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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


誘惑の腕輪

「うーん、これ可愛いな……。お姉ちゃんこれなら喜んでくれるかな?」
 ここはアンティークショップ・レンの店内。
 色々並んでいる装飾品を見ながら銀髪に赤い瞳のの少女が一つの指輪を目を留めて呟いた。
 店内には店主のレンとその少女のみであった。
 レンにはいわく付きの品も多かったが全てがそうと言う訳ではない、少女が見ていたのはそう云ったいわくの無い装飾品の棚であった、はずであった。
「あの、このブレスレットを頂けますか?」
 そう言って少女がレンに話し掛けた指差したのは少女がするには少し大人びたデザインの銀のブレスレットであった。
「これはお嬢さんには少し大人っぽすぎると思いますけど?」
 レンがそう言うと少女は少しはにかんだ様に微笑んで答える。
「あ、これはお姉ちゃんへのプレゼントなんですよ、私の大事なお姉ちゃんへの。」
 その言葉にレンっは合点がいった様に頷く。
「それなら問題ないわね。」
 そう言ってレンはそのブレスレットを包み、少女に渡す。
 少女が店を出て行った後、レンは何か引っかかるものがあるといった様子で考え込む。
「あのブレスレット何処かで……。」
 しばらく考えた後、レンははっとした様に奥の棚にある小箱を取り出し中を確かめる。
 その小箱の中に入っていたであろう物はその中には入っていなかった。
「やっぱりあのブレスレットは……。まずったわね、早く回収しないと……。とりあえず誰か来たらあの子を知らないか聞いてみて、回収の手伝いをして貰えないか聞いてみるしかなさそうね……。」」
 レンはそう言って小さくため息をついた。

 ブレスレットをレンで買った少女、佐伯紗霧(さえき・さぎり)は古書店文月堂にてその姉、佐伯隆美(さえき・たかみ)にブレスレットをプレゼントをしていた。
「本当にいいの?」
「うん、私ずっとお姉ちゃんにお礼が言いたくて、『お年玉』っていうのを貰えて今しかないって思って。」
 そう言って微笑んで隆美にブレスレットを渡す紗霧をみて、隆美は同じように微笑む。
「まったく、それはあなたの為に使ってよかったのに……。でも折角の紗霧の気持ちだから受け取るわね。」
 隆美はそう言って嬉しそうにブレスレットを受け取る。
「お姉ちゃん早くつけて見てよ。」
「はいはい。」
 紗霧の勢いに押されるように隆美はブレスレットをその手にはめる。
 その時であった、隆美の紗霧を見る目が変わったのは。
 姉が妹を見るそれではなく、まるで恋人を見る目に変わったのは。
「ねぇ、紗霧?このブレスレットの御礼をしてあげたいんだけど……。」
 そう言って隆美がゆっくりと紗霧を抱きしめる。
「え?お姉ちゃん……ど、どうしちゃったの?」
 隆美の急な態度の変化についていけず、紗霧はただただ戸惑うばかりであった。
 隆美の腕にはめられたブレスレットはなまめかしい怪しげな輝きを放っていた……。

