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<東京怪談・PCゲームノベル>


駅前マンション〜それぞれの日常

 新年が過ぎて数日。家の神社が落ち着いてからの撫子は、お年始の挨拶とともに昨年世話になった者たちのところを回っていた。
 その中にはもちろんというか、知り合いが多く、また大家とも懇意にしている駅前マンションも入っていた。
「あけましておめでとうございます」
 服装こそいつもと変わらぬものだが、その柄はお正月に相応しい華やかなもの。艶やかな立ち姿に、大家の老人は楽しそうな笑みを見せ、撫子を中へと招き入れてくれた。
 今回撫子が持って来たのはお手製御節と、お餅が少々。そして相変わらず大家の悪口を言いながらも渡してくれた祖父からの言伝の吟醸酒だ。
「お祖父様、台所をお借りしてよろしいですか?」
 お決まりの挨拶をしてお節を空けて、それから撫子は持って来たお餅を示してにこりと笑った。
 大家もその意味をすぐに察して、快く了解をくれる。
「先に召しあがっていてください」
「いや、せっかくだし一緒に食べる方が楽しいだろう。そちらの準備が終わるまで待っておくよ」
 待たせるのも悪いなあと思ったが、しかし本人に言われてしまえばそれ以上強く言うのも躊躇われて。
 お雑煮のお汁を作るのにそう時間はかかるまい。――そう判断して撫子は、
「すみません。すぐできますから」
 小さく会釈して告げて、ぱたぱたと台所に向かう。
「楽しみにしているよ」
 投げ掛けられた言葉に笑みで答えて、撫子は早速調理を開始した。
 とはいえ、作るのはそう凝ったものではない、ごくごくシンプルなお雑煮だ。ものの十分程度で準備はできて、盆にお椀を乗せて居間へと戻る。
 と。
「あけましておめでとーっ」
「久しぶりじゃな」
 いつのまにやら、室内には人の姿が増えていた。
「お久しぶりです、水龍様」
 片方は幼女の姿をした水の龍神、水龍(すいり)。
 そしてもう一人は、直の知り合いではないものの、話だけは聞いたことがある――草間興信所の居候神様、桐鳳(きりたか)だ。
「はじめまして、桐鳳様」
 にこりと微笑んだ撫子に、桐鳳はきょとんと瞳を瞬かせた。しかしすぐに無邪気な笑みを浮かべて見せる。
「こんにちわ。はじめまして、撫子さん」
 十二、三歳前後という外見相応の幼い笑みだが、その実年齢は、少なくとも外見通りでないことだけは確かだろう。
「すまんな、結局先にいただいてしまって」
 言われてハタと見てみれば、桐鳳の手にはしっかと箸が握られている。
「待てというのに、聞かんのだからな、こやつは」
 呆れたような水龍の言葉も、ご馳走を喜ぶ桐鳳には聞こえていない。
「いいえ。美味しく頂いていただければ充分です」
「あ。お雑煮もあるんだ、美味しそう〜っ」
「そのくらい自分でせんかっ」
 にこにこと外見そのままの幼さで告げる桐鳳に、ポカッと水龍の軽い拳が見舞われた。
「え? いえ、そうたいした手間ではありませんから……」
「たいした手間ではないからこそだ。そやつと話もあるだろう?」
 ニッと小さく微笑んだ水龍の視線の先には大家の老人。
「すみません、ありがとうございます」
 聞かれて困るような話があるわけではないけれど、やはり他の客がいるところで思いっきり内輪な話はしづらいもの。
 水龍の気遣いに頭を下げて、撫子は台所に向かう二人を見送った。



 水龍と桐鳳の姿が見えなくなってから、大家の老人はコタツの上にトンっと吟醸酒を上げてきた。
 お猪口に注ごうとするのを見て撫子はすぐに一升瓶を手に取った。
「おや、すまんな」
 酒を口に運んだ大家の老人は、柔和に笑って美味いと一言。
「そう言っていただければ祖父も喜びます」
「まだ意地を張っているのか」
「はい」
 撫子がここに来ようとするといつも仏頂面をするくせに、必ずと言って良いほど手土産を持たせる祖父の姿を思い出し、撫子はクスクスと笑みを零した。
 とはいえ、それは大家の老人も同じのようで。
 今は自身が受け身だから余裕を見せているのだろうが、昔の話を聞くと口にのぼるのはたいてい嬉しそうな憎まれ口だ。
 酒で口が軽くなっているのか、お節のお礼の意味もあるのか。
 大家の老人は今日はいつも以上に饒舌に、いろいろと昔話をしてくれた。一緒に仕事をした時のことだとか、なにやら張り合った時のことだとか。
 たいして撫子は、正月の神社の様子だとか、日頃の祖父のことだとか。
 そんな他愛もない話で盛りあがった。
 そうして、どれくらい話しただろうか。ふと気がつけば、時計の針はもう半周もしていて、だが水龍と桐鳳はまだ戻っていない。
「遅いですね……何かあったんでしょうか」
 お雑煮を取りに行っただけにしては遅すぎると首を傾げた撫子に、大家の老人はなんとも呑気な口調で答えを返した。
「水龍が一緒だから大丈夫だと思うんだが……多分、気を利かせているだけじゃないかな」
 大家の老人はそう言って、軽く台所の方へと視線を向けた。
 と、ほとんど同時に、ぱたぱたと軽い足音が響いてくる。
「あははは〜。たくさんお餅焼いてたら時間かかっちゃった」
「おぬし、いくらなんでも欲張りすぎじゃろう」
 その通り、桐鳳のお椀にはお餅が山盛りに積まれている。
「だって武彦さんとこじゃあ、お餅あんまり食べられなかったんだもん」
 桐鳳の切り返しに水龍はふうと溜息をついて、撫子に向けて苦笑を浮かべた。
「すまんな、餅を使いきってしまった」
「大丈夫です。わたくしのもお祖父様のももうこちらにありますし、もともとこちらに置いて行くつもりでしたし」
 それから後は、さっきまでの穏やかさが嘘のようにひっきりなしに人が訪れ、部屋はほとんど宴会の様相。
 けれど賑やかなのも嫌いではない。
 たくさんのお客様とともに、正月の楽しいひとときを過ごせた一日だった。

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   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

0328|天薙・撫子|女|18|大学生(巫女):天位覚醒者
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         ライター通信          
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こんにちわ、いつもお世話になっております、日向 葵です。
締めきりギリギリですみません……お正月のだらけグセがいまだに抜けず困り物な今日この頃です(汗)

駅前マンションへの挨拶回り、どうもありがとうございました♪
お客様の相手もとのことでしたので水龍と桐鳳を登場させてみましたがいかがでしたでしょうか?
少しなりと楽しんでいただければ幸いです。

それでは、またお会いする機会がありましたらその時はどうぞよろしくお願いします。