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バウンティ・キャット
ネットにあふれかえる情報。
星の数程もあるサイト。
『それ』は都市伝説にしか過ぎない筈の物だった。
曰く、ネットのどこかに賞金稼ぎサイトが存在している。
曰く、そこでは本当に物や人に賞金か賭けられている。
もちろんそんな物騒なサイトが東京に、この日本に存在する訳がない。
噂にしか過ぎないはずのサイトは、ある日突然真実となってネット世界に広がり現実へと牙をむいた。
サイト名は『J・J(ジャック・ジョーカー)』
賞金首として乗せられる写真も実在する人。
顔が乗せられた人が居なくなったのも事実。
誰かに大金が転がり込んだのも事実。
紛れもなく現実の出来事。
異常としか言いようがないそのサイトは、怪異ともいえる程の早さで広がりを見せ、ウイルスのように蔓延していく。
一度発せられた情報の波は留まる事を知らなかった。
「………」
青白く光る画面の前に置かれた手がブラウザを更新する。
新しいターゲットは二人。
金茶の髪に紫色の瞳をした少女と黒髪黒目の少女。
かけられた賞金は今までとは桁違いの最高額。
きっと騒ぎになるとは誰もが予想出来たはずだ。
賞金稼ぎを気取る人数は不明。
事の成り行きを監視する目の数は、正確に把握する事すら出来ないだろう。
この後どうなるのだろうかを思い浮かべ、監視者の中の一人は口元に笑みを浮かべた。
切っ掛けはゴーストネットの掲示板に書き込まれた『J・J』のサイトのアドレスと情報。
本当に犠牲者らしき人が居る事と賞金を手にした人が居るとの話。
事実を確かめるために、いつものように個室を一つ借りて、喜々として調べ始めようとした雫を何か嫌な予感がするとメノウが待ったをかけた。
リリィも何とか危ないから手を引くように止める事に成功し……説得のために最後の確認をとサイトを見に行き驚愕する。
乗せられている写真は紛れもなく自分達だったのだから。
「………やられた」
「ええっ、なに……これ? どうして二人が」
「静かに雫ちゃん。リリィちゃん、今どうなっていますか?」
「えっと、待ってね」
解りやすい作りだから直ぐに情報の確認する事が出来た。
「ここにいるって事はもうばれてる見たい……」
同時に画面の、情報ではない所を見ていたメノウが眉を寄せる。
「道理で……背景に思考を壊しすように仕込まれてます。あまり長時間は見ないでください」
賞金稼ぎを気取る愚かな人間がどれほど近くにまで来ているか解らない。
捕まったらどうなるか考えたくもなかった。
だが危険だと言う事だけは解る。
「直ぐにでも移動した方が良さそうですね、時間さえかせげば気付いてくれると思いますから」
「うん、雫ちゃんは隠れてれば問題ないと思うから、みんなにいまの事知らせて」
「姿が見えないように結界を張りますから。安全だと思う人が来たら声をかけてください。それまでは絶対に喋らないで」
机の下に一時的に隠れて貰い、体中に呪札を貼り付けていく。
口元を抑えながら雫はこくりと頷いた。
「後は……」
「ねえ」
同じように結界を張りつつ逃げようとしたメノウに、リリイが耳打ちする。
「どう?」
「……いいですね、それ」
頷いてから地面や壁に術を書き込んでいく。
「あ、りょうから電話」
「今はちょっと……携帯は術に影響が出てしまうので」
「……解った」
何か誤解を受けるかも知れないけれど直ぐに誤解はとけるはずだろう。
一分後。
静かなノックの後に見ず知らずの男が入ってくる。
術で姿を隠して、机の下に潜り込んだ三人の前であからさまに舌打ちをしてから、更に数人の仲間らしき男達を招き入れる。
「おい、出たの見たか?」
「見てない、情報も出てないし」
付いたままのパサこんの画面を確かめ始める男や部屋の中を確かめ始める男。
机の下をのぞき込んだ男が振れそうになったのはばれないと解っていてもドキドキした。
「誰だよ、子供二人だから簡単だって言ったの」
「それとも先に誰かに持ってかれちゃった?」
「そんな事無いって、オレらが一番でしょ」
相手が助けに来た訳ではない事は明らかだった。
「捕まえたらなに買う?」
「そんな事よりとっとと捕まえに行けよ」
その後交わされる会話からも、彼らが賞金稼ぎ気取りで二人を捕まえに来ているのは決定的である。
目を合わせて頷きあい、メノウが最後の一文字を床に書き込みトラップを発動させた。
ドンっ!! バンッバンッバンッッ!!!
