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<東京怪談・PCゲームノベル>


その者の名、“凶々しき渇望” 【 第二話 】

 …自分が調査に関った切っ掛け、遺族からの依頼があり草間興信所に呼ばれた事。何故呼ばれたのが自分だったかは――草間様のところではわたくしは元々調査員としてもお馴染みですから、と濁す形で誤魔化して。興信所での実際の調査状況。現場を見せてもらった事はこの刑事――警視庁捜査一課強行犯二係配属の警部補で佐々木晃と言う名らしい――も、葉月政人からも耳にしている筈だと判断しある程度話す。酷い殺され方をしていたようですね、と沈んだ声になってしまう。事実、遺体が運ばれた後であっても鮮やかにそこで殺人が為された痕跡は残っており、とても痛ましく感じた。あの落書きも見たか? と言われた時には、見ましたがわたくしには良くわかりませんでした、と緩く頭を振った。…実際に西洋の魔術に関してはあまり詳しくも無いのでまるっきり嘘と言う訳では無い。但し、他の調査員がその残された魔法円に関し詳しいところまで突いていた事や導き出されたその情報は自分も聞いてはいるが――今この場では伏せた。…特に今回の件では、一般的な興信所としてするような、『普通の範疇』で行った調査はともあれ、『こちら』を守秘義務と考えて良いような気がしたから。他、問われるままに周辺の聴き込み調査をした事も明かしはした。粗方はわかった、と頷く刑事。
 そんな風に彼女――天薙撫子は刑事から訊かれる事には一通り素直に受け答えをしていた。とは言え撫子としても出来れば多少なりと警察側の情報を引き出したくもある。どの程度事件に迫っているのか。警察内部にも僅かながら疑惑がある事は承知か。聴取を受けながらもさりげない駆け引きは何度かしてみたが――相手はやはり刑事、こう言ったやりとりには慣れているのか具体的な情報はなかなか出て来ない。
 これでは話が不自然になるかもしれない、撫子はそうは感じていても魔術に関る部分は敢えて伏せていた。そこは核心に近い情報だから。そして実際の聴取では魔術をさて置いた場合の残された見た目通り、儀式殺人――猟奇殺人の線で話を合わせる事にしている。聴取をしている刑事は特に疑う気配も無い。魔法円についてや魔術の話に触れては来るが、撫子がさあ、と流したり――さりげなく否定的な態度を取ると、そうだろうと納得したように重々しく頷く。本気で魔術が絡んでいるとは考えていないのだろう。…その方がこちらも都合がいい。この佐々木晃と言う人は強行犯二係の刑事と聞いた。即ち強盗や殺人の担当だとは言え、それでも通常の範疇に当たる事件を取り扱うべき刑事。葉月政人のような超常現象対策の為の刑事でも無い限り、知らせない方がいい。こんな世界を知らなくて済むなら、その方が。
 撫子が今回の事件で特に重要と思えた情報はあの魔法円。そこに視えた邪気。現れたと思しき悪魔。…自分のみならず同じく現場を直に視た神山隼人の霊視からも確認が取れている。その『悪魔』が被害者の女性を直接殺したモノである以上――その魔法円を使い悪魔を喚び出した術者を叩かねばどうしようもない。そして、その術者を叩くには、まだ情報が足りない。被害者の要素、残された証拠。想定される犯人像。普通の警察の手に負えるとは、到底。
 更に言うならこの事情聴取に応じるに当たり、気になる事もあった。まずはホテルの一室で、と言うその事自体が一点。そして、自分が持つ錦織の刀袋に関しても何も言われないのがおかしいとは思った。こんな場所に武器になる物を――それは中身は実家の御神体であり、ただ武器、とだけ言えるような代物では無いが――持ち込む事を普通黙って許すだろうか? その事からも、この事情聴取は警察側でも何かを狙って行っている事であるのかもしれない。そんな風に撫子は感じている。
 そして、警察が何かを狙っているのならそれは、この殺人事件の犯人――“凶々しき渇望”についてとしか思えない。同時に、この警備では――魔術師相手では無防備も良いところだと思う。危険だ。
 ならば、自分が何とかしなければ。…少なくとも、側に居る相手――今この時何かが起きたなら、目の前の刑事――佐々木様おひとりくらいはわたくしが護らなければ。そう思い、撫子はこの部屋に入ってきた時点で密かに不測の事態に備えている。誰にも気付かれないように懐と髪に忍ばせた妖斬鋼糸――神鉄製の鋼糸――にさりげなく触れ、指先に良く馴染んだそれを用いて浄化結界を即座に展開出来るよう、仕掛ける用意をしておいた。
 とは言え、事件調査以前からの体調不良はまだ続いている。今の自分では――件の魔術師、“凶々しき渇望”を相手取るには少々心許無い。だからこそ事件の調査時に監視の『目』を感じて以来、通常より多めの妖斬鋼糸に霊符少々、御神刀の『神斬』を極力持ち歩き、万端の用意を整えてもいるのだけれど。…もっとも、これらが無駄になるに越した事は無いのだが。

