コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


Survival snowball fight

0.Strategy Request

「良いか?この勝負には此処で暮らす人達の安息が掛かっている。決して負ける事は許されない」
 真剣な瞳で面々を見詰める草間に、面々は静かに頷く。
「地の利も、天の運も向こうにあるかも知れない。だが、勝負は時の運!絶対に勝つぞ!」
 差し出された草間の手に、六人の手が重なる。
「勝利を我等に!そして、美味い飯を食い、温泉でのんびりだ!」
「おー!」
 結束を固めた七人の戦いが幕を開ける……

 話は一週間前に遡る。草間興信所に一人来客が訪れた。
「えっ!?雪合戦!?」
「そうです……雪合戦です」
 依頼人は、長野のとある村に住む一人の男。村を代表して草間に依頼を持ち掛けに来たのだが、その内容は何と雪合戦。
「何で雪合戦なんですか?」
 苦笑いを浮かべながら問う草間に、男は静かに口を開いた。
「村に現れる霊は、どうも軍人の霊らしく……人数は七人。何を望んでいるのか分かりませんが、兎に角戦えと五月蝿く我々に働きかけるのです。しかし、我々は戦うと言っても兵士では有りませんから、そんな事は出来ません……そこで、雪合戦で勝負しようと言う事になったのです」
 早い話が、居座って五月蝿い霊を雪合戦でこてんぱんにしようと言うのだ。
「でしたら、皆さんで出来るのでは?」
「相手は霊ですよ?雪合戦にしたって、我々が作る雪玉では当たりませんよ。そこで、貴方の話を聞きそう言った方面に強い方々を集めて貰い、戦って頂こうと……」
 草間はぼりぼりと頭を掻く。真冬の長野、積雪は半端じゃない……
「もしお引き受け頂けるのでしたら、依頼料の他に温泉宿を無料使用、食事も全て御用意します」
 ピクリ……草間が反応する。
「どうでしょう?」
「引き受けましょう!」
 力強い返事で男に返す草間の表情は、笑みさえ見える。
「おお!受けて下さいますか!有難う御座います!此方に仔細がありますので、どうか御一読下さい」
 差し出された紙を、笑顔で受け取り開いた瞬間、笑顔が凍り付く。
『サバイバル雪合戦要項』
 紙にはそう記されていた……