パソコンの画面が、床に書かれた文字が一斉に爆発し始める。
「成功ッ! 弁償はりょうによろしくって言っといてね」
「今です、いきましょう」
メノウの手を引いて走り出すリリィに、雫は首を縦に振ってから逃げ出す。
もはや使い物にならない部屋に残されたのは、返り討ちにあって呻いている男達だけだった。
■光月・羽澄
そのサイトが騒ぎになっている事は直ぐに知った。
ターゲットがリリィとメノウである事と不自然なまでの賞金額に眉をしかめる。
「今は無事みたいね」
それを確認してから、画面から目をそらす。
長時間見ていていいサイトではない事は直感めいたもので解った。
何か……これはそう、酷く危険。
思考や行動に影響を及ぼす可能性がある。
制作者がかなり大きい所かも知れない。
そこまで考えながら、りょう達に連絡をしようと携帯を手に取るのと着信音が鳴るのは同じようなタイミングだった。
相手は、夜倉木。
IO2経由であるから特殊能力絡みの事であるのは間違いなく、このタイミングでならサイトの事も絡んでくるだろう。
「サイトの事ね、確認したわ」
『さすが話が早い、助かります』
「このままサイトを調べればいいのね。そっちはどうなってるの?」
簡単にサイトと現状の説明を聞き、思考をまとめるのに使った時間は一瞬。
「りょうは戻した方が良いんじゃないの?」
相手が虚無の境界であると仮定したのなら、二人は囮だと言うことは十分に考えられる。
『……そうするつもりですよ、携帯何度かけても出ないから達が悪い。直接呼びに行く人手を使う暇も惜しいのに』
確信犯的に取った行動なのだろうか?
向こうはそうとう立て込んでいるらしい。
「解った、りょうには私からも連絡とってみる」
『お願いします』
サイトの情報を集めながら、りょうの方へ電話をかける。
繋がったのは5コール後、でた時の口調も反応を確かめているかのような声だった。
『も、もしもし』
「なにしてるの、りょう。」
『………』
「落ち着いて、りょうとナハトが行ったら危険だって解ってるはずでしょう?」
「うっ………」
更に沈黙。
連絡が取れたのは良かったがこのままでは確かに時間が惜しい。
どう移動しているのか解らないが目を付けられていてもおかしくないのだ。
「ナハト、りょうを連れて帰ってきてくれる? 二人は私が迎えに行くから」
耳がいいからきっと聞こえているはずだと思っていった言葉の後は、電話の向こうでなにやら言い合いをするのが聞こえる。
次に電話に出たのはナハトだった。
『直ぐに連れて帰る』
「お願い、気を付けてね」
こっちはこれでいい。
折り返し夜倉木に連絡を入れ、大丈夫だと伝える。
「直ぐにそっちに戻ると思うから」
『はい、ではサイトの方はお願いします』
連絡を終え、羽澄は自分がすべき事を行動に移し始めた。
専用の部屋に移動し、もしもこの場に見る者がいたら目を瞬かせるような早さでキーを叩きサイトの画面をスクロールさせていく。 同時に他に頼んで不確かな情報も集めてもらい補完していった。
初めは物や場所やペットそれから……人までもを探しに賞金がかけられている、さしずめ逆オークションだとでも言うようなサイトだった様だ。
変わったのは、ここ数日の事だとザッと流していた場所で共通の意見である。
依頼ページにあげられたまるで冗談だとしか思えない書き込み。
人捜しの依頼に貼り付けられた男性の写真と、その下に書き込まれた『生死問わず』の文字は冗談だとしか思えなかったそうだ。
達の悪い冗談だという人。
冗談だと思っている人。
面白半分にからかう人。
それでもこの時は信じていない人のほうが圧倒的に多かった筈。
その男性の写真に依頼完遂とアップされ、翌日のの新聞に小さな記事をみるまでは。
男性の特徴と、サイトに名前や情報が酷似しているとサイト内で騒ぎになり始めたのである。
真偽が確かめられない間に、また同じく生死不明と書かれた次にあげられたターゲット。
今度はその友人とやらが『友人がいなくなった』と直接書き込んできたのだ。
サイトのアドレスがばらまかれたのはその日の夜の事。
真偽は………確かに事実である。
行方不明の人間も、このサイトに乗っていた男性が亡くなった事も確かに事実だ。
調べればすぐに解る事だからこそ、ここまでの信憑性を持って、情報が広まっているのだろう。
肝心の『J・J』の方も次々に手をくわえる。
偽装をかけつつ何人もの人間を装いながら、誤情報を流して信憑性が薄れるような細工もした。
情報で成り立つ場所であるから直ぐに混乱してきたし、それ以上に荒れ始めている。
