではなかった。ただ、やりきれない。それだけだった。
 少女の目には一粒の涙も浮かんでいない。それは運命に対する、精一杯の反抗。

「あなたは、輪廻転生という言葉をご存知ですか?」
 突如として天から降りてきたような神聖な響きを帯びている、声。
 それは、ずっとソファに腰掛けたまま、少女を――いや、この興信所の全てを見守るように優しい瞳を投げかけていた美しい男性、セレスティ・カーニンガムの声であった。
「輪廻転生(りんねてんしょう)――人の魂は、その形を様々に変えながらも永遠に廻り続ける、つまり形は変われども未来永劫生きつづけるということ。例えば。あなたは現に今、『霊体』という器の中で生きている。それも魂のひとつの形態と言えましょう」
 セレスティは語る。死という絶望の裏に隠れている希望のことを。
「もし輪廻転生の言い伝えが本当であるならば。あなたはやがて成仏し、また新たな形の生を得ることでしょう。そして、その新たな生におけるあなたは、それまでの生におけるあなたよりも確実に成長していることだろうと――魂の成長を遂げていることだろうと、私は思うのです」
 セレスティは教える。少女が短い人生で得た大切なことを。
「あなたは今回の生とこの霊体での体験で、人の心を思いやる気持ちがいかに大事なことなのかに気付きました。元来備え持っていらしたと思われる夢を諦めない気持ちは、様々な出来事を経て更に磨きを増したことでしょう」
 セレスティは称える。少女の魂が備えている強さを。
「そして何より、あなたは死を嘆きこそすれ、決して自暴自棄にはなりませんでした。悲しみに泣きくれるような弱さも見せませんでした。あなたの魂はとても崇高で、そして強いものです。そんなあなたでしたら、次の生ではより一層、魂を成長させることができるでしょう。その次の生では、更に。そしてまたその次の生においても」
 そしてセレスティは慈しむ。小さな少女の持つ夢を。
「廻り廻ったいつかの生で、あなたが語ってくださった素敵な夢も、叶うかもしれませんよ?」

 永くを生きるセレスティが慈愛の微笑みを浮かべながら、一言一言を大切に、噛み砕くように年若い少女の霊へと言って聞かせたことは、少女にとっては雷が直撃したかのように衝撃的なことであった。
 だってあんな問いに答えようとする人がいるなんて思わなかったから。
 死のあとに希望があるだなんて思っていなかったから。

 少女はしばし黙り込んでいたが、やがて表情を決意のそれへと変えて、語りはじめた。
「あたしは、輪廻転生を信じているか信じていないかなんて考えたことなかったし、そもそもそんな言葉初めて聞いたって感じで全然知らなかったんだけど……でも。もしも生まれ変わったあたしが今のあたしよりもっと素敵になれるっていうのなら、信じてみたいな……ううん、絶対信じる!」
 少女は小さくガッツポーズを取ると、にこりと笑った。
「あたしさあ、きっとあのまま頑張ってても、夢は叶わなかったのかもしれないね。だから神様が『早いとこ生まれ変わったほうが得だよ』って気ぃ利かせてくれたのかもしれない。うんうん。きっとそう! だってこんな姿になったおかげで、あなたたちとも出会うことができたんだもん。やだ、もしかしてあたしって、凄くラッキーなんじゃない!?」
 少女は晴れやかな表情でその場にいた人々を見比べていたが、やがて声をあげて笑い出した。
 大笑いしている彼女の目尻には、小さな雫が光っている。それは悲しみの涙ではない。嬉し涙だ。



<-- scene 10 -->

 ファルス・ティレイラは黙って話に耳を傾けていたものの、口には出せないが……目の前で繰り広げられているやりとりが何を意味しているのかを実は全くわかっていなかった。
 女の子の幽霊と長い髪をした綺麗な男の人が対話をしている。しかし途中から入ってきたファルスは二人の間に――いや、この場にいる者たちの間に起こっていた出来事を知らない。ゆえにその対話の持つ意味がわからない。そもそも話の内容や使われている単語が妙に小難しい。
 何となく、気分転換をしたくなったファルスは、二人の話をじっと聞いていたシュライン・エマのところにふわりと飛んでいくと、ちょこんとその横へと陣取った。

