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<東京怪談・PCゲームノベル>


■Assassination Phantom−The slave of fate−■

 草間武彦は、とあるボロアパートの扉をノックしていた。
 平日の昼過ぎ、もうすぐ夕方近い。世間はのんびりとしているように、彼には見えた。
 いや、彼が今抱えている「事件」を鑑みると、実際世間は平和だと思う。何も知らないでいられる「平和」。知ったら知ったで大騒ぎだろうな、と武彦は心の中で呟いた。ふと、あの『勇者』が一般人の群れに姿を現したら、皆はどんな反応を示すだろう。危険なオーラをあからさまに放ってはいるが、同時に感じ取れるあのカリスマ性も大したものだ、鈍感な者は心酔し、「仲間に入れてくれ」等と自分の生活に不満を持っている者はほざくのかもしれない。
「何の仲間だか、まだそれさえも殆ど分からないけどな」
 出てこない部屋の主のことを忘れていた武彦はそう口にしたあと、ため息をついてもう一度ノックしようとし、肩をトントンと叩かれて振り向いた。
「何してんだ、草間さん」
「ああ───って、お前こそランを置いてどこ行ってた」
「バイト。草間さん、このアパートと一緒に紹介してくれただろ、二つ掛け持ちしてるけど、おかげさまで結構食いつないでるよ。家賃が安いのと、ランが『死んでる』からな」
 そう言って、武彦が訪ねてきた部屋の主───元「A.P.」所属の『剣士』だった、紫藤・イチ(しどう・─)は鍵を取り出し、扉を開けて武彦を迎え入れた。
 部屋は二間と小さいが、一応風呂とトイレもついている。贅沢な性格ではないイチが暮らしていくには充分なようだった。
 その、奥のほうの部屋は、ランが使っていた───といっても、何もない部屋に布団を敷き、「寝かせてある」だけなのだが。
「まだ死んだままなのか」
 畳に座った武彦が、煙草に火を点けながら、コンビニから買ってきた自分の夕食を出しているイチに視線をやる。
「『殺されて生かされている人間』は、『勇者』にしかどんな能力を使っても起き上がれないようになってンだよ」
「何やってもどこ行っても『勇者』『勇者』……RPGが嫌いになりそうだ」
 武彦は煙草の煙をだるそうに吐く。
 イチの知る情報は、そんなに大したものは持っていない。それは、『魔術師』ランが実の兄である『勇者』に殺されたその後数日経った今は分かっている。だが、聞かずにはいられなかった。
「そうそう、お前が言ってた、『A.P.』が『住んでた』場所。都心ビルの一つを借りてたそうだが、今は空っぽだった」
「俺が知ってる情報は、殆ど役に立たねェな。当然、場所は移動するだろうとは草間さん、あんたも思ってたんだろ?」
「だから、ここに来たんだよ」
 イチが、箸を止める。その視線を自分の瞳で受け取りながら、武彦は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「まあ当然とは思ってたけど、ランについて調べてもあれ以来何一つ出てこない。あまりに不自然だ。これも『勇者』が能力だかなんだかで『ロック』したんだろ、知り合いの能力者に頼んでも無駄足だったんだから間違いない」
「で?」
「俺は前回、突き崩せるとしたらお前の復活かランを洗うか、どっちかだと思った。予想以上にことは運んでどっちもうまくいったわけだが、今度はランが殺された。次に突き崩せるとしたら───って考えたらな」
「ちょっと待てよ」
 イチが箸を置き、真剣な顔つきで武彦の腕を掴む。
「まさか───馬鹿なこと考えてンじゃねェのか、あんた」
「その馬鹿なこと。『剣士』、『魔術師』と落としたら、次は神がかった『勇者』よりも『読心術者』だ」
「無理だ!」
「無理は承知、お前の時だってそう思ってたんだからな」
「あいつら二人はいつも一緒だった、俺がいた時も『勇者』はランよりもエニシと一緒にいた。あいつら二人あわせたらコワいもンなしだ。『勇者』だけでも充分だろうが、それにエニシが加わったらって考えはしたんだろ? エニシも充分にコワい存在、実際『勇者』の次に最強なんだよ!」
「全ての心や人の言動を読み取ってしまう───身内での呼び方は『古(いにしえ)のエニシ』だっけ? どういう意味なんだろうな」
 天井を向き、ふうっと吐いた煙草の煙が昇っていく様を見つめる、武彦。
「お前が『囚われのイチ』。ランが『道連れのラン』。今まであんまり重要視してなかったけど、早めに気付いておけば、色々対処は出来たと思うんだ」
 イチは確かに「囚われて」いたし、ランは今まで、いわば『勇者』の道連れだった。とすると、『古(いにしえ)のエニシ』は───と、武彦は考えたのだ。
「呼び名をつけたのは『勇者』だろ?」
 彼の問いに、「ああ」と、食べかけの弁当を何気なしに見つめていたイチは、気付き、一緒に買ってきていた緑茶を取り出し、放り投げた。
 受け取り、
「サンキュ」
 と、ようやく客のもてなしらしいもてなしを受けた武彦は、微笑む。
「───エニシを洗おうとしても、出てこないと思うぜ」
「やってみなきゃわからんさ。『勇者』がプレゼントとしてある程度は情報をくれるかもしれないしな、ランの時もそうだったのかもしれない」
 武彦が緑茶を二口、そうして飲んだ時だった。
 ハッと気配に気がつき、イチが傍に置いていた日本刀に手をかける。武彦はあえて動かなかった。
「───何しにきた」
 敵意も露なイチに、恐らくは能力により鍵を開けていつの間にか入ってきていた白いコートの男───美しい顔に無表情の『読心術者』は、短く答えた。
「見舞いだ……元仲間がどうしているか、心配になるのは当然だろう……?」
「ほざけ! その仲間を見殺しにしといてよ!」
「そう牙をむくな。……俺はランを『使うために連れ戻しに』来たわけじゃない……そんなに情報が知りたいなら、教えてやろうと思って草間氏をつけさせてもらった」
 内心、気付かなかった自分に畜生と思ったが、武彦は笑ってみせる。
「これはこれは。嬉しいね。本当の情報だったらもっと嬉しいけどな?」
「無論、本当の情報だ」
 イチの表情が、不審なものに変わる。武彦はそこで、初めて振り返って『読心術者』───『古のエニシ』を見上げた。
 冷たい瞳でそれを見下ろしながら、エニシは続ける。
「それに───心配、というのは本当だ。まさか『勇者』がランを殺すとは……一緒にいなかったとはいえ、見過ごしにしたのは俺も痛い……。イチ、俺の肉親であるお前が植物人間状態から戻ったと分かり、見舞いにくるのも……当然だと思わないか……?」
 一瞬、時が止まった。
 直後、武彦は緑茶にむせて咳き込み、イチは日本刀が畳に落ちる音で辛うじて我に返った。
「なん───だって?」
 イチの声が、震える。
 武彦から彼へと視線を移動させ、エニシは言った。
「この真実を知る者は少ない……。俺は……イチ、お前の父親の弟。つまりお前は俺の甥ということになる……」
 エニシは15の時に誘拐され、暫く『勇者』の背後にある組織の研究所で育てられた。「とある事情」でエニシは24歳の時に「身体の時を止められ」、今のランと同じ身体状態になった。それから実に10年の時をこえ、まだどこか幼さの残る、だが既に冷たい微笑みを持っていた『勇者』によって「甦らせられ」、『勇者』と共に暮らすようになった。現在の本当のエニシの歳は、38だという。
「───それで今までその外見そのままで? その落ち着きか」
 まあ「死んでた」んならそんなに精神年齢は進んでなかっただろうが、と武彦が、やっと咽がやんで落ち着いたところで、再び煙草を一本取り出す。
「イチ、お前のことは俺が甦らせられたその時に、聞かされていた……お前は偶然じゃない、俺の肉親だからということもあって、この組織に抜擢されたんだ」
 イチは初めて知る真実に愕然としていたが、ふとエニシを睨みつけた。
「あんまりショックだったンで忘れそうだったぜ。確かにお前は真実を喋ったのかもしれねェ、だからこそ! だからこそ、『お前ら』お得意の『罠』を何か仕掛けやがったな!?」
 驚いたように、武彦がイチを見る。そしてエニシへと視線を移すと、無表情の彼は薄く微笑んだところだった。
「流石は俺の甥だな……頭の回転も精神力もある……そう、今俺が『ショックな真実』を喋ったことでイチと草間武彦、二人の気を引かせてもらった」
「なんの罠をしかけやがった!」
 イチが掴みかかろうとするところを、緩やかに身体をかわして避ける。
「このアパートの遥か真上に『勇者』も来ていてね……さて、さっき草間氏が『むせた』のは偶然だったかどうか……」
 武彦はハッとする。面白そうに口の端を更に少し上げて、エニシは続けた。
「そう驚かないでもいい……確かに『むせさせて心臓そのものに小さな鍵』をかけたのは『勇者』の能力によってしか出来ないものだが……『勇者』が『計画を実行』するそれまでの間、草間武彦……お前には『爆弾の鍵』をかけた」
「爆弾の鍵?」
 武彦は、眉をひそめる。イチは青褪めていた。
「そう……。身体には何も異常を来たさない、だが能力でも手術でも『外そうとしたら爆発する』……『勇者』が死んでも爆発する───『勇者』はだが、心が広い……計画への直接的な阻止以外では、爆発をしないようにした……」
「その計画ってのがなんだか知らないが、いつまでかかるんだ」
 武彦が、知らず自分の心臓の上に右手を当てながら尋ねる。
 何年だろうな、と声が返ってきて、立ち上がった。
「悪いがやられっぱなしにはならないぞ。爆弾の鍵がどうした。お前が今言った条件以外、つまり俺がどう激しく運動しようが精神的ショックを受けようが死なない、ただの『脅し』と『念の為』の爆弾なんだろ。その間にお前らの化けの皮、ひん剥いてやる」
 武彦の言葉を聴いて、エニシは一度瞳を閉じ、一呼吸置いてイチを見た。
「お前の新しい仲間は威勢がいいな」
 そして、ひらりと裾の長いコートを翻す。
「何を……始める気だ、あいつら───」
 呆然としつつ、イチがぼんやりと言う。
 武彦はエニシの姿がすっかり消えるまでその背を睨みつけていたが、携帯を取り出した。
「それを調査し、どこに付け入る隙があるかを見つけるのが俺の仕事だ」
 そして、片っ端から仲間に連絡を取り始めた。



