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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


鈴の伝言〜未知なるものへの対応〜

------<オープニング>--------------------------------------

 東京都内にある下町の住宅街で、土地の所有者が変わり、新しくマンションが建つことになった。そこには、古くから社があったのだが、建設に差し支えがない場所へ移された。しかし、その頃から原因不明の鈴の音が聞こえるようになり、祟られているのではないかと付近住人の噂になっていた。
 何が原因で鈴の音が聞こえるのか調べて欲しいと草間興信所に依頼があり、有志の調査員の協力を得て、鈴の音そのものの原因はつきとめられた。
 状況からの推測ではあるが、社の主は一定範囲内から出られず、行動範囲外に社が移されて困っていたらしい。
 また、その社は、弱いながら何らかの妖魔、魔物の類を封印していたらしく、社が移されたことで異界から何かが出て来てしまったようである。
 調査員の交渉で、社はマンション建設後はその屋上に安置される事が決まっており、現在は元の場所に仮設置されている。
 社が元の場所に戻ることと、これから起こるであろう危険を知らせたことで、社の主は満足したらしい。関わった調査員達の夢の中で、感謝を示す動作を見せて社の中に入り、以降鈴の音は聞こえていない。
 夢で示された妖魔らしきものは2体。出現場所もおおよそは分かっているが、夢の中では辺りの風景がなく、正確な場所は特定できていない。
 元の社からそう遠くない公園か路地のどこかで、住民に退去を促したりといった気遣いは無用である。
 この2体とは別に、先に出現した1体が水溜りから現れ、調査員の式神1体で簡単に消滅した。出現が予測されている2体も、強さは消滅した1体と同程度と思われる。
 発端となった社について、地域にこれといった特徴のある民話や資料は残っていない。先の調査から、書面で記録が残るより遥か以前からあった、建立時期が特定できないくらい古い社であること。
 にも関わらず、由来がはっきりしない事などから、古い時代には全国どこにでもあった、ちょっとした魔除け程度のものだったのであろうと推測されている。
 社の由来で最も妥当と思われる内容は、田畑を荒らすものを鎮め、豊作を祈願するものである。その正体は、人間の畑泥棒から自然災害の象徴、狐狸妖怪の類まで諸説あった。
 特定できなかったのは、身も蓋もなく言ってしまえば、やはり全国各地どこにでもありがちな状況だったからなのだろう。ただ、社があった場所から何かが出て来てしまったのなら、何かがいたには違いない。
 社の主は、神楽鈴には反応したが、姿は見えず。夢に出てきた時には古代の巫女装束をまとった少女の姿をとっていた。夢でははっきりしなかったが、角もしくは獣の耳らしきものが頭にあり、日本古来から存在する純系統の神ではないようだ。
 封印していたものも、されていたものも、さして大物ではなさそうなので、多少それなりの心得があれば、どちらに対応しても危険はないと思われる。
 今回の主な目的は、現世にさ迷い出た2体の「何か」が、今後困ったことをしでかさないようにすること。最初の1体同様、消滅させても良いし、他になにか策があればそちらを行使しても良い。
 正体不明のままになっている社の主に関わる場合は、社にいることは確実と思われるが、どうすれば意志疎通ができるかは、不明である。
 蛇足だが、今回の依頼主は今のところは草間武彦である。今後、害をなすかもしれないものの存在について、土地所有者が認めれば、改めてそちらから依頼されるかもしれない。
 放置すると、良くない何かが起こることは確実なので対処せざるを得ないが、夢の予言で依頼主を納得させるにはどうすればよいかと、武彦は頭を抱えているらしい。
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 どこからともなく聞こえる、鈴の音。その音から派生した事件を解決するべく、草間興信所の応接室には、数人の調査協力者が集まっていた。
「神狩りか……。こいつは、久々に長い一日になりそうなミッションだな」
 安宅莞爾(あたか・かんじ)は低く呟いた。その名とは裏腹に、全身から漂う気配は鋭く研ぎ澄まされ、眉一つ動かない。ともすれば剣呑ですらある、彼の身に纏わる空気。それを感じ取れるのは、この場にいる人々だからこそでもあったが。
「相手の正体は、まだ不明よ。『神』と呼べる存在かどうかも」
 シュライン・エマは、これまで集めた資料に再度目を通す。時折、視線を止めて考え込む彼女に、初瀬日和(はつせ・ひより)はおずおずと声をかけた。
