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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


炎を纏いし紅蓮の魔女

オープニング

「私はヒトゴロシなんだ」
 赤い髪が特徴的な少女はポツリと呟いた。
 その言葉に驚き、目を少しだけ見開いて草間武彦はその少女を見た。
「人殺し…とは?」
「あんたは生まれ変わりってモンを信じるかい?」
 少女が脈絡のない話をしてきて、草間武彦は怪訝そうな表情を見せた。
「あたしは…300年前に火あぶりにされた魔女の生まれ変わりなんだよ…」
 少女の言葉に今度は大きく目を見開いた。
 たまに前世の記憶を持ったまま生まれてしまう人間が存在する事は知っていた。
「あたしは前世で何百という人を焼き殺したんだ」
「だけど、今のキミには関係がない事じゃないのか?」
「あたしの中には…もう一人の…血を好む残酷なあたしがいる。
そいつに乗っ取られてしまう…おねがいだよ。あたしが人殺しをする前にあたしを殺してくれ」
 少女は草間武彦に頭を下げながら小さく呟いた。
 その言葉に草間武彦は困ったような表情をして、頭を掻いた。


 魔女としての記憶を持ったまま生まれてきた少女、桐生 渚は
 自分が魔女として覚醒してしまう前に自分を殺してくれと依頼してきた。
 そして―…この少女の依頼にアナタはどう答えますか?

視点⇒修善寺・美童


 その少女は死を望んでいた。
 理由は前世で犯した罪の大きさと、過去の過ちを繰り返してしまうかもしれないという恐怖心からなんだろう。
「ボクが必ずキミを殺すから、明日一日ボクに付き合って」
 そう美童が言うと渚は驚いたような表情で見つめてきた。
 だけど、必ず殺すから、という言葉を信じたのか「分かった」と短く返事を返してきた。
「じゃあ、明日迎えに行くから用意していてね」
 その約束だけを残して美童は草間興信所を後にした。


〜翌日〜

 桐生 渚は目の前の現実に驚きで口を開けたままポカンとしていた。
 それも無理はないだろう。
 なぜなら…庶民が住む家の前に止まっているのは誰がどう見ても不釣合いなリムジン。
「…なっ…何よ、これぇ…」
 渚の格好はセーターにジーンズとラフな格好、それに比べて美童の方は車はリムジン、格好は高級ブランド物ばかり。渚はブランド物には詳しくはないけれど、決して安いものではないという事は分かる。
「お待たせ。最初に朝食でも食べに行こうか」
 驚く渚に車に乗るように促して、隣に自分も座る。
「いつものところね」
 運転手と軽く言葉を交わしてから渚の方に向き直る、いまだ固まったままの渚に「どうしたの?」と問いかける。
「あ、あんた…何者なのよ…」
「あぁ…ボクの家って結構お金持ちだからね」
 サラリといわれた言葉にまた渚は驚く。“結構”お金持ちでこんなに高いものばかりを身に付けられるのだろうか。
「どこに向かってるの?」
「すぐそこにホテルがあるでしょ?そこで朝食を食べてから最近できたテーマパークに行ってみようよ」
 すぐそこのホテル、そこは政治家や芸能人がよく泊まりに来るという高級ホテルのことだった。
「…あたしら庶民には理解できない感覚だわ…」
 はは、と乾いた笑みを見せながら渚は小さく呟いた。
 それから一時間ほど、そのホテルで朝食を食べていた。その間に渚は美童から色々な質問を受けていた。
「どんな風に魔女としての自分を思い出したんですか?」
「…どうって…物心ついたときにはもう知ってたわ。あぁ。自分はこんな罪深い人間だったんだって思ったわね…」
 その時の渚の表情はとても悲しそうで美童は言葉を返す事ができなかった。
「そう…。そろそろ食べ終わった?次はブティックに行ってみようか。服を買ってあげるよ」
「え!?別にいいわよ、あたしはどうせ死ぬんだから」
 慌てて立ち上がり渚は美童の後を追いかけていく。
「死ぬからこそ、という事もあるよ」
 綺麗に着飾りたいだろう?と言ってにっこりと笑う。
「それはそうだけど…」
「じゃあ、決まりだね。行こうか」
 美童は渚の手を取り、リムジンへと乗り込んでブティックへと行くように促した。