 …佐々木晃と言うこの刑事の名だけは実は事前に聞いている。事件の調査の後、シュライン・エマが葉月政人に確認していた事。…曰く、「親しい人を亡くした、矜持の高い、高学歴でもある人物は居ないかどうか」。魔法円から読み取れた『蝿の王』と言う要素。もし万が一犯人が『それ』に唆され落ちた者である場合、矜持の高い人物の可能性が高いだろうと言う推測。警察内部で情報隠匿可能な者となるとキャリア組、それを警戒した方がいいかもしれないと言う話。渇望と言う名からの連想。持っていたものを永遠に失った――恋人か家族か親友か、とにかく、とても親しい人を亡くしたのではないか、との思い付き。その確認で、出て来た名前が佐々木晃。どうやら、姉を一年前に事故で亡くしているらしい。
 その話を聞いた時、お気の毒だとは素直に思ったが――その時出た名前と今、ホテルと言うやや不自然な場所で事情聴取を行っている相手が同一人物であるのはただの偶然なのか。…偶然だろう。この佐々木晃と言う人は葉月政人とも友人であると聞いた。それに、シュラインから提示された疑惑を一番強く否定したのがその情報を齎した政人当人だった…と言うのもある。
 今撫子が直に相対した限りでも、特におかしい事は無かった。…事件の聞き込みをした坂原和真から「白いスーツを着た刑事らしい人物が被害者の女性に、被害に遭う直前になるだろう時間帯に職務質問しているのを見た人が居た」と聞いてもいたが、それは別に証言者を問い詰めた訳でもなく、ちょっと訊いてすぐに明かされた情報だそうだ。と、なるとそんな情報は警察も既に掴んでいて当然で。…この佐々木晃と言う刑事も白いスーツを着てはいるが、それもただの偶然なのだろうと思う。別に、特別な服では無い。
「…どうかしたか?」
 無愛想な態度のまま、その刑事は撫子をちらと見る。
「いえ。何でもありませんわ。…それより」
 話せる事は粗方話し終えたのですが。
「ああ…そうだな。色々と参考になった」
 もう戻ってくれて構わない。手間を取らせた。
 あっさりそう送り出され、撫子は部屋を退出する――退出する中、懐の妖斬鋼糸に再び触れる。
 ひとまずは、何も無かった。
 なら、他の人たちはどうだろうか? 自分の事情聴取は終了したが、他の調査員は、まだ聴取を受けていない者も居る。
 思いながら扉を開き、本当に外に出る。

 …まだ、心配は残る。



 やや胸騒ぎを感じつつも撫子は皆の待つロビーに戻る。体調不良は相変わらず続いている。今の自分の霊感はどうも当てにならないかもしれない。けれどそれはさて置き、ロビーに着いてすぐ、ひとまずわたくしも無事です。何事も置きませんでしたわ、と調査員の皆に無事を知らせた。まずはそれが第一。
 ほぼ同じタイミングでセレスティ・カーニンガムがロビーに現れる。部下の黒服に囲まれた状態で、刑事らしい私服の警察数名と何やらやり合っていた。…ここに来てから言っていた話――警察の用意した部屋ではなく、別のフロアを借り切りそちらの部屋に警察の方に来てもらい聴取をするよう要請したと言う話。調査員としては気持ちは有難いが――今目の前にあるその状態を見ても通るかどうかは別問題に思えた。話し合う中、少しずつ警察側の人数が増えている。次の聴取が開始出来ない。セレスティの方も引く気配無し。
 やがて、何やら険呑な雰囲気になったか――と思ったそこで、す、と神山隼人が両者の間へさりげなく割って入っていた。いつの間にソファから立っていたのか。カーニンガムさん、お気遣い有難う御座います。ですけれど、これ以上揉めてても何ですし、私は警察が用意した部屋で構いませんよ、と告げ、自分が次に聴取を受けようと名乗りを上げ部屋へ向かった。
 隼人のその仲介に毒気を抜かれたか、彼が動いたその直後に、でしたら――と妥協点があっさりと告げられた。…セレスティのみ要請通りに行う。但し、そのセレスティが用意したフロアに聴取をする以外の警察の者も入れる事。他の調査員が警察の用意した部屋でどうしてもしなければならないと言うのなら、そこを警護する人員にセレスティの部下も入れる事。双方それで合意。では、とセレスティは数名の部下をその場に残し、自分が借り切ったフロアの部屋へと調査員たちに移動を促す。確かに、セレスティの息の掛かった場所の方が色々と話もし易い。…部屋のひとつでも待合室に出来れば、今ロビーでは話せなかったような事も話し合える。