●邂逅
「あれ?あれは紗霧様?」
 アンティークショップ・レンから程近い大通りで買い物帰りに鹿沼・デルフェス(かぬま・−)は嬉しそうに小包を抱いて歩いている佐伯紗霧(さえき・さぎり)とすれ違う。
 声を掛けようかとも思ったが、あっという間に雑踏にまぎれてしまい姿が見えなくなってしまった。
 そしてその頃レンでは年賀の挨拶に来ていた海原みその(うなばら・−)が先ほど入ってくる時にすれ違った紗霧についての話を聞いていた。
「なんでも彼女はお姉さんにブレスレットをプレゼントするそうだよってあの子の事を知っているのかい?」
 ブレスレットの正体を調べていたレンはみそのにそう問いかける。
「え、ええ、良く行く古本屋さんの人で……。」
 そうみそのは簡単に文月堂の事をレンに説明する。
 しばらく何やらレンは考え込んでいたが、ふと何かを思い出したかのように小さく頷く。
「そういえばデルフェスが話していた事があったな。そうか文月堂の……。」
「レンさんも文月堂の事を誤存知なんですか?」
「まぁね、こういう商売をやってれば、じゃの意味ちというかそういった話は入ってくるもんだよ。所で顔見知りならちょうど良い、その紗霧って子から急いでさっきのブレスレットを返してきてもらえないか?よく知らない私が行くよりもそっちのが良いだろうから。」
「え、ええそれは構いませんけど……。そんなに危険なブレスレットなんですか?
 まだ何処か疑心暗鬼と言った様子でみそのがレンに問いかける。
「まぁ、危険といえば危険か。別に人体に害を及ぼしたりとかって訳じゃないが、まぁちょっとした困った呪いが掛けられているんだよ。」
 レンはそう言ってブレスレットについての説明をみそのにする。
「なるほど、確かにそれは危険ですね。いつもお世話になってますからご協力させていただきますよ。」
 みそののその言葉を聞いて、レンはブレスレットの扱い方を説明する。
 しかし説明を受けてるみそのが心の中で企んでいる所までは気が付いていなかった。

●ブレスレット
 みそのがレンの説明を受けて、店を出て行ったすぐ後にデルフェスが戻ってくる。
「ただ今戻りました。」
「ああ、お帰り。」
「先ほど、何やら急いでここから出て行くみその様と御会いしましたが、何か急ぎの用でもできたのですか?」
「ああ、それなんだがね……。」
 デルフェスにレンが紗霧が着てブレスレットを売ってしまった経緯とみそのに取り替えして来て欲しいと頼んだことまでを説明する。
 その説明を受けたデルフェスは顔面蒼白になる。
「まさかマスター、あのブレスレットを売ってしまわれたのですか?」
「ええ、そこに置いてあったから……、そのまま棚に並べてしまったのよ。」
「そこに置いてあったのは私が鑑定はまだかと思い私がしておいたのですが……。だとすれば私の責任でもありますね、みその様を信じていない訳ではありませんが、わたくしも行ってまいります。マスターは店番をお願いします。」
 そう言ってデルフェスがみそのを追いかけるかのように、今現在買ってきた物を台に載せると身を翻し、店を出て行った。

