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<東京怪談・PCゲームノベル>


シンデレラは誰だ!?

 中学生くらいかと思った。
 「まだ中学は授業中ですよね?」と聞いてみたら思い切り殴られた。
 「あたしは二十歳よっ!」と。
 世の中データだけでは測れないこともあるらしい。
 まぁ、それはそれとして・・・・・・
「シンデレラかぁ。いいよ、やるやる!むしろやらせてっ!」
 彼女は意気揚揚と答えた。栞は頷き、にっこりと微笑む。
「ご協力感謝します。では、誰を案内役にしますか?皆瀬綾さん」
 先程かなり無礼なことを言ってしまったので、自分が選ばれることはないと確信していたのだが・・・・・・
「じゃあ、そこの小さい子と、そこで本の整理してるでかい奴」


【嬉しいなら笑顔を〜皆瀬・綾〜】


 始めは乗り気だった。シンデレラといえばいつの時代も女の子の憧れだ。無論、綾も例外ではない。
 とはいえ、毎日毎日掃除だ洗濯だ料理だ庭の草むしりだと命令され続けていると、さすがにイライラしてくる。おまけに嫌がらせの出血大サービスで仕事は増える一方だ。
 元々我慢強いとは言えない綾。気づいた時には雑巾を床に投げつけ、継母達に叫んでいた。
「何でもかんでも押しつけるんじゃないわよっ!文句があんならあんたらがやれーーーー!」
 叫ぶだけ叫んで部屋を飛び出す。
 庭に出た瞬間、何かにぶつかった。
「ちょ・・・どこ見て歩いてんのっ!」
「ああ、すいません」
 ぶつかった相手―氷月は少し首を傾けて綾を見る。
「・・・視界に入らなくて」
「喧嘩売ってんの・・・・・・?」
「氷月にそんな気はないわよ」
 口を挟んだのは鈴音だ。何でも氷月は機械人形で、事実やデータをそのまま口にしてしまうらしい。
「それはそれでムカツクわね・・・」
「・・・ドレスはどうしますか?」
「は?」
 唐突な問いかけに綾は一瞬ぽかんとする。慌てて鈴音がフォローに入った。
「氷月!色々省略し過ぎ。それじゃわからないわよ。えっとね、舞踏会に着ていくドレス、要望とかあるなら教えて欲しいんですって」
「ドレス」
 そうか。ドレスか。
 これはシンデレラ。この後の展開はもちろんお城の舞踏会だ。
 滅多に着れないドレスが着れるとなれば、綾も胸を躍らさずにはいられない。
「何でもいいの?どんなドレスでも?」
 目を輝かせて尋ねると・・・
「ええ。でも、スリットの入ったドレスや胸元が大きく開いたドレスはお勧めできません」
「何で?」
「体型から推測するに、バランスが悪・・・」
「余計なお世話よっ!」
 本当に何なのだ、この男は。睨みつけても彼は無表情に返すだけだった。
「・・・わかったわよ。考えておくからあんたどっか行って」
「何故ですか」
「あんたといるとストレスが溜まるのよ!」
「はあ」
 氷月は首を傾げながら、素直にその場を去る。
「ストレス溜まるなら何で案内役にしたの?」
 鈴音の最もな質問に綾は「ふう」と息をついた。
「何かつまんなさそーにしてたからさ。気分転換になるかなって。そしたらあれが素だったわけね。ああもう、失敗したっ!」
「うーん。まぁ、確かに氷月はいつでも無表情だけど・・・」
 苦笑する鈴音。見た目は10歳やそこらなのに、随分と大人びた笑い方をする少女だ。
「別に感情がないわけじゃないのよ」
「あ、そうなの?」
「楽しければちゃんと笑う・・・はず」
「はずって何」
「だって見たことないから」
 それで感情があると断言できるのだろうか。
「氷月って滅多なことでは動じないのよね。天然だし、鈍いし。いつか思いきり笑わせてやろうって店の皆で企んでるんだけど」
「ふーん・・・」
 あの無表情超失礼冷徹男がにっこり笑う姿なんて想像もできないが・・・
 何となく見てみたいとは思った。