 セレスティの借り切ったフロアの部屋。暫くの後、そこに黒服に案内された隼人が来訪した。次に聴取を受ける事にしたのはセレスティ。皆が居るこの部屋の隣に当たる部屋で聴取を受けている。
 今、セレスティが行くよりほんの少し前に都市伝説めいた噂の情報が彼の部下から齎された。まだ確認途中の段階であるが佐々木晃と同じ身体的特徴の人間が三ヶ月前に遺体で目撃されていると言う噂。まだ確実な情報では無いにしろ、今この時となれば情報の種類によっては「疑わしい」それだけの段階でも主に言上する必要がある。わかりましたと受けたセレスティは部下を連れ、別室へ。
 今までの聴取で皆が得た情報。セレスティを見送った後、セレスティが聴取を受けているだろう隣の部屋を気にしつつも調査員の面子は色々と情報交換してはみるが、四名が聴取を終えた今の時点では特に問題がありそうな事は見当たらない。…何故場所がホテルかと言う事、コンビ活動でない事はまず事前に怪しむべき要素だった。そして事件調査の後の時点でシュラインが言い出した、高矜持高学歴のキャリア組、そして親しい人を亡くした人間が警察に居ないかと言う件も事前に引っ掛かっていた要素。魔法円や調査の結果出た事から、そんな人物像が疑わしいかもしれない、と警部でもある葉月政人にシュラインがその確認を求めた結果――出て来た名前も今現在聴取をしている刑事こと佐々木晃。そして、今セレスティの部下が齎した情報――それもまた、確認できていない情報だとは言え、同じ名の人物に関する事。
 だからこそ、今一番の懸念は、聴取をしているその刑事。
 …けれど、現時点では何事も起きてはいない。それも事実。疑うべきか疑わなくて良いのか、微妙なところで天秤が揺れている。そもそも、これらの情報を表沙汰にし訴えて出たとしても、イコールで“凶々しき渇望”だと言う証拠になるような事でもない。黒魔術の要素――超常現象絡みである事を鑑みて初めて、疑える情報。だからこそ、草間興信所調査員である――つまりその手の話に慣れている――自分たちが警戒しておくより他に無い訳で。