■Session Start■

「遅くなりました」
 セレスティ・カーニンガムが興信所の扉を開けると、待っていた面子は草間武彦と共に、待ちきれなかったという風に視線をやったり立ち上がったりした。
 セレスティの後ろには、何かを巻いた毛布を担ぎ、反対側の手で日本刀を持った紫藤・イチ、そして蜂須賀・大六(はちすか・だいろく)の姿がある。
「イチ」
「イチさん」
 悠宇が入ってくるイチに安堵したように駆け寄り、日和はイチの手から毛布を受け取ろうとしたが、女性の手には些か重過ぎてよろけたところを、毛布の反対側をシュライン・エマが担いでくれたので助かった。
「イチさんのアパートの周囲には、誰もいないようです。もっとも、『勇者』がいるかどうかは、残念ながら私達には分からないと思いますが───」
 セレスティがコートを着たまま、ソファに着いた。すぐにまた出かける証拠である。零が淹れてくれた紅茶を、有難く口にする。
「イチさん、いいかしら」
 この件では今回武彦から聞かされるまでずっと堪えてきたシュラインが、毛布を丁寧に日和と共に敷いておいた布団の上に置きながらイチを見上げた。
「ああ」
 短い返答に、「失礼します」と小さく毛布に目を閉じ頭を下げてから、開いていく。
 やがて、「殺されながら生かされている」元「A.P.」所属である『魔術師』ランの寝顔が現れた。こうして見ると、本当に───眠っているとしか思えない。
「殺されているとはいえ、まだ望みがあるのなら、ちゃんと寝かせてあげたほうがいいですもんね」
 何度見ても、慣れない。前回のあの時のランの哀しい瞳を、日和は覚えている。その彼女の言葉に、シュラインは小さく頷き、二人がかりで布団にランを移した。

 ───物事がこれに至るまで、少し揉め事とも言えない小さないざこざが、セレスティと大六の間にあったのだ。



 時を少し遡り、武彦から連絡を受けた全員───セレスティ・カーニンガム、羽角・悠宇(はすみ・ゆう)、初瀬・日和(はつせ・ひより)、シュライン・エマ、坂原・和真(さかはら・かずま)、ジュジュ・ミュージー、蜂須賀・大六、高峯・燎(たかみね・りょう)が集まると、まず、二手に分かれたほうがいいとの案が出た。
 これだけの人数が揃えば、『爆弾の鍵』をつけられた武彦の警護にも人がつけられるし、『読心術者』エニシのことを探るのにイチも必要不可欠な人材と考えていいとの全員一致の意見に、それならばイチも安心して動けるよう、ランを安全な場所に移さなければ、ということになった段階である。
 ジュジュから依頼料を山ほどもらってこの件を引き受けていた大六は、武彦の警護につくということになったのだが、「防御が固いヤクザ事務所に武彦の身柄を移す」と考えていた。だが、ランのことも考えるとそれは色々な面でどうか、とセレスティが柔らかに反論したのだ。
 セレスティはセレスティで、「財閥の病院に秘密裏に入院手続きをするか、それか安全の確保されるホテルで匿ったほうが無難」という意見を出していた。
 ヤクザ組から配下の者10人を連れ24時間体制で武彦を警護、それはいい。武彦にも彼ら同様
防弾プロテクターを背広の中に着せるのも、いいだろう。だが、黒い背広を着せ、移動する時も黒塗りのベンツ、それに徒歩でも護衛をびっちりつけ、全員にバイザー付ヘルメット着用、ベンツの中には魔弾を使ったライフルやショットガン、手榴弾も用意というのはどうか、というのだ。
「それでは、蜂蜜やバターをたっぷり塗ったパンを餌に、狩りをするようなものです」
 俺はパンか、と武彦がしょうもないところで突っ込んだが、セレスティは真剣である。
「草間さんの警護をするのであれば、出来るだけ目立たないほうがいい。私達は何も、相手が『敵』であってもこちらから戦争を招くことが目的ではないのですから」
 言われてみればもっともな話だった。警護は飽くまで護ることが目的であり、攻撃するためのものではない。相手から「仕掛けてくる」までは、「戦争」にはなり得ない。
「確かに、今まで事情を聞いた限りじゃ、仕掛けるのは『勇者』側、ってことらしいですからネェ。それなら一度俺の警護付きでイチさんとランさんをこちらに連れてきてから、セレスティさんの言う『安全の確保されたホテル』に再度移動しまショウ」
 大六も馬鹿ではない。ようやく納得がいって頷き、そしてこうして、イチとランは興信所に一度、連れて来られたのだった。



