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蛇の帰還
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887 「ヘビのはなし」／little
真っ赤なヘビが出るって、知ってる？
友達がバイト帰りに見て、そのあとすぐに事故って入院したの！
駅裏なんだけど、ほかにも見た人いて、
みんな怪我したり病気したりするんだって！
なんか怖くない？
891 Re:「ヘビのはなし」／トモ
それ知ってます。
新しいビルできたとこですよね。
部活の先輩が見ちゃって、すごい熱出して休んでました。
でも真っ赤っていうよりは茶色っぽいヘビだったみたいですよ。
895 Re：Re：「ヘビのはなし」／さくさく
ネット復帰〜
昨日まで入院してたっす。
駅裏ってマックあるとこ？
だったらその蛇見たかもしんない。
つーか赤じゃなくて真っ黒だったけど、
蛇見たその日に原チャでこけて骨折→入院
原チャで蛇ひきそうになったからさ、
そのせいで呪われたんかなと思ったけど。
「んんー？ ようするに蛇は黒いわけ？」
雫は頬杖をついたまま、ディスプレイを睨んだ。
先週に新規投稿されたこの書き込み。
レスはだ三件だけのようだが、目撃されたという蛇の色が異なっている。
そう考えると、全く関係ない事故や病気が続いただけのようにも見えなくはない。。
「でもなんか気になるんだよね……」
雫の勘は何かがあると告げていた。
すぐにでも調べに行きたいが、今日はほかにも予定がある。
困ったな、と雫は口を尖らせる。
「……誰か調べてくれないかな」
うん、と一人で頷いて雫は立ち上がり、知り合いがいないかとネットカフェの中を見回した。
＊＊＊
「できたよー、これが最近事故が多発してる地域。情報に齟齬があるかもしれないから、一応駅の近くってだけで絞り込んだから、十箇所もあるんだけど」
そう言って雫がシュライン・エマに渡したのは、プリントアウトした近郊の地図だった。
沿線の駅がいくつか丸で囲まれ、数字と住所が印字されている。
「ありがとう。この数字は？」
「緑の数字が、最初の投稿があった日から二ヶ月前の、その駅近辺の月間事故数。赤い数字が、そのあとの一ヶ月の事故数だよ。じゃ、お願いね」
言われて数字を見比べるとすべての地域でここ一ヶ月の事故数が増えている。
しかしその中でも一箇所、倍以上の数字に跳ね上がっている地域があった。
（ここが投稿にあった蛇が出る現場かしら）
インターネットカフェにたまたま居合わせたシュラインは、雫に代わって投稿された『蛇』について調べようと名乗りを上げていた。
「ここなんかが一番怪しそうですね」
後ろからのぞいていた空木崎・辰一が指し示したのも、シュラインが眼にとめた場所だった。
彼もまた、シュラインとともに調査を買って出たのだ。
「そうね、この近辺のもっと細かい地図を見てみましょう」
カフェ内のパソコンに向かい、シュラインは検索をかける。
ほどなくして、縮尺八千分の一の地図が表示される。
同時に別のウィンドウを立ち上げ、その近辺でファーストフード店か新築のビルがないか検索する。
「あったわ」
怪しいとにらんだ地域にはファーストフード店の支店があり、テナントを募集している新築のオフィスビルがあった。
「ではここに向かいましょう」
「ええ、と言いたいところだけどちょっと待って。その前に寄りたい場所があるの」
シュラインは、現場からやや離れた規模の大きい神社に先に立ち寄っていた。
同行していた辰一はここの宮司に挨拶をしてくると言って、どこかへ消えた。おそらく頼んであるものも持ってきてくれるだろう。
（新築のビルと神社、ね）
シュラインはこれまでに得た情報を頭のなかで反すうした。
通常の地図検索ではまだ新築ビルが載っていなかったが、代わりに小さな神社があることがわかった。
そこで辰一が寺社関係者にあたってその神社のことを調べ、蛇神を祀る神社であることがわかった。
そうくれば目迎された蛇と関係があるとしか思えない。
しかし辰一の地元から離れた地域のこと、そう多くの情報を得られたわけでもない。
蛇神をまつる神社であること以外は、普段は無人であることしかわからなかった。
そこで情報収集もかねてこちらの大きな神社に来たのだった。
