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<東京怪談・PCゲームノベル>


その者の名、“凶々しき渇望” 【 第二話 】

 …渋られたのは当然と言えば当然か。それでもそうそう譲れる事では無い。これは調査員の皆の安全に関る事になる。だからこそ財閥の名も出し強く要請したのだが、自分以外の調査員に関し、自分が借り切ったこのスイートのあるフロアでの聴取が叶わなかった事は自分が至らなかったのだと彼――セレスティ・カーニンガムは思っている。事情聴取をホテルで、と連絡が来た時点で手を回したが、それでもフロアを借りる用意には少し時間が掛かった。更にはその合間を縫い、狙ったように三人の聴取が先回りして行われていた時点で警察への不信さはやや増した。今回の事件では警察内部の人間が関与している可能性も否定できない。ならばその警備も信用していいものだろうか。安全度が気になる。…そう思えばこその要請だったのだが。
 ひとまず先に聴取を受けた三人は、皆と別れた後――事情聴取の後も、何事も無くセレスティの前に姿を見せていた。そして、ちょうど用意が整ったそのタイミングでセレスティは改めて警察と少々ぶつかったのだが、その時に調査員のひとりである神山隼人が私は警察が用意して下さった部屋で良いですよ、と先に折れ、四番手に聴取を受けていた。
 が、それでも警察の警備ではやはり気になる、とセレスティはリンスター財閥が擁するプロでもある部下も警察の人員と共に警備に入れる事を妥協点として提案。これもやはり渋られはしたが、言い出した相手がリンスターと言う国外にある財閥総帥のセレスティとなれば、色々と考えるところもあったのだろう。結果、そこだけは何とか通った。
 ただ逆に、セレスティの借り切ったこのフロアにも警察の人員が――事情聴取をする刑事以外にも来る事にはなっているが。…勿論、人数や人物はこちらでも把握した上で、だが。
 ともあれ、神山隼人も前の三人同様、何事もなくロビーに戻って来ていた。廊下に出、刑事の他にセレスティの部下らしい人間も警備に当たっているのを見、こうなりましたかと控え目に微笑んで声を掛けていた。

