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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


ワンダフルな一日

「ふむ、こんなものかな」
淡いピンク色の透明な液体が入ったコップを、テーブルにコトリと置きながらシリューナがつぶやいた。と、その時シャワーを浴びていたティレイラがバスタオル姿でバスルームから出てきた。
「あー、さっぱりしたー。でものど渇いちゃった。あれ、可愛いジュース〜」
そう言いながらティレイラが持ち上げたコップは先ほどシリューナが置いたばかりのコップだ。
「あ、ティレ、それは・・・」
シリューナが言いかけるが間に合わずコップの中身は全てティレイラが飲み干してしまっていた。
「へ?あ、もしかしてお姉さま欲しかったの?ごめんなさ〜い」
そう言って舌を出してみせるティレイラだが、様子がおかしい。淡くその体の輪郭が光りだしている。
「呪いをこめた魔法の水だったのに・・・」
やれやれという風に首を振りながらボソリとシリューナが呟く。それに驚いてティレイラが声を上げる。
「え!?」
が、既に全部飲んだ後だ。と、光がわずかに強くなったかと思うと、ティレイラの輪郭がぼやけはじめ、徐々に変化していく。最初はもやもやとしたティレイラサイズの霧のようだったものが少しずつ小さくなっていき、輪郭がはっきりしてくる。はっきりしてくるにつれ何に変化したのかわかるようになった。
「猫・・・、いや、犬か?」
シリューナの予想通り犬になっていた。番犬として近所でよく飼われているサイズの犬だ。中型犬というのだろうか。そのくらいの大きさだ。色は普通に茶色、耳は立っていて目は黒くきらきらして見える。しっぽは少しカールしていて毛が長めだ。そのしっぽを思い切り左右にぱたぱたとふっている。
「わん!」
何故か嬉しそうに鳴く。
「犬になったか・・・。それにしても何でこんなに嬉しそうなんだティレは。嬉しいのか?犬になって?」
「わん!」
問いかけても「わん」としか返って来ない。当然だ。ティレイラは犬になってしまったのだから。
「・・・さて、どうするかな。このまま放っておいても、そこまで強い呪いはかけてないから勝手に戻るとは思うが・・・。放っておいてあとで文句言われても困るしな・・・。だが元に戻す呪いの方はまだ出来上がってないぞ。どうする、ティレ?」
「わん」としか返事が返って来ないと分かっていながらも、思わず訊いてしまう。
「わふ?」
犬になったティレイラは小首をかしげてそれだけ言った。相変わらず尻尾は左右にパタパタとせわしなく振られている。
「まあ、返事はできないだろうな・・・。しかし困ったな。これから出かける用事があるというのに。ティレがこれじゃあ・・・いや・・・。犬なんだな・・・。犬なら留守番できるじゃないか。できるよな、ティレ?」
「わん」
「何て言ってるのか分からないが、まあ、できるだろう。番犬頼んだからな。私は少し出かけてくる。一時間ほどで戻るから大したことも起こらないだろう」
そういうとシリューナは本当に出かける準備をし、物置にあったロープで家の前に犬になったティレイラをつないで、本当に出かけて行った。
「くぅ〜ん・・・」
そのうしろ姿を見ながら犬になったティレの尻尾は悲しげにたれていた。

そして一時間後。約束どおり一時間ほどで帰ってきたシリューナが見たのはバスタオル姿で家の前につながれているティレイラだった。しかも半泣きである。
「ティレ!いつ元に戻った?そんなに弱い呪いじゃなかったつもりなんだが・・・」
と少し慌てながらシリューナが言うのをティレイラがさえぎって半泣きのままで叫ぶ。
「ひどいです、お姉さま!いつ元に戻るか分からないのに外につないで行くなんて!さっきからずっと人に見られててすごく恥ずかしいよ〜!!うわ〜ん!!」
ついに泣き出してしまったティレイラに少し困りながらも、シリューナが周囲を見渡すと人だかりができていた。しかも皆男だ。
「何を見ている!?ティレは見世物じゃないぞ!?」
シリューナがすごむと見ていた男らは慌てて散り始めた。
「すまない、ティレ。とにかく家に入ろう」
「はい〜」
シリューナが、泣きながらうなづくティレイラの頭をなでてやりながら、家に入る。

「ティレ、すまなかったな、こんなことになって」
「ほんとですよ、もう!!うら若き乙女の肌を公衆の面前にさらすなんてひどすぎます!!わざとじゃないから許しますけど今度何かあったら許さないんだからっ!」
「やれやれ・・・。元はと言えばティレが呪いの薬を飲んでしまったからだろうに・・・」
「だ・・・だって、あんな風にテーブルの上にコップに入って置いてあったら、まさか呪いのお薬だなんて思わないですよ!色だって綺麗で可愛かったし絶対ジュースだと思ったもん!」
「あぁ、分かったよ、私も悪かった。それは認める。だが、テーブルに置いてあるからって勝手に飲み干すのもどうかと思うぞ」
「わっ、分かりましたよ、あやまればいいんでしょ!?ごめんなさい!」
「何だか気に入らんが・・・まあ、いい。お互い悪かったということで一件落着だな」
「お姉さま、今度から呪いのお薬を作るときは絶対普通のコップに入れないで下さいね!?」
「あぁ、分かった。今回ので懲りた」
「絶対ですよ!?」
「しつこいぞ」
「むぅ。でもおいしかったなぁ、あのお薬。ほんのり甘くてさくらんぼみたいな味で」
その言葉にがくりと肩を落としながらシリューナが呟く。
「・・・懲りてないだろ、ティレ」


                           終