 シュラインと日和が一度ランを布団に寝かせて戻ってくると、作戦会議が行われた。
 あちこちで情報が飛び交い、自分はどういう風に行動する等と意見が出された。皆明確な意図を持っているようで、わりと早く作戦会議は終わった。
「では、『読心術者』エニシについて調査をする方は、イチさんもあわせ、7人ということになりますね。すぐに全員が乗れる充分な空間を持った車を手配させます。草間さんの警護は大六さんと日和さんのお二人ですから、草間さんとランさんを入れて4人、こちらは普通車で大丈夫でしょう」
 と、セレスティが自宅に携帯から電話をかける。
「7人も乗れる車って、まさかロールス・ロイスとかじゃ……」
 和真が呟くと、電話をかけ終わったセレスティが「よく分かりましたね」と微笑む。
 到着したのは、ロールス・ロイス(ファントム)。武彦は頭痛がしてきた。
「タイプがファントムなんて、お前洒落たつもりか?」
「偶然です」
 ウソつけ、と武彦は思う。セレスティも内心、前回あまり突き詰められなかった鬱憤があるのだろうか。
「じゃ、行ってくる、日和」
 いつものように、視線で気持ちのやり取りをする、悠宇と日和。
「いってらっしゃい、気をつけて」
 彼女の言葉に小さく頷いた悠宇は、イチと共に車に乗り込んだ。ジュジュも急いで後に続く。彼女ならば絶対に武彦の警護につくと誰もが思っていたのだが、今回は違う目的があるらしい。
「武彦さん」
 シュラインが、靴を履きながら恋人を振り返る。
「くれぐれも、ワンクッション置いて行動してね」
 お前も行くのか、と言いたげな武彦の瞳は、すぐに毅然としたものに変わった。こんな時の武彦の瞳が、シュラインは好きだ。本当は、シュラインだって心配で傍にいたかった。だが、情報収集中直接妨害に繋がる危険から武彦は動けない、という判断から断腸の思いで心を鬼にした。
「気をつけろよ」
 武彦はそっと、シュラインを抱きしめ、すぐに離れる。シュラインは微笑んでみせた。
「武彦さんもね」
 シュラインが出て行くと、エニシについて調査する残りの一人、燎がやっとソファから腰を上げた。
「身内を駒のように操り、モノや道具の如く扱う……気に入らねえんだよな」
 武彦や大六、日和が何を言うよりも先に、素早く靴に足を突っ込んで興信所を出て行く。
 車の横を通り過ぎようとする燎に、シュラインが窓を開けた。
「高峯さん、乗らないの?」
 燎は曇り空を見上げ、一つ寒そうに身震いした。
「エニシについての情報は単独で調べる。集団行動は嫌いなんでな」
「独りじゃ危険だ」
 悠宇も身を乗り出すが、燎は気にならないようだ。
「俺の店に来る客の中には街のあらゆる情報に精通するヤツもいる。そいつらをパシらせて情報収集、集まった情報はくれてやるよ」
 じゃあな、と走っていく。
 待って、と声を上げかけたシュラインに、ジュジュが冷たい声を出す。
「やりたいようにやらせておけばいいヨ。それが彼の流儀ナラネ。それより、こうしてる間にもエニシや『勇者』が動き出すンジャナイノ」
「……出してください」
 セレスティは何か考えていたが、やがて戦闘能力が低いため今回もガードの者を何人かつけた、その彼らも乗り込み、後ろの別に手配した車にも大六が再び毛布に包まれたランを抱え、日和と武彦と共に乗り込んだのを確認し、運転手に言った。



■Session Enishi-side■

「ところで、我々が興信所を出たのは『場所を安全なところへ移してから調査』、それだけではありません。確かに一軒の空き家を借りる手筈は整っていて、そこを拠点にするつもりではありますが、そこには既に調査に必要なコンピュータ機器等が揃っています」
 もうすぐ着きます、とのセレスティの言葉に、イチだけは皆にも増して表情が暗い。
 隣に座っていた悠宇が、
「なんだよ、辛気臭い顔して。お前がどんな生まれだろうとそんな事はどうでもいい。俺の目の前にいる今のお前が本物だ、違うのか?」
 ぽんと肩に手を置いても、「そうだな」とちらりとしか笑みを見せない。
「あ」
 考え込んでいた和真が、「草間さんに言い忘れてました」と思い出す。
 やっと『読心術者』エニシの段階になった、ということで気分が昂ぶっていたせいもあった。
「草間さんの『爆弾の鍵』が簡単に爆破しないよう封印したんです。どれだけもつか分かりませんけど」
 え、と今回大多数が「身内」ではないため敬語になっている和真を、全員が見る。
「それは……『大丈夫』なの?」
 シュラインが慎重に声を出す。
「手術や能力で『外そうとしたら』爆発するんでしょう? 『封印』なら大丈夫かと思いました」
「違うの」
 シュラインの視線は、考え深げに揺れていた。
「前回までのことを聞いた限りでは、『勇者』の力は『能力』というよりは『体質』なのよね? 和真さんが『封印』したのは能力。能力と『勇者』の力は違うもの。違うタイプの『もの』同士がぶつかって、逆効果になって心臓に異常を来たすようなことはないかしら」
 和真がハッとする。そうだ、前回黒架(こか)という男に言われ、ヒントを与えられていたではないか。それにイチの証言でも『勇者』の力は『体質による力』と、『能力』とは似て非なるものと分かっていたではないか。
「草間さんに注意を、と日和さんに言っておきます」
 和真が携帯に手を伸ばした矢先、車が停まった。
「着きました」
 セレスティがステッキを持って車から降りる。和真は歯痒さに内心舌打ちしながら、携帯を閉まってセレスティに続く。
 イチが降りようとした時、既に降りていたジュジュがちらりと視線をよこした。
「暗殺者はろくな死に方しないようにお天道様が決めてるンだって婆ちゃんが言ってタ。エニシはユーの肉親だケド、もしミーの大切な武彦に何かあったらミーは命と替えてもエニシを殺す。それはわかってホシイ。その後でユーがミーを殺すのは構わないヨ」
 今回ジュジュが後ろ髪を引かれる思いで「エニシの調査」に回ったのは、大切な武彦に手を出した人間は情報を集め殺したいためと、まだ若いイチに裏社会の調べ方や生き方を見せたかったため。
 そう付け加えると、悠宇が立ちはだかった。
「ジュジュさん、大切な人間に対してそう思うのは無理もない、いや当然だとも思う。でも後半部分は俺は納得できない。イチは『A.P.』っていう裏社会から既に足を洗ってバイトもちゃんとしてるんだぜ? 裏社会の調べ方や生き方が必要かどうかは、イチが決めることなんじゃないのか」
「子供は口を挟まないでホシイネ」
 前回のように、冷たい視線が悠宇を刺す。だが、悠宇も引かない。イチが困ったように口を開こうとしたところへ、シュラインが助け舟を出した。
「ジュジュさん、それは子供に言動の権限がない、と言っているのと同じよ。あなたの気持ちもよく分かる。でも確かに悠宇さんの言っている通り、それはイチさんの意志次第なのじゃないかしら。逆に、イチさんが裏社会での云々を教えてほしい時になったら、その時はジュジュさんが教えてあげればいいと思うわ」
 ジュジュは冷たい視線のまま、ふいと何も言わずにセレスティが用意した家に入っていく。
「人それぞれ、どんな職業についているか、どんな環境で育ってきたか……そんなことから生み出される言葉だから俺はそのままを受け入れたい。ただ、俺は『A.P.』を抜けたからにはどこまでもう汚れちまってるかわかんねェけど、せめてこれ以上汚れないよう清くありたい」
 イチが言い、彼女を追うように入っていく。悠宇はその後を追い、シュラインは、独り行動しているであろう燎の安否を思いながら最後に家に入った。



 おかしい。
 燎は幾ら待っても「何の情報もつかめない」との報告ばかりを受けて、いつもの店を出て路上を歩き出した。
(それだけ『手強い』ってことか)
 その時、携帯が鳴った。既に殆ど事務的な動きとなっていた燎の右手が、ポケットから携帯を取り出す。
「高峯だ」
『あっ、高峯さん。今全員が報告出し合って分かったことなんですけど、どうも全員が調査中に、どの建物にいてもどの路上にいても、一度は確かに「長く白いコート」、それか「長く白いコートを着た男」を見ているんです。全員が全員、これって不思議じゃありませんか』
 長く白いコート───それは事情を聞き知っていた、燎の頭の中の『読心術者』の情報に当てはまる。
(俺達を見張ってるのか?)
 それとも、遊んでいるのか。ゲームとして。
 燎はギャンブルは好きだが、「A.P.」の「ゲーム」は聞く限りでは「無粋」だ。「A.P.」の腐った思考と行動に、彼は静かな怒りを覚えていた。
 ふと、その彼の視界の端に白いものが見えた気がして、燎は踵で地面を蹴っていた。
(逃がすかよ!)



