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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


『月の夜の二人の旅路』

------<オープニング>--------------------------------------

「おや、おまえさん見る目があるね」
店内の片隅に置かれた、一冊の分厚い本。
来訪者は迷うことなくその本を手に取っていた。
「そいつは恋愛小説さ。興味があるかい?」
しかし、来訪者はその言葉に苦笑いを浮かべるだけ。
「……やっぱり、おまえさんには見る目があるよ」
そういって、蓮は店の奥へと消えた。

再び戻ってきたとき、蓮の手はこれまた一冊の本を持っていた。
「後編さ。この『月の夜の二人の旅路』は前中後編の全三部で構成されているのさ」
見ると、来訪者はさも興味ありげに蓮の手の中のその本に目を向けている。
「……そうさね。あんた、この本の中編を探して来てくれないかい?どうにも途中が抜けていたら読む気がしなくてね。あぁ、その本は持っていきな。あんた、その本に惹

かれた≠だろう?そういう曰くのある代物なのさ」
蓮は皮肉っぽい笑みをこぼす。
「本と本は自然と惹かれ合う。そう難しい仕事じゃないよ。……それと、本は後であたしが引き取らせてもらうよ。読むのは勝手だけど、傷はつけないでおくれよ」
頷き、出て行くその背に、蓮は小さく呟く。
「……見つけるだけで終わればいいけどね」


「おや、おまえさん見る目があるね」
翌日、新たな来訪者が手に取ったのは『月の夜の二人の旅路』
その後編であった。

------<本編>--------------------------------------

【物語の冒頭は】

『前編』

 どうしてですか?
 
  どうして私を選んではくれないのですか?
 
  私はこんなにも、貴方を愛しているというのに。
 
  貴方の為ならば、どんな苦しみにも耐えられるというのに 

     ●

『後編』

 僕は、何処で間違ってしまったのだろうか……。
 
  ずっと続くと思っていた幸せが、気づいてみればボロボロと崩れていた。

  何がきっかけだったのか?

  誰が悪かったのか?

  今更そんなことはどうだっていい。

  ただ、

  ただ君さえ傍に居てくれたなら、

  僕は、全てを捨てでも、君を愛したのに……。

  たとえ、『彼女』が何をしようと、

  僕は君だけを守ってみせるのに…… 


【本を手に(前編)】

「…………」
本を手に持ち、考え込むようにセレスティ・カーニンガムは目を閉じた。
「やはり、何も分かりませんね」
手にした本は『月の夜の二人の旅路』の前編である。
しかし、セレスティはなかなか行動に移せずにいた。
「出版社や著者も書いていませんし、情報らしい情報もない。いきなり壁にぶつかってしまいましたね。……ん?」
ふいに気配を感じ、セレスティは後ろを振り返った。
「あんたか?セレスティってのは」
「……キミは?」
そこにいたのは、サングラスをかけた若い男。
「俺は幾島・壮司ってんだ。よろしくな」
サングラスを下にずらし、金色の目を覗かせた。
「あんたの居場所を蓮から聞いてな。ちょいとその本を貸してはくんねぇか?」
「蓮さんから?」
「ああ、どうしても本≠手に入れたいらしくてな。俺も同じ依頼を受けたのさ」
「なるほど。それなら私達はライバル、ということになりますね」
「あ、いやまぁ、そうなんだけどよ。俺には情報がないからな。で、現物を見せちゃもらえねぇか、ってな」
ポリポリと頬をかきながら壮司が言う。
「……残念ですが、手がかりになるようなものは何もありませんでしたよ」
「ん、まぁその辺はあれだ、ちょっとばかり能力を使わせてもらうさ」
言って、今度はサングラスを完全にはずし、胸ポケットにしまった。
セレスティは思案する。
本を読んだだけでは何も得られない。
ならば。
「いいでしょう」
「本当か!?」
「ええ。しかし条件があります」
「条件?」
「手を、組みましょう」
セレスティの出した条件は、壮司を驚かせるには十分だった。
「私の興味は本≠ノあります。正直に言ってしまえば、お金など二の次なのです。ですから、お金に関してはキミの自由にしてくれて構いませんよ」
「おいおい、いいのかよ?そりゃ願ってもねぇ条件だけどよ」
「お互い、このままでは先へは進めませんからね。穏やかに事が済むならそれに越した事はありませんし」
「……分かった、手を組もう。損は無さそうだしな」
「よかった。ではこれを」
セレスティは本を壮司に差し出した。
「んじゃ、早速はじめるか」
言いながらも、壮司の『神の左眼』は既に本の解析を始めていた。
そして────。