●文月堂
 ちょうどその頃、文月堂には三人の男性が訪れていた。
 ドラマの撮影の合間の暇な時間を散歩がてらうろついていた所たまたま文月堂を見つけ、元から本が好きだったこともあり中に入ってみて、本を立ち読みしていた羽丘鳴海(はねおか・なるみ)といつものように本を探しにやって来た結城二三矢(ゆうき・ふみや)と、佐伯姉妹と何か世間話でもしようと思ってやって来たモーリス・ラジアルの三人であった。
 店内に三人が入った時に佐伯隆美(さえき・たかみ)が佐伯紗霧(さえき・さぎり)を抱きしめている処であった。
「あ……、お姉ちゃん。な、何を……?」
 隆美の態度の急変に動揺しつつも、抜け出そうと身をよじる紗霧であったが隆美は抜け出させないように抱きしめる力を強める。
「おやおや……、今日は何やら不思議な場面にやってきたようですね。」
 文月堂に入って目に映って来た光景を面白い物を見つけた、とでも言うようにモーリスは目を細めて見つめる。
 鳴海は自分が立ち読みをしていたところに紗霧の声が聞こえてきた為にどうしたのかと思い手に持っていた本を棚に戻し声のした方を覗き込み様子を伺う。
「なにやらすごい事になってるなぁ。」
 鳴海はさまざまな恋愛を職業柄話に聞いたりしている所為か動じた様子も無くその二人の姿を傍観していた。
 そして動揺していたのは二三矢であった。
 普段見慣れない光景に顔面を真っ赤にして思わず回れ右をして二三矢は帰ろうとする。
 そしてその帰ろうとする二三矢にモーリスは気が付きそっと肩を掴み引き止める。
「どこに行くんです?これからが楽しいんじゃないですか。」
「こ、これからって?」
 動揺しながらも、モーリスの言葉に興味が出てきたのか帰る足は止まりふりかえる。
「そうですよ、これからが楽しいのですよ。」
 どこから現れたのか二三矢とモーリスの会話にみそのが割り込んでくる。
 しかもみそのは手に妹が修理から取ってきてくれるように頼まれ、たまたま持っていたデジタルカメラをしっかり握り締めていた。
 そう言ってみそのは隆美が紗霧の首筋に軽く口ずけをしその反応を楽しんでいる処を楽しそうに写真に収める。
「あ……、お姉ちゃん……、ダメ……。」
 紗霧はビクっと口づけをされた瞬間身を震わせ抵抗をする。
「くす……ダメよ……。これからなんだから。」
 何処かやはりいつもとは違う何処か艶かしい声で身じろぐ紗霧の事を隆美は制す。
 そんな様子をモーリスは楽しげに、みそのは何処か興味ありそうに、二三矢は赤面しつつ思わずその光景に見入ってしまっていた、丁度その時背後から声がかかってきた事に二三矢は驚く。
「ああ、やっぱり、隆美様も紗霧様も……。」
 そう言ってデルフェスが皆の背後に彼女にしては珍しく慌てた様子でやって来た。
「ど、どうした?デルフェスさん?まさかあの隆美さんと紗霧さんの事に何か関係があるんですか?」
 二三矢がそんなデルフェスの様子に狼狽する。
「ええ、ってみその様一体何をやられているのですか?マスターに頼まれてあのブレスレットを取り返してきてくださるという話だったのでは……。」
 デジタルカメラを構えて、二人の様子を楽しげに見ていたみそのを見て思わずデルフェスが声を荒げる。
「え?そ、それは……、せっかくなので少し後学の勉強をと思いまして……。」
 何処かしどろもどりになりながらみそのが言い訳をしていると二三矢が二人のほうに向かって歩き始める。
「デルフェスさん、隆美さんのあのブレスレットを外せば良いんですね?あ、そこにいるお兄さんちょっと手伝ってもらえないですか?」
 二三矢がそう言って今までずっと完全な傍観者に徹していた鳴海に声をかける。
「良いけど、君、俺の事知らないの?」
 アイドルである自分の事を知らないのかと思わず少し肩を落とす鳴海であったが、協力する事に依存は無い様で隆美と紗霧を外しにかかる。
 その様子を見ていたモーリスであったが、何かを思いついたという様な笑みを浮かべると、あたかも自分も協力しようとするかの様に歩き始めようとする。
 そして、鳴海の協力を得て二三矢がブレスレットを隆美から外したその時、モーリスが足元にある本につまずいた振りをして二三矢にぶつかってきた。
 二三矢、鳴海、モーリス、隆美、紗霧の五人はそのショックで縺れて倒れこむ形になりブレスレットは空高く跳ね上がる。
 そしてそのまま放物線を描いて落ちてきたブレスレットは、たまたま腕を上げていた二三矢の腕にすっとはまり、その場の五人皆が倒れ込む。