「前回調査していた時から、そのまま調査を続行しています」
 セレスティは椅子の一つに腰掛けた。
 家の中の設備は、凄いものだった。どこぞの組織も顔負けといった感じである。
「やるとしたら徹底するところは、セレスティさんらしいわね」
 シュラインが、お茶を淹れながら微笑む。どんな時でも、心に余裕を持つことは大事だ。
「私はここで調査結果で出た『当たり』かもしれないものを、皆さんにその都度携帯に連絡します。病院や公務所等を当たりたい場合も、ここから充分通信出来ますが、他に足で動きたい方もいらっしゃるでしょうから」
 病院や保健所を当たってみたい、と言ったのは和真だった。
「『勇者』の組織は血の繋がりが近いもの同士が集められていると考えると、それを辿る事で育った環境等も分かるかもしれない。それにイチの記憶を探った時分かった親を探す手もある。あと、引っかかってるんだが……」
 そこで考えに没頭するあまり敬語にするのを忘れていた彼は、改めてお茶を飲んでから続ける。
「何故エニシは『勇者』についているか、疑問なんです。あと、妙に草間さん達に自ら積極的に関わってくる……情報収集でもするよう、命令されているんでしょうか」
「それは私も同感」
 シュラインが、イチに歩み寄りながら和真を振り向く。
「エニシ氏の真意、自我は何処にあるのか、と思ったの。何か全てを諦めているようにも思えて。育ってからの洗脳法も気になるところなのよね。読心術って未来が分かるのとは別物だし、喋れない相手との会話等に使えたらどんなに素敵かと思うのに……。絶対服従……それでも、罠を仕掛けに来たとは言え心配と口にしていた、そこに本来の彼の姿があるんじゃないか……とは勝手な希望かしら」
 悠宇が、ちらりとイチを見ながら口を開く。
「しかし……奴も考えようによっちゃ気の毒な気もするんだが……奴ほどの男が一体どんな理由があって『勇者』と運命を共有する事を受け入れたのか……分からないな。あいつ、曲がった事嫌いそうじゃないか? 暗殺なんて事に手を貸したがるようでもないし……何か弱みを握られている風でもないし……何か、奴のことで思い出すことないか、イチ? お前の記憶も頼りにしてるんだぞ、俺」
 それに加え、シュラインも意見を継ぎ足す。
「記憶のイチさんのご両親の様子、エニシ氏誘拐過去から特殊能力系家系の線は濃厚そうね」
 ジュジュはといえば、こちらは『テレホン・セックス』で役所や企業等のデータベースを当たっている。
「しかし和真さん、『勇者』に組織があるとは分かっても、まだ組織名等は不明です。その線から辿ることは難しいかと思われます」
 セレスティの言葉に、また考え込む和真。とりあえずイチの記憶がアテになるのは確かだ。
 自然、和真だけではなく全員の視線がイチに集まった。
「あいつのことで思い出すこと、か……特別思い出せるようなことは、残念ながら何もねェんだ。組織名なんかも、俺は不安因子とされていたくらいだ、そこまでは教えてくれなかったし、俺がその組織の総帥に一度会ったのも、殆ど偶然だった」
 セレスティは短く頷き、腕時計を見てから、シュラインに視線を移す。
「シュラインさんは、イチさんの日本刀のことで蓮さんのところ等を当たってみたかったんですよね。今から行ってみますか?」
「ええ。イチさんさえよければ、一緒に来てもらいたいわ。まさか日本刀だけを貸してちょうだい、なんて言えないくらい大事な護身のものであり、宝物でしょうから」
 シュラインの言葉に、刀剣コレクター等のサイトを開いていた悠宇が椅子から立ち上がる。
「イチの日本刀は、俺も手懸りになるんじゃないかって思ってた。俺も行っていいか?」
「もちろんよ」
 断る理由はない。イチも、自分の記憶からも情報源がないとなると、確かに自分が持っている、今までは知らなかった「家宝」の日本刀が手懸りだとも思ったのだろう、すぐに靴を履いた。
「ああ、ちょっと待ってください」
 セレスティが、小さな三つの黒い、豆粒大のマイクを三人に渡した。
「それは精密な小型マイクです。こちらの様子も知ることが出来ます。また、何かあった場合にはマイクを強く押せばこちらに緊急信号として、このモニタに映るので分かります」
 三人は頷きつつ胸元辺りにそれを取り付けると、運転手が待機していた「普通の車」に乗って行った。



 燎はすぐに、「長く白いコート」に追いついた。
 それでも大分走り回らされたが、多少息が速くなっている程度だ。
 どこかの路地裏にコートの端が入っていくのを認め、ゆっくりと近付いていく。
 エニシ達のことを嗅ぎまわっていれば、いずれ向こうから出てくるものとも思っていた。だが、頭のいい「敵」ならば同じ事を思っているはずだった。
 それを燎が理解したのは、その路地裏に入ってからだった。
「なん……だ、これは」
 路地裏の中が、広く白い空間のようになっている。妙な浮遊感があり、燎は危険を感じて路地裏から出ようとした。
 だが、ぐにゃりとゴムを押したような感触があるだけで、出ることは出来ない。やがて路地裏から見える「向こう側」の景色や人々も見えなくなった。
 燎は振り返る───そこに待ち構えていたかのような、「何人もの『読心術者』エニシ」を。
 何人───いや、何十人かもしれない。
「罠か」
 しかし、何の罠だ?
 自分ひとりだけを捕らえても、何もなるまい。燎を人質に取ったところで、元より力の有り余る「神」のような『勇者』達にとっては、何の意味もないだろう。では、何故?
 そこでハッと気付いた燎は、手近な一人のエニシに足を勢いをつけて繰り出した。生身の人間であれば手ごたえのあるところが、スッと一瞬雲が千切れるように消え、再び形を取る。
「蜃気楼……? 幻、か?」
 どちらにしろ、この「エニシ達」は全部が全部、「生身」ではない。これほど近くにいながら気配をまるで感じないことから、燎はそれに気付いたのだ。いや、『読心術者』であれば、気配を消すことくらい簡単かもしれないが───それでも、違和感があったのだ。
<困るんですよ、他の誰ならともかく……『読心術者』を万が一でも『落とされる』ようなことがあってはね>
 どこか笑みを含んだ、冷たい声が突如、燎の頭の中に響き渡る。
 ───これが、『勇者』か。
 声だけで、身体中の筋肉が震える。
<だからまず、無謀にも独りでエニシを洗おうとした貴方を襲わせて頂きました>
「勝手なことばっか言ってんじゃねえ!」
 本能が、こめかみに冷や汗を流させる。だが燎の心は怒りと困惑とで混乱していた。それが『勇者』に対し声を出させたのだ。
「てめえら肉親をなんだと思ってやがんだ! くだらねえ組織なんか作りやがって、ゲームだと!? ふざけんじゃねえよ!」
 含み笑いが、それに応える。
<私はいつでも、真面目ですよ? 『弟想いのお兄さん』>
 背筋がひやりとした。
 同時に怒りも覚えた。
 確かに自分は、双子の弟といつも喧嘩ばかりしている。そのことまで見透かされたことにひやりとし、それゆえに怒りを覚えたのだ。
「俺は弟を簡単に殺したりなんかしねえよ、一緒にすんな!」
 自分はこんなに弟想いだっただろうか? 「こんな『勇者』」が相手だからこそ、今この瞬間だけでも、こんなに弟のことを大事に想うのかもしれない。そのことに困惑もあった。だが、その気持ちに間違いはない、それも確信していた。
<それは私の台詞ですよ。貴方はとても私達と一緒に出来るレベルの人間ではありません。貴方をエニシの偽者でつったのには、ちゃんと理由があるんですよ。素直についてきてくださいね>
「…………!」
 反論しようとした燎の口が、声にならない叫びを発した。空間ごと、全身をどこかに「移されていく」。
 とてつもない激痛が、燎の全身を襲っていた。