1.Strategy Conference

 ヒュォォォォ……
 寒風吹き荒ぶ、此処は長野のとある村。辺り一面雪に覆われ、風に舞う雪がキラキラと日の光を反射し、実に幻想的な風景を醸し出す。取り立てて何も名物が無い村だが、ダイヤモンドダストと温泉は知る人には知られる場所だ。
「さっさっさっさっさっ寒いのよぉ!!!」
「涼おねぇ様大丈夫?夏菜のコート貸して上げようか?お兄ちゃんのだけど……」
「けっけっけっけっ結構よ!!ああ!でもやっぱ貸して!」
 石和 夏菜の手から、剥ぎ取る様に村上 涼はコートを奪い羽織って行く。
「何だ?村上は寒がりだな」
 にこやかな笑顔で言う草間 武彦。
「武彦さん……そんな格好で動けるの?」
 半ば呆れ顔で見詰めるシュライン・エマの眼前の草間は、まるで達磨の様にもこもこしていた。対するシュラインは、適度な防寒具に身を包み、とても動き易そうである。
「草間のおじちゃんも寒がりさんですぅ。みあおは寒くないですよぉ!」
 ガッツポーズを作る海原 みあおの格好は幾ら何でもと思う様な何時もの格好。見てる周りが寒くなる。
「ふむ……温度は氷点下八度。まあ、寒いのは仕方ねぇな」
 鷹旗 羽翼は持参して来た温度計を見詰めながら呟く。その出で立ちは、正にサバイバル装備、防寒対策だってぬかりは無い。
「ふっ、この程度の寒さ俺にとっては何て事は無い」
 平松 勇吏が煙草を蒸しながら髪をファサリと掻き揚げ口の端に麗美な笑みを作る。が、その足元が震えているのを誰もが気付かない振りをしてあげた。
「この程度でしたら行動に支障は無さそうですね」
 柔らかな笑みを浮かべるセレスティ・カーニンガム。彼の故郷はアイルランド……こんな長野の田舎より格段に寒いので、ちょっとした防寒着程度でも余裕の笑みだ。
 今此処に、八人の面々が顔を揃えたのである。一人人数が多いのは、草間が間違えて多く手配してしまった為だ。
「草間さん〜困るんだがなぁ?インカムは七人分しか用意してないんだぞ?」
 心底困ったような顔をして、七つのインカムを机の上に置く鷹旗に草間は平謝り。
「すまん、ほんとすまん!まあ、後で美味い飯と美味い酒奢るからな?」
「本当だな?その約束忘れるなよ?」
「勿論だとも!」
 満面の笑顔の草間を見詰めながら、シュラインがふぅと溜息を吐きながらも、全員にコーヒーを配って行く。
「取り敢えず、これでも飲んで体を温めましょう。開始時間まで、後一時間程あるしね?」
 シュラインの笑みに、皆が笑みで返しそれぞれにコーヒーを啜り始める。
「ねぇねぇ、鷹旗のおじちゃん?このカマクラどうやって作ったの?」
 みあおは不思議そうに、今自分達がいる巨大なカマクラを見詰めていた。そう、このカマクラ、到着した時には既に出来上がっていたのだ。
「ふっふっふっ……良くぞ聞いてくれたみあお!それはこいつが作ったのだ!」
 バッと鷹旗が手を振り上げると同時、その背後に使役している悪魔が――
 ボコ!!
 現れ、カマクラから頭を突き出していた。
「……」
「……」
「……寒いから直してよね」
 妙に冷たい涼の突っ込みを受けて、何所か寂しそうに悪魔―ヘブンリー・アイズ、通称『マルタ』はカマクラの修復作業に取り掛かった。
「で?聞きたいんだが、何で北側の此処が拠点なんだ?」
 コーヒーを啜りながら問う勇吏に、鷹旗はバンと地図を机の上に叩き付ける様に置く。それは、この村を網羅した地図。
「マルタに知覚させ分かった事だが、実は此処は北の場所最北端だ。此処にいる限りは背後から奇襲と言うのは有り得ない、ルール違反だからな。そして、玉の補給場所は村の中央に位置しているらしいが、実は若干北寄りだ。それらの理由から北を選択、此処に陣地を設営する事にした。ちなみに敵さんは東南の方角のこの位置に陣地を設営した様だ」
 鷹旗が指し示す場所には赤色でバツ印が印されている。
「なるほど、敵陣地からの距離も考え此処にしたと言う訳ですね?」
 セレスティの言葉に、鷹旗はニヤリと笑み頷く。
「でねでね、みあおはバーっとお空を飛んで敵さんやっつけようと思うんだよぉ〜」
「へ〜そうなんだ〜私は敵さんを撹乱させる方向で行こうと思うんだ〜涼お姉様は?」
「どっどうだって良いわよ。私は温泉しか興味ないのよ」
「でも、出来るだけの事はやらないといけないわね。私も余り戦闘は得意じゃないから……でも、雪合戦だし大丈夫かしら?」
 男達が作戦を練る間、女性達は自分がどの様に動くのかを楽し気に話している。それぞれに対策は練られている様であった。
 ザク……ザク……
 不意に近付いて来る音に、全員の顔に緊張が走る。その音は足音であろうか?徐々に大きくなりそして――
「あの〜開始時間まで残り10分なんで、そろそろ準備をお願いします〜」
 ひょっこり顔を出したのは、村の青年。その言葉に全員が頷き、カマクラから外に出る。外には青年が引っ張って来たであろうソリと、その上に雪玉が沢山積んであった。
「じゃあ、一人20個だな。ちゃんと取れよ?」
 草間を先頭に、それぞれ20個玉を取る。だが、丁度20個余ってしまった。
「あれ?どうして余るのですか?」
「ひょっとして多く持って来過ぎたんじゃないの〜?」
 セレスティの言葉に涼がジロリと青年を見る。
「えっ!?そっそんな筈は……」
「ああ、俺が取ってないからな」
 慌てる青年の肩を叩きながら、勇吏がニヤリと笑みを見せる。
「平松のおじちゃんは玉とらないのぉ?」
「おじちゃんは止めてくれないかな?みあおちゃん」
 ちょっと笑みを引きつらせ、勇吏は背中から白樫木刀を取り出す。
「俺はこれだけで良い。攻撃は出来ないが、防御に専念するからな」
 ヒュンヒュンと軽く素振りを始める勇吏を見詰める夏菜とシュラインは、何処か困惑していた。
「良いんでしょうか?」
「さぁ?本人が良いって言うんだから良いのでしょうけど……」
「良し、じゃあインカムを配るぞ!取り敢えず、人数分は無いから草間さんを除く全員に渡して置く。後、懐炉を二つずつ渡して置くからな」
 鷹旗からそれぞれアイテムを受け取り、それぞれに装着し、準備万端整った。
「俺は此処、本拠地にて敵の行動を探り、皆に指示する。草間さんは誰かとペアになって動いてくれ」
「了解だ」
「武彦さんとは私が……」
「俺も行くぜ」
 草間班は、シュラインと勇吏が名乗りを上げた。
「じゃあ、私は涼お姉様と♪」
「しょうがないわね。じゃ、一緒に行きましょうか」
 涼と夏菜がペアに。
「私は足が不自由ですし、独自の作戦で行きたいと思いますので」
「みあおも〜お空飛ぶのぉ〜」
 セレスティとみあおは遊撃の形で決まった。
 それぞれが、配する場所を確認後、草間を中心に輪を作る。
「良し!行くぞ!勝って温泉だ!!」
「「「「「「「おー!!!」」」」」」」
 此処に、サバイバル雪合戦開幕である……


