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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


因幡恵美がスーパー三下に殺されてから


 因幡恵美が、
 スーパー三下に、
 殺されてから。

 世界の何が変わったのだろう、今日も雀は朝に鳴き、鴉が夕焼けを知らせてる。青い空に青い雨、狐の嫁入りだ、ああ、そんな、それさえ日常。
 因幡恵美は殺されたのだけど、
 それが随分と悲しい人も、たくさん居たのだけど。
 畳の上で血溜まりになっていた。そこは、仏壇のある部屋。彼女と生きた彼女達に手を合わせる場所だった。
 そういえばその人達も、S三下に殺されたんだっけ。
 、
 座敷童の居る家は栄え、
 座敷童の消えた家は、没落する。
 伝承通りと言えるのだろうか、この仕打ちが。けど確かにもうあやかし荘は存在しない、あるのは、無駄にでかい建物、何処か寂れてしまった建物、住居人もたくさん減って、もしここに地震が起きたら、いいえ、嵐如きで、こんな不思議な館も、
 殺されそうな――

 スーパー三下が、
 因幡恵美を、
 殺してから。

 この異界の日々は、それと、三下は、何を思っているのか。
 青い空に青い雨、狐の嫁入り。


◇◆◇


 立花・正義/男性/25歳/警察庁特殊能力特別対策情報局局長
 三年前、の彼。
 三年後の現在の、彼の、目的、
 、
 世界征服倶楽部の力。

◇◆◇


 青い空に、青い雨。虹が約束されるような、現実に現れた些細な幻想。けれど、外界からそこは断絶されている。単純に部屋は締め切られている。隙間風、そして隙間光も許さない、あの換気扇すら止めたら、何時も経たぬ内に真空になるのではないか――それくらい、閉鎖した空間に。
 男は、無造作に入ってきた。
 そして、すぐにそれと、それに向かう人に目を止める。振り向かない人に目を止める。ドアを閉める。歩を進める。
 それは存外な作りの癖に、世界中のガラクタを、子供がツリーの飾りつけするようひっちゃかめっちゃ埋め込んだような癖に、
 中心に境界線、左側は純白、右側は漆黒と、色彩の中で最も両極な二つで構成されて居るせいか、その“モノ”から受ける印象は、一本芯が通ったような。
 解り易く言えば、このモノの用途がはっきりしている。そして、それは調書からも、あの男が呼吸のように仕入れてくる情報から察している。そしてそれは真実なのだろう、全く、
 タイムマシーン。
 時間の跳躍。神の領域に足を踏み入れるどころか、その粋すら突き破る貴方はまさに、
「狂った、異端たる科学者だ」
 科学という神にすら歯向かってみせる――そう、それに向かう人に正義は語りかけた。
 モノクロのマシーンに、工具を持って向かう、その背中に。それは制服の上からマントのように、まるで凡百の科学者とは異次元の存在であるかを主張するかのよう、黒衣を纏っている。だが、後姿だから制服を着ている事は解る筈は無い。即ち、
 事前に、正義はその科学者について、容姿ですら知っていた。それは、
 手に入れたい、物だから、だから、
「刀の無い侍が居たとします。それは、侍と言えるでしょうか?」
 彼は交渉する。
「違うでしょう。刀は武士の魂だ、それを無くせば、唯の人」
 続けて、
「四菱の盾は脆くなり、魔法なる剣も無い、世界征服倶楽部があるとします、それは」
「黙りなさい」
 声がした。
 黒衣が、喋った。否、
 黒衣の裏側にある、(裏の裏は)表の、上部にある14歳の、凄烈な顔の口が、喋った。
「……これは意外だ」
 本当は、そう意外には思っていない。わざと、驚いた。嫌味ったらしく。
「聞いていたのですか? 己の言葉こそ福音であり、他者の言葉など、迷い羊の鳴き声よりも劣ると言い放ち、学会から永久に追放された貴方が」
「蝉の声が鼓膜に触らない人間は居ないわ」
「いや、意外だ。とても、意外だ、だが」
 ディレクターの言うとおりだ。
「ギルフォード襲撃事件は、確実に貴方を変えた。状況的に、そして、心情的に」
「………」
 鍵屋智子が作った世界征服倶楽部。
 四菱の命と引き換えに、自分の命を捨てたティース・ベルハイム。
 一つ、寂しくなっている。二人だけの、倶楽部。寂しいと、彼女は思っている。
「鍵屋智子らしくは無く、まるで異なる世界の存在かのように」
 そして、
 ディレクターからの情報を、まとめて彼女に。
「それは十四歳の少女としては至極普通な」
「……IO2は、確かに私を認めなかったあの馬鹿科学者達よりかはマシね」
「失った者への思いは、あの日泣いた理由は」
「だけど、私が誰かの犬に? よしんば私が誇り高き犬として、猿が犬を飼うなんて現象が発生したら」
「未だ解らないので」
「犬猿の仲という自明の理についても解らない愚鈍な頭というカボチャ、その莫大なカボチャ畑に一つずつ叩き込んで」
「貴方はタイムマシンを作る事で、気を紛らわしている」
「結局は解らないカボチャを、蹴り潰さなければならないわ」
「科学で解らぬ感情から、いや、感情という、生まれて初めて理解出来ない物から、目を逸らしている」
「……貴方の言葉こそ、理解、不能ね」
 そう言って彼女は、手を止めた。
 黒衣の裾から手を出して、作りかけのタイムマシンを見つめる。「私と、その他は、絶対に理解しあえない。私は高みに生きていた、愚か者は追いつけない」
 馬の耳と私の言葉、と、彼女は結んだ。正義は
「言葉での交渉は決裂ですか。これは良くない事だな」だが、結局私は、所詮、
 正義という者は。
「力有って、ですか」