「あら、ファルスちゃん。どうしたの?」
「ねえシュラインさん、この興信所では何か浮かれたお祭りごとみたいなのはしないんですかあ?」
「浮かれたお祭りごと、みたいなの?」
「はい。今日、祭事場みたいなところに、キモノを着た人たちがたっくさんいて。お金投げたり縄みたいなのをぶんぶん振って音を鳴らしたり、賑やかなことしてたから。ここではしないのかなって思って」
 ファルスの言葉にシュラインは「ああ」と納得した。
「それは初詣っていうの。ファルスちゃんの言う祭事場って、多分神社のことだと思うんだけど、この国ではお正月にそこを訪れて、新しい一年を無事で過ごせますようにって神様にお祈りしたり、厄除けのお札や御守りを買ったりするの。ファルスちゃんが見たっていうお金を投げてたっていうのは、お賽銭っていって、神様に奉納するためのお金なの」
「そうだったんですかあ! あたしてっきり、古くて使えないお金を捨ててるのかなって思って。勿体無いなあって眺めてたんです」
 ファルスの勘違い発言にシュラインはくすくす笑った。笑いつつも「お金を捨ててる」という表現はあながち間違いではないような気がするとも思った。どうせ賽銭箱の中の金など、全て神社の者たちの懐へと消えるのだろうから。
「ファルスちゃんは何か買ったりしたの?」
「いいえ全然。たまたま迷い込んじゃっただけで、ちゃんとは見てないんです」
 ファルスががっくりと項垂れる。
「じゃあ。これから皆で行ってみましょうか?」
「ええっ? やった! 行きます、行きまーす!」
 ファルスがぴょんと跳ねる。それから「あ、そうだった」と呟きながら、角と翼と尾を身体に引っ込めた。これで見た目は普通の人間と変わらない筈だ。
「この姿だったらあのキモノも着れますよねっ!」
「ええ、着れるわ……私は無理だけど……」
 今度はシュラインががっくりと項垂れた。
「どうしてですかあ?」
「家に帰る時間が無いからよ。大晦日ゴタゴタしちゃったものだから」
「ええ、でもシュラインさんのキモノ姿、私見たいのにっ」
「晴れ着でしたら」
 突如、二人の会話に割って入ってきた者がいた。モーリス・ラジアルである。
「私のコレクションがありますから、部下に持って来させましょう。少々お待ちください」
 モーリスはそう言うと、懐から携帯電話を取り出し、屋敷へとコールした。
「モーリスです。草間興信所まで婦人ものの和服を数点持ってきていただきたいのですが。――ええ。――ええ。――そうです。桐箪笥に入っていますから。――ええ。――そうです。――ええ、あるだけ持ってきてください。ああ、勿論帯や足袋、草履、襦袢などもお忘れ無きように。それではお願いしますよ」
 モーリスは電話を切ると、シュラインとファルスに向かって微笑んだ。
「うちのスピード狂君が届けてくれるとのことです。間もなく到着することでしょう」
「わーい! ありがとうございます!」
 ファルスは思いがけずキモノを着る機会を得られたことにすっかりご満悦だ。

 やがて、モーリス曰く「スピード狂君」の運転によるリンスター和服配達便が、「ソレ明らかにスピード違反してないか?」と問い詰めたくなるほどのとにかく非常に短い時間で、草間興信所へと到着した。



<-- scene 11 -->

「断る」
 開口一番、ササキビ・クミノが激しい拒絶の言葉を吐いたので、モーリス・ラジアルは苦笑せざるを得なかった。
「まあまあ。折角のお正月なのですから。いいじゃないですか、お着物くらい」
「嫌だと言っている」
「今ならカリスマメイクアップアーティストの私によるスペシャルメイクもつきますが」
「なおさら嫌だ。断る」
「お願いします、クミノさん。主人がどうしてもあなたの晴れ着姿を見たいと申すものですから」
 モーリスは困った顔をして両手を合わせると、頭をぺこりと下げた。それは草間・零を言いくるめる際あっさり成功をもぎ取った演技であったが、残念ながらクミノには通用しなかったらしく、
「つまらない演技はたくさん」
 そう切り捨てられた。モーリスは「手厳しいお嬢さんで」と苦笑しつつ、さてどうしたものかと思案した。

