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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


調査コードネーム:熱闘激闘☆鬼は外!
執筆ライター  :階アトリ
調査組織名   :界鏡現象〜異界〜
募集予定人数  :1〜8人

------<オープニング>--------------------------------------

 八束ケミカル本社ビル屋上。
 屋上緑化で作られた小さな人工林の中には、小さな赤い鳥居があり、これまた小さな稲荷社があるのだが、参拝する人間は稀だ。真冬である今現在、寒風吹きすさぶこの場所の人口密度は、通常、極めて低い。
 が、本日はとある「祭」により、屋上には人がひしめいていた。天気は晴天。
「はいっ、ほな皆さん、各々豆は行き渡りましたかーっ!?」
 小春日和の空の下、社の主、稲荷ノ・椿(いなりの・つばき)が、特設ステージの上でマイクを握っている。
 ステージの下に集った人々は、手に手に、煎り大豆が山盛り入った桝を持っていた。折りしも、本日は、節分間近の日曜日である。
「只今より、節分記念、椿稲荷神社主宰、サバイバル・仮面豆撒き大会を開催します!」
 皆手が塞がっているので、拍手は起こらない。
「ルールは簡単! 社内でかくれんぼしながら、自分以外の参加者を探し出して、豆を投げて攻撃してください。皆さん、支給されたパーカーを着用しとりますね? そのフードに、豆を入れられた参加者は失格です!」
 椿の言うとおり、集まった全員、同じパーカーを着ている。フードの上部分には芯が入っていて、玉入れの籠のような状態になっている、特製のものである。
「公平を期するため、長髪の方は後ろ髪をまとめて下さい。競技中にパーカーを脱ぐのも失格です。あくまで攻撃は豆で。腕力による実力行使は速攻で反則失格となります! 特殊能力をお持ちの方も、使用は厳禁です。複数で組んで行動するのも、お控えください。あとは、不意打ちOK、トラップOK! 何でもアリです! 不明なことがありましたら、黄色いバッジをつけた審判に声をかけてください。……えー、尚、大豆は後で集めて屋上の鳩のエサにしますので、勿体無いとか思わずに、気兼ねなく景気よく投げて下さい! ……こんだけかな」
 長くて覚えきれなかったのか、椿は手元のメモを読み上げている。ふう、と息を整えてから、マイクを持ってないほうの手を振り上げた。
「ほな、各々、鬼のお面を被って解散! 十分後に競技開始のチャイムが鳴ります! 一時間後に生き残っていた人たちが優勝です!」

 参加者たちが、社内の各所に散ってゆく。社員、会社関係者以外にも、一般の参加者もいるようだ。
 しかし皆、鬼の面の下でうっすら疑問に思っている。
 ……節分って、鬼同士が豆を撒き合うものだったっけ?
 と。 
 

