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<東京怪談・PCゲームノベル>


Bloody Town 〜学校編〜【前編】


 ☆イレイサー選択

  →梶原 冬弥・・・攻撃
  →幽貌  渚・・・守り


□■□■□■【Staet】■□■□■□


 幽貌 渚は、その日たまたま夢幻館の前を通りかかった。
 ヒラヒラと風に揺れる張り紙を見る・・。
 渚はそれをピっと取ると、持ったまま夢幻館の中に入って行った。
 「あぁ、いらっしゃいませ・・渚さん。本日は如何いたしましたか・・?」
 夢幻館の総支配人の沖坂奏都が人のよさそうな笑みを浮かべて穏やかに尋ねる。
 「なんだか大変そうなことになってるねぇ。」
 渚は言いながら、張り紙を奏都についと差し出した。
 奏都はそれをしばし見つめた後で、いかにも今思い出しましたと言うような顔をして見せた。
 「それでは麗夜さんのところですね。こちらへ・・。」
 奏都が渚を一つの豪華な扉の前に導く。
 扉はまるで渚の到着を心待ちにしていたとでも言うかのように、前に立った途端に内側に開いた。
 「麗夜さん。お客様です。張り紙を見てこられた・・。」
 ガタリと扉の奥で何かが倒れる音がして、一人の美少年が姿を現した。
 周りのものを閉口させてしまうくらいに整った容姿・・その少年が渚を見るなりこれまた美しい声で言った。
 「・・・貴方様・・・誰ですか・・??」
 「幽貌 渚って言います。」
 別段気にする風でもなく、渚はそう言った。
 奏都はいかにも慣れてますというような口ぶりで渚の言葉に補足する。
 「張り紙を見てこられた方ですよ。」
 「あぁ!あの・・!・・・それで、どの張り紙ですか・・?」
 ・・なんて話の先に進まない人なのだろうか。
 「すみません、麗夜さんは初めてのお客様には緊張してしまってボケっぷりが酷くなってしまう人なんです。」
 奏都がやんわりと補足をするが、そんな事を言われてもどうしようもない。
 「まぁ、それはしかたな・・。」
 渚が言いかけた時、扉の中から小さな女の子が一人出てきた。
 麗夜の背後に近づき、ビシリと背中を叩く。
 小柄な少女は、麗夜と随分身長差がある・・。
 「麗夜ちゃん!いい加減にそのボケっぷりなおしてよねっ!」
 ツインテールをぶんぶんと振り回しながら、少女が叫ぶ。
 「あ、渚さん。こちらはもなさんと言って、現実世界での案内役を・・・。」
 「あ〜っ!だれだれ!?お客さん!?」
 奏都の言葉を遮ると、もなが大きな瞳を輝かせて渚の腕を取った。
 「あたしはもな!片桐もな!もなって呼んで!あなたは!?」
 「ボクは幽貌 渚。」
 「じゃぁ、渚ちゃんだね!」
 キラキラと満面の笑みでもなが渚に微笑みかける。
 「そう、よろしくね〜!」
 「渚ちゃんは、今日はどうしたの?現実世界に行きたいの!?でも、今は現実世界が血に染まってるから・・。」
 「もなさん、渚さんはその依頼できたのですよ。」
 「・・そうなの!?」
 「えぇ。」
 「それじゃぁ、中に入って入って!ほらほら麗夜ちゃん、そんな所に突っ立ってないで、行くよっ!」
 もなが、麗夜の服の裾をつかみながらズルズルと扉の中に連れ込んだ。