 青い空、青い雨、
 それが黒衣の少女に降りしきる。
 途端、世界征服倶楽部の部室が、崩れたからだ。
 取り囲むよう控えていた部下の、只ならぬ能力によって。

 落ちてきた屋根を、赤いバリアで防ぐ、彼女、
 次に空に旋回していた四菱のロゴが入ったヘリコプターから、対戦獣装備の兵士が降って来る。だがその数は少なく、部下に任せれば良い程。彼女達の戦力が落ちているのは明白だ、
 それを保障するのが交渉のカードであり、また、その手薄に腕を突っ込むのが、今現在であり。弱点は素晴らしい、全て自分に有効的に活用出来るから、だから、
「そんな物を用意しても」
 目の前の障害、
「正義は勝つ、と思いますよ」
 己が為だけの思考が蛇の行進のよう動き始めた。作業を再開する少女の背中の前に、蜃気楼のように現れた物、守護者、全く、
「オカルティックサイエンティスト」
 怪異と科学を婚姻させた者、その対象は、
 死体にも及ぶ――

 ティース・ベルハイム。

 心臓以外は本物だ。
 心臓以内は偽物だ。
 透明の特殊体液を血管に回す、だから肉は腐れない。だけど、脳の機能は停止した。そもそもこれには魂が無い、即ち、
 既存の科学だけでは、唯、呼吸するだけの身体を、鍵屋智子の科学力は
 唯、呼吸して、
 戦う身体に。
 ――刹那、目に生気の無い、ティース・ベルハイム。単純な火炎を掌から射出する。目前に迫る地獄の業火、
 正義は、鳥篭に囲ってみせた。そしてその侭無造作に投げる、ティースの頭に直撃する、その部分が、欠けた。雪のように崩れていった。だけど魂の無い彼は痛みを覚えず、また一つ、魔法を放ち、すると正義は鳥篭に入れ、
 お嬢様の友達だからという名目で戦う四菱の尖兵と、仕事ゆえに戦うIO2の部下の戦闘光景に比べて、お互いに足を動かさず、気合を声にして叫ぶでもない二人は、そもそも闘争と言えるのか。まるで作業のような一幕だ、延々と続くキャッチボール、
 気になる事と言えば、自分の身体が雨に濡れる事、それだけである。
 例え、目の前のティース・ベルハイムが、唯の塵になろうとも、
 それは身体であり、心は、魂は、とうに無いから、
 鍵屋智子と同じ理由で、
 彼は、泣きもしない。笑いもしない。
 作業のような戦闘は、最後に、最初の鳥篭に捉えた魔法の炎の扉を開け、羽も無いけど逃げ出した炎で、
 ティースの身体が、晴れた空の雨等消すように燃えた事で、煙が空に昇っていく事で。
 人の焼ける臭いは余りしない。そう、少女に作られていたからか。
 ティース・ベルハイムじゃないからか。