そうだ、連絡もしておかないと。
「夜倉木さん、情報混乱させたから信じるのは危険って伝えて置いて」
『解りました、もしもし』
伝えるのを耳の橋で確認しながら、スクロールしていく画面に集中する。
サイトの書き換えもすべて保存して置いてから壁紙を反転させておく、これで騒ぎも収まっていくはずだ。
直ぐにでもサイト事デリートする事は出来たが、それをすると何処にどれほどの数がいるか解らないサイト閲覧者の不安がでてくる。
ならどうすればいいかは簡単。
サイトによって毒をまかれたのなら、サイトによって薬も配布できるはずだ。
途中他の手による干渉の気配を感じたが、敵ではないらしい。
同じようにこの件を調べて、サイトに干渉している人が居るようだ。
ハイスペックなマシンとプログラムとはまた違う……恐らくは特殊能力。
他のターゲットが閲覧不可になっていくのを確認し、羽澄は羽澄のやるべき事に意識を戻す。
「大丈夫ね。このままで」
タンとキーを叩き、更新を完了させる。
一見して何が変わったかすら解らないけれど、相手が何も出来ないように主導権も奪いる。
次にどこから更新されているのかを特定していく、何度もオープンネットとアンダーネットを行き来して制作者の現在位置も割り出せた。
場所は日本……東京内でとても近い。
そして、更新をしているのは一人ではなく3人。
動きながら更新しているのが二人。
固定された場所で一人。
一番はっきりと解ったのは固定されている場所、本拠地とでも言う所だろうか。
ここまでくればサイトを作った人間のレベルがどの程度であるか解る。
デザインや構成で上手く人の思考を誘導できる事は可能のようだが、技術はそれほどでもないのだ。
防御が甘い。
「お願いね、リル」
手短に連絡を頼み、IO2へ送り出す。
こっちはこれでいい。
「それと……」
もう一つ頼み事をしてから、後は戻ってからかたを付けようと席を立ちかけた羽澄の動きが携帯の音によって止まる。
相手は悠也からだった。
「どうしたの?」
『りょうさんは今どうされてます?』
「今から……何かあったの?」
『このままだとお相手の方と鉢合わせしてしまいそうで』
時計を見上げる。
かかった時間はそれほど長くはないのだが………。
「直ぐに向かうわ」
鈴はまだ反応していないから、まだ出会っていないとは
りょうの携帯には繋がらない。
携帯を手に、羽澄は部屋から走り出した。
直ぐに羽澄と悠也の二人が駆けつけた時には、辺りはとても静かだった。
かといって結界などが張られて居る訳ではなく何時も通りの、何の変哲もない日常の風景の一つででしかなかったのである。
もっとも今までしていたとの延長として考えるのなら、頭に浮かぶのは疑問符だった。
「何してるのりょう?」
「大丈夫ですか?」
「うあ、いや……」
駆けつけた羽澄と悠也の問いに、言葉に詰まるりょう。
見たままを説明するのなら、とても単純。
困っているりょうと、もっと困っているナハトと……もう一人。
サングラスをかけたショートカットの少女。
「関係者?」
「かもな……」
「辿った気配は一致しましたけど」
つまりは……。
「虚無だと名乗った」
短く告げたナハトの言葉に言葉に、瞬時に視線を少女へ向ける。
「あなたがサイトの更新をしていたんですか?」
「はい」
悠也の問いにこくりと頷く。
そうと解れば次に気になるのは………。
「りょう、どうして本部に戻るか、連絡とらなかったの」
「なんか携帯通じなかったんだ、それで………虚無だって解ってるのに無かった事にして戻れないし」
「かといってここから動こうともしないしな」
「確かに……無理矢理連れ行く事は出来そうにないわね」
何も知らない人がりょうとナハトの二人がかりで目の前にいる少女を連れて行こうとしているのを見た場合、どちらがより怪しいかという事を尋ねれば間違いなく二人の方が怪しいに決まっている。
「それで立ち往生していた訳ですね」
「間に合って良かった」
「今はまだ無事……何だが」
ナハトもどう答えたらいいか解らないが、とにかく警戒だけはしているような状況だった。
頭を抱えられた所で、こっちだって何がなにやらさっぱりなのである。
この少女が囮で、後から誰かが来る可能性は高い。
気持ちは解らないでもないが、このままここにいては何をしなくとも目立つと言う物。 直ぐに二人を見つける事が出来たのも、目立っていたと言う事もあるのだから。
それは羽澄と悠也がここに居ても同じ事であるどころか、人数が増えれば更に目立つ事になる筈だ。
「場所を変えましょうか」
