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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


巻き戻し完了▽ 記憶再生▼


 ――プロローグ

 息が白い、白い息がふらりと風に流される。
 雫はそんな夕方……もう、暗くなった五時過ぎにゴーストネットOFFから出た。
 冷たい風が頬を刺し、帰りに肉まんでも買って食べようと考えていた。今の時間に食べたら、お夕飯に差し支えるだろうか?
 そんなことを呑気に考えながら、街を歩いていた。
 
 ビルとビルの狭い間から男がゆらゆらと現れた。
 彼は何かを求めるように雫に手を伸ばした。それから、まるで糸の切れた操り人形のようにぐにゃりとその場に倒れこんだ。
 雫は驚いて、弾けるように彼の元に走り寄った。

 ……――。
 閃光のようなものが目の前を過ぎり、目を一瞬つぶった雫は知らぬ街に立っていた。
 そこにはランニング姿で泣いている一人の少年と、夏の眩しい夕焼けがあった。一体何があったというのだろう。
 雫は唖然として、立ち竦んでいた。

 後々わかることだが、その世界は今にも息絶えそうだった男、柳生・聡の走馬灯の中だった。
 聡が記憶のページをめくり、何かを探している。生き残ることが目的でもある。だが、だが彼の人生はそれだけの目的ではなかった筈だ。


 ――エピソード

 【猫】
 そこは公園だった。
 目の前には植木がしてある。
 そして後ろを振り向けば、銀色の滑り台があった。滑り台を滑れば、山がいくつも作られている砂場がある。砂場に座って目をあげると、大きいのから小さいの、様々な高さの鉄棒が設置されていた。それらは、全てが夏の眩しい夕日に照らされて、黄金色に輝いていた。
 それは想い出としては出来すぎているような、そんな風景だった。
 雫はポツンと立っていた。見知らぬ少年が泣いている斜め後ろに、ただ茫然と立っていた。
 彼は丸坊主で白いランニングシャツを着ていた。膝丈までのネズミ色のズボンを履いている。膝をついて、彼は泣いていた。何を悲しんでいるのだろうか……。
 雫が声を出そうとしたとき、とんと彼女の肩を誰かが叩いた。
「雫さん、少し泣かせてあげてはいかがでしょう」
 振り返ると、黒髪の横髪をみつあみに結った、優しい目をした少女が少年を見守るように立っていた。
 彼女は小さな声で言葉を継いだ。
「私、知らないところへ来てしまったととても慌てたのですけれど、ここにいらっしゃる方々を見ましても、この男の子と、あのお倒れになられた男の方が原因のように思えますの」
 暁・水命はかすかに微笑んで、雫を安心させようとしている。
 ここにいらっしゃる方々? 雫はその言葉に辺りを見渡した。
 すると、水命の後ろには辺りの様子を注意深く観察している赤いトレンチコートを着たシュライン・エマと、困ったように微苦笑を浮かべている男、長い髪の一色・千鳥がいた。シュライン・エマの後ろから、ひょいと高校生の葉室・穂積が顔を出す。彼は目をくるくるさせて周りを見回し、シュラインの袖を引いた。
「これ、どういうことかな?」
「……そうねえ、なんとなく予測はつくんだけど」
 穂積の問いにシュラインが溜め息交じりで答えた。
 千鳥は顎に手を当てて、首をかしげている。
「記憶の中でしょうか。あの男性の」
「おそらく」
 シュラインが短く肯定した。
「おかわいそうに、何をそんなに悲しんでおいでなのかしら」
 水命はぽそりとつぶやいた。
 雫は少年から後退った。そして千鳥のグレーのブルゾンを掴んで、震える声で告げた。
「……あの人、あの倒れた人」
「ええ。あの、男性が問題……」
 千鳥が軽くうなずく。
「違うの! あの人、あの人すごい怪我してたのよ。私見たんだから」
 傍からでは倒れたようにしか見えなかったが、雫は見たのだ。彼が背中に大きな刺し傷を負っているところを。
 シュラインが眉をひそめた。
「それじゃあ、ここは彼の走馬灯というわけか」
「走馬灯?」
 穂積は口の中でつぶやいた。
 彼は少年を見守っている水命の横をすり抜けて、少年の隣に片膝をついた。