「うわあ、キレイなキモノがいっぱーい! 私、どれにしようかな?」
 ファルス・ティレイラはテーブルの上に広げられた色とりどりの着物たちにすっかり目を奪われていた。
 上空から知らない女の人たちが着ていたものを見たときも、とても華やかで魅力的な服だと思ったものだけれど。こうして近くで見るとひとつひとつの模様がとても繊細に描かれていて、布地の手触りも、ファルスが知っているどんな生地とも違う。布がこんなに美しく化けるなんて知らなかった。この世界は、たくさんの奇跡に満ちている!
「ファルスちゃん、お着物は決まったかしら?」
 シュライン・エマが住居スペースから戻ってきた。その後ろには彼女に着付けてもらった草間・零がいる。
「うわあ、零ちゃんかっわいい!」
 その零の晴れ着姿に、ファルスの目はすっかり釘付けになった。
 零が纏っているのは、華やかな赤い振袖。ところどころに花を模ったモチーフがちりばめられている。印象的な赤い瞳と同じ色をしているその着物は零にとても似合っていた。また、髪も結い上げてもらっていて、これまた赤い色のリボンで飾られているのがとても可愛らしい。
「似合ってるでしょ。ふふ。私の見立て通りだわ」
 シュラインが少し得意気に笑ってみせる。
「あ、じゃあ。私にも選んでもらえますかあ? 全部キレイだから選べなくって」
「あら。私でいいの? それじゃあ……」
 シュラインは腕組みをして、ああでもない、こうでもないとテーブル上の着物たちを見比べていたが、やがて一かさねの振袖を手に取った。
 それは深い紫色の地に、赤、桃、薄紫といった色鮮やかな異国の――いや、この国のであろう花々が袖から裾にかけて咲き誇っている柄の着物だった。花々の間には蝶が描かれ、また地と柄の間には金糸があしらってある。全体的に豪奢な印象が感じられるように思われた。
「うわぁ、すごい豪華……!」
 ファルスがぼうとそれを見つめると、シュラインがふふ、と微笑んだ。
「このくらいのほうがファルスちゃんには似合うと思うの。それにほら、ここの色。髪のメッシュと同じ色でしょう」
 シュラインが生地の一部分を指差してみせると、ファルスは「あ、ホントだ!」と声をあげてまじまじと見つめた。
「何だか見覚えがあるなって思ったら、私の髪の色と同じだったんですね、ここの色」
 ファルスが髪を触りながら照れたように笑った。
「帯はこれ、と……あとはあっちに置いてあるから、じゃあ着付けをしましょうか」
「はい、お願いします!」
 ファルスはわくわく、どきどきしながら着替え室代わりの住居スペースへと向かった。

「いいなあ、お振袖」
 二宮・早紀はそんな彼女らの様子を眺めながら、ふと呟いた。すると自分の横に腰掛けていたあの美しい男性、セレスティ・カーニンガムがこちらを見ているのがわかったので、早紀は彼に向かって慌てて手を横に振った。
「いえ、違うんです。別に着たいわけじゃないんですけどっ」
 そして言い訳がましく、そんなことを言う。するとセレスティは少し吹き出すように笑った。
「本当は着たいのでしょう?」
「……バレちゃってたかあ」
「バレバレです」
 セレスティの言葉に、今度は早紀が吹き出した。そして鮮やかな着物姿の零に視線をやりつつ、口を開く。
「あたしこんな年だし、家も普通だったから、お着物になんて全然縁なかったんですよ。着れるとしたら成人式かな、なーんて思ってたんですけど、その前に死んじゃったしなあ」
 ツイてないの、と言って早紀は笑った。
「でも次の人生で着れるかもしれないし。今回はガマンってことで」
「着れますよ」
「へ?」
 話を締めようとした途端、とんでもない台詞が彼の口から飛び出てきたので、早紀は思わず言葉を失っていた。



