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<あけましておめでとうパーティノベル・2005>


 『新年会なる怪奇』


 新年を迎えてから幾許かの日が経った東京。
 ここ数日急に気温が下がり、吹き抜ける風は冷たさを増している。
「臨時休業?要は戻ってねェのか……どないしょ」
 とある時計屋の前。
 フェンドは、桐の箱を肩に掛け、日本酒の入った箱を手に持ちながら、途方に暮れ、大きく首を傾げた。仕草自体は何となく可愛らしいといえなくもないが、如何せん彼の風体はスキンヘッドに黒いサングラス、コートと相変わらず怪しげである。
「おいフェン。どうすんだ?」
 後ろでそれを見ていた眞宮紫苑が声を上げた。彼の咥えた煙草の煙が、風に流されていく。左手には一見懐中時計に見える携帯灰皿、脇にはこちらも日本酒の入った箱を抱えている。
「困りましたねぇ」
 全く困っていないかのようにのんびりとした口調で、アリステア・ラグモンドが呟いた。彼の隣に居た紅月双葉も、穏やかに頷く。
 彼らは、フェンドの呼び掛けによってこの場所で新年会を行う予定だった。だが、店が開いていないのであれば、それも叶わない。
「あ」
 フェンドが何かを思い出したかのように顔を上げる。視線が彼に集まった。
「どこか良い場所でも?」
 双葉の問いに、フェンドは頷く。
「ああ、面白ェ場所があるぜ」
「居酒屋とかってオチはナシだぞ」
 灰皿で煙草を揉み消しながら言った紫苑に、フェンドは無言でニヤリ、と不敵な笑みを浮かべた。


 都心から離れた場所にひっそりと佇む、一軒のこぢんまりとした日本家屋。その前で、フェンドは足を止める。
「ここだ」
「中々風情のある建物ですねぇ」
 アリステアは微笑みながらそう言った。
「へぇ。ここって店なのか。普通の家かと思った」
 紫苑が『瑪瑙庵』と筆文字で書かれた木の看板を見つけ、呟く。
「まぁ、とりあえず中に入ろうや」
 磨り硝子が嵌め込まれた木の引き戸を開け、中に入るフェンドに、皆も続いた。
 店内を見回すと、タロットカードや、パワーストーン、タイトルからして恐らく占いに関する本、雑誌、その他にも占いグッズや、何だか良く分からないものが所狭しと並べられていた。
「いらっしゃいませ〜!……あ、フェンドさん、明けましてぇ、おめでとうございます〜」
 そこに、間延びした声が掛かる。声の主は茶色く染めた長髪を後ろで束ね、藍色の着物を着た男性だった。その近くには、赤い長髪にダークグリーンのパンツスーツを身に纏った女性、長い黒髪の少女が居た。
「おぅ。旦那に姉さん、嬢ちゃんも明けましておめでとう……嬢ちゃんは珍しく着物姿だな」
「明けましておめでとうございます!フェンドさん、どうですか?」
「ああ、似合うぜ」
「明けましておめでとう。良かったね、亨ちゃん。今年に入って、あたしたち以外の初めてのお客さんじゃない?」
「葉月クン、それは言わない方向でぇ……それよりフェンドさん、こちらの方々はぁ?」
 その言葉に、フェンドの後ろに立っていた三人が反応した。そして、簡単に自己紹介を始める。
 それに対し、男性は瑪瑙亨、女性は堂本葉月、少女は御稜津久乃とそれぞれ名乗った。
 津久乃の名前の響きに、一瞬場が白けたのはいつものことである。
「ええと……津久乃さんと仰いましたね。新年早々ですが、何かご不幸があったのですか?私とアリステアさんは、今日はこのような格好をしていますが、実は神父でして。亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします」
 双葉がそういって、十字を切る。アリステアも同様にした。普段は教会の服を纏っている二人だが、今日は新年会ということで、双葉はハイネックのセーターとジーンズにロングコート、アリステアはハイネックのセーター、スラックスにダウンジャケットというラフな格好をしている。最も、アリステアは三つのピアス、二つの指輪、クロス、ブレスレット、イヤーカフス、眼鏡という、計九つの『封印具』も身に着けてはいたが。
 しかし、当の津久乃はきょとん、とした表情で小首を傾げている。
「不幸?何でですか?」
「いえ、喪服を着ておられるので……」
 そのやり取りの間、葉月とフェンドは必死で笑いを噛み殺していた。葉月は事情を知っていたし、フェンドにも何となく分かったからだ。ちなみに亨は、相変わらずの笑顔を浮かべている。
「え?これ、晴れ着なんですけど、おかしかったですか?……やっぱり、お正月も過ぎちゃったからなぁ」
「は?」
 双葉は思わず間の抜けた声を上げてしまう。フェンド以外の訪問者は、一様に不審げな表情をしていた。
 津久乃が身に着けているのは、黒の一つ紋の着物に黒い帯、そして黒いハンドバッグ。どこからどう見ても喪服である。
「フェン。ある意味で面白いな、この店」
「だろ?」
 小声で耳打ちした紫苑に、フェンドは口の端を上げて囁き返した。
「それにしても、こちらのお店、中々素敵ですねぇ」
 未だ首を捻っている双葉を尻目に、何故だか分からないが、津久乃の服装の件に納得したアリステアが話題を変える。
「ありがとうございます〜」
 それから暫く、皆で雑談し、穏やかな空気に店の中が包まれた。