 「それで、この依頼の事なんだけど・・。具体的に、中はどんな様子なの?」
 渚の問いに、奏都はもなへと視線を滑らせた。
 「もなさん、渚さんにあの町の事を話していただけませんか?」
 「良いけど・・。まず、あの町は全体が血塗られていたわ。人々の念が渦巻き、生ける屍が町を徘徊していた。本当、最低最悪だった。」
 もなの顔が僅かに歪む。
 それほどまでに酷い有様だったのだろうか・・?
 「未来を遠ざけるためには、一番念の強い所に行って元凶を倒せば良いのだけど・・今回は学校よ。」
 「・・学校ですか・・。」
 奏都が複雑な感情を含んだため息を漏らす。
 「厄介ですね・・。」
 「学校になにかあるの・・?」
 「幼い子供の影や生ける屍・・ゾンビがいるかもしれません。実に厄介です。」
 確かに言われてみればそうだ・・。
 「・・あたしが見た限りではいなかったけれど・・・もしかしたら・・ね・・。」
 「それで渚様、一応二人一組で動いた方が何かと好都合です。夢幻館の中で俺以外でしたら誰でも連れて行けますが・・。」
 麗夜がよどみなく渚に問いかける。
 ・・・ちゃんと話せるではないか。
 「当方にはコレだけの人材が揃っておりますが・・。」
 奏都はそう言うと、自分の脇においてあった紙をすっと差し出した。
 そこには数人の人物が顔写真付で載っていた。
 『夢幻館』と書かれたゴシック体の文字は金色で・・どこか夜の雰囲気を漂わせている。
 が、渚は別段それには気にする様子も無く、ついと顔写真を指差した。
 「それじゃぁ、この・・梶原 冬弥さん・・?で。」
 「かしこまりました。」
 奏都は恭しく頭を下げると、もなに視線を送った。
 何のアイコンタクトなのか・・もなはすっと立ち上がると、扉を開けて大きく息を吸い込んだ。
 「冬弥さ〜〜〜ん!!同伴はいりまぁ〜〜っす!!!」
 もなはそう叫ぶと、バタリと扉を閉めた。
 麗夜が視界の端で合掌しているのが見える。

 ・・・・ダ・・ダダダダダだダダダダダ!!!!!

 突然階上から凄まじい音と共に、誰かが駆け下りてくる音が聞こえてくる。
 ・・あぁ。
 渚も大よその事が分ると、麗夜同様扉に向かって手を合わせた。
 つまり、彼はやられキャラなのだ。
 こうやって毎度毎度遊ばれているのだ。・・・合掌・・である。
 突如大きくドアが開け放たれ、写真で見たのとまったく同じ顔の人物が姿を現した。
 「もぉぉぉ〜〜なぁぁぁぁ〜〜〜っ!」
 凄まじい重低音と共に、バックからドライアイスの煙を引き連れながら、バリバリ後からのスポットライトを浴びて、冬弥は登場した。
 オーケストラの大演奏まで聞こえてくる・・。
 「お前わっ!あれほどここはホストクラブじゃねぇんだっつっただろーがよっ!なんだよ同伴って!意味がちげぇだろーがよーっ!!」
 冬弥はもなに近づくと、その首をガタガタと揺さぶった。
 「冬弥さん、冬弥さん。お客さんです。一緒に現実世界へと行って欲しいのですが。」
 奏都の呼びかけに、冬弥は持っていたもなをボトリと地面に落とすと、ハテナマークいっぱいの視線を投げかけた。
 それが、渚の上で止まる。
 「初めまして!幽貌 渚です。」
 渚はそう言うと、ペコリと頭を下げた。
 「う・・え・・?」
 「冬弥さんが攻撃、渚さんが守りで行きましょう。渚さん、なにか欲しいものとかありますか?」
 「あ〜・・金属バットが欲しいな。向こうで使う。」
 「分りました。さぁ、どうぞ。」
 「いや、ちょっと待て・・一体なんだ・・?」
 困惑する冬弥の質問を完全に無視すると、奏都は部屋に備え付けられていた金属バットを渚へと差し出した。
 何故コレがそこに備え付けられていたのかは謎だ。
 「もし、罠があった場合・・攻撃がかかり、守りが解除するという仕組みです。全滅を防ぐための最良の手段です。・・罠がない事を祈りますが・・。」
 「大丈夫、かかるのは冬弥だから!」
 「おい、ちょっと聞けっ!」
 麗夜はもなの言葉頷くと、小さなネックレスを差し出した。
 淡い桃色に光る宝石がヘッドについている。
 「これは・・?」
 「念を吸収する石です。攻撃をして倒した敵の魂・・念を吸い取り浄化します。」
 渚は頷くと、首から提げた。
 「ゾンビは物理攻撃しか効きません・・その反面、影は物理攻撃が効かず特殊能力のみでしか攻撃できません。」
 「うん、分った。」
 「いや、だから・・おいっ!」
 頷く渚の視界の端に、いまだ良く状況を理解できていなく、わめく冬弥の姿が映る。
 ・・が、誰も助けてくれそうなそぶりは見られない。
 「さてっと・・それじゃぁ行ってらっしゃい〜!」
 「麗夜さん、扉を・・。」
 部屋の奥、入ってきた扉とはまた違った感じの扉がデンと構えている。
 豪華な装飾だけれども、どこか懐かしい感じがする。
 「それでは、御武運を。」
 「いや、ちょっ・・。」
 「渚様、危険になったらすぐにお呼び下さいね・・。」
 「分りました!」
 「おい!だからなんだって!」
 奏都がそっと手を組み祈り、麗夜が微笑む。
 開かれた扉の向こうは光り輝いていた。
 「おいっ・・う・・わぁぁっ!!!」
 もなが冬弥をその中に蹴りいれる。
 その光が渚と冬弥を包み込み・・引き入れた・・・。