2.Strategy Beginning

「此方鷹旗、東班応答願いますどーぞ」
『此方東班、シュラインです。現在皆無事ですどーぞ』
「了解。西班どーぞ」
『此方西班、セレスティです。今の所異常有りません』
「了解、遊撃班どーぞ」
『は〜い、みあおだよぉ。まだ敵さん見付けてないよぉ』
「了解、えーとあれ?村上と石和は何処だっけ?」
『東よ東!目下敵の本拠地目指して進行中よ。どーぞ!』
「……了解。って、何で本拠地目指してるんだ!?」
『え?何となくよ』
 開始10分、こんなやり取りをインカム越しに続ける面々である。鷹旗の使役であるヘブンリー・アイズは遥か上空より戦地を見詰め、何時でも皆に指示出来る様監視を続けていた。現在の所、敵に激しい動きは無い模様ではあるが、その編隊が気に掛かった。
「各員に通達、敵は本拠地に一人、残りは二人一組で移動中だ。十分気を付けてくれ」
 そう、敵は二人一組で編隊を組みそれぞれ東・西・南を移動中なのだ。一番近い位置に居るのは、涼・夏菜ペア、次いで近いのはシュライン・草間・勇吏組。西のセレスティは極力補給場所に近い位置に居る為まだ安全だが、此方も徐々に近付きつつある。
「何故こんな編隊なんだ?」
「きゃー!」
「うおっ!?」
「なんの!!」
 ぼそりと呟いた鷹旗の耳に、不意に飛び込んだのはシュライン達の声だった。

「危ない所だった……」
 勇吏は木刀をヒュンと降るとその刀身を見詰めた。そこには、しっかりと緑色のペイントが引っ付いている。
「とっトラップ?」
「……みたいだな」
 雪の中に倒れたシュラインを助け起しながら、草間は憮然と言う。どうやら敵は、トラップをも仕掛けていたらしい。
「しかも巧妙だ。ダミーの雪玉の中に本物を一個だけ仕込んでる。流石と言うべきなのか……」
「つまり、この戦場とも言うべき場所一面にその可能性があるって言う事に成るわけよね?」
「そうなるな」
 三人は辺りを黙って見詰める。目の前には、真っ白な世界が広がっている……この何処かに、敵の仕掛けた罠がある……三人の頬を汗が伝った。

