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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


■魂の求める行方■

 ネットサーフィンをしていた瀬名雫は、ふとその手を止めた。
「このなりチャ……今、面白そうな話題で盛り上がってるなあ……」
 なんでも、偽造の人格───所謂「キャラクター」を作ってそれになりきり、遊ぶチャットなのだが、その中でも仲のいい何人かの中で起きた出来事である。
 結構大きななりチャで、オフ会も年に二度ほど行われている。つい先日のオフ会で、「それ」は起きたのだという。
 つまり───概要は、こうだ。

1.オフ会では特に何事もなく、普通に、喫茶店で楽しい話をしたり、カラオケに行ったり、旅館で(無論男女別々の部屋ではあるが)泊まったりもした。写真も当然撮ったり、それは楽しいものだった。
2.オフ会の解散時、集まったメンバーのうちのひとりが、元々の霊感系能力もあったため、「メンバーが増えている気がする」と言い出した。
3.その発言により、メンバー全員は自分自身やお互いを確認したが、確かに「ひとり増えている」感じはするのだが、全員が全員のことを知っている。誰が「増えた」のか不明である。
4.その後、何事もなく今に至るが、依然として「最初の発見者」であるメンバーのひとりをはじめ、皆も「その違和感」を感じずにいられないという。
5.そのオフ会以来、そのサイトで突然死した人間や事故に遭った人間が突如増え始めた。

 掲示板でも、話題になっていた。
「増えた気がするって、どーゆーことだろ? それに、突然死人や事故に遭う人間が増えたとか……不思議なことが世の中いっぱいだねぇ」
 無論、好奇心旺盛な雫がのらないわけはない。
 知らず、カタカタと「調査者募集」の文字を打っていた。



■Episode 0.0■

 ───神様。
 どうしてわたしばかりが。
 どうして。
 ただ、
  ───人を愛しただけなのに。



■Episode 1■

 ジュジュ・ミュージーは、大抵の依頼ならば案外すんなり引き受ける。
 地回りのヤクザと交流があった彼女は、そのヤクザの幹部の一人から、「息子が件のなりチャの参加者だから調べてほしい」と、報酬つきで依頼をされ、今やっとそのなりチャの名前を突き止めたところである。
 今彼女がいるのはネットカフェだったが、周囲の音楽より自分の好きな音楽を聴きたかったため、ヘッドフォンを持ち込んでいた。早速突き止めたなりきりサイトにアクセスしようとしたその時、とんとん、と肩を叩かれた。
 振り向きヘッドフォンを取ると、草間興信所でもお馴染みのシュライン・エマが瀬名雫と一緒に立っていた。
「シュラインも依頼参加?」
 尋ねると、
「そう。あと、こちらの方も」
 と、雫に手を引っ張られて品のよい鼻梁の整った顔立ちをした青年が「初めまして」と手を差し出してきた。
「一色・千鳥(いっしき・ちどり)と申します。今回は一緒のご依頼ということで、お世話になります」
 聴くと、若くして小料理屋の主人である彼がいつものように営業していると、お客の一人から「最近娘がヘンなものにはまっていて、心配で」と相談を持ちかけられたのだという。
 事情を聴き調べた結果、この辺りで一番大きなネットカフェであるゴーストネットOFF、つまりここに辿り着き、正月に一度会っているシュラインと偶然再会を果たしたというわけである。
 シュラインはシュラインで、雫からメールをいつものようにもらって、推測しつつここに来たらしい。
「さぁて、この中でこの今話題のなりチャサイト、『魂の晩鐘』に入ってみるってひとはいる?」
 雫が尋ねると、三人とも潜入捜査をするつもりはないようだった。
「ミーはもう、『魂の晩鐘』の管理会社に電話して、出た会社員に『テレホン・セックス』を憑依して顧客データを入手したヨ」
 ジュジュは千鳥と握手を終えた後、動いているカフェの貸し出し用プリンターを、くいと親指で指し示す。
 その後、オフ会を企画した人間を調べてまたデーモンで憑依し、参加者名簿をHN(ハンドルネーム)のものだけでも入手し、顧客データと照らし合わせ、誰が出席者か特定する予定だという。
「私はチャットに入ることは致しませんが、チャット参加者の背景をモニタから読み取ってみます。そして様子を見て紫藤さんと接触をし、その背景や起こった事象を読み取ってみます。事件に関して思うところは、やはり、増えたと言う誰かが、あの世から呼んでいるのでしょうかねぇ……」
 とは、千鳥。
「色々憶測は出来るけれど」
 シュラインが、纏めていた考えを口に出す。
「サイト内でのオフ会後の死亡者や事故者について履歴等から辿ったり、聞き込みをしたり、住所やキャラ設定等に何らかの接点・類似点がないかどうか調べてみるわ」
「紫藤くんなら、もう呼んであるよ」
 雫が軽い調子で、一角でチャットをしていたらしい少年のところへ行き、「いいからいいから」と何か言ってからまた戻ってきた。
「紫藤くん、つまりチャットの参加者が『普通の状態』の時に調べたほうがいいかと思って、挨拶にくるって言われたけどいいって言っちゃった。いいよね?」
 三人はそれぞれに頷く。
「よぉし、じゃ、調査開始ぃ! あ、あたしはちょっと寄るとこあるから、なんかあったら携帯で呼んで!」
 物凄い速さで三人に写真つき名刺を配り、「じゃーねー」と出て行く雫。
 そして三人は、其々にネットカフェの別々の場所を取り、調査を始めることになった。



