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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


【 金白紅・弐 】

「―――義姉さん」
闇夜、月の光を浴びて1人佇む女がいた
金髪の髪に白い服、燃え盛る炎のように紅い瞳
一見すれば美しいともいえる女は、Zuschauer―――『傍観者』と呼ばれていた
「恨み、嘆き、怒りの波動・・・コレは全て貴女の感情―――」
周囲を満たし、圧迫している空気を読み取り、Zuschauerは眼を細めた
「貴女は、恨みによって自分の命を削り、そして死に絶えても――人間を、私を、永遠に恨み続けるんでしょうね」
何処か悲しみを帯びた呟きは、果てのない闇へと消えてゆく
それと同時に、数人の『招待者』の気配がした
「あぁ、もう始まるのね」
サクラ公園にある時計台に眼を移すと、時は11時55分
『招待者』が来たと同時に、サクラ公園を包み込む波動が一層強くなった
「―――結界がはられた、か」
負の感情が生み出した強力な結界
それは『招待者』を圧倒的に不利にさせるものだ
『オォオオオ』
地の底から、獲物はまだかと鬼が叫んでいる
「義姉さんがそのつもりなら、私は―――」
天を見上げ、Zuschauerは呟く
眼に映る月は、微笑むように、嘲笑うように、その光を自分に地面に降り注いでいた
「最後まで見届けさせてもらうわよ、貴女の、『最期』を―――」
その呟きは、月だけが聞いていた



「・・う、薄気味悪いなぁ」
雫と雫の助っ人として雇われた龍牙・炎(りゅうが・ほむら)、狩野・宴(かのう・えん)、早乙女・春榴(さおとめ・はる)、七枷・誠(ななかせ・まこと)、蒼王・翼(そうおう・つばさ)の6名は、夜のサクラ公園へと足踏み入れた
雫は、周囲の押しつぶされてしまいそうな、妙な圧迫感に不安そうに呟く
「もうすぐ、12時だな」
時計を確認しつつ、炎が『マイト・マシーン』を呼び出しゲームの開始に備える
あらかじめ雫と皆は作戦会議をし、装甲が厚くて丈夫な戦車型デーモン『マイト・マシーン』で雫と炎、宴、春榴を乗せて、敵を攻撃しつつ逃げ回り、誠と翼にはインカムが渡され、鬼の現在位置連絡や牽制、足止め、いざとなったときの雫の救出として動く事となった

「Guten Abent!良い夜ね」

そして、丁度12時きっかりに、サクラ公園に女の声が響いた
「レイジか!」
翼が警戒したように周囲を見渡す
「あはは!覚えていてくれて嬉しいわ。そっちのあなたもあたしを覚えてくれているかしら?」
「あぁ、勿論。どうでもいいことはすぐ忘れるけど、女性の名前だけは覚えてるもんでね」
声のみ、しかも名を呼ばれていないはずなのに、宴は強烈な威圧感を感じその声に応えた
その答えにレイジはさも嬉しそうに笑い声を上げた
「さーて、雫ちゃん。あなたを狙う鬼を紹介するわね!」
『『オォオォオオォオ』』
女の笑い声とともに、地の底から響き渡るような叫び声が二つ、重なるようにして聞こえてきた
「ひっ」
闇から這い出るように出てきたものは、屈強そうな2体の鬼
「美味しそう・・」
ぽたぽたと涎をたらしながら、春榴は呟いた
鬼達は血走った眼で、雫を凝視している
「雫ちゃん、マイト・マシーンの中へ」
その視線を遮るように、宴は雫をマイト・マシーンに乗せ、炎達も乗り込む
「さてとりあえずは炎君達が遠ざかるまでの足止めだな」
「そうだな」
鬼達の行く手を阻むように誠と翼が立ちはだかった
「ゲーム・スタート!!」
女の声と共に、鬼達が誠達へと攻撃を開始する

『我が名は七枷、姓の意味は、地獄、餓鬼、畜生、修羅、人間、天上、【六道輪廻】とそれより外れしものを須らく捉え、あるべき場所へ返すもの』
誠が、突っ込んできた鬼の一体へ向けて素早く『言霊』を放つ
『来たれ束縛の意を持つものよ。俺が命じる!!』
大きく腕を振りあげ、今まさに誠の顔面へと振り下ろそうとした鬼の動きが止まった
いや、動きたくても動けない状態になったのだ
『ォォォォ』
低く、怒りに満ちた声をあげる鬼を後に一目散に誠は走った
(殺しても死なないのなら、動きを封じて逃げるほかこのゲームの勝ち目はない)
そう判断しての事である
翼の方は、一撃を喰らったものの鬼の足を斬りつけ、誠と同じように夜の闇へと紛れている所だった
(あの言霊でよくて数分持つぐらいか――早く何処か見張れる場所を探さなきゃな)
そう思いつつ、誠は夜の闇へと紛れた