□■□【First Stage】□■□


 ゆっくりと目を開く・・そこは“東京”の町並みだった。
 立ち並ぶビル、雑多な町並み・・けれどその全てが色褪せくたびれている。
 「・・ここはなんだ・・?」
 「さぁ?」
 渚はケロリンと言うと、すたすたと歩いていった。
 「おい、ちょっと待てよ・・!!」
 そうは言われても、立ち止まる気など毛頭ない。
 「ちょっ・・!」
 走ってきた冬弥が渚の肩を掴み、後へと引いた。
 「なんだこりゃぁ・・。」
 呟く冬弥の前・・世にも恐ろしい形相のゾンビが立っていた。
 低いうめき声を上げながら近づいてくる・・1歩1歩と近づくごとに凄い腐臭が漂ってくる。
 「・・ちっ・・。」
 冬弥は顔をゆがめて舌打ちをすると、ライフルを取り出した。
 かなり大き目のライフルなのに、冬弥はそれをひょいと肩に担ぐと引き金を引いた。
 対戦車用のライフルだ効き目は絶大だ。
 「おい、とっとと行くぞ!」
 渚の手を取り、2ブロック先を右に曲がる。
 ・・・そこはまさに悪夢だった。
 前からゾンビが押し寄せてくる。一旦先ほどの道を戻ろうかと、後を向くが・・そこもゾンビ達が通せんぼをしている。
 とてもじゃないがこの中を無傷で抜けられるはずは無い。 
 「おい渚!ボディーガードのご氏名を貰った分、こっちは命がけで守らせていただくが・・万一の場合は恨むなよ。」
 「万一がもしあったなら、もちろん恨むよ〜。でも・・冬弥さんに万一は無いって信じてるからね。」
 「・・プレッシャーかけやがって・・。」
 冬弥は苦々しくそう言うと、ライフルを肩に担いだ。
 「・・ま、それも悪くはないな。んじゃまぁ、信じてろ。」
 引き金を引く。
 巨大な爆発音と共にゾンビたちが吹っ飛ぶ。その後からも、後からも・・雪崩のように押し寄せるゾンビ達に、引き金を引き続ける。
 渚はしばらくその光景を見ていた。冬弥は前後左右どちらの方向にもライフルを撃っている。
 その機敏な動きと強靭な体力・・そして、反射神経の良さには目を見張るものがあった。
 これなら、大丈夫だろう。きっと受身くらいなら彼には造作もないだろう。
 渚はそう確信すると、じっと空を見つめた。
 曇っていて日の光が無いこの町は、今は夜なのか昼なのかですらも分らなかった。
 でも・・きっと応えてくれる。
 何故なら、彼らは渚の眷属なのだから・・。
 チカリと上空が光り、それを視界の端に認めた渚は口の端を上げた。
 上空に、雲を割って出現したのは黄色い月だった。その近くでは、星星がささやかな光をともしている。
 渚が目を瞑る。祈りではなく呼びかけ、呼びかけではなく命令だ。
 月が怪しく発光し、その側で仕えている星達もそれに習う。
 月の光りが真下で死闘を繰り広げている冬弥とゾンビ達の上にビームのごとき速さで刺さり、その隣の星星も同様日常に地上に光りを刺す。
 恐ろしいほどの大爆発音が轟き、光りの中でゾンビ達が灰へと変わった。
 背後から詰め掛けていたゾンビ達も、同様に風に吹かれてバラバラになった。
 そして冬弥は・・かなり前方に吹き飛ばされていた。が、大した怪我は無いらしく家の壁に突っ込んだ程度の被害だった。
 渚は彼が一応無事な事を遠めに確かめると、走りよった。
 どうやら渚が予想したとおり、冬弥はあれくらいの衝撃ではびくともしないようだ。
 「冬弥さん・・。」
 「いってぇ・・なんだあれは・・。」
 「直下型月光アンド星ビームだよ。」
 「直下型月光アン・・あぁっ!?ってーことは、テメーの仕業かっ!?」
 「冬弥さんがライフル片手に大変そうだったので〜。」
 「このっ!てめぇ!俺が死んだらどうしてくれんだよっ!」
 どこかそこら辺に埋めてあげる。
 一瞬浮かんだ言葉をかき消すと、渚は微笑んだ。
 「大丈夫、ボクのガードって事は、一時的とは言えボクの眷属であり、眷属の加護を得るからボクの攻撃じゃぁ死なないよ?」
 「死なないつったってなぁ・・。」
 「まぁ、派手に吹っ飛ぶけどねー。」
 「・・・テメェ・・。」
 「ほらほら、早く行かないとまた攻撃が始まっちゃうよー!」
 渚はそう言うと、上空を指差した。
 怪しく輝く月と星・・やる気満々だ。
 「騒音を聞きつけてゾンビ達もやってきたしね。」
 耳を澄ませば聞こえてくる、ゾンビ達のうめき声・・・。
 「だぁぁぁっ!!行くぞ!おらっ!!」
 冬弥は渚の手を引っ張ると、3ブロック先を左に曲がった。
 月と星からの攻撃音を聞きながら、目の前に見える学校に向かって、全力疾走する・・・。