「ちょっとちょっと!何なのよこれ!!」
「お姉様危ない!!」
 涼と夏菜、二人に襲い掛かるはトラップにより発動した雪玉、その数10!行き成りの事で意表を付かれた涼はまるで対応しきれて居ないが、夏菜の鋭敏な反射神経はその攻撃に対応する。一つ二つと雪玉を交わす夏菜の動きに、何故か涼までもシンクロしたかの様に雪玉を交わす。
「きゃー!ひー!」
 等と叫び、顔を焦りに浮かべながらも交わして行く様は、ちょっと滑稽だが驚愕の一言だ。だが、その裏には夏菜の影ならぬ努力がある。
 夏菜の能力は、他人の気と自分の気を同調させる事により他者の体を、自分の動きと同じ様に動かす事が出来ると言う物である。つまり、今涼が交わしている動きは、夏菜が操っているに他ならない。自身に迫り来る物とは違う軌道の物すらも交わさせるその身体能力、推して知るべしだろう。
 全ての雪玉を交わし終え、息も絶え絶えな涼を夏菜は安堵の表情で見詰めた。
「お姉様大丈夫ですか?」
「……ふっふっふっ……」
 そんな夏菜の言葉に返って来たのは、低く笑う声……そして――
「よぉーくもやってくれたわね!!夏菜!行くわよ!!」
「はっはい!」
 目を怒りに燃え上がらせ、涼は再び進み出した。その後ろを付いて行く夏菜は、何処か脅えた眼差しを向けていた。

 セレスティは西に居た。最も西とは言っても北寄りの補給場所から近い位置に居るので、北西と言った方が正しいかも知れない。建物を背にし、辺りの雪を能力を使い硬質化、つまりは氷にしその中央部分に待機していた。
「まだですかねぇ」
 暇だった。元来余り足が良くないので、待機する方法を選んだのだが、開始から40分を経過した今でも、敵の姿は見えない。定期的に連絡がある鷹旗が言うには、もう直敵が来るらしいのだがその影すら見えない。両手には何時でも投げられる様に、霊雪球を持って準備していると言うのに……
「寂しいですね」
 苦笑いと共に、溜息が毀れた。

 空は気持ち良かった。絶好の晴天に恵まれ、気温的にも比較的この時期にしては温かい。そんな空をみあおはハーピー形態で滑空している。
「ん〜見付からないなぁ」
 上空からずっと地上の敵を探してはいるのだが、日の反射が強いのかこれと言って見当たらない。他のメンバーの動きを見るには良いのだが、それは鷹旗がやってくれているので、みあおの仕事ではないのだ。
「あれぇ?あれは何かなぁ?」
 北側に戻ろうとした、みあおの視界に何かが引っ掛かる。通り過ぎた場所へと旋回し、戻って見れば何も無い。しかし、何か違和感が有る。
「ねぇねぇ、鷹旗のおじちゃん。今みあおが居る場所に何か有るぅ?」
 インカムを使い、鷹旗に連絡を取る。
『ああ、居るぞ。カモフラージュして誤魔化そうとしてる様だが、マルタの目は誤魔化せない。間違いない、敵だ!』
「よぉ〜し!」
 鷹旗の言葉を受けて、みあおは一直線に急降下、霊雪球を五個取り出すと目標地点目掛け、爆撃開始!
「喰らえぇ♪」
 ヒュー……ドスドスドスドスドス!!
「ぐはぁ!やられたであります」
 一人の幽霊が、白い布の下から這い出して来た。その傍に、みあおは降り立つ。
「じゃあ、おじちゃんはみあおと一緒に、みあお達の場所に行こうね♪」
 満面の笑顔を向けたみあおを見詰めた幽霊の顔は、唖然としていた。


3.Combat Beginning

「来る!!シュライン隊、二時の方向より敵影2!村上隊、六時方向より敵影2!カーニンガム、敵影1八時方向からだ!」
 インカムに向かって鷹旗は告げる。
「了解したわ」
「やっと出たわね!」
「分かりました。しかし……申し訳有りませんが、セレスティと呼んで下さい」
「分かった、セレスティ!兎に角気を付けろ!みあおが一人倒してこちらに向かっている。残りは六人だからな!」
 言い終わると同時、各隊からは交戦と思われる声が漏れ始めた。