●混乱の追加
 その様子をみそのに意識を取られていた為に見ているしかできなかったデルフェスは思わず天を仰ぐ。
 そして起き上がった二三矢の前にあったのは隆美の顔であった。
 そしてその隆美の顔を見て二三矢は思わず顔を赤面させる。
 二三矢は立ち上がりまだ倒れている隆美にそっと手を差し伸べる。
「隆美さん、大丈夫ですか?お怪我など無かったですか?」
 普段から女性には優しい二三矢ではあったが、それでもいつもとはまた違う雰囲気の二三矢に隆美は思わず出しかけた手を引っ込めてしまう。
 隆美を除いた皆はすでに立ち上がっていたが、まだ呆然としている隆美を見て二三矢は一瞬きょとんとした表情になったが、すぐに納得したように小さく頷く。
「隆美さんはこうして欲しかったんですね、だったらそう言ってくれればよかったのに。」
 笑顔を浮かべながら、二三矢はそう言って隆美の事をそのまま抱きしめ押し倒す。
「ちょ、ちょっと何するの、二三矢君!」
 ようやく我に帰った隆美がいきなりの二三矢の行動に抗議の声を上げる。
「隆美さんが起き上がりたく無いって言うから、だったらこうして欲しかったんじゃないんですか?」
 そう爽やかな声で話して二三矢は隆美のシャツのボタンに手をかけようとする。
 少し離れた所にいたみそのはその様子をみて、これはシャッターチャンスとばかりにその様子を写真に収める。
「ちょ、ちょっと二三矢君、隆美さんになんて事をするんですか。」
 モーリスが慌ててどうにかしようと動きかけるが、下手な事をすれば、隆美のほうに被害が行ってしまいそうで手を出すのをためらってしまう。
 五人が倒れている間に近くまで寄っていたデルフェスはどうしようかと考えていた鳴海にそっと目配せをする。
 鳴海は小さく頷き了承の意をデルフェスに伝えるとデルフェスが二三矢の腕を隆美から引き離している間にブレスレットを素早く引き抜く。
 ブレスレットが外されたのを確認するとデルフェスは小さく呪を唱え、ブレスレットの効果を一時的に封印した。
「あ……やめて……二三矢君……。」
 ボタンを外そうとしていた手をデルフェスに引き抜かれて、もう片方の手で、隆美の形の良い胸を鷲掴みにしていた二三矢はその何処か甘い吐息の交じった隆美の声で我に返る。
 二三矢は自分の状況を確認すると慌てたように立ち上がりながら半ば悲鳴のような声を上げる。
「た、隆美さん、い、一体なにが?」
「何がって聞きたいのは私の方よ、いきなり押し倒してきてその……。」
 顔を赤らめながら言葉を続けられないでいる隆美に対して今まで黙っていた紗霧も声を上げる。
「それは私もお姉ちゃんに聞きたいよ、いきなり抱きしめてきて……その……。」
 隆美と同じように歯切れが悪く頬を赤らめながら紗霧が隆美に向かって誰にも聞こえないくらいの声でなにか呟いた。