<-- scene 12 -->

「え。なに。その。着れるってどういうこと?」
 呆けた顔で二宮・早紀が尋ねると、セレスティ・カーニンガムはその真意を語り始めた。
「今のあなたの姿――霊体というのは、実はとても自由な形態なのですよ。多くの霊体が気付かぬうちに昇天してしまうだけの話でして。ねえ早紀さん。あなたはどんなお振袖を着たいですか?」
「んーとぉ……そうだなあ。零ちゃんが赤で、ティレが紫でしょ。だったら黄色とか? なんかゴールドって感じの」
「ゴールドって感じの黄色ですね。では柄はどんな感じにしましょうか?」
「うーん。やっぱりお花がいいのかな……あ、そこに置いてあるお着物みたいな感じのお花がいいな」
「そちらのお着物と同じ柄ですね。すると、次は帯ですねえ」
「帯! どんなのがいいんだろ。ちょっと渋い感じのほうがいいのかな。赤紫っぽい感じのとか、かなあ」
「赤紫の帯ですね。では帯締めはからし色、帯揚げは、あのお花の色にしましょうか」
「うんうん。そのへんはあたしよくわからないから、お任せします」
 そこまで確認を終えると、セレスティは少しいたずらな笑顔を見せた。
「では早紀さん。ゴールドって感じの黄色の地に、そちらのお着物と同じ柄の振袖に、あのお花の色の帯揚げに赤紫の帯、そしてからし色の帯締めという姿のご自分を想像なさってみてください」
「う、うえぇ!? 覚えられないですよぉ!」
「大丈夫です。先ほどあなたが着てみたいと思ったイメージなのですから。それをよく思い返して、そしてそれを纏っているご自分の姿を想像して、念じるのです」
「あたしが着たかった振袖の、イメージを……念じる」
 早紀はそう口にするなりぎゅうっと目を閉じ、両手をぐっと組んでぶつぶつと何やら呟きはじめた。呟いているのは先ほど彼と一緒に確認した着物のイメージだ。
「ぬぬぬぬぬ……出でよ、お振袖えっ!」
 突如、早紀が芝居がかった口調で叫んだ。それが一体何の役のイメージなのかは定かではない。
 しかしそれでも。

「これはまた、思った以上に見事なお振袖姿で」
 セレスティが嘆息する。
 霊体少女・早紀は、華麗な黄金色の振袖に身を包んで、宙に浮いていた。

 やがて住居スペースから、また二人の女性が姿を現した。
 先頭を切って出てきたファルス・ティレイラは、深みのある紫色がベースの、どちらかというと近代的にアレンジされた柄の振袖に身を包んでいる。振袖の柄はとても豪奢なものであったが、ファルスの異世界人ならではの華のある容姿は、その柄に負けることなどない。かえって彼女の可愛らしさを引き立てているようにさえ見える。また髪も、メッシュをたらしてポイントとし、あとはすっきりと後ろでまとめており、それがまたいつもと違う雰囲気を醸し出している。
 また、今回ある意味一番忙しかったと言える着付け係のシュライン・エマも、ファルスに着付けをする際自分の分まで終えてしまったようで、落ち着いた藍色の留袖姿でスペースからついと出てきた。本当は今年用に自分で用意した白地に紅梅をあしらった柄の着物が家にあったのだが、それはまた別の機会にお披露目することになるだろう。ともあれ彼女の着物姿からは、少女たちの可愛らしさとはまた違ったたおやかな美しさが醸し出されていた。
「うわあ、お二人ともすっごく素敵〜!」
 早紀が二人の晴れ着姿にすかさず反応する。ファルスとシュラインは彼女へと振り向き、前者は「わっ、すごいキレイなお着物!」と歓声を上げ、後者は「彼女に何が起こったっていうの!?」と目を点にした。

 さて。最後の一人、難攻不落のササキビ・クミノにどうやって振袖を着てもらおうか。
 モーリス・ラジアルは彼の持つ悪知恵を総結集させ、作戦を練っているところである。そこで彼にひとつの名案――成否がわからないうちに名案と言い切るのもどうかと思うがとにかくそれなりの案――が浮かんだ。
「ねえクミノさん。私はね、先ほどからずっと、あの早紀という少女にとっての『この日一番の想い出』とは何だろう、と考えていたんですよ」
「本人に聞けばいいじゃない」
「そんなのズルになってしまうじゃないですか。こういうのは正攻法じゃないと、ね」
 モーリスが、クミノには気取られぬようニヤリと笑う。
「それで私は思ったんです。それは他の誰でもなく、あなたなのではないかと」
「はあ?」
 クミノが「馬鹿じゃないのあなた」と、モーリスへと蔑むような視線を向ける。
「私はただ説教たれてやっただけ。それに比べたらあなたの主人が長々語ってた説法のほうが余程あの子に大きな影響与えたと思うけど」
「それでは賭けをしましょう」
 モーリスが人差し指を立てて、そう提案した。
「早紀という少女に『今の時点での、この日一番の想い出は何ですか?』と尋ねてみるんです。あなたの予想は私の主人、かたや私の予想は小柄で可愛らしいお嬢さん。どうです、異議はありますか?」
 モーリスが挑戦的な顔でクミノの顔を覗き込むと、クミノは言った。
「突っ込みたいところはあるけど、とりあえず異議はない。いいよ、その賭け乗ってあげる」
 負けず嫌いなクミノは、それが小さな賭け事といえども、逃げることなどできない性質の持ち主である。
 そしてそれが今回、彼女にとって仇になった。