 まだ小学校中学年ぐらいだろう。少年は、両手の甲で目を拭い穂積を見た。
 穂積はいっぱしの兄貴になったような顔で、にいっと笑ってみせた。少年は怪訝そうな顔になり、穂積を睨みつけるようにしている。穂積は困った顔になって、ポケットを探り飴玉を取り出して彼に見せた。
 一瞬だけ目をきらめかせた少年だったが、彼は手を伸ばさなかった。
「いらないのか?」
 穂積が訊くと、彼はこくりとうなずいた。
「お前、誰だ」
 少年が訊く。穂積は「穂積。高校生だよ」と答えた。
「何の用だ」
「おれが名乗ったんだから、名乗ってよ」
 穂積の言葉に少年が渋々口を開いた。
「聡」
 小さな声だった。
 穂積はうなずいて、飴玉をポケットにしまいながら彼の頭を撫でた。
「で、聡くんは、どうして泣いてたんだ。喧嘩に負けたのか、女の子にふられたのか」
 聡は穂積を不服そうに睨み、ぶんぶんと首を振って立ち上がった。
 立った聡に水命が並ぶ。
「よろしければ、お悩みをお話ください。私達ならば、あなたよりほんの少し知恵がありますわ。三人寄れば文殊の知恵と申します。私達は大人のシュラインさん、千鳥さんを含めて四人……聡さんを含めて五人です。きっと活路が見出せると思います」
 彼女は小さな聡少年ににこりと微笑んでみせた。
 聡は気が付いたように辺りを見渡した。視線の先のシュラインと千鳥が軽く微笑み、会釈した。
「……」
 優しく笑ってシュラインは言った。
「平気よ、誰にも言わないから」
 千鳥は少年をみてふと顔を曇らせた。穂積が千鳥を窺う。おそらく、千鳥には何かが見えたのだろう。彼は未来さえも見通す能力がある。
 聡は、困惑した顔で全員の顔を眺め、小さな小さな声で呟いた。
「なんで生き物は死ぬんだ?」
 唐突な問いだった。
「命あるもの誰でも滅びる……そうしなきゃ、人口いっぱいになっちゃうもん」
 穂積が真面目な顔をして的外れなことを言った。
 千鳥が、人差し指を立てて口に当て穂積に鋭く注意する。
「しっ!」
「うひゃ、ごめんなさい」
 穂積は軽口にチャックをした。
「……今、聡くんは猫のマメ太が亡くなったところなんだ」
 千鳥は視えた真実を告げた。驚いた顔で聡が、千鳥に駆け寄る。
「なんでだ? なんで知ってんだ、お前」
 千鳥は聡の肩を持って、目を瞬かせそして口許をほころばせた。
「私は占いができます。ちょっとあなたを視て、わかりました」
「じゃあ、じゃあ、わかるのか? なんで俺達は死ぬんだ?」
 聡は言って千鳥を見つめた。千鳥は、少し考えて訊き返した。
「マメ太のことで気になったのですか」
 聡は首を横に振った。
 今度はシュラインに歩み寄って、彼は言った。
「ばーちゃんが言うんだ。死んだらお終いだ、何もかもなくなっちまうって。マメ太ももう何にもなくなっちまったのかな。でも、それは本当だ。死んだら、マメ太何もできなくなっちまった。もう鳴けないし、もうメシも食えねえ。死んだら終いなんだ」
 シュラインは少し小首をかしげながら、聡の頭をゆっくり撫でて告げた。
「……でもだからこそ、一生懸命生きればいいのよ」
「お終いなんだぞ。全部、全部なくなっちまうんだ。それじゃあ、なんで俺達は生きてるんだ」
 ふいに水命が、聡に近付いた。
 彼女はそっと土まみれの聡の手を取った。
 水命の瞳に、涙がたまる。そしてゆっくり頬を伝い流れ落ちた。ポタリ、ポタリと聡の手を清めるように涙が伝った。聡は、目を見開いている。
「それはとても難しいことです。マメ太さんのことも本当に悲しいことです。でも、聡さんの中でマメ太さんが生きているのならば、お終いなんかじゃないでしょう」
 聡の瞳に涙がたまる。彼はすうすうと涙を流し、そして俯いてしゃっくりをした。二度しゃっくりをして、今度は穂積に向かって言った。
「お前は、きっと一番俺に近いから、きっとわかってくれると思うけど」
 水命の涙は悩みを薄れさせる能力を持っている。だからこそ、聡は再び涙を流すことができたのかもしれない。
 穂積にしがみつくようにして、聡は泣いた。
「こんなのってねえよ、俺辛いよ」
 穂積の片腕に顔をうずめるようにして、聡は泣いた。公園の日は落ち、かすかな光りが今消えようとしていた。
 穂積は彼の肩を抱いて、言った。
「聡、お前が辛いと俺も辛いよ、誰かが辛いってホントしんどいよな」
 静かな夜がやってきた。満ちた紺色の空気は、想い出を色濃くさせる。
 