「こんな物、軽い軽い!」
「良いぞ平松!そりゃ!」
「えい!!」
 草間、シュライン、勇吏組は、二人の幽霊と交戦中である。目の前に突如として現れた幽霊達は、問答無用で雪玉を投げ付け捲くるが、その全てが勇吏の手によって尽く叩き落される。その殆どが霊雪球では無く、敵が作った雪玉だと言う事に、勇吏は逸早く気付く。
「草間さん、シュラインさん、こいつ等が投げて来るのは殆ど普通の雪玉だ。当たっても意味は無いぞ」
「でも、殆どって事は中には本物が混ざってるって事なんじゃないの?」
「……御名答……」
「で、それを見分ける方法は!?」
「……」
「……」
「……分からない」
「意味ねぇじゃねぇかぁ!!」
「それはちょっと無謀よ!?」
 草間とシュラインの突っ込みに、勇吏の顔に苦い物が走る。その間も、敵の攻撃は止む事無く続いて居る。だが、それらは全て勇吏が叩き落す為、被害は全く無い。そんな勇吏の背後からは、シュラインと草間がそれぞれ敵に対して攻撃をしている。
「武彦さん!もう、そろそろ雪玉が……」
「くっ!?そうだな!一旦撤退して、雪玉の補充をしないと。平松!」
「行って来なよ。俺が何とかするから」
 草間とシュラインは頷き、玉を補充すべく動き出す。と同時、敵もまた動き出す。
「奴等も玉切れかよ!!」
 勇吏はシュラインと草間の後を追うべく走り出した。

「いっくわよ!!」
 気合と共に、涼の手から次々と雪玉が放たれ、全て交わされる。
「お姉様もう少し大事に使わないと、補充場所まで遠いんですよ!」
「ん、もう無い」
 にこやかに言い切った涼の鼻先を、敵の玉が通り過ぎる。それも偏に夏菜が交わさせたお陰であるのだが……
「どっどうしましょう!?補充して来ます?」
「ん〜ん、キミの頂戴」
 ニッコリ笑顔で手を差し出す涼の体は、夏菜の同調のお陰で避け続けている。ので、ちょっと滑稽だったりする……言うなれば、糸が一本切れた人形がバランスを崩して動いている様な感じと言えば良いのか?兎に角変だ。
「おっお姉様……分かりました。でも、兎に角一人位は倒さないと!」
 言葉と同時、夏菜は涼との同調を切ると敵目掛け突っ込んで行く。乱れ飛ぶ雪玉の中を軽快に、そして流麗に走り抜けられるのは天性の素質であろう。敵の表情に焦りが浮かぶ。
 目の前に迫った雪玉を、夏菜は跳び上がり交わし、そのまま宙で一回転と同時にそこから五つの雪玉を放つ!よもやの事に、敵の反応が遅れ……
 バシ!!
「ひゃっ!?」
 奇妙な声を上げた幽霊の顔面には、べっとりと緑色のペイントが付いていた。
「やりましたよ、お姉様!」
 笑顔で振り返った夏菜の表情が一瞬にして強張る。そこには、数発の雪玉を受け、更には当り玉まで受け体を振るわせる涼が居た……

 眼前に迫ろうとする雪玉が不意に溶けて水に成る。
「何度やっても無駄なんですけどねぇ」
 苦笑いを浮かべながら立つのは、セレスティ。セレスティの能力は水を操る能力……つまるところ、水が形状を変えただけの雪は、セレスティの能力を持ってすれば無力化する事等造作も無いのだ。だが、敵とて意地があるのか、兎に角攻撃を続けている。当然、無駄に終わっている訳だが……
「そろそろですかね?」
 そう呟くと、セレスティは手に持っていた雪玉を投げ始める。そんなに力は無い方なので、速度もそれ程出ては居ないが、敵も交わさざるを得なくなる。
「今ですね」
 穏やかな笑みを浮かべたセレスティが手を振った直後、敵幽霊がずっこける。
「ぐはぁ!?」
 そう、雪玉は牽制、避けた位置の雪を氷へと変化させ、敵のバランスを崩すのが目的だったのだ。
「と言う事で、みあおさん。お願いしますね」
 微笑みながらインカムに呼びかけたその時――
「は〜い♪」
 上空から声が近付いて来たかと思うと、立とうともがく幽霊目掛け五つの雪玉が降り注ぎ、見事直撃!幽霊の全身は緑色に染まった。
 地上に降り立ちにこやかな笑顔をセレスティに向けるみあお。セレスティもまた笑顔を向けた。
「各員に通達!村上が敵に捕まった模様!至急救出に向かわれたし!」
 インカムから、鷹旗の声が響いた……