「…うっわー…」
 ブティックに入って渚の第一声がそれだった。店の大きさにも驚いたのだろうが、それ以上に彼女を驚かせたのは個々の値段だった。
(何でスカーフ一枚が十万もするのよ…信じらんない…)
 静かな店内で声を出す事も叶わずに渚は心の中で毒づいた。
「あ、この子に服とか一式を見立ててやってください」
 恐らくその店の中で一番偉い人であろう人物を捕まえて、美童は渚を指差しながら言う。
「かしこまりました」
 黒いスーツに身を包んだその男性は深々と頭を下げた後に「こちらへどうぞ」と言って渚を呼んだ。
 渚は途惑いながらもオズオズとその男性についていく。

 数十分後、見立ててもらった服を纏った自分を見て驚いた。ついでにとメイクもし直してもらったのだが、メイク一つを変えるだけで自分の顔はこんなにも違ったのかと思うほどだ。
「うん、とても似合ってるよ」
 ソファに腰掛けてコーヒーを飲みながら美童が笑みを見せながら呟く。
「…あ、ありがとう…」
 照れながらも渚は素直にお礼の言葉を小さく呟いた。
「次は…テーマパークだったね」
「でも今日は休みだし、人が多いんじゃ…」
「大丈夫だよ」
 何を根拠にあっさりと言うのだろうとこの時は思ったが、数十分後にその言葉の意味を知る事になる。


「…こういうことだったんだ…」
 テーマパークに着くと同時に支配人のような人物が現われて「これはこれは!」と仰々しい騒ぎを起こした。
「今日は人が多いかな?」
「あ、大丈夫でございます。全ての職員に伝えておきますのでお時間がかかることはないと…」
「そう、ありがとう」
 美童の家は本当に半端じゃなく金持ちなんだろうと渚は思う。美童よりも遥かに年を取った男性がまだ十代の美童にぺこぺこと頭を下げていく。
「凄いんだね…」
 はぁ、と感嘆の溜め息を漏らしながら渚が言うと「まぁね」と言葉を返してきた。
「さ、せっかく来たんだから楽しまなくちゃ損だよ」
 美童の言葉に渚も「そうだね」と納得してせっかくなのだから、と楽しむ事にした。
 それから、二人は観覧車、ジェットコースターと色々な乗り物に乗って、昼食にはパーク内にある高級レストランで食べ、また乗り物を楽しむ。
「そろそろ飽きたね〜。次はどこに行きたい?キミの好きな場所でいいよ」
 時間は午後三時過ぎ、結構長い時間テーマパーク内で遊んでいたようだ。
「海にいきたい。夕日に照らされた海を見たいな」
 渚の言葉に美童は「じゃ、行こうか」と手を取った。



 〜午後五時半〜
「きれー…」
 オレンジ色に染まった海を見て渚が呟く。
「楽しかった? 人生は所詮お金だけど、生きてさえいれば、今日以上に楽しい事だってあるはずさ。まだ死にたい?」
 美童の言葉に渚は少し躊躇って「……うん」と答えた。
 死にたくない、だけどこのままじゃ過去の過ちを繰り返してしまうかもしれない、その思いが渚の決心を変えさせないのだろう。
「でも約束だからボクはキミを殺すよ」
 渚はギュッと目を閉じ、自分が死ぬ、その瞬間を待っていた。
 だけど、死に伴う痛みがいつまで待ってもこない。不審に思った渚は目を開けて美童を見た。
「…ソウル・ファッカー」
 美童はソウル・ファッカーを呼び出し、渚の内に潜む『魔女』の霊体だけを引き剥がして檻に閉じ込める。
「…え…?」
「キミはもう一度死んだ。明日からは生まれ変わった桐生・渚さ」
 美童の言葉に「あたし…魔女じゃなくなったの?」と瞳に涙を溜めて呟いた。
「あたし、生きてもいいの?」
 美童は穏やかに笑い、首を縦に振る。


 夕日の中、波の揺れる音と、渚の嗚咽が響いていた。






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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0635/修善寺・美童/男性/16歳/魂収集家のデーモン使い(高校生)

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■         ライター通信          ■
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修善寺・美童様>

初めまして、今回「炎を纏いし紅蓮の魔女」を執筆させていただきました瀬皇緋澄です。
今回の話はいかがでしたでしょうか?
諸事情により納品がギリギリになってしまったことを深くお詫びいたします。
少しでも楽しんでいただけましたら幸いです^^
それでは、また「お会いできる機会がありましたらよろしくお願いします^^

                −瀬皇緋澄