 
 五人はふと、全ての映像が逆戻りをするのを見ていた。
 聡はまたさっきの場所で膝をついていた。
 落ちた筈の夕暮れが滑り台を照らしている。
 五人は目を合わせた。
 そしてその景色は今度は夜を抜け朝を向かえ、そしてまた夜を迎えた。
 
 
 【親友】
 雫は呆気にとられている。
「走馬灯……というわけですねぇ」
 千鳥はふむと一つうなずいた。
 今度は全員繁華街に立っていた。
「今度はどこかしら」
 シュラインは注意深く街を見渡した。人はまばらに街を歩いている。歩いている人々はそれぞれ背広を着ていた。街灯が街を照らし、地味な色合いのネオンが彩りをそえていた。
「なんか、古めかしいね」
 穂積は目を丸くして千鳥を見上げた。
「やはり記憶の中に変わりはないようですねえ」
 水命はゆっくりと考えに耽るような口調で言った。
「皆さん、私達は聡さんのためにどうすればよいのでしょう。ここが走馬灯ということは、私達は記憶の登場人物。私達の行動は記憶の捏造にあたるかと思います」
「なんか都合悪いのか?」
 要領を得ず穂積が言った。シュラインと千鳥は目を合わせて、腕を組んでいる。
「ここが走馬灯の中なら、聡さんの為になるのなら行動するのもアリだと思うわ」
 シュラインは続ける。
「彼は何かを探して記憶を巻き戻し、そして再生している。それを見つけ出すために、補助してあげたとしても、彼の記憶が多少変化するだけで、他に問題はないもの」
 千鳥は腕組を解いて長い髪をかきあげながら言った。
「何を探しているのでしょう」
 水命が少しこわばった表情をした。
「私達がどうにかしてさしあげられることなら、よろしいのですが……」
 そのとき、小料理屋の前に立っていた全員に大きな笑い声が聞こえた。
「まあ、聡そんなこたぁいいだろ、飲めよ」
「武、お前こそ飲んでねえだろうが。かーちゃん実家に帰ったって?」
 二人の声に全員は顔を見合わせた。それから耳をすませる。
「あのバブルのせいで、お前今大変なんだろ。俺だってそれぐらいの噂は聞いてるぜ」
 聡の声が言う。
「まあな。しょうがない、どこも大変だ。だが、お前と飲む金ぐらいある。女房の家出はよくあることさ」
「へへへ」
「楽しく飲もうぜ、お前のこれからの未来の為に!」
 二人はその後聡の妻が身篭ったお祝いの話をして、しこたま焼酎をあおり、そして店を出てきた。五人はそれぞれ離れた場所に立っている。
 お互い肩を貸し合って出てきた男二人は、それぞれ背広を着ていた。聡は紺色、武は灰色だった。
「またゆっくり飲もうぜ」
 聡が赤い顔でそう言ったので、武はうなずいた。
 そして二人はぶんぶんと手を振って別れた。
 小声で千鳥が言う。
「嫌な予感がします。二手に分かれて二人を追いましょう」
 千鳥は聡の後を追って歩き出した。水命がこくりとうなずいて千鳥に続く。
 シュラインと穂積と雫は灰色の背広が人込みに紛れる前に、足早に行動を開始した。
 