------<スタート>------------------------------

 ほぼ無人になった屋上。さて自分も混じるか、と椿がお面を取り出したところで、後ろから声をかけられた。
「ごめんなさい。ちょっといいかしら」
 よく見知った女性をそこに見つけて、椿は目を細くする。
「来てくれはったんやなあ。おおきにー」
 彼女は、八束ケミカルにて開催される奇妙な祭りに参加してくれている、椿にとって嬉しいお客様である。しかし、彼女はなにも挨拶のためだけに残っていたわけではない。
「特殊能力の使用は厳禁ってことだけど、私は参加しても大丈夫なのかしら?」
 聞けば、彼女は音に関するスペシャリスト。聴音に関しても“特殊能力”レベルのものがあるという。確かに、かくれんぼにおいて非常に有利となってしまうファクターではある。
 少し考えて、椿は答えた。
「参加人数多いから、実際は、かくれんぼ言うても混戦状態になることも多いやろし……。それに、身体能力の個人差は考慮にはいらへんわけやしなあ。強いて言うなら、姐さんはこれでスタートが遅れたことになるから、それがハンデ、ちゅうことでええと思うわ」
 椿の言う通り、社屋中に散った参加者達は既に隠れ場所を探し始めている頃だろう。頷いて、女性は頭の上に被っていたお面を顔に下ろした。線目の和み顔に一本角の赤鬼だ。
 女性が去った後、いそいそと、この日のために角をつけた狐面を被り、パーカーを羽織った椿に、またもや後ろから声がかかった。
「こんにちはなのー!」
 可愛らしい声の主は、二本角の青鬼のお面を被った小さな子供。
「おお。花の化生の坊(ぼん)やないか」
「遊びに来たのー!」
 椿の視線の下、お面から覗いた緑の髪がぴょこぴょこ跳ねる。
「ほうか。おおきにな。けど、ええか。遊ぶからには真剣にやるもんや。つまり真剣勝負や。ワシも参加するからには、坊にかて容赦せえへんからな!」
「真剣勝負なのー!」
 何やらえらそうに胸を反らす椿と、楽しげに飛び跳ねる青鬼。
 そこで、チャイムが鳴った。競技開始を告げる合図である。
「わーい、豆撒きなのー!」
「あっ。ち、ちょっと待……」
 青鬼は、桝から豆を握り、投げた。椿は慌てて逃げようとしたが、あっさり、豆はフードに入った。
 ピピー、とホイッスル。
「失格!」
 胸に黄色いバッジをつけた審判――主催の一人、八束・銀子(はちづか・ぎんこ)が、面を外した椿の額に×印のプリントされたシールを貼り付けた。
「わーい、なの!」
 小さな青鬼は、ぴょんぴょん、嬉しそうに跳ねている。
「何? ひょっとしてワシ、失格者第一号? カッチョ悪いわあ」
「……心配なさらずとも、主催がコッソリ参加しようとした時点で、充分、格好は悪うございますよ、兄様」
 ×のついた額を撫でている椿に、銀子が呆れ顔で溜息を吐いた。

 何はともあれ、豆撒き大会本格開始。
 あちこちで、悲喜こもごもの声が上がり始めている。


------<線目和み系一本角赤鬼 V.S. 一本角の赤鬼>------------------------------