 学校に入ると直ぐに内側から鍵をかけ、更に近くにあった机を2人で移動させ扉に立てかけた。
 簡単なバリケードが作られる。
 低いうめき声を上げながら、ゾンビがガラス戸を叩く。・・強化硝子だ、それくらいでは割れない。
 ドロリとした緑色の粘液が、窓ガラスに付着して滑り落ちる。
 「・・と、学校の中に来れたのは良いけど・・俺らが出られなくなっちまったな。」
 「・・学校の中からって事?」
 「学校の中からもそうだが・・こっからだ。」
 「ここから・・?」
 「この町からっつー事だよ。・・麗夜とか、美麗が開く扉っては結構繊細らしく・・こう言う危ない所では開かねぇんだよ。」
 「つまり、扉がここにはこれない・・だからボク達はここから出られないって事?」
 「ご名答。しかも、ゾンビは生きてる人間の側に集まる。だから、俺らが学校の中をうろうろしている間に外にヤツラは集結するっつー事だ。」
 「完全に包囲されたってわけ?」
 「あぁ。まぁ・・麗夜を呼べば来てくれるだろうけど。あそこも結構お人好しが多いからなぁ。」
 冬弥はそう言うと、小さく微笑んだ。
 「そうなんだ?」
 「あぁ。だから、麗夜を呼べば助けに来てくれるだろうし・・最悪、奏都を呼べば・・。」
 ふっと冬弥の表情が真剣なものになる。
 瞳の輝き方が明らかに違う・・。
 学校の奥をじっと見つめて、何かを考え込むように視線を伏せる。
 「まぁ、奏都を呼ぶのも、麗夜を呼ぶのも・・他に手がなくなった時だな。」
 「・・そうだね・・。」
 いまだ険しい表情の冬弥に、渚は言葉に詰まった。
 確かに人の手を借りないに越した事はない。
 ・・しかしそれにしても、冬弥の表情は異常と言っても良いくらいだった。
 奏都を呼ぶ事に・・何か不都合があるのだろうか・・?
 渚は夢幻館でいつもにこやかに迎えてくれる細身の青年。
 銀色の髪と、青い瞳・・高い身長、細い体つき・・。
 別段変わった所はない。
 渚の思考を、ゾンビ達が遮る。
 叩かれる窓ガラスの先、段々とその数が増えてきているのがわかる・・。
 「ドアも窓も、その場しのぎにしかならねぇからな・・。まぁ、大体状況が飲み込めてきたぜ。つまり、ここの親玉をたおしゃぁ良いんだろ?」
 「・・そう。」
 渚は頷くと、薄暗い学校の奥へと歩を進めた。
 背後から響く低いうめき声と、中に入れてほしそうに叩く硝子の音が渚の足取りを重くしていた。
 

