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<東京怪談・PCゲームノベル>


冬の華

雪の中消えた少女を翼は追いかけた。
何か放っておけない雰囲気がしたし、翼の元々の性分なのだろう。
少女と出会った場所から5分程離れた場所に、やはり少女は翼が見かけた時と同じように空を見つめ涙を流していた。
少女の肩には薄らと雪が積もり寒々しい感じがした。
翼は少女の後ろから近寄りそっと傘をさすと
「大丈夫?何か探し物なのかい?」
と肩に手を添え優しく少女に聞いた。
すると少女の瞳から堰を切ったように涙が溢れ出し、泣きながら翼へと訴えかけた。
「向日葵が向日葵が・・・」
そこまで言うと少女は翼の胸へ泣き崩れた。
少女の様子を見た翼は優しく少女の冷たい手を擦ると
「手がこんなに冷たい。話を聞くからそこのカフェに入ろう。いいね。」
そう少女の瞳を見つめて優しく言葉をかけた。
少女は翼の優しい言葉や仕草に安心した様子で、こくんと頷くと翼に手を引かれ近くのカフェへと入って行った。



近くのカフェはこんな寒い日なのにオープンカフェスタイルを貫き通しているようで、外にある数個のテーブルは店内の賑わいに比べると全く寂しい様子だった。
しかし、翼は店内に入ると
「外のテーブルが良いんだけど。」
といい店員を驚かせた。それもそうだろう。こんな雪の日に望んで外のテーブルに行こうとするお客など初めての事だろう。
外のテーブルに案内され座るとメニューが二人の前に差し出され
「いらっしゃいませ。今月のおすすめのスウィーツはいかがですか?」
とカフェの店員は明るく翼と少女へマニュアル通りの決まり文句を聞かせた。
翼は店員に向かい笑顔で今月のおすすめスウィーツとやらを聞くとフルーツのタルトと紅茶のシフォンケーキとの事。
「何がいい?」
翼は少女に聞くと少女は小さな声で
「フルーツタルトと温かいダージリンティーを。」
と答えた。その答えを聞くと翼は店員に
「フルーツタルトと温かいダージリンティーを二つ。」
そう注文すると店員は注文された品を復唱し
「かしこまりました」
と言ってその場を去った。店員が去るのを見届けると翼は
「大丈夫。キミの話はきちんと聞くから安心して。悩み事もすぐ解決するよ。」
少女に向かい笑顔を向けると優しく少女の手を握った。
「まずは名前だね。僕は蒼王 翼。キミの名前はなんていうのかな?」
冷たくなった手を遠慮がちに翼から離すと少女は少し俯きながら
「カナ。ユキムラ カナ」
と一言だけ答えた。翼は首を傾げると
「カナさん?漢字はどう書くのかな?」
翼の問いにカナはテーブルの上に指で漢字を書きはじめた。
「ユキは今降ってる雪にムラは市町村の村。名前のカナは華美の華に菜の花の菜で華菜っていいます。」
漢字を聞くと翼は”なるほど”という顔になると華菜へ向かい
「素敵な名前だね。」
と微笑みながら言った。その翼の微笑みに華菜は少し顔を赤らめた。
「お待たせしました。」
そんな二人の会話を知ってか知らずかタイミングよく店員が注文した品物を運んで来た。
フルーツタルトはカスタードが使われているらしく、カスタードの周りから様々なフルーツが見え隠れし、かなり美味しそうに見えた。
ダージリンティーのティーポッドからも注ぎ口から温かそうな湯気が出ているのが見える。香りも程よく、カップも温められ、ダージリンの味わいを楽しめるよう手間がかけられていた。
ポッドに注がれたお湯の温度がダージリンの茶葉に適しているのだと翼は感心した。
そんな翼の様子に華菜は
「翼さん、どうしたんですか?」
と少し首を傾げて翼へと聞いた。翼はその問いに
「とても素敵なカフェに入れたと思って感激していたんだ。」
そう言うと温められた華菜のカップにダージリンティーを注いでみせた。
「とても良い香りだろう?一口飲んでから話を聞こうかな。体も冷えているだろうし。」
翼は自分のカップにもダージリンティーを注ぐと華菜に向かって語りかけた。
華菜は
「いただきます。」
と言うとカップの紅茶を一口飲み頬に手を当てて感嘆の言葉を声に出した。
翼はその言葉を聞くと満足げに微笑み、自分もカップの紅茶に口をつけた。