 チャイムからはや数十分。
 和み系の顔をした赤鬼の面をつけた女性は、時間差スタートのハンデも何のそので生き残っていた。
 わはははーくらっとけー、だの、ギャーだのヒーだの、色々な声が遠くで錯綜しているのをよそに、彼女は廊下の柱の影に潜んでいた。背後は階段で、人が上がってきてもすぐにわかるという、攻防に優れた位置取りである。
 彼女の視線の先には、トラップ――薄暗い場所にあるロッカーの影からちらりと見えるように仕込んだ、参加者パーカーと同系色のダンボールを積み重ねたもの――があり、それに気取られた参加者の背後から豆を投げるという作戦で、これまでに数人仕留めていた。しかし、失格のホイッスルが同じ場所で何度も鳴るのに皆気付いたのか、近付く者がいなくなってきている。
「そろそろ、ここも移動したほうがいいかしらね」
 和み系顔のお面の下から、冷静な呟きを漏らし、そっと、彼女は階段を降り始めた。 
 さて、その一階下の、踊り場の奥まった場所には、自販機のある休憩コーナーが設置されている。
 ちょうど今、そこで和んでいる参加者が居た。
 一本角の赤鬼の面を被った少女は、久しぶりのかくれんぼ、鬼ごっこにわくわくしながら参加したものの、体力不足により休憩を余儀なくされたのである。
「こら。ダメよ、末葉(うらは)。フードの中に入っちゃダメなの」
 と。湯気を立てる紙コップを手にソファに座っていた少女が、声を上げた。長い黒髪は、きれいにアップにしてあるのだが、その項のあたりに、フードの中からちょろちょろと前足を伸ばす獣が一匹。
 狐に似た小さなその獣は、少女の飼うイヅナだった。
 普段主人がしない髪型が物珍しいのか、さかんに気にしている。
「あのね、今日は髪をまとめておくようにって、お約束なの。悪戯しないのよ?」
 パーカーを着たまま、苦労して手を伸ばし、少女は小さなイヅナをフードから引っ張り出した。
「もう。ここだと気兼ねなく遊びまわれるからって、はしゃぎすぎちゃダメよ。あっ、こら!」
 イヅナは少女の手から逃れると、今度は大豆の入った桝に鼻面を突っ込んでいる。
「おなかが空いたからって、豆食べちゃだめなのよ。後で鳩さんの餌になるんだから!」
 困った様子でイヅナを抱き上げる、少女の声は踊り場の上まで届いた。
「あら……」
 そう、気配を殺して階段を降りてきた、もう一人の赤鬼から、その姿は丸見え。ラッキーとばかりに、線目の赤鬼は桝から一粒豆を摘んで、階下に落とした。
 豆は狙いを外さなかった。ぽつん、とフードに何かが当たる小さな音に、イヅナを連れた少女は顔を上げる。
 休憩所の出入り口にテグスを張るという用心をしていた少女も、上からの襲撃には備えていなかった。
「失格!」
 ピピー、と、ホイッスル片手に、どこからともなく審判がやってきた。
 お面を外した下から現れたのは、初瀬・日和(はつせ・ひより)。
 額に×印のシールを貼られて、日和は溜息を吐いた。 
「もうあと休憩してもいいんですよね?」
 かくれんぼの緊迫感に、よほど精神的疲労がたまっていた様子である。
 