「へぇ……変わった、大した業物だねぇ」
 アンティークショップ・レンの店主である碧摩・蓮は、イチから少しの間日本刀を渡してもらい、隅々まで見て、そう一言感想を言った。
「変わった、大した業物って?」
 悠宇が不審そうに眉をひそめる。ご覧、と蓮は悠宇とシュライン、そしてイチに、日本刀の、ある部分を見せた。
「本来ここには銘が入っているはずなんだけどね、特にこれほどの刀であれば入ってなくちゃあおかしい。入っていないのには何か事情があるのか、それとも───」
 そこで蓮は言葉を途切らせ、再び自分の手元に刀を引き寄せて、何かに気付いたようにその部分をゆっくりと手でこすった。
 途端、弾かれたように手を離し、落ちそうになった日本刀をイチが空中で受け取る。
「蓮さん!」
 シュラインが、蓮の抑えた指を見て声を上げた。こすった蓮の指は、しゅうしゅうと煙を上げて酷い火傷のようになっていた。
「なるほどねぇ……『持ち主』以外の人間が『探ろう』とすると、噛み付くってわけかい」
「どういうこと?」
 シュラインが尋ねると、「能力さ」とまだ指を押さえつつ、面白い獲物を見つけたとでもいうような笑みを浮かべて、蓮。
「能力、それか魔力の類で銘を隠してあるんだよ。それも、相当大きな能力か魔力でね」
「シュラインさん、もしかしてイチの両親が隠したのかも」
 悠宇の逸る声に、シュラインは「『勇者』の可能性もあるわ」と慎重に考える。
 イチはじっと自分の愛刀を見ていたが、ふと、胸に取り付けていたマイクから音が発され始めたことに気付き、胸元に視線を移した。悠宇もシュラインも、同様だった。
『シュラインさん、悠宇さん、そしてイチさん。聴こえますか? セレスティです。これから、「勇者」の組織を離れて現在も生存していた研究者と会えることになったので、全員で移動します。今から言う場所に来てください』
「セレスティさん? 本当にセレスティさんなの?」
 シュラインは場所を言う声を聞きながら携帯を取り出し、セレスティの携帯にかけて、念の為そう聞いた。
『ええ。急なことで疑問に思うのも無理もないと思いますが、「刺青から割り出せた」とイチさんにお礼を言いましょう。それでイチさんには分かると思いますので』
 音量を大にしたため、セレスティのその声が悠宇とイチにも届く。悠宇とシュラインの瞳がイチを向く。イチは確かに、「マジかよ」と呟いていた。事情は後ほど聞くことにしよう。今は、どうやら急いだほうがよさそうだ。
「それで、どうしてわざわざその人の元へ? あの家にお呼びできなかったの?」
『研究所を抜け出した時点で、どうやらその方の家と生活出来るお店のある範囲以外には、一歩も出られないよう何らかの「力」で隔離のようにされているらしいのです。お客が来る分には大丈夫なようなのですが』
 それでは、そこへ行く自分達も何かされるかもしれない。だが、それも元から覚悟の上だ。
「今から向かうわ」
 シュラインは言って携帯を切り、悠宇とイチと共に、蓮にお礼を言ってから店を出、待たせておいた車の運転手にセレスティから聞いた場所を正確に言って、合流地点に向かった。



■Session-Sad truth of ENISHI-■

 空間の移動が終わり、日和と大六、武彦と毛布に包まれたラン。そして燎の身体はほぼ同時に音もなく、どこかの部屋に寝かされていた。
「くっ……いてえな……」
 まだ軋みを上げる筋肉を辛うじて動かし、上半身を起こした燎は、他三人の姿を見て驚き駆け寄った。
「おい、草間さん! 他の二人も、どうしたんだ、この怪我!」
 誰かいないのかと薄暗い部屋の襖を開けようとしたが、頑として開かない。うっすらと、隙間が見えて、向こう側にいる男性と女性、それぞれ一人の姿は見えるのに。
「おい! 怪我人がいるんだ、救急車を呼んでくれ!」
 叫んだが、まるで気付いていない。
「高峯……無駄だ、多分……声や音も何もかも通さないバリアみたいなものを、この部屋そのものに……張られているんだろうな……」
 ゴホゴホと咳をしながら、武彦。大六は頑丈だったこともあり比較的軽症だったようで、未だ目覚めぬ日和の具合を診ている。
 そうしているうちに、燎がハッと隙間の向こうを見やった。武彦や大六にも、声が聞こえた。
「こちらのご夫婦がその、『勇者』の組織の研究所から離れ、今も生存している方たちです」
 途中で合流したらしく、セレスティの声の次に、ジュジュが眉をひそめていそうな声。
「どこかで見覚えがあるんダケド……」
「ジュジュさんなら、あるかもしれませんね」
 含みのある言い方をする、セレスティ。
「セレスティさん、おかしいのよ。どうしてもさっきから、高峯さんの携帯だけ捕まらないの」
「情報収集にしても、熱心ですね」
 シュラインの言葉に、和真が考え込んでいる。
「私達は───あの時、脱走出来た時におかしいと、気付くべきでした」
 男性のほうが、話し始める。
 悠宇がごくりと唾を喉の奥に送り込んだ後、イチをちらりと見上げる。思ったよりも、しっかりした表情をしていた。
 男性の話は、こういうものだった。


 代々特殊能力を大小なりとも受け継いできた家系の男性は、元は戦国の時代にはそこそこ名もある武家であったこともあり、特別な刀職人に作らせた日本刀を「家宝」として受け継いできた。
 男性には、弟がいた。
 自分は軽いテレパスを行える程度だったが、弟は何人もの心が全て同時に分かり、それに対応出来る読心術、「化け物」として扱われてきた。
 そんな弟が誘拐されたのは、男性が18の時。弟が泣く時は、いつも川原と場所が決まっていた。その川原へ向かう途中で、弟の泣き声をキャッチしたと思った時には、既に弟が乗せられた白い車が自分の横を通り過ぎるところだった。
 家の者に言うと、両親を始め、「化け物がいなくなった」と言っては大して捜査もしてくれない。独りで探すことにした男性は、やがて年月がすぎ、一人の女性───今の妻と出会い、恋に落ち、結婚した。
 そんな時、30台の男に声をかけられたのだ、という。
「私の研究所に来てみませんか? 『探し物』が見つかるかもしれませんよ」
 実に美しい、そして冷徹な微笑を浮かべる、闇を感じさせる雰囲気を持った、銀色の長髪の男だった。
 もしやと思い、妻と共に男の車に乗せられ「研究所」とやらに来てみると。
 そこには確かに、他の子供達と共に暮らしている、楽しそうに笑っている弟の姿があったのだ。
「あの少年は今19───死なすには未だ惜しい」
 男の言葉に、男性───紫藤・玲人(しどう・れいじ)は愕然とした。弟、縁志(エニシ)の心臓には、研究所を出れば爆発へのカウントダウンを始める「爆弾の鍵」が仕掛けられているのだという。能力でも外すことの出来ない、また、手術でも外すことの出来ない、「封印」や「鍵そのものの時を止める」行為をしてもまた、爆破の時間を進めるだけだ、と。
「ここで研究員として、奥様と共に働きませんか? どうやら奥様も遺伝の知識も豊富な秀才の出だそうですから」
 妻もまた、ちょっとした能力を持ってはいた。遺伝学に対し精通していたのも、事実だ。
 弟を人質にとられ、脅しをかけられて、どうして逆らうことが出来よう。
 玲人はそれから、奇妙なマークがトレードマークの研究員として、その日から世間的には姿を消し、働くようになった。