「くっ・・・結界は使えないか」
翼は悔しそうに呟いた
ゲームが始まる直前、『固有異界』を発動していたのだが、鬼の出現によって更に増えた負の感情に押しつぶされてしまったようだ
お陰で鬼の拳をまともに受けてしまったが、まだなんとかなる
再び襲ってきた拳をギリギリで避け、その巨躯を支える足を神剣で斬りつけた
『オオオオオオ』
鬼はバランスを崩し、その場に思いっきり倒れた
「これで数分――いや、数秒か」
瞬く間に鬼の傷が塞がっていくのを見て、翼は忌々しげに呟いた
(今この場で相手をするのは分が悪い。見張るようにしていざというときに攻撃しよう)
そう判断して、翼は闇夜の中へと走っていった

「大丈夫だ、絶対護ってやるからな!」
『マイト・マシーン』を走らせながら、炎が雫に力強く言い放った
「そうだよ、安心するといい」
宴も優しく雫の頭をなでながら微笑した
「あの鬼さん・・・食べて、いい?」
春榴が隣にいた炎へと話かける
「え・・・まぁ、いざという時だったらな」
とりあえずそう答えておく
『こちら翼!そっちに鬼が行った!』
(ついにきたか!)
夜の闇を駆ける『マイト・マシーン』の前に闇から浮き出るように鬼が立ちはだかった
「くぅっ!!」
ハンドルを回し、ギリギリで鬼が振り下ろした拳を避ける
「きゃぁ!!」
激しい重力に揺らされた雫が小さく悲鳴を上げた
「もうきたのかい。せっかちな鬼さんだね」
あくまで平静な態度を崩さずに宴が『マイト・マシーン』から降りた
「お・・おなか、すいた」
春榴も同じく、宴に続いて降りる
「さぁ、いって!雫ちゃんに怪我を負わせたら許さないよ」
炎にウィンクを飛ばしながら言うと、宴は眼帯を外し、鼻息荒く咆哮を上げる鬼へと向き直った
「い、いただきます」
「ここはいかせないよ」
春榴が鬼を食そうと走り、宴はそれを援護するように蔦を呼び出し鬼の足と腕を拘束する
『グォオ!?』
春榴は、鬼の足に喰らいつくと、やすやすとその肉を喰いちぎった
「んっ・・はぐ・・」
鬼がその傷を回復するよりも早く肉を喰らっていく春榴
その小柄な体とは裏腹に見事な喰いっぷりである
「はっ・・ん・・・・んん・・」
ピタリと春榴の動きが止まった
「気持ち・・悪・・・?」
体の中から、力を吸い取られる感覚
脳へと劈く様に複数の人間の悲鳴が聞こえるような感覚
「何・・これ・・?」
『オオオ!!!』
「春榴ちゃん!!」
蔦を引きちぎり、振り降ろされた鬼の腕が春榴の服を掠めた
「危ない危ない」
蔦で春榴を引っ張り、救出した宴は鬼へと眼を向ける
『・・・ォォオ?』
瞬間、グラリっと酔っ払ったように鬼の体が揺れた
「さーて、今のうちに逃げろー」
春榴を抱えながら、くるっと後ろを向いて一目散に逃げる
苦しそうな春榴をこれ以上戦わせるわけにも、1人で鬼と戦うわけにもいかない
振り向くと、後ろでふらつきながらも自分たちを追いかけてくるのが見えた
『ゴァアア!?』
突然、鬼が思いっきりこける
「はは、一回やってみたかったんだよね」
鬼の足元に蔦を張り、足を引っ掛けさせたのだ
「さて、急いで誠君達か炎君達と合流しなきゃ」
春榴を心配そうに見やり、全速力で宴は夜の闇へと逃げていった

(今、何分だ――?)
自分の腕時計を見やる
12時35分、と時計は刻んでいる
(やっと半分をきったか)
もう何時間も動き、能力を使っているような疲労感を感じながら、誠は木の陰で小休憩をしていた
「やれやれ、1人で鬼を封じるのも疲れるな」
動きを封じる言霊が解け、鬼が活動しているのを見張り、隙を見つけては再び言霊で封じる
それを何回も繰り返していた
しかも、封じるたびにその効果時間が狭まってきている
「免疫能力もあるとは――お前を作った主にはある意味感服するよ」
皮肉げに誠は呟いて、動きを封じている鬼を見た
ぴくっとその指が揺れる
「っと、もうすぐ言霊が切れるか」
急いで誠は夜の闇に紛れていった