■Episode 0.000■

 ───いるの。
 わたしは、確かにこの世にいるの。
 だって、
  ───愛しているのだから。誰かを愛し、愛されている人間が死ぬわけが、ないのだから。


■Episode 2■

 ジュジュは顧客データとオフ会参加者のHNとを見比べていた。オフ会参加者は、全部で13人。そのうち3人は死亡、一人が事故で入院している。
 これで「一人増えた」気がする、ということで本当に増えているのなら、14人ということだ。
 彼女はいつものように『テレホン・セックス』を使うため、取り出した携帯で雫から聞き出していた彼の電話番号を見、紫藤・陽志に電話をかけた。見える範囲にいる彼が、チャットに入り込んでいたのが暫くしてからやっと気付いたように携帯を取り出し、耳に当てた。ふと、彼の身体が固まる。
 デーモンが憑依した。これで彼の脳の記憶中枢からオフ会の記憶をダウンロードしようというのだ。最初の参加者の記憶とオフ会名簿を照らし合わせ、オフ会の最後、途中で帰った参加者を抜かし人数が「増えた」段階の参加者とオフ会名簿とを見ればいい。
 陽志の記憶を見ながら、ジュジュは何事も見逃さないように神経を集中していた。



 見るだけなら何もないのに、何故一度でも参加した人間が、事故に遭ったり死にまで至ったりするのだろう。
 シュラインはマウスを動かしつつ、一つの仮説を立てていた。
(オフ会に集まった人に死期の近い人がいて、その気配を紫藤くんが気付き、その人がオフ会語に亡くなっても死後もキャラで遊びたいと自分のキャラと縁の深かった人達を誘い込み、それが死傷事故に繋がっているんじゃないかしら)
 そう考えると、増えた人物はいわゆる「死神」かも、と思う。
 背後関係を併せて雫の伝手も辿り、最初の死亡・事故者について自分のことやこの件のオフ会参加者なのかどうか、明らかに動かせない、出来るはずのないキャラが「魂の晩鐘」で遊んでいたことがないかどうか、ネットで出来る限り調べてもみた。
 最初の死亡者はオフ会参加者だったが、明らかに動かせない等のキャラが「魂の晩鐘」で遊んでいるということはないようだ。
 サイトの掲示板等を、細かくシュラインはスクロールしては読んでいく。
 ───ふと、その手が一つの記事で止まった。

 ▲記事NO.100561/HN:シオミ・レイPL/タイトル:ねえ知ってた?
   ちわ! いつもウチのシオミが遊んでもらってます! シオミPLです! ところで、網谷(あみや)・ワカさんのPLさんて、実は御堂(みどう)・カオルPLさんのこと好きって知ってた? 今度網谷PLさんもオフ会行くじゃん? それでその二人、デキちゃったりしてな!