「イチさん、私はあなたを興信所に連れて行く前、その刺青が気になって財閥下にある病院で『型取り』をさせて頂きました。もしかしたらその刺青から研究所が割り出せると思いましたので」
 ああ、とセレスティの説明にもイチは生返事だ。
 結果、セレスティの行いはこんなにも早く芽を出し、たまらなくなって研究所を抜け出した研究員、紫藤・玲人───イチの両親の居所を突き止めることが出来たのである。
「これが例えば武彦さんの言う『勇者』からのプレゼント、だったとしても大きな収穫ね」
 皮肉にも、こんな親子の再会を果たすとは、と思いつつ、シュライン。
「全部聞くまでは感動の再会とはいかないヨ」
 用心深く、ジュジュ。
「分かってる」
 イチが瞳で、玲人を促す。頷き、口を開こうとした玲人は、妻に遮られた。
「ここからは私が話します。主人も知らないことがあるのです」
「仁美(ひとみ)……どういうことだ?」
 仁美と呼ばれた、まだ20代といっても充分通じるであろう若作りの彼女は、意を決したような目でセレスティ、シュライン、ジュジュ、悠宇、和真、イチと順に視線をめぐらせた。
「わたしと主人は研究員として研究所、『Angel Phantom』で働き続け、主人の弟である縁志さんと直接の対面が必要な時は、面識のないわたしが行っていました」
 組織の名前が初めて明らかになり、自然と一同は緊張する。襖の向こうにいる燎に日和、大六と武彦にも充分に声は聞こえてきていた。無駄とは分かりつつも襖を叩いていた燎の手も、止まる。
「そして───わたしは、縁志に恋の眼差しを受けるようになり、わたしもそうならないように気をつけていました。ですがある晩、縁志さんが研究棟を破って研究員の棟、わたしのところに来て、『ここから逃げよう』と言ったのです。その時のわたしは、一人一人の棟に入れられる孤独と外界への懐かしさに駆られ、心身ともに参っていました。わたしは、縁志さんの手を取ってしまったのです───ついに外に出られた時、縁志さんに確かに愛を感じました。それは人間が危機に陥った時に感じる特有のものかもしれませんが、確かにその時、わたしは縁志さんを愛していたのです」
 仁美はその後、24になっていた縁志と住むところを見つけ、二日が過ぎた時、あっさりと総帥の「力」によって見つけ出され、縁志と共に連れ戻された。
 主人である玲人に内緒にする代わりとして、罰を受けるはずが、縁志が彼女をかばい、自分が罰を受けると言った。
「その時の総帥のしたり顔───悪魔のような顔は、忘れられません」
 仁美の顔は、微かに青褪めていた。
 仁美の代わりに「罰」として、縁志は記憶の半分を抜き取られ、感情の半分以上を意図的に「力」によって奪われ、そのままの状態で「殺された」。
 その間に、まだ8歳の幼さで既に「頭角」を現していた『勇者』により、刺青を左肩の後ろあたりに入れられ、恐らく総帥から入れ知恵をされたのだろう、『勇者』は常に縁志の元へ通っては、
「お前はいつか、ぼくが『一人前』になるまでのパートナーなんだって……10年後にぼくがまたよみがえらせてあげる……感情のない人間に、洗脳なんて……必要ないもんね……」
 と、そんなようなことばかりを言い続けたという。
 仁美のお腹に赤ん坊がいる、と分かったのはそれから暫くしてからだ。正直仁美は、縁志と玲人、どちらの子か自分でも分からなかった。既に堕ろすには危険という段階まできていた仁美は、思い切って生むことに決めた。
「生むのは構いませんが、そのお腹にいる子供は『雑魚』です。研究にも邪魔だ。外で生んで捨ててきてください」
 総帥の言葉に、仁美は打ちひしがれた。研究員の子供は、研究所に入れてももらえない「雑魚」だというのか。こんな研究所に入れられ、色々な実験や洗脳をされるのも可哀想だと思うが、外で捨てたら拾ってももらえずに死んでしまうかもしれない。どんなことより、生きていれば必ずいつか活路が見出せるもの。なのに、それすらも取り上げてしまうなんて。
「縁志のためだ」
 玲人のその一言で、仁美は心を鬼にした。
 そして、監視つきの外界で赤ん坊───イチを生み、せめてもの贈り物として、玲人が「家宝」として持ってきていた日本刀を与えたのだ。
 その後、縁志のあまりに変わり果てた姿にたまらなくなり、研究所を思い切って脱走した玲人と仁美は、「二度と拘束を解かれることのない一生」を、こうして保障されたわけである。
「10年からの罰から解かれた『読心術者』エニシは───感情機能も極度に低下させられているため、裏切るという意志ももたず、ただ命令に従い『勇者』のもとにいる、というわけですか……」
 和真が吟味しながら頭の中を整理する。
 その時、今まで「閉じ込められていた」のがウソのように、燎が叩いていた襖が向こう側に倒れこんだ。
「高峯さん!?」
「日和っ!」
 セレスティの驚きの声とほぼ同時に、燎の後ろに微かに暗がりの中に見えた日和の無残な姿を見て、悠宇が駆け寄る。
「武彦さん!」
 シュラインもまた、あちこちに傷を負い顔色も悪い武彦に走りより、大六から医者の言っていた説明を受けた。
「どこかにいるんデショウ、『勇者』サン。出てきてくれまセンカ!?」
 大六が声を上げるが、いつもなら聴こえてくる筈の冷たい笑い声が聞こえない。
 代わりに、今の隙に入ってきたのだろう、恐らく会話も聞こえていたであろう『読心術者』エニシが玄関に現れた。
「俺を洗うのはもう充分だろう……大体、俺を公的に洗おうとしても……データとしてこの世に存在するはずがないのだから、無理な話」
 低音のその声に、和真が聞きとがめる。
「どういうことだ?」
 エニシは全員の視線を浴びつつ、ゆっくりと彼らの顔を順繰りに見つめながら───こともなげに言う。
「俺は……出生届を出されていない。つまり……戸籍も存在しない……法的には『この世に存在しない人間』とされている……」
 あまりのことに、玲人以外の者は言葉が暫く出せなかった。
「それは確かなのですか、玲人さん」
 セレスティが静かに尋ねると、玲人は項垂れる。
「私の家では、赤ん坊の時に既に人の心を読み、それに応じた仕草をする縁志を不気味に思い───わざと出生届を出さなかったんです」
「……馬鹿な」
 苦しみの中、聞いていた武彦が小さく口にする。
 戸籍のない者は、当然ながら幼稚園にも学校にも行くことが出来ない。成人しても家から持てず、結婚しても戸籍上では妻となる人間は独身ということになってしまうのだ。
「……どこまでも胸糞悪い奴らばっかりだな。それじゃ情報集めしても何も出てこないのは当たり前だ」
 畜生、と、情報集めが出来なかったことに対してではなく歯軋りする、燎。
「それで……どうしてここにユーは来た? 久し振りの兄弟と恋人の対面とは思えないんダヨネ」
 ジュジュがエニシを探るように見つめる。返答は、短かった。
「今度こそ、ランを連れに来た」
 『勇者』の命令で来たのだ───ということは、この近くにやはり、『勇者』がいるということ。
「エニシさん、教えてちょうだい。あなたも『爆弾の鍵』を仕掛けられたことがあったのでしょう? 外し方を教えて」
 毛布に包まれたランに歩み寄ってくるエニシに、シュラインは必死の思いで身を乗り出す。エニシはちらりと武彦を見た。
「『勇者』にしか外せない───俺がランを無事に連れ戻すことが出来たら、その男の『爆弾の鍵』は自然と外れるだろう」
 えっとシュラインが思う間もなく、エニシは次いで、和真を振り返る。
「この男が苦しんでいるのは……半分はお前が『爆弾の鍵』を封印したからだ……タイプの違うものと接触すると、『勇者』の力は意外な結果を生み出す───気をつけることだな」
 チッと小さく舌打ちし、和真は武彦に駆け寄って、すぐに封印を解除する。途端、武彦は大きく息をついた。ようやく少し楽になってきたようだった。
「待って、エニシさん。あなた今」
 「引っかかり」を感じたシュラインの言葉を、上からの轟音が遮った。ガードの者が、セレスティをかばう。
 天井に大きな穴が開き、そこからいつものように「空中に腰掛けた」『勇者』の姿があった。
「ご苦労様です、皆さん。これで晴れて、紫藤夫婦を消すことが出来るというものです」
「何……言ってんだ」
 幾ら名前を呼んでも、微かに目を開くことしかしない日和に震えていた悠宇が、『勇者』を睨め上げる。
「一生監視つきの人生って認めてやったんなら、殺すも何もないだろ!」
「───あなたの意図が、やっと分かりました。少しですけれどね、『勇者』さん」
 考え込んでいたセレスティが、『勇者』を見上げる。
「あなたは待っていたんですね? 私達のように『追及してくる人間』を。そしてそれにより、あなたの『何か』を達成することの出来る───駒を揃えていたのですね?」
 『勇者』はただ、冷たい微笑を美しい顔に貼り付けているだけだ。
 大六が、ハッとした。
「日和さんと話していたことがアリマス。『勇者』とは、『どんな能力も対峙したら吸収してしまう体質』。それなら何故、わざわざ『魔術師』や『剣士』、『読心術者』をそろえる必要があったのだろう、ト」
「体質───だから?」
 シュラインが、思ったままのことを口にしてみる。『勇者』は喉の奥で笑った。
「紫藤夫婦の冥土への旅立ちの餞として教えてさしあげましょう。そう、確かに私達の家系には弱点が少々ありましてね。家系の一部の者からは、能力を吸収出来ないのですよ。体質である力を持ったエニシも同様に、半分ほどしか吸収することは出来ません」
 ───殺さない限りは。
 エニシを24歳の時に殺したその頃、まだ『勇者』はエニシの能力を吸収するまでに「成長」していなかった。だが、今であれば───ランの能力を、吸収することが出来る。半分ほどしか吸収できないとしても、だ。
「『一人前』って、そういうことかよ。それまでのパートナーなんて、まるで道具じゃねえか!」
 燎の言う通りだった。『勇者』はエニシから能力を吸収することが出来ないため、傍に置いて「パートナー」としていたのだ。特に精神的に親しかったわけでもなかったのだろう。
「万が一の時を考えて、エニシの能力、心を読むということに対する『防御』のような力は常に使っています。それに───感情機能がここまで低下してしまっては、反逆も何も人間としてあり得ませんからね」
「……紫藤夫婦と一緒に、私達も殺すつもりですか? 何が目的なのです?」
 セレスティが、確認と共に質問する。イチの能力も紫藤家の性質を受け継いでいるのだとしたら、それは体質からの力。イチの能力を奪うにも、殺す必要がある。だが、それに邪魔である紫藤夫婦を先に消す必要があった。全ては「名目」のため、武彦達は最初から動かされていたのだ。
「目的───私達が求めているものは、『肉体からの解放』です」
 謎の言葉を『勇者』は言い、エニシに手を差し伸べる。
「エニシ───ランをこちらに」
 ほぼ同時に、玲人と仁美が椅子から崩れ落ちる。
「まさか、ユー達も『爆弾の鍵』を?」
 ジュジュが助け起こそうとしながら尋ねると、か細く、「逃げてください」と玲人が言った。
 日和は、あまりの痛さで麻痺してしまっている身体をなんとか動かし、震える手を、ランを抱えたエニシに向けて延ばした。
 ───待って……行かないで……皆、哀しい人ばかり……。
 その心の声が聴こえたのか、エニシの足がふと止まる。
「あと何秒もありませんね───紫藤夫婦が爆破するのは。もう一つ、天国に逝かれる皆さんにお教えしてさしあげましょう。これはエニシ自身も知らないこと、特殊機密事項───紫藤イチの本当の父親は、エニシ。紫藤縁志です」
 弾かれたように、イチはエニシを見上げた。エニシは変わらず無表情だ。
「逃げて!」
 仁美の悲痛な声に、悠宇は日和を、シュラインと大六は武彦を担ぎ上げる。
「何か手が」
 あるはずだ、と焦りながらも考えようとしていた和真の背を、ジュジュが押す。ガードの者にセレスティは半ば無理矢理家から出され、最後まで『勇者』を睨みつけていた燎の背を、玲人が強く押した。
「間に合わねェ!」
 家から出てすぐのところでは、恐らく爆破に巻き込まれる。この日本刀を媒体にした能力で一時的なバリアのようなものを作ることは出来ても、それで果たして全員を護れるかどうか。いや、護れたとしても結界(バリア)を張る「前線」に立つ自分はまず間違いなく巻き込まれるだろう。
 イチは覚悟し、日本刀を構えた。