------<二本角の青鬼 V.S. 二本ヅノの青鬼(ヒゲつき)>------------------------------


 社員食堂周辺は、隠れ場所の多さから激戦区と化していた。
(このへんはもう、あらかたやっつけたかな)
 積み上げられた食堂用の椅子の影で、二本角の青鬼の面を被って、ごく小さく呟く少年が一人。
 持ち前の運動神経をフル活用し、彼は激戦を勝ち抜いた。始めは十数人もこの周辺に隠れていたのだが、今ではせいぜい、遠くにあと一人か二人残っているくらいのものだろう。
 床一杯に散らばる大豆は一体この後誰が掃除をするのか――その誰かを少し気の毒に思いながら、青鬼の彼はこの先の作戦を練る。
 隠れていてもらちがあかない。様子を見ながら打って出るか、と決めた時、どこか遠くでまたホイッスルの音が鳴った。
 一緒に参加した連れの少女はまだ生き残っているだろうか。
 ふとそれを気にした時、食堂の入り口から、きゅう、と小さな鳴き声がした。そこに、小さなイヅナがいる。ケン、と答えて鳴いたのは、少年の足元で大人しくしていた銀色の獣――これもまた、イヅナである。
「あ、こら、白露(しらつゆ)! どこ行くんだよ?」
 思わず呼び止めるのも聞かず、彼のイヅナはするりと尾を翻して、小さなイヅナと共に食堂を出て行ってしまった。
(あれは絶対、日和のところへ遊びに行ったな)
 隙さえあれば、白露は飼い主であるはずの彼を放って、彼の連れである少女の許へ行こうとする。今日などは、煎り大豆をもらえるだろうということもあって、そっちに行ったに違いなかった。
 息を吐き、少年は物陰から離れる。さっき上げた声を、誰かが聞きつけてやって来ないとも限らないので、注意深く。
 さて一方、食堂前の廊下には、あと一人潜んでいた。
 メニューのサンプルが並べられたガラスケースの影に、もう一人の二本角の青鬼がいる。ルールに従って長髪を邪魔にならないように纏めた、体格の良い男だ。ほのぼのとした顔にヒゲ付というお面が、長身、加えて鍛えられた体の持ち主である彼に似合っているか、それとも不似合いに可愛すぎるかは、見る者個人の判断に任せよう。
「ああ……おなか、空きましたねえ……」
 お面の奥の目は、ガラスケースの中に並んだ蝋細工の料理に釘付けだった。
「……カレー……カツカレーなんて、素敵に贅沢ですねえ……コロッケカレーも捨て難いですが……いやしかし、オムライス……親子丼……迷います……ああ、何にせよ、食後はプリンが良いですね……」
 夢見がちな呟きを漏らしながら、彼は桝の大豆を器用にもお箸で摘むと、お面の隙間から口に入れ、ポリポリと食べている。
 ただの煎り大豆も、イマジネーションにより、カレーとかオムライスとか親子丼とかプリンとか、の味に感じられる……のかもしれない。びんぼーにん、という悲しい属性のなせる技であろう。
「……うわあ」
 呟いたのは、食堂出口の扉の影から、姿を見せないように鏡を使って様子を見ていた青鬼の少年だった。
 あまりに気の毒な絵面に一瞬勝負を忘れそうになったが、いかんいかんと思い直して、背後から豆を投げる。
「へへー、いただきー☆」
 確実にやった、と思って、少年はガッツポーズを取ったが。
 ヒゲの青鬼の食べ物への執念は、恐るべき反射神経となって発露した。
「ハッ……!」
 入ると思った一粒が、男の持った箸にしっかりと挟まれている。中国拳法の達人もびっくりなことに。
「げッ、なんだそりゃ嘘だろ!?」
「甘い。甘いですね!」
 ポリポリと豆を食べながら、男はたじろぐ少年に向かってフフフと笑い、今度は自分が豆を投げようとして――しかし、その手が止まった。
 桝の中で豆を握ったところで、ヒゲの青鬼の手はプルプル震えている。
「うぅうっ……!」
 今現在の貧乏な食生活、子供の頃に味わった無人島サバイバル生活。食べ物は大事に、という精神を彼に刻み込んだたくさんの記憶が、走馬灯のように今、フラッシュバックしていた。
 手どころか、体の動きがもう、すっかり止まっている。
「……ええと、いいのかな?」
 少年がその背後に回りこみ、ぽい、と、フードに豆を放り込んだ。
 ピピー、とホイッスルが鳴り響く。
「失格!」
 どこからともなく現れた審判が、ヒゲの青鬼の面を外した。
 面の下から現れたのは、シオン・レ・ハイ。
「食べ物を……食べ物を投げるなんて、私には……!」
 彼が涙を流しているのは、けしてその額に失格の×シールを貼られたせいではない。