<-- scene 13 -->

 断固反対。着るくらいならばっくれ上等。
 振袖を着ることを徹底拒否していたササキビ・クミノが、今やその徹底拒否していたものに身を包んでいる。
 その表情は普段にも増した仏頂面。大の男ですら、今の彼女に睨まれたなら即刻逃走するのではなかろうか。

 そんなクミノが纏っているのは、淡い桃色に小花が散りばめられた、とても愛らしい柄をした振袖である。クミノは極めて不機嫌であった。何せこの振袖をチョイスしたのはモーリス・ラジアルなのだから。馬鹿にしているにも程がある。そのモーリスは、そこで留まることなくさらにクミノの髪まで弄ろうと手を伸ばしてきたのだが、クミノが平手でその手を叩き落したのでそれは諦めたようであった。
 というわけで色々ひっくるめて不機嫌極まりないクミノであったが、こうなってしまったのはある意味自分の失態であるから仕方が無い。そう、自分は彼との賭けに負けたのだから。

 少し前。モーリスと共に二宮・早紀に対してあの質問を投げかけたところ、彼女は思いがけず即答した。
「あたしが我儘放題してたときにクミノさんが言ってくれた言葉かな……だって、もしあのときクミノさんが何も言ってくれなかったら、あたしの我儘ますますヒートアップしてたと思うし。それに、人の想いの大切さを教えてくれたのもクミノさんだし。だからやっぱりあのときかなあ。あ、他にも勿論ありますけど!」
 それに続けてベラベラ喋り続けたのは置いておくとして。とにかく彼女はそう、言ったのだ。
 よってクミノは賭けに負けてしまった。
 それは悲しむべきなのか、それとも喜ぶべきなのか。クミノとしては微妙な心境であった。

 シュライン・エマはようやく全員分の着付けを終えて、一息ついていたところであった。一息つきながら、自分が借りることになった小袖を見つめる。一応未婚の身だから振袖でもいいのだろうが、今回のメンバーがあまりにも若いお嬢さん方ばかりだったので、何となく気が引けてしまったのだった。まあ何にせよ、元日に着物を着ることなど諦めていたところだったので、思わぬ流れに感謝しなければならない。
 しかしこの小袖、さすがにモーリスのコレクションだけあって上物だ。布はもとより、染め方もそこらで売っているような表面だけ染めたようなものではなく、内までしっかり染め上げてある。
 だが、自分には丁度良いがモーリスにとってこのサイズは小さすぎるであろう。いや待て。そもそもこれは女性ものだ。それがコレクション? 一体何のコレクションだというのか。
「……ねえ、モーリスさん」
「何でしょう」
「これ、モーリスさんのコレクションって言ってたけど……どういうこと?」
「ですから、コレクションです」
「じゃなくて。まさか貴方が着てるだなんてことはないでしょうね」
「着ますよ」
「え」
 モーリスの言葉に、シュラインが思わず絶句する。
「き、着るって、どうやって」
「それは企業秘密です」
 モーリスは例の人の悪い台詞でそう言った。それから、
「ああ。私以外にも着る者はおりますよ。私は可愛い子には様々な格好をさせてプレイを楽しみたいタイプですから」
 また、シュラインが絶句するような台詞を言ってのけた。
 シュラインは何となく微妙な気分を憶えつつも、ファルスや零の盛り上がり様を見てしまった以上、モーリスの言ったことは全てなかったことにしようと心に決めた。

 気を取り直して、そして全員を見回して、お年玉を渡す。零にはもう渡してあるから、あとはファルス、それから早紀に。クミノには激しく拒否されかけたが、モーリスがうまく言いくるめてくれたおかげで渡すことに成功した。
「じゃあみんな、元旦の街へと繰り出しましょうか!」
「はーい!」
 そして一行は、新年を祝う浮かれた街へと出かけていった。