「……これって」
 たまに、PLの名前も公開している者もいる。紫藤・陽志もその一人だ。そして、御堂・カオルというキャラを作って遊んでいたのは陽志その人である。
 何か、引っかかる。
 その記事にはたくさんのレスがついていたが、オフ会後は網谷・ワカというキャラが「動かされていた」かどうか等そっちのけで、死亡・事故者の話題で持ちきりになっていた。
 シュラインは「魂の晩鐘」登録PCをプリントアウトしていたが、席を立ち、プリントされてきたものから片っ端に「設定の共通点」を探し始める。相関図等も載っていたから、登録PCはそれで絞り込んでプリントアウトしていたので発見は早かった。
「全員、同じ架空の学校の生徒や教師だわ」
 死亡した人間が使っていたキャラも、事故に遭った人間のキャラも。網谷・ワカと御堂・カオルは同級生という設定だったが、こちらも同じ学校の生徒ということになっている。
 急いで席に戻り、ウラワザを使ったりしてみるが、キャラの履歴等が登録キャラ数が多すぎて出てこない。待ちきれないといった風にシュラインは携帯を取り出し、雫に電話をかけた。ここまできたら、あとはネット世界に詳しい雫なら友人知人の域も幅広いし、分かるだろう。
「あ、もしもし。雫ちゃん? 聴きたいことがあるの」
 シュラインは、もしかしたら、と切羽詰った声で口早に出た相手に話しかけた。



 千鳥は陽志に許可を得て、隣の席に座ってチャットをするさまを見ていた。
 陽志はチャットが楽しいようで、千鳥の視線も特別気にならないようだ。
 そっと瞳を閉じ、陽志の向かっているモニタに集中する。参加者の背景───なんと多い気配だろう。千鳥の意識をも呑み込んでしまいそうだ。
 更に集中すると、自然と意識が陽志のほうに向けられた。
(───?)
 こんなことは、非常に珍しい。千鳥自身の意志ではなく、勝手に意識のほうが「引っ張られる」なんて。
 こういう時は、危険も多いが「当たり」な場合が多い。一瞬迷ったが、千鳥は腹を決めた。引っ張られるままに意識を任せる。
 図らずもそれは、後ほど読み取ろうと思っていた、オフ会での陽志の記憶に結びつくようだった。
 深夜の旅館の廊下が見える。部屋の前だ。だが、陽志の向かい合っている相手の顔がよく見えない。ノイズがかかったかのように、「視界」がブれていることもあった。
<───き>
<───く……>
<でも───……ゃうの───>
 陽志の心臓がドクンと音を立てる。千鳥のこめかみを、冷や汗が滑り落ちていく。───危険信号だ。



 ジュジュもまた、計らずも千鳥と同じように、デーモンを憑依したのにうまく記憶のダウンロードが出来ないことに苛々していた。
 手紙で呼び出された陽志。深夜、部屋の廊下の前。だが、何故その部分にだけまるでノイズがかかったようにうまくダウンロードできないのだろう?
 苛々しながら、ジュジュは陽志のほうを見る。ハッと立ち上がった。
 陽志の隣の席にいた千鳥が、ガタンと崩れ落ちたところだった。



■Episode 0.000000...■

 ───もうすぐ、死んじゃうって。あのオフ会参加の表明してから、お医者さんに聞かされたの。
 ねえ、紫藤くん。
 ───お互い好きって分かったのに、……なのに発作で死んじゃって、でも死神が最期のお願いをきいてくれたのに。
 ……どうして、……友達だったチャット仲間を殺したりする能力、持っちゃったの?
 ───これは、……罰、なの───?