 そして今は、その後の事になる。
 セレスティは自分が借り切ったホテルの別フロア、そこにあるスイートで事情聴取を受けていた。
 まず、真っ向から喧嘩が売られたと思ったのか目の前の刑事の顔も硬い。否、それは元々か。警視庁捜査一課強行犯二係配属、佐々木晃警部補。自分の事情聴取をする相手、その名前を聞いた時点でその人物に関しては一通り調べている。そもそも、調べるまでも無く殆ど予め調べてあった。…それはこの間の事件調査の後、シュライン・エマが葉月政人に確認していた話があったから。
 確認、それは警察内で、親しい人を亡くした、矜持の高い、高学歴でもある人物は居ないかどうか確認したいと言う話。『蝿の王』と言う要素。もし万が一、犯人が『それ』に唆され落ちた者である場合、矜持の高い人物の可能性が高いだろうと言う推測。警察内部で情報隠匿可能な者となるとキャリア組、それを警戒した方がいいかもしれないと言う話。渇望と言う名からの連想。持っていたものを永遠に失った――恋人か家族か親友か、とにかく、とても親しい人を亡くしたのではないか、との思い付き。それらから疑わしい人間を割り出せないか。
 そこで出て来た名前も佐々木晃。有り得ませんよとその情報を齎した葉月政人自身が強く言ってもいたが、確かにその通り、その要素だけでは何も証拠にはならない。偶然の可能性もあるだろう。ただそれでも――シュライン・エマが確認したがったその要素に当て嵌まる人物である事だけは事実。
 更にはもうひとつ疑わしい点が出ている。それはこの佐々木晃と思しき人間が死んでいると言う情報。三ヶ月前の時点でこの彼を遺体と言う形で目撃している人が居る。…事件になっていない事件の調査を進める中、そんな話が突然転がり込んで来た。五体を獣に食い千切られたような遺体を目撃したと。直後に起きた爆発事故、だがその時には既に遺体はなく。…殆ど都市伝説か何かだ。
“凶々しき渇望”の事件と似た事件が、以前見付けた以外にもまだ他にあったりはしないか、無いならば、全然別の形でも良い、とにかくこの事件と似た傾向で不自然なところのある事件や証言、噂話の類は無いか――そんな風に対象を広げている内にヒットした情報。信憑性が際どい裏の情報源ではあるが――出て来たのが佐々木晃と同じ特徴を持つ事、そして場所がK立市の生体学研究所倉庫、と彼の姉が務めていた企業の施設であった事が気になった。前述した「親しい人」、佐々木晃にとってその要素に当て嵌まる人間がその姉だ。曰く、一年前に事故――それもその企業でのバイオハザードで死亡しているらしい。
 何処か気になる繋がり。だが今セレスティの目の前に佐々木晃と言う男が居る事は確かだ。人物確認もした。生体認証を使用しても佐々木晃当人であることは確実。今ここにこうしている以上、死亡していると言う情報は間違いか。…ともあれ、この件に関してはもう少し詳しく調べる必要がある。
 新たに出たこの件も然る事ながら、以前の調査時に出てきた「事件になっていない事件」そのものの方も勿論調査を続けている。東京都内では今回の事件一件のみが警視庁に、範囲を首都圏に広げるなら類似の事件はもう一件県警の記録に残っていた。他の、記録に無い事件こそが問題。継続しての調査の結果、何者かに揉み消されたのなら――それはかなり上から手が伸びていると調べがついている。警察は警察でも警視庁――もしくはその上、警察庁か。IO2の介入があるのか。もしくは、それ以外。…依頼当初、草間武彦が条件反射的に疑ったように、虚無の境界――と言う事もあるのだろうか。否定はし切れない。彼らは何処にでも紛れている。だからこそ、脅威となる。
 ただ、どれだけ事件の揉み消しが行われようと現場の、個々の事件に関った者の声を完全に消す事はできない事は確か。だからこそ噂のような形で、裏で流れている事にもなる訳で。
 一通り聴取を受ける中、セレスティはその事を佐々木晃に対しても臭わせてみる。事件が続くのでは無いかと言う懸念がある事は自分も彼も同じ見解。ならば今までにも類似した事件が幾つかあった事は知っていますよね、と振る。何の話だ? と訝しげな顔。調べてみたところ四件程そんな噂があったんですが、と続けるが、今度はそれについて何処でだ? と根掘り葉掘り訊いて来る。御存知無いんですか? と素知らぬ顔で返すと、そんなに何度も起きているとはこちらは知らん。それよりそんな噂があると言うのならその件について詳しく話してくれ、確かめる必要がある、と強く促されるのが先だった。…揉み消しに関与した人間であるならこんな反応はしない気がする。あくまで噂だろうと否定し、取り立てないだろうと思える。
 それ以上、目の前の刑事からは特に目立った反応も来ない。強く言って来るとは言っても何処か冷めた印象がそこにある。淡々とした喋り方のせいか。表情は特に動いていない。やはり何処か不機嫌そうに感じるのは…この彼の元々の性格では無く、私がここに呼んだからだろうか。そうも感じる。…何にしろ、末端には預り知らぬところの事なのだろうと判断できる。
 取り敢えず、噂と言う通り場所と日時と事件自体の情報をごく簡単な要素だけ取り分けセレスティは提供。相手はそれらを耳にするなり何故これが表沙汰にならない、とでも訝しむような態度。本当に御存知無かったんですか、とセレスティは一応再確認。その問いの意味に漸く気付く佐々木晃。…警察が疑わしいと言いたいのか? いえ、警察関係に詳しい訳ではありませんので何とも言いようは無いですが…調べてあって然るべき事件に思えましたので、とセレスティは静かに微笑み追及を躱した。佐々木晃はそんなセレスティの態度に複雑そうな顔はしていたが、そこについてはひとまず無視。そして、この噂が事実なら調べ直さなければならないなとそちらの話で重々しく頷き、何事か考えているような顔をしたまま持参したファイルへと何事か書き付けている。
 色々と参考になった。他に何かあるか、と佐々木晃はファイルからちらりと目を上げ、問う。特に何もないならこれで事情聴取は終了にするが。そう言われ、セレスティはではひとつだけ窺いたい事があるのですが、とその言葉に甘えた。
 何だと促す声に対し、私以外の調査員の方への聴取もここで行う事に何の不都合があるのか、とセレスティは改めて問うてみる。その話を出した途端、相手がまた不機嫌になったのがわかった。持っていたファイルをやや荒っぽくぱたりと閉じる。そして――この勝手は、お前がリンスター財閥の総帥であるからこそ許した事だ。本来こんな要請を受け入れはしない。無論他の奴らに関してもだ。…冷たくそれだけを残し、佐々木晃はファイルを揃えて持つと振り返りもしないで部屋から退出する。不快さを訴えるよう、やや強めにドアは閉められていた。
 …やはり駄目ですか。思いながらセレスティは小さく息を吐く。
 そして、別室で待っている他の調査員たちの元に移動する為、部下の待つ外へと声を掛けていた。