□■□【Second Stage】□■□


 電気の点っていない校舎内は薄暗く、太陽に嫌われたこの町は暗く陰湿だ。
 時折何処かから水が落ちる音だけが小さく木霊する。
 耳を澄ませれば低いうめき声が聞こえてきそうなほど静かだ。
 「なんか、やたらめったら静かだなぁ。」
 「そうだねぇ・・?」
 「・・ここを支配しているヤツが何か考えてるに決まってるな。」
 「ここを支配しているヤツ・・?」
 「渦巻く念の親って言えば分るか?つまり・・東京の未来をコレにしたいやつがココにいるって事だ。」
 「そうなんだ・・。」
 「・・なぁ渚。もし途中でそれが誰だか気づいても・・・奏都には言うなよ。まだ、麗夜も気付いてねぇ・・。」
 「どう言う事?」
 「もし・・・大切な誰かが敵だった場合、お前はどう思うか?」
 真剣な瞳が渚を貫く。
 大切な誰かが敵・・その場合、ボクは一体どう思うのだろうか・・。
 それよりも、冬弥は一体何が“見えて”いるのだろうか。
 奏都とここの親になにか因縁でもあるのだろうか・・?
 その親が、奏都の大切な人なのだろうか?
 「・・・それでも・・倒さない事にはしかたがねぇ。」
 冬弥が俯く。
 「冬弥さん・・?」
 「東京の未来を守るために、不本意ながらココに来たわけだしな・・。」
 「そうだね。その親とやらに会って、話を聞きたいしね。」
 渚が柔らかく微笑んだ。
 冬弥も小さく微笑む・・。
 渚はその時、その笑顔の意味を理解する事ができなかった。
 諦めにも似た、それでいて決心を滲ませた・・苦しそうな笑み・・。