■Episode-Love Phantom-■

 千鳥が崩れ落ちたのは、シュラインの席からも分かった。ちょうど情報を聞き終えたので雫との電話を切り、ジュジュと共に急いで千鳥の元へ行く。
 デーモンの憑依から抜けた陽志が、驚いたように千鳥を見下ろしている。
「千鳥!」
「千鳥さん!」
 ジュジュは声をかけながらも、陽志のほうを抜かりなく警戒している。
 シュラインに抱き起こされる形になった千鳥は、なんとか口を開いた。
「……違います……私は『危険に突っ込んだからこうなっただけ』です……」
「何を言っているの?」
 眉をひそめるシュライン。
 千鳥が震える指で指し示した「それ」に、逸早くジュジュが気付いていた。
 天井辺りに渦巻くどす黒い影に、二つの不気味な赤紫の瞳。そして笑うように大きく開かれた口、骸骨のように細い手に持った大鎌。───死神だ。
 そして、その死神は───陽志の隣、千鳥とは反対側の席に座っていた女子高生の頭上に陣取っていた。
「デーモンのダウンロードを邪魔したのは、コイツネ」
 ジュジュが、所持していた銀製で梵字の刻印のある魔弾を装填した拳銃を構える。
「待って」
 シュラインが、彼女を制した。
「その女の子に死神が憑りついてるのよ。そしてその女の子は───多分もう、『身体は死んでいる』わ」
 千鳥が、なんとか戻ってきた体温と共に身体を起こす。
「驚きました……その少女の身体ごと、紫藤さんの体内に入っていたのですから───」
 それを、千鳥が危険信号と感じた時点で、「ギリギリで大丈夫」と判断して能力で「手元に引き寄せた」のだ。
「雫ちゃんに聞いたの。陽志くんが幹事をしたそのオフ会で、途中で帰った人はいなかったかどうか」
 シュラインの言葉に、
「ミーの調査では途中で抜けた人間に女性はいなかったヨ」
 と、不審そうに眉をひそめるジュジュ。その彼女を見上げ、千鳥が立ち上がるのを手伝いながら、シュラインは続けた。
「データではそうでしょうけれど、陽志くんがオフラインの友達、『魂の晩鐘』には参加していない友達にだけ話していたことがあるの。陽志くんだけが知る、陽志くんだけしか知りえない、『途中で抜けたオフ会の参加者』のことをね」
 それを雫ちゃんの人脈で急いで聞いてみてもらったの、と言う。
「どういうことヨ?」
 ジュジュの視線が、陽志に突き刺さる。ウソを言ったのではないか、と疑惑の瞳に陽志は意を決したように顔を上げた。
「俺は───ウソは言ってない。ただ、言ってしまうと、『複数の人』に真実を言ってしまうと───『彼女』も消えてしまうから。本当に消えてしまうから。だから、言えなかったんです」
 でも、と陽志は千鳥によって引き出された「彼女」を見つめる。少女は無表情にただ、涙を流しているだけだった。
「でも、……『彼女』ももう分かってると思います。───どの道、このままじゃ……いくら身体に『死んだ後でも魂を入れることが出来ても』……祈った死神の操り人形になるだけだって」
 そして、陽志は告白した。ただ一人にしか言ってはいけないという、真実を。同じ学校に通う親友にしか言っていなかった、真実を。


 陽志はチャットをしている間、メールのやり取り等も含めて網谷・ワカというキャラを作った少女、網谷・芽衣(あみや・めい)と好き合うようになった。一年、二年とやり取りが続くと、将来は同じ大学にとか、大学ではどの専攻とか、卒業したら……という話にまでなり、それは確かに愛と呼べた。
 だが、ネットの噂等で「駄目」になってしまう恋愛が多いことも知っていた二人は、誰にもそのことを秘密にしていた。ただ年に二度は行われるオフ会で会っては普通を装って、それでも楽しかった。
<好き>
 改めて、そう物悲しく言われたのは、最期のオフ会。深夜、「いつものように」手紙で呼び出された、彼女の部屋の廊下の前だった。
<俺も好きだよ>
 どうしたの、という意味もこめて答えた陽志に、芽衣は言ったのだ。
<このオフ会に来る前に……お医者さんに言われちゃった。もう、もたないって。わたしの身体>
 芽衣が病気を持っていることは、承知の上で愛したのだ。元より、愛や恋は考えてするものではない。だが、陽志にその告白は衝撃すぎた。
<もつよ、大丈夫だって>
 力強く言う陽志の声に、芽衣は泣いた。
<でも、……死んじゃうの>
 そして運が悪すぎたのか、死神の悪戯か。
 本当にそこで発作を起こし、芽衣は死んでしまったのだ。
 芽衣の身体を抱き抱えて泣く陽志の前で、だが何故か芽衣の身体は彼の身体に消えるように「吸収」された。
 陽志の「中」で、彼女は言った───。
 最期のお願いとして、陽志の身体に棲み、陽志が死ぬと同時に死ぬことを死神に望んだのだ、と。
『同じ瞬間に死ぬこと』。
 それは、愛し愛される者にとって、先立ってしまう夫や妻を持つ者にとって、恋人達にとって、願って当然とも思えた。
 そして陽志達もまた例外ではなく、その約束をしていた。それを、芽衣は死神に頼んだのだ。
 もっとも、陽志が他の者を愛するようになれば自然と芽衣の魂と身体は死神に狩られ、すぐに天国へと昇ってしまう哀しいものだったのだが───。
 それから芽衣は陽志が寝ている間に、死神に操られて、悪戯のようにチャット仲間を殺したり事故に遭わせたりするようになった。それも陽志と芽衣の苦悩の一つだった───。