「……というわけでだ。新年会やらねェか?」
 フェンドが本題に入ると、亨は表情を崩さないままで答える。
「ううん……でもぉ、この店、狭いですからねぇ……」
 彼の言うように、店内はとても飲み食いできるような状態ではない。だがそこに、津久乃が明るい声で口を挟んだ。
「あ、私にいい考えがあります!」
 言うが早いか、彼女は藁人形のストラップがぶら下がっている携帯電話を取り出すと、どこかへと掛け始めた。
「……もしもし、西野?あのね、至急手配して欲しいんだけど……」


 とある港。
「おお……」
 誰からともなく感嘆の声が漏れる。
 黒塗りのリムジンから降り立った一行の目の前には、豪華客船と呼べる規模の船が停泊していた。
「船っていうから、てっきり屋形船かなんかかと思ってたんだが……これ、チャーターしたのか?」
 紫苑の言葉に、津久乃は首を横に振った。
「いいえ。私の父の船です」
「お父様は、船長さんでいらっしゃるんですか?」
 アリステアの問いにも、彼女は首を振る。
「貿易会社を経営してます」
「津久乃ちゃんは、お嬢様だからねぇ」
 潮風に吹かれながら煙草を吸っていた、葉月が苦笑した。その言葉に、津久乃は笑顔を見せる。
「前にもそういうこと、言われたんですけど……私、女だから『お坊ちゃん』じゃないですよね?」
「……何だかアリステア神父と気が合いそうですね」
「え?何ででしょうか?」
 双葉の発言に、アリステアと津久乃は目を瞬かせた。


 客船『タイタニック』のパーティールーム。
 船のネーミングセンスに、津久乃以外の全員が疑問を感じたのはさておき、ようやく新年会が始められることとなった。
「俺が持ってきたのはコレだ」
 紫苑が箱を開け、中身を出す。それに真っ先に反応したのは日本酒好きの亨だった。
「おお〜!それは山口の地酒、『獺祭磨き二割三分』じゃないですかぁ!よく手に入りましたねぇ」
「お、あんた詳しいな。これは俺の秘蔵の酒だ。華やかな香、芳醇な味……」
「爽やかな後味の切れ〜」
 そう言って、二人は顔を見合わせて微笑む。この酒は、基本的に蔵元が販売店を選別しているので、滅多に手に入らないという貴重品だった。フェンドもそれに合わせ、日本酒一升瓶二本を取り出す。
「紫苑も瑪瑙の旦那も酒に強そうだな……三人で競争でもするか?」
「お、いいな」
「俺は嗜む程度ですがぁ、それでも良ければぁ」
 ニヤリと笑ったフェンドに、二人は頷いた。

「堂本さんは、ワインがお好きでしたよね?」
「まぁ……好きなんだけど」
 津久乃の言葉に、葉月の返答は煮え切らない。彼女は酒は好きなものの、飲むとすぐに酔い、周囲に絡み出す。それを自覚しているので、密かに思いを寄せている亨の目の前では飲みたくなかった。しかし――
「うわ!『シャトー・シュヴァル・ブラン』!?」
 ボーイが持ってきた、最高級シャトーワインを目の前にし、彼女の決意は脆くも崩れ去る。
「私は未成年だし、ジュースでいいんだけど……お二人はどうしますか?」
 話を振られたアリステアと双葉は、少し考え込む。
「私は紅茶が好きなんですが……せっかくの新年会ですし……堂本さん、そのワイン、そんなに凄いんですか?」
「凄いも何も、フランスのボルドー地区のひとつ、サンテミリオンの最高級シャトーだよ!?日本ソムリエ協会の名誉ソムリエでもある首相が、フランスを公式訪問した時に、歓迎のパーティで出されたこともあるんだから」
「へぇ……じゃあちょっとだけ頂こうかな」
 そこで、視線は自然と双葉へと向かう。
「私は飲めませんので、ジュースで……」
 そして、どこからともなく乾杯の音頭が上がった。