 一瞬後、

 家が外に向けて爆破した。イチが気合の声と共に日本刀の鞘を抜き、空間を操るように切って結界を作り、強く瞳を閉じた。
 ───ここまでか。

 だが、いつまで経っても自分の身体のどこにも異常はない。
 ぽたりという音で、イチはハッと目を見開いた。
 ランを結界の中に放り投げ、シュラインと武彦がキャッチしたのを見届けた、そのすぐあとの行動だったのだろう。その二つの動作だけでもたったの一瞬だ。
 たったの一瞬で───エニシが、イチをその大きな身体で抱きしめ、護っていた。
 ぽたり、ぽたり。
 流れ出る血が、コンクリートを染めていく。
 長く白いコートを、染めていく。
「馬鹿な───『そんな』意志もないほど感情低下はしていた筈。何故」
 武彦が出逢ってから、初めて『勇者』から笑みが消えた。
「人間だからだよ」
 日和を強く抱きしめながら、悠宇が強い瞳で『勇者』を見上げる。
 その時、シュラインと武彦、そしてセレスティ、和真。ジュジュも大六も燎も日和も悠宇も、同じものを見た気が───した。
 それは、まだ2〜3歳の『勇者』。炎の中、たった独り、裸で泣いている姿。
 この映像は、誰が流しているものだろうか? それとも、『勇者』が自分の記憶を無意識に解放してしまったのだろうか。
「エニシ!」
 イチの声で、一同は我に返る。
 ゆっくりと地面に倒れるエニシは、何か言いかけて微笑み、瞳を閉じた。
「エニシ!!」
 雪が、ゆっくりと地上に舞い降りてきていた。



 その後、エニシはすぐにランの遺体と共にいつもの武彦の腐れ縁が院長という病院に運ばれ、危篤状態となった。
 今回一番酷い怪我を負った日和もまた、同じ病院に長期入院となった。
「武彦さんも、暫くは動けないわね」
 こちらは日和よりは多少早く退院できそうな武彦に、シュラインが、病院のご飯にしては美味しくできていると味見をしてから、手渡す。
「これで、『勇者』は一人になったヨ」
 ジュジュが、すっかり暗くなった帰り道、全員と車に向かいながら言う。悠宇はいつまでも日和の傍を離れたくなかったが、今はかえって日和に気を遣わせてしまい身体にも障ると看護婦やシュライン、セレスティに説得され、ついてきていた。
「まだ組織が残っています」
 セレスティが、あれから降り続けている雪を見上げる。
「いよいよ、か」
 和真が、独り言のように力をこめた声で呟く。
「…………」
 燎は、今まで体験したことのない、あまりの出来事の連続に、まだ心の整理がつかないでいた。だが、組織に対し怒りが増したのは、確かだ。それゆえ、言葉が出てこなかった。
「悠宇サン───」
 大六は声をかけたが、続く言葉を喉の奥に押し込めた。悠宇もイチも、互いに言葉をかける余裕が、今はない。
「───」
 ふと、イチが足を止め、悠宇の頭を抱きしめた。知らず、滂沱のように悠宇は涙を流していた。傍から見れば、傷を舐めあっているとしか映らないだろう。
 だが、ここにいる彼らの仲間は、決してそうは感じなかった。ただ、脱力感と共に何者かへの怒りを心の奥底に感じていた。
「私達が見た『勇者』の小さな頃の錯覚……あれは本当に、錯覚かしら」
 自問自答のように、小さくシュラインは口にする。セレスティは、やがてしゃくり上げ、声を上げて泣き出す悠宇を見つめ、再び雪を降らせる夜闇を見上げて、言った。
「ともかく、私は『標的と目的』を変えようと思います。『勇者』を『いい出来』とした『Angel Phantom』の総帥を標的に、そして目的は───」
 「殲滅」。
 それをあえて、彼は口にしなかった。
 今は運命の奴隷となったエニシ達のことをただ、9人其々の思いをこめて雪の中、思うのだった。
 

 ───本当に、お前の新しい仲間は、
            いい人間ばかりだな……イチ……。



《完》
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1883/セレスティ・カーニンガム (せれすてぃ・かーにんがむ)/男性/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い
3525/羽角・悠宇 (はすみ・ゆう)/男性/16歳/高校生
0585/ジュジュ・ミュージー (ジュジュ・ミュージー)/女性/21歳/デーモン使いの何でも屋(特に暗殺)
3524/初瀬・日和 (はつせ・ひより)/女性/16歳/高校生
0630/蜂須賀・大六 (はちすか・だいろく)/男性/28歳/街のチンピラでデーモン使いの殺し屋
0086/シュライン・エマ (しゅらいん・えま)/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
4584/高峯・燎 (たかみね・りょう)/男性/23歳/銀職人
4012/坂原・和真 (さかはら・かずま)/男性/18歳/フリーター兼鍵請負人
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■         ライター通信          ■
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こんにちは、東圭真喜愛(とうこ まきと)です。
今回、ライターとしてこの物語を書かせていただきました。去年の7月20日まで約一年ほど、身体の不調や父の死去等で仕事を休ませて頂いていたのですが、これからは、身体と相談しながら、確実に、そしていいものを作っていくよう心がけていこうと思っています。覚えていて下さった方々からは、暖かいお迎えのお言葉、本当に嬉しく思いますv また、HPもOMC用のものがリンクされましたので、ご参照くださればと思います(大したものはありませんが;)。