------<二本角の青鬼 V.S. なまはげ 、 +α >------------------------------


 オフィス周辺の廊下でも、豆の嵐が収束しつつあった。
「わーい、待てー、なのー!」
 失格者第一号を出した小さな青鬼は、桝を片手に跳び回っている。小さくてすばしっこい彼に先制された犠牲者は多数。
 今もまた、失格のホイッスルが鳴り響いた。
「あ! オレ、負けた? のか??」
 ぺちん、と額に×シールを貼られたのは、これまた小さな男の子だった。ただし、お尻には茶色い尻尾が生えている。
「ちぇー。楽しかったのになあ」
 唇を尖らせた男の子がくるりと回ると、一瞬にしてその体が縮んだ。床に落ちたパーカーの下から出てきたのは、茶色い毛皮の、丸っこい獣。
 小さな青鬼が、お面の奥で目を輝かせる。
「わあ! タヌキさんなのー!」
「!! ま、賢ー! 賢ー!!」
 追いかけられて、化けダヌキが悲鳴を上げた。
 さて、廊下の奥、非常扉の影には、なまはげのお面の少年がいた。競技用パーカーの下は僧侶の服で、そこにきちんとした木彫りでリアル系のお面といういでたちは、見た目、少し怖い。
 かくれんぼ、というより、彼がやっているのは完璧に鬼ごっこだった。人の気配を探し出しては、攻撃、追撃。このあたりに隠れていた参加者たちのほとんどは、このなまはげの手にかかって失格している。
 そして、彼の耳にも、タヌキの悲鳴は届いた。
「悪いごはいねぇが〜!」
「!!」
 一気に廊下を駆けてきたなまはげが投げた豆が、タヌキを追いかけるのに夢中になっていた青鬼のフードに入る。
「失格!」
 ピピー、とホイッスルが響いて、またどこからともなく審判が現れた。
 青鬼のお面を外したのは、藤井・蘭(ふじい・らん)。
「ふにー」
 しょんぼりしている蘭の額に、×のシールがぺたりと貼られる。
「悪ィ。なんか、俺とコイツが組んで勝ったみたいになっちまったな」
 タヌキを抱き上げて、ナマハゲは頭を掻いた。山に住んでいる子ダヌキにも、豆まきを楽しませてやろうと連れてきたのは彼だった。
「明らかなチームプレイがあったわけじゃないし、問題ないわよ」
 言って、蘭にシールを貼った審判が振り返る。何故か、制服を着た少女だ。
「あ゛ー! てめえ!」
 その顔を見て、ナマハゲが声を上げた。彼にとって、あまり好ましくない縁のある相手であった。
「伊吹孝子! こんなとこで何してやがる!」
「? 何よ、いきなり」
 指さされて、伊吹・孝子(いぶき・たかこ)は機嫌悪く眉を上げた。そして、ナマハゲの頭から爪先までまじまじと見て、お面の下に見知った顔があることを悟ったようだ。
「あら。誰かと思ったら。……ふうん。子ダヌキと一緒に豆まき。ヒマなのね、僧兵さん」
 ヒマなのね、に嫌味たらしくアクセントが置かれている。ナマハゲも負けずにがなった。
「そういうてめえも、来てるってことはヒマなんだろうが!」
「う……うるさいわね!」
 孝子の頬が上気した。呪い屋が生業のはずだが、あまり儲かっていない彼女は、審判のアルバイトに飛びついたのであった。……つまり、言われた通り、ヒマなのだ。
「賢ー、誰だこれ?」
 蘭の腕に抱かれながら、円い目をきょとんとさせて、子ダヌキがナマハゲと孝子を交互に見上げている。
 そういえば、孝子の足元にいつもまとわりついている、白い狐がいない。
「ところでお前、いつもの狐はどうしたんだよ? ひょっとして愛想つかされたのか?」
「な……何よ。あんたには関係ないでしょ」
 言われて、孝子はますます機嫌を悪くする。一人よりも二人、ということで、白狐も、今は人に化けてアルバイト中。そこまで経済的に苦しいとは、悟られたくない意地っ張りであった。
「ケンカは良くないの!」
 火花の散る二人の間に、蘭が割って入った。泣きそうな顔に、はたと、二人は我に返る。
「そうだぞ、良くないって、駄菓子屋のおばーちゃんも言ってたぞ」
 子ダヌキも一緒になって言うしで、ナマハゲと制服の少女は、仕方なく口論を止めた。
 そっぽを向きあったまま、握手をすることはなかったが。