 そんな話をしている中、携帯電話の着信音が鳴り出した。誰のものか――シュライン。開き、画面を見れば――相手は今ここに居ない草間武彦。何故居ないのか気になっていた。当然、即座に出る。
 曰く、調査員の皆と連絡を取りたく電話を掛けたらしい。まずシュラインにだったのは草間武彦だからか。何にしろ、葉月が情報交換をしたいと言っている。今そちらに皆いるかと確認を取って来た。…汐耶さん以外は皆居る。事情聴取は受けたのか。坂原和真、海原みなも、天薙撫子、神山隼人の四人が済んで今現在セレスティ・カーニンガムが受けている途中。だったらお前と綾和泉はまだか。なら、今葉月と共に今そちらに向かっているから念の為到着するまで事情聴取を待て、どうしても駄目ならカーニンガムさんの話に乗るように、葉月の名前も出して構わない、と武彦。佐々木晃が“凶々しき渇望”への囮に調査員を使っている可能性があると葉月が言っている。そこまで聞いて、こちらもまだ不確定だけど変な情報があったの、と返すシュライン。佐々木晃と身体的特徴が酷似した遺体が三ヶ月前に目撃されていると言う噂。それを聞き、だったら余計だ。何にしろ動くのは俺たちが着いてからにしろ。そう鋭く残されて通話は切られた。
 前後してセレスティの聴取が終わったと連絡が入る。その後、セレスティへの聴取をした帰り掛けなのか、調査員のたむろしている部屋に直接佐々木晃が顔を出し、次、と鷹揚に声を掛けてきた。そこでもう一度シュラインが、やはりこのフロアの部屋では駄目ですかと訊いてみる。戻るよりすぐ近くになりますし、それに今電話があったんですが、葉月警部もそうしろと――。と、言ってはみたが、くどい、と即決残されすぐに踵を返された。部屋のドアは閉めないまま、まだ聴取取ってない奴――シュライン・エマか綾和泉汐耶か、どちらでもいい、とっとと来い! と声が投げられる。部屋の中からはもう姿は見えない。開けたままである部屋のドアからシュラインが廊下をそ、と覗くと、佐々木晃の背中はもうかなり部屋から離れて先にエレベーターの近くに行っていたのが確認出来た。シュラインは佐々木晃のその態度に思わず目を瞬かせている。何事。
「…何か、怒ってる…みたいね?」
「すみません。私のせいですね」
 シュラインの立つそのすぐ後ろ、隣の部屋から戻って来たセレスティから声が掛かる。もう一度君たちもここで聴取を出来ないか頼んでみたんですよ。ですが、話を通すどころか怒らせる事になってしまったようです。…けれど――私の部下や警察の皆さんと言った…他の見ている前でこんな行動を起こすような方が、今何か仕出かすとは思い難い気もしますけど。と付け加え、シュラインを見上げた。そう…かも知れませんね、とシュラインも静かに同意。じゃ、取り敢えず行って来る事にします。お気を付けて。その言葉と部下の黒服を付け、セレスティはシュラインを部屋から送り出す。
 その暫く後、漸く綾和泉汐耶が来たとセレスティに連絡が入る。ほぼ同時にシュラインの聴取が終わったとも入った。そして――汐耶はシュラインと入れ替わりで直接事情聴取の部屋に行く事になったらしい。
 そして暫くしてシュラインが部屋に戻って来た、そのタイミングで葉月政人が到着したと連絡が入る。それも、特殊強化服を着用した状態で。更には何やら階下で騒ぎが起きているのが感じられる。…どうやら、聴取をしている部屋に直接乗り込んだらしい。しかも、そこで。
 …と、その先を促そうとした時、また別のセレスティの部下から連絡が入る。至急。珍しく慌てた様子の声。三ヶ月前に目撃された佐々木晃と身体的特徴が同じ遺体の件。遺体は佐々木晃で間違いないと確認が取れたそうです――と。本人の名乗り、目撃者の証言――無関係の一般人が真っ当な手段で入手する事は困難、もしくは不可能な手段も用い、出来る限り素早く確認した結果。
 だが――セレスティは既に今皆の事情聴取をしているこの刑事が佐々木晃当人である事は間違いないと確かめてもいる。生体認証の技術まで用いての結果だ。疑いようが無い。――が、無論、確認に確認を重ねた、今出された三ヶ月前に死亡、と言う情報も疑いようが無いもので。
「…あの方は、一度死に、蘇生した――と言う事ですか」
 ならば。
 超常現象を信じない――訳も無い。…既に自分自身が超常現象に含まれる。何かがおかしい。頭の中で警告音が鳴り響く。察したか、行きましょう、と促すシュラインの声。え? と混乱するみなも。まさか、と口を押さえる撫子。厳しい目で黙り込む和真。目を伏せて何事か考えている様子の隼人。
 そして齎された最後の衝撃は、セレスティの手許への、中断された通信から。
「…何ですって、誰もいない…?」
 聴取の、部屋に。
 ――血塗れの椅子に、銀縁眼鏡と鞄、だけが、残されて。