◇◆◇


 四菱の、正確には四菱桜護衛の戦力は酷く弱くなっているのだろう。
 実際、今、四菱は学園に来ていない。あれ程、普通の子として成長させる教育方針ゆえに、普通の子じゃない具体的には営利誘拐など、それこそ風のように当たり前の運命の少女を、普通の学校に通わせていたのに。
 それが出来ない程、ボディーガードは死んでしまったのだ。大きな屋敷の部屋で、護るしか無い程に。その力の再構築には、少なくとも後十日はかかる。今は、酷く弱い。
 実際、己を含むIO2の面子に、作業のように退けられている彼等。
 学友を護りきれなかった、大罪の彼等。ねぇ、鍵屋さん。
「貴方はここに居てはいけない」
 相変わらず黒衣を羽織る背中へ。立花正義は、未だ彼女の顔を見ていない。
 そんな事は関係無い。
「しかるべき頭脳は、しかるべき場所で使われるべきです。剣も盾も無い貴方の頭脳は、何時殺されるか解らない」
 何せこんな時代だから、こんな、世の中だから。
 人殺しが雨のように降る東京。
「IO2という傘の下に、貴方と、四菱桜を」
「科学者を舐めないで」
 、
「世界征服倶楽部を、舐めないで」
 鍵屋智子。
 鍵屋、智子、彼女は振り返る。まだ完成しきっていないマシーン、女との約束から、
 振り返った。
「私はここを離れないわ、ここは、世界制服倶楽部なんだから」
 その瞳には涙を浮かべていたから、
「ここが私の生きる場所よ。 ……どうせ、解らないでしょう。私の言う事なんか愚か者には」
 その心は酷く弱っていたから、
「私しか知らなくていい、私が理解してればいい」
 立花正義は、
「邪魔しないで」

 慰めなんかしない、言葉もかけない、
 無言で彼女の心に、鎖をかけて、捕らえた。


◇◆◇


 そして、彼女をその場所で、屋根の無い場所で、タイムマシーンを作り続ける彼女を、鉄格子の檻で囲った後、
 連絡用に、現実的な携帯電話を一つ預け、立花正義は去る。何の力を借りたいのか、タイムマシーンは完成させるのか、させないのか、
 どちらにしろ、「とりあえず、成功ですかね」
 立花正義は、世界政府倶楽部の力を手に入れた。





◇◆ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ◆◇
 3786/立花・正義(たちばな・せいぎ)/男性/25歳/警察庁特殊能力特別対策情報局局長

◇◆ ライター通信 ◆◇
 二度めまして、エイひとでございます。ゲリラ開けなのにご参加頂きありがとうございました。
 プレにありました通り、一応は世界征服倶楽部の智子とのコネクション成立という事で。四菱の財閥力は余り求めていなかったみたいなので。
 プレイングには心を能力で捕らえる、とまでは無かったのですが、キャラクターデーターを見て、こう判断致しました。あくまで協力という形を望んでいらしてたらまずかったかもしれませんが; 力ずくに出ていたので、有りかな、と。
 一つ残念だったのが、手に入れた頭脳で何をするのかがプレイングされてなかった事でしょうかー; 次回に期待と言いたいのですが、参加できるかわかりませんし、その間に彼女の心の鎖が外れる可能性も無くはないので。とりあえず、彼女は約束を優先すると思いますので。それでも構わないのでしたら無問題かと思われます。
 という訳ですので今回はありがとうございました。またよろしゅうお願いします。
[異界更新]
 立花正義、世界制服倶楽部の鍵屋智子の心を捕らえ、己に対する軽い隷属を完了。以後、何らかのアクションで、彼女の心の鎖が外れない限り、智子は正義の命令を聞く。
 現在彼女はある女の約束で、タイムマシーンを作り続けているが、現状況ではその進展も、彼の言葉が優先される。