「あなたにも一緒に来てもらうわ」
「いいえ」
端的な、感情のこもっていない言葉。
「ずっとこの調子なんだ」
「御陰でさっきからここに居る羽目になってな」
こうして彼女がここにいて、移動する事を拒否をしているうちは……二人には決して無理強いする事は出来ないのである。
「この会話が終わるだけの間ですが」
何処で誰が見ているか解らないからと悠也が結界を張り辺りを覆う。
最もさっきの場合は、辺りを覆い隠すような結界を張らずとも、簡単に膠着状態に簡単に持っていけるのだ。
彼女が行ったのは、人の目による結界とでも言う所だろう。
単純なだけに厄介な手だ……と言いたい所だが。
「本部は近くなんだから、りょうだけ瞬間移動して本部に戻れば良かったんじゃない」
「………あ」
試さなかった手であったらしい。
「もしくは、ナハトさんは結界を張れませんでしたか?」
「何度か結界を張ろうと思ったが、どうも上手くいかなかった」
うめきつつのナハトの言葉に、悠也が首を傾げる。
「確かにさっき結界を張った時は何か妨害されていたような」
ハッと息を飲んで悠也が少女に視線を向けた。
「まさか……」
知っていたのだ、とても良く似た気配を感じた事はあったのだから。
前も、今も。
あまりにも直ぐ近くにもある事で、それが隠れ蓑になっていたのだ。
少女がサングラスを取り、眼鏡に掛け替える。
安物の蛍光灯のような赤は、りょうにそっくりだった。
「―――っ!?」
息を飲み後ずさりするりょうを羽澄が引き留める。
「落ち着いて、りょう。ナハトお願い」
「……まさかっ」
「解ってる」
場が落ち着くよりも早く、少女がりょうう手の袖をまくり上げ……浮き上がるタトゥのような模様を見せながら告げる。
「あたしも、そこにいる彼と同じ能力を持っています」
三人目の、触媒能力者。
「………」
聞きたい事も多々ある。
状況的には緊迫していて当然の状況なのに、相手が何をしてくる訳でもないのでそうはならないのだ。
「どうしてここに来たい聞いても良いですか?」
とにかく話をしない事にはどうにもならないと悠也が問い掛ける。
「マスターに連れてこいと」
「りょうさんをですか」
「はい、連れてくるように言われています」
こう話を切り出されると気になる事はもう一つでてくる。
「どうやって連れて行くつもりだったの?」
強制的にと言うのは一人では無理である事は明らかだかせこそ、何か手があったと考える方が妥当だろう。
「マスターからは『騒ぎを収めたかったら来るように伝えろ』と言われました」
確かに、りょうだけであったのならその言葉に従ってしまっていた事だろう。
「止める事ならこちらだけで可能だと行って拒否した場合はどうするんですか」
「………ええと。確認して良いですか?」
「どうぞ、結界の中ですから連絡は無理ですが」
「はい」
ポケットからモバイルを取りだした少女に、羽澄はわずかにりょうの方を見た。
大丈夫だという確認と……こういった行動が似ているとほんの少し思ってしまったのだ。
「緊張感無いな……」
「そうね……」
「あ、ありました。来て貰えない場合は人が死にます」
無感情に読み上げた文面に緊張が高まる。
「それははリリィさんとメノウさんですか」
「いいえ、死ぬのは私です」
すべてを否定し、淡々と事実を告げる。
「死ぬって、そんな簡単に………っ!」
「りょう、落ち着いて」
「マスターの命令です」
感情が表情に表れないないからこそ、真偽の確かめる方法はない。
嘘かも知れないと思いつつも、断れば直ぐに実行してしまいそうだとも思える。
「命令で死ぬ事が出来るんですか?」
何か動きがあれば止めようと悠也が目を凝らして様子を見ているが、方法が解らなければ止めようもない。
毒かも知れないし、体内に何か仕込まれていないとも限らない。
「答えは、盛岬がよく解っているだろうと」
「…………」
「そんな事、絶対にさせないわ」
「あたしを止める? 何故?」
「目の前で死なせたり出来るはず無いわ」
言ってから、微妙な会話の食い違いに気が付く。
「どうして死ぬ必要があるの?」
「機密保持のためです」
あまりにも当然のように言ってのけ、何か暗示でもかけられてるのだろうかと思い始めた。
そうでなければこんな事あるはずがないと信じたいのに、何かされているような気配はないのである。
「そんなに大事?」
「はい」
「………解った、行ってやるよ!」
「りょう!」
「そのマスターとやらにはこっちだって話がある!!!」
頭に血が上った発言には対処は大体心得ている。