●収集
「申し訳ありませんでした。」
 三人のその様子にデルフェスがこれ以上ないといった様子で謝る。
「ど、どうしたの?デルフェスさん?」
 紗霧がそのデルフェスの様子に驚いたように声を上げる、デルフェスと何か関係がありそうなのは隆美の為にアンティークショップ・レンで買ってきたブレスレットくらいしか思い当たらなかったが、その時彼女はいなかったはずだ、と紗霧は考える。
「本日紗霧様が買われたブレスレットなのですが、実はあれは本来売りものではなかったのです。手違いであそこの棚に置かれてしまい、私がそれを回収に来たところだったのですが……。」
 そこまで聞いてようやく紗霧はデルフェスの言葉に合点が行く。
「で、でも売り物じゃないっていっても呪いが掛かってるとかって訳ではないんですよね?」
「呪い、という程ではないのですが……少し性質の悪い魔法が掛かっておりまして……。つけた人が最初に見た人を好きになる、というチャームの効果があるのです、ただ少しその方向が歪んでおりまして、その好きになった相手の体に対して激しい興味を持つ、というものでして……。」
 そこまで聞いた紗霧は納得をする。
 隆美と二三矢は、その自分の行為を全く覚えていないのか何処かきょとんとしていた。
「そういう事だったのです。私もレンさんに頼まれて回収のお手伝いに来ていたのですが。」
 デジタルカメラを鞄にしまったみそのが、済ました顔で皆の元にやってくる。
「みその様は何もしていなかったように思われますが……。」
「私は今後こういう事が起きないようにって思って、証拠写真を撮っていたんですよ。別に隆美さんと紗霧さんが良い雰囲気だったから止めようと思わなかったなんて事は……。」
 デルフェスの言葉にみそのが答える内に思わず口を滑らす。
 はっと慌ててみそのが口に手を当てたときにはすでに遅かった。
「あの……みその様?」
「みそのさん……ひどい……。」
「みそのさん、あなたねぇ?」
「知っていたならなんでもっと早く……。」
 デルフェス、紗霧、隆美、二三矢が口々にみそのに抗議の声を上げる。
 さすがにその雰囲気に悪いという気持ちが前面に出たのかなったのかみそのが小さくなる。
「ごめんなさい……。」
 小さくなってるみそのをみて、鳴海が助け舟を出す。
「まぁ、まぁ彼女も反省してるみたいだし、その辺にしておいてくれないか?この俺の顔を立ててさ。」
 そう言った鳴海の顔を紗霧はまじまじと不思議そうに鳴海の事を見た。
「あの……、お兄さんはどなた、ですか?」
 普段テレビなど、特にアイドルの出てくる番組などははあまり見ない紗霧は本当にわからないといった様子で鳴海に聞き返す。
「え……?俺の事知らない?」
 鳴海の少し愕然としたその言葉に紗霧は小さく頷く。
 その背後で、そういう情報には詳しいモーリスは鳴海の正体がわかり思わず忍び笑いをこぼしていた。
「俺は羽丘鳴海、一言で良いえば、アイドル、かな?」
 さすがに自分で自分の事をアイドルというのは憚りがあったのか少し【アイドル】の部分だけは歯切れが悪かったが鳴海は紗霧に自己紹介をする。
「やっぱり似てると思ったけど、本物だったんだ。」
「これはぜひ妹達にも教えてあげねばなりませんね。」
 二三矢は自分の記憶が間違っていなかった事に安堵し、みそのは一度はしまったデジタルカメラを取り出し鳴海の事を撮りはじめた。
「鳴海さんはアイドルさんなのですね?」
 まだ何処かよく判って無いという風に紗霧は呟く。
「まさか全く知らないとは思わなかったですね。紗霧さんも年頃の女の子なんだから友達とそういう話とかしてるかと思ったけど。」
 モーリスのその言葉に隆美が思い出したように呟く。
「そういえば紗霧からそういう話って聞いた事無かったわね、友達とそういう話しないの?」
「だって私が知ってるのと全然話が合わないんだもん……。」
 普段、隆美がバラエティよりもドキュメンタリーなどの方を良く見るために、紗霧がそういう話に疎くなってしまっていると云う事に全く気が付かなかった隆美であった。
「紗霧ちゃんだっけ?君ももっと色々見て見ると良いよ。今度俺の出るドラマが○曜日の9時から始まるんだ、良かったら見てみてよ。」
 そう言って鳴海が爽やかな笑顔を浮かべる。
「ああ、当然見る予定でしたよ。君の事は前々からチェックしていたからね。」
 話し掛けていた紗霧ではなく、モーリスが横から口を出す。
 男にチェックされていた、という言葉にちょっと戸惑いを覚えながらも鳴海は営業スマイルは崩さずにモーリスにお礼をいう。
「それじゃ俺はこれからまだ収録の続きがあるからここらでおいとまするよ。ここのお店は気に入ったからまたこれからもちょくちょく遊びに来ると思う。よろしくね。今日は面白い体験をありがとう。」
 そう言って、鳴海は爽やかな笑顔と共に文月堂を去っていった。