『────殺してやるっっ!!!!!!!────』



【本を手に(後編)】

「フゥ、無いデスネ」
都立図書館のパソコンの前、ジュジュ・ミュージーは大きく溜息をついた。
「著者・出版社・後書きやその他一切の情報がこの本には書かれてないデス」
蓮から受け取った『月の夜の二人の旅路』の後編を机に置き、何度も館内の蔵書を検索するが、一向にめぼしい情報はない。……否。
「……隠されてる、って事デスカ?」
そう。情報がないのではなく、何らかの意思によって隠されているのだ。
ジュジュが検索をかける際、月∞夜∞二人∞旅路≠フ四つの単語を別々に検索しても、何一つ引っかからない。
「こんなことって………」
「ありえませんね」
「!!!!!」
突然、背後から声を掛けられ、慌てて振り返った。
よほど集中していたのか、全く気付けなかった。
「この図書館には莫大な数の蔵書があります。今調べた単語ならば、少なく見積もっても、万の結果は下らないでしょう」
声の主は、机に置かれた『月の夜の二人の旅路』に手をかけ、指でタイトルをなぞる。
「どのみち、ここにはこれと同じタイトルの本は置いていませんけどね」
「……ユーは誰デスカ?」
「この都立図書館の司書、綾和泉・汐耶と言います。そして、あなたと同じく、アンティークショップ・レンで依頼を受けた者ですよ、ジュジュさん」
そう言って、汐耶は微かな笑みを浮かべた。
「協力しませんか?本を持つあなたと一緒にいた方が、早く目的の物にたどり着けると思うのです」
汐耶の申し出に、ジュジュは困惑する。
「ユーの話だと、ミーには何のメリットもないネ」
「私なら、今の何も分からない状況を打破出来ますよ」
「信じろと、言うデスカ?」
「信じてもらうしかないですね」
暫く、ジュジュは逡巡した。
そして、
「……オーケー、協力するデス」
「感謝します、ジュジュさん。早速ですが、席を譲ってもらえますか?」
汐耶の言うまま、ジュジュは席を譲る。
「何、するデスカ?」
「この図書館を調べても無駄ですからね、次はこちらを調べようかと」
汐耶は手馴れた様子でマウスを操作し、インターネットブラウザを立ち上げた。
「ネット?」
「ええ。とはいえ、結果は目に見えていますけどね」
言いながらも、汐耶は月≠フ字を入力し検索を開始する。
結果は……………0件。
「やはり駄目でしたか」
「ど、どうするデスカ?」
しかし、汐耶は落胆する様子を見せない。
「だからこそ、私の能力が必要なんですよ」
「能力?」
いぶかしむジュジュをよそに、汐耶は月の夜の二人の旅路≠ニ入力する。
普通に考えて、先ほどよりも文字数が増えているのだから、検索結果が増えることはあり得ない。
しかし、何かが違う。画面を見る限り何の変化もないのだが、確かに何かが違っていた。
そう、感じる。
そして、数秒の間を置き、汐耶はEnterキーを押した。
出てきた結果、それは─────。

『────月宮邸炎上!!────』


【本は導く(前編)】

解析を終えたセレスティと壮司は、夜の街を彷徨っていた。
「あー、くそ!まだ頭がくらくらする!」
頭を振り、叫ぶ壮司。
「ぼやいてる暇はありませんよ」
杖を突き、懸命に壮司の後を追うセレスティ。
「分かってるって」
解析の結果は、二人が想像していたのとは全く異なるものだった。
「ってか、なんださっきのあれは!?あんなもん俺の能力にはねぇぞ!」
「本そのものに何らかの細工がしてあった、ということでしょうか?」
「そうとしか考えられねぇな」
壮司の『神の左眼』が本を霊視的に解析しようとした瞬間、壮司の眼に見たこともない映像が映ったのだ。
「なんつーか、ありゃきつかった。まるで頭ん中に直接映像を流し込まれるみたいで、平衡感覚も侭ならねぇっての」
「洋館と……少女の霊、ですか」
「本≠フ在り処に直接関係があるかは分かんねぇけどな。あんな映像見せられたら、動かない訳にはいかねぇだろ」
壮司が見た映像。
それは、炎上する古い洋館に少女が一人淋しそうに佇む光景だった。
「なんか妙な胸騒ぎがしやがる。何も起きなきゃいいが」
「考えすぎ、ということはないですかね?」
「かもしんねぇ。けど、ほっとくのも寝覚めが悪い」
「それもそう──ん?」
「どうした?」
壮司が、急に歩みを止めたセレスティを振り返ろうとして、気付く。
手にした本が仄かな光を発している事に。
「こいつは」
壮司が言葉を続けるよりも早く、本のページが独りでに勢いよくパラパラとめくれはじめた。
「なっ!?」
そして、本はとあるページを開き、止まった。
そのページは、何の変哲もない普通のページだったが。
ただ一言、心に強く訴える言葉があった。
『助けて』
その一言を二人が確認するのと同時。
何の前振りもなく、二人は世界から弾かれた。


【本は導く(後編)】

「ミーが知りたいのは、月宮邸のあった場所デス。さっさと話すネ!」
ジュジュと汐耶は、場所を図書館の外へと移し、情報収集を続けていた。
検索して出てきた月宮邸とは、150年程前に栄えた名家だそうだ。
とはいえ、後世に名を残してはいないのだから、程度は知れているが。
月宮邸については、ジュジュが『テレホン・セックス』で警察から月宮邸のあった場所を聞き出している。
そのうちに、汐耶はざっと本に目を通していた。
しかし、やはり情報たりうるものは一つもない。
「言い訳はいいから、早く探すデス!!」
ジュジュの怒鳴り声が耳に届く。
150年も前の資料となると、警察でもさすがにすぐには見つからないようだ。
そういう間にも、汐耶はペラペラとページをめくる。
ふと、自分でも無意識に手が止まった。
何の変哲もないページに書かれた、たった一言。
『助けて』
瞬間、世界はその姿を変えた。