 結局氷月に魔法で用意してもらったドレスは、どちらかというと小さな女の子が結婚式や何かで着るようなピンクのフリフリ。
「一番似合うものを用意させて頂きました」
「ああ・・・そう」
 何だか色々と文句を言いたい気分だったが、なかなか気に入ってしまったので良しとする。
 王子にダンスを申し込まれ、正直初心者ではあったが優雅に一礼して応じた。
 王子は素直に格好良くて、その気のない綾でも思わず「結婚してもいいかも」と思ってしまうくらいだった。
 こんな王子を置いて、シンデレラはどこへ行ってしまったというのだろう。
 ――もったいない!激しくもったいないわっ
 何か理由でもあるのだろうか。
 と―――
 視界の端に何かが引っ掛かった。柱に隠れるようにして立っている金髪の少女。彼女の青い瞳は真っ直ぐに王子を見ている。
 ――あれって・・・まさか・・・
 綾は思わず王子を放って走り出した。逃げようとする少女の腕をしっかりと掴む。
「何すんのよっ、離して!」
「あんた、シンデレラ・・・?」
「・・・」
 少女は気まずそうに視線を逸らす。
「やっぱりそうなのね。今までどこ行ってたのよ。あたしが代わりをやってたのよ」
「ああそう。それなら丁度いいわ。このままずっと代わりやっててよ」
「はあ!?」
 思わず素っ頓狂な声をあげていた。
「それ、本気で言ってるの?」
「本気よ」
「だって、いいの?このままじゃあたしが王子と結婚しちゃうのよ?あんた、王子のこと好きなんでしょ?」
 だから柱の影から王子のことを見てたんでしょ。
「結婚でも何でもすればいいわよ。私、王子なんて大っ嫌い!」
 シンデレラは綾の手を振り払うと走って行ってしまった。
「大嫌い・・・ねぇ・・・」
 とてもそうは見えなかったのだが。
 溜息をついて綾は王子の元へ戻った。
 踊り出すと再び視線を感じる。それはやっぱりシンデレラのもので・・・
「・・・やっぱり好きなんじゃない」
「何か言った?」
「ううん、何でも」
 綾は王子の胸に自分の頬を寄せる。視線の先にいるシンデレラは顔面蒼白になっていた。

「決めたわっ!」
 城から去った後で綾が突然声を張り上げた。
「決めたって・・・何を?」
「あたし、王子と結婚するっ!」
「まぁ、このまま話が展開すればそうなるけど。声に出して言うようなこと?」
 怪訝そうに首を傾げる鈴音。氷月がふと辺りに視線を巡らせた。
「・・・今、誰かこちらを見てましたね」
「誰かって誰?」
 鈴音の問いに答えたのは氷月ではなく綾だった。
「さあ、誰でしょうねー」