●エピローグ
「……面白い人でしたね。」
 アイドルという物がまだよく判っていない紗霧が思わずそう呟く。
 それを見て隆美は、紗霧にもっといろいろな物を見せてあげなければ、という意識を強くするのであった。
「ところで、お二人はこのブレスレットをつけていた間の事は覚えていらっしゃらないのですか?」
 今まで黙っていたデルフェスがそう隆美と二三矢に話し掛ける。
「ええ、紗霧がプレゼントって言ってそのブレスレットを渡してくれた所までは覚えているんだけど、そこからは……。気が付いたら二三矢君は私の事を押し倒してるし……。」
 その隆美の言葉に申し訳ないといった様子で二三矢は小さくなる。
「あ、あの今日はすみませんでした。」
 逃げ出したい衝動に駆られながらも二三矢は精一杯の謝罪の言葉を述べる。
「良いのよ、あれは二三矢君のせいではなくてそのブレスレットの魔法の所為なんでしょ?」
「ええ、このブレスレットを隆美様も二三矢様もお付けになられた為にあのような事になったのです。なので余り御気にする事は無いかと思いますよ。」
 そう二人に言われても、どうしても紗霧が自分の事をどう見たかが気になる二三矢であった。
「それじゃ私は先にレンに戻ってどうなったか、報告に行ってくるね。」
「よろしく願えますか?みその様」
「大丈夫、ちゃんと上手くいった事を報告してくるから。」
 みそのはそう言って、皆に挨拶をすると文月堂を出て行った。
 デジタルカメラの中にある本日の収穫を妹達が見た時の光景を頭に思い浮かべて笑みをこぼしながら。
 一段落して文月堂にも徐々に静寂が戻ってきた。
「あーそれじゃ私がそのブレスレットをレンに届けに行きますよ。レンさんとも久しぶりに話してみたいですし。隆美さんも一緒にどうです?」
「え、ええそうね。私もあそこには久しく顔を出してないから、顔を出しておきたいわね。紗霧ちょっとお留守番頼めるかしら?」
「あ、うん、それじゃその間は私が店番をしてるから大丈夫。」
 そしてモーリスが何かを思いついたようにデルフェスにそっと耳打ちをする
「デルフェスさん、先ほどのブレスレット、少しだけ封印を解いて貰えませんか?本来の効果はでなくていいですので、ほんの少し恋人気分に浸れるくらいに。」
「え?それはどういう……?」
 そこまで言ってデルフェスはモーリスの言わんとした事がわかった。
「モーリス様のお願いといえど、それはできません、申し訳ありませんが。」
 デルフェスのその言葉にモーリスはがっかりしたように一瞬肩を落としたが、すぐに気を取り直す。
「モーリスさん、そろそろ行きませんか?」
「あ、そうですね、それじゃ行きましょうか?」
 そう言ってモーリスはブレスレットの入った小箱をデルフェスから預かり、隆美をエスコートして出て行く。
 隆美と二人きりで歩ける、それだけでも良いか、と思いながら。
 文月堂に残された紗霧、二三矢、デルフェスであったが、二三矢は先ほどの一件があり、紗霧の事をまともに見る事ができなかった。
そして紗霧が先ほどの騒動で崩れてしまった本を直している間にデルフェスがそんな二三矢にそっと耳打ちをする。
「二三矢様、先ほどのブレスレットの代わりに、と持ってきたブレスレットがあるのですが、それを二三矢様からお渡しになられてはどうでしょうか?仲直りのきっかけになると思うのですが。」
「え?」
 そのデルフェスの言葉に驚いた顔を見せる二三矢。
「俺が渡して良いんですか?」
「ええ、二三矢様から渡されるのが良いかと思いまして。」
 そう言ってデルフェスはブレスレットの入った小箱を二つ二三矢に手渡す。
「え?二つ?」
 驚いたようにデルフェスと渡された小箱を見る二三矢。
「一つはお詫びの意味も含めて紗霧様に……。これを渡すのは二三矢様が良いと思いまして。」
 そう言ってデルフェスは作業にいそしむ紗霧の事を見る。
「あの紗霧様、わたくしは少し所用がありますのでこの辺りで失礼いたします。」
「あ、デルフェスさん、今日は色々すみませんでした。」
「いえ、わたくし共の不手際で、隆美様にも紗霧様にもご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。」
「いいよ、私は気にしてないから、別に今回の件は単なる事故だったんだし、ね?」
「そうですか、そう言ってくださると助かります。それでは失礼いたしますね。」
 デルフェスは二三矢に小さく目配せをすると文月堂をゆっくりと出て行った。
 残された二三矢は、ゆっくりと紗霧に向かって歩き出す。
「あの、デルフェスさんがこれを隆美さんのブレスレットの代わりにって……。」
 二三矢はデルフェスに渡された小箱のうち一つを紗霧に渡す。
 その小箱の蓋をあけてみた紗霧はぱっと明るい顔になる。
「これ、あのブレスレットにするか最後まで悩んだやつだ、ありがとう。」
「いやお礼ならデルフェスさんに言ってよ。」
 そこまで言って、二三矢は意を決したよにもう片方の手に持っていた小箱を紗霧に差し出す。
「それからこれは……、紗霧さんに……って。」
「え?私に?」
 二三矢はその問いに激しく赤面し少しうつむき加減に小さく頷く。
 それを見て紗霧はぱっと嬉しそうな笑顔を浮かべその小箱をあけるのであった。