「私が伝えてあげるから、戻ってて」
「ここで行ったら相手の思う通りでしょうし、変わりが行くと伝えてください。連絡が出来るようにしましたから」
モバイルをなで、そこだけ回線を開く。
返事は直ぐに来たようだった。
「今、ゲストが来たので。30分後にならそれでいいそうです」
「あなたはどうするの?」
「あたしが直ぐ戻ってくる事も、同行を拒否する事の条件の一つだそうです」
30分の間に何があるか解らないが、それは大した問題ではない。
「解りましたと伝えてください」
「はい」
場所を指定したメモを残し、少女が姿を消してから直ぐに動き出す。
「りょうとナハトはとにかく戻ってて」
「……解った」
「場所を知らせなきゃね」
「解るのか?」
「当然でしょ」
鈴もこっそり付けさせて貰ったし、蝶でも確認を取っている。
消える間際、しっかりと追跡できるように細工させて貰ったのである。
何処にいるかははっきりと解っていた。
「移動にはそれほど時間はかかりませんが、頼んで車でも借りた方が良いかも知れません」
まずは他がどうなっているかの連絡から、伝える事も、知りたい事も沢山あるのだから。
見つけた場所へと向かいながら連絡を取り合い、あった事をまとめ始める。
まず現在本部に居るのはリリィとりょうと悠と也と夜倉木。
リリィとりょうは外に出るのは危険だと言う事で待機。
悠と也は護衛。
夜倉木は引き続き連絡役。
メノウは連れて行かれてはいるが、無事である事は汐耶の能力と偵察をしていた悠也が確認済み。
羽澄と悠也と汐耶がそれぞれパソコンを使い、結果解ったのはサイトの更新に関わっている人間は3人以上いるという事。
拠点としている場所にいる相手は不明。
羽澄と裕也達が出会ったのは、ショートカットの眼鏡をかけた赤い瞳の少女。
彼女もまたりょうと同じく触媒能力者だったそうだ。
マスターと呼ぶ存在に絶対服従でもしてるかのような行動で、何故向こうにいるかは不明。
シュラインと啓斗達が出会ったのは二人。
赤い髪で猫の目のようなコンタクトをした少年と……もう一人。
月見里千里。
彼女は興信所でもよく顔を見る顔である。 何故向こうにいたのかと言えば、強力な暗示をかけられているという事だった。
向こうに行ってしまっているという点に置いてのみは、メノウとよく似た立場である。
現状はこんな所だ。
都内にあるホテルのスイートルーム。
そここそが拠点として一致した場所だった。
現場に来たのは羽澄、裕也、シュラインに汐耶に啓斗。
「話が出来れば良いんだけど……何かあった場合は考えた方が良いわね」
「注意を牽く救出とね」
場所が場所なだけに荒事を避けたいのは事実だが、場合によってはそれもやむ無しだ。
ナハト、ヴィルトカッツェ、ディテクターには、ホテルのロビーや周りの確認をして貰う。
「彼女は?」
目線がヴィルトカッツェに向けられる。
知らないのだから無理もない。
「普段リリィちゃんとメノウちゃんが学校にいる時の連絡係と護衛をしてるのは彼女だそうよ」
「なるほど……」
いまだに辺りを操られたままの人間が居る事を考えれば、どうしても必要な事だ。
もう話は通してあったのか、特に咎められる事もなく部屋のある階へと付く頃に、汐耶が眉を潜める。
「急いだ方が……メノウちゃんに何かあったみたいです」
何かを察した汐耶が小さく告げる。
ここからは更に時間との勝負だ。
「強行突破?」
「そうですね、この先はサーチがかけられていますから、一気に行きましょう」
悠也の言葉に頷きあい、扉へと続く通路へと一歩を踏み出した。
目指すべき扉は一つ。
足音が立たないような絨毯も、シンと静まりかえった廊下を走る事も大した意味をなしては居ないのだろう。
ここにいる事が気付かれている。
誰かに監視され、見えない目に見られているとはっきりと解るのだ。
中に踏み込んでしまえば、明るいはずなのに霊的感覚だけが夕闇の中にいるかのように見通しが利かなくなる。
「そのまま真っ直ぐ行って下さい」
「結界は?」
「一つですが……」
「なら、斬る!」
強く踏み込み、啓斗が扉を空間事結界を両断しドッと雪崩れ込む。
入って最初の部屋にいたのは一人だけ。
「あいつだ!」
「気を付けて……千里ちゃんと一緒にいたのはあの子よ」
目線が赤髪の少年へと集まるなり、じわりと間合いをはかり出す。
「二度も斬りかかられるのは堪んないからなっ」
叫ぶなり、太刀筋を避けてトンッと後ろに跳躍。
「まてっ」
「駄目ッ!」
室内で何処に居げるというのだと後を追いかけた啓斗を、羽澄が手で制して鈴の音を振るわせる。