 
 「それじゃぁ、まずは何処から入るか?」
 冬弥が右側にずらりと並ぶ教室を指差しながら言った。
 手前から3-5、3-4、3-3、3-2、3-1と教室が並び、廊下の突き当りには科学室とかかれたプレートがぶら下がっている部屋がある。
 3-4と3-3の間には上に続く階段が見える。
 「とりあえず、1階から見た方が良いね。また戻ってくるのもアレだし・・。」
 「そうだな。」
 冬弥はそう言うと、3-5の扉に手をかけた。・・それを左側へスライドさせ、中へと入って行く・・。
 渚もソレに続こうとした時、渚の鼻先でドアが閉まった。
 勢い良く・・・!!
 「渚っ!!!」
 冬弥の緊迫したような声が中から聞こえてくる。
 「お前、無事か!?」
 「ボクは大丈夫だけど・・この扉、開かないよ?」
 渚はそう言うと扉に手をかけた。扉はびくともしない。
 「とりあえず、どこかに隠れとけ!こっちは・・倒してから直ぐ行くから!」
 冬弥がそう叫んだ時、硝子が割れる音が響いた。
 酷い腐臭を伴って、濡れた足音が響いてくる・・強化硝子が割れたのだ!!
 渚は夢幻館で奏都から拝借したバットを構えた。
 一番最初にやってきたゾンビを殴り倒し、次のゾンビも殴り倒す・・・きりが無いっ!!
 あれよあれよと言う間に、廊下の向こうは黒いゾンビの影でいっぱいになっている。
 仕方がない、ひとまず間合いを取って・・渚はそう思うと、階段へと走った。
 伸ばされた腕をバットで叩き落し、素早い動きで階段を上る・・・と、途中でゾンビの攻撃が止んだ。
 階段を中ほどまで行った時、渚は思わず振り返った。
 ゾンビ達は階段の下で躊躇したようにうろうろとうろついている。
 ・・・階段が上れないのだろうか・・・?
 渚は頭をひねると、上へと上がっていった。
 そこは下とまったく同じつくりだった。
 ただ、教室の学年が一つ下がり、科学室だった部屋が音楽室へと姿を変えているだけだった。
 とりあえず・・冬弥の事が気になる。
 多分冬弥ならヘマはしないだろうが・・あの廊下に出るのはちとまずい。
 渚はちょうど冬弥のいる真上の教室に入ると、窓にかかっている真っ白なカーテンをはずした。
 それの端と端を堅く結んで1本のロープのようなものにした。
 片方の端を教室の壁に浮き上がっている何かの管に通し、下へと垂らした。
 これに・・冬弥が気付いてくれれば良いが・・。
 階下の窓が開き、そこから無傷の冬弥が姿を現す。
 やっぱり、渚が思ったとおりだった。
 冬弥はライフル片手にスイスイとカーテンを上ってくると、窓のサンに手をかけた。
 顔を上げた・・その瞳が驚きの色に染まる・・・。
 「冬弥さ・・」
 「あぶねぇ!!」
 冬弥が渚を右へと突き飛ばし、自身は左へと体をひねった。
 先ほどまで2人がいた場所には、黒い何かが刺さっていた。
 黒い靄のような・・・。
 渚は教室の中央に目を向けた。
 黒い靄のようなものを全身に巻きつけながら、優雅に佇む人物。
 その顔は、渚も知っていた。
 「お前・・なんでっ・・!!」
 冬弥が叫ぶ。
 渚が思わず、その名前を呟いた。
 