「そう大したものではなくても、何らかの力は持っているのですよね」
「そうね。社主については、少々心当たりがあるのだけど」
 シュラインは淡いカラーレンズの眼鏡をはずし、無造作に首から下げた。手際よく書類の隅を整え、テーブルの上に積み上げる。
「心当たりって?」
「断定するには、手掛かりが少ないのだけどね」
 これまでの現象で浮かび上がるのは、田畑と角もしくは尖った耳を持つ獣。とすると、農耕に縁が深い、牛が神聖化したものかもしれない。
 そうであったとしても、牛と言葉を交わす確実な手段が無い点が、困りものではあるのだが。
「動物系の能力者なら、コンタクトできないかしら」
「動物系ですか……」
 日和は暫く言葉を切った。
「『末葉』、あの、イヅナの力を借りればと私も考えました。でも、それに頼るのも難しいかもしれませんし」
「日和さん、イヅナって?」
「零、うちのスタッフならそれくらい勉強しておけ」
 草間武彦に窘められ、慌ててファイルをひっくり返す草間零に、シュラインは軽く微笑んで助け舟を出した。
「キツネの一種ね?」
「あ、ええと、ありました! 『一般にはテンやイタチに似た架空の動物』って、日和さんはイヅナ使いなのですか!? すごーい」
「そんな大層なものではありません。私には、小さな動物が感じていることが、何となく伝わるだけですし」
 零に賛嘆の目を向けられ、日和は真っ赤になった。気を静めるように背筋を伸ばすと、シュラインに向き直った。
「とにかく、まずは私自身にできることから始めてみます。私は、調伏系の力がありませんから、社の主さんから警戒されにくいかもしれませんし」
「じゃあ、そっちはあんたに任せる。俺は逃げた二体を追うぜ」
 御崎月斗(みさき・つきと)は、ぱんと掌を打ち鳴らして日和から莞爾に視線を移した。
「あんたも一人で十分戦えるようだな。なら、二体同時に全く別の場所に現れても、問題は無いな」
 莞爾は無言で頷いたが、シュラインが僅かに顔を曇らせた。
「消滅以外に対処法はないのかしら。どこかに封じて、少しずつ清めていくような」
 神社は、荒御霊が和御霊に変ずる所。かねてから、シュラインはそんな印象を持っていた。彼女にしてみれば、この一件も荒ぶる神を鎮める手がないものかと、願ってしまう。
「気持ちは分かるが、連中は一度は封じられていたんだぜ。そんな奴等に、言い含めるもないだろう」
 過去の術者には宥めるだけの力がなく、今はあるというなら可能かもしれない。けれども、傾向としては古代の術者の呪力は、現代よりも強い。
 月斗や莞爾の力は、古代の平均的な術者を遥かに凌駕するかもしれない。けれども、何らかの理由があって、敢えて封印という手段を取ったのではなかったとしたら。後に禍根を残しかねない手段ではなく、過去に無力化していたはずだ。
「何かしたいってんなら、その間くらいは待つが。後顧の憂いを断つってのも大事だぜ」
「どうする? 害意がなく、穏便にお引取り願えるなら、俺はそれでも構わないが」
 依頼主の意向を確かめるように、莞爾は武彦の方へ首を巡らせた。
「相手が出てみないと分からない。現場に任せる、と言いたいが」
 困ったように、ごく僅かな間送られた視線を受けて、シュラインは軽く唇を噛んだ。
「そうね。できるだけの事はしてみたいけれど、そんなにはっきりと考えた手段は無いわ」
 試すだけ試して見て、通じなければ消滅させるしかないだろう。
「決まりだな。ところで、だ」
 月斗はニヤリと、大人びた不敵な笑みを浮かべた。
「この話、ちゃんと依頼料は出るんだろうな? 草間のおっさん」
 武彦はコーヒーを吹きかけた。草間武彦・30歳。当人はおっさん呼ばわりされるほど、老けていないつもりだろう。だが、若干12歳の月斗から見れば、十分におっさんの域に達している。
「もちろん、正規の料金を払う。地主が承知しなければ、俺が出す」
「それを聞いて安心したぜ」
 義理人情の浪花節も結構だが、月斗にはかわいい弟二人の生活もかかっている。ここは、びた一文まけられない。
「報酬はなくても、今後の調査時に、社主の援助が得られるかもしれないわ。そうなればラッキーくらいの気でいましょ? 武彦さん」
 シュラインは苦笑を浮かべた。こんな話は珍しくない。それが、草間興信所が、一向に裕福になる気配がない理由の一つなのだろう。
「エマさん。こんな時、依頼の相場ってどのくらいなのですか」
 それまで黙って聞いていた四方神結(しもがみ・ゆい)が、不意に決然と顔を上げた。
「急にどうしたの?」
 シュラインは途惑いながらも、見積もり用の資料を出した。
「これ、コピーを貰っていって良いでしょうか」
 熱心に一通りの説明を聞き終えると、結は見積もり書類を鞄にしまうのだった。