 何やら怒鳴り混じりの声が聞こえた。調査員の皆が集まっている隣の部屋。あららとセレスティは肩を竦める。さすがに暴力沙汰にはなっていないが何やら態度が少々乱暴になっている佐々木晃の姿。怒らせてしまっただろうか――そう思いつつ、少し開けられたままの部屋のドア、そこから顔を出しているシュライン・エマのところを目指し車椅子を動かした。
 佐々木晃の背中はもうかなり部屋から離れて先にエレベーターの近くに行っている。シュラインは佐々木晃のその態度に思わず目を瞬かせているようだった。軽く、驚いている。
「…何か、怒ってる…みたいね?」
「すみません。私のせいですね」
 シュラインの立つそのすぐ後ろ、隣の部屋から戻って来たセレスティから声が掛かる。もう一度君たちもここで聴取を出来ないか頼んでみたんですよ。ですが、話を通すどころか怒らせる事になってしまったようです。…けれど――私の部下や警察の皆さんと言った…他の見ている前でこんな行動を起こすような方が、今何か仕出かすとは思い難い気もしますけど。と付け加え、シュラインを見上げた。そう…かも知れませんね、とシュラインも静かに同意。じゃ、取り敢えず行って来る事にします。お気を付けて。その言葉と部下の黒服を付け、セレスティはシュラインを部屋から送り出す。
 その暫く後、漸く綾和泉汐耶が来たとセレスティに連絡が入る。ほぼ同時にシュラインの聴取が終わったとも入った。そして――汐耶はシュラインと入れ替わりで直接事情聴取の部屋に行く事になったらしい。
 そして暫くしてシュラインが部屋に戻って来た、そのタイミングで葉月政人が到着したと連絡が入る。それも、特殊強化服を着用した状態で。更には何やら階下で騒ぎが起きているのが感じられる。…どうやら、聴取をしている部屋に直接乗り込んだらしい。しかも、そこで。
 …と、その先を促そうとした時、また別のセレスティの部下から連絡が入る。至急。珍しく慌てた様子の声。三ヶ月前に目撃された佐々木晃と身体的特徴が同じ遺体の件。遺体は佐々木晃で間違いないと確認が取れたそうです――と。本人の名乗り、目撃者の証言――無関係の一般人が真っ当な手段で入手する事は困難、もしくは不可能な手段も用い、出来る限り素早く確認した結果。
 だが――セレスティは既に今皆の事情聴取をしているこの刑事が佐々木晃当人である事は間違いないと確かめてもいる。生体認証の技術まで用いての結果だ。疑いようが無い。――が、無論、確認に確認を重ねた、今出された三ヶ月前に死亡、と言う情報も疑いようが無いもので。
「…あの方は、一度死に、蘇生した――と言う事ですか」
 ならば。
 超常現象を信じない――訳も無い。…既に自分自身が超常現象に含まれる。何かがおかしい。頭の中で警告音が鳴り響く。察したか、行きましょう、と促すシュラインの声。え? と混乱するみなも。まさか、と口を押さえる撫子。厳しい目で黙り込む和真。目を伏せて何事か考えている様子の隼人。
 そして齎された最後の衝撃は、セレスティの手許への、中断された通信から。
「…何ですって、誰もいない…?」
 聴取の、部屋に。
 ――血塗れの椅子に、銀縁眼鏡と鞄、だけが、残されて。