□■□【Final Stage】□■□


 「奏都さん・・?」
 小さく呟いたつもりが、事のほか大きな音となって耳に伝わる。
 目の前にいる人物は、確かに渚の知っている奏都そのものだった。
 銀色の髪も、細い身体も・・ただ、瞳だけが違う。
 左が青、右が金・・。
 金色の瞳が怪しく光り輝くオッドアイ。
 「ちげぇ。奏都じゃねぇ・・。」
 冬弥の絞り出すような声に、カレがピクリと反応した。
 ゆっくりとした動きで冬弥と渚を交互に見つめると、フワリと軽やかに微笑んだ。
 その笑顔ですらも、奏都そのもの・・。
 「こんにちわ、キミ達は奏都を知っているの?」
 冬弥が下唇をきつく噛んだ。
 渚はどうしたら良いのか分からずに、ただその場にじっと立ち竦む。
 「俺の名前は沖坂 奏芽(おきさか かなめ)。奏都と双子の兄弟なんだ。」
 双子・・。
 その事実に、渚は思わず口元を押さえた。
 だからこんなにも似ているのだ・・!
 「奏都さんに、兄弟がいたなんて知らなかった・・。」
 「そうだ“いた”んだよ。」
 「いたって・・?」
 「“いた”んだよ・・・。」
 冬弥がきっと奏芽を見つめながらそう呟く。
 「あれ?その顔・・冬弥じゃないか〜。なんだよ、言ってくれれば良かったのに〜!あぁ、少し見ないうちに大人っぽくなって・・」
 「近づくな!!!」
 1歩こちら側に歩み寄ろうとした奏芽の動きを制するように、冬弥が声を上げた。
 ピタリと奏芽の足が止まる。
 「奏都には弟が“いた”んだよ。・・この意味が、分るか・・?」
 冬弥の横顔を見ながら、渚はその言葉の意味を探った。
 いた・・いた・・。それは過去の言葉。
 それでは今は・・?
 「いたって・・。」
 「この世界に来れるのは、もう亡くなった人か・・麗夜の扉から入ってきた人しかいない。」
 言葉が冷たく刺さる。
 だから・・奏都の兄弟の事を聞かないのだ。
 誰も故人の話をしないから・・。
 「俺らに出来ることは、ここの親をぶっ倒して東京の未来を守る事だけだ。」
 冬弥が自嘲気味に微笑む。そして、諦めにも似た言葉を吐き出す・・。
 「コイツが親なんだよ。」
 『なぜ・・?』
 湧き上がるその疑問を口に出せないまま、心の中で何でも呟く。
 整理できていない頭の中で、グルグルと巡る新たな疑問・・。
 「奏芽は、もなと同じ、この世界の案内人兼ボディーガードだった。仕事中の事故で・。」
 「事故・・で、片付けるんだな、冬弥も、もなも、麗夜も、奏都も・・。」
 「あれは、仕方が・・!!」
 「東京の未来はいつも変化するものだ!危険な未来にならないように管理するのも夢幻館の仕事だ!」
 奏芽の声に力が増す。
 それに共鳴するかのように、身体の周りを取り巻く黒い影も濃さを増す・・。
 奏都とは違う、感情の起伏。
 真っ直ぐにぶつかってくる心を受け止める術が分らずに、渚はただその顔をじっと見つめた。
 「あぁ、十分分ってたさ。けどな、あの時俺を置いて行ったのはお前らだ!不幸な事故だと・・?あれはただ見殺しにしただけじゃないか!」
 「ちが・・!!」
 冬弥が奏芽の方に走り寄ろうとした時・・その身体が左に飛ばされた。
 積み重なった机の上に、その身体が叩きつけられる。
 冬弥は動かない・・・気を失ってしまったのだ!!
 渚が慌てて走り寄ろうとした時、その足元に黒い影が飛んでくるのを見た。
 思わず飛び退く・・。
 「なんで・・!!」
 「なぁ、アンタ・・名前なんて言うんだ?」
 奏芽の表情が禍々しく歪む。
 その右手は冬弥を狙っている・・。名前を言わなければ、冬弥がどうなるのか分らない。
 「渚。幽貌 渚・・。」
 「そうか、渚。お前は仲間が危険に陥った時、助けるよな?今みたいに・・。それが“仲間”としての普通の選択だよなぁ?」
 禍々しい微笑み・・。
 そこに隙はない。
 「さっき、冬弥は俺が死んでるって言ったよな?・・もし、俺がまだ生きてるとしたら、どうする・・?」
 「何を言って・・。」
 「この世界には、死んだ人間か麗夜の扉を通ってきた人間しか来れねぇ。俺は、麗夜の扉を通ってこっちに来た・・!」
 奏芽はそう言うと、冬弥から狙いをはずした。
 黒い靄が奏芽の全身を取り巻き・・そして、ふっと消え去った。
 渚は靄の残像がなくなるまで見つめた後で、慌てて冬弥へ駆け寄った。
 「大丈夫!?冬弥さんっ!?」
 「う・・、あぁ、大丈夫だ・・。ちょっと息が詰まっただけ・・。」
 冬弥は胸を押さえていた手をはずすと、大きく息を吐いた。
 苦しそうに数度呼吸をした後で、小さく微笑む。
 「もう平気だ。」
 「冬弥さん・・?」
 「何処にいるのかは分かってる。きっと屋上だ。とっとと行こうぜ。」
 強がっている・・微笑。
 渚は思わずその手を取った。
 しかし、かけられる言葉はなかった。なにせ、渚にはこの状況が未だに良く理解できていないのだ。
 ただ分ることは、奏芽がここの親だったと言うことで・・冬弥が傷ついていると言う事実だけ。
 「・・・奏芽をこの世界に閉じ込めたのは俺達だ・・。奏芽が死んでないのは分る。けど、奏芽は・・。」
 冬弥がそっと渚の手を握り返した。
 「奏芽は、闇が晴れない限り戻って来れない。・・でも、奏芽の闇を消せる者は、いない・・。俺も、もなも、奏都も、麗夜も・・。」
 窓から湿った風が吹き込んでくる。
 生臭い匂い・・血の匂い・・。
 「ここまで闇が酷くなると、もう手段は一つしかない・・奇跡でも起きない限り。」
 「ねぇ、どうして奏芽さんはあんな風にになっちゃったの・・?」
 「東京を守るために、奏芽を犠牲にしたと言えば聞こえは良いのかも知れない。だが、そんな大それた事じゃない。ただ、保身のためだ。」
 冬弥が俯く。
 思い出すのですらも苦い過去なのかもしれない。
 それを聞くのは・・今でなくても良い。今は、この世界を遠ざける事だけ。
 「屋上・・だったよね?」
 「あぁ。」
 「行こう。」
 冬弥が顔を上げ、渚がその手を引いた。
 繋いだ手を解き、渚と冬弥は階段の前で立ち止まった。
 「それじゃぁ、行こっか。」
 「あぁ。」
 普段通り真顔で答える冬弥の、握られた拳が僅かに震えている。それを、気付かないふりをして。歩き出す。
 「奇跡を信じられないほど、絶望てるわけじゃねぇ。でも、奇跡を待てるほど時間は無い・・。」
 小さく呟く冬弥の声。手に力を入れる・・。
 1段、また1段と上がっていくうちに、空気が重くなってきているのを渚は感じた。
 威圧的で強大な力。
 息苦しいまでに、色濃く渦巻く殺意・・。
 また1段上った時、急に視界が白く光り輝いた。
 足元から湧き上がる光に、冬弥が小さく驚きの声を上げる。
 「これは・・!!夢幻館への・・!!」
 「そうだよ、キミ達には一回帰ってもらう。それで・・気が変わる事を祈るよ。」
 渚は声のした方に顔を向けた。
 階段の一番上、屋上へと続くドアの前で奏芽が腕組みをしながらその様子をじっと見つめている。
 「こんな事したって・・無駄だっ・・!!」
 「・・そうでもないさ。俺も休憩が出来るし、キミ達も休憩が出来る。」
 白い光が視界を遮るように強く輝く・・。
 「さよなら・・。」
 奏芽の呟きを最後に、2人は光に包まれた。

