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<東京怪談・PCゲームノベル>


迷子の小鳥

「確かこの通りを曲がると……あ、ありました」
 黒い皮の学生鞄に、少し古風なセーラー服の上から可愛らしい黒のハーフコートを羽織った少女が目当ての店に飛び込んだ。
「こんにちは!」
 この間は、占い師さんと間違えてしまいましたが今日はアンティークショップの客として来ました♪
 今時の中学生の海原みなもにとって無縁な場所にも見える店には、先日と変わらず落ち着いた空気が流れていた。
「いらっしゃいませ」
 みなもと入れ違いで、外に出ようとしていた黒髪の長身の女性がふわりと微笑んだ。
「私は所用で、少し席を外すがゆっくりしていかれるといい」
 その後から長身の男性も店主の後を追っていくが、こちらはみなもに一瞥をくれただけであった。

 みなもの来店した気配に、カウンターの上で惰眠をむさぼっていた黒いものがゆっくりと片目を開けた。
『うぬ…何時ぞやの綿津見の娘なのである。して、その後これは出来たであるか?』
 これ、といって右足の一番外側の指を立ててみせる。
「ま、まだです」
『そうなのであるか?出会いはすぐそこに落ちているやも知れぬぞ」
 真っ赤になって慌てるみなもにひょっひょっひょっ、と奇妙な笑い声を立ててからかう。あいも変わらず惚けた爬虫類であった。
「シン様、私も春日様のお手伝いに参ります……あまり、お客様をからかわないで下さいね」
 慌しく、ボレロを羽織ながらぱたぱたと奥から出てきた、店員らしき少女も「ごゆっくり」とみなもに告げ表に出て行った。

「何かあったんですか?」
『今年の歳の神がまだ訪れてなくての、流石にそろそろ遅すぎるということで主殿と小娘が探しにいったのである』
「としのかみですか?」
 馴染みの薄い言葉にみなものは首を捻る。
『本来ならば正月に迎えるものでの…この店ではその年の干支の姿をした神が持ち回りで、年明けを告げ祝いに来るのである』
 儀礼的なものとはいえ、流石に1月も終わろうとしているこの時期まで来ないのは心配である。
「今年は…酉年ですから……」
 大鷲とかロック鳥とかだったらどうしましょう。
『流石に、店に入らないサイズのものはこない………はずなのである』
 伝説上の巨鳥を思い浮かべるみなもにイグアナが横から口を挟むが、なにやら無言の間が怪しい。
「……分かりました、私もお手伝いします!」
 困っている者を頬って置けない質なのか、みなもはぐっと拳を握り宣言した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 どこから探していいのか分からないという、みなもの様子に短い足で眉間にあたる部分をおさえイグアナは溜息をついた。
『仕方がないから、我が案内するのである』
 みなもの肩に乗ったシンの案内するとおりに進むと、程なくして小さな公園についた。
「あら?シン様……そちら方は……」
『綿津見の娘なのである』
「私、海原みなもっていいます」
 先ほど店を飛び出していった少女が、木立の影から出てきて二人に声をかけた。
「先ほどは失礼いたしました、私はルゥと申します」
 ガラス玉のように紅く透き通った大きな瞳を細め、スカートの端をちょんとつまんで少女が軽く膝を曲げた。
「鳥さんは見つかりましたか?」
「残念ながら……」
 ルゥが首を振る。
 やっぱり、どこかで虫取り網を買って来た方がいいでしょうか……
「網で宜しければ、ここにございますわ」
 みなもの呟きにごそごそと、小さなポシェットを探った、少女の手にはいつの間にか子供が使うような柄の長い虫取り網が握られていた。
「他にもこのような物も在りますけど……」
 すずめを捕まえるための、霞網や鳥もちの詰まったビンなどが次々に出てくる。その他にも、カラスの人形や目玉のついたボードなど明らかに違う用途のものも混ざっている。
「すごいです!」
 これだけあればきっと鳥さんを捕まえられますね。
『捕まえる……ではなく……探すであったはずなのである……」
 ただ一人冷静な、イグアナの嘆きはいろいろな道具を前に嬉々としている少女二人の「鳥さん捕獲大作戦・作戦会議」の前に黙殺された。