こちらは社務所もあり参拝客もちらほらと見受けられる。
おそらく目的のものも手に入れられるだろう。
シュラインは一人で境内を見回した。参拝客はいるが、神主や巫女の姿は見えない。
社務所には職員がいるようだが、参拝客の相手をしていて話しかけられそうにない。
どうしようかと再び境内を見回していると、不意に後ろから声をかけられた。
「どうかされましたか？」
振り向くと、白衣と濃紺の袴を身に着けた、壮年の男性が柔らかい表情でこちらを見てくる。
自分が境内の真ん中で立ち尽くしていたことに気付き、シュラインは苦笑いを浮かべた。
男性は物腰も穏やかで、おそらく気配がほとんどなかったのもその所作のせいだろう。
シュラインは改めて男性に向き直り、
「こちらの神主様でいらっしゃいますか？」
たずねると、男性は頷いた。
「禰宜を勤めさせていただいてます」
禰宜とは一般神社では宮司に次ぐ職位だ。
それなら件の神社のことも知っているに違いないと、シュラインは蛇神の神社のことを切り出す。
「あの、駅の裏手に蛇神様をお祀りしている神社があるんですが、あちらはどういった神社なんでしょうか？」
男性は、あそこですか、と頷く。
「あの神社はちょっと不思議な言い伝えのあるところなんです。民話とかに興味はおありですか？」
シュラインが頷くと、男性は簡単にその民話を話してくれた。
悪事を働いていた大蛇が、徳のある僧侶に倒されたこと。
その後大蛇は白い蛇へ生まれ変わり、辺りを守る蛇神となったこと
「もともと白蛇様というのは、商売繁盛のご利益もそうなんですが、無病息災をお祈りする神様でもあるんです。それもあってか、あちらの蛇神様は小蛇を遣わして土地の厄を払うといわれているんですよ」
男性はその神社がある方向を見つめる。
「地域の方はあの神社を大事にしてらっしゃいます。そのためあの近辺に新しいビルが建つと決まったときには、蛇神様の御遣いの道を塞ぐと、だいぶ反対があったようですよ」
「そうだったんですか――」
シュラインは、蛇神の遣いだという小蛇のことが気になった。
掲示板に投稿された記事、あの目撃された蛇がその小蛇だとしたら、その小蛇が穢れ≠竍災い≠ﾆいったものを身にまとっているとも考えられる。
普通に考えれば、その穢れを蛇神が浄化しているのだろう。
しかしここ一ヶ月で事故が増加していて小蛇が目撃されているなら、その浄化がなされていないことになる。
新築のオフィスビルが完成したのも一ヶ月前。
（ならやっぱり――）
シュラインが己の推測を組み立てていると、
「エマさんっ」
声を抑えた、しかし切迫した様子の辰一が駆けてきた。片腕には猫型式神の弟分、茶虎子猫の定吉を抱えている。
不調法に砂利を飛ばすような走りではないが、それでも慌てた様子が見て取れる。
シュラインは眉をひそめた。
「どうしたの？」
辰一はシュラインと一緒の禰宜に軽く頭を下げ、それから男性に聞こえないように耳打ちをする。
「――先にやっていた甚五郎から、異様なものに襲われていると」
「なんですって」
シュラインも色めき立つと、辰一も頷く。
「すいません、僕は先に行きます。例のものはもうすぐ巫女の方が持ってきてくださるので、シュラインさんはそれを受け取ってから来てもらえませんか」
「――わかったわ、気をつけてね」
言うと、定吉が「みゅー」と鳴いた。辰一が苦笑し、すぐに口を引き結ぶとシュラインと禰宜に会釈をしてから走り去った。
その背中を見送って、シュラインは小さく息をつく。
「受け取るのはいいんだけど、あれを持って走れるかしら……」
辰一が駆けつけると、定吉の兄貴分である白黒斑猫の甚五郎が巨大な黒い蛇と対峙していた。
毛を逆立たせ威嚇する甚五郎と、胴回りが三メートルほどの高さに鎌首を持ち上げた大蛇が道の中央でにらみ合っている。
その光景を見てすぐに、辰一は四枚の符を放った。
甚五郎と大蛇を取り囲んで四方位に展開した符は、一瞬光ってから解けるように消える。
人避けの結界に踏み込み、辰一は甚五郎の横に立つ。
腕の中の定吉が「みゅー」と鳴き、甚五郎の隣に降り立った。
「遅くなりました」
「構へん。それより旦那、これはちいと厄介やで」
言われて正面の大蛇を見る。
黒い大蛇は辰一の出現に警戒しているのか、やや身を引いてその口から黒い舌を伸ばしている。
ぬめったような表面は、鱗とは違い粘液のように見えた。