<-- scene 14 -->

 初詣先の神社は相変わらずの賑わいを見せていた。

 上空から見ている分には全然気にもならなかった人ごみが、今では完全な障害物へと変貌を遂げている。
 圧倒されたファルス・ティレイラは時折翼を出して空へと逃げたくなったが、そんなことをしてしまったら借り物の着物が破れてしまう。ファルスは人ごみをなんとか我慢しつつ、逆に観察してみた。
 男の人たちは普通の服を着ているほうが多いようだが、それでもたまに見かけるキモノ姿の男性は一様に素敵だった。どうしてなのかわからないが、何故かオーラのような何かが彼らからは感じられるのは、やはりキモノの持つ力なのだろうか。
 そして、女性たちのキモノ姿はやっぱりキレイだった。それもキモノの持つ力なのか、誰もが輝くばかりの笑顔で、世界中の誰よりも自分が幸せ、みたいな雰囲気を漂わせている。こんなにキレイなものたちが集まっている場所なんだから、浮かれたムードになるのもわかるような気がする、とファルスは思った。
 そもそも、自分だって既に浮かれているのだ。だってこんなに素敵なキモノに身を包むことができたのだから。今日たまたま知り合った子たちと一緒に、楽しい時間を共有することができたのだから。
 草間興信所にはたくさんの人が集まるらしい。たくさん人がいればいるほど、楽しいことと出会うチャンスも増える。
 この日体験したことを胸に、ファルスは配達の仕事がないときでも、草間興信所を訪れてみようと思った。

 ファルスとは別の意味でこの場からばっくれたかったササキビ・クミノは、タイミングを見計らって集団から離れようと試みるも、モーリス・ラジアルに目ざとく見つけられ、腕を引っ張られては彼に切れていた。
「あなたは私の保護者か!」
 ぶち切れるクミノに、モーリスは仰々しく頷いてみせる。
「今日一日は、保護者でしょうね。うちの主人から、あなたに力を貸すようにと仰せつかっておりますゆえ」
 クミノはひとつため息をつくと、今日一日のことを思い返しはじめた。
 今日はおかしなことだらけだった。
 まず、ふいに興信所に立ち寄ろうとしたこと自体、いつもの行動パターンから外れている。その上この変な優男のペースに乗せられて調子は狂わされる一方であった。挙句こんな振袖まで着る羽目になって。振袖なんて歩き辛いったらこの上ないし。今日は本当におかしいことだらけだ。
 何より。こんな人ごみに自分が立っているということ。これが一番おかしい。あの忌々しい『障壁』を持ってしまった自分がこんなところにいるなんて、おかしい以外の何者でもない。一生無いことだと。そう思っていたのに。
 しかし今、自分は一切の不安を感じることなくここに居る。ここに居ることが許されている。
 そうなったのは誰の所為か。
 クミノは、彼に気付かれぬようにそっとその顔を覗き見てみた……つもりだったが、見事に目が合った。
 何だか悔しくてクミノがいち早く視線を外そうと思ったとき。
「まあ、正月ですからね。何かおかしいくらいが丁度良いのですよ」
 彼はそう、笑った。
 彼がふいに言ったその台詞は初耳ではない。しかし最初に聞いたときよりも、不思議とその言葉からは説得力が感じられたような気がするのはクミノの気の所為だろうか。

 二宮・早紀と草間・零は最初のころの険悪なムードが嘘のように打ち解けている様子で、予め貰っていたお年玉で早速いろんなものを買い歩いている。二人の両手は既に荷物でいっぱいだ。
「ねえ、おみくじ引こうよ!」
 早紀が神社の奥にある小さな売店を指差し、皆を促した。するとクミノ以外の全員が「さんせーい!」と両手を上げ、そちらへ小走りに駆けていった。ファルスは一番到着を狙うためにと危うく翼を出現させそうになっており、着物を突き破るほどまで出さなかったからまだ良かったにせよ、背中部分が若干ふくらんでしまっている状態で走っている。
 ちなみにクミノは、またモーリスに引っ張られて連れて行かされる羽目になっている。