 
 武はどこにも寄り道せず、小さな工場の隣にある小さな掘っ立て小屋へ入って行った。
 三人はそれを見届けて、はあ、と小さな白い息をついた。
「悪い予感ってなにかな」
 穂積が訊く。シュラインは考えるように視線をあちこちに彷徨わせてから、答えた。
「千鳥さんが何を視たのかはわからないけど、私も悪い予感がするわ」
「だから、どんなさ」
 そうねえ、とシュラインは言って、掘っ立て小屋の明かりがなかなか灯らないのを見つめていた。
「死……かしら」
「し?」
「もし彼の解決できなかった問題が死ぬということだと、厄介なことになるわ。それから、もっと辛いことに……彼の記憶の中で何かがまた死ぬでしょうね」
 今は冬の迫った季節らしい。冷たい風が耳を冷やしている。
 やがて、小屋には明かりが灯った。
 シュラインは耳をすませる。彼女の耳に、電話のプッシュボタンの音が聞こえる。どうやら……ファックスを送っているらしい。
 何かしら?
 その後、灯りが……大きな灯りが小屋に広がる。
 
 
 聡は木造モルタル造りの小さなアパートの角部屋に住んでいた。彼がノックをすると、中からお腹の大きな女性がドアを開けた。それから二人は笑い合い、小さいけれど明るい家へ入って行った。
 トウルルルという、今の時間では迷惑になるだろう電話の音が聞こえた。
「悪い予感とは、どういうことですか」
 辺りの乾燥した冷たい空気を吸い込んで、水命が訊いた。
「……また、何かが死ぬんだよ」
 言い難そうに千鳥が口を開いた。
「私にはわかる。この……走馬灯の意味が。だけど、それは誰にも解決できないことなんです」
 水命が、「まあ」と悲しそうに一声発した。
 そして背広を脱いだだけの聡が紙を片手に、外へ飛び出してきた。
 後ろから大慌てで妻であろう女性が上着を手渡そうとしているが、見向きもせずに駆け出して行った。
「追いましょう」
 こくり、水命はうなずいて聡の後を追った。
 十分ほど走っただろうか。水命の体力ももう限界だ、そうなったときシュラインと穂積の姿が見えてきた。
「ちょっと水かして!」
 二人はバケツリレーをしている水を引っ掴んで、自分の身体にかぶせた。
 そしてその格好のまま、大きな灯り……そう火の放たれた小屋の中へ入っていこうとしている。千鳥は急いで現場近くまで行き、大声をあげた。
「ちょっと待ってください、お二人とも!」
 その間に聡が小屋の前に、膝をついていた。
 水命など、水もかぶらずに中へ進もうとしている。千鳥はそれを押し留めて言った。
「私の能力で、武さんを引き寄せられ……」
 ます。と繋げたかったのだろうが、千鳥は右手を軽く小屋に向けた瞬間固まった。
 彼は青い顔で、その場に静止した。
「どうしたんだよ、千鳥さん。早く助けないと、死んじゃ……」
 穂積が急かすように千鳥の袖を引っぱったが、彼もまた気付いたようだった。
 水命が、肩を落とし蒼白な顔で呟く。
「もしや……」
 シュラインが後を継いだ。
「もう武さんは亡くなっているのね」
 聡の手元のファックス用紙を、穂積が乱暴に奪い取る。泣き暮れている聡は、簡単にそれを離した。そこにはたった一言。
『今までありがとう』
 そう書いてあった。
「聡さん……武さんは、そんなに追い詰められて?」
 シュラインは訊いていた。聡は涙を流しながら、茫然と燃え盛る火を見つめている。
「ああ。もうだめだって、どうにもならない。何もなくなったって」
 聡はぼんやりと続ける。
「死んだら何もなくなるんじゃない。何もなくなったら、死ぬのかもしれない」
 シュラインがはっと顔を上げる。合わせた視線の先の千鳥も、暗い顔でうなずいている。
 彼は死にとり憑かれてしまった。死を恐れるあまりに……。
 