こんな風に待ちかまえているような相手に、近づく必要すらない。
「―――っ!!!」
鈴の音と歌声に耳を塞ぐが、あまり効果はないようだった。
「今の内に……」
歌声が響く間に気配を探っていた汐耶と悠也の二人が奥の部屋へと踏み込んで行く
それを見送ってから、シュラインが距離を保ったままで問い掛けた。
「後二人は奥の部屋?」
「……何だ、どうしてこんな事したか聞かないんだ?」
「それも聞かせて貰うわ」
「捕まえられたらどうぞ?」
耳を塞ぎながらの言葉に、逃げるつもりなのかと警戒した次の瞬間。
猫のような目をしたコンタクトの意味に羽澄とシュラインが気付いたのはほぼ同時。
「下がって!」
「………っ!?」
猫の目のようなコンタクトが外れた瞬間に、赤毛の少年はどろりとカーペットの上で土塊へと変わっていった。
「…………なっ!」
驚く啓斗に応えたのはシュライン。
「ゴーレムだったのよ、コンタクトの模様は【emeth(真理)】ってあったの」
eの文字を削るその代わりに コンタクトを外したのだろう。
「本体は初めからここにいなかったのね」
「後でこれも回収して貰うように頼んでおきましょ」
連絡を取ってから、三人も奥の部屋へと追いかける事にした。
奥の部屋はベッドルームになっていて、予想していなかった光景に言葉に詰まる。
話には聞いていたが……。
操られているらしい千里と触媒能力者だという少女。
千里と少女の二人の少女があばれるメノウの体をうつぶせにして乗りかかり、もしくは押さえつけてシャツを脱がせていた。
「離してくださいっ」
「ごめんね、ごめんねっ。お願いされたの」
「マスターの命令です」
意味が、解らなかった。
「………」
一瞬の沈黙の後、二人に気付き後ずさった千里に、やるべき事を思いだした汐耶がメノウに駆け寄る。
「奥の部屋を見てきます」
「……そうね、大丈夫なの」
「何とか……」
困った様子で告げるメノウに怪我はなかった……最も、背中や腕に書かれた模様は消すのに少しばかり手こずりそうではあったが。
「しっかりして」
千里に声をかけるが反応がない、まだ催眠状態にあるのだろうか?
今は応急処置として、封印をかけて眠っていて貰う事にした。
「彼女とメノウちゃんをどうしたの?」
メノウに上着を掛けてから、ようやく少女に尋ねる。
少し考えた後、かえってきたのは小さく首を傾げただけだった。
「ええと……」
瞬時に悟る。
この子とこれ以上話していたらペースに巻き込まれてしまいそうだ。
「奥の部屋にも居ませんでした」
確認をしていた悠也が戻ってきて来てから、落ち着いたらしいメノウに尋ねる。
この中で一番まともに話が出来そうなのメノウだけだったのだ。
「何されたの?」
「以前に盗った能力を取り替えされただけです。御陰で少し負担が減りましたけど」
「……何の能力ですか?」
少しだけ言いにくそうに、メノウが言った。
「ゾンビ使いの能力です」
「そう……それが狙いだったのかしら」
「ついででしょう」
「何か目的あっての事だと」
「あの」
何故と考え始めた汐耶と悠也の思考少女の声に止められる。
「マスターは屋上のラウンジに居ます」
ふと疑問に思った汐耶が少女に尋ねる。
「行かなかったらどうするの?」
メノウと千里がここにいる以上、要求をのむ事は絶対ではないのだ。
「私が同行しない場合は、私は死ぬようにと命令されています」
淡々と告げる言葉に、悠也がさっきもこの様子だったのだと説明を付け加える。
本気で実行されると一番厄介な手だ。
そろそろ止める方法を考え始めた二人に、淡々とした声が続けられる。
「私だけではなくラウンジにいる人間も同じく人質だそうです」
内容とは裏腹のぼんやりとした声に脱力しそうになりつつも、遅れて入ってきた三人にもあった事を説明する。
答えは、決まっていた。
何かあると解っていても、みすみす返す訳には行くまい。
後を追わないと言うことは、何をするか解らないと言う事なのだ。
空の見えるラウンジ。
備え付けられたテーブルに座っている人達の誰を見ても、傍目から不自然な人間は誰も居なかった。
客の内の一人が立ち上がる。
身長のわりには細身の、ひょろりと縦に長い印象の男だった。
「タフィー、戻ってこい」
声に反応して、ショートカットの少女が顔をあげ、歩き出そうとしたのを当然のように一斉に阻止される。
「………?」
表情らしい表情はほとんど無かったが、止められるのが以外だとでも言いたげな表情だった。
「彼女を帰して貰おう、さもなくばここにいる人間の暗示は解けないままだ」
「解けると言ったら?」