 そんな彼らの様子を、セレスティ・カーニンガムとシュライン・エマは少し遠くから眺めていた。
「そういえば、草間さんは連れてこなくても良かったのですか?」
 セレスティに問われ、シュラインは「ああ」とあの寝顔を思い出した。結局何かで顔を隠してあげるタイミングはすっかり逃してしまったから、彼は相変わらずあの面を晒して眠りこけているのであろう。シュラインが苦笑する。
「うーん。起こしても良かったんだけど、そしたら零ちゃんがお正月を写せなくなっちゃうじゃない?」
「成る程。そういえば零さんは『お兄さんの寝正月姿』を収めたいのでしたね」
「そうそう。だから後でカメラ買わなくっちゃ……ねえ、セレスティさん」
「何でしょうか」
「早紀ちゃんは、写真に『写る』ことができるのかしら」
「おそらく、不可能でしょう。霊体とは本来、この世に有らざる存在ですからね」
「そう……何だか、悲しいわね」
 シュラインは少しだけ表情を曇らせながら、初詣を楽しむ彼らを見つめている。するとセレスティが言った。
「でも大丈夫でしょう」
 その顔には、優しい微笑みが浮かんでいる。
「クミノさんが仰っていたように、写真を撮る行為は想い出の欠片を具現化することです。しかし言い方を変えればそれは『あくまで具現化しただけに過ぎない』わけです。そして、本当に大切にすべきものとは、写真により具現化された存在ではなく、それぞれの心の中に住んで消えぬもの」
「……それぞれの心に残る想い出や、記憶」
 シュラインの呟きに、セレスティはゆっくりと頷いた。
「そういうことです。だから大丈夫なんです。ここに居る皆が、それをわかっているのですから」
 セレスティはそう言うと、賑わう彼らを穏やかな視線で見つめた。



<-- scene 15 -->

「さて、そろそろお正月を写しましょうか!」
 草間・零がいつの間に買っていたのか、使い捨てカメラを手に持っていた。そしておもむろに一枚、パシャリ。
「へ?」
 突然選ばれた被写体は、なんと二宮・早紀だった。早紀は呆気に取られた表情をしている。
「え。だって零ちゃん、お兄さんの写真撮りたいんじゃなかったの?」
「お兄さんはおうちに戻ってから写すのでいいんです。それに早紀さんはもうわたしのお友達ですから、お正月を写すにはもってこいのひとなんです」
 零がにっこりと微笑む。
 すると早紀は笑顔だったのがくしゃくしゃになったと思うと、両手で顔を覆い、肩を震わせはじめた。
「早紀ちゃん?」
「うー、ちっくしょー! 絶対泣かないって思ってたのに、ずるいよぉ……なんでみんなこんなにいい人ばっかりなのよぉ……ずるいよみんな……」
「そんな、泣かないで、早紀さん。泣かないでください、早紀さん。早紀さんってば」
 零がおろおろと早紀の肩に手を置き、声をかける。すると、
「なーんってね!」
 突然早紀が顔を上げた。その頬には、涙のすじなどまるで見あたらない。零は驚きのあまり固まっている。
「へへ。なかなかの演技だったでしょ?」
 早紀が笑う。とても晴れ晴れとした、清清しい顔で。
「でも早紀さん。目尻が濡れているようですが」
 モーリス・ラジアルが少し意地悪な微笑みで早紀の瞳を指差した。途端、慌てて目尻を指でこする早紀。
「違うの、これは目が痒かったからなの!」
「おや。花粉症の時期でもないのにおかしいですねえ」
「ハウスダストとかダニとかいろいろあるの!」
 言い訳を並べ立てる早紀に、モーリスはくつくつと笑い出した。

 そしていよいよ、全員で記念写真を取ろうという流れになった。
 例によってササキビ・クミノは激しく反対したのだが、早紀に「絶対クミノさんも一緒じゃなきゃヤダヤダ!」と思いっきり駄々をこねられたのと、モーリスに何やら耳打ちされたことがあって、結局加わることになっていた。
「じゃあ撮りますよー。準備はいいですかー?」
 近くを歩いていた通行人さんが、零に預けられたカメラを持って構えてくれる。
「はーい!」
「じゃあ、撮りますよ。はい、マーズ!」
「マーズ?」
 通行人さんの合図に、全員が首を傾げる。
「……火星?」
 クミノが小さく呟く。合図を飲み込めないでいるうちに、シャッターは無常にも切られてしまった。
「あはは。ジョークジョーク。もう一枚撮るからさ」
 通行人さんが両手を合わせて「ゴメンナサイ」のポーズをとったので、皆で苦笑した。
「じゃあもう一枚お願いします……って、あれ?」
 零がきょろきょろと、辺りを見回している。他の皆も零の様子に気付き、同様に辺りを見回す。

