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<東京怪談・PCゲームノベル>


鬼は外!

 時は二月三日――昔からその日、人はこう言いながら福豆を投げたのだ。一般的には「鬼は外」と言いながら外へ。「福は内」と言いながら中へ――そんな風習を利用して、人と鬼が住まうこの地では毎年この日に各地で人対鬼の戦いが行われていた。

 ただし、武器は福豆のみ。

 戦い、とは言っても交流活動と言ってもいいぐらいのもので、結構楽しみながら人は鬼に向かって豆を投げ、鬼はそれから逃げたり、時には反撃したりしていた。

 そしてここ、古屋駄菓子屋店脇の公園でも鬼対人の戦いが、今ここに幕を開けた。
 豆を投げるのは和州狐呼。狐呼は脇に福豆が大量に入った袋を抱えながら、ふわぁ、とあくびをした。豆を当てる相手は数メートル先に立つ高校生で吸血鬼な工藤亮。
 「それでは、用意…スタート」
 主催の駄菓子屋の店主が口火を切った。
 狐呼はとりあえず、袋に手を突っ込み福豆を手にした。
 「さて、どないしよーかな…」
 とりあえず参加したものの、やっぱ面倒くさいなぁ、と思いながらぺいっと投げた。気のなさそうに投げたソレは、なんと亮の眉間にばっちり命中したのだ。お、当たったやん、と思いながらまた袋に手をつっこむ。
 「いってぇ!」
 そう言って亮は顔を抑える。本来なら、すぐに逃げるところなのだが、どうも相手がすぐに攻撃を仕掛けてこなさそうに見えて油断したのだ。そう、たとえすぐ豆を投げてきたとしても、当たりそうにない――とまで考えたのだ。それが、適当に、かつ面倒くさそうに投げたその豆は、的確に彼の眉間に命中したのである。眉と眉の間に、赤い後がはっきりと残った。
 「ほりゃ」
 ぺいぺいっと狐呼が豆をぶつける。やる気があるのか無いのか――地面に座り込んで、だ。が、その豆は外すことなく確実に亮の身体にぶつかっていく。気の無い投げ方をしているというのに、それはまるで意志を持ったかのように亮に向かって飛んでいくのだ。偶然なのかそうでないのか――だが、確実にそれは亮にとってダメージになっていく。
 逃げ回ればよさそうだが、どうも相手が座り込んでると、動きにくいらしく、亮は狐呼の周辺をうろちょろするに留めた――が、そろそろ豆を投げようかな、と
 「そろそろいこかー」
 狐呼がそう呟いて立ち上がると、袋から豆をわしづかみにして取り出し、
 「ていや!」
 と投げたのだ。先ほどよりは、力を込めて。
 自分の年の数よりももっと多くの豆が勢いよく亮めがけて飛ぶものの、亮は飛んでそれを避けた。
 「あぶねぇあぶねぇ…」
 とん、と放置されているドラム缶に着地する。
 「む…逃げよったな」
 と、流石にどこかむかついたのか、狐呼は再び豆を勢いよく亮めがけて投げる。
 「当たるか!」
 亮はまた飛び、虚しく豆はドラム缶に当たり、ぱらぱらと五月雨のような音が響いた。
 「おとなしく当たらんかい!」
 逃げる亮めがけて狐呼は豆を投げる。
 「やだよ!さっきの顔の一発滅茶苦茶痛かったんだから!」
 走りながら叫ぶ。そしてぴょい、と軽く飛んで滑り台に着地する。
 「ここまできやがれってんだ」
 亮が狐呼の方を確認すると、狐呼は何と亮を追い回すことを放棄して、座り込みながら豆をぽりぽりと食べ始めていたのだ。追い掛け回すのが面倒くさくなり、どうせだから、と豆を食べることを思いついたらしい。脇に抱えた袋から、豆を取り出しては口に運んでいく。
 「お、おい!何やってんだよ!」
 そう慌てて亮が狐呼に向かって叫ぶと
 「うまいで、これ」
 「味なんて聞いてねぇよ!」
 が、そんなの意に介さず、狐呼はぽりぽりと袋から豆を取り出して食べ続けた――美味しそうに。
 「豆食うのはなぁ…豆まき終わった後だろ!」
 亮が微妙にぶち切れ、その赤い目が輝いた。滑り台から飛び降りて、落ちている豆を拾い集め――投げた。ひゅん、と風を切って飛ぶ豆だったが、ひょいと軽く狐呼に避けられてしまう。投げてはびよん、と狐呼が飛び、豆は寂しく地に落ちる。その繰り返しだ。ふわぁ、と時折あくびをするが、彼女は確実に豆の散弾から身を守る。
 「そないなん、当たるわけないやんか」
 笑いながら狐呼は言う。
 「う、うぬぬぬ…」
 悔しそうに亮は再び豆を投げるが――やはりひょひょいと避けられる。
 「当てられるもんなら当ててみいや」
 とひょいひょいと狐呼は豆をかわしていく。
 一通り、拾った豆を投げた後で――
 「なんや、結局あたらんかったなぁ…。やる気あるん?」
 ふわぁ…と全部避けきって狐呼はあくびをしながら言った。
 「ほな、次はうちの番やで」
 豆を袋から取り出して、とりゃ、と投げつけた。亮はそれから逃げるために飛んだが、鉄棒に着地したときに逃げたはずの豆に当たったのだ。
 「二段攻撃かよ、畜生!」
 ぱっぱ、と頭に降り注いだ豆を払うが、
 「甘いで、亮君」
 ひゅん、と狐呼の腕が唸った。そして放たれた豆は勢い良く――彼に逃げる隙なぞ与えずに――再び亮の眉間にヒットした。
 ばしん…と強い音がして――亮はそのまま鉄棒から落ちた 。どたん、と大地を響かせて背中から落ちる。動かない亮に居間まで遠巻きに見ていた駄菓子屋の店主が近づいて、亮の様子を確認する。
 「完全に目を回してるわね…ということで、狐呼さんの勝ち」
 そう、判定を下すと
 「うちの勝ち?」
 「狐呼さんの勝ち」
 「ほんま?やったわぁ…。節分にほんまもんの鬼さん倒せたんやし、今年も一年いいことあるやろか」
 「ええ、きっとね。じゃあ――豆食べましょうか?」
 「年の数だけ、やね」
 既に豆はいくつも食べているが、そんなこと関係ない。亮も気絶したままだが――まぁいいだろう。文字通り『鬼は外』で――二人は駄菓子屋の中でこたつにお茶、みかんもおまけで用意して年の数プラス一の数だけ豆を口にしたのだった。
 

 



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【4128 / 和州・狐呼 / 女性 / 24 】

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■         ライター通信          ■
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こんにちは。へっぽこライターの皇緋色です。今回はご参加いただきありがとうございました。面倒くさがりやさん、ということでどうやって豆を投げさせようかな、と思って書いたのですが、このような形になりました。
楽しんでいただけたなら幸いです。