「そもそも本当に解く確証すらもないわよね」
確認のような悠也とシュラインの言葉への返答は直ぐに返される。
「そこにいる彼女……タフィーと千里の二人。後このラウンジにいる人間すべてが……同時に自殺を図った場合、流石に手が足らないだろう」
瞬時に室内の人数に目配せをする。
数は14人。
確かに手が足りない。
「返してくれたら、血は流さないと約束しよう」
「信じろと?」
この会話が平行線である事は解ってはいる。
単純に人数では勝っているが、人質となりうるのはここにいる人間だけではなく
長引かせたれば、包囲する時間が出来るだろう利点と、人質がどうなるか解らないと言う欠点を含んでいる。
条件としては、さして変わりはない。
後は小さな所から切り崩していくような
「なら、こうしよう……タフィ!」
ぼんやりと制止されて居るままだったタフィーが、眠ったままの千里に手を伸ばし体に触れる。
動けないようにしていたのだが、術を中和してしまったのだろう。
こういう使い方もあると言うことだ……もっともそれを論議している時間は皆無だったが。
「起きて」
囁く、ただそれだけで良かったのだ。
体に模様が浮かび上がり、目覚めた千里の背に羽根が作り出され飛翔しかける。
「しまっ……!」
「止めてっ」
「周りも―――っ!」
一斉に席を立ち初めたラウンジの客達への対処は、一瞬だった。
「さがって下さい」
こうなってしまえば、躊躇はかえって命取りになる。
指揮者のように滑らかな動作で悠也は腕を上げ、数個の保冷剤を媒介に放り呪文を唱える。
ゴウと風が吹き、ラウンジが白く染まった。
上手い手だ。
凍らせてしまえば身動きは取れないし、扉も物理的、霊的な意味で同時に塞いだから逃げ場もない。
「千里ちゃんは?」
「眠らせた」
今度こそ、しばらくは目が覚めないだろう。
「おいたがすぎませんか?」
今の騒ぎの間に転移を使ったのだろう、長身の男の横に寄り添うようにタフィーが立っている。
「直ぐに返してくれれば手間をかけずに済んだ物を……必要ないかも知れないが。ワクチンだ」
ぽんっとCD−Rを投げて寄越し、受け取ったシュラインが羽澄に渡しながら男を見据える。
「やけに素直ね」
「今回は様子を見と、つまみ食いをした子供の為だった」
「つまみ食い……そう言う事」
サイト名の『J・J』のジャックは、少しばかり前のハンプティタンプティ事件の時の彼の名だ。
「システムを作ったのはあいつなんでな。言う機会をくれた事に感謝しよう」
「遠慮しないでください、一緒に来て貰えたらいくらでも話せます」
「それは遠慮しよう」
パタとモバイルを閉じ、ディスクの中身をチェックしていた羽澄が顔をあげる。
「本物みたいね」
データを送信してから、まだ余裕を崩さない男に羽澄が告げた。
「残念だけどもうお祭り騒ぎはお終いよ、外にいる人達もそろそろ落ち着く頃だろうから」
「手際が良いな……そうか、サイトも……」
流石にここまでとは予想していなかったのだろう、くっと言葉を濁す。
「逃げ場は無いわよ」
「………」
この人数差で囲まれてしまえば単純計算ではどうしようもない。
周りには結界。外からの助けも……恐らく無い、この状況でどうしようと言うのだろう。
それでも尚、まだ何か無いかと注意を払う。
だからこそ気づけたのだ。
「…………え」
耳を澄ませていたシュラインが信じられないとでも言うような声を上げる。
遅れて羽澄達もその音に気付きだした。
ヘリが近づいてくるような音。
「……うそ」
ようなではなく、実際に来ているのだ。
真っ直ぐにこっちに向かってくるヘリが天上の硝子窓の外に見え、乗っているのが赤髪の少年だという事すら解る。
「何考えてるんだあの馬鹿!!!」
叫んだのは、長身の男。
予想外の事ではあったのかも知れない、それ以前にやるべき事はある。
ここにいるのは自分たちだけではない、動きを出来ない人間が居るし、はじき飛ばせば何処に墜落するか解らないのだ。
「やめさせてください」
「止まれっ、ディドル!! 今日はそのために来たんじゃない」
汐耶の制止が聞こえたが解らないが、手を振り上げ止めにかかる。
傍目にも暴走なのだと解っては、どうなるかはまだ解らない。
壁ぎわに寄り、または何処まで出来るか解らないが結界を張り、ラヴンジに居る人達に害が及ばないようにして衝突に備えた。
固唾をのんで見守る前でヘリの足が窓にのし掛かり、大きくひしゃげて硝子が割れ……降りそそぐ硝子が下に落ちる前に空中で止まる。
「結界が間に合って良かった……」