------<リアルマスク・鬼 V.S. 懐かしの美少女>------------------------------


「わーははははー! くらっとけー!」
 一階エントランスホール付近では、競技の終わりも近いというのに、まだまだテンションの高い鬼がいた。
 声も体つきも明らかに小学生の少年。すっぽりと顔を覆ったゴム製の、鬼面……というよりはマスクに近い仮面がリアルなホラー風味だった。
 それが、のこのこやってきた参加者をみつけては、平日は案内嬢が座る、半円のカウンターの影から飛び出し、不意打ちで豆を投げている。かなり、シュールな絵だ。
 リアルマスク・鬼のおかげで、吹き抜けのエントランスホールには、わあー、だの、ひいーだのの悲鳴と、断続的な失格のホイッスルが鳴り続いている。まさしく、阿鼻叫喚。
「へへ。作戦勝ちだよな」
 何人目になるのか、新たな失格者を出して嬉しそうなリアルマスク・鬼のパーカーのポケットから、ひょこりと、小さな動物が顔を出した。
「おっと。くーちゃんはちゃんと隠れてろよ」
 掌サイズの、ふかふかしたぬいぐるみキーホルダーのような風情のイヅナと、彼はいつもいっしょなのだ。物珍しげに、木でできた桝を嗅ごうとする鼻を、リアルマスクは元通りポケットに入るように押し戻す。その小さなくーちゃんが、万が一にも豆に当たらないように。
 持ち前のすばしっこさを利用した奇襲作戦は、今の所成功しまくりだった。
「俺の不意打ちからは誰も逃れられないぜ」
 うくく、と笑ったリアルマスク・鬼は、実は大変な見落としをしている。
 実は、彼の隠れているカウンターの内側に。壁一枚を挟んで、隠れている参加者が居たのである。
(どーすっかなあー)
 カウンターの中。
 腕を組んで考え込んでいるのは、昔懐かしい、緑の髪に黄色い角、青いアイシャドウが色っぽい、今も根強い人気を誇る美少女キャラクター……の、お面を被った少年である。鬼といえばラムちゃんだろ、と持ち出してくる彼のセンスには、独特のものがあると思われた。
(タイムアップまで隠れてられそうだと思ってたんだけどなあ。甘かったか)
 ラムちゃんのお面の下で、少年はうむむと唸る。
 勝負事には燃えるタチ。賞品はなくともやる気満々でやってきた彼だが、作戦としては『君子危うきに近寄らず』を貫いていた。
 つまり、逃げ隠れをつづけて、ここまで生き残ったのである。
(こんな大きなビルだしねー。絶対、穴場の隠れ場所あると思ってたんだよな。うん)
 エントランスホールはがらんして広く、見通しが良い。
 開始三十分ほどでここにたどり着いた彼は、あとは終了を待つのみだと余裕を持っていたのだが。
 偶然にも、その少し後に訪れたリアルマスク・鬼も、同じ場所を隠れ場所に選んでしまったのである。
 もっとも、カウンターの外側に陣取った彼は、もっぱら、そこを不意打ちに利用していた。
 おかげで、最初から居た彼のほうは、新しくやってきた参加者に見付かる心配がなかった。しかし。
 ピピー、と、またもやホイッスル。
「よっしゃあ! わははは、どんどん来ーい!」
 リアルマスク・鬼は今のところエントランスホールに下りてくるほかの鬼をやっつけるのに忙しいが、もうかなりの失格者が出ているのだから、そろそろ誰もやってこなくなるだろう。
 ヒマになったら、ひょっとして、カウンターの中を覗いてみようなんて気を起こすかもしれない。
(うーん。どーすっかなあー)
 カウンターの中で、少年は時計を見る。終了まで、あと十分を切った。
 万が一見付かっても、避けられる自信はある。見付かるギリギリまで隠れ続けるか、今打って出るか。
 様子を覗うべく、そっと外を覗う。
 夜、突然道で出会ったら絶対怖い、ゴム製のマスクが見えた。
(……どこから出してきたんだろ、あれ)
 自分のお面は棚に上げ、彼が思った時。
「……ありゃ。弾切れだ」
 リアルマスクの呟きが聞こえた。
 不意打ちしまくり、投げまくりがたたって、手の中の桝が空っぽになった――らしい。
 チャンス、とばかりに、カウンターの内側の彼は立ち上がった。
「げげっ! そんなとこに居たのかよっ」
 気付いて逃げ出したリアルマスクの背中に向かって、豆が投げられる。
 豆は、狙いを外さず、フードの中に入った。ピピー、とホイッスル。
「嘘! 今の入ったのか!?」
 審判に、フードの中から豆をつまみ出して見せられて、少年はマスクを外した。
 現れたのは、鈴森・鎮(すずもり・しず)。
 悔しそうな彼に、カウンターの向こうから懐かしの美少女が男の声で笑った。
「俺、弓道部だからね! 狙って当てるのはバッチリ!」
 そう言われても、鎮はやはり悔しそうだ。
「ああもう! なんでこんな近くに隠れてたの気付かなかったんだ、俺ー!」
 攻撃しようとしている人間に不意打ちをしていたぶん、自分と同じように隠れている人間には神経が回らなかった、ということだろう。
「そりゃ、やっぱり、作戦勝ちっ!」
「それ、さっきまで俺のセリフだったのに!!」
 やったぜ、と誇らしげなVサインを見せ付けられて、くうー、と鎮が頭を抱えた。