「双葉ちゃ〜ん、あたしの酒が飲めないってぇの?」
「い、いや、私は……」
 葉月は、あっという間に出来上がっていた。白い頬を上気させながら、双葉の首に手を回し、無理矢理彼の口元にグラスを持っていく。
「むぐぐ……匂いらけれもって……何かたのひくなってきましたぁ。クスクス」
「何だぁ、飲めるんじゃん」
「もっとくらはい。ぽわわんとひて、気持ちいい〜。まずーい!もういっぱい、なんちって。クスクス」
「あたしの酒がまずいってぇ?」
「まるくないけどおいひい〜」
「ならいいや。もっと酒〜!!」
 それを横目に、アリステアと津久乃は、和やかに談笑していた。津久乃は元々ジュースだが、先ほどからワインを飲んでいるアリステアは、それほど酔っているようには見えない。
「新年会って楽しいですね」
「そうですね〜。そういえば、私、お正月に三社参りしたんですけど、引いた御神籤、全部大凶だったんですよ。嬉しい!」
「それは凄いですね」
「でしょう?大凶って、滅多に出ないと思うんですよ。去年も一昨年もそうで、私って凄くラッキーなのかも」
 それ以前に、御籤に大凶を混ぜている神社はないのではないか、という突っ込みを入れる人物は誰も居なかった。

 一方、日本酒組の三名。
 こちらは大きなテーブルから離れ、毛足の長い柔らかな絨毯の上に胡坐をかいて陣取っている。手持ちの三本は、既に空になっていた。
「あれ?もう無くなっちまった。ここ、日本酒ってあるかな?」
 フェンドが瓶の底を名残惜しそうに覗きながら言う。
「あると思いますよ〜。頼んでみましょう」
 三人は、もう相当な量を飲んでいるのに、顔色一つ変えていない。
「凄ぇ!『朱金泥能代醸蒸多知』じゃねぇか!」
 ボーイが持ってきた瓶のラベルを見て、紫苑が喝采を上げた。これは、秋田県の蔵元が年間限定生産六十本で造るという、古酒の最高級品のひとつである。それが一気に十本も運ばれてきたとなれば、驚くしかない。
「あっちもぉ、楽しそうですねぇ」
 亨が相変わらず間延びした口調で、テーブル席の方を見遣る。
 そちらでは、穏やかに話している津久乃とアリステア、そしてテーブルの上に上がり、料理を蹴散らしながら、ダンスを踊っている双葉と葉月の姿があった。散らばった料理の残骸を、ボーイが慌てて片付けている。
「なぁ、あれって、悪酔いっていうんじゃねェか……?」
 テーブルの上から大量の料理を避難させ、それを頬張りながら、フェンドが言う。
「和やかでいいじゃないですかぁ」
「和やかか?アレが」
 紫苑の言葉にも、亨は笑顔を崩さない。
「そういえばぁ、俺ぇ、今年三社参りに行ったんですけどぉ、引いた御神籤、全部大吉だったんですよぉ。去年も一昨年もそうでぇ、俺って凄くラッキーなのかもぉ」
「ぜってぇ操作してやがるな。この腹黒占い師」
「嫌だなぁ、言いがかりですよぉ、フェンドさん。はっはっは」