「ところで、どうして泣きながら空を見上げてのかな?」
翼は華菜へ率直に聞いた。
何かあるのならこの雪の中時間をかけていては探すのが困難になると考えたからだった。
その問いに華菜は少しうつむくと悲しげに翼へと話しはじめた。
「向日葵が、私の飼っている黄色いカナリアの向日葵がいなくなったんです。」
そういうと華菜はカップに注がれたダージリンを見つめ少しずつ話しはじめた。
「いつも向日葵は籠の中に入らず、私の部屋の中で放し飼いにしているんです。でも今日は雪が降ってきて、私が雪を見ようと窓を開けたその時・・・」
華菜はそこまで話すとテーブルに掛けられたクロスに大きなシミを作っていった。おそらくカナリアの事を思い泣いているのだろう。
「こんなに寒いのに、向日葵が死んだらどうしようって。私が窓を開けなければって。外に出て探しても雪で全然見えないし、私どうしたら良いのかわからなくて。」
翼は華菜の顔を指で少し上に上げると持っていたハンカチで華菜の涙を拭いてみせた。そして優しく微笑むと
「大丈夫、必ず見つかるよ。向日葵もきっと華菜さんの所に帰りたいと思ってる。だから大丈夫。」
華菜は翼の顔をじっと見つめると
「本当?」
と聞いた。翼は涙を拭いたハンカチを少女の手に握らせると優しげな笑顔で華菜へ頷いてみせた。
「とりあえず、華菜さんはこのダージリンを飲んで体を温める事。冷えた体で歩き回ったら向日葵もきっと心配するよ。」
そう言うと翼はさりげなく自分の支配下にある風と会話をはじめた。
(翼様いかがなされましたか?)
風は翼の呼びかけに答え主人である翼へ問いかけた。
翼は風が自分の呼びかけに応じたのを確認すると
(黄色い向日葵というカナリアを探してほしい。この寒さだ、出来るだけ早く頼む。探し当てたら向日葵をここまでつれて来てくれないか?)
風は主人の命令を聞くと一言
(承知致しました。)
と言って微かな風を残し去って行った。
風との会話を終わらせた翼は華菜を見た。あたたかなダージリンと美味しいフルーツタルトをお腹に入れた事で少し落ち着いたようだ。
翼はそんな華菜を見てテーブルに肘をつき手を顔に当てると優しい顔で
「美味しい?」
と聞いた。華菜は少し笑顔になり
「美味しいです。」
と答えた。翼が一緒に探してくれると言う言葉を聞いて少し安心したようだ。


カフェで紅茶とフルーツタルトを食べ終わった頃、翼の配下の風が翼へと語りかけた。
(翼様、ご命令通りカナリアの向日葵というものをお探し致しました。間もなくこのカフェから向日葵の姿が見えるかと存じます。)
翼は風の声を聞くと満足げに
(ご苦労。向日葵の様子はどうだ?)
と向日葵の様子について聞いた。その問いに風は
(多少の衰弱は見られますが命に関わるものではないかと存じます。)
その言葉に翼は華菜を見つめ風に向かい
(わかった。もう下がっていい。)
と風の王らしく風へ向かって言葉をかけた。
風はその言葉を聞くと華菜の頬を僅かにかすめると去って行った。
「きゃっ。」
華菜はその風を受け声を上げた。
「大丈夫?」
翼は心配そうに華菜へ声をかけた。すると華菜は微笑み
「大丈夫です。風に少し驚いただけです。」
華菜は笑顔で翼に答えると、空の中に見覚えのある色彩を見つけ声を上げた。
「向日葵!!」
その声を聞くと向日葵は嬉しげに華菜の手に乗って美しい声で歌いはじめた。
その歌声を聞くと華菜は安心した様子で
「よかった、心配したんだから。」
と向日葵の体を優しげに撫でた。向日葵は撫でられると嬉しそうにくちばしで華菜の手をつついてみせた。
「翼さん、ありがとう。翼さんとこのカフェに入らなければ向日葵と会えなかったかも。本当にありがとう。」
そう言うと翼の手をギュっと握りしめた。
「ありがとう、ありがとう翼さん」
と繰り返し別れ際まで言い続けた。


カフェを出るとき華菜は自分の分を出そうと財布に手をかけたが、翼はそっとその手を握り
「ここは僕が払うよ。素敵な笑顔を見せてもらったお礼。」
と言ってカフェの会計をさっと済ませた。
華菜は申し訳無さそうに翼へと礼を述べると翼は笑顔でその礼に答えた。
カフェを出ると華菜は翼に今日は雪で学校が休校だから自分の家に来てほしい、と頼んだ。
しかし翼はその申し出を丁重に断り華菜へと言った。
「さっきも言ったけどお礼ならもらったっよ。」
そう言うと華菜の頬をそっと撫でると
「華菜さんの笑顔が一番のお礼だよ。」
と言って笑ってみせた。その様子に華菜も
「翼さん、ありがとう。」
そう言って翼に見せた華菜の笑顔は、冬に咲いた一輪の花のようだった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 ●整理番号 2863/PC名 蒼王・翼 /性別 女性/年齢 16歳/職業 F1レーサー 闇の皇女


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■         ライター通信          ■
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>蒼王 翼様

はじめまして、月宮 蒼(つきみや そう)です。
今回はご注文頂きありがとうございましたvv
OMCでの初めてのお仕事でものすごく緊張しました。
話の感じがご希望に添うようなものに出来上がっていると嬉しいです。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。