【結末は残酷で】

「結局、私では駄目だった」
炎上する館を背後に、私は声を上げる。
「何をしても、彼は私を見てはくれなかった」
流れそうになる涙を懸命にこらえ、言葉を紡ぐ。
「馬鹿みたいですよね。やることなすこと、全部裏目に出て、最後は私だけが悪者になって」
作り笑いは嫌い。
でも今は、今だけは笑っていたい。
「謝りたいって思っても、もう遅くて」
それでも、笑顔が崩れるのを止められない。
「どんなに悔やんでも、取り返しがつかないって分かってるのに。どんなに頑張っても、二度と元には戻らないって分かってるのに。それでも、あの幸せだった日々を取り戻

したくて、でもそれは、彼の幸せを奪うことでしかなくて」
こらえていた涙もしだいに流れ始めてきた。
「今は違うの。今はもう、二人の幸せを願ってる。私が得られなかった幸せを、二人が手に入れてくれたらって、願ってる」
涙が止まらない。笑顔も、もう作れない。
「ごめんね、ごめん。本当にごめん。今更遅いけど、ごめんね。ごめん。ごめんなさい」
後はもう、ごめんしか出てこない。いくら謝っても謝り足りないけど、もうそうすることしか出来ないから。
「ごめんなさい。どうか、どうか最後は、幸せになってね」

そして少女は、館を包む炎に身を投げた。
涙と、優しい笑顔を伴って。


【そして本は】

「あんた達が見たのは、きっと少女の願いさ」
帰ってきた4人を前に、蓮は説明を続ける。
「誰かに自分の本心を託すことで、ほんの少しだけ、自分を許せたんじゃないかな」
そう言って、蓮は静かに微笑んだ。
「ご苦労だったね。報酬はちゃんと払うよ。読みたければ、これも読んで構わないから」
そっと差し出す蓮の手には、『月の夜の二人の旅路』その中編が乗っていた。

あの後、4人は元いた場所に立っていた。
立ったまま夢を見ていたみたいな、そんな感じだ。
肝心の本≠ヘというと、何故か蓮の手元に現れた。
もしかしたら、蓮には分かっていたのかもしれない。
結局、ほとんど何も分からぬままに事は運び、何も分からぬまま終わってしまった。
「なんか、すっきりしねぇな」
「まったくです」
そうぼやく壮司とセレスティ、そしてジュジュと汐耶の顔には、どこか満足気な表情が浮かんでいた。



「…………月の夜の二人の旅路、か。内容とタイトルが噛み合ってないような」
全てを読み終えた蓮は、小さく呟いた。
「もしかしたら、まだ終わってはいないのかもしれないねぇ」

<<END>>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【 0585 / ジュジュ・ミュージー / 女 / 21 / デーモン使いの何でも屋 】
【 1883 / セレスティ・カーニンガム / 男 / 725 / 財閥総帥・占い師・水霊使い 】
【 3950 / 幾島・壮司 / 男 / 21 / 浪人生兼観定屋 】
【 1449 / 綾和泉・汐耶 / 女 / 23 / 都立図書館司書 】


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■         ライター通信          ■
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こんにちは、月夜(つくよ)と言います。
この度は参加して頂き、ありがとう御座います。

さて、まぁ色々と謎が残ってしまったわけですが、これらについては次回で突っついていきたいと思っています。
反省点としましては、キャラを上手く使いきれていないかなぁ、と自分では感じますね。
未熟ゆえに、これからの上達を期待してください。

作中で触れられなかった設定をちょっと書かせていただきます。
少女=月宮家の令嬢 です。
そして、少女の言う彼≠ニは、つまり夫の事です。
あの幸せだった日々≠ニあるように、二人は一度は愛し合っていたのです。
ですが、その夫を他の女に取られてしまった事が、少女にとっての悲劇の始まりだったわけです。
それと、本の著者については、これも微妙に謎なまま次へ持っていこうかと。


●ジュジュ・ミュージー様:
えと、すいません。正直、口調が上手く書けず、ちょっと台詞が少なくなってしまったかもしれません。僕の経験不足でした。
次こそはきっと!ええ、きっと!

●セレスティ・カーニンガム様:
キャラ設定を上手く使えなかったのが悔やまれます。
もっと色々出来そうなキャラなのに、少し地味な役回りになってしまいました。
申し訳ないです。

●幾島・壮司様:
使いやすいキャラでかなり助けられました。
台詞が弾んで止まらなかったりして、抑えるのが大変でしたね(笑

●綾和泉・汐耶様:
司書さんということで、この物語にはうってつけなキャラですね。
比較的、考え込むキャラにしてしまったのですが……あまり設定から外れてなければいいのですが。


それでは皆様、またのご参加お待ちしていますね。