 これは一種の勝負だ。
 シンデレラが折れるまで、引くつもりは一切ない。
「あの視線、シンデレラのものでしたね」
「あ、気付いてたの?」
「逃げていく姿が見えたので」
 ちなみに聞く話によると、氷月の視力は10.0を越えているとかいないとか。
「何をするおつもりですか」
「さあね。ただ・・・上手くいけば多分、皆笑顔になれるはず」
「笑顔・・・ですか?」
 綾は相変わらず無表情の氷月の顔に人差し指を突き付けた。
「いい?あんたも笑いなさいよ。ハッピーエンドってのは嬉しいものなんだから。無表情に構えてたら承知しないからね!」
「はあ」
 そんな会話をしているうちに王子がガラスの靴を持って、家までやってきた。庭先にいた綾に声をかけてくる。
「すいません、そこの方。この靴を履いてみて下さいませんか?」
 綾は頷き、王子の方へ歩み寄った。
 きっとどこかからシンデレラがこちらを見ているはず。
「ああ、ぴったりだ!あなたがあの時のお嬢さんなのですね」
「ええ、まあ・・・そうなるみたいね」
 シンデレラが出てくる気配はない。
 ――いいの?このままじゃ本気で結婚しちゃうわよ。
 何故ここまで意固地になるのか。
 ふと思い当たるものがあって、綾は王子を見上げた。
「ねぇ、王子様」
「何ですか?」
「本当にあたしでいいの?本当は他に好きな人、いるんじゃないの?」
「・・・」
 王子ははっとしたように目を見開いた。困ったように笑って見せる。
「この世界では僕の我侭なんて通用しませんよ。僕達は物語の筋道通り、行動を起こさないといけない。今のシンデレラが君だというなら、君と結ばれるしかないんです」
 わかった。
 シンデレラが意地を張っている理由。
「王子様、それ間違ってる」
「え?」
「好きなんでしょ?この世界の決まりなんて関係ないでしょーが。本当に好きならそんなのぶち壊す勢いが無いと!これじゃ、彼女が可哀想だわ」
「ぶち壊す・・・」
「あたしと彼女、どっちが大切なのよ。どっちと結婚したいわけ?」
「そんなの・・・・・・彼女に決まってるじゃないですか。この世界の決まりなんて関係なく、僕は彼女が好きだ」
 ガサっと草どうしがぶつかり合う音がした。
 木の影から金髪の少女が現れる。
「シンデレラ・・・?」
「・・・今の・・・本当?」
 彼女は今にも泣き出しそうな顔で王子を見つめた。
「本当に、この世界の決まりとか関係なく、私のことが好き・・・?」
「・・・うん。好きだよ」
 シンデレラは王子に抱きつき、その胸に顔をうずめ大声で泣き出した。
 彼女はきっと不安だったのだ。
 シンデレラと王子、結ばれるのはこの物語の決まり事。
 王子が本当に、決まり事抜きで自分のことが好きなのか。
 不安で不安で仕方が無かったのだろう。
 だからそれを確かめたくて、姿を消して見せたのだ。
「上手くまとめたじゃないの」
 鈴音が感心したように言う。
「でしょ?めでたしめでたし!」
「そのようですね。お二人とも幸せそうです」
 綾は氷月の方を見て・・・ぽかんと口を開けた。
「どうしました?」
「今・・・笑った・・・?笑ったよねっ!?」
「はあ。嬉しければ笑え・・・とのことでしたので」
 見せたのは一瞬だったけれど。確かに氷月は笑っていた。
 目を細めて、心の底から嬉しそうに。
 柔らかい笑顔は、こちらの心までほっとさせてくれた。
「・・・取り消すわ」
 あんたを無表情超失礼冷徹男だって思ったこと。
「?何をですか?」
「何でもなーい」
 クスクス笑う綾に、氷月は不思議そうに首を傾げていた。


 去り際に綾は氷月を見上げ、こんな言葉を残していった。
「いい?あんたせっかくいい顔で笑えるんだから、もっと感情を表に出しなさいよ」
「はあ、努力します」
 と、答えてみたものの。
 正直、感情の出し方が良くわからない氷月だ。
「次に会った時は笑っててよね。あたし、あんたの笑顔結構好きなんだから」
「え?」
 言葉の意味を理解する前に、綾は店を出ていってしまう。
「ひーづーきー。何ぼーっとしてんのよ」
 鈴音が顔を覗きこんできた。
 氷月は綾が出ていったドアをじっと見つめながら、呟くように言う。
「・・・私の笑顔が・・・好きだと言われました」
「ふーん。良かったじゃないの」
「良かった・・・?」
「だって、氷月。嬉しいんでしょ?」
 嬉しい。
 その感情はまだ良くわからないけれど。
 今、自分が笑っているのなら、それは嬉しいという感情なのだろう。
「・・・そうですね。嬉しいのかもしれません」


 嬉しいなら笑顔を
 めいっぱいの笑顔を


 あなたの笑顔は
 きっと皆を幸せにする


fin


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC

【3660/皆瀬・綾(みなせ・あや)/女性/20/神聖都学園大学部・幽霊学生】

NPC

【氷月(ひづき)/男性/20/めるへん堂店員】
【鈴音(すずね)/女性/10/めるへん堂店員】

【本間・栞(ほんま・しおり)/女性/18/めるへん堂店長】

【シンデレラ/女性/16/シンデレラの登場人物】
【王子(おうじ)/男性/18/シンデレラの登場人物】

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■         ライター通信          ■
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初めまして、こんにちは。ライターのひろちという者です。
今回はありがとうございました!
元気一杯、魅力的な綾さん。とても楽しかったです。

今回は「幸せ」とか「笑顔」をテーマにして書かせて頂きました。
実は氷月が案内役になったのは今回が初めてでして・・・
何やら色々と失礼な奴になってしまいました。
数々の失礼極まりない発言、どうか広い心で許してやってくださいませ。
滅多に笑わない氷月が笑ったのは、綾さんの力だと思ってます。

最終的に綾さんにはシンデレラと王子のキューピット役を努めて頂きました。
いかがでしたでしょうか?

本当にありがとうございました!
またご縁がありましたら、その時はよろしくお願いしますね。