ほっと悠也が告げた通り、格子のように張られた結界と天井部分と止まっていた。
絶妙なバランスで乗っかかっているヘリはまるで悪趣味なオブジェのようで、ホテルの外から見たらもっと滑稽なのだろう。
「…………」
「むかえに来たー」
「なんて事を………っ」
ヘリから赤毛の少年、ついさっきディドルと呼ばれた彼が顔を出し手を振ったた途端に、グラグラとバランスを崩しそうになった機体にヒヤリとさせられる。
あれが落下してきたらここは大惨事だ。
手荒な方法を取るにも程がある。
最も、一番この状況に頭を痛めているのは長身の男のようにも思えた。
「苦労してるみたいですね」
「………ああ」
「一緒に来てもらいましょうか?」
どさくさ紛れのシュラインの言葉に眉を寄せる。
「それは出来ないな。これで引くから……」
「見逃せと?」
「サイトはもう使えない、同じ事件はもう二度と起きない」
「詭弁ね、他の事件は起こすかも知れないわ」
「そうだな……盛岬に伝えてくれ、父親のようになりたくなければ、諦めろと」
「なっ……」
「どうして? 彼女も同じ能力を持ってるのに」
「タフィーは不完全なんだ」
「え……?」
後を続ける事は出来なかった。
さっと上を見上げた師ゆんかんにヘリが大きく傾いてきたのだ。
向き立ての卵のようにつるりと……何か結界を向こう貸させる力が働いたのである。
「危ないっ!」
「……っ!」
今度こそ粉々に砕け散るのを予想したが、ギリギリの所で落下速度が遅くなり、ゆっくりと羽根が床へと突き刺さった。
「さっきの……タフィーって子がやったみたいです。一時的にだけど封印したから」
「それで止まったのね」
顔をあげる。
二人の姿も、ヘリに乗っているディドル少年の姿はもう無かった。
「逃げられた……」
「そうね、でも今は出来る事をしましょう」
治療に状況の把握。
あのサイト『J・J』が機能を果たさなくなったとしても、やる事はまだまだ残っている。
IO2本部。
あの場にいた全員の傷をいやし、後始末は本部がすると言うことで先に戻ってきた。
言いたい事は沢山ある。
にわか賞金稼ぎ騒ぎはもう少しすれば落ち着く事。
虚無の境界の3人の事。
タフィーという少女の事も、最後に言った言葉も。
沢山の言葉をどう受け止めるかだろうかが気になった。
きっと、これから大変な事になる。
「入るわよ」
ノックをしてからりょう達がいる部屋に入る。
「羽澄っ! 大丈夫だったか」
ガタリと椅子から立ち上がったりょうは、狭い部屋の中で焦れていたようだった。
甘い香りにひょいと後ろを見ると、リリィ達とテーブルに座ってお茶をしていたようで……とはいっても、珍しい事にりょうのケーキは全く減っていない。
「悠也君から貰ったんだけど、みんなが戻ってきたからって」
戻ってくるまで遠慮してのつもりだっのだろう、平気そうに見えて、かなり気にしているのだ。
きっともう、何が起こったかは聞いていたに違いない。
「具合でも悪いの」
「あのな」
「冗談よ。これから大変ね」
「………ん」
不安を含んだような、固い笑みに羽澄がポンとりょうの肩を叩く。
「一人じゃないでしょ、私があなた達を守るわ」
紛れもない本心。
「……ありがとな」
2度目のほっとしたような笑みに、羽住も優しく微笑み返した。
【バウンティ・キャット 終わり】
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0164/斎・悠也/男性/21歳/大学生・バイトでホスト】
【0165/月見里・千里/女性/16歳/女子高校生】
【0554 /守崎・啓斗/男性/17歳/高校生(忍)】
【1282/光月・羽澄/女性/18歳/高校生・歌手・調達屋胡弓堂バイト店員】
【1449/綾和泉・汐耶 /女性/23歳/司書 】
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■ ライター通信 ■
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発注ありがとうございました。
九十九一です。
今回は大まかに分けて
電脳編
羽澄ちゃん・悠也君・汐耶さん
リアル編
シュラインさん・啓斗君
虚無の境界編
千里ちゃん
で別れてます。
他細々とした所とオープニングとエンイディングは個別です。
あわせて読んでいただければ幸いです。
それでは、ありがとうございました。
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