                ○
 地主と、継続依頼についての相談がまとまり、シュラインと結は、ほっとした顔で頭を下げた。
「ついでに頼んでおきたいのだが」
 最近、何故かあの事件が広まったようで、どこかの記者がうろついているらしい。その対処は、料金の内に含めて欲しいと言って、地主は正式に追加の依頼を出した。
 結と分かれたシュラインは、その足で下準備にとりかかった。地図を片手に、怪しいと睨んだ場所を神酒で清めて回ろうとするが、社へ行ったはずの日和と結が、追いかけてきた。
「エマさん、寝袋を抱えた変な男の人が、うろうろしているんです」
「草間さんは、確か今日はお留守ですし。どうしましょう」
 二人は交互に不安を訴えたが、シュラインは同業者の勘が働いた。
「多分、話して大丈夫な相手よ。私が行くわ」
 三人が目的地に着くと、そこでは熊のような大男が社に向かって、カメラやマイクを向けていた。一般人から見れば、明らかに挙動不審である。
 鷹旗羽翼(たかはた・うよく)と名乗った熊のような大男は、アトラスにも寄稿しているライターだった。面白い記事になりそうだと、彼が従えたデーモンを通じて、社主にインタビューを試みていたらしい。
「あの、そんな強いもので呼びかけていたのなら、社主さんは隠れてしまいます。この社主さんは、とても怖がり屋さんですから」
「そうなのか。じゃあ、夢で会うしかないかな」
 茶髪の五分刈り頭をガリガリ書いて、羽翼は唸る。前回の依頼時には、夢に社主が現れたのは解決した後の一度だけ。向こうから何かを伝えようとしての結果となると、これもあまり確実とは言えない。
 話し合いの結果、日和が鈴で様々なリズムを試し、社主と音で対話を試みることになった。その間、羽翼は寝袋に入り、夢に社主が現れないか待ってみる。
 結は、日に一度はお参りに来て、社主に危険を知らせる助けを願っていた。
「社主さん、お願いしますね」
 日和はリズム感に自信がある。それでも、得意とするチェロやピアノとは勝手が違うし、単調だ。神楽を基本に試すものだから、尚の事単調な作業になる。
 それでも、日和は挫けずに速度や振り方を微妙に変えて、様々な鈴の音色出していた。
「これは、Aの方を鎮める音なのですね。では、Bの方を元気づかせてしまう音を、お願いします」
 答えは、否か応かのみ。当たっていれば、つるした鈴がかすかに鳴る。そんな気の長い作業を繰り返しては、つかめた結果を仲間に伝えた。
                ○
「じゃあ、始めるわね」
 ある程度、こちらの準備が進んだ段階で、作戦は妖のものの炙り出しに移った。
 出てくれば確実に見逃さない。けれども、あまりに力の差がありすぎて、待っているだけでは相手が出てこないかもしれない。
 日和が調べてきた鈴の調子を、シュラインは自らの声で再現する。
 リン、リーン……シャラララ……
 時に速く、時に緩やかに。高低差は殆ど無いが、荘厳ささえ感じさせるリズムで、シュラインは歌う。
 かさり、と空き地で枯草が音を立てた。
 どこからともなく、高く済んだ鈴の音が一振り聞こえる。
「来たな」
 莞爾は踵を返して駆け出した。
 シュラインは、声の調子を変える。
 近くのぬかるみから、小さな泥の固まりがシュライン目掛けて飛んできた。
 ヒュンっと空を切る音と共に、月斗が放った術が泥を止める。
 だが、泥は四方八方から、シュラインめがけて飛んできた。
「きゃ、ちょ、ちょっと、ねえ」
 こうなると、鎮めの歌を歌うどころではない。水気が多く、勢いもそう強くはないのだが、顔も服も泥まみれになるのは、精神的な打撃が大きい。
「命の危険はないかもしれないけどさ」
 半ば呆れ顔で月斗は呟いた。
「困るっちゃ、困るよな」
 歌が途切れて勢いづいたのか、輪になってシュラインの頭から襲いかかろうとする泥に、月斗はすいっと真横に腕を振った。
 左右から飛んできた式神が、泥の輪を半周して切り裂くと、あっけなく泥は動かなくなった。
「神酒が効いてたかな。本来は、ここまで弱くないな」
 ただの泥にかえった足下をみて、月斗は呟いた。
 もう一体の妖も、莞爾の手であっけなく始末されていた。
 そして、後日。結が地主に交渉して、元の依頼主から正式に追加の依頼が出し直されていたことを、調査員たちは知るのだった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 0086 /シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
 0602 /鷹旗・羽翼/男性/38歳/フリーライター兼デーモン使いの情報屋 
 0778 /御崎・月斗/男性/12歳/陰陽師
 3524 /初瀬・日和/女性/16歳/高校生
 3893 /安宅・莞爾/男性/18歳/シャドウランナー
 3941 /四方神・結/女性/17歳/学生兼退魔師

■ライターより■
 ご発注ありがとうございました。今回は後半が4種類ありますので、他の人が何をしていたか、よければ別パート分をお読み下さい。

>日和さん
 地道な努力が効を奏していました。