4.Strategy Result

「村上が捕まった!?くそ!」
「行きたくてもこれじゃあ……」
「無理ってもんだな」
 同時に雪玉補充に走ったシュライン隊と、敵幽霊隊は未だ戦っていた。それも、雪玉補充場所を中間として互に補充しながらの戦いの為、玉は無尽蔵である。
 勇吏が叩き落し、シュラインと草間が攻撃をするスタイルは依然続いて居るが、何故か敵に当たらない。「ちょっと武彦さん!ちゃんと狙ってよ!」
「んな事言っても……」
 当たらない理由は、狙えないからだ。敵は幽霊、姿を消せば見えなくなるのは道理。では何故、セレスティやみあお、夏菜は捉える事が出来たのか?答えは単純、意表を突かれたからに他ならない。つまり、幽霊達の考え及ばない攻撃により倒す事が出来たのだ。だが、シュラインと草間は正面きっての戦いな為、敵だってちゃんと対処してくる。理である。
「埒が明かないな」
 好い加減疲労が蓄積されて来た勇吏が、荒い息の下ぼそりと呟く。
「そうね……このままじゃ……!?」
 シュラインの目の前を、一つの雪玉が通り過ぎた。勇吏の防御を掻い潜って来たのだ。
「おい!平松大丈夫か!?」
「そろそろ限界が近い様だ。早く何とかしてくれ!」
 考えても見れば、ほぼ半時は木刀を振り続けて居る勇吏だ。疲労が限界に近いのは当然だろう。だんだんと、その振りが鈍くなって来ている。
「何とかしないと……そうだわ!武彦さん、攻撃続けてて!」
「おっおう!」
 シュラインの言葉を受けて、より一層玉を投げ続ける草間を横目で見やり、シュラインは目を閉じ、その神経を耳に集中させる。
 ヒュゥゥゥゥ……
 柔らかな風の音を、その聴覚が捉えている。
 ヒュゥゥゥゥ……キュッ……
「そこ!」
 微かに混じった雪を踏み締める音の方向に目を向け、シュラインが力一杯雪玉を投げ付ける!
 バシィ!!
「ばっ馬鹿な!?」
 寸分違わず、シュラインの玉が幽霊の一人を捉えその体に緑色のペイントを施す。
「武彦さん!あっちに投げて!!」
「おう!!」
 草間が力一杯雪玉を連投する!
 バシバシ!!
「えーなんでやぁ!!」
 此方も見事命中し、敵は悔しそうに地団駄を踏んだ。
「やっと、終わった……」
 バタ……
「おっおい!平松!!」
「平松さん、しっかり!」
 極度の疲労と、連続して動き続けた結果、勇吏は極度の酸欠を起し倒れ込んだ……

「何なのよ!!もう、何で私が捕まらなきゃなんないのよ!!」
 連行される道中であっても、涼は切れていた。避けそこなった自分が悪いのだが、そこはそれ涼である。
「五月蝿いなぁ、少し黙っててよ」
 連行する幽霊がうんざりしたように言うが、それすらも焼け石に水。
「五月蝿いって何よ五月蝿いって!!大体ねぇ、死んでまで戦いたいとかほざくんじゃないわよ!!」
「何を!!俺達の無念がお前に分かるって言うのか!!」
「分かる訳無いでしょ!死んでないし、大体私はか弱い乙女なんですからね!」
「誰が乙女で、何所が乙女だ!」
「どっからどう見たってそうでしょうが!」
 流石の幽霊も我慢の限界か、涼と口論を始めてしまった。それが命取りとも知らずに……
「乙女って言うのは清楚で可憐で楚々とした者の事を言うんだ!お前みたいなのが、乙女って言うならこの世は終わりだ!」
「キミはもう死んでるから、この世の終わり所か、人生終わってるじゃないよ!」
「なっ何だとー!!」
 熱くなる。売り言葉に買い言葉とは正にこの事。だからこそ、上から降ってくる物に気が付かなかった。
 ドサドサドサドサ……
「うわぁぁあ!!」
「やったぁ〜♪みあおの勝ちですぅ〜♪」
 上空に満面の笑顔でみあおが居た。
「サンキューみあおちゃん♪これで私は自由の身、そんでキミは捕虜よね。ざまぁないわね、オーッホッホッホッ!」
 高らかに笑う涼を見ながら、幽霊は悔しさに歯を噛み締める。その瞳はちょっと潤んでいた。
「お姉様〜」
 玉の補充をし、急いで駆けて来た夏菜が手を振りながらやって来る。
「大丈夫ですか?何所も怪我とかないですか?」
「ああ〜大丈夫よ。それより、キミの玉頂戴♪隊長を倒すわよ!」
「あっその事なんですけど、今シュラインさんと草間さんとセレスティさんがこちらに向かっているんですよ。全員で叩こうって話になってます」
「な〜るほど、完全に倒すのね?」
「そう言う事みたいです」
「分かったわ!みあおちゃんは、こいつを連れて行ってくれる?」
「いいよぉ〜♪じゃあ、おじちゃん行こうぅ〜♪」
 元の体に戻ったみあおに手を引っ張られ、幽霊は肩を落として連行されて行った。