 ・・渚の目にはしっかりと見えていた。
 奏芽の最後の表情が。・・あれは・・悲しみ・・?


 目を開けたそこは夢幻館だった。
 現実と夢、夢と現実、そして現実と現実が交錯する館。
 「・・麗夜と、奏都には、奏芽に会ったことは言うな・・。頼む・・!」
 パタパタと数人の足音が聞こえてくる。
 渚はあまりに苦しそうな様子の冬弥に、ただ頷いてあげる事しか出来なかった・・。

    〈Bloody Town 学校編 前編 END〉


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 ■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

  3653/幽貌 渚/女性/17歳/整調師、高校生、半神

  NPC/梶原 冬弥/男性/19歳/夢の世界の案内人兼ボディーガード

  NPC/片桐 もな/女性/16歳/現実世界の案内人兼ガンナー
  NPC/夢宮 麗夜/男性/18歳/現実への扉を開く者
  NPC/沖坂 奏都/男性/23歳/夢幻館の支配人 

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 ■         ライター通信          ■
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  初めまして、この度はご参加ありがとう御座います!
  ライターの宮瀬です。
  Bloody Town 学校編【前編】いかがでしたでしょうか?
  パートナー選択が冬弥と言うことで、微妙な関係になってしまいましたが・・。
  冬弥がここまでやられキャラなのは珍しいなぁと、微笑ましく思いつつ執筆いたしました。
  根はやられキャラに違いないのでしょうが・・。
  後編では奏芽との対決がメインになりそうです。
  それと、昔あった夢幻館での“事故”の事も・・・。
  もし宜しければ後編にもご参加ください。

  それでは、またどこかでお逢いしました時はよろしくお願いいたします。