------<閉会式>------------------------------


 一時間経過のチャイムが鳴った。
 鬼のお面をつけたまま戻ってきた生き残りは、4名。
 惜しみない拍手で迎えられながら、彼らは舞台に上がった。
 まず、線目で笑う一本角の赤鬼のお面を外したのはシュライン・エマ。
「なんていうか、鬼はウチ、福もウチって感じ。今年お世話になる鬼さん、みんな今日会った方々みたいにフレンドリーだったら嬉しいな」
 椿にマイクを向けられて、シュラインは笑った。
 確かにその通り、と会場に笑いが起こる。
 次に、二本角の青鬼のお面を外したのは、羽角・悠宇(はすみ・ゆう)。
「会社ビル使い切って豆まきって、大胆というかなんというか……ま、面白かったぜ」
「良かった。おもろいことはええことや」
 面白かったという評価に、椿が糸のように目を細めた。
 続いて、僧衣のナマハゲがお面を外す。現れたのは、菱・賢(ひし・まさる)だった。
「悪い子はいねが〜! ……っと。いいか。狐がいるけど、絶対喧嘩するなよ」
 後半は、足元に隠れて様子を覗っているタヌキへ向けての言葉だ。
 聞いて、椿が苦笑している。
「賢殿。山の取り合いでもするんでなかったら、今時、狐やからタヌキやからって、ケンカはしませんよってに。なあ?」
「……ほんとか?」
 笑顔を向けられたが、子タヌキのほうは少々警戒気味である。
 最後に、懐かしの美少女のお面を外したのは、葉室・穂積(はむろ・ほづみ)。
「あー、燃えた。楽しかった! あのさ、ところで、歳の数だけ豆が食べられるんだよね。おれまだ十七粒しか食べられなくて残念だよ」
 と、マイクに向かって穂積が言うと、舞台下で鎮がぼそりと呟いた。
「……俺はちょっと大変だから遠慮したいけどな」
 子供に見えても、鎌鼬。実際の年齢は497歳の鎮にとっては、そうかもしれなかった。
「ほな、この4名様には拍手で!」
 お開きといきましょうか、と言いかけた椿を、銀子が横から慌ててつつく。
「兄様。まだありますでしょう」
 言われて、首を傾げ、それからやっと思い出し、椿は手を打った。
「そや! 恵方巻き食べて帰ってや!」
 昼食の時間だったということもあり、拍手が起こる。
 特に拍手が激しいと思われる方向には、食貧乏故に敗北したシオンの姿があった。


 今年の恵方は南南西。
 参加者全員でその方向に向かい、黙々と太巻きを丸齧り。
 これにて、閉会とあいなったのでありました。


                                   END

 
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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【0086/シュライン・エマ(しゅらいん・えま/26歳/女性/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】(パパグ)
【3524/初瀬・日和(はつせ・ひより)/16歳/女性/高校生】(グパパ)
【3525/羽角・悠宇(はすみ・ゆう)/16歳/男性/高校生】(チグパ)
【3356/シオン・レ・ハイ(しおん・れ・はい)/42歳/男性/びんぼーにん(食住)+α】(パグチ)
【2163/藤井・蘭(ふじい・らん)/1歳/男性/藤井家の居候】(グパチ)
【3070/菱・賢(ひし・まさる)/16歳/男性/高校生兼僧兵】(パチグ)
【2320/鈴森・鎮(すずもり・しず)/497歳/男性/鎌鼬参番手】(パチチ)
【4188/葉室・穂積(はむろ・ほづみ)/17歳/男性/高校生】(チョグチョ)

参加お申し込み順。()内は今回勝敗判定に用いたジャンケンの手順です。


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          ライター通信         
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 いつもお世話になっております!
 こんにちは。担当ライター、階アトリです。
 一週間ほど節分からずれての納品、申し訳ありません。
 変なお祭りへのご参加、ありがとうございます!
 異界もので毎回心がけている通り、今回も全ての方に同一の文章で納品させていただいております。
 お楽しみいただけましたら幸いなのですが……。

 ご意見ご感想、またご不満などございましたら、ファンメールにてご連絡くださいませ。
 今後の参考にさせていただきます。
 
 節分を過ぎたとはいえ、まだまだ寒い折、皆様お体にはお気をつけくださいませ。
 では、失礼します。