「準備は良いか?」
「ええ」
「ばっちりよ!」
「大丈夫です」
「此方は何時でも」
 草間の問い掛けに、シュライン、涼、夏菜、セレスティが応える。勇吏は酸欠の為、みあおは連行中の為此処には居ない。鷹旗は敵の監視の為本拠地を動けないので当然居ない。そして、此処が何処かと言えば、敵の本拠地であるカマクラ前である。
 開始から2時間を経過し、漸く此処まで辿り着けた。後一人、後一人倒せば念願の温泉と宴会とあって、草間以下一同に気合が入る。
「行くぞ!」
 草間の号令一過、全員は駆け出しカマクラの中へと!そこで見た物は――
「降参〜」
 白旗を振り笑顔で迎えた敵隊長だった。
「はぁ?」
「ええぇと……」
「お終い……ですか?」
「……見たいですね」
 草間もシュラインもセレスティも夏菜も、呆然とその幽霊を見詰める。そんな中にあって、涼は握り締めた霊雪球を思いっ切り投げ付けた!
「ざけんじゃないわよぉ!!!」
 その一撃は、見事敵隊長の顔面にヒットした……


5.Strategy End

「おーい!酒が足りないぞぉ〜」
「ちょっと武彦さん、飲み過ぎだってば!」
「うははは〜やるねぇ〜草間の旦那ぁ〜♪」
「ん〜このお料理美味しいのぉ〜♪」
「やはり酒は美人の手酌に限る!」
「かーなー、ねーキミの兄貴はなんでああなのよ〜敵だってば〜敵なんだってば〜」
「えっえと、お兄ちゃんはお兄ちゃんだからそれが普通なの」
「労働の後の食事は、美味しいですね」
 事の終結の後、幽霊達は満足したのか消えていった。そして、この戦いに参加した者達にとっては最も楽しみであった、温泉と宴会が待っていた。
 まずは外で冷えた体を温める為、温泉に浸かる。温泉独特の臭いとその温質は、まさに彼等にとって一番の休養となった訳だ。
 鷹旗と草間と勇吏は、ちゃっかり湯船にまで銚子を持ち込んで飲み三昧。セレスティは、ゆったりと一人その温もりを堪能した。
 シュラインと夏菜もまたその暖かさにゆっくりとした時を過ごし、みあおははしゃいで湯船を泳ぎ、涼は露天で一人酒と洒落込んでいたりした。
 湯から上がれば既に宴会の準備は整い、地元産の食材が食されるのを待つかの様に、卓を彩っていた。
 無礼講の挨拶から始まったこの宴会も、既に3時間……最早、留まる所を知らなかった。
「村上〜良い飲みっぷりだな〜どうだ?俺と付き合わないか?」
「駄目です!お姉様はお兄ちゃんと付き合ってるの!」
「え〜あれは敵なのよぉ〜」
 涼を口説く勇吏は敢え無く玉砕。
「これも美味しい〜♪あっあれはどうかなぁ〜?」
「はい、どうぞ」
「ありがとぉ〜♪」
 みあおが楽しそうにする様を見ながら、セレスティもまた微笑み箸を進める。
「鷹旗〜これだこれ!これが銘酒って奴だ!」
「おお〜ホントうめぇなぁ!やるねぇ〜草間の旦那〜♪」
「もう……」
 歯止めの利かなくなった鷹旗・草間の両名にさり気無く胃薬を飲ませるシュライン。各々、十二分に宴会を満喫し、漸く静かになったのはそれから更に2時間も後の事であった。