「なんや小っさな蛇がぎょうさんおったんやけど、この黒いドロドロに飲まれてもうた。小っさいのは蛇神はんのお遣いやと思う。黒いんは穢れの塊みたいやけど、中に小っさいのがおる限り、用意には手ぇだせへんで」
甚五郎の話を聞いて、辰一は表情を引き締める。
四神の力で吹き飛ばせばいいかと思ったが、蛇神の遣いが取り込まれているとなるとそう簡単にはいかない。
「仕方ありません、少し手間をかけましょう」
辰一は新たな符を手にする。
何かを察したのか黒い大蛇が大きく口を開け、辰一を飲み込もうとするかのように顔を下げてくる。
辰一は手にした符を大蛇の頭上へと放った。
符が光に包まれて弾け、新たな結界が展開する。
さきほどの人避けの結界と違い、悪しきものを退ける結界だ。
結界内で、鋭い雷光に似た光が大蛇に反応してその身を攻撃する。
大蛇は身を捩じらせて苦悶の様子を表していた。逃れようと動き、見えない壁に当たってはじき返される。
「甚五郎」
辰一が一枚の符を放ると甚五郎は跳ねて口でくわえ、くるりと身を回した。
地面に降り立ったのは、銀色の毛並みの獅子だった。
四神のうち青龍の力をまとった獅子は、逆立った毛並みに小さく稲妻を走らせる。
「祓いの祝詞で小蛇を分離できるかやってみます。できたらすぐに雷撃を」
獅子の姿に戻った甚五郎が頷いて身構える。
辰一はかしわ手を打ち精神を集中させる。
ゆっくりと息を吸い、大蛇を強く見る。
「高天原に神留ります神漏岐神漏岐――」
唱えかけた辰一の眼前で大蛇が眼を大きく広げた。
結界越しに、裂けたような赤い眼が辰一を射る。
辰一は目を見開いた。
（しまっ）
喉がつまり、祝詞が中断される。
大蛇の邪眼に囚われ、体が思う世に動かない。
「旦那っ」
甚五郎の緊張した声に、己の油断を悔いて唇を噛む。
と、軽い足音が脇に立った。
同時に透明な液体が大蛇に降り注ぐ。
大蛇の全身から白い煙が上がり、、叫び声のような濁った呼気の音を立てて仰け反った。
邪眼の束縛から逃れた辰一が横を見ると、やや息を切らしたシュラインが一升瓶を抱えていた。
辰一が宮司に頼んでいた、お神酒の瓶だった。
「間に合ったわね」
「ありがとうございます、助かりました」
礼を言い、辰一は再びかしわ手を打つ。
結界の雷光とお神酒にさいなまれた大蛇が再び眼光を浴びせてくるが、辰一は半眼でそれをかわした。
祝詞を唱える声を響かせる。
「――生れませる祓戸の大御神等 諸々の禍事罪穢れあらむをば――」
祝詞が進むにしたがって、大蛇は身を捩じらせ苦悶の声を上げた。
全身の黒い粘液に穴が開き、中から白い小蛇たちがぼろぼろと落ちてくる。
小蛇が抜けるにしたがって、大蛇の体は縮み粘液の塊と化していく。
「――聞こし食せと恐み恐みも白す」
祝詞を唱え終えたときには、大蛇は黒い粘液と白蛇とに完全に分離していた。
粘液は地面の上で波打ち、小蛇を取り込もうとして結界の雷光に弾かれる。
「甚五郎！」
辰一の声に銀色の獅子が咆哮し、全身の毛を逆立てた。
青龍の力による稲妻が太い柱となって粘液に突き立った。
黒い粘液は一瞬にして沸騰蒸発し、塵となって散じた。
地面に這う小蛇たちを見て、シュラインは考え込んだ。
とりあえず、この蛇たちを神社に帰さないといけない。
どうやって誘導したものかと考えていると、地面に散ったお神酒を、小蛇が舐めているのが目に入った。
（これは、もしかして？）
試しにと、シュラインはお神酒の瓶を傾ける。
数滴地面に落とすと、小蛇が寄ってきた。
シュラインは辰一と顔を見合わせた。
「これで誘導できそうね」
「そうですね――て、すいません、ずっと持ってもらってますよね。僕が持ちます」
言った辰一にお神酒の一升瓶を渡して、シュラインは軽く肩を回した。
さすがに、これを持って走ったのは疲れた
その様子を見た辰一が微苦笑を浮かべて、
「すいません、重かったですよね」
「あ、いえ大丈夫よ。それより、早く連れていきましょう」
辰一が頷き、少しずつお神酒を道に垂らしていく。
甚五郎と定吉の兄弟猫が、蛇が列からはみ出ないように両脇を歩いている。
シュラインは少し遅れて付いていきながら、小蛇たちが誘導されていくのを見守った。
神社の鳥居をくぐると、シュラインを追い越して小蛇たちは拝殿のその更に後ろ、本殿の方へ這っていく。
と、拝殿正面の中央、賽銭箱の辺りに白い球体が現れた。