●エピローグ……その後
 そして数日後、鳴海の出ているテレビを見ていた隆美と紗霧の元に何枚かの写真がみそのから届けられた事はいうまでも無かった。


Fin


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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≪PC≫
■ 鹿沼・デルフェス
整理番号:2181 性別:女 年齢:463
職業:アンティークショップ・レンの店員

■ モーリス・ラジアル
整理番号:2318 性別:男 年齢:527
職業:ガードナー・医師・調和者

■ 海原・みその
整理番号:1388 性別:女 年齢:13
職業:深淵の巫女

■ 結城・二三矢
整理番号:1247 性別:男 年齢:15
職業:神聖都学園高等部学生

■ 羽丘・鳴海
整理番号:3665 性別:男 年齢:18
職業:アイドル兼高校生


≪NPC≫
■ 佐伯・紗霧
職業:高校生兼古本屋

■ 佐伯・隆美
職業:大学生兼古本屋

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■         ライター通信          ■
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 どうも初めましてもしくはこん○○わ、ライターの藤杜錬と申します。
 今回はアンティークショップ・レン依頼『誘惑の腕輪』にご参加ありがとうございます。
 今回は全般的にコメディタッチで描かせていただきました。
 楽しんでいただけたら幸いです。

●鹿沼デルフェス様
 いつもご参加ありがとうございます。
 今回はデルフェスさんのプレイングのお陰で事態が混乱しないですみました。
 如何だったでしょうか?楽しんでいただけたら幸いです。

●モーリス・ラジアル様
 いつもご参加ありがとうございます。
 今回はどちらかというと傍観しつつ美味しいところ持って行く、モーリスさんになりました。
 如何だったでしょうか?楽しんでいただけたら幸いです。

●海原みその様
 いつもご参加ありがとうございます。
 今回は妹さん達に見せる写真が色々取れたようです。
 如何だったでしょうか?楽しんでいただけたら幸いです。

●結城二三矢様
 いつもご参加ありがとうございます。
 今回はある意味で美味しい役所だったと思います。
 慌てる二三矢さんを書いてるのは楽しかったです。
 如何だったでしょうか?楽しんでいただけたら幸いです。

●羽丘鳴海様
 どうも初めまして、ご参加ありがとうございます。
 アイドルさんの描写は初めてだったのでこういう感じで良いのかな?と思いながら書いていました。
 如何だったでしょうか?楽しんでいただけたら幸いです。


皆様に何か残すことができれば幸いです。
それでは皆様、本当にご参加ありがとうございました。

2005.01.17.
Written by Ren Fujimori