 聴取をしていた部屋。聴取を受けた調査員の皆とそこに到着した時には葉月政人に草間武彦、そして警察関係者とセレスティの部下の黒服の姿で埋め尽くされていた。片方の椅子――佐々木晃が座っていた方らしい――に凄まじい量の血がぶちまけられている。少し離れたところに銀縁眼鏡と女物の鞄。それは綾和泉汐耶のものか。点々と続く血痕は窓に。そちらから――逃げたのか。
 葉月政人が調査員の皆を見て、何か物問いたげな訝しげな顔になっている。と、それに答えるようにセレスティが抑えた声で口を開いた。
「つい今し方――葉月君がこちらに到着したと連絡があった直後に、確認が取れました」
 …佐々木晃刑事が三ヶ月前に亡くなっている、と言う件です。
 場所は、K立市の生体学研究所。そこの倉庫で起きた、大きな爆発事故時…いえ、その直前ですね。その倉庫で――獣か何かに五体を食い千切られたような遺体が、倉庫番の方に目撃されています。ですが、爆発事故が起こった時には既にその遺体は何処にも無かった。表向きには死者は出ずに済んだ事件となっています。
 ですが、倉庫番が目撃したその遺体は、身体的特徴からして間違い無く、佐々木晃刑事だったようですよ。
「…その倉庫番と言う方に、確認を?」
「いえ。…その倉庫番の方も、後に何者かに殺されてしまっていますから」
「…K立市の生体学研究所、ですか」
「ええ。警察に証拠として出せない方法で調べたものですが、今度こそ、私の名にかけて、言い切れます」
「…その、場所は」
「そうですね。彼の亡くなったお姉さんが勤めてらっしゃった企業です」
 続けられた科白に政人は黙り込む。佐々木晃の姉が勤めていた企業。同じ場所。
 …重なった。もう疑えない。
 そして、綾和泉汐耶に――我々に牙を剥いた。
 この血は、恐らく汐耶の反撃の結果だろう。あの彼女が黙って攫われる訳が――隙を突かれる訳がない。だが、一度死に蘇生した――そんな人間にとってこの程度の怪我が何程の事になる。恐らく大した事など無いのだろう。…今、ここに居ないのがその証拠とも言える。
「葉月警部!」
 慌てて政人を呼ぶ声がする。奥の部屋。セレスティも気になり見えるところまで移動する――政人を呼んだ刑事が示していたのは部屋の床。魔法円が描かれている。そして、その上に何やら書き込まれた鏡が配置されている。詳細はわからずとも、何か魔術儀式めいた事が行われた、とだけは即座に察せられるその状況。『この部屋』。魔法円。外部では無く内部、それも当の部屋。これだけの警備がある場所で? 魔法円。そこから今この時に連想される物は――“凶々しき渇望”以外に有り得ない。…やはり。

 それでもまだ、ここで何が起きたのかはすべてが推測。今この時点でただひとつ確実なのは、綾和泉汐耶と佐々木晃が消えたと言う事だけ。だが――その事こそが、重要で。
 殺人は何があろうと許さない、そんな正義感は別に私も持ち合わせていません。
 けれど、私の仲間に手を出した以上、その事は――決して許さない。

【続】


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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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 ■整理番号/PC名
 性別/年齢/職業

 ■1855/葉月・政人(はづき・まさと)
 男/25歳/警視庁超常現象対策班特殊強化服装着員

 ■2263/神山・隼人(かみやま・はやと)
 男/999歳/便利屋

 ■1883/セレスティ・カーニンガム
 男/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い

 ■1449/綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや)
 女/23歳/都立図書館司書

 ■0328/天薙・撫子(あまなぎ・なでしこ)
 女/18歳/大学生(巫女):天位覚醒者

 ■1252/海原・みなも(うなばら・-)
 女/13歳/中学生

 ■4012/坂原・和真(さかはら・かずま)
 男/18歳/フリーター兼鍵請負人

 ■0086/シュライン・エマ
 女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

 ※表記は発注の順番になってます

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 …以下、公式外の登場NPC

 ■佐々木・晃=“凶々しき渇望”

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          ライター通信
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 第一話に続き、発注有難う御座いました。
 …『その者の名、“凶々しき渇望”』第二話、漸くのお届けです。

 今回、色々と遅くなってしまいましたが…いえちょっとした…避けようが無かった(遠)行き違いのようなものがあって(泣)。もの自体は一週間くらい前にはほぼ何とかなってたんですが(くすん)
 しかも良く考えれば…それが解決したのが土曜日なので…オフィシャルの営業時間を考えるとお渡しが更に遅れる事は確実と(汗)
 って言い訳ですね。とにかく納品が遅れました。本当に申し訳ありません(土下座)

 今回のノベルはこんな感じになりました。
 …色々と私が暴走しまして(え)結果、殆ど全員個別です(汗)
 葉月政人様と綾和泉汐耶様以外は後半である程度共通部分が混じってもいますが。

 内容は…とにかくそんな訳で、綾和泉汐耶様が攫われてしまいました。
 何か色々と大変な事になっております。

 また、今回の話は、坂原和真様版→海原みなも様版→天薙撫子様版→セレスティ・カーニンガム様版→シュライン・エマ様版→綾和泉汐耶様版→葉月政人様版→神山隼人様版…と言った順番で読む事をお勧めしておく事にします。全体像が一番把握し易いようなので。

 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いです。
 では、また少し間を置いてになりますが、第三話もどうぞ宜しくお願い致します(礼)

 深海残月 拝