さて今回ですが、ちょっとシリアスな話を、そして、ちょっとわたしのいつもの作品とは趣向が違うと思われた方もいらっしゃるかと思いますが、「暗殺」を目的とする集団の話を書いてみようと思い、皆さんにご協力して頂きましたシリーズの第四弾となりました。シリーズの中でも前回同様くらいには長いものとなってしまいましたが、読みにくいだけとなっていないことを祈ります。因みに今回も最後の章のタイトルを直訳しますと、「エニシの哀しい真実」となります……相変わらず和訳すると安易なと思われるかもしれませんが、やはりこれが一番しっくりくるな、と思いましたので。言わずもがなですが、タイトルの「運命の奴隷」とはエニシを筆頭とした者達のことを書いています。
ダイスですが、これは今までと同じように、そしてまた前回とは別に作ったものを使用しました。今回はお一方だけ1度だけ、そして他の方は2度振ってきてくださいましたので、其々に用意したものとあわせ、プレイングを重視し纏めた上でノベルの設定と組み合わせた筋書きを出すのは、今までで一番大変でした。このシリーズでは間違いなく、一番の「生みの苦しみ」を味わった第四弾でした(笑)。今回は人数的にも偏りがあったためと、ダイス目が悪かったこともあり、今まででこれも一番、参加者様に被害が出てしまいましたが───反響が心配です;
今回はラスト、二通り考えていて最後のほうまで迷っていたのですが、皆様のプレイングと流れを考えると、やはりこちらを、と今回のようなラストになりました。因みにもう一つ考えていたラストというのは、「エニシが次の『課題』を匂わせるような台詞を言って去っていく」というものでした。もちろん、わたしとしてはとても満足のいくものになったのですが、皆様はどう思われたか、かなり心配です。
また、今回はエニシサイド(セレスティさん、悠宇さん、ジュジュさん、シュラインさん、燎さん、和真さん)と『勇者』(英語ではヒーロー=Heroなのですね)サイド(大六さん、日和さん)とに半分くらいでしょうか、個別として分けて書かせて頂きました。お互いのサイドを見ないと分からない部分も今回は遥かに多々あるかと思いますので、もう片方のその部分も是非、どうぞお暇なときにでも。人数的に文字数に偏りも多少あるかと思われますが、わたしはノベルに私情は挟みません。例えばどなたかのPL様とHP等で仲良くしていたとしても、ノベルにそういうものは持ち込めないのです。ノベルとなると、勝手に頭が切り替わり、ですので決してそんなことはありませんので、誤解なきようお願いします<(_ _)>
そして、前回悠宇さんに唄って頂いた唄に一部、間違いがありました;納品してから母に指摘されたのですが、二番の歌詞。「こぶしの花の散る頃に」が出だしが正解でした;
それとプレイング上、前回和真さんが逢って頂いた黒架(こか)というNPCについては、既に異界にて登録済みですので、「■切なさと哀しみと苦しみと■」の前編・後編ノベルと併せまして、お暇で仕方がないという時にでも読んで頂けると幸いです。

■セレスティ・カーニンガム様:いつもご参加、有り難うございますv 今回はバックアップ(建物や機器等)を殆どセレスティさんの財閥に頼らせて頂きました。今回もダイス目がよかったため、あまりガードの方達を使うことはしませんでした。「研究所を離れて今も生存している研究者」とのこと、核心をついてきて下さったので、筆が進めやすかったです。有り難うございます。
■羽角・悠宇様:いつもご参加、有り難うございますv 刀剣コレクター等のサイトでも一つ考えていたシチュエーションというのもあったのですが、それよりも日和さんのことで今回は全面的にそっちに行ってしまい、大変申し訳なく思っています; 最後、イチに抱きしめられたことで一気に様々な想いが嗚咽となって出てくる、ということにさせて頂きましたが、「この場合はこう」というご意見等ありましたら、奇譚なく仰ってくださいませ。
■ジュジュ・ミュージー様:いつもご参加、有り難うございますv 今回は前回にも増して「暗殺を主とする者」とした面を強く出させて頂きましたが、如何でしたでしょうか。大事な人間である草間氏を後ろ髪を引かれる思いで振り切り、調査に徹した姿勢はお見事だったと思います。
■初瀬・日和様:いつもご参加、有り難うございますv 一番被害に遭われてしまいましたのは日和さんでした。車ごと転倒の上、二台の車の至近距離からの爆破による身体の傷はなかなか治らないと思います。『勇者』が狙ってくるであろういわゆる『勇者』サイド側についたPC様が他に大六さんしかいなかったためと、ダイス目が一番悪かったこともありました。今後の日和さんの人生に影響がないか、とても心配です。
■蜂須賀・大六様:初のご参加、有り難うございますv 一番悩んだのは、言葉遣いでした。性格・背景設定と口調とを照らし合わせ、ジュジュさんとお知り合いとの結果、今回は敬語のほか語尾をカタカナで言って頂きましたが、「もっと違う口調だよ」という場合は、遠慮なく仰ってくださいませ; また、オープニングのセレスティさんとの話し合いの結果、プレイングの半分ほどは生かせなく、すみません。『勇者』にはどんな武器もきかない、ということで表記されていた武器の類はあえて出しませんでした。
■シュライン・エマ様:いつもご参加、有り難うございますv 今までご参加されていなかったところを、今回参加してきてくださって、とても嬉しかったです! シリーズものって確かに最初を逃してしまうと、途中参加は色々な意味で気が引けてしまいますよね。でも今回シュラインさんのプレイングは流石、と思いました。恋人である草間氏に注意点を一言、言い置くところ等、そしてシュラインさんならではの推理力も生かさせて頂きました。本当は恋人の傍にいたくても自分が今出来ることを、それも恋人のため、と考えるシュラインさんは、今回特に、わたしにはとても毅然として見えました。
■高峯・燎様:初のご参加、有り難うございますv 単独での行動、というプレイングを拝見して、ちょっと危険かなと思ったのですが、ダイス目も肉体的にそんなに打撃のいくものではないだろう、と判断しまして、あえてプレイングそのままで行動して頂きました。その分、ほかのPC様とあまり接触する機会がなく、ほぼ個別的行動となってしまったことをお許しください。プレイングにありました通り、弟さんのことも絡めて「A.P.」に対する思いをぶつけて頂きましたが、如何でしたでしょうか。
■坂原・和真様:いつもご参加、有り難うございますv 今回ひやりとしたプレイングのうちのおひとりでした。タイプが違うものは接触すると思わぬ効果を生み出すこともある───と、前回黒架と話して頂いた時に、そこまで書かなければいけなかったな、と反省しております;ですが、イチのルーツ、そして組織から辿って、という着眼点はとてもよかったと思います。

「夢」と「命」、そして「愛情」はわたしの全ての作品のテーマと言っても過言ではありません。今回は今までとは「裏の面」からも、そして「表の面」からもそれを入れ込むことが出来て、本当にライター冥利に尽きます。本当にありがとうございます。ついに「A.P.」の本当の中の本当の意味である「Angel Phantom」という組織の名前も明らかになりました。また、皆さんに見て頂いた『勇者』の2〜3歳の時の記憶───次回はこれを元にOPを作ろうかな、と思います。このシリーズは、次の第五弾か、次の次の第六弾で終わる予定です。ランを甦らせ、エニシが死なないように、というのが一番かもしれませんが、果たしてうまくいくかどうか───そして、『勇者』の言っていた「肉体からの解放」とは何のことなのか。次のOPは出来上がるまでに少し時間が今までよりはかかるかもしれませんが、またネタが上がりましたら、ご参加なさらなくても、出来上がっていく(であろう)これからのノベルを拝見して頂けたら、と思います。

なにはともあれ、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
これからも魂を込めて頑張って書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します<(_ _)>

それでは☆
2005/01/30 Makito Touko