バレーボールほどのそれは宙を滑ってシュラインたちの前に浮かぶと、不意に捩れ、膨らんで縦に大きく伸びた。
瞬きする間に出現したのは、もたげた鎌首が見上げる高さにある白い大蛇だった。
胴回りは電柱よりも太く、長い胴体は境内の半分を埋めてまだ余っている。
『我ガ遣イガ世話ヲ掛ケタ――感謝スル』
体全体に響く不思議な声がし、大蛇が軽く頭を下げた。
『五角ノ建物ガ出来タノチ、我ガ遣イガ戻ラヌヨウニナリ、穢レヲ溜メテイルノデハナイカト危惧シテイタガ、ソノ通リデアッタヨウダ』
大蛇――蛇神の声音に、憂いの色を感じてシュラインは見上げた。
やはり五角形のビルが原因で、小蛇たちが戻らなくなっていたらしい。
これではまた同じことを繰り替えすだけだろう。
「何か祠のようなものを建ててもらうっていうのはどうかしら」
シュラインの言葉に、辰一も頷く。
「僕もそれを考えていました。このビルは土地の角を緑地にしていますから、それぞれの角に祠を設置しても邪魔にはならないでしょう。気の歪みもある程度修正できるかもしれませんし、なにより小蛇たちの目印になります」
『――世話ヲ掛ケル』
再び頭を下げる蛇神に、シュラインは首を振る。
「本来ならビルの設計者が気をつけないといけないのだし、人間の不始末は人間が取ります」
『デハセメテモノモノ礼ヲサセテモラウ』
蛇神が言うと、その体が波打ち、縮まり、再び白い球体の姿に戻った。
その球体が二人の周りをするりと一周する。
一瞬球体の表面が赤くなりるが、すぐに白色に戻る
『当面ノ厄ヲ祓ッタ。シカシ穢レハ常ニ沸キ出デルモノ。何カアレバマタ立チ寄ルト良イ』
白い球体は一度上下にゆれ、出現したときと同じように拝殿の中に消えていった。
辺りを見回しても、もう小蛇や蛇神の気配もない。
ほう、とシュラインは息をついた。
「とりあえず祠を建てるのが大事かしら」
「そうですね、先ほど立ち寄った神社の方とある程度お話をしていますから、事情を話せばすぐに取り掛かれると思いますよ」
言って辰一は、だいぶ軽くなったお神酒の瓶を軽く振る。
「これ、よかったらいりませんか？ 僕のところも神社ですので、お神酒はあるんです」
「――ありがとう、いただくわ」
事務員をしている興信所の所長に飲ませれば、多少は彼に降りかかる災厄が減るかもしれないと、シュラインは瓶を受け取った。
そして改めて拝殿に向き直り、感謝の意を込めて頭を下げた。
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1925 「へびの話続報」／little
ツリー流れちゃったので新規で！
なんか、へびが出るっていうビルんところに祠みたいのができたって！
そしたら事故る人とかいなくなったんだってさー
たたりとか、そーいうのだったのかな？
新規投稿の記事を見て、雫は「よし」と小さな声で頷いた。
事件の流れは全部教えてもらったし、記録もとったし、無事解決もしたようだ。
雫は記事を閉じ、また新たな事件はないかと新規投稿を探し始めた
了
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
【0086／シュライン・エマ（しゅらいん・えま）／女性／26歳／翻訳家＆幽霊作家＋草間興信所事務員】
【1415／海原・みあお（うなばら・みあお）／女性／13歳／小学生】
【2029／空木崎・辰一（うつぎざき・しんいち）／男性／28歳／溜息坂神社宮司】
【2557／尾神・七重（おがみ・ななえ）／男性／14歳／中学生】
※整理番号順
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■ ライター通信 ■
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初めまして、ライターの南屋しゅうです。
ご参加いただきありがとうございました。
今回は年長組、年少組で描写をわけましたので、
他の方のノベルも読んでいただけると、
また違った視点で楽しんでいただけるのではないかと思います。
ライターとして初めてのお仕事で、至らぬところもあるかと思いますが、
楽しんでいただけましたら幸いです。
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