 二宮・早紀の姿は、もうどこにもなかった。



<-- epilogue -->

 数日後。草間興信所宛に一通の封書が届いた。しかもわざわざ書留である。そんな重要なものがうちに送られてくるなんてことがあっただろうかと思いながら、草間・武彦は手でびりびりと封を裂いた。
 中から出てきたのは、一冊のアルバム。
「何だ?」
 武彦が表紙を何気なく捲った途端、「なんじゃこりゃぁぁぁぁあ!」と絶叫して破り捨てたくなるような写真が収められていた。言うまでも無く武彦のアホ面寝正月写真である。
「誰だこんなん撮ったのは……」
 苦々しい顔で、封書の裏を確認する。そこにはリンスターからの郵便物である証の判と、住所及び差出人名がたいそう達者な字で刻まれていた。
 奴らだ。しかし奴らがこんなくだらない悪戯ごとなどするであろうか。
「あっ、お写真届いたんですね!」
 台所から、草間・零がパタパタと駆けてきた。そしてアルバムを手にして一枚一枚、丹念に見ていく。
「零、あの俺の寝顔は誰が撮ったんだ」
「わたしです」
 しれっと答える零に、武彦が「な・ん・で・で・す・か」と問い詰めると、
「お正月を写したかったからです」
 零はまたしれっと答えを返してきた。その間もアルバムを繰る手は休むことはなく、捲るたびに興信所常連たちが写った写真が――普通のあり、おもしろあり、とアルバム上で展開されていく。
「ん?」
 零が最後のページまでたどり着いたとき、武彦がそれを覗き込んだ。
 武彦が見た写真はどちらも初詣のものだったのだが、ぶれたのか知らないが一枚は肝心の被写体らしきものが見当たらない。どう見てもただの失敗した写真にしか見えなかった。
 そしてもう一枚は、そのとき一緒に行った連中の集合写真であるらしい。しかしこちらもどこかおかしいと武彦は思った。よくよく観察してみると、並んだり立ったりして写真に収まっている彼らの中に、人ひとり分くらいの妙なスペースが開いていた。普通はあんなスペースなど作らないように、詰めて写真を撮るだろう。
「なあ、零。これとこれは何だ?」
 武彦がその二枚の写真を指差すと、零は笑顔で言った。

「とても大切な思い出が、写っているんです」



<-- end -->






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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号:PC名/性別/年齢/職業】

【0086:シュライン・エマ(しゅらいん・えま)/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1166:ササキビ・クミノ(ささきび・くみの)/女性/13歳/殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない。】
【1883:セレスティ・カーニンガム(せれすてぃ・かーにんがむ)/男性/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い】
【2318:モーリス・ラジアル(もーりす・らじある)/男性/527歳/ガードナー・医師・調和者】
【3733:ファルス・ティレイラ(ふぁるす・てぃれいら)/女性/15歳/フリーター(なんでも屋)】



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■         ライター通信          ■
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はじめまして&お世話になっております、こんにちは。
執筆を担当させていただきました、祥野名生(よしの・なお)と申します。
ウェブゲーム 草間興信所『お正月を写そう?』にご参加いただきまして、ありがとうございます。

お正月ものだからか、或いは草間探偵が終始寝ていたからか、非常にまったりとしたノベルになりました。
ちょっとまとまりに欠ける内容になってしまったのと、テンポが悪かったところが反省点です。
また、特に初参加の方々の能力や設定、キャラクタ様がお持ちの背景などの描写が、イメージから外れていないだろうかと思うと心配で心配で…もし相違がございましたら、遠慮無く教えていただけるとありがたいです。

ともあれ、皆様にとって、いっときの楽しみになれば、幸いです。

もしご意見、ご感想などございましたら、お気軽にお寄せくださいませ。
また、誤字や誤表現などを発見なさいました場合は遠慮無くリテイクをお申し付けくださいませ。
オフィシャルからの指示があり次第、即時修正対応させていただきます。
それではまたの機会がありましたら、どうぞ宜しくお願い致します(ぺこ)



今年もお互い良い年にしましょう!

2005.01.18 祥野名生



#追記(2005.01.26)
こちらの解釈ミス及び世界観把握不足による一部描写の不具合をご指摘いただき、該当部分を修正したものを再納品させていただきました。関係者の方々にはたいへんお手数、ご迷惑をおかけしました。申し訳ありません。
また何かありましたらお気軽にお申し付けくださいませ。宜しくお願いいたします(ぺこ)