「ユーは最低の死神ダネ。大体なんで『魂の晩鐘』の参加者だけを狙うのサ?」
 ジュジュが拳銃を構えた格好のまま死神を睨みつけると、死神は喉の奥から掠れたような笑い声を出した。
<……俺も……昔……死神使いのキャラを使って遊んでいた……死んだら願いどおり死神になれた……>
「雫ちゃんが言ってた、もう一つのこと───これだったのね。昔死んだ『魂の晩鐘』の参加者の中で、殺傷事件を起こした大学生がいたって」
 シュラインが、唇を噛み締める。
「恐らく、紫藤さんが『一人増えている』、と感じたのは本当だったのでしょう。それが死神と分かった時にはオフ会のほかの皆さんも感じ始めてしまっていた───違いますか?」
 しっかりと立ち上がって、千鳥が死神を冷たい瞳で見上げながら陽志に確認を取る。目の端に、こくりと頷く陽志の姿を認めた。
 そして陽志は、じっと、涙を流す恋人を見つめ、抱きしめた。
「彼女を……芽衣を。
 ───解放してあげてください」
 シュラインとジュジュ、千鳥の視線がそれぞれ交錯する。三人ほぼ同時に頷き、ジュジュの拳銃が吼えた。


■Epsode ...........■

 ───ごめんね……みんな、くるしめて。
 ───陽志くん、わたし、お願いする相手、間違えてた。
 本当は、
  ───ほんとうにお願いをきいてくれるのは、……かみさま、……だった、よね……。



■Last Epsode■

 陽志が使っていたキャラというのが、学校の生徒ではあるがクリスチャンであり、チャットでいつも芽衣のキャラと共に学校帰り、オフラインで出来ないかわりに、チャットでいつも教会に寄っては『死ぬのなら、同じ瞬間に』と祈っていたことが彼の告白で分かった。
 あの後、銃声でしばらくの間ネットカフェは大騒ぎになったが、死神は最低最悪の下級だったためか、ジュジュの用意していた銃弾にあっさりと当たり、微塵になって消え失せた。
 同時に、芽衣の身体も陽志に抱きしめられたまま、一瞬星のようにキラキラと散って光り、消えた。
 芽衣の家では、行方不明の捜査願いを出そうとしていたところだったのだが、シュラインやジュジュ、千鳥の報告で、最初はなかなか信じなかったが、「そういえば時折、自宅のパソコンあてに芽衣からのメールが届いてたわ」と母親が泣き崩れた。
 最期のメールは、ちょうどジュジュが死神を消し、芽衣もまた消えたその瞬間だった。

 ───お父さん、お母さん。芽衣は天国にいけるの。やっと、いけるの───

 時々陽志の身体から自宅にメールを打っていたのだろう。最期のメールだけが、そのたった一行だけだったという。
「なんとか、ちゃんとしたお墓を作ってほしいですね」
 帰り道、千鳥が、まだ少し凝る肩を片手でもみながら呟く。
「大丈夫よ、武彦さんあたりに頼めば、きっと」
 シュラインが、怪奇関係の「その手の後始末」には慣れている、恋人でもある草間興信所の主の顔を思い出しつつ、そっと微笑む。
「お墓ができたら、墓参りに行くノ?」
 ジュジュが聞いてきたので、シュラインと千鳥はちょっと顔を見合わせてから、
「もちろん」
「そのつもりです」
 と其々に答えた。
 案外そういうことをしたくても出来なさそうなジュジュの返答を待っていたシュラインは、ちょっと口元を綻ばせた。
「ジュジュさんも、来る?」
 ジュジュは、視線をそらすように青空を見上げた。
「気が向いたらネ」
 その様子がなんだかおかしくて、千鳥もまた微笑みながら空を見上げる。
 あの空に、哀しみも溶けていけばいいと思いながら。