 
 【家族】
 雫が涙を押し戻していると、景色が半回転し、そしてまたきゅるきゅると巡り、見慣れたゴーストネットOFFからの帰路に立っていた。
 そこには聡もいた。
 聡はブツブツと口の中で何か呟きながら、大事そうに鞄を持っていた。
 千鳥が彼の行く手を阻んだ。
「占わせていただけませんか?」
「……なんだ、お前は」
 だが彼は困惑を隠せないでいる。
「お金はいただきません。あなたは、死を恐れていますね」
「誰だってそうだろう」
 死ぬのは怖い。
 だが死を恐れるあまりに生を失えば、本末転倒である。死ぬ為に生きるのではない。
「ですが……」
 隣でシュラインが静かに言った。
「あなたは親友を失ったあの夜、間違った考え方を受け入れてしまった」
 水命が悲しそうに続けた。
「目に見えるものだけが全てではないのです。聡さん。武さんも道を間違えました。たとえ妻子を守るためであっても、死んでしまってはいけません。方法がある筈です。私達は財産の全てを失っても、何かが残っているのではないでしょうか」
 穂積が小さな声で言う。
「まだ、聡さん、あんた辛いんだろ。マメ太のときと変わってないんだろ」
 千鳥が確信に満ちた声で言った。
「あなたは何かを失うことを恐れるあまりに、あの事件以後、怯えてくらしてきた。自分の死を恐れるあまりにです。そして今、あなたはまた何かを失う前に、何をどうしてでも今の暮らしにしがみつこうと……そこにあるのはあなたの会社の顧客データですね。それを渡して、生活を守ろうとしてらっしゃいますね」
 聡が後退る。
 水命が悲しく呟く。
「何もかもを失っても死にません。あなたの隣に、あなたを想ってくれる誰かがきっといる」
「死はたしかに一人に訪れる。生あるものは死の実体を知らない」
 シュラインは続けた。
「けれど私達人間は、瞬間の永遠を持ってはいませんか」
 水命がそっと聡に触れて、優しい涙が聡に触れた。聡は戸惑うように彼女の顔を見上げ、そして訝しげに全員を眺め、ぷいと顔を背けて去って行った。
 そう……この走馬灯の中の聡はビルの間の路地に入らなかったのだ。
 
 
 閃光が走り五人が目を覚ました。
 走馬灯とはまさしく一瞬の出来事らしく、彼等彼女等を取り囲む野次馬もあまり多くはなかった。五人は目を覚まして聡の背中の刺し傷を見た。
 そして誰もが叫んだ。
「救急車を! 救急車を」


 ――エピローグ
 
 聡は一命を取りとめ、今も昏睡状態である。
 幾度も重ねられた顧客情報の取立てに応じていた聡だったが、その夜抵抗し背を刺されたとのことだった。犯人は既に逮捕されている。聡も軽犯罪で起訴されることだろう。
 五人は聡の病室を訪れ、妻千鶴子ともう二十歳を迎えようとしている娘芳子と会った。
 二人ともよくにた親子で、夫の突然の怪我に驚いてはいるものの、夫の早い回復を願っているようだった。
 ふいに目を開けた聡は、つうとその目から一滴の涙を流した。
 偽りかもしれない、だがたしかにここには永遠がある。
 それならば偽りでもいいではないか。
 生きるということは……。
 
 
 ――end

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086/シュライン・エマ/女性/26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1572/暁・水命(あかつき・みこと)/女性/16/高校生兼家事手伝い】
【4188/葉室・穂積(はむろ・ほづみ)/男性/17/高校生】
【4471/一色・千鳥(いっしき・ちどり)/男性/26/小料理屋主人】

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■         ライター通信          ■
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巻き戻し完了▽ 記憶再生▼ にご参加ありがとうございました。
お気に召せば幸いです。

文ふやか