「ふぅ、あと10分か」
炎が『マイト・マシーン』を操りながら、一息ついた
「ん?あれ、宴と春榴じゃないか」
暫く走っていると、春榴を抱えながら、『マイト・マシーン』に手を振っている宴を見つけ、炎は急いで宴達を中へ招き入れた
「いやー助かった、流石に女の子を抱えながら1人で戦うわけにもいかなくてね」
ふーっと一息ついて、後ろの座席に春榴を寝かせる
宴は春榴を庇って逃げながら戦ったせいか、所々傷を負っているがどれも軽傷だったので雫は安心したように胸をなでおろした
「春榴ちゃん、大丈夫?」
雫が心配そうに春榴の頬をなでた
「大丈夫だよ。ただの食あたりだと思うから」
ぽんぽんと雫の頭をなでて宴は微笑した
『こちら翼――』
「翼!大丈夫か?」
『鬼と何回かあったけどなんとか無事だよ』
「そうか、良かった」
ほっと炎は安堵する
『二匹のうち一匹はずっと誠君が抑えてくれているけど、もう一匹が今何処にいるのか分からない、そっちにすぐ追いつくと思うけど気をつけてね』
「了解、そっちもな」
連絡し終わり、一層運転に気合を入れる
その瞬間――
『オォォォオ!!』
ガァン!と激しい衝撃
「なっ――!?」
鬼が、横から『マイト・マシーン』に体当たりしてきたのだ
「きゃぁあ!!」
「大丈夫だから!」
春榴とパニック寸前の雫を庇いながら、宴は衝撃に顔をしかめる
「マイト・マシーン、頼むから耐えてくれ!!」
近距離なので砲が使えない
横から襲い来る激しい衝撃に耐えながら、炎は祈った
ズバァッ!!!
「――え?」
何かが切り裂かれるような激しい音共に、衝撃が止んだ
「みんな、大丈夫かい!?」
翼、だった
「た、助かったぜ!」
「ココは僕が引き受ける、炎君達は早く逃げて!」
「分かった!」
更に『マイト・マシーン』を加速させ、鬼から遠ざかっていく
「さて、よくも僕から逃げてくれたね」
『グォオオ』
怒りの声を上げる鬼
切り裂かれた傷は既に回復しかけていた
「キミに体がねじれる恐怖を味あわせてあげるよ」
そう呟いた途端、鬼に変化が始まった
『グァアアアア!!』
ボキッグキャッゴキュリッ!!
不快な音を立て、どんどん鬼の体がねじれていく
腕、足、首、体全てがねじれ、折れ曲がった
「これなら、全て回復するのに時間がかかるだろう?」
翼が時計を見る
――12時59分
「あと1分で全て回復できるかな?」
否、できない
確信した自信を持って、翼は時間の経過を待った

『ゴーンゴーーン』
一時間おきになる時計台の鐘の音が、公園内に響いた
「やっと、終わった、のか」
砂へと帰っていく鬼を見て、精魂果てたように誠は座り込んだ

「よっしゃー!逃げ切ったぞ!!」
『マイト・マシーン』から降り、炎は勝利の雄叫びを上げた
「春榴ちゃん、大丈夫かい?」
「うん・・もう・・平気・・」
宴は春榴を抱えながらほっと一息をつく
「良かった、本当によかったぁ」
雫は安心の余り、泣き出してしまった

「砂へと、還ったか」
鬼の最期を見届けた翼は辺りを見回した
今まで強烈に圧迫していた怨恨の気配が今や綺麗さっぱりなくなっていた
「終わったか」
ほっとしたように、翼は大きく息を吐いた


「今回も、あたしの負けか」
その言葉には怒りも悲しみも恨みも篭っていなかった
ただ、氷のような冷酷な口調であった
「―――っ!?」
突然、ズキリッとレイジの体に痛みが走る
それは怨恨を操る代償
「もう、長くはない、か」
脳裏に走るはあの女の姿
憎くて憎くてどうしようもない女
「今度こそ・・人間ともども・・殺して・・やる・・」
荒い息を吐きながら、体を蝕んでいく痛みに耐える
「殺して・・・あたしは・・・」
月を見上げる
眼に映る月は、微笑むように、嘲笑うように、その光を自分に地面に降り注いでいた
「やっと、死ねるんだ」
その呟きは、月だけが聞いていた―――


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0601】龍牙・炎 (りゅうが・ほむら)/16/高校生 オカルト研所属
【2863】蒼王・翼 (そうおう・つばさ)/16/F1レーサー 闇の皇女
【3590】七枷・誠 (ななかせ・まこと)/17/高校二年生 ワードマスター
【4648】狩野・宴 (かのう・えん)/80/博士 講師
【4729】早乙女・春榴 (さおとめ・はる)/18/始末屋
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■         ライター通信          ■
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どうも、ライターの黒猫です。
シリーズ第二回目です、いかがでしたでしょうか?
前回から参加して下さった方もいて、もうありがたいとしか言いようがありません
こんなシリーズでも楽しんでいただけたら光栄です
【 金白紅・参 】は近日中に出しますので、次回も気が向いたら参加してやってください
この度の発注、ありがとうございました!!