 陽志のパソコンにもまた、一通のメールが届いていた。

 ───おもいで・いっぱい・ありがとう
 ───しあわせ・だから・あんしんして・ね
 ───だいすき・だよ
 ───さんじ・くん───



《完》
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0585/ジュジュ・ミュージー (ジュジュ・ミュージー)/女性/21歳/デーモン使いの何でも屋(特に暗殺)
0086/シュライン・エマ (しゅらいん・えま)/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
4471/一色・千鳥 (いっしき・ちどり)/男性/26歳/小料理屋主人
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■         ライター通信          ■
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こんにちは、東圭真喜愛(とうこ まきと)です。
今回、ライターとしてこの物語を書かせていただきました。去年の7月20日まで約一年ほど、身体の不調や父の死去等で仕事を休ませて頂いていたのですが、これからは、身体と相談しながら、確実に、そしていいものを作っていくよう心がけていこうと思っています。覚えていて下さった方々からは、暖かいお迎えのお言葉、本当に嬉しく思いますv また、HPもOMC用のものがリンクされましたので、ご参照くださればと思います(大したものはありませんが;)。

さて今回ですが、何故かスターウォーズが頭の中に浮かんでしまい、ギャグではなく使えそうだなと思いつつ書いていたら、こんな感じの形態になりました。なんとなく、「0」の無限大というのを章のタイトルに使いたかった、ということもあります。
「同じ瞬間に愛する者と死ぬこと」は、わたしがかつて願ったことでもありました。本当に、愛する人に先に死なれるというのは、つらいことです。遺していくほうもまた、どれほどつらいでしょう。今年、新年が明けて暫く経ちましたが、また「先に逝ってしまった早すぎた愛する人達」の命日がやってくるな、とぼんやりと思いながら書いていました。
皆さんのプレイングもそれぞれにいいところをついてきてくださいまして、とても筋書きを考えやすかったです。有り難うございますv
また、今回は御三方とも文章を統一させて頂きました。

■ジュジュ・ミュージー様:いつもご参加、有り難うございますv 今回は、「死神」でなくてもジュジュさんなら躊躇なく、色々な意味で銃の引き金を引いたとは思いますが、もしそんな展開になったら、他の皆さんの意見も聞いて渋々他の手に変えるのかな、と、ジュジュさんの設定を改めて見直しながら書いていました。どうも、わたしの中でのジュジュさんという方は、「ちょっと照れ屋で冷たい面が多いけど自分の『何か』に当てはまるものには暖かい」という印象がありますが、今回は如何でしたでしょうか。
■シュライン・エマ様:いつもご参加、有り難うございますv プレイングのあちこちに散りばめられた推測が、半分以上ビンゴだったのでさすが草間興信所の事務員さんの経歴は伊達じゃないなと思いました。本当は今回、ラストに草間氏にも登場してもらう展開もあったのですが、こちらのほうがいいかなと思いまして、シュラインさんの発言だけにとどまりましたが、今回は如何でしたでしょうか。
■一色・千鳥様:お正月以外の集合型ノベルでは初のご参加、有り難うございますv 今回は、千鳥さんの持ち味をどう生かそうかと考えつつ、ちょっと危険な目にも遭っていただいてしまいましたが、その後お料理の腕にまで響かないかどうか心配です。「チャットに入らない」というのは賢明な判断だと思いました。もし入っていたら、の場合もこちらで考えていたので、内心冷や冷やしていましたが、如何でしたでしょうか。

「夢」と「命」、そして「愛情」はわたしの全ての作品のテーマと言っても過言ではありません。今回はその全てを入れ込むことが出来て、本当にライター冥利に尽きます。本当にありがとうございます。このノベルを書いて、改めて、「遺すものと遺されるもの」のことを考えていました。突き詰めてもたどり着くことのない永久課題の一つなのかもしれません、少なくともわたしにとっては(笑)。

なにはともあれ、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
これからも魂を込めて頑張って書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します<(_ _)>

それでは☆
2005/01/25 Makito Touko