「ふぅ……ちょっと飲み過ぎたかな」
「当たり前よ。もう……」
 そこは露天風呂……チラリチラリと降り行く雪を見ながら、シュラインと草間は湯船に浸かって杯を傾ける。
「楽しい一日だったわね」
「ああ……まぁ、幽霊は余計だっけどな。今度また、こんな宴会をやりたいもんだ」
「そうね……」
 微笑みシュラインは手をそっと湯船から上げる。その掌に、雪が一片……舞い降りた。

「くしゅん!!」
「お姉様大丈夫……くしゅん!!」
 熱っぽい体を引き摺りながら、涼と夏菜は朝を迎えた。
 宴会場でそのまま寝てしまったのが悪かったと言うか、悪い。一応シュラインが、毛布等を掛けていたのだが、此処は長野。朝の冷え込みは半端ではないのだ。
 寒さに耐えかねて、夏菜は温泉を又堪能したのだが、涼はそのまま爆睡をかましていた為、見事に風邪を引いた。
「ん〜なんか頬が痛いんだが何故だろう?」
 勇吏の右頬は、何故か腫れていた。原因は自分でも分からないが、何か衝撃を受けた様な記憶だけは有る。そして、起きたら朝だったと言う事だけ確かな様だ。
「良い朝ですね。おはよう御座います」
「おはよう〜♪」
 セレスティとみあおが笑顔で皆に挨拶。二人は早々に眠気を感じ、自室でゆっくりと睡眠を取ったので、とても気分が良い。
「あ〜……気持ち悪りぃ」
 気分最悪なのはこの男、鷹旗である。そりゃ、一人で3升も空ければ気分も悪かろうと言う物だ。気分は負けなくとも、体は正直と言った所だろう。
「頭いてぇ」
「だから飲み過ぎだって言ったのに……」
 シュラインに支えられた草間も又、二日酔い。限度を超えて飲んだ結果と言うのは、得てして自分に返ってくる物だ。因果応報とはこれ如何に。
「有難う御座いました。本当に助かりました」
 依頼人である男は、皆を前にして深々と頭を下げ謝意を述べた。その顔は、安堵と喜びに満ちていた。
「依頼をこなしただけですよ。又何か有れば、仰って下さい」
 二日酔いの草間に変わり、シュラインが笑顔で応えると、男は再び深々と頭を下げた。
「じゃぁ行くか」
「お〜」
「そうね」
「はい〜♪」
「ああ。いっ!?」
「くっしゅ!」
「はいっくしゅ!」
「はい」
 村人一同に見送られ、一向はこの地を後にした。体調良き者、悪き者……それぞれあろうが、皆一様に充実感を感じていた。
 空から、チラリチラリと白い雪が舞い始めた……





□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0602 / 鷹旗 羽翼 / 男 / 38歳 / フリーライター兼デーモン使いの情報屋

0086 / シュライン・エマ / 女 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

1883 / セレスティ・カーニンガム / 男 / 725歳 / 財閥総帥・占い師・水霊使い

1415 / 海原 みあお / 女 / 13歳 / 小学生

4483 / 平松 勇吏 / 男 / 22歳 / 大学生

0921 / 石和 夏菜 / 女 / 17歳 / 高校生

0381 / 村上 涼 / 女 / 22歳 / 学生

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 どうも、凪 蒼真です。
 
 この度、大変遅れてしまい誠に申し訳御座いませんでした。
 原因不明の眩暈に襲われ、執筆するのが非常に困難な状況であったとは言え、多大な納品遅延を起こしてしまった事、深く深くお詫び申し上げます。
 本当に、申し訳御座いませんでした。
 取り敢えず、この眩暈が治り切るまでは、執筆活動を控えるつもりです。しかしながら、御用命御座いましたら、精一杯書かせて頂きますので、その折は宜しくお願い致します。

 さて、今回の裏話を一つ。
 判定は全てダイスを用いてやりました。乱数と言うのは恐ろしい物なのですが、なんとも面白い事に皆様ほぼ被害なく(村上さんは被害ありましたけど……)無事乗り越えられました。
 運と言うのは、本当に気紛れだなぁと改めて痛感した凪で御座いました。
 次回作以降も、こうしたダイスでの判定はやって行きたいなぁと思いますので、もし興味御座いましたら宜しくお願いします。
 
 それでは、今回はこの辺で、有難う御座いました(礼)

PS:皆様、御体だけは本当に御自愛下さいませ。