「やっぱり……鳥さんを捕まえるのには……」
「それしかありませんですわね」
 ひそひそと、夕闇迫る公園の滑り台の下で話し合う少女達の手には、大き目のざると紐がつけられた棒。そして少量の小豆。
『まさかとは思うが…主ら…それで罠を作るつもりであるか……』
 既に呆れきったイグアナは暇そうに滑り台の上で、尻尾をぷらぷらさせなが短い腕で頭をかかえる。
「これは、日本古来より、伝わる由緒正しい鳥さんの捕獲方法です」
 胸をはるみなもの隣で、ルゥも大きく首を縦に振る。
『……もう、良いのである……』
 好きにせい。本気でざると棒と紐で鳥を捕まえる気になっている少女達にシンは溜息をついた。
 以外に常識を愛するイグアナも探している相手が1月近くも役目を忘れている相手だということを忘れていた。

 楽しそうに、二人でざるを伏せ、棒に立てかけ地面に小豆を蒔く。紐の端を握るのはルゥ。みなもは虫取り網を握り締めて臨戦態勢をとっていた。
 待つこと暫し、羽ばたく音がした後におそるおそる、ざるの下に蒔かれた小豆を見つめごくりと喉を鳴らす影。
 緊張がその場を走る。
「今です!」
「はい!!」
 ルゥがすばやく紐を引き、みなもが網をざるの上からかぶせた。
「捕まえました!」
 網の中のざるの中には鶏ほどの尾の長い白い猛禽が入っていた。
「何と私は不幸なんでしょう〜」
 小豆を啄ばもうとした、猛禽が嘆きの声を上げる。
「道に迷い、息子ともはぐれ、やっと食べ物にありつけると思ったら……非道な人間の手に捕まるだなんて……きっとこのまま剥製にされて売られてしまうのですねぇ〜」
 少々芝居がかった調子で、すすり泣く。被害妄想が強いようだ。
「あのぉ、貴女が今年の黄昏堂の年の神担当の方ですか?」
 そぉ〜っと、ざるの中の鳥の様子を伺いながらルゥが声をかける。
「はぃ〜確かに私が今年のこの一帯の担当を仰せつかりました。白鳳の連でございます〜」
 ぽむっと、白煙が上がり、白い猛禽が白い翼を持つ小柄な女性の姿に変わる。
『今年担当の年の神も見つかったのだし、一旦店に戻るのである』
 流石に爬虫類の身には日没後の寒さが堪えるのか、イグアナがみなもの肩にするするとよじ登り主張した。
「でも、私の息子が……」
「春日様も探しに出ていらっしゃいますし、きっとすぐ見つかりますわ」
 項垂れる翼の女性の頭に乗っていた、ざると網を取ってやりルゥが肩を抱き促した。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 アンティークの小さなシャンデリアに明かりがともされ、黄昏堂の店内は軟らかい光に満たさていた。古めかしい薪ストーブに火が入れられ、部屋に暖かく居心地の良い空気で満たす。
「どうぞ、お召し上がりください」
 みなもの前に、可愛らしい塗り椀が差し出される。
「あ……お汁粉だ」
 得てして、みなもくらいの年頃の女の子は甘いものが好きなものである。みなもも嬉しそうに添えられた箸を取り上げた。
 暫くして、再び店の扉が開いたとき、それまで沈んだ顔で暖炉の傍に置かれたいすに腰掛けていた連が、弾かれたように顔をあげた。
「翼!」
「母ちゃん!?」
 先ほど出て行った店の主に伴われて入ってきた、少年にかけより抱きしめる。
「母親の方を見つけてくれたか……」
「はい、こちらのみなも様と一緒に」
 疲れきった顔の店主と、金色の髪の青年の前にもルゥが椀を置く。
「手伝ってくださったのか」
 申し訳ないことを……
 店主が丁寧に頭を下げた。

「それでは、お役目を務めさせていただきます」
 やがて赤い翼をした少年の腕を引き連が膝を折った。
「よろしく頼む」
 やっと新年が迎えられると春日が苦笑する。
 五色の紐がつけられた鈴を手に、白い翼と黒い翼の神鳥が舞う。
 幻想的なその演舞にその場にいた者たちは、中庭の小さな石舞台の上の舞を見入っていた。




【 Fin 】



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


【1252 / 海原・みなも / 女 / 13歳 / 中学生】
【4345 / 蒼王・海浬 / 男 / 25歳 / マネージャー 来訪者】

【NPC / 春日】
【NPC / シン】
【NPC / ルゥ】


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■         ライター通信          ■
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海原・みなも様

おまたせしました。ライターのはるでございます。
アンティークショップ(?)に再び足を運んで頂ありがとございます。『一人での留守番は嫌である』と(自称)イグアナが駄々をこねたせいで、イグアナ付きでの鳥さん探索となりました。
店員と二人で少々暴走させてしまいましたが……これに懲りずまた遊びに来てくださいませ。

御参加ありがとうございました。