 その時。
 脇に置いてあった桐箱が、かたん、と音を立てたかと思うと、結ばれていた紐が解け、中から何かが飛び出して来た。
「ぽよよ〜ん!」
 皆の視線が一斉にそちらへと向く。
「わぁ、カワイイ!」
 最初に声を上げたのは、津久乃だった。
 中から出てきたのは、どう見ても茶色い瓢箪。
 それが手足を生やし、体操をしている。
「何だ?こいつ」
 紫苑が上げた声に、フェンドが頭を掻いた。
「いや、京都のとある店から譲り受けた物なんだが」
「わしゃ酒というものが飲みたいんじゃあ!!」
 瓢箪が、急に大声で叫ぶ。
「ええと、飲みたいならどうぞ……でも、どこから飲まれるんでしょう?」
 アリステアが、ワインのボトルを持って近寄ってくる。
「ここ、ここ」
 瓢箪が、短い手を一杯に伸ばし、自分の頭部を指差した。ちょうど普通の瓢箪のように、そこには穴が空いている。
「じゃあ、どうぞ」
 アリステアが、その穴からワインを注ぐ。
「うまいのじゃあ!」
 その途端、瓢箪が真っ赤に染まったかと思うと、二つに分裂した。
「あはははは!ふえら!ひょうらんがふえまひた!」
「面白い!面白い!」
 双葉と葉月がそれを見て大喜びし、テーブルから飛び降りると、手に持ったグラスから、瓢箪にワインを注ぎ始める。すると、それぞれが分裂し、四つになった。
「もっと酒じゃあ!おなごじゃあ!」
 そう叫ぶと、瓢箪の一匹が、葉月の尻にしがみつく。
「何すんだ!このどスケベ!!」
 葉月は瓢箪を引き剥がすと、鬼のような形相で、壁に思いきり叩きつける。瓢箪は割れ、中から妙な液体を出しながら、動かなくなった。
「この際、男でもいいのじゃあ!」
 別の一匹が、紫苑の股間に身体を埋める。
「死ね」
 その瞬間、彼の拳によって、瓢箪は砕け散った。
「面白いですねぇ。もっと増やしましょう〜」
 亨が瓢箪たちに酒を次々と注ぐ。そのうち、瓢箪たちの数は膨大になって行った。
「ひゃははは!くすぐっら〜い!クスクス」
「あの……離れてくださいね」
「どスケベ!!」
「死ね」
 瓢箪たちは、フェンド、亨、津久乃を除く四人を次々と襲う。
「あの……何で私とは遊んでくれないんでしょう?ちょっとショックかも……」
 ぼそりと呟いた津久乃の言葉に、瓢箪たちが一斉にカタカタと震え出した。
「嫌じゃ!お主からは禍々しいものを感じるのじゃ!関わりたくないのじゃ!」
 どうやら、フェンドと亨に関しても同様の理由らしい。
「津久乃クンとぉ、フェンドさんはともかくぅ……俺はぁ、なんでだろう?」
「自覚がねェところが性質が悪ぃ」
「とりあえずぅ、もっと増やしてみましょうかぁ」
「いい加減にしろ!!」
 亨に向かって、四人から一斉に瓢箪たちが投げつけられた。


 ――それから瓢箪たちを一掃するのに、夜が明けるまで掛かったという。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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■PC
【3608/セイ・フェンド(せい・ふぇんど)/男性/652歳/【風鈴屋】】
【2661/眞宮・紫苑(まみや・しおん)/男性/26歳/殺し屋】
【3002/アリステア・ラグモンド(ありすてあ・らぐもんど)/男性/21歳/神父(癒しの御手)】
【3747/紅月・双葉(こうづき・ふたば)/男性/28歳/神父(元エクソシスト)】

※発注順

■NPC
【瑪瑙・亨(めのう・とおる)/男性/28歳/占い師兼、占いグッズ専門店店主】
【堂本・葉月(どうもと・はづき)/女性/25歳/フリーライター】
【御稜・津久乃(おんりょう・つくの)/女性/17歳/高校生】

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■         ライター通信          ■
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いつもありがとうございます&初めまして!
今回は発注ありがとうございます!鴇家楽士(ときうちがくし)です。
お楽しみ頂けたでしょうか?

今回は、『瑪瑙庵』の面々にご指名を頂いたので、当方のNPCを加え、ワイワイと騒いで頂きました。瑪瑙庵は設定上狭すぎるので、勝手に豪華客船に移動となってしまいましたが……
本来は、津久乃が居るために、何故か東京近海なのに船を氷山にぶつけたり、とかしたかったのですが、そこまですると流石に長くなりすぎるので、今回は自粛致しました。瓢箪だけで怪奇現象は十分でしたので(笑)。

NPCの設定などに関しては、もし宜しければ異界『瑪瑙庵』をご覧下さい。
http://omc.terranetz.jp/creators_room/room_view.cgi?ROOMID=1166

本来は脇役であるはずのNPCが、今回かなり出張ってしまいましたね……申し訳ありません……


■セイ・フェンドさま
窓開け要請、ありがとうございました!
箱の中身はあんなのになりましたが、大丈夫だったでしょうか?(汗)

■眞宮・紫苑さま
秘蔵のお酒、ありがとうございました!
今回は、新年会ということもあり、あまりカッコイイ設定が生かせなかったのが残念です。

■アリステア・ラグモンドさま
天然系同士ということで(笑)、今回は津久乃と多めに絡んで頂きました。中々天然っぽさを出すのが難しかったですけど……

■紅月・双葉さま
相当壊してしまいましたが、大丈夫だったでしょうか?(汗)
こちらは、酒乱同士(笑)で、葉月と多めに絡んで頂きました。


それでは、読んで下さってありがとうございました!
これからもボチボチやっていきますので、またご縁があれば嬉しいです。