 聴取をしていた部屋。聴取を受けた調査員の皆とそこに到着した時には葉月政人に草間武彦、そして警察関係者とセレスティの部下の黒服の姿で埋め尽くされていた。片方の椅子――佐々木晃が座っていた方――に凄まじい量の血がぶちまけられている。少し離れたところに銀縁眼鏡と女物の鞄。それは綾和泉汐耶のものか。点々と続く血痕は窓の方へと。これは――。
 葉月政人が調査員の皆を見て、何か物問いたげな訝しげな顔になっている。と、それに答えるようにセレスティが抑えた声で口を開いた。
「つい今し方――葉月君がこちらに到着したと連絡があった直後に、確認が取れました」
 …佐々木晃刑事が三ヶ月前に亡くなっている、と言う件です。
 場所は、K立市の生体学研究所。そこの倉庫で起きた、大きな爆発事故時…いえ、その直前ですね。その倉庫で――獣か何かに五体を食い千切られたような遺体が、倉庫番の方に目撃されています。ですが、爆発事故が起こった時には既にその遺体は何処にも無かった。表向きには死者は出ずに済んだ事件となっています。
 ですが、倉庫番が目撃したその遺体は、身体的特徴からして間違い無く、佐々木晃刑事だったようですよ。
「…その倉庫番と言う方に、確認を?」
「いえ。…その倉庫番の方も、後に何者かに殺されてしまっていますから」
「…K立市の生体学研究所、ですか」
「ええ。警察に証拠として出せない方法で調べたものですが、今度こそ、私の名にかけて、言い切れます」
「…その、場所は」
「そうですね。彼の亡くなったお姉さんが勤めてらっしゃった企業です」
 続けられた科白に政人は黙り込む。その一致も偶然なのか。…いえ。もう偶然と思うのは限界でしょう、と撫子は思う。佐々木様への疑念は、あって然るべき。思い返すなら不自然な事は多過ぎた。魔術と言う要素を含めなければ不自然になる話を黙って納得したように聞いていた。他にもある。ただ、それでも――この怪我はいったい、何が起きたと言うのか。
 綾和泉汐耶が居ない。胸騒ぎは当たっていた。ただ――その胸騒ぎが、何の、役にも立たなかった。
 本調子で無い自分がもどかしい。
「葉月警部!」
 慌てて政人を呼ぶ声がする。奥の部屋。何でしょうか。ふと目をやったそちら。政人を呼んだ刑事が示していたのは部屋の床。魔法円が描かれている。そして、その上に何やら書き込まれた鏡が配置されている。詳細はわからずとも、何か魔術儀式めいた事が外部からではなくこの場所で直接行われた、とだけは即座に察せられるその状況。『この部屋』。魔法円。外部では無く内部、それも当の部屋。これだけの警備がある場所で? 魔法円。そこから今この時に連想される物は――“凶々しき渇望”以外に有り得ない。佐々木様が、“凶々しき渇望”――。

 だがそれならば、残されたこの、血は何なのか。…怪我をしたのは汐耶様ではなく、佐々木様と見受けられる、この血痕は。
 何にしろ、ここで何が起きたのかは、わからない。
 …ただひとつ確実なのは、今ここに、綾和泉汐耶と佐々木晃が居ないと言う事。

 葉月様は佐々木様と御友人であると伺いました。
 汐耶様とも御友人。
 …葉月様が警察の皆様に指示を出す姿は、まるで、その事を考えないようにしているようで。

 ――撫子にはその姿が、とても痛々しく見えている。

【続】


×××××××××××××××××××××××××××
    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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 ■整理番号/PC名
 性別/年齢/職業

 ■1855/葉月・政人(はづき・まさと)
 男/25歳/警視庁超常現象対策班特殊強化服装着員

 ■2263/神山・隼人(かみやま・はやと)
 男/999歳/便利屋

 ■1883/セレスティ・カーニンガム
 男/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い

 ■1449/綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや)
 女/23歳/都立図書館司書

 ■0328/天薙・撫子(あまなぎ・なでしこ)
 女/18歳/大学生(巫女):天位覚醒者

 ■1252/海原・みなも(うなばら・-)
 女/13歳/中学生

 ■4012/坂原・和真(さかはら・かずま)
 男/18歳/フリーター兼鍵請負人

 ■0086/シュライン・エマ
 女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

 ※表記は発注の順番になってます

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 …以下、公式外の登場NPC

 ■佐々木・晃=“凶々しき渇望”

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          ライター通信
×××××××××××××××××××××××××××

 第一話に続き、発注有難う御座いました。
 …『その者の名、“凶々しき渇望”』第二話、漸くのお届けです。

 今回、色々と遅くなってしまいましたが…いえちょっとした…避けようが無かった(遠)行き違いのようなものがあって(泣)。もの自体は一週間くらい前にはほぼ何とかなってたんですが(くすん)
 しかも良く考えれば…それが解決したのが土曜日なので…オフィシャルの営業時間を考えるとお渡しが更に遅れる事は確実と(汗)
 って言い訳ですね。とにかく納品が遅れました。本当に申し訳ありません(土下座)

 今回のノベルはこんな感じになりました。
 …色々と私が暴走しまして(え)結果、殆ど全員個別です(汗)
 葉月政人様と綾和泉汐耶様以外は後半である程度共通部分が混じってもいますが。

 内容は…とにかくそんな訳で、綾和泉汐耶様が攫われてしまいました。
 何か色々と大変な事になっております。

 また、今回の話は、坂原和真様版→海原みなも様版→天薙撫子様版→セレスティ・カーニンガム様版→シュライン・エマ様版→綾和泉汐耶様版→葉月政人様版→神山隼人様版…と言った順番で読む事をお勧めしておく事にします。全体像が一番把握し易いようなので。

 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いです。
 では、また少し間を置いてになりますが、第三話もどうぞ宜しくお願い致します(礼)

 深海残月 拝